ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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南雲パイセンはこの章のMVP


混合合宿最終日

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれより、座禅の試験を開始する。採点基準は二つ。道場へ入ってからの作法、動作。座禅中の乱れの有無だ。座禅終了後は、次の試験の指示があるまで各自教室で待機するように」

 

 長かったこの混合合宿も遂に最終日となり、これまでの授業で学んだことを発揮するために俺たちは座禅とスピーチと筆記試験と駅伝を行うことになった。

 

 運動系に関しては何も心配のいらない面子なので、最も不安な筆記試験を中心に対策を立てている。試験前日に要点を纏めた書類を確認に配っている。それに目を通しておけば失格にはならないだろう。

 

 そして迎えた試験本番、最初は座禅であるのだが、ここでアドリブを入れてこられた。

 

 座禅の授業ではこれまで同グループで固まる形であったのだが、試験本番では学校側がランダムに配置してきて、更には呼び出す順番もバラバラであった。わかりやすいくらいに揺さぶりをかけている。

 

「判定用のカメラまで用意しているとは、徹底しているな」

 

「そんなもんでビビるような奴がいるのかよ」

 

 龍園は悪態をつきながらも挑発的な笑みをそのままにして、教官に呼ばれて道場の中に入っていき、なかなかの座禅を見せつけた。

 

 確かに、彼が言うように普段と異なる環境だからといって憶する必要はない。寧ろ楽しむくらいの感覚で挑むのが一番だろう。

 

 そんな考えがグループ内に広まったのか、名前を呼ばれて道場の中に入っていく生徒たちは程よい緊張で挑めていたと思う。

 

 俺も名前を呼ばれて道場の中に入り、無念無想を心がけながら座禅を披露すると。教官にドン引きされながらも無事に突破することができた。

 

 ここは問題ない。多少足を痺れさす者がいるくらいなので深刻になるものでもないからだ。

 

「あてて、足が痺れた」

 

 道場を出てから体の固い者はそう言うが、本番中に姿勢を崩すことが無かったのは立派と言える。

 

 次の試験が始まるまで十分ほどの休憩が挟まれることになるのだが、それで回復できる程度のものだった。柔軟を繰り返していけばすぐに痺れも消えることになる。

 

「皆、次は筆記試験だが、昨日渡した要点を纏めた書類をしっかり思い出せ。あれを見ておけば失格にはならない筈だからな……特に石崎は」

 

「うるせえ、わかってるっての」

 

 まぁ彼も昨晩はしっかりと勉強していたので深刻なことにはならないだろう。出題されるのはこの合宿中に学んだことばかりなので範囲もそれほど広くはない。それで完全に安心できないのがこの学校なのだが。

 

 悪態を見せながらも石崎を中心に学力不安組はしっかりと予習復習を行っていたことは知っている。油断はできないがここまで来てしまったので今更どうにもできない。信じるしかないだろう。

 

 教室から呼び出されて新しい試験会場で筆記試験を受ける石崎たちの様子は……うん、問題なさそうだな。

 

 唸っていたり躓いていたりもするのだが、決定的な大ポカをやらかしたという雰囲気はない。平均点は取ってくれそうだ。

 

 この面子で最も大きな不安要素であった石崎に、筆記試験が終わってすぐにこう声をかけると、彼は落ち着いた様子でサムズアップをして見せる。

 

「へッ、余裕だ」

 

「そいつは何より。戸塚はどうだったかな?」

 

「こっちも大丈夫っぽいな。まあ余裕だ」

 

 どちらも自信が垣間見えるので心配はいらないだろう。これだけ余裕のある顔なんだから赤点にはならない筈だ。

 

「次はマラソン……じゃなくて駅伝って話だけど、本当に任せちまっていいのか?」

 

 戸塚の最終確認は、彼だけでなくグループ全員に向かって返した。

 

「あぁ、君たちは1.2キロ走ってくれるだけでいい。後は俺が引き受けよう。安心してくれ、必ず一位になる」

 

「いや、まぁそこは疑ってないけどな」

 

「大丈夫だって弥彦、体育祭での笹凪の動きは見ただろ、心配するだけ無駄だ」

 

 橋本の言葉にグループのメンバーがそれぞれ体育祭でのこちらの活躍を思い浮かべた段階で、憂慮や心配が完全に消えることになった。

 

