ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

81 / 227
結末がわかっているので、もしかしたらこの章は交流や馬鹿なやり取りがメインになるかもしれない。


この人を越えたいと思う気持ちに嘘はない

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、遂に特別試験が始まることになる早朝、俺はこの共同部屋の隅っこで朝日が差し込むことを感じ取って僅かに目を細めた。

 

 俺の手の中にあるのは彫刻刀と木彫りの熊である。昨日の晩に削り始めてつい凝ってしまったらしい。なかなかに迫力のある作りとなっているので、共同部屋の入口付近にでも飾っておこう。

 

 すぐに皆も起き始めるだろうと思っていると、誰よりも早く高円寺が起床してから優雅に飛び降りると、こちらにウインクをしてきた。

 

「ほう、小振りながらも迫力があるじゃないか」

 

「あぁ、ちょっとした自信作さ」

 

 暫く木彫りの熊を眺めた高円寺は、そんな感想をくれてから部屋を出ていく。どうやら早朝トレーニングを始めるらしい。

 

 まあ彼は彼なので大丈夫だろう。そもそもこのグループの方針は「適当にやれ」なので、それぞれが適した行動を取る、つまり高円寺の行動を止めることに意味は無い。

 

 お腹が空いたら帰って来るだろう。高円寺はそれで良かった。何かあれば俺がフォローすれば良い。

 

 それから一時間ほどだろうか、共同部屋に備え付けられたスピーカーから軽快な音が鳴り響いたのは。どうやらこれが起床の合図らしい。

 

「うるせえな、なんだこれ」

 

「おはよう石崎、どうやら毎朝こんな感じになるらしいね」

 

「マジかよ」

 

 起床の合図と共に部屋の中にいるグループメンバーは次々と起床していく。欠伸をする者、体から変な音を出す者、眠そうな者、色々だ。それでも今日から試験の開始であるとわかってはいるので、体を引きずりながらも全員が起きた。

 

「ていうかお前、ずっと起きてたのかよ?」

 

「あぁ、この学校のことだから、夜中に叩き起こされて防災試験なんてものを挟みこまれる可能性もゼロではないからね。即応できる人員が一人は必要だって昨日に話しただろう?」

 

「いや冗談だって思うだろ普通、大丈夫なのかよ?」

 

 橋本も俺がずっと起きていたことに呆れている様子である。

 

「体と脳を半分ずつ寝かせておけば、実質熟睡だ」

 

「笹凪とは偶に話が噛み合わない時があるな」

 

「俺は無人島でもずっとそうやって不寝番をしていたよ」

 

「マジで?」

 

 グループメンバーの視線が、この中で唯一同じクラスである清隆に向かうと、彼は静かに頷く。

 

「天武はゴリラでイルカなんだ」

 

 なんだそれは、どんな怪物なんだよ。俺は清隆からそんな風に思われていたのか。

 

「もう一頭のゴリラはどこ行きやがった?」

 

 同じように起床してきた龍園はこの場にいない高円寺が気になったらしい。

 

「彼なら朝早くに起きて部屋を出て行ったよ、ランニングでもしているんじゃないかな。すぐに帰って来るさ」

 

「そうかよ」

 

「え、良いんですか龍園さん?」

 

「アレを制御できるなんざ思ってねえよ、放っとけ。イカれちゃいるが馬鹿じゃねえんだ、道連れになるような間抜けは晒さないだろうよ。どうしようもなかったらそいつがフォローする……そうだろうが?」

 

「あぁ、六助はそこまで馬鹿じゃないし、ましてや愚かでもない。基本的に放置で良いよ」

 

「私のことを話していたかね?」

 

 共同部屋の扉が開いてトレーニングを終えたであろう高円寺が姿を現した。

 

「皆、君の存在感に感心していたのさ」

 

「ふッ、仕方がないことだとも、偉大な存在は輝いて見えるものだからねえ」

 

 うん、彼の扱いはこんな感じで良い。下手に何かを強制した所で無意味だ。そもそもこの面子にそんなことを気にするだけ無駄である。

 

「よし、それじゃあ特別試験が本格的に始まることになる、各々自分のペースを維持しながら適切に動こうか」

 

