Recoil of Lycoris and Lilybel   作:小鳥遊 小佳夏

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The more the merrier right?

ウォールナット。胡桃の英訳にして、胡桃の木の木材の呼び名にも使われる。とても優秀な木材で、伐採が進んだ結果、大木が枯渇して今では高級木材として扱われることもあるらしい。

だが裏の世界でウォールナットと言えば、ネット黎明期から存在するハッカーの事を指す。ハッキングに関する腕は世界一。そしてその正体は誰も知らない。少なくとも存在が確認されてから30年は経つからそれ以上の年齢ではないかと言われているが、それだって中の人が入れ替わっていたらもうわからない。何かで音声通話するときも、機械音声を使って喋る徹底ぶり。存在はしている。だが正体は誰も知らない。そんな伝説のハッカーである。

そんなハッカーから、一通のメールがリコリコに届いた。

「緊急:ウォールナットより」

 

ーーーーーー

 

日の光がカーテンの隙間から部屋に降り注ぐ。テーブルの上には散乱したアクション映画のパッケージと中身のディスク。そしてたきなにと千束が選んだおすすめ映画厳選千束セレクションが詰められた紙袋。

その部屋の持ち主はというと・・・。

「っ、がっ、かぁぁ・・・」

ソファーで横になり、涎を垂らしながら爆睡していた。

 

「んん、んぅ・・・」

目に降り注ぐ日の光で目が覚めた千束は時計を見て一気に覚醒する。

「やばっ、寝ちゃったぁぁぁ!!」

 

ソファーから飛び起き、一気に着替え、出勤の準備をする。

「あわわわわわわ。えーと、これと・・・これっ!!」

慌てて紙袋と鞄を掴み、部屋を出る。

「もお、つー君起こしてくれても・・・ってそっか。つー君今いないんだった」

いつもなら寝落ちしてもベッドまで運んでくれて、ついでに朝起こしてくれる相棒がいるのだが、あいにくの不在。それを完全に忘れていた彼女は睦月へのぼやきでそれを思い出す。

「えーとそうなると、私が運転しなきゃいけないのかぁ」

駐車場に駆けてきた千束はいつも睦月が乗っている大型バイクにまたがり、ヘルメットを装着。睦月が居ない間は自分で運転しないといけない。こけたりしないようにと慎重になりながら、遅刻しないようにとアクセルを振り切る勢いで今日も出勤した。

 

ーーーーーー

 

ではそのころの睦月はというと。

「パパ、お帰りなさい」

「お父さん、次はいつまでいるの?」

可愛い幼女多数に囲まれていた。

 

孤児院。睦月が設立した、アラン機関とは別の形で孤児を助ける組織。その本拠地は太平洋に浮かぶ無人島。そこを開拓し、島の片隅に居住できる建物を建設。そこで拾った孤児を育てている。育てるのは孤児院で成長した子達。まだ設立してから10年にもならないが、少しずつ迎え入れる数を増やしている最中である。ほかに建物は、本土と行き来するための飛行機が収納してある格納庫や、孤児たちの中でも研究に長けた子達の為の大きな研究施設、あとは自給自足のための畑や牧場など。

睦月はそこで父親と呼ばれ、孤児みんなから慕われているのである。まだ17歳であるが。

 

「お疲れ様です、お父さん」

娘たちとのスキンシップを何とか切り抜けた睦月は自室に入り、長旅の疲れをいやしていた。

「ありがとう、アリス。いやはや、娘が成長するのは良いことだけど、大きくなるとそれはそれで疲れるね」

「みんなお父さんのことが好きですからね」

金髪ロングに青い目。青いロングドレスに白いエプロン。まるで不思議の国のアリスの主人公のような格好をしたのがアリス。孤児院すべてを司る睦月謹製のアンドロイドにして世界最強のAIである。

