Recoil of Lycoris and Lilybel   作:小鳥遊 小佳夏

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Nothing seek,Nothing sight

DAM DAM DAM DAM DAM DAM DAM DAM DAM DAM

リコリコの地下に銃声が響き渡る。

スライドストップしたS&W M&P45を下ろし、先ほどまで売っていた弾丸を手に取るたーちゃん。

「何ですか、これ」

「私も当たんない♪」

「ほんと当たらないんだよなぁ、こいつ」

三人で射撃訓練と望んでいたが、プラスチック・フランジブル弾は本当に当たらない。

「だからですか?」

「そう! 近寄れば絶対当たる!」

ちーちゃんはその洞察力から弾丸を躱して接近ができる。だからこの弾を使っていても問題がない。俺は機械の力を使ってるけど、それは千束に合わせないといけないからで、ちょっと意味が変わってくる気がする。

「私には無理ですね」

「だろうなぁ」

「この命中率では自分を守れない」

たーちゃんが通常弾を装填してあるマグを手に取り、S&W M&P45に装填。スライドを戻すと、素早く構え早撃ちする。

その結果は。反動もしっかり押さえきってど真ん中に全弾命中。

「すごいねたきな、機械みたい。実弾でそれだけ上手なら急所を避けられるでしょ。無理に先生の弾撃つことないよ」

「ちーちゃんは通常弾の命中率もアレだからなぁ。下手に使うと急所に当たって殺しかねない。逆にたーちゃんは、常日頃から急所を狙わない戦術で射撃精度の向上ができるかもしれんな」

「アレってなんだアレってぇ!」

それを聞いていたたーちゃんが少し笑いながらこちらを見てきた。

「急所を撃つのが、仕事だったんですけど?」

ほんと最近変わったよなぁ、たーちゃん。

「もう違うでしょ?」

ちーちゃんとたーちゃん。二人の笑顔が眩しかった。

 

「ところでなんで地下に射撃場があるんですか、ここ」

「先生が、いい仕事には日頃の研鑽が必要だからって。マンションにも用意したんだけどなぁ」

「つーさんも店長も、よく用意しますよこんなの・・・」

 

ーーーーーー

 

ある日の夜。

たーちゃんと買い出しに行った帰りの事。リコリコのお店の前にて。

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

中からちーちゃんの悔しそうな叫びが聞こえてきた。

たーちゃんと顔を見合わせ、何があったのかと中に急ぐと、VRゲームをやっていたようで画面にはLOSEの文字。これはあれだな、ちーちゃんの負けず嫌いが発動してるな。

「ぐや゛じぃ゛~~~~~」

「むきになりすぎだよぉ」

クルミの呆れた声が聞こえる。ちーちゃん、負けると勝つまでやろうとするからなぁ。

「だっ゛でごの゛人゛名゛前゛がム゛カ゛づぐ!! ってたきな?」

悔しいからって喋る言葉に全て濁点をつけるな。子供かお前は。

「いいとこに!! これやって、これやって!!」

帰って早々、たきなはVRヘッドセットを装着される。

「あー、このゲームかぁ。これ動くから苦手なんだよなぁ」

「つー君は派手に動くからねぇ。何回テーブルで負傷してたか」

「そもそも狭いとこでやるゲームじゃねーからな、これ」

「おぉ~~、おぉ? お、リ、リアル、ですね?? なにこれ」

「お、たーちゃんはVRゲーム初めてかぁ」

「はいはい、これ持ってぇ?」

手渡されるコントローラーをわけもわからずに握るたーちゃん。

「敵とってよぉ、スタート!!」

そしていきなり始まるゲーム。俺とちーちゃんとクルミは画面でたきなの目線視点で見る。

いきなり出てきた敵に撃たれ、戸惑いつつも思考を戦闘時に切り替えたたーちゃんは、体を動かして回避しつつ、反撃を入れる。

「うぉあぁぁぁやばいやばいやばいぶつかるぅ!」

たーちゃんがテーブルにぶつかりそうになったので、クルミとちーちゃんと協力して、慌てて座敷からテーブルをどける。あと踏んで転ばないように座布団も。

そしてどかしたままの姿勢でたーちゃんの行く末を見守っていると。

「ふっ」

大きく躱そうと後ろに一回転したたーちゃん。リコリスの制服を着ているのでもちろんスカートである。そして俺とちーちゃんがいるのはたーちゃんの後方。そこで縦にぐるんと回ったらどうなるか。答えは、見えてるものがスローモーションになって見えちゃいけないし見えたらおかしいものが見える。

