Recoil of Lycoris and Lilybel 作:小鳥遊 小佳夏
「たきな! たきな!」
「これで、応急処置はできたか」
「はい、これで大丈夫です」
「どんな、感じっすか。結構痛いっす」
「ちょっと血が出てるが、死ぬほどじゃない。たきなが庇ってくれたから」
「こんなところで、庇わなくても・・・」
「おいサクラ! 司令部!!」
「たきな!! 答えてよぉ」
「手榴弾を庇ったんじゃ・・・」
「こんな、こんな・・・」
周りが騒がしい。少しずつ意識が戻ってくる。
「っ、うっ・・・」
ゆっくり起き上がる。大丈夫、まだお腹が死ぬほど痛いけど、でも大丈夫。
「たきな!? 大丈夫!?」
「お前、なんで!! 手榴弾に覆いかぶさったら制服程度の防弾じゃ!」
「いつものなら、そうでしょうけど。これはつーさんが、用意してくれた、特別製、なので・・・」
「お父さんのボディーアーマーは50口径でも防ぎますから」
まだ言葉がうまく出ない。壁に寄りかかって自分の状態を見ると、リコリス制服に大小の穴は開いているが、表地と裏地の間のボディーアーマーには破片が刺さってるだけ。つーさんが言ってた通り激痛が走ってるけど、鎮痛剤を飲めば落ち着くはず。
「サクラは?」
「アルファワン了解。お前のお陰で一命はとりとめてる。下に降りたら救護班が待機しているから、問題ないはずだ」
鞄から鎮痛剤を出して飲む。これで少しすればいつも通りに動けるはず。その後上に戻って千束とつーさんを援護しない、と?
急にガクンとエレベーターが止まり、明かりも消えた。
ーーーーーー
まーたこいつだよ。しつこいねぇ。半ば呆れつつ、ちーちゃんと柵に寄りかかる。
「これで暫く俺達だけだ。うぜぇハッカー共も電気が無けりゃ何もできねぇだろ?」
「何の用。もう終わったでしょ」
「終わってねぇ」
懐から取り出したスマホ。真島がタップすると時間が減り始めた。
「今度は何」
「この塔がここに建ってる残り時間だ」
「また爆弾か好きだねぇ」
「両方壊してバランス取ろうっての?」
「よくわかってんじゃん。確かに俺の仕事は終わった。いくら隠蔽しても、人々の疑念の種は育ちやがてDAを滅ぼす」
「あっそ、ならもう満足でしょ」
「お前らとの決着がまだだ」
「それもさっきついた」
「負け惜しみだろ。しつこい男は嫌われるぞー」
「はっは、相棒抜きで頼むよ!!」
真島がKRISS Vector、をこちらに向けるが、それよりも前に大雑把に狙いを定めたデトニクス.45コンバットマスターとHK.45が火を噴く。
PAN PANPANPANPAN
DAM DAMDAMDAMDAM
10発のプラスチック・フランジブル弾が真島の胴体に命中。これだけ食らえば動けんだろ。
だが真島はふらつくふりをしてこちらに走り、俺とちーちゃんがC.A.R.Systemの構え、目の前に銃を構えて発砲しようとするが、その前に首を掴まれて柵に押し付けられる。
「これでさっきの負けはチャラにしてやるよ」
「いぃ服。高かったんじゃないの?」
「衝撃も防ぐ防弾か。誰から貰った?」
「ははっ、ヨシさんの贈りもんだ!」
「「っ!!」」
二人で両側から真島の側頭部を殴りつけ、ちーちゃんが膝蹴りを入れ、俺が弾倉に残った弾を全て真島にばら撒く。即座に体勢を立て直した真島がKRISS Vectorで狙ってくるが、反動が少なく弾が暴れないから射線は読みやすい。二人で危なげもなく躱す。真島に近い位置に居るちーちゃんが更に蹴りを叩き込んで距離がつき、互いに発砲しつつ後退。距離を取る。
「お前らは黒い方ほど射撃がうまくねえな。よく狙え、足とかがいいんじゃないか?」
いつもなら少なくとも俺は狙えるんだが、な。肺からの酸素交換ができてないせいで、アーマーの補助でも追いつかないくらい、体が鈍ってきている。
「そうかよっ!」
「余計なお世話だっ!!」
ちーちゃんが横に寝転がり、足元を狙おうとする。しかし真島は柵の上を走りちーちゃんの弾丸を躱し、反撃の一斉射。転がることでそれを躱したちーちゃんは柵を飛び越える。その間にマガジンを交換した俺は後ろから真島を追いかける。
