ようこそ未熟者がいく教室へ   作:にやまな

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その言葉を聞く度に強くなる男

 

 

 

 

 

 

 

 バレンタインによって浮ついて色めきだった空気に包まれていた学校ではあるが、もうすぐ学期末テストと言うこともあって気を引き締める必要もあった。仮テストも行われることもあって青春一色と言う訳にもいかない。

 

 特に赤点組に関しては、今回のテストが高難度になると告知されているので気合も入っている。それでも怯えや不安ではなく、来るなら来いという覚悟を示せるようになったのはいい傾向だ。四月頃と何もかもが変わったということだろう。

 

 須藤と池と山内を筆頭に赤点組は堀北さんが、女子は主に平田が、櫛田さんは男女平等に、清隆グループに関しては啓誠が面倒を見て、俺はローテーションで各グループに顔を出してマンネリ防止に勤しむ形がペーパーシャッフル以降に出来たので、今日もまた勉強会に参加をしていた。

 

 期末テストも近いので、どのクラスにとっても大事で大切な時間だ。これは何も俺たちのクラスだけの話ではない。当然ながら一之瀬さんクラスも同じことが言える。

 

「調子は?」

 

 学校の一角にあるコモンスペース、幾つかの自販機と椅子が並ぶ場所で、俺は購入したココアの缶を片手にベンチに座って、後ろの席にいた神崎にそう声をかけた。

 

「良くはない」

 

 背中合わせの形でベンチに座っているのでこちらから表情は読み取れないが、神崎の調子が良くないことは声だけでわかる。

 

「一之瀬さんは今日も休んでいるみたいだね」

 

「体調不良だ」

 

 そして精神的な不安もあるのだろう。言わせるなと神崎は伝えたいのかもしれない。

 

 ココアを飲みながらこれからのことを考える。もしテスト当日まで一之瀬さんが復帰しないとなればいよいよ大事になってくる。それこそ影響はクラス全体に広がることだろう。

 

 一之瀬さんが脱落してみろ、Cクラスは完全に機能不全に陥る上に、下手したら壊滅する可能性すらあった。

 

「俺や、クラスの女子たちが部屋に行って声をかけてはいるが……」

 

「無視されているのかい?」

 

「いや、反応はある……部屋の扉は開けてくれないがな」

 

「クラスメイトからの視線が怖いのかもしれないな」

 

「どういうことだ」

 

「考えてみてくれ、今回の一件はそもそも一之瀬さんが学校側に訴え出れば全て片付く話だ。けれど彼女はそれをする様子がない……どうしてだ?」

 

「それは……配慮だろう」

 

 入学してからのこれまでずっと一之瀬さんを見て来た神崎にはそう見えたのかもしれないな。そしてそれも決して間違いではない。

 

「それもあるだろうけど……一番は、訴えたくても出来ないが正しいのかもしれないな」

 

「訴えられない事情……まさかお前は、あのくだらない誹謗中傷を信じている訳じゃないだろうな」

 

「神崎、俺は便所の落書きに大した価値や意味は感じてないよ……けれど、彼女にとって無視できない情報があの中にあったとしたらどうする? 幾つかの嘘の中に一つの真実があったとしたら、致命傷になるかもしれない」

 

「……」

 

 押し黙る神崎は、自販機から購入したアルミ缶を僅かに凹ませる。

 

「もしそうなら、クラスメイトだからこそ恐ろしいと思うのかもしれないな。彼女が抱えている何かを、君たちがどう評価するのかをさ」

 

「皆、今更一之瀬を疑ったり、信頼を揺るがしたりはしない」

 

「それで良いと思うよ。一之瀬さんが復帰すれば、その言葉を伝えてあげれば良い」

 

「俺たちは、どうすれば良いと思う?」

 

「他クラスの俺にはどうとも言えないけれど……」

 

「笹凪、お前にとっては、このまま一之瀬がリタイアした方が都合が良いのかもしれないな」

 

 クシャっと、ココアが入っていたスチール缶を思わず握りつぶしてしまう。

 