「で、アリス。例の事件についてはどの程度調べがついた?」

「はい、残念ながら元となる情報不足で進捗は芳しくありません。銃器が裏市場に流れた形跡もなく、じゃあどこに保管されているのかすら。どうやって町中の監視カメラを潜り抜けて保管しているのかさえ分かればいいのですが・・・」

たきなが左遷される原因となった銃火器事件。独自に調べてはいるものの、まだまだ情報を集めないと断片も見えてこない。

「ん、気にしないで。ゆっくりでいいから、確実に情報を集めていこう」

「はい! あ、その最中に見つけたんですけど、気になるのが」

アリスが出してきたタブレットを見ると、ウォールナットがリコリコに救援を求めたとの情報。

「ウォールナットが? ウォールナットについて最近の動向を検索できる?」

「お任せください!」

アリスが検索すること少しして、ウォールナットの現状が分かった。

アラン機関の依頼を受けたウォールナットがラジアータにハッキングを仕掛け、それを受けてDAが処分に動こうとするも、その前に爆発で住居と目される場所が壊され。

んで別のハッカーとの会話記録を見ると、そいつがウォールナットの場所を売ったらしいのね。ふぅむ。

「で、リコリコからは何か通信入ってる?」

「いえ、何も。ですが、ミカさんとミズキさんはこれを受けるようですね。作戦計画を見ると、死亡を偽装するとか」

あー、死んだと騙し切れればそれ以上の追手は来ないかぁ。確かに正しいけど、あいつらだけでできるんだろうか。

「んー、今回は早めに戻ったほうがいいかな?」

「お父さんにお任せしますけど、あの子達がなんて言うか?」

ぐぬぅ、ただでさえ孤児院の娘達とは会えないからなぁ。しゃあない、今回はちーちゃん達に任せるか。

「頑張れよ、ちーちゃん、たきな。あとグッドラック、ウォールナット」

俺は遠い太平洋上から応援するとしよう。

 

「ところで、お父さん。お父さんはウォールナットの素顔知ってるんですよね?」

「うん。というか一度おまえにも見せただろ」

「あ、敵のドローンを発見。これで見えますね」

「じゃあそれでちーちゃんの働きぶりでも観察しますかねぇ」

野次馬する気満々の二人であった。

 

ーーーーーー

 

特急りょうもう。東武線の特急電車である。使用車両は200形電車で、浅草と赤城、太田、伊勢崎、舘林を結んでいる。それの中に、千束とたきなの姿があった。

「逃走経路は以上です。羽田でゲートをくぐったところでミズキさんに交代・・・って聞いてますか?」

勢いよくご飯を掻き込む千束と、それを呆れた目で見るたきな。

「うん、依頼主、凄腕ハッカーでしょ。どんな人かなぁ。映画だと、眼鏡で痩せてて小柄な男なんだろうけど」

「映画の見過ぎですね」

「わぁってるよぉ。つー君がハッキングしてる姿を見てるし、あんなのは幻想だって知ってますー」

「え、睦月、ハッキングもできるんですか!?」

「あれ、知らなかった? つー君、何でもできるからねぇ。本人に言うと、できることだけだって言うけど。それにアリスちゃんもいるしねぇ」

首をかしげるたきな。

「ああ、まだたきなはアリスちゃんと会ったことないんだっけ。そのうち会えるんじゃないかなぁ?」

「すごく気になりますが・・・。今は目の前の任務に集中することにします」

「そういえば、今回の任務はつー君は不参加なの?」

「はい、長期休暇中ですし、帰りを待ってる余裕もなく。代わりに別の仕事で参加されるそうです」

「そうなんだぁ。久しぶりだなぁ、つー君がいないこういう任務。

と、そこにチャイムが鳴る。

『ご乗車ありがとうございました。間もなく北千住、北千住です』

それを聞いたたきなは即座に荷物をまとめ、片手に先ほど購入したゼリー飲料を持つ。

「降りますよ」

「うぇぇぇ!?」

本当なら車内で飲むつもりだったが、睦月の事で話過ぎた結果その時間は無くなり。だがそれも考慮してゼリー飲料を選んでおいて正解だったと自身の選択の正しさを実感しつつ、やっぱり話を聞いていなかった千束に少し呆れる。