柵をちーちゃんと同じように飛び越えた真島にちーちゃんが至近距離から一発加えようとするが、躱され逆に手榴弾を投げつけられる。
「うぉおいおいおいおい!」
「ちーちゃん!」
慌ててボーララップの片側を掴んで射撃。ちーちゃんが飛んできたほうを掴むのを確認しつつ、体を巻いて一本釣りの要領でちーちゃんの体を引き寄せる。手榴弾が爆発して煙が起こるが、その間にちーちゃんは俺にひかれて、爆発したのとは反対側に着地。そのまま下が見えるようになっているガラスの上を走りつつ真島に接近。真島の目の前に出て引き付けると同時に、俺も逆側から真島を挟み込む。
PANPANPAN
DAMDAMDAM
互いに一発が命中するも、急に息が苦しくなってたたらを踏む。ちーちゃんも同時に心臓の電圧が下がったのか、柵の上に着地しようとしたのを踏み外し、勢い余って外側のガラスに激突する。俺もまともに止まれず、勢い余ってちーちゃんの横のガラスに激突した。
「はっ、はっ」
「ふっ、ふっ」
互いにまともな呼吸ができず、その場に座り込む。
「こんな、ときに。もうちょっとがんばんなさい」
「もうすこし、持ってくれやぁ」
二人共動けない。真島がKRISS Vectorを一斉射し、隣にあった自販機をぶち壊した。
「どっちも良くねえ音だ。休憩だ」
なんか気を使われたみたいで癪だがありがたい。俺はマスクをつけ、強制的に酸素を体に送り込んだ。
「一体何がしたいんだよ」
「これだよ」
「どれだよ」
「命がけの勝負。俺が唯一恐怖を感じたやつとのな」
「・・・ここを壊したいんじゃないの?」
「それだけならすぐやるさ。調子悪いお前らとやり合ってもつまらん。まだ死ぬな」
「とりあえず時計止めなさいよ」
「そりゃ駄目だ。モザイクなしの現実を見せないとなぁ」
「何それ」
「どうせ爆発事故で片付けられるってのに、頑張るねぇ」
「俺は世界を守ってるんだぜ? 自然な秩序を破壊するお前らからなぁ」
「壊してんのはあんたらテロリストでしょうよ」
「そう。お前らが壊すから俺も壊す」
盾に重ねた缶をぶち壊す真島。
「バランスをとってるだけだ。DAが消えれば俺も消える」
「果たしてどっちが先なんかね」
「渋々悪人を演じてるって言うの?」
「悪者やってるつもりはねえよ? 俺はいつも弱い物の味方だ。もしDAが劣勢なら、俺はお前らに協力するぜ」
「あんたですら自分を正しいと思ってるのね。ほんとの悪はやっぱ映画の中だけ、か」
「だから映画は面白いんだろ? 現実は正義の味方だらけだ。良い人同士が殴り合う。それがこのくそったれな世界の真実だ」
「みんな、自分が信じた良い事をしてる。それでいいじゃん」
「良くねぇ。自然なバランスが」
「うぉおお。やっべ、これめっちゃうまい」
「マジ? 頂戴」
「はい、つー君」
「うぉ、マジだうめぇじゃん。ちょっと飲んでみ?」
ちーちゃん経由で新品を渡す。飲みかけなぞ手前に渡すか。
「あ? おぉ。・・・ちょっと甘すぎねえか?」
「世界を好みの形に変えてる間に、お爺さんになっちゃうぞっ」
ちーちゃんが立ち上がった。やるか。俺もマスクを外して立ち上がる。
「今のままでも好きなものはたくさん。大きな町が動き出す前の静けさが好き。先生と作り上げたお店。コーヒーの匂い。お客さん。町の人。美味しい物とか綺麗な場所。仲間。一生懸命な友達。最後まで私に付き合ってくれようとするつー君。それが私の全部。世界がどうとか知らんわ」
「俺もだな。孤児院。仲間。それからずっと隣に居たちーちゃん。特にちーちゃんについてくのがやっとで世界の事なんか気にしてられるか。ってちーちゃん言いすぎだ俺が言うもんが無くなったろうが」
「こんなとこでまで惚気合ってんじゃねえよ、口の中だけじゃなくて空気まで甘くならぁ。つかちっせえなぁ、手前ら志はねえのかよ」
「ありますよぉ、私を必要としてくれる人にできることをしてあげたい。そしたらその人の記憶に私が残るかもしれないでしょ。居なくなった後も」
