ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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グループ交流

 

 

 

 

 

 

「悪いね六助、君が所属するグループを勝手に決めてしまって」

 

「構わないさ、この退屈な試験も君がいれば多少は刺激的になりそうだ」

 

「残念だけど今回はそこまで派手に動くつもりはないさ……もう全部終わっているからね」

 

「ほう? では結果発表を楽しみにしているとしようじゃないか」

 

 大グループが完成して南雲先輩と堀北先輩のやり取りから、このどうしようもない茶番劇の始まりが決まって俺たちは動き出す……いや、やるべきことは全て始まる前に終わっているので、自分たちのことに集中することになる。

 

 後は南雲先輩がこちらの思惑に気が付くかどうか観察しながら、俺たちは俺たちでミスの無いように動けばそれで良い。この試験はよっぽど大きなミス、それこそ嵌め殺しのような状況になりさえしなければ、そこまで難易度の高い物ではないというのが、事前の情報収集でわかっているのだ。

 

 つまり、いつも通り行動すれば何も問題は無く、ポイントを得られる試験でもあった。

 

「よし、皆聞いてくれ。このグループの責任者は龍園だが、指揮は俺が取ることになった。誰か異論のある者はいるかい?」

 

 ウチのクラスからは俺と清隆と高円寺が、Dクラスからは龍園と石崎と山田の不良トリオが、Aクラスからは橋本と戸塚、神崎からは無難な相手として墨田と森山がこの場にはいる。

 

 Cクラスの男子二人とAクラスの二人、そして清隆を除くと、後はババ抜きのジョーカーといった感じの奴だ。こいつらを一ヶ所に纏めておかないといつまでも話し合いが終わりそうになかったため自然とこうなってしまう。

 

 俺たちのグループは割り当てられた共同部屋にやってきて荷物を置き、これからの方針を決めていくことになるのだが、この面子で仲良くとはいかないと思うのでかなりアドリブを利かせる必要があるだろう。

 

「とりあえずベッドの割り当てだが、別に誰がどこで寝ようが大した意味はないよな? 速い者順でいこう」

 

「おい、そういうのはしっかり話し合った方が良いだろう」

 

「だがな戸塚、もう一度この部屋に集まった面子を見渡してみろ」

 

 特に龍園と石崎と山田と高円寺をな。

 

 こちらの言葉に食い掛かって来た戸塚だが、それぞれの顔を見てから考えをすぐに改める。

 

「そうだな……俺が悪かった」

 

「だろう? このグループに足並み揃えてなんていう方針に意味はないさ。それぞれが各々のポテンシャルを発揮して動けばいい。幸いにも勉強ができる奴も運動ができる奴もいる。よっぽどの大ポカをやらかさない限りは落第することなんてないよ」

 

「それで良いんじゃないか、下手に縛っても余計に面倒になる面子だろうしな」

 

 橋本も賛成とのことなので、次に神崎から派遣されたCクラスの男子にこう問いかける。

 

「そんな訳なんだけど、何か意見はあるかい?」

 

「いや、大丈夫だ。君が指揮するなら異論はない。任せるよ」

 

「神崎はなんて言っていたかな?」

 

「何かあったら君を頼るようにってだけ」

 

 なら問題はない……最後に龍園たちに視線を向けると、あちらにも異論はないらしい。一人を除いて。

 

「石崎、不満かい?」

 

「別に、そういう訳じゃねえよ……ただ龍園さんに迷惑かけたら許さねえからな」

 

「いや、それを君が言うのか。この面子の中で一番の不安要素なんだが」

 

「俺がバカだって言いたいのか!?」

 

「事実だろうが、もう黙ってろ石崎」

 

 龍園にそう言われると石崎は悔しそうに黙ってしまう。こんな風に不満を露わにする石崎ではあるが、彼はこちらに一定の敬意というか、畏怖のような感情を向けているのは観察していればわかった。

 

 何だかんだで俺を強者だと認めて受け入れているらしい。だとしたら動かしやすくもあるだろう。

 

「ベッドは好きに選んでくれ、俺はどこでも構わないからな」

 

 そもそもこの試験でも無人島同様に寝るつもりは一切ない。この学校のことだから、深夜に変な試験を差し込まれる可能性もゼロではないからだ。即応できる人員が一人くらいいないと不安になる。

 

 なので俺はベッドを使うつもりはない。ずっと彫刻をしていると思う。

 

「では遠慮なく頂くとしよう」

 

 高円寺が二段ベッドの上に飛び乗れば、次々にベッドは占領されていく。どうして上ばかりがすぐさま埋まってしまうのだろうか?

