ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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これでこの章も終わり。小話兼冬休みを挟んで南雲ぶん殴り編となります。


強敵と書いて友と呼ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を見上げてみると、そこに青空はなく曇天が覆い尽くしていた。

 

 すぐに雪が降るなと思った瞬間に、そんな予感が間違いではなかったと証明するかのように白い粒がフワフワと降って来る。

 

「雪か」

 

 俺の隣を歩く清隆も降って来る雪に気が付いたのか、興味深そうな視線を上に向けている。それだけ見ればどこか陰のあるイケメンといった感じなのだが、彼の頬にはクッキリと紅葉型の跡があるのでどうしても笑ってしまう。

 

「何を笑っているんだ?」

 

「その頬っぺた、何度見ても面白いなと思ったのさ」

 

「笑うな、こっちも気にしてるんだ」

 

 清隆の頬にある赤い跡、それは軽井沢さんから強烈なビンタを貰ったというのが理由であった。

 

「軽井沢も困った奴だ……」

 

「清隆も悪い。突然に関係を解消しようだなんて」

 

「一応、ケジメは必要だからな。アイツも便利に使われることから解放されてせいせいしたと思うんだが……どうしてこうなったのやら」

 

「ふふ、まるで別れ話がこじれたカップルみたいだよ」

 

「止めてくれ……はぁ、なんでビンタされたのやら」

 

 赤くなった頬を撫でて清隆は愚痴る。これは軽井沢さんは苦労することになるだろうな。

 

「形はどうあれ、内心はどうあれ、軽井沢さんにとって、君との関係は重要な繋がりであったということさ」

 

「たとえ利用されていたとしてもか?」

 

「重要なのはそこに絆を感じるかどうかさ……ただまぁ、関係を解消したのなら、良い機会なのかもしれないね。これから先は取引でも契約でもなく、一人の人間として彼女と関わっていけば良いよ」

 

「軽井沢とか?」

 

「あぁ、対等な関係としてね」

 

「オレから関わるつもりはないんだがな」

 

「きっと、軽井沢さんの方からやってくるさ。縁なんて簡単には断ち切れないものなんだから」

 

「……そういうものか」

 

「あぁ」

 

 そんな会話を続けながら俺と清隆は寒い朝にも関わらず、海を一望できる学園の隅っこにあるベンチに腰掛けた。

 

 何もこんな朝早くから無意味に散歩している訳じゃない。これからとある人物たちと話し合いが待っている。遅れるのも悪いからと早めに行動しているのだ。

 

 ベンチに腰掛けてチラチラと降って来る雪を眺めながら、他愛もない会話を続けていると、体を引きずるようにこちらに近づいてくる人影が近づいてくる。

 

 顔中に張り付けられたガーゼがよく目立つ人相の悪い男は龍園だ。そしてもう一人、朝も早いと言うのに眠気や油断を感じさせない立ち振る舞いを見せるのは、堀北先輩であった。

 

「おはようございます堀北先輩、朝早くに呼び出してすいません」

 

「構わない。この時間ならば人目にもつかないだろうからな」

 

「そして龍園もおはよう。随分と男前になったじゃないか」

 

 龍園に気軽に挨拶すると、彼は痛みを引きずりながらもこちらに突っ込んできて殴りつけようとしてきたので、その拳を受け止めてから袖を引いて体幹を崩す。

 

 フワッ、そんな軽やかな表現が似合うような合気投げで龍園は地面に転がることになった。

 

「やめておけ龍園、そんな怪我で喧嘩なんてするもんじゃない」

 

「クソが、どこからでも見下ろしやがって」

 

「そんなつもりは毛頭ないよ」

 

 まぁ、これは彼なりのケジメでもあるのだろう。一度くらいは挑んで敗北しないと気が済まなかったのかもしれない。

 

 怪我をしているとか、勝てないとか負けるかもしれないとか、そういう話ではない。俺に直接挑むということがどんな形であれ必要だったのだろう。

 

 彼の手を引いて強引に立ち上がらせると、ようやく落ち着いて話し合うことができた。

 

「チッ」

 

 舌打ちを止めなさい。友人と先輩相手に見せるものではありません。まぁこんなことを言っても意味がないから話を強引に進めよう。

 

「堀北先輩、こっちは俺の友人の綾小路と、龍園です」

 