「最初は俺がその役目だと思ってたんだけどな。まさか一緒に覚えててもらう側になるとは思わなかったよ」
「ふふっ、で、お前らを必要とする最後の依頼人が俺ってわけだ」
「そうね、それはほんとにくそったれ」
「お前に覚えててもらっても嬉しくも何ともないもんなぁ。ちーちゃん」
「あいよっと」
残り15分。俺もちーちゃんもそんな時間フルに動き回れるだけの体は残ってない。だから、俺はHK.45をちーちゃんに渡し、ちーちゃんを背負う。
「お、それだと本当に支えてるって感じがするなぁ」
「こうなる前にお前が倒れてくれたらよかったんだけど」
互いにマガジンを装填する。
「日本のバランスを取り戻す奴と現状を維持するやつとそれを支えるやつ。正義のヒーローはどっちだ?」
「ビルから落ちなかった方じゃない?」
PAPAPAPAPAPAPAPAPA
DAMPAN
俺がKRISS Vectorの射線を読んで躱すほうに動く。それに合わせてちーちゃん牽制射。もう組んで10年になる俺とちーちゃん。いつも一緒だった。いろんな任務で一緒だった。だから、互いにどう動きたいか。どの距離からなら当てられるか、どこに行けば撃ちやすいか。全てわかり切ってる。
10分間互いに撃っては躱し続けた。良いところまでは行けるが、あと一歩追い詰められない。そしてここで時間切れ。思ったよりも長く動けたが、俺がまた動けなくなった。
「ちーちゃん!」
「つー君!!」
最後の力を振り絞ってちーちゃんの足場になる。ちーちゃんは俺の手、肩を踏み台にしつつ真島に突っ込み、弾切れを起こした真島の懐に入り込んだ。俺はちーちゃんが蹴った反動で下が見えるガラスのところに落下、球状になっているガラスの上を滑り落ちた。
ちーちゃんは背負い投げのように真島の懐に入り込み、あごの下からプラスチック・フランジブル弾を叩き込もうとするがミリの差で躱され、でも胸ポケットのスマホを引っ張り出すことに成功。勢いで飛んでいこうとするスマホを追いかけようとするが、髪を掴んだ真島がそれを阻止する。
「あっ、ぐぅ」
DANDAN
キアッパ・ライノでちーちゃんを狙う真島だが、いつも通りにちーちゃんが躱す。そのまま床に落ちたスマホを取ろうとするが、真島が横に蹴り飛ばしまた距離ができる。
互いにスマホを追うように平行に並んで走り、至近距離で一発ずつ撃った弾は、ちーちゃんのプラスチック・フランジブル弾だけが命中。残り、1分。
「このおおおおっ」
「ぐぬぬぬううう」
「勝負に集中しろよ」
「止めろ時計」
スマホの上で掴み合いになっていたが、真島がまたスマホを蹴飛ばして、俺が倒れている下が見えるガラスの方に飛ばす。慌てて真島を押しのけスマホの方に向かうが、背中から真島に撃たれる。
「がっ、でもおっ!!」
「お前にはがっかりだ」
でもその制服は普通のリコリス制服じゃない。俺が長い間かけて、ちーちゃんが被弾しても大丈夫なようにと改良に改良を重ねたボディーアーマーが仕込んである制服。だから貫通もしなければ血も出ない。激痛が走るけど、それだけだ。
「ポンコツは一つで十分なんだ・・・」
痛みの走る左肩に構わず、スマホに一歩一歩近づくちーちゃん。もう少し。だが無情にも半分宙に浮いていたスマホはバランスを取り切れず、そのままガラスに落下、俺が手を伸ばすも届かずに穴から空中に落ちていった。
「ぐっ」
うつ伏せのちーちゃんに真島が足を乗せる。
「俺も残念だ、こんな形で終わるとは」
と、新たな足音。
「千束!! つーさん!!」
たきなが来た。不意に声のした方に目をやると、さっき撃たれたときに落としたと思われる、HK.45。この距離なら届く!!
転がるようにして必死に腕を伸ばし、掴むと同時に真島に向けて射撃。命中。
「ぐおっ!?」
衝撃でちーちゃんを押さえつける力が弱まり、ちーちゃんが転がるようにして反転しつつ真島の襟首を掴んで諸共下が見えるガラスの上に落ちる。
衝撃で元から罅が入っていたガラスに更に罅が入る。こりゃ持たないかも。でも真島を押さえつけられるならそれでも!