「「・・・」」

思わずちーちゃんと顔を見合わせ固まる。

「おぉ」

と、画面を見ていたクルミの感嘆する声。

画面を見てみると。

「winner winner chicken dinner!」

の文字。おぉ、たーちゃん勝ったか。

「勝った!? しゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

「喜びすぎでしょ・・・」

「まあ相手が相手だからなぁ」

さらっとアリスシステム使って調べてみたところ、名前の通りの相手だということが判明。

「だって、こいつ名前がむかつくんだもん!」

「まあフキだもんなぁ、相手」

「え、嘘・・・。私、フキに負けたの・・・」

「そんなに嫌なんですか、フキさんに負けるの・・・。と言うかよくわかりましたね」

「アリスちゃんは何でも知ってるからなぁ」

まるで誰かが死んだ時よりも落ち込むちーちゃんであった。

 

ーーーーーー

 

「・・・むぅ」

「・・・うむぅ」

ゲームを片付けた後。ちーちゃんと俺はテーブルに座って唸っていた。

「クルミ」

「んー?」

「たきなのパンツって見たことある?」

「あるわけないだろ」

ばっさり。

「ちぇ~、何でも知りたいんじゃないのかよ」

「ノーパン派か?」

「いやいやいや」

「それだったらさっきは大惨事だったなぁ。いや別の意味で惨事なんだけど・・・」

「なら何履いてようとたきなの自由だろ」

「そうなんだけど・・・あれはなぁ」

すると唐突にちーちゃんが立ち上がり、更衣室へと向かう。俺は手前の廊下で壁にもたれかかって結果を待つ。さすがに中に入ったらセクハラどころの騒ぎじゃないし。

勢いよく扉を開け、中に入ったちーちゃんはがばっとたーちゃんのスカートめくり。

「なんですか?」

半ば怒りが籠ってそうなたーちゃんの声が聞こえてくる。

「なに・・・これ・・・」

断末魔に似たちーちゃんの声。

「下着です」

「そーーーーじゃなくて、男物じゃん!!」

「これが指定なのでは?」

「「んなわけあるかぁ!!!」」

流石の俺も我慢できず更衣室に入ってちーちゃんと一緒に突っ込み。指定の下着ってなんやねん! ちーちゃんと一緒に長くリコリコにいる俺ですら知らんわ!!

 

「聞かせてもらいましょうか!」

カウンターにバンと手を突き、尋問モードの千束。尋問されるのは唯一そんなことを言いそう(少し偏見含んでるけど)な先生。

「店の服は支給するから、下着だけ持参してくれと」

せやな。俺とちーちゃんもそうなっとるなぁ。

「どんな下着がいいかわからなかったので」

真面目なたーちゃんの事だ。それもわかる。

「だからって、何でトランクスなのぉ」

「いや店長が」

「好みを聞かれたからな」

「「あほかぁ!!!」」

まずそもそもなんで先生に聞くんだたーちゃん? それで先生もなんで趣味の方答える??

