Recoil of Lycoris and Lilybel   作:小鳥遊 小佳夏

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Take easy does it

朝早く。日の出は過ぎたけど、まだみんなが動き出さないそんな夜明け過ぎ。

私はカーテンを開けて、太陽の光を体いっぱいに浴びる。

「今日も天気で私は元気。ありがたい」

ぐいーっと体を伸ばすと一気に血が巡って体が冴える。

フェンリルさんが作ってくれたホットサンドは既に体の中に。いつもの制服に着替えて、今は食後のコーヒーが落ちるのを待っているところ。朝はやっぱりコーヒーだよね。つー君は体質的に某飲料メーカーのコーヒーしか受け付けないらしいけど。人生損してると思うけど、コーヒーを飲んで体調崩しているつー君を見たことあるのでまあ仕方ないかなと思う。

pipipipipi

携帯がなる。あれ、先生だ。

「はーい、おはよ、せんせ」

電話に出ると、いつもの先生の声がする。

『千束、すぐにきてくれ』

えー。

「え~。まだ約束よりだいぶ早いんですけどぉ?」

『トラブル発生だ。それも睦月が行ってる現場でな』

「それを先に言ってよ先生!!」

もうちょっとでコーヒーが落ちきるところだが、つー君がかかわってるとなれば話は別。場所を聞いた私は、リコリスの鞄を持ち、バイクに・・・ってそうだ。今日はつー君が乗ってってるんだった。足がないので自分の足で走ることにした。あー、もう。汗かいちゃうよこれじゃぁぁ。

ビルの影はまだ暗い時間。人がまだいないこの時間。大きな町が動き出す前の、静けさが好き。ついでにつー君がいてくれると、もっと好き。そんな街を走り抜けて、私はつー君の元へと急いだ。

 

ーーーーーー

 

銃千丁の取引。それを襲撃する任務。いつも通りにこなして簡単に収まるはずだったのだが、そうもいかなくなった。

「そもそも銃の箱すらまともにないのに。こりゃラジアータ、しくったな?」

おまけにリコリスが一人しくじって人質になっている。幸いにも俺は残りの商人の後ろに着いてはいるものの、三人に対してこちらは一人。手数に不安がある。商人の正面にはリコリスが3人。ファーストが一人とセカンドが二人。

「先生、そろそろ行かないとやばいんじゃない?」

『わかっているが、千束を待てとの命令だ』

「あいよ、了解。ただ本当にやばくなったら出ますからね」

指揮権がこちらにあれば、俺が指示を出して不意打ちからの襲撃とリコリス、あと先生の狙撃で片付けるんだが、今回指揮権を持ってるのはファーストリコリスのフキ。あの堅物のことだ、司令が指示を出さないとこちらに指揮権は渡さないだろうし、司令の指示なく動けないだろう。

実際、増援を待つというのは悪い手段じゃない。俺と商人の距離は50mもない。だが手数に不安なら手数を増やすのが最もわかりやすい回答だ。しかもそれが最強のリコリスであればなおさら。ちなみに、そんな距離に居て声出してばれないのかというと、骨伝導マイクを使って喉を震わせて声を出さないでいるのでばれてなかったりする。科学の力ってスゲー。

「司令部、こちらアルファ1。私達でやれます、射撃許可をください! 司令部・・・司令部!!」

なお、普通のインカムで叫んでいるフキの声は丸聞こえ。興奮してるのはわかるけど、声抑えなさいよ。一応こちらの通信にも声はいるようになってるけど、イヤホンと外の両方から同じ声が聞こえてきているのが現状である。

って、イヤホンから雑音。通信がダウン? いやジャミングか? まあいい、上との通信が途絶したなら、プランBと行こうか。

「アリス、一応バックアップに切り替え」

『はーい、バックアップ回線に切り替え・・・完了!』

こんなこともあろうかとじゃないけど、俺と先生の間にはDAを介さない独自の回線を準備してある。二重三重のバックアップは大切だ。

「オーケー。先生、上級司令部との接続が遮断されたため、以後は独自の判断にて行動する」

『っ、はぁ。わかった、で、私はどうすればいい?』

「先生から見て一番手前のを頼みます」

『わかった。うまくやれよ』

 

