Recoil of Lycoris and Lilybel 作:小鳥遊 小佳夏
電波塔。東京を象徴するテレビ、ラジオ、通信などの電波を中継、発信するタワーにして、日本で一番高い建物。中には観光施設や展望台があり、いつもならたくさんの観光客で賑わう施設である。が、今日は違っていた。
「西側、どうした? 学生・・・?」
「ここにも来る」
サングラスに顔を隠すマスク。そして手にはアサルトライフル。形式はAK-74M。
革命や中東で名高いAK-47を5.56mm仕様にし、更に近代化を施した、ロシア連邦陸軍の正式採用アサルトライフル。
「上だ!!」
複数のテロリストが天井にある天窓に向けて射撃する。それと同時に天窓から伸びるハンドガンの射撃によって一人が沈黙する。
「真島」
サングラスを割られ、目に巻いた包帯が見えた緑髪に対して、一人が心配する声をかける。この真島は今回の作戦のリーダー。また彼の能力を考えれば、一番失ってはいけない駒。
真島はサングラスを割られても、集中して彼の能力を行使する。
「大時計の下・・・今!」
それに合わせて仲間の一人が手榴弾を投擲。見事に命中。
「クロークに四人」
「右の売店、レジ下三人」
真島は見えない敵の場所をぴたりと言い当て、それに合わせて射撃や手榴弾で次々と敵を殺害していく。
「っ、はぁはぁ、ぜぇはぁ」
一人のテロリストが、スイッチと残りの爆弾を持って帰ってきた。どうやら爆弾の設置が完了したらしい。
それに合わせて周りからの銃撃がやんだ。それを見てテロリストは無線機で殲滅の連絡を入れ、息を抜く。真島以外は。
「まだだ、二人いる!!」
PAN!PAN!
「なんだっ!」
DAM!DAM!
「うわぁぁ」
赤い煙と共に倒れ伏すテロリストが一人。
赤い血をまき散らしながら倒れ伏すテロリストが一人。
DADADADADADADADADA
テロリストが射線から推測した敵の位置にAK-74Mを連射する。
が、当たらない。
「リコ、右のカウンター裏に二人」
「オーケー、リリ。左の二人は任せた」
小声で互いに会話し、それぞれの目標に向かう。
「なんだこいつら!!」
赤い服を着た金色交じりの白い髪に赤い目の少女はAK-74Mから放たれた5.56mm弾を躱しつつテロリストに接近。手に持つデトニクス.45コンバットマスターで至近距離からC.A.R.Systemの構えで非殺傷の特殊弾を叩き込む。
同じ色合いの赤い服を着た黒髪に赤い目の少年は、敵の射線を切りつつ移動。目にかけた特徴的なゴーグルに表示された敵に対して、中距離で綺麗な構えをし、手に持つHK.45から.45スーパーACPを叩き込む。それぞれの目標を制圧した二人は、中央にある柱を目指して走りつつ、周りにいる敵を次々に無力化、また射殺していく。
「「っ!!」」
お互いがしっかり見えるところまで近づいた二人は同時に互いに向けて射撃。そして射撃と同時に顔をそらすと、それぞれの背後から狙おうとしていたテロリストに命中する。
「リコ、ナイス」
「リリもね」
二人同時にスライドストップしたハンドガンからマガジンを抜き、次のマグを装填。スライドを戻して装填。
互いに頷いた後、同時に柱に向かってまた走る。
PAM!PAM!PAM!
DAM!DAM!DAM!
二人の銃から弾が撃たれるたびに、一人。また一人とテロリストは数を減らしていく。少年に至っては、射線が通らない敵に対しても、跳弾を駆使して弾を当てていく。
(何故だ)
持っていたAK-74Mも弾切れし、銃身が下にある特徴的なリボルバー、キアッパ・ライノで射撃する真島だが、その弾丸は二人を捉えられず、だんだん近づいてくる恐怖から、焦りが生まれる。
「っ!!」
二人の赤い目が光の残像を残して左右に分かれる。
包帯をしていても見えたその光景を理解する前に、真島と隣にいたテロリストを衝撃が襲った。
「がはっ・・・」
「っあああっ」
真島を襲ったのは45口径のプラスチック・フランジブル弾。その隣にいたテロリストを襲ったのは、.45スーパーACPの特注アーマーピアス弾。
衝撃に耐えきれず二人は銃を手放しつつ後ろに倒れる。
「真島・・・起爆しろ・・・」
真島の隣に倒れたテロリストが、最後の力を振り絞って真島に指示を出す。もう自分たちは助かる見込みはないから、最後に自爆を、と。
PAM!