「10分足らずで乗り換えと言いましたよね。だから私はこれです」

少しはしたないが、歩きながらゼリー飲料を一気に吸い込むたきな。その後ろを駅弁を持ったままの千束が追いかけた。

 

ーーーーーー

 

ウォールナットとの合流場所へと向かう途中。本当に何一つ聞いていなかった千束に、たきなが呆れを隠しもせずに再度説明する。

「店長が駐車場に車を用意してくれているようです。それで羽田に向かい、ミズキさんに引き渡します。あとは睦月が居る孤児院に向かい、あとは睦月が船か別の飛行機で海外へと移送するようです」

「へぇ、つー君がねぇ。それでつー君帰ってこないんだね。こういう任務だと、大体バックアップでつー君がいたんだけど」

海の向こうにいる相棒を想いながら歩きつつ空を見ていると、たきなからの視線を感じた。

「なんじゃい、そんな熱い視線で見つめおって」

「いえ、睦月、孤児院をやっていたんだなぁと」

「ああ、まだたきなは知らないんだっけ」

リコリコの面々は知っているが、まだたきなは知る機会がなかったらしい。リコリコにいるなら知っててもいいだろうと思った千束は、睦月が孤児院を運営している目的から何をやっているか、野望まで全部話す。

「そんなすごいことをやっているんですか、あの人は」

「へへ、うちのつー君はほんと凄いんだぞぉ♪」

まるで自分が褒められたかのようにうれしがる千束である。

そういえば、睦月と千束は仲もいいし相棒であるし息もぴったり。互いに銃を向け合って発砲と同時に顔をずらして、互いの背後にいる敵に当てるなんて芸当をいとも簡単に行うのを、配属してから何回も見てきた。苗字も同じだし、結婚でもしているのか? と思ったたきなだが、それを聞く前に目的の駐車場にたどり着いた。

「あ、あの駐車場ですね」

そこに泊まっていたのは赤いR35。

「おおお、あれかぁ。・・・なんだ、あれかぁ」

最初はテンションが上がるものの、すぐにテンションが下がる千束。

「え、何かあったんですか?」

「いやね、あの車の色違い、つー君が持ってるから何回も運転したことあるんだよね。どうせ任務なんだし、別の車ならもっと楽しいのになーって」

え、あの車、普通に買うとめっちゃ高かった記憶が。孤児院も経営し、高いスーパーカーも持ってる。たきなは睦月の事が思っていた以上に凄い人ではないか? と思い始めていた。

 

ーーーーーー

 

と、そこに。

勢いよく白い軽自動車が公園を突き抜け、段差で文字通り飛びながら駐車場の前へとドリフトを決めて現れた。

『ウォール!!』

「ナット」

『早く乗れ、追手が来るぞ』

「え、え、今の何、合言葉? かっこわるぅ、え、あ、ちょっと?」

たきなが乗り込むのを見て、慌てて千束も車に乗る。車はそのままバックで大通りに出ると、ギアをDに入れて走り始めた。

 

「なんで守られる側が颯爽と車で現れるのよ。ふつう逆でしょぉ」

たきなを揺さぶりつつ、文句を垂れる千束。

『予定と違ってすまない。ウォールナットだ』

「はいはい、ちさとですぅ。彼女はたきな。なんか、イメージしてたハッカさんとは違いますね」

『底意地の悪いやせた眼鏡小僧とでも? だとしたら映画の見過ぎだよ』

「さすがに幻想と現実の区別はつきますって。知り合いにハッカーもどきいますし。でも着ぐるみは違うでしょう」

『ハッカーは顔を隠した方が長生きできるってだけさ。JKの殺し屋の方が異常だよ、リコリス』

「熊のハッカーよりは合理的ですよ」

「たきな、犬だよ」

『リスだ』

しばし車内の空気が固まった。

 