「侮るなよ、そこまで侮辱されるとは思わなかった」

 

「……すまない、過ぎた言葉だった」

 

 神崎もだいぶ余裕が無くなっているようだな。普段の彼ならばこんな発言は思ったとしても口にはしない筈だ。

 

「坂柳さんの説得は?」

 

「もちろんやろうとしたが、フラリフラリと躱されるだけだ。葛城にも話は聞きにいったが、手ごたえらしいものは無い」

 

「先生は?」

 

「一之瀬からの訴えがない以上は、学校側は動けないそうだ」

 

「いよいよ手詰まりか」

 

 そもそもボールを持っているのが一之瀬さんである。彼女はそれをどこにも投げないままずっと持っているので、周りはさぞ動きにくいだろうな。

 

 学校か、坂柳さんの顔面か、或いは俺にでも投げてくればまた状況が変わると思うのだが……。

 

 いっそ一之瀬さんの動きを無視してこっちから強引に動くべきだろうか? いや、それだと坂柳さんと一之瀬さんの戦いではなくなってしまう。横槍を望まれているとはいえ、なかなか踏み込みづらいな。

 

 俺は、一之瀬さんには私こそが真の実力者だと言って欲しい。当然ながらこんな所で挫けて欲しくなんかない。坂柳さんでも龍園でもなく、彼女を一番評価しているからだ。

 

 自分の小指に視線を落として、そこに纏わりついた熱を思い出す。大事な時に思い出せて力になれるようにと願った結びつきは、まだ途切れてはいないと思いたい。

 

「おや、神崎くん、それに天武くんも、こんな校舎の片隅で何をされているのですか?」

 

 そろそろ部活に行こうかと考えている時に、カツカツという杖を突く音を立てながら、このコモンスペースに現れたのは、件の元凶である坂柳さんであった。

 

「坂柳ッ」

 

「今朝ぶりですね神崎くん、そんなに苛立ってどうされましたか?」

 

 ここで彼にそんなことを伝える坂柳さんは、本当に度胸があると思う……性格が悪いとも言えるが。

 

「お前がそれを言うのか……他の誰でも無い、お前が」

 

「どうやら神崎くんは、まだ私が例の誹謗中傷を流したと勘違いしているようですね」

 

「……何をいまさら」

 

「落ち着け神崎、君らしくもない」

 

 ベンチから立ち上がって詰め寄ろうとした神崎の肩に手を置いて引き留める。余裕がないのはわかるが少し落ち着いて欲しかった。

 

「坂柳さんも、あまり挑発するもんじゃないよ」

 

「そんなつもりは毛頭ありませんよ」

 

 自分は何も関係が無く、寧ろ疑われて困っているとでも言いたげな表情である。

 

「それより神崎くん。先程、こちらのクラスの橋本くんと鬼頭くんが、中庭付近でそちらのクラスメイトに詰め寄られているのが見えたのですが、止めなくて宜しいのですか?」

 

 神崎は「だからお前がそれを言うのかと」表情で主張しながらも、このまま放置して喧嘩沙汰になると拙いと判断したのか、苛立った様子で足早に中庭へと向かった。

 

「あまり苛めてあげないでよ」

 

「そのようなつもりはありませんよ。それよりも、ここ、構いませんか?」

 

「どうぞ」

 

 学校の片隅にある自販機が並んだコモンスペースにあるベンチに、坂柳さんはゆったりと腰を下ろした。

 

「もうすぐテストですが、調子はどうですか?」

 

「悪くはないかな……皆で猛勉強中だよ。こっちはAクラスほど余裕はないけどね」

 

 Aクラスともなると平均的な学力が高いので、赤点組なんてものがそもそも存在しないのかもしれない。だとすると羨ましい限りだ。

 

 それともAクラスにも赤点組がいて、坂柳さんが面倒見たりしているんだろうか? 彼女が誰かに勉強を教えているのは少し想像できないが。

 

「今はどこのクラスも勉強に集中しているでしょうね……あぁでも、一之瀬さんは学校を休んでいるとか」

 