「さっきからごちゃごちゃ何言ってやがる!! 10秒だ、そこから出てこい。こいつぶっ殺すぞ!!」

興奮した商人が最後通告を突きつける。ちーちゃんも近くまで来ているらしいけど、この状態じゃ来るのは間に合わない。5で出て、2で左を射殺。右は先生に抑えてもらって、真ん中の持つ銃を制圧しつつ押し倒しておしまいにしよう。

『先生、何階だって?』

『6階だ、急げ。もう睦月が動くぞ』

「ちーちゃん、あと5秒で来ないと終わらせるぞ」

ちーちゃんからの通信が入り、階段を駆け上がっている音が聞こえた。これならプラン修正して、いけるか? いや間に合わないか。

「9、8、7、6、5」

カウントが5になった瞬間に陰から飛び出し、一気に商人に接近する。履いている靴は潜入用の消音シューズのため、走り出しても商人は気づかない。そしてHK.45を構え左の商人を射撃しようとするが。

『睦月戻れ!!』

先生からの通信と同時に目に飛び込んできたのは、黒いロングヘアーのセカンドリコリスが構えたPKM。いや待て待て待て!!!

慣性を無理矢理押し殺し、即座にバックステップを取って物陰に戻ると同時に、左手の手首のボタンを押して、左手前腕に付けている装置を起動。すると車のエアバッグが開くように中から黒いクッションが出てきて体を覆う。できるだけその中に体を収めるように身をかがめると同時に。

DADADADADADADADADADADADADADADADADA

7.62mm弾の暴風雨。当然のように柱や壁のコンクリートを粉砕し、窓ガラスも粉粉にして、破片が外に舞い散る。エアバッグに弾丸が当たる感触が何回もするも、DAがリコリスに配布しているのよりも強い防弾材を使って作ったため、貫通はしない。

その銃弾の嵐がやんだ時には、穴だらけの商人と無傷のリコリス。そしてため息をつく俺が残されていた。

 

ーーーーーー

 

『終了だ。睦月と一緒に出勤でいい。一応睦月に怪我がないか見てやってくれ。あと家で汗流してこい』

『は~い。じゃあ下に降りてますね~』

「俺は大丈夫ですよ、先生。しかしあのセカンド、無茶しやがって」

流石に窓ガラスが上から落ちてきたとなると警察が出張ってくる。それに遭遇しないうちに、持ってた装備を肩掛けの鞄にしまい、非常階段を降りる。

今回の任務は銃がどこにも見当たらず、証言出来そうな商人は死人に口なし。まあ失敗だろうなぁ。

「報酬出るといいなぁ」

銃弾の嵐の中にいたことで、少しメンタルに来ているものの、ちーちゃんに遅れること少し。1階にたどり着いた。

「お疲れ様、つー君。ごめんね、間に合わなくて」

「でも急いでくれたんだろ。それにああなるんなら来なくて正解だった気がするよ。でもちーちゃんも足あったほうがよくない? あったら間に合ってただろうし」

「いいの。私はつー君と一緒に乗りたいんだから」

ビルの裏に止めてある大型バイクのボックスに装備をしまい、ヘルメットを一つちーちゃんに渡す。もう一つは自分で被り、バイクにまたがる。

「よいしょっと。いいよ、つー君」

「オーケー、振り切るよ」

エンジンをかけ、パトカーが来ない方向へ走り出す。まずはいったん家に帰らないと。

「えへへ~♪」

「どうした、ちーちゃん?」

後ろから抱き着くようにしてしがみつくちーちゃんの声が楽しそう。

「やっぱり私はこうやって、つー君の後ろにいるのが楽しいなって」

「そっか。じゃあもっと飛ばすか!」

「やっちゃえ、つー君!!」

ビルの影はまだ暗い時間。人がまだいないこの時間。大きな町が動き出す前の、静けさが好き。ついでにちーちゃんがいるともっと好き。そんな街中を二人で走り抜けた。

 