DAM!
二人が真島と横のテロリストにもう一発、とどめの一撃を放つと同時に。
「くっそぉぉぉぉぉ」
真島が手に握ったスイッチを押す。
電波塔のいたるところで爆発が起き、爆風に赤い服の二人が飲み込まれる。
そのまま電波塔の基部は著しく破損。電波塔は傾き、その役目を終えた。
ーーーーーー
その1年後。千束のセーフハウスにて。
「君は・・・リリ?」
「ああ、久しぶりだな、リコ」
あの時赤い服を着ていた二人が、銃を持って対峙していた。
ーーーーーー
睦月。それが自分に付けられた名前。
俺は孤児だった。それをDAという組織に拾われ、訓練に参加させられ、気づけばリリベルという暗殺組織の一員として、日本の平和に無理矢理貢献させられていた。
さっきまで横で話していた戦友が物言わぬ体になるなど日常茶飯事。そんな中でも、俺は持ち前の発想力と開発力を活かして、ここまで生き延びてきた。今は前線での活動が多いため、特別に海上コンテナを改造した拠点での生活を許されている。
正直、悪人を殺して平和を守るという、DAのやり方に疑問を覚えることもある。だが、それでも、平和に貢献できるのなら。悪人を殺すのであればと自分を殺して生きて任務に従ってきた。だが、今回は違った。
「こいつを殺せ、か」
標的の名前は錦木千束。元リコリス。厳密には今もそうらしいが、リリベルと対をなすリコリスから一方的に脱退し、上層部から目をつけられたらしい。その結果、リリベルを何度も送り込まれるもあえなく撃退され、俺にお鉢が回ってきたというわけらしい。
千束とは、一度だけ共闘したことがある。電波塔事件。あの時、リコリスだけではなく、リリベルからも俺が送り込まれた。そこで千束と会った俺は協力を申し込んだ。当時から仲の悪かったリリベルとリコリスだが、それは上の話。現場レベルではそんなことは無く、互いに背中を守り合った。その場で考えたコードネームはリリとリコ。それぞれリリベルとリコリスからとってつけた。だから本名は互いに知らなかった。俺は今回の作戦指示書で知ったけど。
結局テロリストの自爆により電波塔を守り切ることはできなかったが、俺は功績を認められ、装備開発の予算と資材、あとこのコンテナハウスをもらい、あいつはリコリスを抜けたというわけだ。
「くそがっ!」
ただ組織から抜けた。それだけの理由で敵対しているわけでもない少女を殺せ。それは悪人を殺すのとは違う。絶対におかしい。
「お父さん………」
後ろで心配そうに俺を見ているのは、アリス。俺が作ったアンドロイドで、複数の量子コンピューターを内蔵し、一人だけでもDAが使うAIである、ラジアータを上回る性能を持つ。更にアリスシステムという特殊なプログラムを内蔵しており、全世界のあらゆる情報、通信などを覗き見することができる、世界最高峰のアンドロイドだ。尚、お父さん呼びは俺が強制しているわけではない。起動したらそうなったので全くの偶然である。まあ背丈も小さいし、子供に見えるけど、まだまだ俺も8歳。今並んでも兄妹にしか見えないと思う。
さて。とりあえず、嘆いてばっかりでも始まらない。幸いにも、まだあの事件から1年。千束が俺のことを覚えていてくれれば、もしかしたら勝機が見えるかもしれない。
「アリス、仕事するよ。プランは後で説明するけど、アールエムの準備をしておいて」
思いついた案をまとめつつ、アリスに指示を出す。さぁ、1年ぶりの再会と行こうじゃないの、リコ。
ーーーーーー
「まーた侵入者かぁ・・・。最近多いなぁ・・・」
私のセーフハウスは二階層になっている。上が戦場になることを想定した何もない部屋。下が居住スペース。上の部屋に招かれざる客が来ると、アラームが鳴って、私が制圧に出向く。
「さぁて、今回は・・・げ、リリベルの赤かぁ・・・」
リコリス、リリベル共に赤服はファースト、つまり一番位が高いのを意味する。もちろん私もファーストリコリスでリコリス最強と名高いが、相手もファーストのリリベル。これは苦戦しそうだなぁ。
そんなことを考えながら後ろから距離を詰め、デトニクス.45コンバットマスターのプラスチック・フランジブル弾を至近距離から叩き込もうとするが、それに気づいたリリベルが振り向きつつ距離をとる。ってぅえ!? この距離で気づかれるの!?
