Recoil of Lycoris and Lilybel   作:小鳥遊 小佳夏

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Spilt milk

根岸先生の病院にたどり着く。止まる前にたーちゃんが飛び降りて中に向かう。エンジンを切って鍵を外す分俺が出遅れるが、俺も慌てて中に入る。おかしい。受付に誰も居ない。

奥に向かって、たーちゃんと手分けしてちーちゃんを探す。ある部屋の扉を開けたたーちゃんがS&W M&P45を発砲。そっちか! 入り口から入ろうとするが、中から銃弾が飛んできたので壁に身を隠す。

「千束! 千束!! お前、何をした!!!」

たーちゃんがちーちゃんに呼びかけるが返事がない。と、窓ガラスを撃ち抜く音が聞こえる。逃げられる!

慌ててたーちゃんが中に入るが、一発撃たれてそれを躱す。しかしその間に罅が入っていたガラスを突き破り、女性は道路に出た。部屋の中に入っていったたーちゃんを追って俺も部屋の中に入るが、急激に胸が苦しくなり、その場で蹲る。

「っ!!」

窓ガラスから銃を外に向けているが、女はすぐに角を曲がってたーちゃんの視界から逃げる。逃した。

「はっ、ちさ、つーさん!?」

ちーちゃんの容態を見ようと振り向いたたーちゃんが、床で蹲っている俺に気づき駆け寄ってきた。

「つーさん! つーさん!! 睦月さん!!!」

そのまま俺の意識は消え去った。

 

ーーーーーー

 

「・・・おぉ、お揃いだな」

「みたい、だな」

目を覚ますと知っている天井だった。ここで寝るのは二度目。リリベルに囚われた後以来だ。横のベッドにはちーちゃんが寝ていて、その奥にたーちゃん、先生、ミズキ、クルミ、アリス。丁度ちーちゃんと同時に目を覚ましたらしい。

 

「眠剤の影響でしばらく怠いかもだけど」

とりあえず、ちーちゃんが投与された薬の影響は命にかかわるものじゃないらしい。

「何された? 山岸先生」

「あの女。急激な高電圧による過充電で、ハードとのアクセスが不可能になった。もう充電もできないよ」

そう来たかぁ。

「単純だけどよ、効果的な最高の破壊方法よ」

体内にある以上、アースを仕込むわけにもいかないからな。孤児院で開発中のなら、高電圧も電磁パルスだって防げる仕様なんだけど。

「まじか。あとどれくらい持つ?」

「幸い、充電直後だったから持って2ヵ月」

「2ヵ月って?」

「動き回らなければもうちょっと持つわ」

「何が二ヵ月!」

「余命だ」

「え?」

「千束の余命」

「ぁ・・・ぁ、そんな!」

「壊れたところを交換でもして!!」

「できないのよ。悔しいけどよ、あたしたちの知識と技術じゃどうにもできないのよ」

「千束の人工心臓に、変わりはないんだ」

「じゃあつーさんが開発中の心臓を!」

「駄目です。元々お母さんの心臓が経年劣化で動かなくなるまでは持つことを想定して基礎を固めて開発しています。今から2ヵ月じゃ、どうやっても間に合いません」

「せめてパーツだけでも!」

「俺たちが開発しているのと、アラン機関が用意したのでは動作方法も原理も違いすぎる。分解して解析すればコピー品なら作れるかもしれないが、ちーちゃんの胸にあるしかないものをばらすわけにはいかない」

「・・・っ!!」

「どこ行くの?」

「あの看護師を始末します!」

「いいからぁ」

「いいわけないでしょう!!」

「いいのよ」

「っ」

「元々、そんな長くなかったんだから。つー君ので延命できるとしたって、移植に失敗する可能性もあった。あいつを殺したとこで、変わんないよ。さ、帰ろう」

「駄目よ。まだ睦月のが残ってる」

ちーちゃんが帰ろうとするが、山岸先生に止められた。え、俺の?