 それがこのグループが最も力を発揮できて、同時に空気を悪くさせない方法だろう。

 

 俺はそんな彼らを勝手にフォローすれば良い。例えば次々と部屋を出ていくメンバーの最後に、共同部屋を見渡して布団を整えたり、目立つごみを片付けたりだ。もしかしたら俺たちが出て行った後に抜き打ちチェックがあるかもしれないので念のための措置である。

 

 こんな細やかなフォローをするだけだ。言ってしまえば俺の仕事はそれだけでよく、後は勝手に試験に合格してくれるだろう、このグループはそれで問題ない。

 

「天武、手伝おう」

 

「ありがとう、悪いね」

 

 清隆も手伝ってくれるので部屋を整えるのはすんなり終わった。俺が作った彫刻の残りカスもしっかりゴミ箱に入れておく。

 

 そうやって場を整えた後に俺と清隆はグループに追いついていよいよ特別試験に挑むことになるのだった。

 

 こちらを含めて二年と三年も合流して一つの教室に集められていき。一つのクラスを構成することになる。これが大グループとなるのだろう。

 

「3年Bクラス担当の小野寺だ。これより点呼を行った後、外に出て指定された区画の清掃を行う。その後は校舎の清掃となっている」

 

 どうやら最初は清掃から始まるらしい。朝起きてすぐに掃除をするのは、師匠と暮らしていた神社を思い出すな。あそこでも起床と同時に清掃を始めて朝食を終えてから鍛錬となるのが基本だったので懐かしくすらある。

 

 これは試験であると同時に社会性を試す場面でもあるんだろう。

 

 師匠曰く、掃除は大切。

 

 同じグループの南雲先輩もしっかりと掃除をしているな……あの人が雑巾片手に床掃除しているのは、あまりにも似合っていないと思うのは流石に失礼なのかもしれない。

 

 いや、それを言い出したら龍園の方がよっぽどアレなんだけれども。

 

「おい石崎ィ、埃が残ってんぞ。アルベルトを見習いやがれ」

 

「はい、すいません!! すぐに掃除します!!」

 

 なんてことを思っていたが、龍園は意外にも掃除に熱心であった。石崎が掃除していた窓枠の縁に人差し指を滑らして、まるで小姑みたいに埃を見せつける。

 

「小姑龍園か……」

 

「ぶふッ……」

 

 俺の呟きを聞き取った橋本が思わず吹き出していた。清隆もどこか変な顔をしている。

 

「まぁ龍園が責任者だからな、どうなるかと思ったけど、意外になんとかなるのかな」

 

 Cクラスの生徒たちからも僅かに安心したような気配があるのは幸いだ。昨日の筋肉談義で距離も縮まったと思うので、良い傾向である。

 

 そんな感じで指定された区画の掃除を行い、次に校舎を清掃すると、本格的に試験が始まることになった。

 

 

 最初の授業は座禅、清掃を終えた後にグループが集められたのは畳が敷き詰められた道場のような場所である。元は格技場か何かだろうか。

 

「全員、畳の縁を踏まないように注意」

 

 小声でそう言うと全員の視線が下に向いてから指先が整えられていく。礼儀やマナーといった側面もあるが、俺は師匠から畳の隙間から刃を差し込まれる可能性があるので踏むなと言われていたな。

 

 師匠曰く、床下と天井裏には常に脅威が潜んでいると思え。

 

「座禅なんて、人生で初めてでござるなぁ」

 

 何気なくそんな発言をしたのは博士である。しかし担当教官はその言葉にしっかりと注意を促した。

 

「その口調は生まれついてのものか? あるいは故郷が関係しているのか?」

 

「は? もちろんそういう訳ではござらんが……」

 

「そうか、どんなつもりで使っているのかは知らないが、ここではそれも減点対象だ。これを機にふざけた口調を矯正し一つ大人になることだ」

 

「な、なんですと?」

 

 つまりは社会人として相手に不快感を与えない振る舞いを身に着けさせ、社会性をこの試験を通して促すということだろう。

 

 博士はこの日を境にござる口調が消えることになるのだろうか? 俺は別に嫌いではないのだが、時と場所を選べば特に問題ないと思う。

 