 次の試験である駅伝は最低でも一人1.2キロは走らなくてはならないが、大部分を俺が引き受けることになる。ここで下手に他の者に任せた所でタイムが確実に長くなると誰もがわかっているのだ。

 

「座禅や筆記試験では劇的な差は生まれないと思うが、この駅伝だけは別だ。わかりやすく数字が表れる、そして幸いなことにこの面子に運動面で不安要素はない。ぶっちぎっていくとしよう」

 

 全グループが校舎から外に出てバスに乗り、それぞれが指定した箇所に下ろされていく形だが、俺たちのグループの第一走者は高円寺である。

 

「六助、最終的に俺が帳尻合わせするから気楽にやってくれて構わないからね」

 

「もちろんそうするさ。君がアンカーとして走る以上は、既に結果が決まっているも同然だろうしねえ」

 

 もし最下位で第二走者にバトンを渡したとしても大した意味がない。俺がアンカーとして走る以上は全てが茶番である。他のグループだってどう一位を取るかではなく、どう二位を取るかを真剣に話し合っていることだろう。

 

 高円寺をスタート地点に置いてバスは走り出し、メンバーはきっちりと1.2キロごとに下ろされていき、最終的には一人だけになった。

 

 当たり前のことだが他のグループはそれぞれ分業しており、一人だけに全てを丸投げにするなんてことはしていないようだ。俺が走り出すチェックポイントに並んだ生徒たちもそれは同様である。

 

「神崎、葛城、君たちもここだったか」

 

「あ、あぁ……そうだ」

 

「笹凪か、その様子だとやはりお前がアンカーのようだな」

 

「まぁね、それが一番効率的で話が早いからさ」

 

 神崎とは、あの風呂場での一件以来、妙に避けられ気味になっている。色々と思う所があるらしく、俺と目を合わせて話そうとしない。

 

 こちらに落ち度のある話ではないのでどうにもできないな。ある程度の時間が経てば落ち着くと信じるしかない。そもそも俺だってそんな変な意識を持たれても困るというのが本音であった。

 

「笹凪、そちらにいる弥彦はどうだ?」

 

「大きな問題はないかな。喧嘩するでもなく反発するでもなく、馴染めているよ」

 

 葛城としてはそこが心配であったらしい。自分に付き従っている相手が魔のグループに入ってしまったのだから当然だ。

 

「そうか、龍園がいるグループなので心配していたんだが、杞憂だったか」

 

 本当に、どこにいっても龍園の良い噂や評価を聞かない。自業自得ではあるし、とても正確な評価でもある。そして龍園はそんな他者からの評価や考えを鼻で笑う男でもあるので、改善されることもない。

 

 まあ誰かから高評価されて慕われる彼を見たい訳でもないので、これで良いんだが。

 

 このチェックポイントで自分のグループの走者を待っていると、ほどほどのタイムで清隆が姿を現した。

 

 順位は真ん中くらい。既に葛城と神崎はスタートしている。

 

「後は任せた」

 

「あぁ、ぶっちぎってくるよ」

 

 1.2キロ走った彼は特に息を切らした様子も無く、何気ない速度を維持したままバトンを渡してくる。それを受け取った瞬間にこちらは師匠モードに移行して一気に駆けだした。

 

 何もかもが遅く見える。前を走る生徒も、車道を走る車も、そして時間の流れさえ。

 

 自分以外の全てがスローモーションの中で、俺だけがいつも通り動けるような、そんな感覚である。

 

 前を走っていた生徒を追い越して、その先にいた神崎も抜き去り、更にその先にいた葛城も置いてけぼりにして、前に誰も走っていない場所にまでやってきた。そこからも勢いを弱めるようなこともなく、寧ろより加速しながらゴールを目指していく。

 

 ペースは緩めない。最初から最後まで短距離走のような全力疾走を行いながら突き進み。最終地点でゴールテープを切って見せる……最終地点で待っていた茶柱先生にはドン引きされてしまった。まぁこうなることも学校側はわかっていた筈だ。

 

 少なくともこの駅伝では間違いなく全グループで最高の評価を貰えたのは間違いない。勉強面の不安はこれで相殺できただろう。

 