ーーーーーー

 

千束、ちーちゃんに協力してもらってリリベルを抜けた後、俺は喫茶Lyco Recoに身を寄せていた。そこはDAの支部で、DAの任務だったり、独自に受けた任務を遂行することで報酬を得る。そして平和に貢献する。受けるのは任務だけじゃない。社会奉仕の一環として、日本語学校での教師役、保育園のお手伝い、警察の外部協力などなど。様々な、殺しじゃない仕事をリコリコは受ける。それから喫茶の通り、喫茶店も開いている。和菓子、洋菓子、コーヒー、お茶。なんでも出す喫茶店で、地元の人愛好の知る人ぞ知るみたいなお店になっている。カバーストーリーみたいなので開いた喫茶店のようだが、今はこちらも大事だ。

俺はリコリコに拾われた後、喫茶店の店員として。また任務をこなして生活していた。住居はリコリコではなく、ちーちゃんが住むマンションの隣の部屋の上下合わせて3フロアを買い切り、ぶち抜いて基地としている。なんでここまでぶち抜いたかというと、コンテナハウスのものを移しきるのにそれだけ必要だったから。空になったコンテナハウスは爆破して撹乱に使った。ついでに隣の部屋ともぶち抜いてつなげた結果、ちーちゃんとは半ば同棲みたいな感じになっている。というのも、小さいころから一人で暮らしていたちーちゃん。寂しい時もあって、そういう時に一緒に居たらじゃあもう一緒に生活しようよってことになり、キッチン、居間、寝室などを共有することになった。それが未だに続いているのだ。昨晩もぎゅーっとしながら寝た。ちーちゃん、良い感じにあったかくてやわっこくて安眠できるんだよね。ついでに小さい頃は今よりももっと寂しがり屋のちーちゃん。お風呂なんかも一緒に入ってたし、今結構頻繁に・・・うん、この話はよそう。

ああ、このちーちゃん呼びも小さい頃に互いに付け合った渾名で、今は俺とちーちゃんの絆の象徴みたいな感じかな? ちなみにちーちゃんは俺のことをつー君と呼ぶ。むつきのつから取ってつー君らしい。それにあともう一個繋がりを表すのが俺の名字。元々名字がなかった俺だけど、それじゃあ不便と言う事でちーちゃんが付けてくれた名字が錦木。ちーちゃんと同じ名字。ずっと一緒に居ようねって約束も一緒に交わしたりした。当時はそこまで考えなかったけど、なんか結婚したみたいでちょっと恥ずかしさが無いとは言わない。実のところちーちゃんも同じようで、当時の話をすると顔を真っ赤にして

「その話はもう辞めよう」

と必死に止めてくるのがまた可愛いところである。

なお、二人とも炊事掃除洗濯は面倒なのでほとんどやらない。じゃあ誰がやってくれるかというと、アリス。機械だからか、ちーちゃん曰く宮廷料理長よりもご飯がおいしいのだとか。俺もちーちゃんも料理ができないわけではないのでたまには作るが、そういうのもあって大体はアリスに任せているのが現状だ。ちなみに名字が同じになったあと、アリスがちーちゃんをお母さんと呼び始めた。そんな風にプログラムはして無いんだけど、うん。

 

「あれ、つー君。私の下着知らない?」

「あ? 確か昨日アリスが仕舞ってなかったか?」

「あー、そうだったね、ありがとう」

先にシャワーを浴びて汗を流していたちーちゃんが出てきた。下着の場所がわからなかったのか、タオルだけを身にまとって。いやこうなんというか、ちーちゃん抜けてるところがあるんだよなぁ。先に下着持っていけばいいのに。

「よしっと。あ、つー君。出たよー」

「んじゃ続いて入っちゃうね」

リコリスの制服に着替えなおしたちーちゃんを横目にシャワーへ。俺はちーちゃんと違って抜けは少ないのでしっかり下着を持って行った。

 

ーーーーーー

 

「転属、ですか」

「指令を無視して作戦を台無しにした責任は重い」

辞令を受け取った私は、早々に荷物をまとめ、寮を出た。新しい配属先は、喫茶Lyco Reco?