「どうせあんたの事だから、これを言ったってみんなに黙ってるでしょうよ。だからここで言うけど、あんたも後二ヵ月」

「「「「「っ!?」」」」」

「さっき倒れたでしょ。あれ。どうやらリリベルに良くないお薬使われたみたいね。肺がほんの少しずつだけど、機能を停止してる。あんたは元々治癒能力が高いみたいだけど、それよりも機能を停止するスピードが勝ってる」

「そう、ですか」

「生きるのに必要な呼吸ができなくなるまで約2ヵ月。肺の動きが活発になればそれだけ進行が早まるから、あんたも動き回らなかったら、もうちょっと持つかもしれない」

「わかりました」

「わかりましたって、つーさん!?」

「薬で治るようなものじゃないんですよね?」

「そうよ。丸ごと肺を入れ替えないと。それもあんたの仕事を考えると、ドナー提供のじゃなくて人工のあんたに合うやつをね」

「人工かぁ」

心臓に関してはちーちゃんの為に研究が進んでいるけど、肺とかはまた別物だ。これも間に合わないだろうなぁ。

「山岸先生、孤児院には内緒で。アリスも、緘口令な」

「はい、お父さん・・・」

「そんな、千束だけではなく、つーさんまで・・・」

「はぁ。あと2ヵ月でできるだけたーちゃんに技術教え込まないといけないな」

「だね。たきながファーストになってくれたらリコリコも残るし、私達が生きた証も残る。やろうか、つー君」

「そんな! 私の事より二人の事を!!」

「いいの、たきな。私はいつも通り、やりたいことをやるだけだから」

「ああ。元々来年の春には全部教えきる予定だったんだ。それが早まっただけだ」

俺とちーちゃん。同じだけの残りの命。これは偶然か運命か。

 

ーーーーーー

 

「あのパフェやめちゃったの!?」

「たきなが恥ずかしがっちゃってぇ」

結局あのパフェは真実を知ったたーちゃんの高圧力により販売中止となった。代わりに俺考案の和菓子セットが「リコリコセット」の名前で売り出され、なかなかの評判となっている。

「まだ食べてなかったのになぁ」

「・・・オーダー入りましたぁ!」

「あいよ!」

元々食材は普段から使ってたものしか使ってない。だからすぐに作り上げられる。

「まぁたあんた。たきな怒るよぉ」

「いいのいいの。お客さん第一♪」

「常連さんだからな。これくらいはサービスサービス」

と、そこに偶然更衣室からたきなが出てきて目が合った。

「あーっ、ちゃちゃちゃちゃちゃ・・・」

やば、怒られるか? と思ったものの、いつもと違って沈んだ様子のたーちゃんが横を通り過ぎていった。

と急に電話が入った。

「はぁい、リコリコ看板娘」

 

次の日。俺とちーちゃんはミズキの車に乗っていた。

「よくDA行く気になったわね」

「なってない! なんか渡すものがあるから来いって楠木さんしつこいのよぉ」

「俺も一緒に呼び出しって、ほんと何があるんだか」

「お金かな?」

「んなわけないでしょう」

「これで金だったらキレるぞ俺は」

と、後ろからクラクションを鳴らして車間を詰めて蛇行する煽り屋が現れた。でもみんな気にしない。

「たきな、意識しちゃってるね」

「そりゃそうでしょ」

「はぁ、だから言いたくなかったんだよなぁ」

「なのに山岸先生、みんなの前で言いおってからに」

「あんたはいつも通りねぇ」

と、横に並んだ馬鹿がぎゃーぎゃーわめいている。煩いなぁ。

「あー、もう。クソガキ。え、ちょ、待って!!」

ちーちゃんがミズキの前にデトニクス.45コンバットマスターを構える。それを見たミズキは慌てて窓を開ける。後ろに乗ってる俺も窓を開けて、HK.45を突き出す。

PAMPAMPAM

DAMDAMDAM

プラスチック・フランジブル弾と通常弾を食らった煽り屋はバランスを崩して後ろに下がっていった。やーい、ばーかばーか。車に穴も開いただろうし、これで懲りるでしょ。

 

ーーーーーー

 