PAN
立ち上がろうとする真島にちーちゃんのデトニクス.45コンバットマスターから放たれたプラスチック・フランジブル弾が叩き込まれる。もう腕に力が入らないのか、反動で腕が跳ね上がり、重力で落ちて狙いが定まったら射撃。そしてまた腕が跳ね上がるのを繰り返す。
その時真島に、あの時の、電波塔の時の光景が蘇った。少女の赤い目が残像を残して左に走る。
最後にちーちゃんが撃ったプラスチック・フランジブル弾が真島の頭を直撃し、こちらに滑り落ちてきた。さぁ、いらっしゃい。俺は力を振り絞って真島の上に乗り、逃げられないようにする。
「つー君、やれえええええええええ!!!」
「真島あああああああああああああ!!!」
両手のナックルを起動。
「ぐっ、がっ、あがぁっ」
右、左、右と三発殴り、壊れて垂れていたワイヤーを首に巻き付け、首を持ってガツン、ガツンとガラスにぶち当てる。そして真島に、更にあの光景が蘇る。少年の、少女と同じ赤い目が、右に流れる。恐怖を感じた次の瞬間。
「らあああああああああああああああ!!!!!」
勢いよく真島をぶち当てられ続けた衝撃に耐えきれず、ガラスが崩壊。俺と真島、ちーちゃん諸共空に投げ出された
「悪いちーちゃん。俺達はここまでみたいだ」
「いいよ、つー君と一緒なら悪くはない」
声は聞こえないが、そう目で語り合った。
延空木の中を見ると、たーちゃんが必死に残っているガラスの上を走っていた。ボーララップの片側を掴み、ちーちゃんに向けて射出。うまい具合にちーちゃんに絡みついた。たーちゃんはガラスを上に駆け上がり、柵を掴むとワイヤーを肩越しに引っ張るようにしてちーちゃんを支えた。よし、これならちーちゃんだけは助かるか。
「うぐううううあああああああああ!!!」
ちーちゃんの重量が全て肩のワイヤーに掛かり、あまりの圧力に叫び声が出るが、決して離さない。そのまま頼む。
「お父さあああああああああああん!!!」
と、横から何かがぶつかるようにして俺をキャッチした。アリス?
「全員、無事に帰るんです!!」
ははっ、俺も助かっちゃったか。ならもう少し、生きてみようか。
下を見ると、ワイヤーか首から解けた真島が落下していた。あばよ、真島。後から行くから、先に行って待ってろや。
そしてタイムアップ。結局俺達は延空木の爆破を食い止められなかった。と思ったのだが。
爆音がして空が明るく染まる。次々に上がる花火が夜空を彩り、延空木の完成を祝った。
「ふざけやがって」
「あの野郎」
俺とちーちゃんのぼやきが夜空に舞った。
ーーーーーー
私は任務で宮古空港に来ていた。ある人物の襲撃。ターゲットは二人。片方が15時から休憩に入るので、その時を狙う。二人組だと相手にできない。片方ずつやらないと。
タクシーで橋を渡り、地元の人に道を聞いて目的のカフェを目指す。思ったより時間がかかり予定より少しの遅れを出したが、問題はない。カフェ近くの森に入ると、中を歩いているターゲットを見つけた。どこで襲撃するかタイミングを探りつつ、木の陰に隠れるようにターゲットを追っていると、ターゲットが足を止めた。気づかれた?