「これ、履いてみると結構開放的で」

「そーじゃなーい」

「あ、でもそれはわかるかも」

「ですよね! つーさん!」

「ああ。女性物の下着ってぴっちりしてるからなぁ。それに比べれば解放感あるよね」

「そうですそうで・・・え、なんでつーさん女性物の下着の履き心地なんか知ってるんですか」

気温が下がった。

「いや、任務で女装しなきゃいけなくなって!? 下着も併せろってちーちゃんが言うから!」

「あー、そうやって人のせいにするー。あの時つー君ノリノリだったじゃん!」

「そうだけど! 結構楽しかったけど! 着せようとしてきたのはちーちゃんじゃん!!」

途端にやいのやいのと騒がしく。

「それはさておき! たきな、つー君。明日12時に駅に集合ね」

「仕事です!?」

「ちゃうわ!! パ! ン! ツ! 買いに行くの!! 帰るよ、つー君!!」

「はいよ、ちーちゃん。じゃあそういうことで、また明日ぁ」

「お、お疲れ様です?」

こうして強引に、明日の買い物デートが決まった。ちーちゃんと俺がお店から出て扉が閉まる間際、ちーちゃんが顔だけお店の中に突っ込んだ。

「あ、制服着て来るなよ? 私服ね私服」

それだけ言って外に戻る。確かにこれ言っておかないと、制服で来かねないもんな、たーちゃん。

 

なお俺達が帰った後、お店ではこんな会話がなされたという。

「指定の私服はありますか?」

「・・・・・・・・・」

指定の私服ってなんやねん。

 

ーーーーーー

 

翌日のお昼頃。北押上駅B3出口の入り口にて。

「たきなまだかなぁ」

「私達が早すぎたのよ。時間まではまだあるじゃない」

二人の美少女が立っていた。

一人は金色交じりの白い髪に赤目。黒いTシャツにホットパンツを合わせ、上から赤いロングジャケットを着ている。もう一人は同じ色の金色交じりの白い髪のロングに赤い目。服は黒いTシャツにミニスカート。ニーソックスにスニーカーを履いていて、上から赤いロングジャケット。二人が並んでみると、髪の色も併せて姉妹に見えなくもない。

と、そこに。

「お待たせしました」

「お、おぉおぉおぉ、新鮮だなぁ」

「あー、そうなるのねぇ」

よくわからないロゴが入ったダボっとしたTシャツにジャージの下。いやもうちょい何かなか・・・いやこれあれだな。たーちゃんのセンス以前に、私服を持ってないパターンか。たーちゃんの性格ならありうるぞ。

それよりも。

「銃持ってきたな、貴様」

ちーちゃんがいい笑顔になっている。そういう俺もいい笑顔になっている自信がある。

「捕まるつもりか?」

「駄目でしたか?」

「抜くんじゃねーぞ?」

「千束、その衣装は自分で?」

「衣装じゃねぇ」

これは下着の前に服だな、服。

「ところで、そちらの方は?」

指をさされたので首をかしげる。ああ、そっか。これ見せるのは初めてか。よし、変声機を切ってと。

「これでわかるか?」

「え、あの、まさかつーさん!?!?」

「どうだ、つー君の女装姿は」

「全く分かりませんでした。その衣装、凄いですね」

「だから衣装じゃねぇ」

いや俺のは衣装であってるよ、これ私服では着ないもん。

 

ーーーーーー

 

「一枚も持ってないの? スカート」

「制服だけですね。普通そうでしょう」

「ん、まあリコリスはそうだね」

「言われてみれば、制服以外のリコリス見たことが無いわよねぇ。リコリスって潜入とかしないのかしら?」

リリベルじゃ潜入の一環で、私服での変装とか習ったけど。

「言われてみれば、無いですね」

「私達と一目でわからせるための制服だからなぁ。制服じゃないと銃抜いただけで逮捕になるし、それの弊害かもねぇ」

「なるほどなぁ」

それ、その制服=リコリスって知れ渡ったらどうするんだろ。

「ところで、スカート買おうよぉ、たきな絶対似合う」

「よくわかりませんし、千束とつーさんが選んでくれたら」

「え、いいの!? おぉお、やったぁ!! テンションあがるわぁ♪」

「あー、これは長くなるわね・・・」

ちーちゃんのテンション具合からして、俺の疲労が倍増するのがほぼほぼ確定した。

 

ーーーーーー

 

