Recoil of Lycoris and Lilybel   作:小鳥遊 小佳夏

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Let's go more chillin'

切断された通信。今自分にできることは。そう思ってPKMで商人を撃ち殺した。でもフキさんに殴られた。じゃあどうすればよかったのか。

頬の傷はもう消えた。でも、未だその答えは出ていない。結果論で言えば、あのまま睦月に任せておけばよかったんだろうけど、じゃあ仮にバックアップが何もなかったら?

「たきなぁ、お店開けるよぉ」

「はい、今行きます」

ため息を一つ入れつつフロアへ。それよりも今は、仕事に集中しないと。

 

ーーーーーー

 

ミズキが襖を開けて、中のクルミに話しかけているのを見つけた。

「なんだぁ?」

「ほぉら、あんたにも送っといたから」

「あぁ、これね」

「私がDA情報部に解析させたのよぉ。顔まではわからなくても、体格からおおよその当たりはつけられるはず」

ああ、あの写真の事か。って、解像度でクルミにマウント撮ろうとしても無駄なんだが、無知って怖いな。

クルミがいくつかのコマンドを叩き込むと、即座にその写真が解析され、DAが解析したのよりも鮮明な画像が出てきた。

「なっ!? な、なぬっ!?」

「つまりDAもこの画質しか持ってないってことか」

「そりゃあな。ラジアータに俺が仕掛けてあるバックドアにすら気づかん連中だ。程度は知れてるよ」

「うぉぉおあ!」

後ろから声をかけると、ミズキが慌てて振り返った。

「睦月、お前はどうなんだ?」

「とっくに。まあやったのは俺じゃなくてアリスだけど」

「ああ、あのアンドロイドか。さすが、優秀じゃないか」

「そりゃもう♪」

俺とクルミが話し合っていると、振り向いたミズキが悔しそうにわなわなと震えていた。

「ところでミズキ。この写真、DAを出し抜けるかもしれないぞ!」

情報を多く持つものが有利。言うまでもないことだ。

「って、どうした?」

ミズキの震えに気づいたクルミ。

「なんでもないよっ!!」

半泣きになりつつもフロアへと戻っていった。

「何を怒っているんだ?」

「さぁ??」

俺とクルミが顔を見合わせていると、アラームが鳴った。

「お、時間だ」

「ああ、もうそんな時間か。荷物持ってくぞ」

「悪いな。頼んだ」

クルミが足元から出した箱を手にフロアへと向かう。後ろから押し入れから飛び降りたクルミがついてくる。

「今日もお前は参加しないのか?」

「ああ、どうしても、ね」

「器用なのも不便なものだな」

 

ーーーーーー

 