 君がそれを言うのかと、少し呆れながら挑発的な視線を受け入れる。

 

「そうみたいだね、色々あったようだから……けれど体調不良って話だからすぐに復帰するよ」

 

「単純な体調不良ならばそうかもしれませんね」

 

「さっきと同じことを言うけど、あまり苛めないであげて欲しいな」

 

「さて、なんのことでしょうか」

 

「もし、一之瀬さんが学校に訴えたらどうするつもりなんだい?」

 

 坂柳さんはやっていないと言うのだろうが、あの投書に関しては物理的な証拠がある上に、しっかりと調べれば誰がやったのかということもわかる筈だ。つまり訴えられたら必ず面倒なことになる。

 

 それがわからない坂柳さんではないと思うのだが、危機感が足りていないようにも思えた。

 

「では、訴えれば宜しいではないですか、それで解決する問題なのですから……けれど一之瀬さんはそれをしなかった。さて、何故でしょうね」

 

「配慮と、躊躇……加えて言うのなら、誹謗中傷の中に無視できない何かがあったって感じかな」

 

「可能性としては否定できませんね……尤も、私にはさっぱりですけど」

 

 妖しく微笑む坂柳さんはとても楽しそうである。

 

「まああれだね、あの投書を行った人は訴えられないと確信があったんだろうけど……少し相手の優しさに甘えている部分があると思うよ」

 

 続けてと、坂柳さんは視線でそう言った。

 

「訴えられないから何をしても良いって考えであんなことをしたのならば、正直脇が甘すぎる。相手の配慮と優しさを前提に行動するのはちょっと危険だよ。どれだけそれはないと断言しても他者の心の中までは覗けない……言ってしまえば、自分の首を相手に預けているにも等しい状態だ」

 

 もし一之瀬さんの気が変わって学校に訴えれば、下手したら坂柳さんまで処分される可能性がある。軽く済んだとしてもポイントに大きなダメージが入るだろう。

 

 かなり綱渡りをしているようにも思えた。相手の感情や人格を作戦に組み込んで安全だと判断したにしても坂柳さんの行動は危険すぎる。

 

「大丈夫なのかい?」

 

 誰が何を、とは言わないが、そう訊ねると坂柳さんは問題ないとばかりに頷きを返す。

 

「確かに天武くんの言うことも尤もです……しかし現に、一之瀬さんはそれを行っていません、やれば全て解決すると言うのに」

 

「そうだね。結局、それが全てか」

 

「それにもし、仮に一之瀬さんが訴え出たとしても問題はありませんよ」

 

「何か秘策があるのかい?」

 

 すると坂柳さんはどこか妖艶な笑みを浮かべて俺を見つめて来た。

 

「おや、もうお忘れですか? 私が困っていると、天武くんは助けてくれるのでしょう」

 

 確かに混合合宿でそんなことを言ったな……なるほど、こいつは一本取られてしまったらしい。一度言葉にした以上は死んでも貫き通さなくてはならないので、間違いなく坂柳さんが困っていたら俺は彼女を助けるだろう。

 

「やれやれ、一之瀬さんと言い、俺と言い、人の感情や在り方を利用するのが上手い人だ」

 

「褒め言葉として受け取っておきましょう」

 

 クスクスと笑う彼女は、何が面白いのか上機嫌な様子であった。

 

「貴方のお節介をどうか一之瀬さんに向けてあげてください……誰がやったのかは知りませんが、きっと困っているでしょうから」

 

「大丈夫、もう約束は結んだから」

 

「約束ですか……どのような?」

 

「挫けそうな時は呼んでくれってね」

 

 俺は小指を揺らして坂柳さんの前に持っていく。それで意図は伝わったのか、彼女は納得したように頷いてみせる。

 

「小指の約束は、言葉以上に重たいものだ……一度結んだ以上は、必ず守るつもりだよ」

 

「それでは何の心配もいりませんね。今頃一之瀬さんも自分の小指を眺めていることでしょう……しかし少し妬けてしまいます」

 

「ん、それはどういう……」

 