「配属先にもリコリスがいる。リコリスじゃないのもいるがな。どっちも生意気だが優秀な奴らだ。得られるものもあるだろう」

楠木司令はそう言って私を送り出した。納得は行かない。だが辞令はおりている。私はスーツケースを片手に、錦糸町駅の近くにある和風建築の建物にたどり着いた。

 

ーーーーーー

 

扉を開けて中をうかがうと、一人のおばさん・・・? いやもう少し若いか。そんな感じの緑の着物を着た女性がカウンターに座っていた。あと、カウンターの中には黒髪の男性、こちらは紅に金色の線が入った着物をまとっている、が立っている。

「はぁぁぁ。ここにも母となるべき才能を持った女性が、結婚という障害に阻まれているのよ! 不満だわ! 今すぐ私にいい男を支援しなさぁぁぁい!!」

「そんなこと言ってるうちは現れませんよ、いい男。っと、ごめんね、まだ開店前なんだ」

男性がこちらに顔を向けつつ告げてくる。ああ、お客さんに見えるか。

「すみません、本日配属になりました、井上たきなです」

中に入り、挨拶をする。

「ああ、君がね。ミズキも先生から聞いてたでしょ」

「あー。DAクビになったってリコリスかぁ」

違う。

「クビじゃないです」

即座に否定する。まだクビになったわけじゃない。ただの転属だ。

「あなたから学べ、との命令です。千束さん」

すると、二人は顔を見合わせた。

「転属は本意ではありませんが、東京で一番のリコリスから学べる機会が得られて、光栄です。この現場で自分を高めて、本部への復帰を果たしたいと思います」

すると、男性の方がくすくすと笑い始めた。

「何笑ってるんだ貴様ぁ!」

「いやだってwwwこんな飲んだくれがwwwちーちゃんってwww」

あれ?

「いやwwごめんねwww。それは千束じゃないんだwww」

「それって言うな」

私は何か勘違いをしたらしい。とすると?

「その男でもねーよー!」

男の方を向いたところ、ミズキ? という人から突っ込みが入った。

「俺は睦月。錦木睦月だ。ちーちゃん、千束のパートナーをやっている。睦月でいいよ、よろしくな」

「あなたが睦月さんですか。井上たきなです。あなたの事も司令からは聞いています。よろしくお願いします」

手を出されたので握手をする。この人が、東京一のリコリスのパートナーにして、戦果は千束さんを超えるという人。この人からも学べば、きっと本部に復帰できるはずだ。

「そこの飲んだくれはミズキ。元DA。所属は情報部だ。ここのバックアップ担当といったところだな」

「・・・元?」

「嫌気がさしたのよ、孤児を集めてあんたら殺し屋を作るキモイ組織にね」

「あとは件の千束と、今は裏にいるけど店長のミカさんがここのメンバーだな」

と、そこで外から女性の声が聞こえてきた。

「ほぉら、やかましいのが来たぞぉ」

ミズキさんがいうのと同時に、扉が開いて、金色交じりの白い髪赤目の人が入ってきた。

「つー君大変。食べモグの口コミで、この店ホールスタッフが可愛いってぇ♪ それからキッチン担当はイケメンだってさ♪ これ私とつー君の事だよね♪」

「可愛いのは私の事だよ!」

「「冗談は顔だけにしろよ酔っ払い」」

なんか、この人が来た途端ににぎやかに。

「ありゃ、リコリス? ってかどうしたの、その顔」

「例の転属のリコリス。先生が言ってたろ?」

それを聞いた彼女の顔が明るくなる。

「今日から俺らの仲間だ。仲よくしろよ」

「この人が」

「この子が」

私と千束さんの声が被る。

「よろしくね! ちさとでぇぇす!」

「井上、たきなです」

「たきなぁ、初めましてよね!」

「は、はい、去年京都から転属になったばかりの」

「おぉぉ転属組ぃ優秀なのね年は?」

「16です」

「私が一つお姉ちゃんかぁでもさんはいらないからねち、さ、と、でおっけぇい」

「はぁ・・・」

勢いが・・・勢いが凄い・・・。

「この前のアレ凄かったねぇ。その顔は名誉の負傷?」

「・・・いえ」

 