リコリコの扉に準備中の札が掛けられる。

「というわけで! 閉店ボドゲ会スタート!!」

千束の声に合わせて歓声が上がる。リコリコではたまに開催される閉店後に行われる常連だけが参加できるボドゲ大会。

「締め切り明日って言ってたっすよね?」

「今日の私には関係ないし~」

「よしましょう、仕事の話は」

「実は自分も勤務中で」

「刑事さん、悪だねぇ」

「早く始めましょうよぉ」

「じゃあ順番決めるぞぉ」

俺は参加しないが、いつもこうして盛り上がっている。

「ねぇ、たきなも一緒にやろうよぉ。レジ締めなら私も手伝うからぁ」

「もう終わりました」

いつものように千束がたきなを誘うもなしのつぶて。

「はやぁ」

「レジ誤差0、ズレなしです」

「お疲れ。たきなが来てから誤差無くて助かるよ」

「いえ、お気になさらず」

明日の仕込みも終わり、タオルで手を拭きながらカウンターに出る。ほんと、先生がやるとたまに打ち間違えで桁単位のズレが出ることもあるんだよね・・・。

たきなならそのあたりの補正もしてくれるからほんと助かっている。

「ってことは、もう暇でしょ」

「たきなちゃん、ほらおいでよ、こっちこっち」

「どうだ、たきな」

漫画家の伊藤さんとか、刑事の阿部さん、あとクルミが声をかけるが。

「いえ、結構です」

と奥に行ってしまう。

「おじさん多すぎなのかなぁ」

「恥ずかしいのよ、お年頃」

「店で遊ぶ方がおかしいんだけどね」

「そうかぁ?」

断られてもすぐに切り替えてゲームに入る面々。たきな、ストイックなタイプだし、こういうのには慣れてないというか、無駄だと思ってる節があるんだよなぁ。

 

「混ざってきたらどうだ」

「そうすればDAに戻れますか」

「ねぇ、たきなぁ」

「なんです?」

「一緒にゲームやろ? ね?」

「もう帰るので」

このバックヤードでのやり取りも最近の恒例。いくら誘ってもたきなは参加しない。

「あー、じゃあ明日は?」

「明日は定休日ですよ? 着替えるので」

にべもなく扉は閉められる。

「たきなの性格からして、参加しないだろうな。その時間があるなら訓練に当てるタイプだよ、あれは」

「つー君諦め早くない? たきな、定休日だから集まってゲーム会するんだけど」

いやそれよりもお前は行くところがあるだろう、ちーちゃん。

「千束」

「?」

先生の半分呆れた声が飛ぶ。

「健康診断と体力測定は済ませたのか?」

「え、あ、いや、まだ、あ、あんな山奥まで行くの怠いし」

「明日が最終日だぞ。ライセンスの更新に必要だ。仕事を続けたいなら行ってこい」

「うぇぇぇ。そこは先生うまく言っといてよぉ。先生の頼みなら聞いてくれるでしょ、楠木さん」

と、いきなり扉が開く。

「司令と会うんですか」

「うぉぉぉぉう馬鹿服!!」

見えたのは下着姿のたきな。あっ、やべ。

「つー君?」

「何も見てないよ、うん」

「だよね。黒い下着だったね」

「いやみずい・・・あっ」

やべっ。

「つー君。不可抗力な面もあるし、正直に言えばまだ許してあげようと思ったんだけど。あとで覚えててね」

「はい・・・」

どうやら俺のライフが減ることが確定したらしい。

「私も連れて行ってください」

「はやっ」

また扉が開くと、今度はセカンドの制服を身に着けたたきなが出てきた。いや着替えるの早いな。

「お願いします」

そう言って頭を下げるたきな。そうまでして司令に復帰を直談判したいんだろう。

「お願いします」

更に深く頭を下げる。

「わかったよ、たきな」

千束が折れた。

 

ーーーーーー

 

次の日。俺、ちーちゃん、たきなの三人は中央線の特急電車に揺られていた。

「楠木さんになんて言うの?」

「今、考えてます」

ひたすらにメモ帳に考えをまとめている。

「たきな、飴いる?」

「結構です」

千束が構おうとするも、ほとんど拒絶モード。

取り出した飴を食べようとする千束だが。

「これから健康診断ですよ」

普通は健康診断前に甘い者食べようとはせんわな。普通は。

「一個だけだし」

「糖分の摂取は、血糖、中性脂肪、肝機能、他の数値に影響を与えます」

「そういうことだ。あきらめろ。っと」

「あーーー!!」

というわけで、千束が開けた飴は俺の口の中に。甘くておいしいねぇ。

「つー君!」

「帰ったらスイーツ作ってやるから。今は我慢しなさい」

「はーい」

子供かお前は。

 

「ところで、何で睦月までついてきているんです?」

「司令とOHANASHI。あまりしたくないんだけど、言うことは言っておかないといけないし。会議とかのたまってたけど、無理矢理に時間こじ開けさせたわ」

「なんかお話のイントネーションが違うような・・・。というか無理矢理ねじ込めるって、ほんと睦月さん何者ですか」

 