「口約束よりも、指切りの約束の方が天武くんにとっては重要そうに思えましたので」

 

「そんなことは無いが、そう聞こえてしまったか」

 

 言葉も重要だと思っているが、坂柳さんにはそう思えなかったらしい。

 

 すると坂柳さんは自分の華奢な指先を俺の前に持ってくる。そして「結べますか?」と挑発的な視線を向けてくるのだった。

 

「指切りをしたいのかい?」

 

「フフフ、天武くんにそれができるだけの勇気と覚悟があるのならば」

 

「やれやれ全く……そう言われると結ばざるを得ないじゃないか」

 

 ここは彼女の挑発に乗るとしよう。それに一度彼女を守ると言葉にした以上は、それは絶対に成し遂げないといけない契約だと俺は思っている。指切りをすればより強くそう思えることだろう。

 

 差し出された小指に、俺は自分の小指を結び合わせた。翻弄されているように思えるけれども、男は女の子に振り回されるくらいの人生で良いのかもしれない。

 

「こういうのも悪くないものです、強い結びつきを感じますから……約束、お忘れのないようにお願いしますね」

 

「言われるまでもないけれど、また言葉にしておこうか……君が困っていれば、俺は力になるよ。女性に振り回される人生も悪くないと思っている」

 

「心からそう言い切れる男性は、魅力的だと思いますよ」

 

 結び合わせた小指を起点に手を振って指切りをすると、俺と坂柳さんとの間により強い約束が結ばれたように思える……きっとこれからも色々と振り回されるんだろうな。いや、まあそれはそれで構わないんだけどさ。

 

「しかし今は、そのお節介を一之瀬さんに向けてあげてください」

 

 だからそれを君が言うのかと思ってしまうのだけど、横槍を入れて来いと言いたいのだろう。

 

 この段階で、俺にはぼんやりとだが坂柳さんの思惑というか、考えや目標が見えて来た。ほぼほぼ間違いなく、彼女は最初から一之瀬さんを追い詰めることを目標にしていない。彼女への攻撃は最終目標に至る為の過程に過ぎない。

 

 どうやら俺は勘違いしていたらしい、これは一之瀬さんと坂柳さんの戦いじゃないようだ。

 

「合宿でも同じことを言いましたね。誰かの苦労を背負えるような天武くんのお節介に期待しておきます」

 

 最後にそう言い残して、坂柳さんは相変わらず不敵な笑みを浮かべたままベンチから立ち上がり、杖を突きながら去っていくのだった。

 

 一之瀬さんに攻撃している時は少し迂闊なんじゃないかと思っていたが、訴えられないと確信した上で別の目的も持っていたのはわかった。危ない橋だという評価は今でも変わることはないのだが、リスクを受け入れてでもそうするしかない理由が坂柳さんにあることはわかった。

 

 もちろん、ついでに一之瀬さんを潰せたのならば歓迎すべきだろうが、リスクを背負ってまでやることではない……彼女の目的は、こんな危険な行動をしてまでやらなければならないことは、今の会話でようやく見えた。

 

 そして同時に納得もした。なるほど、確かに危険な真似をしてでもやらねばならない目的なのだろうと。

 

 やっぱり彼女は強敵だと改めて思う。葛城ではこんな方法は取れないだろうからな。

 

 坂柳さんの目的が見えて来た所で、さて俺はどうしようかとベンチから立ち上がって思案する。もし万が一、一之瀬さんがボールをどこにも投げずに抱え込むことを選んだ場合に備えて動いておくべきだろうか?