複合施設に入り。その中の服屋でちーちゃんが生き生きとしていた。

「どっちがいい?」

「おぉぉ、こっちもこっちも」

「いい!!」

「いぃねぇ!」

「めっちゃ可愛い!!」

「どうも」

ひたすらにたーちゃんを着せ替え人形にするちーちゃん。俺は既にノックアウトしていた。ほんと女性の服はわからん。これもちーちゃんが選んでくれたやつだし。

場所は変わってコスメ。

「たきなぁ、リップグロス持ってる?」

「千束。そろそろ、本来の目的を」

「え」

そうしてくれ。俺は補助アーマーつけてないとリコリスには遥かに及ばない体力しかないんだ。リコリコの制服やいつもの外着ならアーマー入ってるけど、この服には入ってないんだ。ついでに人込みで酔いそうで精神的にも来てる。

「そうだった、下着だった」

 

ーーーーーー

 

次に来たのはランジェリーショップ。

「ここに入るためだけにこの格好させられたのよね、私」

「口調も相まって、違和感とかなにもありませんね。さすがつーさん。と言うか千束の姉みたいですね」

「そうなのよねぇ。服とかは全部ちーちゃんが選んでくれたのだけど、着たらそうなったのよね。不思議なものね」

二人で並んでいる下着を見ながら会話する。

「どお? 好きなのあった?」

「好きなの? を選ばなきゃいけないんですか?」

「え?」

「仕事に向いているものが欲しいですね」

「あぁ、銃撃戦向けのランジェリーですか?」

「ってそんなのあるかぁ!」

たーちゃんと言うかちーちゃんのボケに俺が突っ込む。そんなのあってたまるか。

いや足回りを阻害せず、不快感もなくて開放的そうな下着と解釈したら・・・トランクス?

またたーちゃんの下着が戻りそうな思考をしていると気づき、ぶんぶんと首を振ってその考えを追い出した。

「これいいんですけどね。通気性もよくて動きやすい。さすが店長だなって」

「いや先生そんなこと考えてるわけないだろ。大体トランクスなんて人に見せられたもんじゃないでしょ」

「パンツって見せるものじゃなくないですか?」

「いざって時どうするのよ」

「いざってどんな時です?」

おうその話題こっちに振ってくるんじゃねーぞ? なお問われたちーちゃんの顔は真っ赤。耳年魔。

「知るか!!」

と答えたところでたーちゃんが俺とちーちゃんの腕を掴んで更衣室へ。へ、なんで俺まで?

「なに?」

「なに、かしら?」

「千束のとつーさんのを見せてください」

「ほぁ!?」

「にゃっ!?」

「見られて大丈夫なパンツかどうか知りたいんです」

「ちーちゃんはまだしも、だからってなんで私まで!?」

「昨日の会話から、つーさんが女装の時は下着も女物のはず。任務で着る服なら、下着も見せられるものの可能性が高いと思います」

しゃがみこんで下腹部に目線を合わせるたーちゃん。いや、なにこれそこはかとなくえっちい。

「早く!!」

たーちゃんの勢いに負けて、ホットパンツを下ろすちーちゃんと、スカートをたくし上げる俺。なんだこの羞恥プレイ。

二人のパンツをじーっと見たたーちゃんは。

「これが私に似合うって言うと違いますよね」

「「その通りだよなんで見せたの私!!」」

俺とちーちゃんの心の叫びが口から出た。とりあえず、すり減ったメンタルを返してくれ。

 

「これでもうトランクスとはおさらば、男物のパンツは全部処分するからね」

「はい」

「さ、て、と。次は千束さんお待ちかねのおやつタイムだ♪」

「目的は完遂しましたよ」

「完遂って、仕事じゃないんだからぁ。今日は付き合ってよぉ」

今日はもう一日デートだな。女性2人と、女装1人でデートって言うのかは知らんが。あと休ませてくれ、体力がもうない。

 

ーーーーーー

 

