ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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百点満点なんてありはしない

 

 

 

 

 

 

 

綾小路視点

 

 

 

 

 

 この混合合宿が始まって三日目、つまり三度目の入浴時、一日の疲れを癒す為に大勢の生徒たちが大浴場に集っているのが確認できる。

 

 オレたちのグループもまた同様で、汗と疲れをここで流している状態だ。最初こそ不安はあった面子であったが、龍園も高円寺も天武が上手くコントロールしているので、そこまで雰囲気は悪くない。

 

 最初から足並みを揃えることを放棄して、天武が全力でフォローするという姿勢は思っていた以上に上手く場を作っている。龍園も高円寺も一定の敬意をアイツに向けているので、天武の邪魔をしない。

 

 ランニングの途中に高円寺がフラッといなくなっても「ほっとけ」で終わるのがこのグループであり、最悪「天武に任せとけ」で完結するチームということだ。とても楽であった。

 

「ババンバ、バンバン、バン。ババンバ、バンバン、バン」

 

 大浴場の隅、そこでは天武が湯船から顔だけを出して何やら小声で奇妙な歌を口ずさんでいた。どこか耳に残る独特のメロディーは、変な癖になりそうではある。

 

「その歌はなんなんだ?」

 

 そう訊ねると、天武は少し困ったような顔を見せた。

 

「いや、俺もよく知らなくてね、でも風呂ではこの歌を口ずさむのが作法だって聞いたことがあって、つい……」

 

「そういうものなのか」

 

 ホワイトルームでは教えられなかった情報だな。やはり知らなければならないことがまだまだあるという事だろう。

 

 だとしたら、オレもその作法とやらに則って歌うべきなのだろうか? そんなことを考えていると、こちらに近寄って来る人物を発見した。

 

 一之瀬クラスの副リーダーを務めている男、神崎である。

 

「笹凪、ここにいたか……そちらは確か、綾小路だったか?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「神崎、どうかしたのかい?」

 

「いや、そちらのグループに入れたこちらのクラスメイトはどうか……を……いや」

 

 だがこちらに近寄って来た神崎は途中で足を止める。湯船から顔を出した天武を見た瞬間に。

 

 まぁ、気持ちはわからなくはない。今は湯船の中に体が隠れていて、顔だけが外に出ている状態だからな。

 

 オレも最初は驚いて困惑した、けれど変に意識して距離を取るのもそれはそれで妙な話だと感じたので、とりあえず近くに腰を下ろすことに断腸の思いで決めた。さて神崎はどうするだろうかと考えていると、静かに距離を取ろうと後退していくのが確認できる。

 

 流石に、近くに腰を下ろすのは憚られたらしい。

 

「彼らなら問題なく馴染んでいるよ、ちゃんと守るから安心して欲しい」

 

「そ、そうか、ならいい……訊きたかったのはそれだけだ」

 

 神崎は静かに後退してその場を後にした。正確には天武から距離を取った。

 

「ん? 神崎の奴、どうしたんだ?」

 

「色々と考えてしまったんだろうな……今のお前は、あ~、あれだ、顔だけが露出して体は湯に隠れてる状態だからな、わかるだろ?」

 

「いや、さっぱりだ、それがどうして困惑に繋がるんだ?」

 

「お前の顔は、ほら……中性的だ」

 

「あはは、なんだ、女性と混浴してる気分にでもなったのかな? よくわからない話だね……ここ最近、風呂場で避けられがちなのはそれが原因ってことか」

 

 あどけなくクスクスと笑うと、余計に美人の笑顔に見える。湯で温まっているからなのか頬も僅かに赤く、それが余計に色気を醸し出すことに繋がっているのだろう。

 

 もう少し男性寄りの容姿ならば何の心配もないのだが、天武は男から見れば美人に、女から見れば中性的に見える顔つきだ。混浴している気分になるのもわからなくはない。

 

 もし、万が一、そう万が一……天武の顔に男の象徴を反応させてみろ。きっと色々な価値観や心を圧し折ることになるかもしれない。そうなれば最悪とさえ言えるだろう。

 

 龍園も同じことを考えたのか、湯船から顔だけを出している天武を見た瞬間に、ギョッとした顔になって静かに距離を取った。

 

 オレも離れるべきだろうか? いや、流石に反応することなんてありえないとわかっているが、天武の顔だと万が一が本当に起こりかねない。

 