「良いか、よく聞くように。自分という存在を認めてもらう為、周知させる為、そして自分自身が特別であることを示す為、相手のことを考えない態度や言葉を使う人間は少なくない。若者に限らず老人でも、そういったことは間々ある」

 

 龍園と高円寺はこの言葉をどんな気持ちで聞いているのだろうかと思ったが……うん、何一つ響いていない様子である。すいません先生、彼らは本当に我欲が強いんです。

 

「社会の中で無個性でいろ、ということではない。個性を出すのは自由だが、社会に出るからには相手を思いやる気持ちを絶対に忘れてはならない、ということだ。ここではそういったメンタルに影響を及ぼす授業を行う。その一つが座禅だ」

 

 教官はそのまま正座をする生徒たちを順に眺めていき、最後に俺を見つめた。

 

「そこの君、前に」

 

「なんでしょうか?」

 

「姿勢が良かったのでな、体も柔らかそうだ。心得があるのかね?」

 

「はい、一通りは」

 

「ではまず生徒を代表して手本を見せてもらおうか、私の言った通りにやりなさい」

 

 この手のことは師匠から一通り教え込まれているので特に問題はない。やれと言われれば完璧にこなせるだろう。

 

 教官の言われた通りに胡坐を組んで足を太ももの上に置いて、背筋もしっかりと整える。

 

「何を思う?」

 

「ただ、無念無想」

 

「お、おう……まぁ間違ってはおらんか」

 

 そう伝えると教官は少しだけ引いたような顔となってしまう。世界平和を思ってと言った方が良かっただろうか?

 

 精神を落ち着かせて集中力を高めていき、それが一定ラインを超えると自然と師匠モードになっていく。そこで閉じていた瞼を開いて静かに正面を見つめた。

 

 無念無想の先にあるか細い光を探すかのように、虚ろな瞳でただあるがままの世界を観測していくと、グループの皆が怖がっているのがわかった。

 

 同じグループの生徒たち、そして教官がこちらを見ている。座禅を組んで無念無想に至った俺を。

 

「あ~……これは極端な例だが、諸君らにはこのように、高い集中と落ち着きを修めて欲しい」

 

「なんかアイツ、宇宙と交信してるみたいな目をしてるよな」

 

「確かに、怖えよ」

 

 何を言われようともこちらの精神はブレることはない。それが、無念無想、精神集中の極地だ。

 

「ここまでやれとは言わないが、ある程度の形を整えて貰う。とりあえず初日はこの体勢で五分を目指すものとしよう。それぞれ座禅を組んでいくように、間違っている所はこちらで修正していくので……それでは始め」

 

 教官の号令と共に生徒たちは一斉に座禅を組んでいく。運動が苦手な者はそのほとんどが固い体をしているのでなかなか難しい授業になるのかもしれない。ふと別グループになっている啓誠の顔を思い浮かべるが、明人がフォローすると言っていたので何とかなると祈るしかない。

 

 こちらのグループの不安要素は誰かと観察していると、意外にも龍園は上手くやれているようだ。石崎と山田も悪くはない。高円寺と清隆もほぼ完璧、神崎から派遣された二人も壊滅的と言う程でもなかった。

 

 どうやら大きな問題はないらしい、少なくとも決定的に苦手と思うような者はいないようだ。

 

 少なくともこの座禅の授業で大ポカをやらかすメンバーはいないと断言できる。ならば筆記試験などに注力すべきなのかもしれないな。龍園が言うには石崎などはかなり不安要素らしい。

 

 テスト対策の問題集でも作るか、そんなことを考えながら座禅の時間は過ぎていくのだった。

 

 清掃と座禅で心身を整えた後にようやく朝食となる。ただし食堂ではなく外に設置されていた大規模な調理場であり、そこにある食事スペースで各々が食べる形であるらしい。既に幾つかのグループも到着しているのが確認できた。

 

「今日のところは学校側が提供するが、明日から晴れの場合、朝食は全てグループ内で作ってもらうことになる。人数や分担方法は全体で話し合って決めるように」

 

 教官からの説明に露骨に渋い顔をする者が何名かいる。ウチのグループでは石崎だ。

 