『どう合理的なんだ?』

「つまり、日本で一番警戒されない姿だってことですよ、これ」

『JKの制服は都会の迷彩服というわけか。そう言えばあいつも言っていたな、迷彩の重要性』

「あいつ、ですか?」

『ああ。何度か一緒に仕事をしたことがあるやつでな。唯一、ボクの素顔を知っているやつだ』

「へぇ、ハッカーは顔を隠すんじゃないんでしたっけ?」

『あいつは特別さ。何回か命を救われてもいるからね。最近は連絡が取れないんだが、元気にしているといいと思うよ』

ところで、とたきなが切り出す。

「この大きいの、何です?」

たきなが気になったのはウォールナットが助手席に乗せている大きな黄色い、少女サイズの人ならすっぽり入って中でキーボードくらいは叩けそうなスーツケース。

『ボクの全て。国外逃亡には、身軽なほうがいいだろう?』

得意げなウォールナットだが、千束の突っ込みが入る。

「いや、あんたの姿が身軽じゃないですけどね」

 

「でもいいなぁ、私も海外行ってみたい」

『一緒に行くかい?』

「私達、戸籍が無いからパスポート取れないんですよ。つー君、あ、今はここにはいない私の相棒は戸籍作ってくれようとしたんですけど、まだいいかなぁって」

と言いつつ、後方の確認をする千束。

「来てませんね」

「そうねぇ。追手が来てる様子ないけど、このまま羽田へ?」

「いえ、車を変えるように言われています。ウォールナットさん、ここへ向かってください」

『わかった』

 

しばらくして、小菅ICが見えてきた。首都高C2都心環状線に乗りそのまま南下。大井で湾岸線に入れば羽田まではもうすぐとなる。

が、車は入り口を通り過ぎる。

「あれ? 高速乗るのでは?」

『どうした?』

「いやそれはこっちのセリフだけど」

ウォールナットが手を離すと、ハンドルが自動で動いていた。

『車を乗っ取られたか』

「うえぇぇぇ!! ちょっとちょっとちょっとちょっと」

そのまま加速を始める軽自動車

『ロボ太か。腕を上げたな』

「どこ向かってるの」

加速により、後ろに転げた千束が苦しそうな声を出す。

『加速している。このまま海に突っ込むつもりだ』

道の横を流れるは荒川。荒川が行く先は東京湾である。

「回線の切断を!」

『いや、制御を取り戻しても、すぐにロボ太に上書きされるだろう』

「うえぇぇ、じゃあどうすればぁ・・・。こんな時つー君がいてくれたらなぁ」

『こちらの作業完了と同時に、ネットを物理的に切れればいいのだが・・・』

「えぇ、ルーターどこよ?」

『知らん。ボクの車じゃない』

と、ここでたきながバックミラー越しにあるものに気づいた。

「千束さん、あれ」

「おぁ?」

よく見ると、一台のドローンが後をつけてきている。

「あぁ、あいつか」

「ばれると逃げられますよ」

ほんと、つー君がいたらあれもまとめて始末してくれて、なんなら逆にクラッキングをかけて再起不能にしてくれるのになぁと思う千束であるが、無い者ねだりをしても仕方がない。

車はそのまま走り続け、T字路を左に。すると曲がり切れず土手の斜面に乗り上げつつ走り続ける。

「いやぁ、あれは自信ないよ。そっちはたきなに」

『よし、制御を取り戻すぞ。3、2、1』

ウォールナットが制御を取り戻すと同時に千束が窓に向けて斉射。窓ガラスを割ると、そこからたきなが身を乗り出す。

DAMDAMDAM

車が宙に浮いて安定した瞬間。S&W M&P45でドローンを撃ち落とす。

制御を取り戻した車はドリフトしつつ、河口にある開けた空間で全制動。結局、片側の二輪が地面から外に出るも、なんとか無事に止まることができた。

 

