Recoil of Lycoris and Lilybel   作:小鳥遊 小佳夏

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So far,so well

今日は定休日。クルミがおせんべをつまみながらテレビを見ている。内容は地下鉄脱線事故という名の、地下鉄銃撃事件。東京メトロの社長が会見をしているが、苦しい状況のようだ。あの事故から1か月経つも未だ駅は復旧できず。あれだけの爆破があったのだ。証拠隠滅をしてから駅の復旧、そして線路と架線の引き直しをするのに、果たしてどれだけの時間がかかるのか見当もつかない。爆破の影響で半蔵門線は錦糸町-曳舟間が運休。直通運転も停止したままだ。俺の伝手の工事業者が入って瓦礫の撤去作業が進んでいるが、あまり多量の瓦礫があると見せるわけにもいかないので進捗は芳しくない。下手したら、年単位かかるかもしれないという試算も出ている。

「この社長も気の毒ですね」

「この社長は何も知らないんだろうなぁ」

「そりゃそういう風にラジアータが制御しきってるからねぇ」

臭い物には消臭剤を入れた上で蓋をする。そうすれば誰の目に留まることもない。

でもそれが永遠に続くかな? 結局何の対策もされないラジアータに対して、不安を覚える俺であった。

 

ーーーーーー

 

「ではー、みんなー。今回の依頼内容を説明しよう!」

妙に張り切っているちーちゃん。何かあったんだろうか?

 

「とっても楽しいお仕事ですよぉ♪」

「ミズキさんが説明しないんですか? 私、もう読みましたけど」

「今回やたらやる気なのよ」

「俺ももう読んだんだよなぁ。帰っちゃダメかこれ」

ウェヒヒ、ウフフ、イヒヒとすっごく上機嫌なちーちゃんを無視して私語に励んでいると、突っ込みが入った。

「ちょいちょいちょい、ちょい。そこぉ、私語はしない」

だってつまんないんだもん。

「そしてそこのリス。ゲームしてない?」

「聞いてるよー」

いや絶対あれはゲームしてる。ソースはアリスシステムでパケットの流れをちょいっと精査した結果。

「ん、ん。依頼人は72歳男性。日本人。過去に妻子を何者かに殺害され、自分も命を狙われたためにアメリカで長らく避難していた。現在は、きん・・・き、き、きん・・・」

「筋萎縮性側索硬化症」

難しいのはわかるけど、説明するなら読めるようにしておこうな。多分前読みしてないだろ、ちーちゃん。

ちなみに筋萎縮性側索硬化症とは、体の筋肉が徐々に弱まっていき、最後には呼吸困難になる病気。

「自分では動けないのでは?」

「そう! 去年余命宣告を受けた事で、最後に故郷の日本、それも東京を見て回りたいって」

「観光、ですか?」

「泣ける話でしょう?」

あー、ちーちゃんこういう話に弱いからなぁ。だからやる気凄かったんか

「要するに、まだ命を狙われてる可能性があるためBodyguardします」

そこだけめっちゃ流暢やな、ちーちゃん。

「なぜ狙われているのですか?」

「それがさっぱり。大企業の重役で敵が多すぎるのよ。その分報酬はたっぷりだから」

「日本に来てすぐに狙われるとも思えないけどね。行く場所はこっちに任せるらしくて、私がバッチリプラン考えるから」

「旅のしおりでも作ろうか?」

「それだ!!」

 

「んー。ミズキ、その護衛対象のデータくれない? ちーちゃんも、プラン出来たら俺に送って」

「良いけどあんたどうするのさ」

「つー君?」

「当日のシミュレートをして、敵の動きを予測してみる。ついでにどんな敵が来そうかも調べてみるよ。今からじゃどこまでできるかわからないけど」

護衛するのは数日後。いくら高性能な量子コンピューター並列処理とはいえ、時間という最大の敵には適わない。できる限り備えて石橋は叩く前に補強する。それが孤児院の、そして俺の安全策だ。

ちなみに、地下鉄銃撃の時は突然依頼されたので爆弾発見が遅れたりしたのである。事前から備えられたら駅の工事、整備記録とか監視カメラの記録遡って絶対見逃さなかったのに。とはいえ、しっかりと気づけたのでリコリスの損害は0。それだけでも良かったということにしよう。

 