「じき死ぬにしては元気そうだな」

「耳が早いですね。で、何ですか?」

「DAに戻れ」

「うふっ、あはっ、げほっ」

予想外の言葉にちーちゃんがむせる。

「もう死ぬんでちょっと体調がぁぁ」

「真島が来たそうだな」

「二回会いましたねぇ」

「二度取り逃がした」

「そりゃ私の仕事じゃないんで」

「俺の仕事でもないな。依頼は受けてないし」

「ここに来るのは最後だと思いますしぃ、もっと楽しい話しましょうよぉ。で? 何くれるんですかぁ?」

司令が置いたのは一つのフィルムカメラ。と封筒。このマークは、アラン機関の?

「! なんで楠木さんがこれ持ってるの?」

「中身は・・・人工肺の提供か」

DAといいアラン機関といい。情報仕入れるのが早すぎやせんか。

「情報漏洩阻止のため回収していた」

「ずっと探してたのに! どろぼーっ!」

「睦月、お前のはアラン機関から申し出があった件だ。もちろん受けるだろう?」

「いや、受けないよ。アラン機関は理念も目的も行動原理も、何もかもが俺とは合わない。そんなとこから支援を受けるくらいなら、ちーちゃんと一緒に死ぬさ」

「っ・・・。近く、大規模な真島討伐作戦を行う。お前らも参加しろ」

「うっふふ、冗談きついね」

「ただでさえ生い先の短い俺らに、動いて早く死ねって言いたいんですか」

「多くの者が、お前を優秀なリコリスにする為に尽力したというのに、ろくに役割を果たさずに死ぬんだな。睦月も、その提供を受ければ参加しても問題ないだろ」

「私の思う役割は楠木さんとは違うよ」

「俺はアラン機関が嫌いだけど、そうやって一方的に押し付けるDAも嫌いなんですよ。聞けばリコリス襲撃事件の時、リコリスを囮にして大失敗かましたそうじゃないですか。地下鉄の時も俺がリコリスを避難させていなかったら全滅してた。そんなとこの為に自分の理念を曲げるのなんかごめんですよ」

話は終わりとばかりに二人で席を立ち、扉へ向かう。

「話は終わっていない。座れ」

「たきなをここに戻してあげて」

「そしたら考えなくもなーい」

それだけ言い残して部屋を出る。

「あぁこれありがとー」

 

「お待たせぃ」

「あー、つっかれたぁ」

「で? なんだった?」

「んー? 詰まんない申し出と」

「泥棒が自首した」

「なんだそりゃ」

 

同じ時間、リコリコにて。

フキとサクラがたきなに復帰の辞令を持ってきたのを、俺たちは帰ってから知った。

あのキノコ頭、色々企んでやがったな。

 

ーーーーーー

 

悪人を捕縛する任務。

「うん。おわったらったったー。うん? うん。りょうかーい。じゃあよろしくー」

奥でミズキの悲鳴が聞こえる。早く帰ったほうがよさそうか?

「あ、たきな。後ろ」

見ればボーララップで拘束した悪人が二人、立って逃げていた。

「ここお願い!」

「行くぞちーちゃん!」

俺とちーちゃんで追いかける。

少しして追いついて押し倒す。これでおーけい。

「す、すみません。走らせてしまって」

「ううん、向こうのやつらは? 大丈夫?」

「はっ!」

「あぁ、いいよいいよ。やっとく」

「アリス、標的の位置再確認して俺のゴーグルに出してくれ」

たーちゃんにしては珍しすぎるミス。

「そいつよろしくね」

「しっかり拘束しておけよ」

俺達を引き留めようとするが、今のたーちゃんにはちょっと任せておけないかなぁ。

「ぁ、走らないでください!」

 

逃げた悪人を捕え切り、クリーナーに引き渡した後突然の雨に降られた俺たちは、橋の下で雨宿りをしていた。そこでちーちゃんの昔話を聞いた。

「だからちーちゃんは非殺傷を貫く。心臓を提供したアラン機関からすればこれほど皮肉なことは無いだろうな」

 