「!」
ターゲットがいきなり走り出したので牽制射を一発だけ入れ後を追う。撃ち返された弾を躱し、平行に走りながらターゲットと銃撃戦に入る。
PANPANPAN
DANDANDAN
互いに命中弾が出ないまま走り続け、互いに木の陰に入って息を整える。そして同時に木の陰から体を出し、ボーララップを発射。
「うおっ」
「なっ」
ワイヤーが体に巻き付き、お互いにぴょんぴょんとジャンプしないと動けなくなった。
「た、たきなぁ!?」
「なんで逃げるんですか!」
「いや撃ってくるからだろぉ!」
「逃げる、から、でしょっ!」
跳ねてるうちに体がぶつかった。
「一発肩に当たったろってぇなぁ!」
「鈍ってる、証拠ですよっ!」
もう一回、今度はどんと互いに体をぶつけあい、反動で転んだ。
「声かければいいでしょー!」
「そんな訓練はしてないんで!」
「アホかぁ!」
「アホはそっちでしょぉ!」
「・・・何やってんの、二人共・・・」
様子を見に来たらしいつーさんが呆れた顔でこちらを見ているのに気が付くのはもう少し先の話。
なんか銃声が聞こえたのでHK.45を持ってちーちゃんの応援に来たら、たーちゃんが居て互いにボーララップのワイヤーで拘束されてたでござる。とりあえず二人のワイヤーを解いたのだが、逃げるなとたーちゃんにきつーく念を押されてしまい、そのまま二人で縛られてその写真を先生に送られた。なんでや。
写真を撮るだけ取ったら縄は解かれ、俺とちーちゃんがやっている喫茶、リコリリに行くことになった。
早々に店仕舞いをし、特製のジュースを三人分作ってたーちゃんが座ってるテーブルに運ぶ。たーちゃんは夕焼けに染まる海を見ながら黄昏ていた。
「お待たせ。お店一押しのブルーハワイフロート」
「綺麗でしょ。ジュースも景色も」
「海の色が」
「凄いよねぇ」
「ここからの景色も好きなんだ」
「何故ここがわかったん?」
「クルミとアリスが」
「ここにはネットもカメラもないのに?」
「見つからないように、わざわざそういうところを選んだ筈なんだけどね」
たーちゃんが出したスマホの画面には一枚の写真。
「お、沙保里さん。彼氏と続いてるのね」
「それは良かった・・・あれ?」
「・・・まさか!!」
沙保里さんは彼氏との写真の後ろに銃取引の現場が写ってストーカーに襲われていたのを俺達が助けた人。もしかしてと思って背景を拡大すると、白いワンピースに麦わら帽子のたーちゃんと、アロハシャツに短パン、サングラスをTシャツに掛けた俺が風を浴びながらぐるっと楽し気に周っているのが写っていた。
「たぁぁ、沙保里さんそのうち宇宙人とか撮っちゃいそうだな」
「まさかこんなので場所がばれるとは・・・。流石に考慮しとらんって・・・」
バレ方が何とも言えなくて悲しくなってくるわ。
「ってか、驚かないのね」
「何がです?」
「幽霊かもしれないぞぉ?」
「触ってみたら、冷たかったりして」
「元気そうで何よりです」
その反応。
「知ってたな貴様」
「さぁ詳しく説明してもらおうかたーちゃん」
「私は」
「俺は」
「「なんで生きてる?」」
本当ならとっくに死んでるはずなのだが。余命を過ぎてもまだまだ生き続けていた。しかも俺はどれだけ動いてもマスクを必要とせず、ちーちゃんも同じく動いても電圧の機器の動作不良が起きない。
「その前に。なんで消えたんです?」
「だぁってぇ。気づいたら病室でつー君と寝てるし。なんか手術されててめっちゃいてえし」
「俺も同じで、気づいたら横にちーちゃんが居るし、手術された後あるし、痛いし」
「「こりゃもう死ぬなと思って」」
「だからってなんで逃げるんですか」
「だぁって湿っぽいのやだし動けるうちにいい場所探そうかと」
「ちーちゃんがそうしたいならついて行くのが俺だし」
たーちゃんからのジト目が痛い。
「! 見て!」
「ああ、もうこんな時間か」
見ると丁度夕日が水平線に沈もうとしている。
「この時間が一番好き」
「毎日これを見るために頑張ってる感じあるよなぁ」
しみじみ。
「で? そっちの番だ。どういうこと? 白状したまえ」
「店長から預かってきました」
出されたのは四角い箱が二つ。
「あの後、店長が吉松のケースを持ってきたんです。心臓、肺と一緒にそれが入ってたそうです。そういうわけで、あなた達は死にません。ちなみに執刀医は孤児院の外科医さんなので、つーさんが孤児院の子達に黙って死のうとしたことも、その後助かったことも全てバレています」
やめろ、怖くて孤児院に帰れなくなる。
ちーちゃんの箱を開ければ、「HAPPY NEW BIRTHDAY」の文字。