 

 方法はある、誹謗中傷を拡大させて学校や生徒会が動くしかない状況を作れば良い。それでくだらない噂話は一掃できる。

 

「だけど、それだと坂柳さんは止まらないんだよな……」

 

 彼女の目的が一之瀬さん潰しにあるのならばそれで解決するのだが、そうでないとわかった今では、ただ方法が変わるだけで一之瀬さんを追い込み続けるだろうことはわかる。

 

 結局の所、準備だけを済ませて、一之瀬さんからボールを投げられるのを待つしかないのだろう。

 

 本当に、もう余裕が無くなった時は、こちらから強引に動くとしよう。

 

 今から美術部に顔をだして文化活動という気分でもないので、今日は大人しく部屋に帰るとするか。

 

 

 

 そう思って校舎から寮に帰ろうとした時だ、俺の懐でスマホが震えだしたのは。

 

 

 

 取り出して液晶を確認してみると、そこには一之瀬帆波の名前が映し出されていた。

 

 寮への帰路を進みながら通話状態にして、スマホを耳に当てる。

 

「一之瀬さん……どうしたんだい?」

 

『……』

 

 スマホの向こうからは何の言葉も届かない、ただ僅かな息遣いだけが聞こえて来るだけだった。

 

 何かを言うでもなく、急かすでもなく、そのまま暫く無言の通話が続いていく。

 

「もしかして、迷っているのかな?」

 

『ッ……』

 

 息を飲むような反応が返って来るな、きっと色々な葛藤や悩みや戸惑いが彼女の中にもあるのだろう。クラスのリーダーとしてもそうだし、一人の人間としてもそうだ。

 

 それでも俺は、彼女から言って欲しい言葉があった。

 

「ん、そうだね……お互いの立場もあるし、きっと君が言おうとしている言葉は簡単なことじゃないんだと思う」

 

『……』

 

「一之瀬さん、以前に俺は君に言ったことがあるよね。俺はカッコつけたいから誰かを助けるんだって……凄くナルシストで馬鹿みたいな考えだけど、それが俺の在り方なんだ」

 

 カッコつける為に、あらゆる苦労を背負って困難に立ち向かう。いつか龍園も言っていたけれど、ナルシストもそこまで行けば馬鹿でしかない……けれど、俺の考える勘違いして履き違えたカッコよさとはその先にしかないみたいだ。

 

「だから言ってくれ……何も迷う必要はない」

 

 その言葉はこれまで何度も聞いたことがある。瓦礫の下に埋もれた子供から、理不尽に磨り潰されそうになっている少女から、戦火から逃れる誰かから、飢えに苦しめられる家族から、暴力に晒される人から、何度だって聞いて来た。

 

 何度も何度も聞いて、その度に胸の奥から強い力が俺に流れ込んでくることも知っている。あの言葉を聞く度に体が熱くなったと記憶している。

 

「その言葉を聞く度に強くなれるんだ」

 

『……』

 

「心配はいらないよ……だから俺に、君を助ける理由と、勇気をください」

 

 これまで様々な場所で出会った、困っている人たちは俺にこう言ってくれた。俺を成長させてくれる言葉を、胸の奥から不思議な力が溢れる言葉を。

 

 彼女にも言って欲しい。それは俺を強くしてくれるから。

 

『……て』

 

 小さな呟きというか、呻き声のようなものがスマホの向こうから届く。

 

『……けて』

 

 いつかどこかで、色々な人に言われた言葉を、また俺はここで聞くことになった。

 

 

 

『お願い……助けて、笹凪くん』

 

 

 

 その言葉が耳に届いた瞬間に、不思議と体中から力が溢れて来る。胸の奥、心臓の中心から熱が広がった。

 

 何度も得た感覚で、その度に強くなれる熱である。

 

「ん……わかった」

 

 こういう時、テレビや漫画で見たヒーローたちはどうしていたかな? いっそ清々しい程に、余裕綽々でキザったらしく、なんだったら嫌味な程に朗らかな笑顔を浮かべてしっかりと己を貫いていたか。

 

 ならば俺もリスペクトして真似するとしよう。正義の味方はこういう時にキッチリとカッコつけるものらしいからな。

 

 だから大仰に、敢えてワザとらしく、舞台役者のように力強く、一之瀬さんにこう伝えた。

 

 それこそ、創作の中にしかいないであろうヒーローを意識しながら。

 

 

 

「それじゃあ今から、君に魔法をかけにいくよ」

 

 

 

 こういうのは、いっそ恥ずかしくてやりすぎな程にカッコつける位で丁度良い。

 

 

 

 

 

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