 座禅、筆記試験、駅伝に続いて最後の試験となるのがスピーチとなるのだが、こちらに関しても前日に要点は纏めてある。運動能力でも勉強能力でもない分野が試される上に、経験も浅いので学生には難しい課題ではあるが、自信の無い者にはこちらで作った原稿を丸暗記させる形で乗り越えれば赤点にはならない。

 

 そもそもこの試験たちはもの凄く難易度が高いという訳でもないように感じた。それこそワザと足を引っ張ったり妨害さえしなければ失格になる可能性はかなり低い。

 

 それこそ、こいつを退学にさせてやるというハッキリとした意識と悪意が無ければ、まず学校側の基準を下回ることはない筈だった。

 

「私はこの学校に入学してから多くのことを学び、多くの友人に恵まれ、己に足りない物もまた見つけることが――――」

 

 龍園のスピーチを聞いていると笑いが込み上げて来る。一から百まで全てが嘘で塗り固められており、完全に心にもないことをさも誠実に語っているからだ。

 

 俺だけでなく、石崎や清隆ですら唇をキュッと引き締めて笑いを堪えているのが見えた。

 

 このスピーチ試験で一番の不安要素は石崎たちよりも清隆だろうな。どこか口下手な所のある彼は抑揚がなく単調であるからだ。原稿用紙を機械が発声しているかのような印象を与えることになる。

 

 ホワイトルームではそういった方向の訓練はしなかったのだろうか? 将来、彼が政治家とかになるのならば、必須技能だと思うのだが。

 

 ただ下手くそと言う訳でもなく、シンプルかつ正確であることは間違いないので問題なく突破できたらしい。

 

 これまで試験を監督していた教官や教師たちの反応を観察していると、どれも問題ないように思えたので、このグループから退学者が出ないことは確信することができた。

 

 百点満点とは口が裂けても言えないが。落第点であるともまた言い切れない。つまりは大グループにしっかりと貢献できたと言うことだ。ただ南雲先輩にやる気が無いので一位は取れそうにないのが残念である。

 

 長くて複雑な試験ではあったが、こうして全ての行程が終わって振り返ってみると、何だかんだで悪いものでは無かったと思えるのが、ある種の合宿マジックなのかもしれない。

 

 高校でやりたかった馬鹿らしい時間も過ごすことができたことも嬉しい。ああ言う男子高校生あるあるというものを経験したくもあったからだ。

 

 後はこの特別試験の結果発表を待つだけ、つまり堀北先輩と南雲先輩の決着をしっかりと確認するだけであった。

 

「さて、どうなるだろうね」

 

「観察している限りでは、あの生徒会長は気が付いていないようだったがな」

 

「でも油断はできないからね。あの余裕は演技で、実は裏では色々な策を走らせていたのかもしれないよ」

 

「ならもっと焦っても良いと思うが……優雅に笑いながら鼻歌を奏でてる場合じゃないだろ」

 

 ここ数日、同じ大グループとして接して来た南雲先輩はずっと余裕の態度を崩さなかった。時には鼻歌を奏でていたのだが、清隆も観察している限りでは演技ではないという。

 

 俺もそう思うのだが、南雲先輩はこの学園でも屈指の実力者、俺たちの思惑など全てお見通しで愚者を演じている可能性だってゼロではないのだ。

 

「油断はできないさ」

 

「……まぁ、結果発表で全てわかる」

 

 清隆はそう言って結果が発表される体育館に入っていった。

 

 そこにはこの茶番劇の役者全員が揃っているのが見える。朝比奈先輩と南雲先輩、堀北先輩と橘先輩。俺が買収した幾人かの二年生、南雲先輩に買収された三年生が揃っていた。

 

 三者三様の目的に進んで嘘を吐いて結末を求める、この茶番劇もいよいよ終わりとなるのか。

 

 体育館には男女合わせて、しかも一年から三年まで全ての生徒が揃っており、今か今かと結果発表を待ちわびている様子だ。

 

 微笑を浮かべる南雲先輩、真剣な様子の堀北先輩、対照的な二人を中心に二年と三年が綺麗に分かれているのは彼らの対立の深さを物語っているようにも見える。きっとこれまでもこんなことが何度もあったのだろう。

 

 三年はドッシリと構え、二年は余裕を醸し出し、一年は緊張している様子なのは、興味深いと言えるのかもしれない。

 