「石崎、料理は苦手かい?」

 

「まともに作ったこともねえよ」

 

「この学校だと自炊は必須だと思うけど、今までどうしていたのさ?」

 

「そりゃなんか適当にだな……」

 

 おそらく大半がコンビニ弁当とかなんだろう。ポイントもそこまで多くないだろうに。

 

「聞いておきたいんだが、この中で自炊が出来る者は?」

 

 手を上げたのは山田と清隆と橋本、そしてCクラスの二人……しかし少し自信が無さそうではある。

 

「じゃあこのグループの調理担当は俺がやろう」

 

 グループ全員の食事を作ることになるが、まぁ問題はないだろう。まともに調理経験の無い者をそこまで広くない調理場に立たせても意味はないだろうしな。

 

「良いのかよ? なんか笹凪だけ負担になってねえか? それにサボってたら減点になるかもしれないだろ」

 

「橋本の意見も尤もだ。しかし教官はこう言っていた、分担や人数はこちらで決めろと、つまり俺一人でやっても何も問題はないということだ。得意な者に仕事を任せることが何の減点になるって言うんだよ……まぁ心苦しいって言うんなら、気が向いた奴だけ手伝ってくれ、このグループはそれで回していくって話だっただろう?」

 

「流石にそれは申し訳ない、俺たちCクラスは手伝うよ」

 

「感謝しよう。だが手伝わない奴を責めないこと、これは自らがやるべきことだと判断した行動だということを忘れないことだ。同時に調理に参加しない者は出された物を必ず口にして一欠片も残すな、最低限の礼節と敬意を忘れなければ調理中は寝てて構わない」

 

 そもそも、龍園や高円寺のエプロン姿なんて絶対に見たくない。なんの罰ゲームなんだよ。

 

「南雲先輩はどうしますか? 面倒なら俺が全部引き受けますよ」

 

「いや、できる訳ないだろ、何十人いると思ってるんだよ」

 

 チマチマ作るつもりはない、身体能力の全てを解き放って作れば何も問題はないのだが、南雲先輩は懐疑的である。この人にこんな常識的な感性があるなんて驚きであった。

 

「じゃあ手伝ってください」

 

「遠慮がねえなおい……先輩、笹凪はこう言ってますけど?」

 

「一年生一人に任せる訳にはいかない。それぞれの学年で人を出し合ってローテーションにするのが無難だろう」

 

「それで良いんじゃないスか」

 

「……そうですか」

 

「なんで残念そうなんだよお前は」

 

「いえ、料理は好きなので……アレは良い文化ですよね。座禅と同じく己と向き合える」

 

「お、おう……」

 

 こっちは冗談でもなんでもなく、一人で全員分を作るつもりだったんだけどな。どうやら本気だと伝わらなかったらしい。

 

「ところで南雲先輩、グループのメンバーをAクラスで固めなかったんですね。戦力を散らしてるんですか?」

 

「なぁに、勝つための布陣ってだけだ」

 

 せっかくなので南雲先輩の正面の席に座って食事をすることにしよう。いきなり一年生が前にやって来たことで、彼の両隣にいた二年の生徒がなんだこいつとでも言いたげな顔をするのだが、こちらから視線を向けるとサッと顔を背けられてしまう。

 

「均等に配置すれば平均点は上がるでしょうから。でも堀北先輩に勝負を挑んでいたのに少し不思議で……てっきり精鋭でグループを固めるものだとばかり」

 

「まぁそうだがな、今回はこれで良いんだよ」

 

 堀北先輩を油断させる為だろうか? あっちはわかりやすい位に基本に忠実で、王道を行く面子であった。それが一番強いと言わんばかりに。

 

「俺には俺の考えがある、堀北先輩に勝利する為のな」

 

「それはどういうものなんですかね」

 

 質素でありながらしっかりと栄養を考えられた食事をしながら何気なくそんなことを訊ねると、彼はニヤリと唇を緩めて見せる。

 

「お前はどう思う?」

 

「う~ん、急に言われても困りますけど、堀北先輩側にスパイがいるとかでしょうか?」

 

「ははは、スパイか、それも良いかもな。もしかしたら本当にいるかもしれないぜ」

 