ーーーーーー

 

私が殴られたのを話したところ、千束はすぐにフキさんに電話をかけ、壮絶な口論が始まっていた。

「すまんな、うるさくて。あんなのでも優秀なんだわ」

「いえ・・・」

睦月さんがコーヒーを出してくれた。あ、そうだ。

「そうだ、睦月。ごめんなさい」

この人に会ったら謝らなければと思っていた。

「・・・?」

「いえあの時、現場の後ろに睦月が居たと聞きまして。知らなかったとはいえ、あなたを殺してしまうところでした」

首を傾げられたので説明すると、ああ、と思い出したような顔になった。いや忘れていたのかあの事を。

「まあ無傷だし、気にしないで。まあ今度からはやる前に通信を入れてくれると助かる」

「はい、必ず」

と、奥から濃い肌色の黒髪のパーマをかけた大きい男性が出てきた。

「ああ、君がたきなか。私がここの店長のミカだ」

「井上たきなです。よろしくお願いします」

この人が元DAの司令にして教官のミカさん。これでリコリコのメンバーとの自己紹介が済ませられた。

「うっせぇアホ!!」

「こらちーちゃん、物は大切にな」

電話を叩きつけるようにして切った千束に睦月から小言が飛ぶ。

「よしじゃあさっそく仕事に行こうかたきな」

来た!

「はい!」

勢いよく立ち上がる。

「あ、つー君のコーヒー飲んでからでいいよ? 先生並みにおいしいから。私着替えてくるね、ごゆっくり~」

待てと言われたので座ると、また千束が顔を出した。

「あー、たきな」

「はい!」

また立ち上がる。

「Lyco Recoへようこそ~♪」

ウェヒヒと笑いながら千束が奥に消える。

千束が消えたので座り、待つ間に出されたコーヒーを頂く。あ、いい香りでおいしい。

「おいしいです」

「それはよかった」

 

「あ、今度でいいんだけど、リコリス制服預けてくれない?」

「・・・何に使うんですか」

「変な用途じゃなくて、強化しておこうと思って。それ簡易防弾しかないでしょ? 実戦用のいいのがあってね。セラミックス複合材と炭化ケイ素を重ね合わせて作った最新式ボディーアーマー。これを制服の表地と裏地の間に縫い込んでおけば銃弾は貫通しない。とは言うものの、激痛は走っちゃうけど。伸縮性もあるから動きは阻害しないよ。ちーちゃんも縫い込んでるし、ね?」

「わかりましたお願いします」

 

ーーーーーー

 

たきなとちーちゃんが外回りに行くのを見送ると同時にリコリコは開店する。俺はカウンターで、ミズキはフロアーで、先生は厨房を担当。まあそんなにお客さん来ないんだけどね。

テレビをつけると、アラン機関の事をやっていた。

アラン機関。才能を持つ孤児に金銭的な支援を行い、その才能を開花させる組織。報道じゃ慈善機関なんて言われているけど、そんな優しいものじゃない。才能を開花させ人類の役に立たせて神に届ける。そのためなら、善悪関係なく支援を行う。俺が任務で殺した悪人の中にも、アラン機関の支援者はいた。そんな組織、信用できるか。とはいえ、ある理由から憎むばっかりもできないんだけどね。