ーーーーーー

特急の後は顔が電子レンジに似てる鈍行に乗り換えてついた先。そこでは黒塗りのミニバンが俺たちを待っていた。

「お待ちしておりました。錦木千束様、錦木睦月様、井上様」

車に乗ってしばらく。国有地の看板とフェンスのゲートで止まる。

「べーーっ」

監視カメラで確認し、適切な車両のみを通すのだが、カメラに向かって千束が下を出している。だから子供かお前は。

続いて検問所を通り抜け、奥にある大きな建物の前に着く。

入り口にあるゲートで顔認証。と鞄のX線検査。それが終われば受付でそれぞれの行く先を確認する。

「錦木千束さんは体力測定ですので、隣の医療棟へ。井上さんは」

「楠木司令にお会いしたいのですが」

「司令は現在会議中です。すぐに戻られますが、錦木睦月さんとの会議がありますので」

「じゃあ俺の後に入れてください。あまり長くかからないと思いますので」

受付の人と調整していると、後ろからひそひそ声が聞こえてきた。

「あれっ、ほら。味方殺しの」

・・・あ??

「DAから追い出されたんでしょ?」

「組んだ子みんな病院送りにするんだって」

・・・ほう。

「なんだぁ、あいつら」

こういう噂ってのは尾ひれがつくものだが、当然いい気分はしないな。

「お待ちになりますか?」

「あ、はい」

「指令無視したんだって」

「え、何でそんなことするの」

すまんちーちゃん。悪いけど限界だ。

「はっ、自分で判断もできない、外に出た事もないセカンドとサード如きが。情報の精査もできないとか、そんなんでよくリコリスやってられるよ。それじゃ仲間を失うのも噂のリコリスより早いんじゃないか? いや、仲間よりも先に自分がいなくなるのかな?」

「ちょっとつー君!!」

千束に袖を引っ張られる。煽られたと感じたセカンドとサードがこっちを向いてくるが、睨みつけたらすぐに行ってしまった。はっ、三下が。

「相変わらずつー君、仲間のことになると導火線短いんだから」

「だってたきなが守ろうとして行動したんだ。それをああやって現場にもいなかったやつらに好きかって言われてたまるかっての」

「気持ちはわかるけどさぁ」

「あの、もういいですから」

千束と軽い口のじゃれ合いをしていると、たきなが割って入ってきた。

「別に気にしてませんから。私、訓練所に行っていますね」

「おう、じゃあ後でな。終わったら楠木連れてくから」

「楠木さんを呼び捨てかいっ」

たきなを見送り、俺は会議室に。千束は医療棟へ向かった。

 

ーーーーーー

 

「よく来たな。座れ」

「どうも。とりあえず時間作ってくれたのには感謝しますよ」

会議室で持ってきた資料を渡しつつ、司令の反対側に座る。

「で、話とはなんだ」

「先の銃取引の件について」

司令の目が細まる。

「そちらがラジアータの件を秘匿しようとしているのは知っていますが、それでもいうことは言っておかないといけないので。ああご安心を。盗聴器は全て無力化済みです」

「仕事が速いな。聞かせてもらおうか」

「はい。まず・・・」

簡潔にまとめると、ラジアータへのハッキングをしたものの処理は誰かが行い住んでいるが、今後もないとは限らないことを。誤情報を掴まれるで済めばよいが、このまま放置した場合、DoS攻撃などでラジアータがダウンする可能性も否定はできないこと。そうなればDAの隠匿は不可能になり、どうなるかわからないことなどをまとめて話した。それに合わせて、アルゴリズム改善による処理能力向上や、物理的にサーバを増やして処理能力を向上させる案など、対費用効果を合わせて提案。