「みんな、とりあえず動かないで。せーので出ますよ」

『ス、スーツケースをー』

「私が」

千束が最後に車から飛び降りると同時に、車は東京湾にどぼん。

「?」

千束が高架に目を向けると、高速道路上なのに車を止めてこちらを見て居る人影。

「とりあえず、場所を変えよう」

三人は近くの人気のない廃スーパーへと向かった。

 

「はい、そのスーパーに避難しています。三人共、目立った傷はありません」

『わかった、気を付けて行動してくれ』

千束が外を警戒していると、数人の銃を持った襲撃犯が外にいた。

「ついてきてください」

千束を先頭にして裏口から抜けようとするが。

「!」

既に中に侵入してきた襲撃犯とたきなの目が合った。

咄嗟に運んでいたスーツケースに身を隠すたきな。

「三人を発見、銃を持ってる」

声から大体どこにいるのかを特定した千束が、空になった棚を足場に高くジャンプする。

「よいしょっと」

PAMPAM

一人に命中するも、防弾チョッキに阻まれて意識までは刈り取れず。

たきながスーツケースの陰から射撃し、一人の腕に傷を負わせるが、戦闘力までは奪えない。

『ちょ、ちょっと、盾に使うのは無しだぁ』

ウォールナットのおびえた声が響く。

「ちょ、ダメですって!!」

『大事なものだって言っただろおおおおおおおおお!!!』

「たきなぁ! それなんかだめらしいよ!!」

「無理言わないでください!!」

実際たきながスーツケースを盾にするのをやめたら、たきなの体に穴が開くだろう。スーツケースに穴が開くのが先か、たきなに穴が開くのが先か。

しかし先にたきなの銃弾が敵の肩を貫通し、その場から逃げることができた。

 

そのころ裏では。

「はい残念っ!」

千束が敵の手榴弾をうまく使いつつ、爆風で吹き飛ばすことでうまく敵を無力化していた。

続いてもう一人敵が出て来るも。

「当たらねぇ!?」

AKS-74のフルオートでばら撒かれる5.56mm弾を全て見切る千束。いつもならこの間につー君が制圧してくれてるのになぁとか思いつつ、デトニクス.45コンバットマスターを目前に構えて敵に近づきつつ射撃。マガジンを変え、横から出てこようとしてた敵に射撃しつつ蹴りを叩き込んで無力化に成功した。

 

「そのまま、手当てする。血ぃでてるでしょぉ」

敵にもかかわらず、たきなの銃弾を浴びた敵の手当てを始める千束に、たきなが声を飛ばす。

「敵の増援が来る前に脱出しましょう!」

「少し待って」

「囲まれますよ」

「死んじゃうでしょ」

たきなが警戒するも、なしのつぶて。

『脱出ルートは敵にまだマークされていない。今ならまだいける』

「私もすぐ追いかけるから」

先に行けと目線で言う千束。

「行きましょう」

付き合ってられないとたきなはウォールナットを連れて先に向かう。それが罠だとも知らずに。

 

「何の真似だ」

「見てわからない? 応急処置」

「やめろ、からかっているのか」

「じゃあ死にたいの?」

「や、やめてくれ・・・」

つー君と二人だったら、こうやって治療しなくていいんだけどな。つー君は私と一緒の時は同じプラスチック・フランジブル弾を使ってくれるから。一人の時は通常弾らしいけど、そこまでは関与しない。それが私とつー君の取り決め。とかなんとか思いつつ、治療を続ける千束。

「今日、夕飯は誰と?」

「家族だ」

「いいねぇ」

と、さっき千束に撃たれた襲撃犯が目を覚ました。

「なにッ!?」

「私が撃った人は大丈夫」

「ゴム弾か・・・」

 