たーちゃんはリコリコに戻ったとき、ミズキと一緒にクルミがアリスシステムを使っても追い切れないアラン機関の、吉さんに関する先生の昔話を偶然聞いてしまい、こう言った。

「真島を捕えれば、千束の心臓についてわかるってことですか」

「やつの足取りが掴めない以上、動きの派手な真島から辿るのが早い。それから、もう一つある。DAの記録をハッキングしていて分かったが、どうやら睦月に使える人工肺をアラン機関が持っているらしい。提供の申し出があったが、睦月はそれを断ったとの記録があった。DAの作戦に参加できるのはチャンスだ」

「断ろうと思ってました」

「何故!? 望んでた復帰だろ?」

「千束と睦月の。最後の二ヵ月だもんねぇ」

「でも私、DAに戻ります。千束とつーさんが生きる可能性が、少しでもあるなら」

「私から二人に言おう」

「いえ、自分で言います。時間をください」

その目はさっきまでと違い、はっきりと輝いていた。

 

ーーーーーー

 

「い~~らっしゃいらっしゃい! い~~らっしゃいませ~~!いらっしゃいへいらっしゃい! へいへいへいへいへいらっしゃい!」

「「じゃかぁしいっ!!」」

今日もちーちゃんは元気。元気すぎて騒々しい。

「あ、ごめん」

「「ったく」」

珍しくミズキと息が合う。にしても今日は暇だ。おかげで閉店後の仕込みを前倒しでできるのは良いことか悪いことか。

「はぁぁ、暇だなぁ」

「ほんと、今日は誰も来ないねぇ」

と、リコリコのドアが開いた。

「! いらっしゃいま、おぉおぉおぉ、お帰り」

入ってきたのはたーちゃん。ところでそれ春先にちーちゃんと買った半袖だけど寒くないの? 今冬だよ?

「ちょっとお話が」

「へ? はぁ、あ・・・?」

「俺も?」

ちーちゃんと一緒に呼ばれたので、座敷に座る。

「何ごっこ?」

「え?」

「え?」

「いやそういう意図で呼ばれたんじゃないだろ」

俺とちーちゃんの前に置かれたのは「あそびのしおり~休暇プログラム~」。おぉ、もくじ、目的、観光順路、食事? ・・・あそびのしおりに目的を入れるのかたーちゃん・・・。

「出かけましょう!」

今から? え、でも仕込みがまだ。

「行ってこい」

先に先生からの許可が出た。・・・何か仕組んでるな? でも悪いことじゃなさそうなので、俺とちーちゃんは急いで私服に着替え、お店を出た。

 

まず来たのはたーちゃんの服を買った複合施設。

「まずはここかぁ。てかさ、寒くない? それ」

流石に真冬に半袖はなぁ。ちなみに俺とちーちゃんはダウンジャケットとかマフラーとか着こんでもこもこになっている。

「これ、千束とつーさんが選んだやつですよ」

「おぉ、夏服だろ。他にないの?」

「ないです」

「秋頃にちーちゃんに声をかけておけばよかったかぁ・・・」

睦月不覚である。たーちゃんの性格を考えれば十分にあり得ることだった。

「よし! 千束さんがたきなの冬version選んじゃるよぉ!!」

そしてたーちゃんを着せ替え人形にする。

「っはぁ♪ やっぱたきないい素材だわ♪」

「だねぇ、ほんと何着ても似合う」

と、たーちゃんのスマホのアラームが鳴った。

「時間です。移動しましょう」

「え、まだコートが買えて・・・」

「時間無いのでこれで!!」

その後もたーちゃんはどこぞのエイシンかと思う程に時間通りに移動したがり、俺たちはそれについていった。ゲーセン、アクセサリー、コスメ、おやつのパンケーキまで。パンケーキなんかは時間が無くて、ちーちゃんが最後口一杯に頬張っていた。