またたきなに関しての裏付けも取る。たきなの左遷で幕引きを図ろうとする上層部の思惑も確認し、司令が動かないと何かあったときに首を切られるのも司令と伝えた。

「そうか。一通り理解はした。私の権限でどこまで行けるかはわからないが、改善策に関しては今回の件とは関係なく上げておこう」

「わかりました。正直、ラジアータがダウンするとリコリスの命にもかかわりますからね」

その後もいくつかの話を終え、すべての話題が終わる。

「さて、司令。ちょっと会ってもらいたい人がいるので、来てください」

嫌そうに目が細まった。

「嫌だと言ったら?」

「ラジアータの件を流します」

ため息一つで立ち上がる司令。とりあえず拒絶されるのは間違いないけど、たきなに会わせよう。

 

ーーーーーー

 

休憩室に向かう途中で、千束とあとフキに会った。

「久しぶりだな、千束」

「フキじゃん、銃取引以来だね。お久」

フキが慌てて立ち上がる。千束はそのまま。

「どぉもぉ」

「リコリスの義務は果たさないくせに、ライセンスの特権は欲しいんだな」

「DAの仕事もたまにはやってるじゃないですか」

「それに、ライセンス無くなって困るのはそっちも同じでしょうに」

「っ・・・」

俺の援護射撃で司令が黙る。わーい、勝ったー。・・・俺は子供かな?

「千束、それに睦月も。司令の前だぞ」

千束に司令の威厳が効くわけないのはわかってるだろうに。フキも真面目なんだから。

「たきな、何で追い出したんですか」

「命令違反だ、聞いてるだろ」

「だけど、仲間を救った!」

「その結果、千丁の銃の行方は依然不明だ。商人は殺してはいけなかった。何よりも、バックアップまとめて殺しそうになったんだ」

「これ見たでしょ?」

千束が例の写真を見せる。

「取引時間間違えてた司令部のせいですぅ。楠木さんにだって責任あるでしょ?」

「おい、千束」

それを言われると弱いのか、話題逸らしにかかる司令。

「他人の処遇を気にする前に、もっと働いてほしいものだがなぁ。遊びでお前にライセンス出してるわけじゃないんだぞ?」

「あー、ごまかしたー!」

指をさすな千束。

「やめろ!」

止めに入るフキにも矛先が向く。

「だいたい、状況判断ができなかった現場リーダーにも責任あるんじゃないですかねぇ?」

ぶっちゃけその通り。あそこはフキが判断するべき立場で役目だった。司令の指示が無いと動けないのなら、現場リーダーなんか必要ない。

「仕方ないだろ、通信障害で司令部と連絡が」

「フキ」

あーあ、言っちゃったよフキ・・・。当然司令からの叱責が飛ぶ。

思わず空を見上げた俺。千束の目線を感じて顔を戻すと、知ってたな貴様という心の声が聞こえてくる。あとで全部話すから許してクレメンス。

「つぅしんしょうがぁい??」

ほーら千束のギアが上がる。

「ラジアータでモニターされてる作戦中に通信障害なんて、普通じゃないでしょう」

「ただの技術的トラブルだ」

そういうことになってるんだ、千束。

「いやいや、ちょっと楠木さん。ラジアータをクラックされるなんてヤバすぎでしょ!」

「何を言ってるのかさっぱりだな」

「楠木さん!!」

「辞めろ千束。命令も聞かず独断専行するリコリスなんか使いものにならねぇ。それだけだ」

「フキぃ・・・」

「ともかくたきなのところに行くんだが、お前らも来るか?」

「行くぅ」

こうして同行人が増えた俺たちは、まとまってたきなのところに向かった。なお道中、千束がすっごいうるさかった。いつの間にか司令が耳栓してたけど、慣れてるなぁこの人も。

 

ーーーーーー

 