 しかし距離を取ったら取ったで、何を意識しているんだという話になる。オレはここ数日ずっとこんなことを考えていた。

 

「ん、変な奴らだ」

 

 首を傾げて微笑を浮かべる親友……頼む、その美人な顔を止めてくれと多くの男子生徒が思うのかもしれない。

 

「せめて上半身くらいは出したらどうだ?」

 

「半身浴みたいな感じかぁ、まぁ空気を悪くするのもアレだしそうしようか」

 

 こちらの助言に従って天武は半身浴に切り替える。すると凄まじい密度を感じさせる筋肉が圧縮された上半身が露わになるので、これで万が一の可能性も潰せたと言えるのかもしれない。これならばどれだけ美人でも男性の雰囲気が強くなるのだから。

 

 一安心していると、大浴場の一角からザワつきが広がっていることに気が付く、そちらに注意を向けてみると、須藤とAクラスの葛城が向かい合っていた。

 

 須藤の背後にはクラスメイトたちが、葛城の背後では同じグループの戸塚が何やら騒いでいるのが確認できる。

 

「下らん争いだ」

 

 落ち着きのある葛城はどこか乗り気ではないようだが、本人よりも周囲の人間がやる気になっているらしい。

 

「弥彦の言うようにAクラスのプライドがある。須藤に立ち向かえるのは、お前の持ってるソレくらいなものなんじゃないか?」

 

 戸塚と一緒に橋本も葛城を推しているようだ。それを見てオレはアイツらが何をしているのかわかった……つまり男の象徴を比べているのだろう。

 

「おぉ、アレはッ」

 

「知っているのか天武?」

 

「合宿や修学旅行では恋愛トークと並んで定番行事とされている儀式だ……まさかここで見れるとは」

 

「なるほど、定番なのか」

 

 それもホワイトルームでは教えられなかったことだな。

 

 向かい合う葛城と須藤は戦いの瞬間を待っている。油断した瞬間に首でも切られそうな緊張感であった。

 

「全く。このままでは落ち着いて頭を洗うことも出来ん」

 

「勝負は一瞬だ葛城」

 

「……好きにしろ」

 

 須藤の挑発的な笑みを冷静に受け流した葛城は、ついに腰に巻かれたベールを脱ぎ去る。

 

「こ、これは……!?」

 

 どうやら審判役は山内らしい。しゃがみ込んで向かい合った龍虎を見比べて、最終的な判断を下して見せる……アイツは何をやっているんだ?

 

「どうだ!? 山内!!」

 

「ドローだ!!」

 

 審判役の山内がそう宣言すると、そんなまさかと周囲に人だかりが出来ていく。その様子はどこか楽しそうでもあり、定番行事という言葉に嘘はないらしい、言ってしまえばこういう場でのお約束とも言えるのかもしれない。

 

「ババンバ、バンバン、バン」

 

 隣にいる天武は高校生らしさを感じたからなのか、どこか楽しそうに彼らのやり取りを眺めながら、上機嫌に独特のメロディーを口ずさむ。

 

「お前らの死闘は見させてもらったがよ、甘いな」

 

 次の挑戦者は石崎だろうか、しかし奴の象徴は戸塚と大差がないレベル、アレでは虎を殺せはしない。

 

「はッ。笑わせんな石崎、お前じゃ相手にならねえよ」

 

「相手をするのは俺じゃねえ」

 

 そんなことは石崎にもわかっていたのか、奴は自信満々に強力な助っ人を召喚することになる。Dクラス最強の男を。

 

「アルベルト、お前の出番だ!!」

 

「お前、それはズルいだろ!!」

 

 王者の風格を漂わせていた須藤ですら、動揺を隠せない。それほどの存在感だ。

 

「抜かせ。学年一を決める試合ならアルベルトだって参加資格がある筈だ!!」

 

「くッ、でけえ」

 

 まだ腰に巻かれた布が取り払われていないにも関わらず、既にその圧倒的な体躯に押され気味な須藤であるが、それでも冷や汗を拭って戦う意思を示す……そうか、アイツも成長したんだな。

 

「見ててくれ鈴音、俺は逃げねえからよ!! かかってこいやあ!!」

 

「ふッ、トドメを刺してやれアルベルト!!」

 