「林間学校での八日間、生徒の皆さんはお疲れさまでした。試験内容は違えど、数年に一度開催される特別試験。前回行われた特別試験よりも評価の高い年となりました。ひとえに皆さんのチームワークが良かったことが要因でしょう」

 

 この特別試験を取り仕切っているであろう教官の一人が拡声器を使って体育館の壇上に立ち、落ち着いた声で集まった生徒たちにそう伝えて来た。いよいよ結果発表だ。

 

「先に結果に触れることになりますが、男子生徒の全グループが学校側の用意したボーダーラインを全て越えており、退学者は0というこれ以上ない締めくくりとなりました」

 

 その瞬間に男子生徒たちからは一斉に安堵の声と溜息が漏れ出て、体育館に広がっていくことになる。

 

「それでは、これより男子グループの総合一位を発表しますが、ここでは三年生の責任者のみを読み上げます。そのグループに属する一年生から三年生の生徒には、後日報酬としてポイントが配布されることになります」

 

 そんな前置きをした後、教官は手元にある資料を確認しながらこう言った。

 

「3年Aクラス――堀北学くんが責任者を務めるグループが1位です」

 

 龍園もこの結果には満足していることだろう。金田も上手くグループを動かしていたらしい。

 

 堀北先輩も当初は責任者を避けようとする動きも考えたらしいが、この茶番劇に乗った結果、後で橘先輩の救済に多くのポイントが必要になることを考え、自ら責任者に志願したらしい。

 

 おそらく、この試験で得たポイントと救済に必要なポイントを相殺して被害を最小限にするつもりなのだろう。南雲先輩の目的が女子だとわかっていたので楽に一位を取れると考えた筈だ。

 

 Aクラスのポイントがほぼほぼ±ゼロに出来るのならば、ババを引いたのはBクラスだけということになる。話が違うと猪狩先輩は憤るかもしれないな。

 

 その後も順に順位が発表されていき、俺たちのグループ、つまり南雲先輩も所属しているグループは2位の結果で終わることになった。

 

「二位か、まぁそんなもんだろうな」

 

 南雲先輩に勝つ意思がなかったので、二位でも上等である。

 

 彼は余裕の笑みを維持したまま堀北先輩に歩み寄っていき謝辞を述べた。

 

「一位獲得、おめでとうございます堀北先輩、しかも責任者になってきっちり勝利するとは、流石ですね」

 

 体育館全体に聞こえるように声を張り、わざわざ全校生徒の注目を浴びるかのような振る舞いは、きっとこれから起こる自分の策略を披露したいからなのだろうか。

 

 舞台役者のように、そして主役のように、声も動作も大仰でワザとらしくもあり、何より主張が大きい。

 

 楽しくて楽しくて仕方がないらしい……そりゃそうだ、だってこの日の為に用意した盛大なドッキリでもあるんだから。

 

 そんな大舞台である。全校生徒を観客にしたい気持ちもわからなくもない。

 

「お前の負けだ、南雲」

 

 対する堀北先輩は、南雲先輩にどこか同情した視線を向けている。盛大なドッキリにそれ以上のドッキリを仕掛けている訳だからな。なんだかんだで甘い人であった。

 

「そうですかね。まだ結果発表は始まったばかりじゃないですか」

 

 うん、本当にその通りだと思う。

 

「そうだな、この決着を見届けよう」

 

 二人の視線はそのまま壇上に立つ教官に向けられる。

 

「それでは次に……女子グループの発表をしたいと思います。一位のグループは、3年Cクラス、綾瀬夏さんの所属するグループです」

 

 その瞬間に女子グループから安堵と歓声と溜息が同時に広がった。けれどその衝撃も束の間、問題の時が訪れる。

 

「えー……誠に残念なことではございますが、女子グループの中からボーダーを下回る平均点を取ってしまったグループが存在します」

 

 体育館に集った全校生徒はその発表に凍り付く。

 

 いよいよ、この茶番劇もクライマックスだな。

 

「まずは最下位のグループですが……3年Bクラス、猪狩桃子さんの所属するグループです。そして次に、平均点を割ってしまった小グループは……」

 

 一瞬の静寂と間を置いてから、教官は静かにこう言い放つ。

 

「責任者……猪狩桃子さんのグループ」

 