 

「悪いな清隆、下のベッドで」

 

「構わない。どこを使おうが一緒だからな」

 

 そりゃそうだ。けれど人気なのは上のベッドなのだから不思議である。

 

 グループが結成されて部屋割りも終わり、その日の午後は完全に自由時間となっていた。本格的に試験が始まるのは明日からとなっているらしい。

 

「最後にこのグループの方針を語っておくよ。さっきも言ったが足並み揃えてなんて不可能なので、最初から縛るつもりはない。各々道連れにならない程度に仕事をしながら、試験では得意分野を活かせばそれで問題はないだろう。その上で言わせて貰うと、何か困ったことがあれば俺に伝えて欲しい。可能な限り対応しよう」

 

 この部屋にいる面子を見渡しながらそう伝えると、全員に異論は無かったのか受け入れられることになり、遂にグループが本格的に始動することになるのだった。

 

「な~、素朴な疑問なんだけどさ。アルベルトって日本語喋れるのか?」

 

「当たり前だろ。なぁアルベルト」

 

 石崎が橋本の疑問にそう答えて、顔を山田に向けるが、彼は何も答えることなく正面を凝視するだけであった。

 

「……もしかして通じてねえのか?」

 

「クラスメイトなんだろ?」

 

「仕方ねえだろ。普段は龍園さんが指示してんだからよ。龍園さん、どうなんですかね?」

 

「そいつは寡黙な男なんだよ、ほっとけ」

 

 二段ベッドの上を占拠して足を組ながらだらしなく寝転がる龍園がそう返すと、アルベルトは大きく頷きを返すのだった。

 

 彼らの関係性と言うか、奇妙な信頼関係は以前から不思議であったが、こうして共同生活をする中で理解も深まっていくだろう。少なくとも俺は彼らが嫌いではない。

 

「そうだ笹凪、丁度いい。アルベルトの相手をしてやれ」

 

「どういうことかな龍園?」

 

「知らねえよ、そいつなりのケジメだそうだ」

 

 すると山田がベッドから立ち上がって俺と向かい合う。筋骨隆々な体と高い身長で詰め寄られると圧力を感じる筈だ。実際に俺たちがこうして相対すると不穏な雰囲気を感じ取ったのか、ジリジリと皆は距離を取っていく。

 

 もしや殴り合いか? そんな風に誰もが思ったのかもしれない、しかし山田からそんな気配を感じ取れない。石崎と同じように俺には一定の敬意と畏怖を向けている。

 

 山田は暫く俺をサングラス越しに見つめた後、突然に部屋の中にある机に自分の肘を立てて掌を差し出した。

 

 そう、これは、腕相撲の姿勢である。

 

「hey、Comeon」

 

 ほう、掛かって来いと? これが彼なりのケジメということか。勝てる勝てないではなく、挑む意思を示したか。

 

「ん、良いだろう……その意気や良し」

 

「え、なんでこんな展開になってんだ?」

 

「男には、挑まなければならない時があるということさ、橋本にもわかるだろう?」

 

「いや、さっぱりだ」

 

 男の生き方がわからない奴である。山田を見習うべきだ。

 

 こうして正面から堂々と挑まれれば断ることなどできる筈がない。俺もまた机に肘を突いて彼の掌を握り返す。

 

「矜持に恥じぬ戦いにしよう」

 

 これは勝ち負けでも優劣を決めるものでもない、彼のケジメなのだ。ならば全てを受け止めて凌駕するのが礼儀だろう。

 

 始まりの合図もなく、そして言葉もなく、俺たちは見つめ合いながら徐々に力を込めていく。

 

 山田の身体能力は間違いなく学年トップクラス、それだけでなく学校全体で見ても五本の指に入るレベルかもしれない。

 

 その恵まれた身体能力と鍛え上げた肉体からなる膂力は流石の一言である。だが師匠に改造された俺には届かない。

 

 押せども引けども、こちらの腕がピクリともしないことに山田は冷や汗をかいて呻き声を上げた。もしかしたら彼には俺が鋼鉄の彫像か何かに見えているのかもしれないな。

 

「凄ぇッ、あの山田が手も足も出ないなんて」

 

「流石はゴリラだ。神崎や一之瀬が一目置くだけはある」

 

 Cクラスの男子が何やら興奮したように賑やかしてくれているので、部屋の中には変な熱気が広がっていく。

 

 形勢は傾き、地力の差は圧倒的、だがそれでも山田は諦めることはない。これは勝ち負けでも無ければ優劣を競うものでもない、俺に挑むという彼なりのケジメである。

 

 つまりは勝負ではない、儀式なのだ。

 

 完全に押し切られて彼の手の甲が机に付いた時、彼は納得したように微笑みを浮かべた。

 

「俺の勝ちだ」

 

「yes」

 

 己の全てを出し切ってなお敗北した彼は、結んでいた掌を組み直して腕相撲から握手の形となる。

 

「Nice Muscle」

 

「ふ、そちらもね」

 

 筋肉は筋肉と引かれあう。ただそれだけのことだ。言葉なんて多くはいらない、鍛え上げた筋肉で語り合えばそれで良い。男の世界なんてそんなものなんだろう。

 

「え、なんで通じ合ってるんだ?」

 

 橋本、そんな冷めたセリフはいらないんだよ。

 

「クソッ、アルベルトが腕相撲で負けるなんて……」

 

 悔しそうに表情を歪める石崎、わかりきっていた事とはいえ、こうして現実のものになると受け入れがたいらしい。

 