訓練場にたどり着くと、たきなにセカンドが絡んでいた。なんだあいつは。たきなに煽り散らしおって。

「ちょっと」

千束が襟首をつかんで引きはがす。

「黙れ小僧」

「あんた誰っすか?」

「そいつが千束だ」

「フキせんぱ~い。お、司令まで。あと、知らない男の人?」

「俺は睦月だ。千束の相棒」

司令に気づくと一応姿勢は正すセカンド。しかし性格悪いな、こいつ。あとで身の程わからせたろか。

「お、これらが電波塔の二人っすか」

「「これっていぅなぁ」」

「いや、そっちはただのアホだ」

フキが千束に辛辣なことを言う。まあアホって言われると否定できんな、千束は。

と、たきながセカンドと千束を押しのけて司令のところに向かう。

「司令、私は銃取引の新情報となる写真を獲得し、提出しました。この成果ではまだDAに復帰できませんか」

「復帰」

「成果を上げれば私はDAに戻れ」

「そんなことを言った覚えはない」

「楠木さん!!」

千束の声が飛ぶ。

「そんな・・・」

「あきらめろって言われてるの、まだわかんないんすかぁ?」

「おい!!」

「お~、こっわ。さすが電波塔のヒーロー様。噂通り迫力ありますねぇ」

「サクラ、訓練の時間だ行くぞ」

「残念、もっと話したかったのに」

サクラを連れてたきなの横を通るフキの手を、咄嗟にたきなは掴んでしまう。

「んだよ?」

「すみません」

「あの時ぶん殴られたので理解してなかったのか? だったら言葉にしてやる。お前はもうDAには必要ないんだよ」

「やめろフキ!!」

千束がフキの胸倉を掴む。

「まだ理解できないか? なら今から模擬戦でぶちのめしてやるよ」

・・・フキ、正気か? 正直、黙ってボルテージをため込んでいた俺だが、あまりの暴挙に少しだけ冷静になる。え、フキ、正気で千束に勝てるつもりでいるの??

「おぉおぉおぉ、いいじゃん。たきな、やろうやろう!!」

黙ったままのたきなにサクラが煽りを入れる。

「あれぇ、びびってんすかぁ?」

「よぉし、2対2で勝負だ!」

しかし、たきなはそのまま走って部屋から出て行ってしまう。

「あぁ、たきな!!」

「あっはっは。にーげやがったよー」

すぐさま千束が後を追う。

「お前も逃げんのかー」

「千束、これもってけ!!」

たきな、色々一杯で処理しきれなかったんだろう。たきなは千束に任せるとして。ついでにあのデータも渡したし、千束なら走りながら読むことくらい楽なはずだ。俺は限界に達した鬱憤を晴らそうじゃないか。

「フキ」

自分でも恐ろしいくらいに低い声が出た。

「っ!!」

フキとついでにサクラが姿勢を正した。

「お前、そいつのパートナーなんだよな? パートナーならきちんと手綱握っとけよ。それかあれか? お前ファーストの癖にパートナーの躾もできないのか? ファーストの質も下がったよなぁ。つか独断専行するリコリスはいらないだぁ? それを操るのが現場指揮官のお前の仕事だろうが。あまり俺達を愚弄するのもいい加減にしろよ。それにあの時、お前には俺が居た事が伝達されていたのは確認してる。それを伝えなかったのはお前の責任だ。自分の事を棚に上げて偉そうで羨ましいよ」

「すまない」

俺の自然と出ている威圧にビビったのか、即座に謝罪してくるフキ。だがもう遅い。

「司令、こいつらの模擬戦の後、出せる面子全部出して構わないので、リコリコと本部で模擬戦組んでください」

「あ、ああ。わかった」

司令もたじたじとしている。俺と千束とたきな。二度と煽れないようにしてやる。

「それからもう一つ、お願いがあります。あとで正式に書面でも出しますが」

俺がお願いを伝えたら了承されたが、それを聞いた面々は誰も驚愕の顔になっていた。

 

なお俺が模擬戦の上にある監視室に行こうと部屋を出た後。

「お前この馬鹿野郎!! 煽っていい相手と容量を考えろ馬鹿がっ!」

「いってぇ、何するんすか先輩!」

サクラはフキにどつかれていた。

 