 ここまでは予定通り、台本通り、わかりきっていた展開である。なので生徒たちの騒めきを他所にしながら俺も堀北先輩も冷静そのものであった。

 

 決まりきっていた結末に、焦る必要なんてどこにもない。

 

 静寂と動揺が広がる体育館の中心で、その生徒たちの動揺と視線を万来の拍手であるかのように身を震わせる南雲先輩は、微笑みと同時に落第となってしまった猪狩先輩にこう訊ねた。

 

 

 

「猪狩先輩、教えてくださいよ。一体誰を道連れにするのか皆さん気にされていますよ」

 

 

 

 南雲先輩の楽しそうな声が聞こえて来る。それはとびっきりのドッキリが成功したかのように誇らしそうで、同時に隠し切れない快楽を感じさせるものであった。

 

 実際にそうなのだろう。彼にとってこの状況は夢にも見るほどに待ちわびたものであり、胸を高鳴らせながら今か今かと妄想した瞬間でもあるのだろう。

 

 ならば笑みの一つでも浮かべるのが自然だろうし、面白くて仕方がないと興奮するのも当然なのかもしれない。

 

 南雲先輩の言葉にザワザワと生徒たちに動揺が広がっていく、その中心人物の一人でもある3年の猪狩先輩はこう言った。

 

「決まってるでしょ。私たちのグループの平穏を乱した、Aクラスの橘茜さんよ」

 

 そして彼女はわかりきっていた言葉を発する。こうなると一週間以上も前にわかっていた言葉を。

 

 ここに橘茜先輩は不合格となり、この試験で失格することになる。全ては南雲先輩の想定通りに。

 

 自分の計画が完璧に終わったと確信したのだろう。彼は大仰に手を叩いて堀北先輩に賞賛を贈り、勝者を称えている。

 

「奇想天外、いや規格外の戦略とでも言っておきましょうか。俺の手を読める人間なんて一人もいません。堀北先輩、貴方を含めて誰にもね」

 

 楽しくて楽しくて仕方がないのか、生徒たちの困惑を他所に南雲先輩の煽りは続いていった。

 

 彼の中ではまさに完璧であり、この場の支配者という図式が出来上がっているらしい。どうやらまだ、自分がピエロになっていることには気が付いていないようだ。

 

「教えてくださいよ橘先輩。生徒会役員を務め上げ、3年Aクラスの卒業を間近に控え、そして退学していく気分はどんな気分ですか。そして、堀北先輩。今の気持ちは? きっとこれまでに感じたことのない、苛立ちに包まれているんじゃないスか?」

 

 まだ結果発表が完全に終わっていないことに気が付いていない南雲先輩は、堀北先輩にそんなことを訊いている……そろそろ口を閉じた方が良いかもしれない。喋れば喋るだけこの先が惨めになるだろうから。

 

「堀北先輩、どうしました? もしかしてショックで唖然としていらっしゃいます?」

 

「南雲、まだ結果発表は終わっていないぞ」

 

 堀北先輩は冷静そのものであった。当たり前だ、こうなることをわかっていたのだから、苛立つことも焦ることもない。心構えは出来ていたのだから。

 

「どういうことスか?」

 

「そのままの意味だ、まだ結果発表は終わっていない」

 

 生徒たちの混乱とざわめきで中断されていた試験の結果発表を促すかのように。堀北先輩は教員に視線を送った。

 

「え~、不合格者はもう一人いる……2年D組にもだ」

 

 そう、不合格者はもう一人いた、ただそれだけのことである。そしてこの試験のルールでは、足を引っ張ったとされるもう一人を指名して道連れにして退学にすることができる。

 

 だから橘先輩は退学になり、そしてこの人もまた同じ状況に追い込まれることになるのだった。

 

 道連れとして指名される人物は――――。

 

 

「私は、2年Aクラスの朝比奈さんを道連れにします」

 

 

 わかりきっていた言葉を彼女もまた口にした……最初から最後までこの試験は茶番に満たされていた。それだけの話である。

 

 

「え、は? な……ど、どういうことだ? なんで……へ?」

 

 

 その発表に南雲先輩は唖然として困惑している。完全に予想外の状況だったのだろう。

 

「茶番だな」

 

「ん、そうだね」

 

 大勢の生徒たちに交じってこのやり取りを眺めていた俺と清隆はそんな会話をしていた。

 

 

 

 

 

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