 アルベルトは腕を組んでただ黙っており、腰布を取る作業すら石崎任せだった。そこにはある種の余裕と確信が存在しており、勝利を確信しているようにも思える。

 

 その風格はまさにラスボス、学校最強の称号を冠するに相応しいのかもしれない。

 

 脱ぎ剥された腰布が消え去った時、須藤はただ崩れ落ちる。王者陥落であった。

 

「負け……た」

 

 暫定王者だった須藤はその場に四つん這いになって崩れ落ちた……そこでその姿勢になるのは止めて欲しい、この角度からだと汚い穴まで丸見えである。

 

「ババンバ、バンバン、バン」

 

 隣の天武は楽しそうに歌いながら、男子生徒たちの戦いを眺めていた。

 

 アルベルトの蹂躙によって次々と男子生徒たちの心が折られていく中、もう誰にも勝てないのかと諦めの雰囲気が漂い始めた中、ただ一人この男だけは前に出ていく。

 

 高円寺六助、この男だけはこの状況で笑って見せたのだ。

 

「はッ、はッ、はッ。君たちはチルドレンのような愉快なことをしているようだねぇ」

 

「んだよ高円寺。お前は悔しくないのかよ!! 須藤のこの無様な姿を見ろよ!!」

 

 叫ぶ山内に、あくまで高円寺は余裕の表情を崩さない。

 

「知っているさ。レッドヘアーくんにしては健闘していたようだがねぇ」

 

「んだ、てめぇ、お前ならアルベルトと戦えるとでも言うつもりか?」

 

「私は常に完璧な存在だ。男としても、究極体なのだよ」

 

「はぐらかすな。具体的にはどうなんだ」

 

「争うまでもない。無益なことで血を流す必要もないのさ」

 

 あくまで自信満々に、余裕綽々な空気を壊さない高円寺に、多くの男子生徒の視線が引きつけられていく。

 

「ふむ、偶には君たちのお遊びに付き合ってみるのも面白いか」

 

 高円寺の視線は目の前のアルベルト……ではなくその更に向こうにいる天武を見ているようにも思えた。そして何を思ったのか湯船から立ち上がって堂々と王者と向かい合う。

 

 やるつもりなのか……アルベルトと、いや、その先にいる天武と。

 

「そこをどきたまえアールベルトくん」

 

 やはりあのアルベルトを前座として扱っているらしい。その決してブレない力強い佇まいはまだ腰のカーテンを取り去っていないにも関わらず、何かを予感させるには十分なものであった。

 

 焦らすかのように、しかし大胆に、何よりも絶対の自信を持って、高円寺はついに腰の布を剥ぎ取ってしまう。

 

 そこに存在していた象徴は――――。

 

 

「OhMyGod」

 

 

 王者アルベルトに、そう言わせるには十分なものであった。

 

「お前、本当に人間かよ」

 

 須藤が高円寺の存在感を見た全ての生徒を代表するかのように、戦慄した声を漏らした。仕方がないことだろう、それほどまでに巨大で圧倒的だ。その力強い主張と火力は戦車と呼ぶべきほどである。

 

 だが、そんな戦車を持つ高円寺はまだ気を緩めてはいない。アルベルトを沈めてなおその戦意は衰えていないのだ。

 

 視線は天武に、戦車の砲身もまた同様であった。

 

「スタンダ~プッ、マ~イフレ~ンド!!」

 

「ババンバ、バンバン、バン……えッ、俺?」

 

 これまで外野から他人事のように眺めているだけだった天武に視線と注目が集まった。遂にこの時が来たと言うべきなんだろう。

 

「頼む笹凪、もし高円寺に勝てる奴がいるなら、それはお前しかいねえ!!」

 

 無様に敗北して四つん這いになっていた須藤は、最後の希望とばかりに天武を前に出す。

 

 大浴場に集まった全ての男子生徒たちの全てが高円寺と天武に注目しており、視線の檻によって逃げることは叶わない。既に決戦場はここに完成しているということだ。

 

「あのねぇ君たち……そこが大きいことにどれほどの意味があるって言うんだい?」

 

「ほう」

 

 高円寺が面白そうに唇を歪める。

 

「長さがどうの、形がどうの、角度がどうのと……俺から言わせて貰えば、子供の背比べのようなものだよ」

 