リコリコの前に黒いミニバンが着き、車椅子の老人が降りて来る。

「お待ちしておりましたー」

お付の黒服の人が扉を開けると、外から高機能な車椅子に乗った老人がお店に入ってきた。

「遠いところ、ようこそ」

『少し早かったですかねぇ? 楽しみだったもので』

「あ、いえ。準備万端ですよ。旅のしおりも完璧です」

「千束、データで渡そうか」

クルミ、ナイス。

「え? あ」

今回やってきた松下さんの手は既に骨と皮だけになっていて、とても旅のしおりを持てるような状態ではない。

『助かります。あとはこの方たちにお願いするので、下がっていいですよ』

すると車にお付の人が乗り込んでリコリコから出ていく。その合間にクルミがしおりをPDFにスキャンしてデータで渡す。

『今や機会に生かされているのです。おかしく思うでしょう?』

「そんなことないですよ。私も同じですから。ここに」

『ペースメーカーですか?』

「いえ、丸ごと機械なんです」

「え?」

『人工心臓ですか』

昔から先天性の心疾患を抱えていたちーちゃんは小さい時に心臓を機械に変える手術を受けている。その後の初陣が電波塔事件だったらしい。

「あんたのは毛でも生えてるんだろうね」

「わかる~」

「機械に毛は生えねえっての。あとつー君、後で覚えてろよ」

「ふぇ、どういうことで」

「よし、できたぞー」

知らされてなかったらしいたーちゃんが追求しようとするも、丁度送信が完了したらしい。

『おぉ、これは素晴らしい』

「では、東京観光、しゅっぱーつ!」

ちーちゃんが松下さんの車椅子を押して出発する。

「あの。千束の今の話って」

「たきなー、つー君、行くよー」

「あぁ、はい!」

「ミズキ車」

「言ってなかったの?」

「千束に任せればいい」

「ボクにも説明しろ」

 

「じゃ、俺も行ってきますわ。クルミ、悪いけど全周警戒頼んだ」

「結局松下さんの事演算できなかったんだろ? 何があったんだ?」

「それがわからん。空港の利用履歴、向こうでの生活、昔あったという暗殺事件。全てに置いてアリスシステムに引っかからないなんてありえないはずなんだが、何もわからなかった。素材が何もない以上、調理のしようが無い」

「この話、何かきな臭いかもしれないな」

「ああ。だから今アリスがフル稼働で松下さんの方を調べてるから、今回の警戒には参加できない」

「任せろ。代わりはしっかり務めて見せるさ」

 

ーーーーーー

 

両国国技館横にある両国リバーセンター。そこから出る水上バス、東京水辺クルージングライン。両国から墨田区役所、対岸の浅草二天門を経由し、聖路加ガーデン、ウォーターズ竹芝、お台場海浜公園、越中島を結んでいる水上バスである。

錦糸町の駅から総武線緩行に乗って両国駅に着いた俺たちは、船着場から水上バスに乗り、隅田川を遡上していた。

『これは予想外でしたねぇ』

「墨田区周辺は何本も川に囲まれてて、都心を水上バスでいろんなとこに渋滞を気にせずに移動できるんです」

暫くすると、旧電波塔が見えてきた。

『やっぱり折れてしまっていますねぇ』

守れなくてすまんな、電波塔。

「折れてないのを、見たことがあるんですか?」

『いえ、東京に来るのは初めてで、娘と約束してたんです。一緒に見上げよう、首が痛くなるまでって』

・・・ん? 大企業の重役なのに、東京に来たことが無い? 観光で来たことが無いというならあり得るかもしれないけど、仮に一度も仕事でも来たことが無いって、大企業なのにあり得るのか?

少し変な重箱の隅をつつくような考えが浮かんでしまうが、さすがに考えすぎだろうと首を振って散らす。

『あの世で土産話ができる』

「まぁだまだぁ、始まったばっかりですよぉ!」

 

浅草二天門の船着場で下船し、隅田公園を横切る。助六夢通りを北方向に戻って東武伊勢崎線の浅草駅に繋がる橋脚をくぐり少し行くと、吾妻橋の交差点に当たり、雷門通りに出る。