「どちらも知っている」

 

「おや、そうなんですか?」

 

「あぁ、特異な生徒だという認識は持っていた。龍園はよく目立ち、綾小路はわざわざテストで全ての点数を50点に揃える変わり者だからな」

 

 どうやら清隆の特異性は堀北先輩にも把握されていたらしい。

 

「やっぱり50点で揃えるのは目立つみたいだよ?」

 

「そうらしいな」

 

「そいつは他人を見下ろして気持ちよくなってんだよ」

 

「龍園、清隆に負けたからと言って八つ当たりは止めるんだ」

 

 こっちの言葉を無視して龍園は今度は堀北先輩に噛みつこうとする。突然にベンチから立ち上がって蹴り飛ばそうとするのだが、それは寸前で受け止められてしまった。

 

「はッ、ただのガリ勉かと思ってたが、多少は動けるらしいな」

 

「期待に沿えず悪かったな」

 

「すいません。彼は誰にでも噛みつく狂犬みたいな奴なんで」

 

「ふッ、お前には随分と頼もしい友人がいるようだ」

 

「えぇ、良い縁だと思っています」

 

 俺の言葉に龍園は苦虫でも噛み砕いたかのような顔になる。実際に口の中はズタズタと思われるので苦い顔も演技ではないのだろう。

 

「御託はいい……おい、何で俺をここに呼びつけた?」

 

「これからのことを話しておきたかったんだ。具体的には賠償の要求とか、その辺の話をね。堀北先輩はその証人だよ、君がごねた時の為のね」

 

「ポイントでも寄こせと言いたいのか?」

 

「君が巻き込んだ五人、軽井沢さん、波瑠加さん、愛里さん、そして明人と啓誠にポイントを支払って欲しい。それで今回の件はチャラだ。拒否する場合は裁判沙汰になって証人のいるこちらの勝ちになり、君たちは拉致監禁と暴行で確実に退学になるだろう」

 

「はッ、そんなもんは知るかと俺が言ったら?」

 

「言わないだろう? 君一人ならともかく、クラスメイトたちも巻き込んで退学なんて望まない筈だ……もし気にしないのなら、君はとっくにこの学園を去っているんだから。賠償を払って完全に終わらせることができるのなら、まだマシだと思うけどね」

 

「よく回る舌じゃねえか」

 

 悪態をつきながらも、龍園は懐からスマホを取り出す。彼も内心ではわかっているのだ、ここでズルズルと長引かせても意味はないと。この学園に残ると決めた時点で覚悟もしていた筈だ。

 

 取り出したスマホを操作している手が止まり、何かを思案するような顔になると、龍園はこう言い放つ。

 

「その前に聞かせろ……お前の目的についてだ」

 

「何かな?」

 

「そこのゴリラ二号に聞いたぜ、お前は24億貯めようとしているってな」

 

「ゴ、ゴリラ二号……」

 

「ほう?」

 

 清隆はショックを受けたかのように視線を下げ、堀北先輩は興味深そうな視線を向けて来た。

 

「意味がわからねえな……ポイントなんざ2000万もあれば一つの区切りになる筈だ。さっさとAクラスに上がればそれで終いだろうが、本当の目的を聞かせろ」

 

「ん……俺たちの学年全員をAクラスに上げる為に、24億が必要だから集めているんだ。それ以上でも以下でもないね」

 

「テメエになんの利益があるかって話をしてんだよこっちは」

 

「利益じゃない……いや、違うな、利益ならしっかり得ているよ」

 

 怪訝そうな顔をしているのは龍園だけじゃない、堀北先輩も似たような顔になっている。そりゃそうだ、24億を配ろうだなんて完全に頭がおかしいと思う。俺自身ですら同様な考えなのだから、当然この二人だってそうなるだろう。

 

「龍園……一学期に、君は俺にこう言ったことを覚えてるかな? お前は正義の味方にでもなりたいのかってさ。あの時は誤魔化してしまったけど、今なら俺は自信を持ってその言葉を肯定することができる……そうだよ、俺は正義の味方になりたいんだ」

 

「……」

 

 呆れたような、バカにしたような、理解できないような、そんな顔をされてしまった。当然の反応だと思うので何も言い返せないな。

 

「馬鹿も極まってるじゃねえか、ガキじゃあるまいし、本気で言ってるのか?」

 