 沈黙が大浴場に広がった。確かに天武の言葉には一理ある。男の象徴は別に大きければそれで良いという訳ではない。過ぎたるは及ばざるが如し、そんな言葉もある。

 

「大きければそれで偉いのか、固ければそれが力の象徴なのか、鋭いことに何の意味があるのか……君たちはまるで、男の象徴でチャンバラでもしようとしているかのようだよ」

 

 なるほど、確かにそんなことで競い合った所で何の意味はない。

 

「やるべきことはチャンバラかい? 違うだろ?」

 

 そこで天武は僅かに息を吸い込んで瞼を閉じ、間を作る……これは、沈黙と言う話術だ。

 

 

 

「男の象徴に、100点はない」

 

 

 

 この風呂場に集まった男子生徒たちは、その言葉に雷に撃たれたかのような感覚になったのかもしれない。自分たちがどれだけ幼稚で愚かなことを競い合っていたのかを。

 

「俺たちが取れる点数はどれだけ頑張っても50点まで……もし、100点があるのだとするのならば、それはパートナーがあってのことじゃないかな?」

 

 その言葉に、幾人かの生徒が膝から崩れ落ちる。主に自分の象徴に自信が無い者を中心に。

 

 ガックリと崩れて、四つん這いになった池は、呻くようにこう叫ぶ。

 

「俺、頑張れるかな……こんなんだけど、戦えるのかなッ!?」

 

「戦えるさ、池……俺たちはもう50点を得る為に、長い道を歩む旅人なんだから」

 

 池、四つん這いの体勢を止めて欲しい、この角度からだと色々見えてしまうから。

 

 しかしなんて含蓄のある言葉だろうか、そしてこの落ち着きよう。天武はこの中で最も精神的に成熟しているのかもしれないな。大きさがどうの、長さがどうの、形がどうの、そんなことに一喜一憂しているようではまだまだ幼いということだろう。

 

 男の象徴に100点はない……そうなのか、ホワイトルームではそんなことは教えてくれなかった。

 

「さぁ皆、くだらない争いは止めて未来を目指そう……大丈夫、重要なのは大きさじゃない。相性なんだからさ」

 

 良い話だな……それでこそオレの親友だ。不毛な争いを広げる必要なんてどこにもなかったんだ。

 

 風呂場で騒いでいた男子生徒たちも少し冷静になったのか、丸出しだった股間を慌てて布で隠している。

 

 こうして世界は平和になったということだろう。まさに大団円であった。

 

 大きさも問わず、形も問わず、今の男子たちは優劣を求めず互いに認め合う、そんな雰囲気に満たされている。

 

 

 

「そうは問屋が卸すかよ」

 

 

 

 だが、この男だけはこの平和を踏みにじった……龍園翔、やはりここで出て来たか。

 

「お前ら騙されるな、口車に乗せられてるぞ……こいつは煙に巻こうとしているッ」

 

「龍園、貴様ッ」

 

「仲良く手を繋いで一緒にゴールってか? おいおい、俺たちが所属している学校はなんて言った? 実力主義だろうが!!」

 

 幾人かの男子が龍園の発言にハッとした顔をした。拙いな、また空気が殺伐としたものになってきている。

 

「笹凪ィ……お前まさか、逃げるのか? 戦うこともなく背を向けるのか? それでよく正義の味方を名乗れたなぁおいッ!!」

 

「ふッ、ドラゴンボーイにしては悪くない言葉だねえ……マイフレンド天武、この戦いを、受けてくれるかね?」

 

 高円寺はわざわざ風呂場の入口にまで物理的に退路を断つ。戦車をぶら下げたまま。

 

 そして改めて天武に全員の視線が集まった……もうここに平和はない。誰が勝者かを決めるまで戦いは続くんだろう。

 

 あらゆる視線と注目を浴びている天武は、とうとう観念したのか、小さな溜息を吐いて湯船から立ち上がる。

 

「うえッ!? 笹凪の体ヤッバッ!?」

 

 立ち上がったので自然と全身が露わになった。当然ながらその異質異常な身体能力を発揮する肉体も衆目に晒されることになるのだが、誰もが息を飲んで愕然としたことだろう。

 

 柴田だけは恐ろしい何かでも見たかのように驚いた声を出しているな。

 