「なんふぇふぉんふぁにいそいふぇふぁわふの?」

「なんでそんなに急いで回るのかって」

口に物入れたまま喋るなちーちゃん。

「秘密です」

次に着いた先は押上水族館。だが。

「あ! あぁ・・・」

入口の前にあったのは「臨時休館のお知らせ」。こういう日もある。

「人生計画通りには行かないもんだよ。よし、たきな。着いてきんさい」

「お、あそこ行くの? 最近行ってなかったよなぁ」

着いた先は隅田公園の釣り堀。俺とちーちゃんがのんびりしたいときはここで糸を垂らす。

「トラブルを楽しむのが千束流だよぉ」

「・・・釣れませんね」

「釣れないねぇ」

「そんなもんだよ」

「楽しいですか?」

「楽しいよ?♪ たきなとつー君と居ればさ」

「俺もそうだなぁ。二人がいると楽しいね」

と、またここでアラーム。

「おぉ、時間ですなぁ」

 

最後の場所へと移動。しおりには「秘密です」とだけ書いてある。こういうサプライズは俺もちーちゃんも大好きだよ。

「結構行くね。どこ行くの?」

「秘密です」

「それもまた楽しいよねぇ」

夕日の中を電車に乗って。こういうのも良い。

 

電車をいくつも乗り継いで着いた先はゆうひの丘。夜景で有名なスポット。

電車の中で夕方だったが、着いた頃にはいい具合に夜になっていた。

「へっくしゅっ!」

「だからコート買えばよかったんだよぉ」

「ほら、俺の着て」

「すみません、でもつーさんが」

「大丈夫、まだ何枚も着てるから」

「私からもだ」

「すみません」

風邪をひかないように俺が来てたコートをたーちゃんに着せ、ちーちゃんはマフラーをたーちゃんの首に巻いた。

「なんか待ってる?」

「雪。9時から」

「っはっは、それでwww」

「計画がたーちゃんらしいなぁwww」

自然現象まで予定通りには行かないって。

「完璧なスケジュールの筈だったのですが」

「っふふ、神様は気紛れだからなぁ」

「今日だけは、やめてほしかったですね」

「なんで?」

「それは・・・」

「DAに戻れるのかな?」

「っ!?」

ちーちゃんのこういう感は鋭い。

「やっぱりぃ。やったじゃんいつ?」

「明日」

「ぶっ、また急だね!?」

楠木さんほんと何と言うか・・・。えー、もっと前に言ってくれたら色々用意したのにぃ。絶対急に言って来ただろあのキノコ頭ぁ。

念願のDA復帰だが、たーちゃんの顔は曇っている。

「嬉しくないの?」

「わかりません」

「そっかぁ。確かに降ったら良かったねぇ」

「はい」

 

「・・・理不尽なことばかりです。そうは思いませんか?」

「自分でどうにもならないことで悩んでもしょうがない。受け入れて、全力。大体それでいいことが起こるんだ」

「ああ。俺だってちーちゃん暗殺の任務を受けた時も。まずは行ってみてやってみて。その結果俺は今ちーちゃんとここに居られる。そんなもんだ」

「それに、たきなの計画は大成功してるよ? 今日はめっちゃ楽しかったぜ」

「ああ。本当に」

「やるな」

ちーちゃんが拳を上げて、たーちゃんがそれにこつんとぶつける。

「やったぜ」

「ほんと、よくやった」

俺とも拳をこつんと。

「はい!」

 

「あ、今日中にDAに連絡しないと」

「うん。ほら行って!」

「あ、これ!」

コートとマフラーを返そうとするが、推しとどめる。

「餞別だもってけ」

「これくらいしか用意できないからな」

「ありがとう。行ってきます」

 

階段を降りるたーちゃんを、ちーちゃんと見送る。急すぎてまだ教えきれてないこともあるけど、あとはたーちゃん自身が何とかするだろう。それだけのことは教えたし、託した。

「あっ」

「おぉ」

と、予報より少し遅れて雪が降ってきた。

「あ!」

雪に気づいたたーちゃんが止まって振り返る。三人目が合って、同時に頷き、同時に踵を返す。またどこかで会うことがあるかもね。それまで行ってらっしゃい、たーちゃん。

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