「冗談を言っているように聞こえたかい? 俺は本気だよ、嘘偽りなく、恥ずかしげも無く、正義の味方を目指している」

 

 まぁ呆れられるだろうな。誰だってそうなるだろうし、それこそが重要なのでこれで良いと思う。

 

 でも仕方がないじゃないか、夢見ちゃったんだから。

 

「どうして24億集めるのか……それを説明するにはまず、俺の夢を語ろうじゃないか、とりあえずカッコつけたいっていうのが一番に来るかな」

 

「カッコいいか……その為に24億貯めるってか? ナルシストもそこまで行けば只の馬鹿だろ」

 

「そう、それだよ龍園」

 

「あぁ?」

 

「きっと俺の言うカッコよさとか、正義の味方とかっていうのは、とても歪で不自然なものなんだろうね。今の君のようになんだこいつはって思われるのが当然なんだ」

 

「そりゃそうだろ、馬鹿晒してんだからな」

 

「でもさ、それで実際に24億貯めたら、そいつはどんなに馬鹿でも最高にカッコいいってことなんだよ」

 

「……」

 

 龍園だけでなく、堀北先輩や清隆も黙り込む。

 

「俺は自分のクラスをAに上げる。それだけで満足せずに他のクラスもAまで上げる。なんだったらそれ以外の人たちだって助けたい……最高にカッコよさをはき違えた男になりたいからだ」

 

 うん、そんな男がいたら最高にカッコいいと思う。

 

「24億なんていうのはね、俺からしてみれば始まりに過ぎないのさ。正義の味方としてのほんの一歩でしかない。食い物の足りない場所には農地を作って、電気の足りない場所には技術と知識を植え付けて、戦争が絶えない国では平和を授けて、浸食する砂漠を森に変えて、貧困を殴り飛ばして差別を踏み砕く……気分が乗って来た、もっと語ろう」

 

 夢は大きく、仮にも正義の味方を目指すのならば中途半端な目標なんて意味が無いだろう。

 

「金で解決できる問題なら簡単だね。大量の資金を稼げば良い。金で解決できないのなら政治で、政治で解決できないのなら法で、法が無力なら力で、力が届かないのなら正義で、そうやってあまねく全てを自分勝手に薙ぎ払いながら、目に映る全てを救うのさ」

 

 俺が思い描く歪んで不自然ではき違えてナルシスト全開な、どうしようもないくらいに自分勝手なカッコよさとはそういうものだ。うん、クソみたいな考えだと思うけど、正義の味方だから仕方がないね。

 

「君の疑問に答えよう、龍園……何故24億を何の利益もなく配るのか、それは世界を救う為の第一歩だからだ」

 

「「「……」」」

 

 俺のビックリするくらいの独善的でナルシスト全開な語りに三人は絶句して黙り込んだ。自然な反応だな。

 

「俺は正義の味方になって、この世に溢れるあらゆる理不尽と悲しみを自分勝手にねじ伏せて、やがては世界を救うつもりだ。24億すら貯められずそれを惜しむような男がそんな大それたことができると思うかい? いや、できはしないさ」

 

 そうさ、同級生を助ける為じゃない。いや、それも理由の一つだけど、全員をAクラスで卒業させることもできないような、その程度の理不尽すら覆せない男が正義の味方だなんて名乗れる筈がない。

 

 だから俺は俺の理想と夢の為に、どこまで言っても自分の都合の為に、全員を救済するのだろう。

 

「な? 天武は馬鹿だろ?」

 

 清隆、なかなかに辛辣な評価をくれるね。別に間違ってはいないんだろうけどさ。

 

「あぁ、とんでもない馬鹿者だな」

 

「頭がおかしいんだろうよ、ネジが全部吹っ飛んでやがる」

 

 堀北会長と龍園も呆れたような表情である。

 

「だが、面白くはある」

 

 流石堀北先輩である。なんとかフォローしてくれた。

 

「俺はとても歪でカッコよさを勘違いした男なんだろうね……でもさ、そうやって笑われて呆れられて、アイツは頭がおかしいって言われながら死んで逝きたいんだよ」

 

 うん、もの凄く馬鹿な一生だけど、きっと楽しいものになると思うな。

 