 言葉では言い表せない程に極まった体を持つ天武は、ゆっくりと浴槽から出て高円寺と向かい合った。

 

 こうやって見比べると、単純な筋肉の大きさなら高円寺に軍配が上がるだろう。それこそアルベルトとだって同じだ。しかし天武の体には膨大な筋肉が押し込められて圧縮されているかのような密度が感じられてしまう。

 

 そう、隙間がないのだ、あの肌の下には何百層もの鋼の繊維が敷き詰められているのではと錯覚してしまう程に圧縮されている。

 

 天武の体を見た後に、ボディビルダー体形のアルベルトや高円寺を見ると、どうにも「隙間だらけ」と言った印象を受けてしまうほどだった。

 

 そんな、おそらく人類の性能を超越した肉体を持つ天武は、涼やかな顔をしたまま高円寺の前に立つ。

 

「やれやれ全く、人がせっかく穏やかな時間を過ごそうとしている時に……君たちは本当に争いが好きなようだね」

 

「逃れられはしないさ、私たちは男に生まれたんだからねえ」

 

「ん……良いだろう、こうなっては仕方がない。戦う以外に道は無いようだ。平和とはなんて遠いものなんだろうね、悲しいよ」

 

 覚悟を決めたか……向かい合った天武と高円寺の間には緊張が高まっていく。

 

 雰囲気に引っ張られてか観客たちからも喉を鳴らす音が何度も響いた。自分たちは100年先まで語られることになる戦いを目撃するという確信を得たらしい。

 

 オレは二人の間に転がるタンブルウィードを幻視してしまう。

 

 腰に巻かれた布が取り払われと、露わになった男の象徴を比べようと男子生徒たちが殺到していった。

 

「どっちだ!?」

 

「いや、これはッ」

 

「誰か定規持って来いよッ!?」

 

「アッ~~~ッ」

 

「待て、落ち着けって……判定は」

 

 ここまで審判役を務めていた山内がじっくりと両者の象徴を見比べていく。

 

「太さなら、高円寺だッ……だが長さならば、笹凪だ!?」

 

「なん、だとッ!?」

 

 そうか、長さなら天武なのか……山内はそういった差を確認できる才能があるのかもしれない。

 

「ふッ、ふッ、ふッ。流石と言っておこうかマイフレンド。それでこそだとも」

 

「不毛な争いさ、こんなことに何の意味もないよ」

 

「いいや、私たちは男に生まれ落ちたんだ、決して避けられない戦いなのだよ」

 

 髪を掻き揚げる高円寺は優雅にそう言った。そして天武に掌を差し出す。

 

「改めて握手を、マイフレンド」

 

「あぁ、またいつか」

 

 お互いを強敵だと認め合ったのだろう。二人は固く握手を結んで健闘を称えあっていく。

 

 良かった、これで一件落着だな。世界は再び平和になったのだ。

 

 オレは愚かにもそんなことを思っていた、平和なんていうものはあまりにも脆く儚いことをついさっき知ったばかりだというのに。

 

「さて……清隆、次は君の番だよ」

 

「え?」

 

 オレを後ろから刺したのは、まさかの親友であった。

 

 お、お前は、お前だけは、信じていたのに……。

 

 風呂場に集まった男子たちの視線が、今度はオレに集まって来る。逃がさないとばかりに。

 

「清隆、出し惜しみはしない、そうだろう?」

 

「お、おい、笹凪、まさか綾小路もそっち側だっていうのかよッ!?」

 

「嘘だろ……この領域の戦いに、踏み込める奴がまだいるって言うのかよ!! どうなってんだこの学校はッ!?」

 

 戸塚と橋本がやけに大騒ぎしている。戦慄したかのように。

 

「ほう、綾小路ボーイもまたこちら側なのかね? それは良い、是非とも見せて貰おうじゃないか」

 

 高円寺はやはり入り口付近から動かない。

 

 もう、逃げ場はどこにもなかった。

 

「そうさ、今までの考えは一度捨てる……ここから先は出し惜しみはしない」

 

 観念して、オレもまた湯船から立ち上がって全身を曝け出し、腰の布を取り払った。

 

「す、すげえ、綾小路の奴ッ……」

 

「し、信じられねえ……」

 

 誰かが呻くように言った。まるでTレックス同士の対決のようだと……。

 

 

 

 

 

 

 

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