ーーーーーー

 

DA寮の1階。噴水の前でたきなは佇んでいた。

「ここだと思った。リコリスはみんな好きだもんねぇ、ここ」

「この寮で暮らすことは、DAに拾われた私たちみんなの憧れ。この制服に袖を通したときも」

「うれしかったよねぇ」

それを以外とばかりの顔をしつつ振り向くたきな。

「そんな意外そうな顔しないで。私だってそうだよ」

「なら、千束さんにもわかるでしょう」

一転険しい顔になるたきな。

「ここが目標だった! それを私は奪われた!! どうして、こんな」

「たきなを必要としている人が街にはたくさんいるよ。ここじゃなくたって」

「あなたはDAに必要とされてるから良いですよね!! 私には・・・私の居場所は・・・もう、ここにはない・・・」

自分の気持ちを履ききって、少し落ち着いたたきなは、千束に背を向けた。

「ごめんなさい」

「たきな」

「わかってます。全部自分のせい」

「あの時たきなは仲間を救いたかった。それは命令じゃない。自分で決めて、どうすればいいか考えてやったことでしょ。それが一番大事。それに、たきなの処遇とはそれとは関係ないよ」

千束がたきなに、さっき睦月から投げ渡されたタブレットを渡す。中には、銃取引の時のハッキングに伴う通信障害についてと、それの処遇についてがまとめられていた。目を通したたきなは、驚きで目が広がる。

「あの日、通信障害があったんでしょ?」

「ええ。数分ですが」

「技術的トラブルってことになってるらしいけど。そこにある通り。ラジアータのハッキングが正体だよ」

「ラジアータが・・・」

「それ。DAの機密性を担ってる最強AIだよ? それ以上の私は一つだけ知ってるけど。全てのインフラの優先権を持ってるのに、通信障害なんてありえない」

「ハッキング・・・。それで取引時間が」

「でも、そんなことは報告できないから、リコリスの暴走ってことでたきなを」

そこまで聞いたたきなは先ほどの司令と話した部屋に戻ろうとする。

「え、どこ行くの!?」

「理不尽です! 司令に話して!」

あわててたきなを止めようと腕を掴む千束。

「ちょちょちょちょ! シラ切られるだけだって。それにこれはもうつー君が楠木さんに提出済みだよ。これつー君がまとめた資料だし、あのつー君が楠木さんに出さないわけがないよ」

「ならどうすれば!!」

憤りでいっぱいのたきなを千束が抱きしめる。

「たきな、今は次に進むとき。失うことで得られるものもあるって」

落ち着いたのを感じた千束はたきなを離す。

「たきながあの時ああしなかったら、私たちは出会えなかったよ? つー君とだって」

それを見ていたサードがくすくすとヤジを飛ばす。

「私は君と会えてうれしい♪」

たきなを持ち上げて、ぐるぐると回る千束。

「ちょ、ちょっと」

「嬉しい♪嬉しい♪」

何回か回ったところで、たきなは降ろされる。

「誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまんないって。居場所はある。お店のみんなとの時間を試してみない? それでもここが良ければ戻ってきたらいい。遅くない、まだ途中だよ。チャンスは必ず来る。その時、したいことを選べばいい」

「したい、こと・・・」

「そう! 私はいつも、やりたいこと最優先。まあ、それで失敗も多いんだけど。今は、たきなに酷いことを言ったあいつらをぶちのめしたいので、ちょっと行ってきますよ」

そうして訓練棟へ向かおうとする千束。だが、一瞬だけ振り返ってこう告げた。

「その資料、最後まで読んでみて。そうしたら、できれば来てくれると嬉しいな」

たきなが資料の最後のページを開くと、そこにはこう書かれていた。

「1年後、井上たきなにファーストへの昇格試験を受けさせることを司令に認めさせる。そこまでには俺と千束がみっちり仕込む。たきながリコリコに来て良かったと少しでも思えるように。そして、たきなが笑顔でDAに戻れるように」