「それでさ、そうやって死んで百年後とかにさ。俺の名前が教科書に載ってたりしたら、俺の歪で馬鹿げてはき違えたカッコよさが本物だっていう証明になるだろ? つまりそれはやっぱり最高にカッコいいってことなんだと思うよ……世界を救う手始めに、とりあえず24億だ。いや、それ以上だな」

 

「あぁ、もう良い面倒くせえなッ」

 

 こっちの一方的な押し付けに龍園は馬鹿らしくなったのか、後頭部をガシガシと掻きながらスマホを操作してこっちの口座に大量のポイントを送金してきた。

 

 そこには体育祭の時にノリと勢いで渡した大量のポイントに加えて、元々龍園が持っていたであろうポイントが上乗せされた額であった。プラス500万ポイントが増えている状態だ。この感じだとAクラスの契約だけでなくクラスメイトからも幾らか徴収していたようだな。

 

「ぶっ飛んでる奴だとは思っていたが、ここまで馬鹿だとは思ってなかったぜ……はぁ、頭が痛くなってきやがった、高円寺以上にイカれてるじゃねえか」

 

「失礼な奴だな」

 

 盛大な溜息を吐く龍園は、どこか疲れたような顔をしている。

 

「でも龍園、君は俺を笑わないだろ?」

 

「……」

 

 そりゃそうだ、だって彼は8億を貯めてクラスメイト全員をAクラスにするという作戦を考えていたからだ。ならば俺の馬鹿げた考えを笑う筈がない。

 

 それは、己自身を否定することになるのだから。

 

 龍園がプライベートポイントに拘る理由はそれしかない。もし仮に2000万ポイントを集めて自分だけがAクラスに上がる為ならば、体育祭でそれは達成できる筈だ。しかし彼はそれからも執拗にこちらを狙い続けた。

 

 つまりは2000万ポイントでは彼の計画を完了させられなかったということだ。俺が渡した額よりも更に多くの、それこそクラスメイト全員をAクラスに上げるのに必要な額、8億ポイントこそが彼の目指すゴールである。

 

 ならば彼は、彼だけは俺を笑わない筈だ。

 

「チッ……そのニヤニヤ顔を止めやがれ、苛ついてきやがる」

 

「ごめんごめん、俺と君は本当に真の意味で友人になれると思ったら嬉しかったんだ」

 

「ふざけたこと言うんじゃねぇ、馬鹿に付き合うつもりはねえぞ」

 

「いいさ、こっちから引きずり回すから」

 

 すると龍園はとても嫌そうな顔をした。可愛い男である。ツンデレという奴だな。

 

「龍園、俺は馬鹿かな?」

 

「あぁ、どうしようもないくらいにふざけた馬鹿だ……」

 

 そこで彼は大きく、それはもう盛大な溜息を吐いた。

 

「だがまあ……そんな馬鹿が一人くらいいてもいいのかもな。少なくともお前はただの馬鹿じゃねえ、何もかもを突き抜けた馬鹿だ」

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

 また舌打ちが届く。こいつはツンデレと考えると愛嬌すら感じられるな。

 

「だが勘違いするな……俺はテメエも綾小路も潰す気でいるからよ」

 

「良いじゃないか、ようやく君らしくなってきた。具体的にはどうするんだい?」

 

「現時点でテメエらに勝てないことはわかった。なら力を蓄えるのさ」

 

 腰かけていたベンチから立ち上がった龍園は、いつも通りの邪悪な笑顔を浮かべながらこう言った。

 

「まずは俺のクラスをAに上げる必要がある。そうすれば、テメエの完全勝利を否定できる訳だからな」

 

「なるほど、確かにそれは俺の敗北に他ならない」

 

「首を洗って待ってろ、俺がテメエらを引きずり降ろしてやるよ」

 

 そこで言葉を区切って龍園は俺を見つめた。

 

 

「だから笹凪、お前はさっさと24億貯めろ」

 

 

「もちろんだ。貯まったら真っ先に君のクラスに8億届けに行くよ」

 

「はッ……いらねえよ、俺のクラスには必要ないからな」

 

 龍園に名前で呼ばれるのは随分と久しぶりだな……俺を本当の意味で認めてくれたということなのかもしれない。

 

「どうです堀北先輩、彼は面白いでしょう?」

 