だから俺は、リコリコに来てから稼いだお金を元手に、ヒュプノス達を使って株やギャンブルを行い荒稼ぎ。その資金を元に、東京から少し離れた無人島を買い切ってある施設を建てた。通称孤児院。目的はできるだけ多くの孤児を救うこと。もちろん才能のある子を育てることもあり、アラン機関と似た組織になりつつあるが、アラン機関のように育てたらおしまいということは無く、みんな孤児院の絆で結ばれている。だから誰かが困っていたら力を貸し、自分にできることを精一杯に。そうして始めた組織もはや設立してから二桁年が近くなってきていたりする。孤児院を出た子は大体何かしらの才能を発揮している。ドライバー、スポーツ選手、開発者、教育、芸術、他。芸術で言えば、Mythologyという世界的に人気のバンドがあるが、そのメンバーは全員孤児院の出身だ。みんな孤児院の事は黙っているけどね。

孤児院の子達の中には、リコリスと同じように、平和を守る活動についている子達もいる。だがDAと決定的に違うところは、今までの死者0というところ。任務には大目に見て人員を配置し、予備の予備の予備のプランまで構築。安全に安全を重ねて任務にあたる。そしてそれにはアリスかアリスのサブ端末のどちらかが必ずバックアップにつく。そうして石橋を叩く前に補強してきた結果、死者0を貫いているのが孤児院だ。それに抜け出したいからと言って暗殺者を向かわせることもしない。出たいときには出て、いつでも戻ってきていい。それがうちのスタンス。だから、結局出ていった子達も、なんだかんだ連絡だけは欠かさずにとっているし、もちろんピンチになったら助けに向かう。

リコリスを使い捨てにするDAなんかとは違う。支援して終わりのアラン機関とも違う。いつかはどちらの組織も解体して、もっと孤児たちみんなが平和に暮らせる組織を作る。それが俺の野望だったりするのである。

あと、孤児院にはもう一つ大事な役目がある。それは、リコリスから脱退したいメンバーの保護。彼女たちが抜け出そうとしても、いずれはリコリスやリリベルが暗殺に向かってしまう。俺がちーちゃんを襲わされた時のように。それを守るのも孤児院の大事な役目の一つ。そうして抜け出した子は別の才能を開花させている。もちろん、DAなんかと違ってみんな戸籍も取ってるから、自由を謳歌できる。

 

ーーーーーー

 

「ありがとう、アリス。引き続き情報の解析よろしく」

『ううん、気にしないで。じゃあね、お父さん』

暇していたところに掛かってきたアリスからの電話を切る。内容は、前日の銃取引について。

やはりラジアータは偽情報を掴まされていたらしい。ネットに出回った一枚の写真。取引時間の3時間前の写真に、はっきりと銃取引の光景が写っていた。

アリスが持つアリスシステム。やろうと思えば世界のあらゆる情報を覗き見できる。が、それをやろうとするとさすがにデータ量が膨大すぎて解析には時間がかかるし、リアルタイムにすべての情報を追うのは複数の量子コンピュータを並列駆動させてもスペック不足で不可能だ。だからどうしても後追いになってしまう。が、時間をかければこうやって情報を見つけ出すこともできたりする。それがSNSで消した画像だったとしても、痕跡はどこかに残る。ネットに上がったものは一生消えない。

ついでに、たきなの左遷についても情報を集めた。どうやら情報部はラジアータへのハッキングを秘匿するらしい。それのスケープゴートにされたというわけだ。おまけにハッキングを仕掛けたウォールナットの殺害にかかるらしいけど、そんなんであのウォールナットが殺されるわけがないんだよなぁ。

「そうやって根本を処理しないで臭いものに蓋をしておしまいにするのは悪い癖だよ、DAくん。あ、いらっしゃいませー」

そもそも、偽情報掴まされた件もあるしね?

丁度お客さんが来たので接客に戻る。さて、二人が帰ってきたら色々情報共有のお時間だな。でもこれ、たきなには伝えるべきなんだろうか。戻れると思ってる彼女の希望を砕いちゃいそうなんだけど・・・。

 

ーーーーーー

 

『つー君つー君!! パジャマパーティーだよパジャマパーティー!!』

「それ俺も行っていいんだろうか?」

夕方。ちーちゃんから電話が入り、ボディーガード先に泊まり込むので俺も来いとの事。そんな女所帯に入るのあんまり好きじゃないんだが・・・。

とはいえ、護衛は多いほうがいいからと押し切られて、二人分のお泊りセットを押し入れから出しバイクを用意していると、ちーちゃんがお店に戻って来た。

「準備はできてるぞ」

「ナイス♪」

残りのシフトは急用ということでミズキに任せ、二人でバイクにまたがる。さて、振り切り・・・ってそこまで急がなくてもいいか。

と思っていたのだが。

 

ーーーーーー

 

あのバカ何をやっていやがる!!!