「もういい、行けよ早く」

「わかった、鉄分取れよ」

他の仲間が起きたらまた撃ち合いになる。敵とは言え怪我を治療された恩があると、襲撃犯は千束を早くこの場から立ち去らせようとしていた。そしてウォールナットと同じ方向に行こうとした千束に警告する。恩を返すように。

「そっちはやめろ。うちのハッカーのドローンが見ている。待ち伏せしているぞ」

たきなとウォールナットが危ない。千束はすぐに後を追って駆けだした。

 

裏口では、たきながS&W M&P45を構え外に出ようとしていたが、なぜかウォールナットが無防備に扉を開けて外に出る。

「ちょっと!」

「たきな! 外に出ないで!!」

千束の警告、たきなの制止を聞かずにウォールナットが外に出ると。

プレハブから除いた銃口から無数の弾が放たれ、ウォールナットの着ぐるみに穴をあけた。穴からは赤い液体が流れた。

その後テロリストは即座に撤退。千束達は回収に来た緊急車両にウォールナットを積み込み、スーツケースと共に現場から去った。

 

帰りの救急車の中。

穴だらけになった着ぐるみを悲痛な表情で見つめる千束だった。

「すみません」

「たきなのせいじゃないこちらが甘かったんだ」

いつもなら、つー君がいて、アリスちゃんもバックアップに居て。車のハッキングや監視しているドローンが居るのに気づかないなんてこと絶対にありえなかった。つー君達にどれだけ甘えて鈍っていたのか。それを痛感していた。

そんな時。

『もういい頃合いじゃないかな』

ウォールナットの声がすると、穴だらけの着ぐるみが起き上がり、顔を外す。と、中からはミズキが出てきた。

「え!?」

「あっつい、ビール頂戴♪」

すると運転席から缶ビールが投げ込まれ、受け取ったミズキはおいしそうに飲み干す。

「ミズキ? え、あ、あ、何で?」

慌てる千束とたきなに更に混乱の声が降りかかる。

「落ち着け千束」

「えーーーー!? 先生!?」

いるはずのない二人の登場に、千束とたきなの混乱は止まらない。

「あ、これ防弾。派手に血が出るのがミソね。まじくっそ重いけど」

「あの、ウォールナットさん本人は?」

「そうだよ、どこいった!?」

あまりの混乱に、たきなの声も上ずる。

『ここだ』

『「追手から逃げ切る一番の手段は、敵に死んだと思わせること。そうすればそれ以上捜索されない」』

幼い声と機械音声の声がダブりつつ、スーツケースの中から金髪の幼女が出て来る。

「では、わざと撃たれたんですか?」

「彼のアイデアだ」

「あーあ、最後はハリウッド並みの大爆発を用意してたのに。無駄になったかぁ」

「速く終わって、よかったじゃないか」

「想定外の事態にきちんと対処して。見事だった」

「ちょっと待って、色々聞きたいことあるけど。つまり、その、予定通りで、だれも死んでない、ってこと?」

「そうよぉ」

「っぉ、よかったぁみんな無事で」

とりあえずそれだけでもよかった。そんな千束の安堵の声。

「この子めっちゃ金払いいいから命かけちゃったよ」

報酬前払い相場の三倍は伊達ではない。

「もぉ、死なせちゃったと思ったし、あぁぁもう、よかったぁ! 無事でよかったほんと、ほんとぉ」

あまりの感激に、着ぐるみを突っついていたウォールナットに抱き着く千束。それを険しい顔で見つめるたきなであった。

 