 俺と龍園のやり取りを、どこか羨ましそうに見ていた堀北先輩にそう言うと、彼は僅かに笑って見せてくれた。

 

「そうだな、お前たちはなかなか面白い関係だ」

 

 堀北先輩にはそういった相手はいないのだろうか? 二年には南雲先輩がいるけど同い年ではないからな。

 

「そもそも、何でこいつをここに呼んだ?」

 

「証人という側面もあるけど、ここの面子で共有しておきたいことがあってね。龍園と清隆にできれば手伝って欲しいと思ってさ。まぁ強制はしないけど、耳には入れておいて損はないかなって……実は言うと、堀北先輩に南雲先輩を止めてくれるように頼まれたんだ。俺一人だとアレだから、どうせなら二人も巻き込もうと思って……まぁ借りも作っちゃったしさ、ですよね?」

 

「そうだ。笹凪、お前には南雲の抑止となって貰いたい。学園の治安を維持して、無理ならば大胆な動きを阻止する程度の抑止になって欲しい」

 

「一度引き受けると決めたんで俺は構いませんよ、清隆はどうする?」

 

 清隆に視線をやると、彼は小さく頷く。

 

「お前を手伝うと決めたからな、こちらに否やはない……オレもそろそろ、これまでの考え方は一度捨てるつもりだ。出し惜しみするつもりはない」

 

 おぉ、自称事なかれ主義からそんな言葉が出て来るとは、ようやくエンジンがかかったと言うことらしい。

 

「龍園、君はどうかな?」

 

「なんで俺が手伝うと思ってやがる。テメエら二人でどうにでも料理できるだろうが。死ぬとわかってる奴にわざわざ構ってやる意味もねえな」

 

「そうか、なら気分が乗った時は声をかけてくれ。今はそれで良い」

 

「話は終わりか? 俺はもう行かせて貰うぜ。こんなクソ寒い中でいつまでもゴリラと一緒にいられるかよ」

 

 彼は最後の最後まで悪態を吐きながら去っていくことになる。実に龍園らしい姿であった。調子が戻って来たみたいでなによりと言えるだろう。

 

「お大事に、怪我はしっかり癒すんだよ」

 

 立ち去っていく彼にそう声をかけるが返事は無かった。しかし龍園は片手を上げてヒラヒラと振ってくれた。

 

「少し羨ましいな、お前たちが……」

 

「堀北先輩?」

 

「俺はどうにも、そういった相手には恵まれなかったのでな……」

 

 ずっと一人で戦って来たということなんだろう。そう考えると寂しい三年間だったのかもしれない。

 

「そうですか、でも堀北先輩には橘先輩がいるじゃないですか」

 

「あぁ、いつも助けられている」

 

「しっかり守ってあげてください」

 

「言われるまでもない……お前も、契約を忘れるな」

 

「えぇ、一度結んだ約束を破ったりしませんよ」

 

「南雲が何十人いようとも単純な能力ならばお前には勝てないだろう。だが、この学園のルールや法則という場で戦うならば話は別だ」

 

「何も問題はありません。別にルールを運用する側が必ずしも勝利する訳でもありませんからね」

 

「そうか、期待している」

 

 こちらの答える堀北先輩も満足したのだろう。僅かに微笑んでから彼もまた去っていく。

 

「清隆、俺たちも帰ろうか?」

 

「あぁ、そうだな」

 

 こうして激動の二学期は終わることになる。振り返ってみると色々あったけど、得難い縁が沢山結べたと思う。

 

 どうせ三学期も色々と起こるんだろう。この学校は本当に飽きさせない。

 

「そうだ、クリスマスはどうするつもりなんだい? 佐藤さんとデートするんだろう?」

 

「さぁな、今はまだハッキリとしたことはわからない」

 

「あ、もしかして愛里さんと? もしくは軽井沢さんとかな?」

 

「どうしてその二人が出て来るんだ?」

 

「ふふ、どうしてだろうね」

 

 そして一番の縁は俺の隣にいる清隆なんだろう。もうそれなりの付き合いになるけど、きっとこれからも驚かせてくれる筈だ。

 

 良い縁を結べたと思う。俺と師匠と敵で完結していた世界では得られなかった縁がここには沢山ある。

 

 だから俺はまたこう考えた。この学園に来て良かったと。

 

 

 

 

 

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