サプレッサーをつけたとはいえ銃声が聞こえてきたので即座にバイクを止め、ちーちゃんを先行させた。俺は左前腕に付けるシールド装備とナックル装備、あとセンサー内臓のゴーグル!をつけて後を追うと、ちーちゃんがたきなを角に引きずり込んでいた。

「なにしてんの!」

「尾行されてたのでおびき出しました。彼らが銃の所在を知っているはずです」

・・・はい?

「沙保里さんは?」

「車の中です」

・・・え??

「護衛対象囮にしたの!?」

「彼らの目的はスマホの画像データです、沙保里さんを殺す意図はないと思います」

いやそういうことじゃないしそれはたきなの想像だよ!? 駄目だ、アホ過ぎて声も出ない。

「人質になっちゃうでしょ!!」

俺があまりのアホさに空を見ていると、誘拐犯からの怒号が飛んできた。

「この女がどうなってもいいのかぁ!!」

ほらみろおおお。

「あなたが止めなければ、もう終わっていました」

「沙保里さんに当たっちゃうでしょ」

「そんなミスはしませんよ。この距離からでも射殺できます」

「いのち大事にだってば」

はぁ・・・。後でたきなにはここでの方針を教育だなぁ。

「とりあえず、そろそろ動くか。沙保里さんがこれ以上危なくなる前に」

ようやく声が出るようになり、正直たきなをこれ以上前に出したくないのでちーちゃんとアイコンタクト。

「ちーちゃんが先行、俺がバックアップ。たきなは後方支援で」

「了解、つー君」

「私も前に出ます」

功績を上げたいんだろうが、今はダメだ。

「まだ訓練もしたことないんだ、それにどうやら俺たちの斜め上を行くらしいからな。今日は駄目だ」

「そんなに射撃に自信があるなら、後ろでこっち見てるドローン撃ってくれる?」

ちーちゃんがたきなにも役割を振る。まあそれなら任せるか。

「正確には6時48分ね」

「あ、音出してね」

「了解しました」

センサーで感知したドローンの居場所を伝える俺と、奇襲に使おうとするちーちゃんの指示に了解を返すたきな。すかさずS&W M&P45の銃口からサイレンサーを外す。

「聞いてんのかコラァ!!」

「じゃ、スリーカウントで。3、2、1」

誘拐犯の怒号に合わせてカウントすると、たきなが振り返り射撃。一発で命中、さすが、マシンガンの連射を人質に当てなかっただけのことはある。

銃声に合わせて誘拐犯が身を車に隠したところでちーちゃんと俺が出る。

「やぁ、取引したいんだけど」

目の前に現れたちーちゃんに慌てた誘拐犯が射撃。至近距離だが、ちーちゃんは余裕で躱す。ドアを蹴って誘拐犯に当てつつ、ドア越しの射撃でプラスチック・フランジブル弾を叩き込む。そのあと念押しの一発。スライドストップしたのでマガジンを交換して、次弾を装填。その間に俺が逆側から回り込み。

「こんばんわ~、ちょっとお話聞けるかなぁ?」

ちーちゃんと同じように声をかけると、こちらも慌てた誘拐犯が銃を向けてこようとするのでCQCの要領で敵の銃を奪い間接を極めて腕を折る。ついでに顔面にナックルで一発。衝撃で気絶させる。

「「っ!」」

車の後ろに回るとちーちゃんと顔が合う。と、車の中にいた残りの誘拐犯が出てきて、俺たちの背後から狙おうとするが。

PAM!

DAM!