数日後。

「いい加減機嫌を直したらどうだ?」

「事前に教えてくれてもよかったんじゃないですかねぇ」

あの後自分とたきなは情報を知らされてなかったことに拗ねる千束がいた。

「だってあんた芝居下手だしぃ」

実際事実なので否定もできず、むぅぅとほっぺを膨らませる千束。

「むしろたきなと一緒に自然なリアクションしてもらった方がいいじゃない? ほぉら、こういう♪」

ミズキが見せた画面には、落ち込む千束の姿。

「ん、あ、あぁぁぁ!! な、何撮って!」

「愛しのつー君に送っちゃおー♪ はい送信」

「何するぅこの酔っ払いぃ!」

「あ、早速返信だ。なになに、やっぱりこんな表情したか。可愛いじゃん? くっそがぁ、惚気かこんにゃろうめぇ」

「とにかく消せえぇぇ!!」

乱闘が始まりそうな雰囲気に、たきなが刃を入れる。

「やっぱり、いのち大事にって方針、無理がありませんか?」

強い口調のたきなに振り返る千束。

「あの時、きちんと二人で動けば、今回のような結果にはならなかったはずです」

「でも、そうされたら私が困ったんだよねぇ」

それは結果論として。

「目の前で人が死ぬのをほっとけないでしょう」

「私達リコリスは殺人が許可されています!! 敵の心配なんて」

パン。千束が手を叩く。

「あの人達も、今回は敵だっただけだよ」

敵だったけど、治療をしたら罠を教えてくれた。それを言ったらつー君だって。敵としてきたけど互いに不殺としていたら、今は一緒に生活するかけがえのない家族になった。

「誰も死ななかったのは、良かった良かった」

「そういう話じゃ、ないと思います」

まだ不満そうにするたきな。そんな中、リコリコの扉が開いた。

「そういう話でいいんだよ。今は敵でも、明日には味方になるかもしれないんだし」

ただいまーという擬音と共に睦月が帰ってきた。

「つー君!! お帰り!!」

わほーいと勢い良く抱き着く千束と、しっかりそれを受け止める睦月。

「はいお土産。みんなが作ったお菓子とか果物。みんなで分けて」

「やったぁぁ♪ 孤児院のお菓子おいしいからなぁ♪」

早速睦月から受け取ったお土産をカウンターに並べるうれしそうなるんるん千束。それを横目に睦月はたきなに声をかける。

「ここでの方針はDAとは違う。支部と言っても、半ば独立した組織だ。組織が違えば風土も違う。不満かもしれないけど、ここにいる間は合わせてもらうよ」

「はい、わかり、ました・・・」

目をそらしつつ、まだ少し不満は残ってると顔が物語っているたきな。そのうち慣れてくれると思うしかない。

「あー、そうそう。睦月この作戦に関わってたんでしょー。知ってたら教えてくれてもいいじゃん」

「いや? 俺は全くノータッチ。アリスが見つけてくれたから一部始終は見てたけど、作戦にも何にも触れてない」

「え、だってミズキさんが睦月に引き渡す手はずじゃ・・・」

「どうせミズキがその前に爆発四散してって筋書だったんじゃないの?」

そういえば、ハリウッド並みの爆発を用意したとか言ってたなと思い出す千束とたきな。

「二人共もうやめろ、私達も二人を騙すような作戦をして悪かった」

奥から三人分の団子セットを持って出てきたミカ。丁度睦月が帰ってきたのにも気づいていたようだ。

「先生、ただいま。お土産はそこからどうぞ。赤い食いしん坊に全部食べられる前に」

「おかえりなさい、睦月」

「つー君? 赤い食いしん坊って誰の事かなぁ?」

「いって、ちーちゃん足を踏むなぁ!」

「それより、丁度睦月も帰ってきたんだ。団子でも食べないか?」

「あ~、先生。甘いもので買収するつもり~?_」

「いらないか?」

「うぅん、たべますぅ♪」

やっぱり食いしん坊じゃん、そう思いつつもそれ以上は言わずお団子にかぶりつく睦月であった。

「たきなぁ。座敷に座布団出してきて」

「はい」

自分は団子を食べているからとたきなを使う千束。お店の仕事とすぐにたきなは動き出す。

「相変わらず切り替え早いわねぇ」

「それがたきなのいいところだよ」

ミズキとたきなを褒める睦月の声が響いた。

 