「さぁ石崎、次は君だ……共に語り合おう」

 

「い、いや、俺はなんていうか……ちょっとアレで」

 

「負けるのが怖いと言うのなら無理にとは言わないさ。敗北というのは、苦いものだ」

 

 安い挑発である、しかし彼は奥歯を鳴らして乗って来るのだった。

 

「やってやろうじゃねえかッ!!」

 

 これから共に行動していくことになるグループとしての交流はこれで良いだろう。どんな形であれ関わり合いを持ち、互いを認め合うことが大切なんだから、これはこれで良い滑り出しとも言えるのかもしれない。

 

 石崎と手を結び合って腕相撲を行い、秒殺して沈めて見せる。

 

「前から思ってたが、笹凪はなんでそんな力があるんだ? 身体能力もオリンピック選手が霞むレベルだしよ」

 

 橋本の疑問にグループの大半がうんうんと頷いていく。どうしてと言われても鍛えたからとしか言いようがないんだけどな。

 

「しっかり寝て食べて鍛えているからさ」

 

「だからってそうはならないだろ。そもそも物理的にありえなくないか? さっきの腕相撲だって、腕はアルベルトの方が太くてゴツイのにどうしてか勝っちまうしよ」

 

「確かに単純な太さならそうだろうけど、筋肉の質が違うからね……ほら」

 

 着ていたジャージの袖を捲って腕を露出させると、それを見た者は自然と咽を鳴らす。

 

 極限まで無駄を無くして、徹底的に改造した筋肉を纏った右腕は、鋼の繊維を圧縮したかのように強固で柔軟である。

 

 筋繊維というよりは鋼の繊維で出来ているかのような雰囲気があるのだ。一目見ただけで筋肉の出力が違うと確信させられるほどに、極まった様子が見える。

 

 例えるなら、分厚い筋肉を持つ山田を今の何倍にも大きくしてから、人の形に圧縮したかのような、そんな途轍もない密度の腕である。

 

「……凄いな」

 

「天武は全身がこんな感じだぞ」

 

「マジで?」

 

 そう言えば清隆はプールの授業で俺の体を見る機会もあったな。

 

「やっぱゴリラは違うってことか」

 

 最後に橋本は納得したかのようにそんなことを言った。失礼な言葉ではあるがグループの大半が同意するかのように頷いているので、きっと全員に共通する思いなのだろう。

 

「けどさ、やっぱりこういうバキバキの体って羨ましいよな」

 

「確かに、笹凪はちょっとアレ過ぎるけど……男の理想っていうか、憧れみたいな所はある」

 

「はッ、はッ、はッ、憧れている時点でナンセンスというものさ。言葉にする前に行動に移さなくてはね、この私のように」

 

「うぉ、高円寺もすげえ筋肉だ!!」

 

「アールベルトくん、君もなかなかのようだが、この私には敵わないようだねえ」

 

「くそ、負けてられるか。橋本、Aクラスの意地を見せてやれ!!」

 

「いや戸塚、なんで俺なんだ……て、おいこら、服を捲り上げるなっての」

 

「へぇ、橋本も割と良い体してるんだな。チャラチャラしてるくせによ」

 

「そういう石崎、お前はどうなんだよ?」

 

「なめんじゃねえぞ、腹筋くらいこっちも割れてんだ!!」

 

「拙いぞ墨田、このままだとCクラスはカースト最下位になってしまう」

 

「チッ、仕方がねえ。神崎や一之瀬の顔に泥を塗れない。こっちも腹筋見せてやるよ」

 

 だがこうして筋肉談義に花を咲かせることでグループの交流になっているのは間違いない。下手にギスギスするよりはずっと良い筈だ。

 

「悪くない雰囲気だ。よし清隆、君も腹筋を見せつけてやれ」

 

「……え?」

 

 最初はこのグループで上手く進んでいけるのかと思ったが、筋肉は男子共通の興味であり話題でもあるのでいい感じである。

 

「さぁ皆様方、お控えなすってくだされ、これより真打、綾小路清隆のお通りとなります!!」

 

「おい……天武」

 

 そう、筋肉は争いを無くして世界を平和にするのだ。このジョーカーの集まりであってもそれは変わらない。

 

「やれ清隆、着やせするタイプってことを証明してみせるんだ」

 

「まぁ、出し惜しみしないと言ってしまったからな……良いだろう、オレの筋肉を見せてやる」

 

 清隆も場のノリと勢いに流されて変な感じになってるな……まぁ何となく楽しそうなので問題はないだろう。

 

 馬鹿らしいやりとりも何だかんだで楽しいのだ。合宿ならではの馬鹿な男子生徒たちの日常みたいで、ちょっと憧れていたりもする。

 

 こんな感じで俺たちは上々の滑り出しを決めることになるのだった。

 

 

「なんだこいつら、気持ち悪いな」

 

 

 龍園、せっかく筋肉談義で温まった場に水を差すんじゃない。

 

 

 

 

 

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