ちーちゃんと俺の持つデトニクス.45コンバットマスターとHK.45から一発ずつ互いに向けて発砲、と同時に顔をずらせばはい誘拐犯に命中。あ、今日は俺もプラスチック・フランジブル弾を装填している。まあちーちゃんとの任務の時は使うようにしてるのと、超至近戦なら有用だからね。

「クリア?」

「クリア!」

ちーちゃんと確認し、車のドアを開ける。よし、中もクリアと。

「たきな、沙保里さんを」

外に転がされた沙保里さんをたきなに任せつつ、ちーちゃんはたきなに撃たれた誘拐犯の手当てに入る。

「いのち大事にって、敵もですか!?」

「そうだよ!」

まあ普通は自分らだけだと思うよね。とはいえ、護衛対象を危険にさらしたたきなはそれすらできてないけど、っと。

「ほらほら、手当てしてる人を撃とうとしないの」

最初にちーちゃんが倒した誘拐犯が意識を取り戻したようで、手当て中のちーちゃんを狙おうとしていたので後ろからナックルで殴って昏倒させる。

「たきなちゃぁぁぁぁぁん!!!」

かぶされていた麻袋を取られた沙保里さんがたきなに抱き着く。

「クリーナー呼んでいい?」

「高いから全部はダメ。補修はうちのにやらせるから、犯人だけ回収させて」

「りょうかい♪」

これでなんとか一件落着かな??

 

ーーーーーー

 

「いちゃついた写真をひけらかすからこんなことになるのよー」

「「僻むなよ」」

ミズキに対しての俺とちーちゃんの声が重なる。

「僻みじゃねーよSNSへの無自覚な投稿がトラブルを招くって言ってんのよ」

いやお前のは絶対僻みだろ、ミズキ。

「どこだ?」

「んー? ああ、ここここ」

例の護衛対象が狙われた訳とかなんだかんだの情報を共有している最中。ちーちゃんが入手した写真は俺が入手したのと同じものだった。

「あの日か?」

「3時間前だって」

「データの記録から行くと、正確には2時間45分前だな。ラジアータもやらかすもんだ」

なお、先に俺が同じ写真を入手したのを伝えたところ、先に言えと怒られた。仕方ないじゃん、ちーちゃんたちが帰ってきた後に話そうと思ってたんだから。

「楠木さん、偽の取引時間つかまされたんじゃない?」

「その女を襲ったやつらはどうしたのよ?」

「クリーナーが持ってった」

「あんたまたクリーナー使ったの高いのよ!」

「一応、補修関連は俺の伝手で安く収めたが、人に関してはどうにもならんからな」

「DAに渡したら殺されちゃうでしょ」

DAはほんとDAだからなぁ。

「DAもこいつら追ってるんでしょ? 私達が先に見つければ、たきなの復帰が叶うんじゃない? そう思わない? たきな!」

「それh」

「やります!!」

俺がたきなの左遷について話そうとしたものの、それを遮ってたきなの元気な声が響く。おぉ、青の着物似合うねぇ。

「うぉぉぉぉぉかぁわぁいいいぃぃぃ!!」

たきなに抱き着きにかかるちーちゃん。何やってるのさ。

「ねえねえすごいにあうじゃぁぁん!」

相変わらずうるさい・・・。

「ほら、先生もミズキもつー君も。もっと寄って!」

スマホのセルフィーを起動させるちーちゃん。パシャリっと。

「早速お店のSNSにアップしたわー」

行動が早いね、ちーちゃん。

「君はさっきの私の話を聞いてたのかね無自覚な投稿は」

「だぁいじょうぶだって。ここには向かいのビルもないよ」

「ま、リコリコの宣伝になるから良いんじゃない?」

と、開店の準備と新人の宣伝が完全に整ったところで、扉が開いた。

「ほらお客さん、練習通り!」

扉を閉めたお客さんがこちらを向く。と、あの人か。

「やぁ、ミカ」

「「「いらっしゃいませー」」」

俺、ちーちゃん、たきなの声が被った。

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