「いや、冗談ですよ。幾ら何でも他学年にスパイは作れないでしょう。それこそ先輩に協力する意味がありませんしね」

 

「ふッ、確かにな、何の利益もなくそんなことする奴はいないだろう」

 

 南雲先輩は軽く笑いながら味噌汁を飲む……この人に味噌汁は似合わないな。

 

「昨日の体育館での話は俺も聞いてましたけど、南雲先輩は堀北先輩にあぁやってよく戦いを挑んでるんですよね?」

 

「毎度毎度、袖にされちまってるけどな」

 

「堅物そうですもんね。でも今回は受けてくれたみたいじゃないですか」

 

「あぁ、ようやくだ」

 

 挑戦的に笑う彼の表情に邪気はない。何だかんだでこの戦いを楽しんでいるようだ。

 

「笹凪、お前は今回の戦いに関わるつもりか? もしかして堀北先輩に俺を探れと言われてるんじゃないか?」

 

「えぇ、有力な情報にはポイントをやるからって言われましたけど」

 

「おいおい随分と正直だな」

 

「こんな試験なんですから他所のグループの情報なんてどこも欲しがるでしょうからビジネスみたいなものですよ。それこそ色んな奴に声がかかっているでしょうから、きっと俺だけの話じゃありません」

 

「確かに、そりゃそうだ。勝つためには当然の行動だろうな」

 

「でもだからこそ不思議なんです。精鋭で固める訳でもありませんし、細かくグループに指示を出す訳でもありませんし、何がしたいのかわかりませんよ」

 

「何がしたいのかわからないか……はは、それがお前の限界だ。まぁわからないだろうよ、俺の考えは誰にも、それこそ堀北先輩もわからない」

 

「なるほど、少なくとも先輩が勝利を放棄した訳じゃないってことはわかりました」

 

 この人の目的はそもそも堀北先輩に勝利することじゃなくて、貶めることにある。だから自分のグループをどれだけ探られても痛くも痒くもないので、笑って受け入れられるのだろう。

 

 俺が勝利を諦めた訳じゃないと発言した時に、南雲先輩の唇が僅かに緩まったことを見逃してはいなかった。

 

「あぁ、結果発表を楽しみにしておくと良い……俺は必ずあの人に勝つ」

 

「ライバル、という奴ですか」

 

「そうさ、この人を越えなければならないと、そう思ったんだ……お前にはそういう奴はいないのか?」

 

「いますよ。ただ負けたくない、というよりはただただ越えたいという思いですけど」

 

 ただし、師匠を凌駕するのは決して簡単ではないだろう。まだ世界を救う方が楽かもしれない。

 

「ん……良いと思いますよ。この人にだけは負けたくないと思うのは、男の人生に付き物だ」

 

「だろ? まぁ期待しておけ、俺が勝利する瞬間を」

 

 やたらと勝利を強調するのは、きっと誤解させる為なんだろう。堀北先輩に勝つことを目指していると主張しているのである。本命は女子の方であると悟らせない為に。

 

「では楽しみにしておきます」

 

 食事も終わったのでその場から立ち上がって去ろうとすると、南雲先輩に呼び止められる。

 

「笹凪、よく見ておくんだな。この学園で最も強い実力者の振る舞いを」

 

「堀北先輩は大変だなっていうのが正直な感想です」

 

 うん、それが全てだと思う。純粋に挑んで来るのならば可愛いものだが、こうも執着されると重苦しく感じてしまうだろう。それを二年近く粘着されていたのだとしたら、堀北先輩の苦労もよくわかる。

 

 ごちゃごちゃ考えていないで、普通に殴り合えと思ってしまうのだが、こんなことを考えているとまた清隆からゴリラ扱いされてしまうんだろうな。

 

 でもシンプルに片付けるのが一番だと思う。ルールだとか試験だとかそういうのを抜きにして、ただ当人同士が殴り合えば犠牲も少ないのだから。

 

 それならば俺だって回りくどく立ち回る必要もない。世の中はもっとシンプルで良いと何度思ったことだろうか。

 

 考えても仕方がないか、約束された敗北には順調に進んでいるようなので、経過は順調だと堀北先輩に報告しておこう。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。