たきなが座布団を出そうと襖を開けると、上の段には幼女がいた。

「!?」

丁度通りがかった千束が驚いてそちらを向くも、丁度たきなが襖を閉めてしまう。

すぐに襖を開けて中を確かめようとするが、中から抑えられているのか開かない。

「なんかいたよぉ、今!」

そうして格闘すること少し。

「ほいっ!」

中から抑える手が無くなり、勢いよく襖が開いた。

「うちでしばらく匿ってくれーって。あんまり散らかすんじゃないよ」

ミズキの説明の声が響く。それを聞いて奥に向かうと。

「おぉ、ウォールナットじゃん」

「ああ、お前か。久しぶりだな」

見知った顔があった。

「え、つー君、ウォールナットと知り合いなの?」

「昔仕事でな」

「ボクはこいつに何度か助けられたからな。その時に顔を見せあったんだ」

「あの唯一素顔を知ってる相手って、つー君の事だったんだ」

「お前が言っていたハッカーもどきってこいつの事か。いやこいつもどきじゃないぞ!? ボクに匹敵しうる腕前持ってるんだからな!?」

「ほんと睦月、多才ですね・・・」

たきなの感嘆する声。いやできることしかできないし?

「しかしお前、最近連絡つかなかったじゃないか。どうしたんだ?」

「いや色々あってロボ太に特定されそうになったからアカウント閉鎖しちゃって。あれじゃないとウォールナットには繋がらないようにしてたから、音信不通になったんだ。心配させてすまなかったな」

「いや、無事ならいいさ」

「なんか、すっごい仲良さそう・・・」

浮気をしてる旦那を見るような目で千束がこっちを覗いてくる。と。

「おぉ、いらっしゃい」

先生の声が聞こえる。

「来客、行かなくていいのか?」

「今はこっち!!」

千束に声をかけるも、今はこちらの方が重要らしい。

「それで君、ここに住むの?」

「お前らの仕事を手伝う条件で。言っとくけど格安なんだからな?」

「そうなったか。俺が居ない時、今までならバックアップ無しで心配だったけど、これなら安心だな」

「ああ任せろ。救われた分は返すつもりだ」

「頼もしいねぇ。それなら、この写真の男見つけて。あ、手前じゃなくて、後ろの小さいほうの」

写真の男探しはアリスでも難航してるからな。ウォールナットが居ればさらに加速できそうだ。

「千束ちゃーん」

カウンターから千束を呼ぶ声がする。とあの声は吉さんか。

「あぁ、吉さんいらっしゃい。今ちょっと忙しいから後で」

少しだけ顔を出してきた千束がすぐに戻って来た。

「いいのか? 吉さんだろ?」

「いいの、後で行くから」

 

早速仕事にかかるウォールナット。

「今日から仲間ね。名前は?」

「ウォールナッt」

「ちょーいちょいちょい。そいつは死んだんでしょ? 本当の名前を教えなさーい」

「・・・クルミ」

「日本語にwなっただけじゃんwwそっちの方がよく似合ってるよ、よろしくクルミ」

クルミか。そのうちクーちゃんって呼んでやろうか。

「よろしく千束。あと睦月もな」

「ああ、よろしくな。クルミ」

と、なんとなく後ろから殺気とは言えないけど、違和感を感じる。

「出といでよ。一緒に団子食べよ」

違和感に気づいて振り返るのと、千束が振り返るのと、たきながヘアゴムを打ち出すのがほぼ同時だった。

「たきなも」

ほぼ反射で頭をずらして躱す俺と千束。その結果。

「ってあぁいったぁ」

クルミのおでこに命中した。

「へ?」

「うぉう」

「え?」

たきながヘアゴムで撃ったことに驚く俺と千束。おでこが痛くて身をよじるクルミ。そして見てからヘアゴムを躱した二人に驚いて固まるたきなの四人がそこにいた。

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