「フランボワーズアンドギリシャヨーグルトリコッタダッチベイビーケークと、ホールグレインハニーカームバターウィズジンジャーチップスで」

「私は日替わりケーキセットで。飲み物はケーキに合うのを適当に」

「かしこまりましたー」

俺にはちーちゃんのような呪文詠唱は無理なので、適当に注文する。

「名前からしてカロリー高そうですね」

「そもあの呪文詠唱、よくできるなと毎回思うわ」

「野暮なこと言わない。女子は甘いものに貪欲でいいのだ」

「寮の食事もおいしいですけどね」

「あの料理長、元宮内庁の総料理長だったらしいよ?」

「それってすごいんですか?」

「え、凄いだろ」

「天皇陛下に出す食事を作る方だから、相当凄いわね。とはいえ、うちのアリスのご飯の方がおいしいけど」

「わかる~。あれを初めて食べた時の感動。今でも忘れられないね。あの料理長、スイーツ作ってくれないからなぁ。永久にかりんとうだから辛かった」

「若い女の子にかりんとうだけは軽い拷問ね」

「私、あのかりんとう好きです」

「そりゃぁあなた、最近来たからだよ。10年あれだけは飽きるよぉ?」

と、そこに料理がきた。

「お待たせ致しました」

「うぉっほおぉぉ、おいしそおおお♪」

ちーちゃんのテンションはMAXだ。

「これは糖質の塊ですね・・・」

「そりゃ、スイーツだもの」

「たきな! 人間一生で食べられる回数は決まってるんだよ? 全ての食事は美味しく楽しく幸せであれ~♪」

「おいしいのは良いことですが、リコリスとして余分な脂肪はデメリットになります」

「その分走る! その価値がほれにははるおいひぃ♪♪ ほらほらたきなも食べてぇ」

「食べながら喋らないの」

と、そこに後ろからフランス語が聞こえてきた。困っている様子に、すかさずちーちゃんが手助けに行く。

「凄いわよね、ちーちゃん。迷わずに手助けに行ける」

「そうですね。普通の人なら、見て見ぬふりをしそうなものですが」

「ちーちゃんはそれが嫌だから、リコリコにいるの。DAじゃ絶対できないから」

「なんか、少しずつ千束さんの事がわかってきた気がします」

ケーキを食べながら、手助けするちーちゃんを見守る。あ、この紅茶合うわね。さすが。

「あ、たーちゃんもどうぞ。あーん」

「あーん」

自分のケーキを切り分け、フォークに差してたーちゃんの口元へ。

「おいしいなぁ」

「それは良かったわ♪」

こうやって、息を抜く事も少しずつ覚えていこう、たーちゃん。

 

「ところでつーさん」

「何かしら?」

「仕草も完璧に女性ですが、性転換でもされるんですか?」

「しないわよ!!」

俺はたーちゃんの事がいまだにわからん・・・。

 

「食べたら良いところへ行きまぁす♪」

「ああ、あそこね」

戻って来たちーちゃんが笑顔で注文したカロリーの塊をもぐもぐと。その笑顔がとってもかわいくて。俺とたーちゃんはしばし見とれてしまった。

 

ーーーーーー

 

「良いとこって、ここですか?」

「んー。綺麗でしょ? ここ。私好きー」

と言うわけで、やってきたのは押上水族館。

「よく来るんです?」

「年パスー♪ たきなもきにいったらどうぞ?」

「つーさんも?」

「私はちーちゃんに作らされたパターンね。よく連れてこさせられたから」

「大変だったんですね・・・」

最初の頃は毎日のように連れてこられて・・・。

 

「どしたの?」

「タツノオトシゴね」

「これ、魚なんですって」

「マジ? ウオだったのかこいつ」

「この姿になった合理的理由があるんでしょうか」

「ご、合理ー? え、理由? えー?」

「なんかあるでしょう」

「何かありそうね?」

 

続いてやってきたのはチンアナゴ。

「これも魚ですかぁ」

「タツノオトシゴよりは魚っぽい感じするわね?」

二人でチンアナゴを見ている横で、ちーちゃんが両手を上げてゆらゆらと揺れていた。

「何してるんですか?」

冷たいたーちゃんの声。

「え、チンアナゴだけど?」

やっぱりちーちゃんは子供。うん。

「人が見てますよ。目立つ行動は」

「なんで?」

「なんでって私達リコリスですよ?」

「制服着てない時はリコリスじゃありませぇん♪」

「・・・」

「まあこういうやつよ、ちーちゃんは」

「そのうち慣れるでしょうか・・・」

「嫌でも、ね・・・」

はぁと二人重ねてため息をした。

 