「ヨシさん・・・。普通、入れないよね?」
「普通は」
吉さんは自分の中に心臓と肺があると言っていたけど、いくらちーちゃんに殺しをさせるためとはいえ、普通はそんなまどるっこしいことはしない。が、普通はである。吉さんならやりかねない。そんな思いが三人の中に走っていた。
「やってくれるなぁ、ヨシさん。あ・・・」
折られた紙を開けると、中には何も書いてなかった。普通は何か書いてありそうなもんだけど。
「? ・・・うえっ」
もしかしたら他に何かあるのかも。そう思ったちーちゃんが下の緩衝材の中を探すと、梟のアクセサリーが出てきた。
「おい待て、まさか・・・噓ぉ」
俺の前に出された箱も開けると、こちらには紙が入ってなかったものの、緩衝材の中から梟のアクセサリー。
「っえい!」
「うぉりゃぁ!」
俺とちーちゃん、二人で梟のアクセサリーを海に投げ捨てる。
「良いんですか?」
「ちょっと迷ったけどねぇ」
「俺は迷いもなかったわ。あんな呪いのアクセサリー」
「つーさんほんとアラン機関嫌いですね」
「私はなぁ。めっちゃかわいいまで言われてたし」
「・・・誰にです?」
「え。・・・えー、お前だお前!」
「私? 言わないですよ恥ずかしい」
「いや言ってたよ、水族館の時に」
「たきなぁそういうとこだぞぉ!」
ちーちゃんがたーちゃんを抱きかかえる。
「知らないですよ!」
「いぃましたぁ!」
「うわぁあ!?」
抱えたままぐるっと回ったちーちゃんだったが、砂浜に足を取られたのかすっころび、二人して海にドボン。
「何するんですか!」
「ちょっと二人共、大丈夫?」
「何しようかぁ。これから」
二人共、もう少しだと思ってた寿命が一気に延びちゃったんだもんなぁ。
「諦めてたことから始めてみたらどうですか?」
「いいね、それ」
「じゃああれか。まずは海外でも行くかぁ!」
「行っちゃおうか!」
いきなり立ち上がったちーちゃんが踵を返して走り出す。俺はたーちゃんの手を引いて立ち上がらせる。
「うえぇえ!?」
「よし行くぞ相棒!」
「おう!」
「え、ど、どこへ!?」
「「ワイハだワイハぁ!!」」
ところでその日はもう遅いので泊っていくことになったたーちゃん。落ち着いたところで気になったのだが、制服の色が変わっている。
「ちゃんと昇格できたんだ」
「はい、お二人のお陰で試験は合格、延空木の件で成績も十分とのことで」
「はぁ、私が死んだ後もリコリコを残せるようにと思って仕込んでたんだけどなぁ。これでうちもファーストが三人の支部になったかぁ」
「俺はカウントしていいのかわからんけどな」
ーーーーーー
「Enjoy!」
「カフェオレだ」
「はい」
電話が鳴っていたので私が出る。
「はぁ~いカフェリコリコ」
『楠木だ、元気そうじゃないか』
「はぁその説はどうもぉ」
『仕事の話だ、ミカに代われ』
「あぁぁ、残念ながら、仕事は受けられませぇん♪ なぜならぁ、今ハワイだからぁ♪ パスポート? んな野暮なこと聞かないでくださいよぉ。ちゃ~んと戸籍取ってますからねぇ。あ、リリベルけしかけないでね」
電話を切る。迷惑電話だった、もう。
「誰ですか?」
「え? 千束のファンからぁ♪」
・・・。
「なんだよ」
その目は。
「どうせまた変な人でしょ」
それは合ってるね。変な人だった。
「そう言えば、つーさんはまだ?」
「確か今日帰ってくるんじゃなかったっけ?」
「大変でしたね、ほんと」
「隠してたからねぇ。その分泣きつかれて滞在が伸びて、ようやく振り切ったらしいけど・・・あ!」
車の近くを戦闘機が通り過ぎた。背面飛行で、こっちに手を振っている。
「つー君だ!」
「確かヒッカム空軍基地に降りる予定ですし、今日中には合流できそうですね」
「久々につー君と寝れるなぁ。最近寝る時がなーんか寂しかったから」
「煩くしないでくださいね。皆いるんですから」
「わかってるよぉ、だ」
「千束ぉ、凍えたペンギン」
「おぉ、待ってましたぁ!」
夜になって。つー君が久しぶりに私達と合流した。
「なんで着替えたんですか?」
「これがワイハの迷彩服だろたきなも着ろよ」
「あながち間違ってないのがなぁ。俺はアロハシャツで十分そうで良かったよ」
「あ、つー君。お土産後でね」
「おう、食材から色々持ってきたからな。後でヒッカムで回収だ」
「「お待たせ~」」
やっとたどり着いた。さて、依頼人はと。
「「Hi,are you trouble?」」
水着にハイビスカスの花をつけたちーちゃん。アロハシャツにサングラス、ストローハットに短パンの俺。
「浮かれてんじゃねーぞ手前ら」
別に浮かれてないも~ん。