確かにファーストに上がれるだけの実力があるとなれば、多少の独断専行の罪など消して余りある程の功績になる。ファーストにはそれだけの権限があるし、だからファーストしか現場指揮は任せられない。それにファーストを遊ばせておくほどDAに余力があるわけじゃない。千束がそうであるように、ファーストであれば支部から本部に引き抜かれるのも容易に考えられる。

「睦月、さん・・・」

そうか。私がこうしてDAから追い出されなかったら、電波塔の英雄の二人に教えてもらう機会もなかったし、こんなに早くファーストに上がる機会が巡ってくることもなかった。

今は次に進む時。失うもので得られるものもある。お店のみんなとの時間を試して、それでもここが良かったら戻ればいい。遅くない、まだ途中、チャンスは必ず来る。その時にしたいことを。

「少し、のんびりしてみよう、かな・・・」

 

ーーーーーー

 

模擬戦が始まった。

たきなはまだ来ていないが、まあ千束に任せておいたんだ。そのうち来るだろう。

「どちらが勝つと思う?」

「賭けます?」

「いや、賭けにならんだろう」

横にいる司令を横目に見る。なんだかんだ言って、あんたも千束の実力は認めてるんじゃん。

千束がサクラにCQCを仕掛け、早速二回殺す。

「セカンドの質落ちたんじゃないですか? あれでファーストのパートナーとは。と言うかしくって人質になったのもセカンドじゃん」

「それに関しては弁明の余地もないな。正直、任務に対して人の数が見合っていない。どこかの誰かが育ったのを逃がすのもあるからな」

「無理矢理やらせてる方が問題ですよ。あの子達、今は生き生きとして後進育成してますし、教え子は優秀ですよ」

少しして、千束が罠を張り、見事引っかかったサクラは接近する千束に一発も与えられず、弾切れなのにマガジンを交換することもできずにあっさりと制圧された。

後ろからフキが千束を狙うも。

「のあああああああああああああああああ!!!!!」

走ってきたたきながフキの頬に一発。そのまま勢いを逃がしつつ反転し、たきなとフキの間に千束が挟まる。

「終わったな」

「終わりですね」

いつも俺とちーちゃんがやってるのと似たように。たきなが撃った弾を千束は躱し。そのままフキに命中した。

「フキのやつ、後ろからの警戒怠りやがったなぁ??」

「実戦のつもりでと言ったのに」

実戦において、思いもよらぬ増援などありすぎるくらいに起こりうることである。

「正直、全員休暇取り消しで鍛えなおした方がいいと思いますよ。これじゃ危なすぎる」

「そうだな、明日からそうしよう」

知らぬところで、本部リコリスの命運が尽きていた。

「じゃあ、俺は次に備えていってきますんで」

「ああ」

部屋を出て、次の模擬戦に備える。さて、かわいがってやろうじゃないか。

 

ーーーーーー

 

全ての模擬戦終了後

本部のDAは睦月、千束、たきなの三人に手も足も出ずに敗北した。

「これが千束と睦月ですか。動きは初めて見ます、どういう魔術ですか?」

「千束は卓越した洞察力で相手の射線と射撃タイミングを見抜く天才だ。睦月は発明力といったところか。身体能力はそれほどでもないが、高感度センサー、身体補助ツール、防弾シールドなど、自己開発した装備を使うことでその戦闘力を飛躍的に高めている天才だ」

司令が50cmの距離で指鉄砲を作り、秘書に向ける。

「この距離からでも、あの二人を撃つのは難しい。しかし、それ以外は、生意気なクソガキだ」

 

ーーーーーー

 