「千束」

大水槽の前にて。相変わらずちーちゃんはゆらゆらと揺れて、俺とたーちゃんは椅子で休憩。

「ん~?」

「あの弾、いつから使ってるんです?」

「なぁに、急に」

「旧電波塔の時は?」

「あの時先生に作ってもらったのよ?」

「何か理由があるんですか?」

「なにぃ、私に興味あるのぉ?」

「タツノオトシゴ以上には」

「チンアナゴよりも?」

「茶化すならもういいです」

たーちゃんの横に座ったちーちゃんは、まっすぐ前を向いて話し始めた。

「気分が良くない。誰かの時間を奪うのは気分が良くない。そんだけだよ」

「きぶん?」

「そ。悪人にそんな気持ちにさせられるのはもぉぉっとムカつく。だから、死なない程度にぶっ飛ばす。あれ当たると滅茶苦茶痛いのよ死んだほうがマシかもぉ」

「ふふっ、ふふふっ」

「なぁんだよ、へ~ん~?」

「いえ、もっと博愛的な理由かと。千束は謎だらけです」

「ミ~ステリアスガ~ル? そんな魅力もあったか、私ー」

「昔からそういうやつだからね、ちーちゃんは」

「そう言えば、つーさんもあの弾使いますよね。あれも同じ理由から?」

「いえ、私のはちーちゃんに合わせてるだけ。一度使う使わないで大喧嘩したことがあって。その時に、ちーちゃんと一緒の時は使う。一人の時はどっちでもってことになったのよ」

「つー君、私よりは躱すの下手だからね。一緒に居る時は私がカバーするけど、そうじゃない時はできないから。それでつー君が死んだらそれは何よりも悲しいから」

「千束、本当につーさんのことが大事なんですね」

「そりゃもう♪」

 

「でも、そんな難しい話じゃないよ」

「したいこと、最優先?」

「お、覚えてるねぇ」

「そりゃそれを忘れる人なんて、ほとんどいないわよ」

「DAを出たのも?」

「え?」

「殺さないだけならDAでもできたでしょう?」

「あぁ・・・」

「それも? そうしたいって、全部それだけ?」

「人探し」

「なんです?」

「会いたい人がいるの。大事な、大事な人。その人を探したくて」

そう言って、ちーちゃんは首にかけていたアクセサリーを取り出す。

「知ってる? これ」

梟のアクセサリー。

「確かに、同じですね」

アラン機関が支援者に渡す梟のアクセサリー。それと同じもの。

「何の才能があるんですか?」

「わからなぁい?」

「「それじゃないのはわかります(わかるわよ)」」

ちーちゃんがグラビアポスターと同じ格好しても、それだけは絶対に違うって言えるわ。

 

「自分の才能が何とかわかる~?」

「なんかあるといいですけど」

「そんな感じでしょ?」

「で、見つかったんですか? これくれた人」

「いんやぁ?」

「10年も探して?」

「うん。つー君の伝手でもさっぱり」

「ええ、全くわからないのよね」

「もう、会えないかもね。ありがとうって、言いたいだけなんだけど」

しんみりした空気の中、たーちゃんがいきなり立ち上がった。

「さかなー」

両手を合わせて突き出す魚のポーズ。

「おぉぉ、魚かぁ。チンアナゴー♪」

二人して何をやってるんだか。・・・え、私もやるの? やれって二人の目線が突き刺さるんだけど?

「仕方ないわね。じゃあ、エイ~」

両手を横に広げてひらひら。

三人で奇行していると、なんか面白くなって同時に吹き出した。

「それ、隠さないほうがいいですよ」

「え、そう?」

「ええ。めっちゃかわいいですよ」

「ん、あー、こーいーつー♪ ほら、ペンギン島いくぞ~」

「ペンギン♪」

一気にいつもの私達、ね。

ちーちゃんの探し人。俺の推測が確かならあの人なんだけど。黙ってるってことは敢えて俺が言っていいことではないと思う。だからちーちゃんが自分で気づくまで。これは俺の心にしまっておこう。

 

と、電話?