そして互いにハンドガンを向け合う。・・・あれ、その銃。それにその特徴的なゴーグル・・・。まさか。
「君は・・・リリ?」
「ああ、久しぶりだな、リコ」
そっかぁ、ついに彼がやって来たかぁ。
正直、勝てるかどうかわからない相手が来たことに対して、半分諦めを感じる私であった。
電波塔事件の時、私と一緒にテロリスト制圧に当たったリリベル。それが彼、リリ。正確な射撃と身に着けた特殊なハイテク装備を使って、索敵から罠の解除まで、様々手伝ってくれた。
横で一緒に戦ったからわかる。リリは私と同じくらい強い。それに跳弾を使われたら、さすがの私でも躱し切れるか。
気合を入れなおし、とにかく弾を当てることを意識し動こうとした瞬間。リリの足元からフラッシュグレネード並みの光が発生し、視界を失った私は近づいてくるリリに何もできず、デトニクス.45コンバットマスターを奪われあっさりと制圧された。
ーーーーーー
よし、ここまではうまくいった。
「俺の勝ち、でいいかな?」
「あー、もう。煮るなり焼くなり好きにしなさいっての。でも情報は吐かないからね」
背後から抱きしめるような形で両手を押さえつけ、もう片手でナイフを千束の首に突き付ける。ここまでは予定通り。横で戦っていた時に推測した通り、千束は銃弾を"見て"回避している節があった。だから今回は千束の視界を奪う作戦に出た。おかげでうまくいったが、ここからだ。
「別に殺しはしないよ。ただ、話を聞いてほしくて。聞いてくれるなら解放するけど、どう?」
「ぐぬぅ、わーった。聞きましょう」
千束を解放し、奪ったデトニクス.45コンバットマスターも返す。
「それで、話って何さ」
「なあ、お前はなんでリコリスを抜けた? それに何で非殺傷弾を使う?」
聞くと、まず千束は命を救ってもらったもの。それを使って人殺しはしたくない。だから非殺傷弾を使うし、殺しを強要されるリコリスからも抜けた、そういうことらしい。そのもらった命は誰かを救うために。ふむ、であれば。
「あのさ、一つお願いしたいんだけどいいかな? 勝者の権利的な感じで」
「なーんだよー」
ふてくされた感じの千束にお願いをする。
「俺がリリベルから抜けるのを手伝ってくれないか」
俺の考え、今までは悪人を倒してたから良いけど、君を殺すような任務までするのはごめんだ。それなら、君と同じところに行けば、少しは変われるかもしれない。そんなことを告げた。
「いいじゃん、いいじゃん!! 私から先生に頼んでみるよ。これも人助けになりそうだし」
「うん、ありがとう」
「良いって。まあ先生をどうにかして説得しないといけないけど、ね。あ、私は千束。錦木千束ね」
「知ってる。俺は睦月。苗字はないかな」
この後、なんとか先生の説得に成功した俺と千束は、生活を一緒にしつつ数年の時を喫茶Lyco Recoで店員として、また裏でDAの支部のメンバーとして任務をこなす生活を営むことになった。