「たきなー、つー君、帰りの車来たってー」

「今行きます」

「おーう、今行くよー」

千束が先に行き、たきなと二人きりになる。

「あの、睦月さん」

「なんだ、たきな?」

「私、1年でファーストになれるでしょうか?」

「ああ、あれ読んだのか。俺の見立てじゃ素質は十分。と言うか、身体能力的にはもうフキを上回ってると思ってる。もっと気を抜いて遊ぶことを覚えれば、それだけ視点が広がってより多くの戦術が見えてくるはずだ。今回の模擬戦でフキにも、他のセカンドにだって負けずに勝ったんだ。俺とちーちゃんが教えれば、絶対昇格できるよ」

不意打ちだが、不意打ちも立派な戦術だ。それでぎゃーぎゃーいうやつは俺がぶちのめす。いやもうさっき全員ぶちのめしてきたけど。

「そうですか。ご鞭撻、楽しみにしています」

「おう、任せとけ!」

「二人共ー置いてっちゃうぞ~? 置いてかないけど~♪」

途中でフキがたきなを待っていたので、たきなを置いて先にちーちゃんのところに向かう。さて、帰りますかねぇ。

 

帰りの富士急線の電車の中。

「たきなさぁ」

「なんです?」

「私を狙って撃っただろ」

千束が出した飴を見ずに受け取るたきな。

「きっと避けると思いましたから。いつも二人共そうされてますし」

俺も千束から飴を受け取って口に放り込む。

「そうだなぁ、そのうちそれの訓練もしないとなぁ。帰ったらたきなの訓練計画立てるかぁ」

「いいね、私も混ぜてよ?」

「安心しろ。最初からちーちゃんは戦力としてカウント済みだ」

俺とちーちゃんがにやっとしていると、たきながぼそり。

「非常識な人ですよ、あなた達は」

「でも、スカッとしたなぁ♪」

「ええ♪」

その時のたきなの笑顔は今まで見た中で一番の笑顔だった。

と、その時千束の携帯が鳴った。

「お、おぉ。見てみ?」

写っていたのはコロンビアしてるクルミやら、ポーズをとる四人と。

「ボドゲ大会、延長戦中! 間に合いそうなら連絡PLZZZ!」

「どうするぅ?」

「二人で参加してくるといいさ。よし、こっちも写真撮るか」

俺が千束のスマホで二人の写真を撮る。うん、かわいい。

「二人で行くぜ」

送信完了。

「あれ、睦月は参加されないんですか?」

「あー、俺はなぁ」

ちーちゃんと二人で苦笑いになる。

「手癖が悪くてイカサマしそうになるから、基本参加しないんだ。面白くないからね」

「だから、つー君が参加するのはたまにやるイカサマオーケー大会の時だけなんだ。その代わり、イカサマが入るつー君はうまいぞぉ」

「ちーちゃんの洞察力でなんとか見破れるくらいだしな。ちーちゃんも指先の悪ささえあればできる素質はあると思うんだけど」

「普段のボドゲに参加できなくなるから私はやりませーん♪」

クスクスと笑い合う俺たちをたきながジト目で見つめる。

「ほんと、非常識な人達ですよ。とっても、頼もしいですが」

 

「そうだ、睦月さん」

「なんだ?」

「私も愛称で呼んでください。なんか千束と差があるようで嫌です」

「おー、たきな嫉妬かぁ?」

「いいぞぉ。そうだなぁ、たきな、だから。たーちゃんでどうだ?」

「いいですね、ではそれで。あと、一方的に呼ばれるのも嫌なので、つーさんとお呼びしても?」

「ん、いいぞ」

「えーーー」

愛称で呼ぶってなると、一気に距離が縮まった感じがする。千束は不満らしいけど、俺も呼ぶんだし良くない?

「たーちゃん」

「はい、つーさん!」

「たーちゃん♡」

「千束はたきなと呼んでください」

「えぇ、なんでだよぉぉぉ」

クスクスと笑う俺とたーちゃんと、ぶーぶー文句が尽きない千束であった。

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