 

ーーーーーー

 

緑髪の男が、北押上駅のホームへと入っていく。そこにはつなぎを着た何人もの男。

「すぅーーっ、はぁ。臭うなぁ。漂白された、除菌された、健康的で不健全な嘘の臭いだぁ」

持ってきた鞄を開ければ、中にはたくさんの銃器。

「バランスを取らなくっちゃぁなぁ!!」

 

ーーーーーー

 

「つーさん、急に任務だなんて。私達も行けば・・・」

「つー君は私達と違って、私服での行動が許されているんだ。私達が行ったところで、一般人と間違えられて拘束されるのがオチだよ」

「つーさん、ほんと何者なんでしょうか」

二人して建物の外に出ると、違和感を感じた。

「リコリス」

「なんだか多いですね」

 

ーーーーーー

 

封鎖された駅の中。ホームに列車接近案内が出る。

『まもなく2番線に、東武線直通。急行南栗橋行きが参ります』

「来る、来るぞぉ。始まり始まりぃ、はじまりぃ」

列車が接近する。

「はーっはっはっはっはっはっは、はぁっ!!」

列車に向かって弾丸が降り注ぐ。

穴だらけの列車が停止。これで中にいる一般人は皆殺し、となるはずだった。

 

ーーーーーー

 

「各員、射撃開始。射撃開始」

指示に合わせて列車に乗っているサードが敵を撃ち殺す。

すみだ水族館での観光中に来た楠木からの電話。北押上駅でのテロに対する増援要請。あいにく仕切れるファーストがいないようで、お前ならできるだろと押し付けられた。

サードの射撃で次々とテロリストが殺されていく中。俺は一人、忘れられない顔を見た。あいつは、電波塔の時の!!

とその時、アリスからの通信が入った。

『お父さん!! 爆発物反応が一杯!!』

あの男が懐に手を入れる。電波塔の時と同じようにするつもりか!!

「駅に爆発物が多量に仕掛けられている。総員退避、退避!!」

指示に従うしかない脳のないリコリスだが、こういう時には素直に従ってくれるからありがたい。すぐさま列車から出、ホームにある階段から上に上るリコリス。道中にいるテロリストもしっかり射殺してくれるので文句はない。

「貴様ぁ!!」

俺はその間に、緑髪の男に接近し、急遽DAから借りたグロック17を連射するが、今日はあいにく装備を何も持ってきていない。故に、ろくな命中弾を出せない。

「そうかぁ、お前らかぁ!!」

男がスイッチを入れると、駅のホーム、柱、天井が吹き飛ぶ。

「うおおあぁぁぁ!?!?」

爆風に吹き飛ばされつつも、運よく近くにあった階段から上に吹き飛ばされる。

「大丈夫ですか?」

爆風が収まった後、先に避難していたサードが救助に来てくれた。

「ああ、ありがとう・・・」

起こしてもらうと、体中に痛みが走る。全身打撲かな。

「それよりも、楠木に至急伝えて。電波塔の首謀者が現れたって」

 

ところで招集がかかったのでテレビ電話で司令と話した時の事。

「以上が作戦の概要だ。現場での指揮はお前に任せる。ところで」

「なんです?」

「その服は趣味か?」

「んなわけあるか! ちーちゃんに無理矢理着せられたんです!!」

「・・・。そうか、お前も大変だな」

なんか生暖かい目線で見られたのが納得いかねぇ。

 

ーーーーーー

 

たきなと二人の帰り道。北押上駅の入り口が封鎖されているのを見つけた。

「何かあったんでしょうか!?」

走っていこうとするたきなの手を掴んで止める。

「私服で銃出すと警察に捕まるよ。制服着てない時はリコリスじゃないって言ったでしょ。今日は帰ろう、ほら、戦利品も多いし」

「はい・・・」

「ああ、それがいい。あそこでの事はもう済んだからな」

「つー君!?」

「つーさん!?」

聞き覚えのある声が後ろからしたので振り返ると、楠木さんに呼び出されたはずのつー君。え、なんか体中に湿布貼ってるけど。

「え、大丈夫なのつー君!?」

「その怪我、一体どうしたんですか!?」

「詳しくはリコリコで話す。やばいことになったかもしれない、っと・・・」

「ほら、掴まってください」

「ほんと大丈夫?」

私達はケガをしたつー君を連れてお店に戻った。そして、北押上駅で起きた一部始終を聞いて、驚きを隠せなかった。

 

ーーーーーー

 

『今日の夕方頃、東京都の北押上駅で地下鉄同士が衝突し脱線する事故がありました』

「そういうことになったんだな、今回の事件」

「でも本当は列車の脱線なんかじゃなくて」

「銃撃戦の末駅を爆発された、とねぇ」

ボドゲ大会の予定だったが、俺が負傷して帰ってきたことで急遽中止に。常連のみんなには悪いことをした。

「でもよかった、つー君軽傷で済んで」

「根岸先生の診察では、数日で良くなるらしいじゃないですか」

「単純な打撲だけで済んでほんと良かったよ。あ、ありがとうな、ちーちゃん、たーちゃん」

「いえ、お気になさらず」

「そうだぞぉ、ケガしたときには私達を頼りなさぁい」

「にしてもー、電波塔の時のテロリストに生き残りがいたとはねぇ。千束は何か覚えてないの?」

「無理言わないでよミズキ。まだ小さい頃なんだし。逆につー君はよく覚えてたよね」

「なんか覚えてたんだよな。当時はまだ記録も残してないから、緑の髪ってこと以外はどんな風貌なのか説明できないのが残念だ」

旧電波塔事件。最後はテロリストを止められず、電波塔を傾かせてしまった事件。

「次は何をやるんだ、あいつは」

このままあいつが死んだとは思えない。あの電波塔からも生き延びたんだ。絶対また次がある。

「とりあえずは、次に備えて体を休めないとな」

「そうだよぉ。治るまでは、セーフハウスでゆっくりだからね」

「はいよ」

 

ーーーーーー

 

次の日。

「ほい、捨てまーす、捨てまーす、はいこれも捨てまーす、捨てまーす、捨てま・・・ぁ、す・・・」

千束の脳内をよぎるのは。

「これ、いいんですけどね。通気性もよくて、動きやすい」

たきなの一言。

つい魔が差して、たきなのトランクスに履き替える。

「おぉ、これはぁ♪」

とその瞬間。

「千束、サボってないで」

ミズキが更衣室のドアをノーノックで開け、時が止まった。

「いやあの、これは」

「いやあああああああああああ! 破廉恥いいいいいいいいい!!」

「いや違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」

「お前、男のところに泊まって来たな! 私への当てつけかぁ!」

「そりゃつー君とは一緒に暮らしてるけど、これはたきなの! たきなのだから!!」

「んっ」

つかつかと丁度カウンターに戻って来たたきなのもとに着いたミズキは、思いっきりたきなのスカートをめくる。

「可愛いじゃねぇか」

「いやそれを昨日買ったの!」

ミズキと千束の言い争いの横で、顔がだんだん真っ赤に染まっていくたきな。いつもはカウンターに居る睦月が今日は療養のためお休みなのが幸いだっただろうか。もし居たら、羞恥心で何をしていたかわからない。

と、ミズキがフロアに出る。

「あぇ、ちょいちょいちょいどこへ」

「みなさ~ん、このお店に裏切り者の嘘つき野郎がいますわよ~」

「うわぁ、やめろやめろやめろやめろやめろぉ」

「はーい、らっしゃっせー」

スカートをまくり上げられ、トランクスを公開される千束。そのまま羽交い絞めにされ、クルミが下から扇風機を当てる。

いつも通りここは騒がしい。そして心地よくて暖かい。それが面白くって、良い笑顔で笑うたきなであった。

 

なお療養中の睦月に。

「なんだこれは・・・。あいつは何をやっている・・・」

クルミからトランクスを履いてる千束の写真を送り付けられ、これをどうしろと、と真顔で困惑していた。

なお自分のトランクスを間違えて履いていったのかと思ったが柄が違うので胸を撫でおろしていた。ちーちゃんならやり兼ねないという謎の自信があった。

あと一緒に送られてきたたきなの笑顔は可愛く、暫くの間、睦月のスマホの壁紙になっていた。

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