今日は休日ということもあり、観光スポットの雷門周辺は大混雑となっている。

「あの、つーさん、大丈夫ですか・・・?」

「あんまり大丈夫じゃないかも・・・。人混みに酔って気持ち悪い・・・」

人混みに関してだけは滅法弱い俺が早々にダウンし、仲見世通りの横の道に避難させてもらう。こちらも浅草にしてはとてもお安くて美味しい街の洋食屋さんとか、生クリームやアイスを挟んだ一日4千個売り上げるメロンパンのお店とか、果物の団子のお店とか、凄い権威のある人がやってるお高めの洋食屋とか、昔からあるすき焼きとかしゃぶしゃぶがとても美味しい名店の別館とかが並んでいるが、仲見世通りに比べればはるかに人が少ない。

少しの間任せたぞ、ちーちゃん、たーちゃん(げっそり)

 

ーーーーーー

 

浅草寺と七夕祭りの観光を終え。俺が再度合流した後、また浅草二天門の乗り場から水上バスに乗り、次の目的地へ向かう。

その途中。延空木が見えてきた。

『あれが延空木ですね』

「11月には完成らしいです」

『設計に知り合いが関わっているんです』

「えぇ~、すご!」

『そう、彼は未来に凄いものを残している』

「じゃあ、完成したら、見に来てくださいね。またご案内しますよ」

『・・・えぇ、またお願いします。君は素晴らしいガイドだからね』

 

『今日は暑いですね。ちょっと中で休ませてもらいます』

「では自分がご一緒に」

『いえ、船の中なら安全でしょうから。今はあなたも休んでいてください』

「そうですか、ではお言葉に甘えて」

警護を申し出たが、気を使われてしまった。

 

「どうぞ」

「ありがとぉ」

「さんきゅ」

たーちゃんが買ってくれたコーラを開ける。ん、冷たいのが喉に染みて美味しい♪

「喜んでもらえているみたいですね」

「私、"良い"ガイドだって♪ 才能あるかも♪」

「依頼者の警護が優先ですよ」

「そうだね、そうだった」

椅子に座って風を浴びるちーちゃんの胸をたーちゃんがじーっと見つめている。これは百合の花でも咲くのか?

「今朝の話、本当なんですか?」

「あー、胸の事ね。本当だよ。鼓動無くてびっくりしたけど、凄いのよこれ」

「凄いとは思うが、拍動が無くて機械とわかる時点で劣るな。孤児院で今は拍動すら再現した本当の心臓と変わらないのを開発中だ」

「あー、あれ。まだやってたんだ」

「おう。3年後には正式品が出来上がる予定だ。その時を震えて待てってな」

「私の胸は震えてないけどね」

ちーちゃんと狩る愚痴を叩いていると、不意にたーちゃんがちーちゃんの胸に手を当てた。これは咲きましたね。

「っ!? ちょいちょいちょいちょいちょい」

「確かめようと思って」

「いいけど公衆の面前で乳を触るな!」

「たーちゃん・・・」

まだたーちゃん抜けてるところあるんだよなぁ・・・。

 

ーーーーーー

 

『15年前まで警備会社で共に裏の仕事を担当していた。私がリコリスの訓練教官にスカウトされる前だ』

クルミが追っかけている不審なバイクを発見。それを解析したところサイレント・ジン。プロの殺し屋とわかった。ミズキが発信器をつけに行こうとするも、クルミのドローンが破壊されたことでばれていると判明。中止になった。

『作戦変更。避難させて一人こちらから打って出るべきだ。予備のドローンとミズキでジンを見つけ次第、攻撃に出る』

『そっちが美術館出たら車まわすよ』

「わかった」

「それなら俺が行く。ミズキ、残りの装備を頼む」

『オーケー、任せな』

そこまでの相手は想定していなかったため、補助アーマーとHK.45は持ってきているものの、シールドやセンサーゴーグルの類はミズキに預けてある。このままの装備だと不安が残るから、先にミズキと合流して装備を回収してから攻め込むことになった。もしこれで別の暗殺者が来ても、ちーちゃんとたーちゃんに松下さんを守ってもらおう。

 

『ミズキと連絡が途絶えた。ジンが仕掛けて来るぞ』

ちっ、ミズキがやられたか。

「予定通り俺が行く。あとは任せるぞ」

「待ってください、装備無しのつーさんでは!」

「アーマーがあるから近づけないだけなら何とかはなる。それに俺が残るより、二人が松下さんの援護に周ったほうが確実だ。頼んだ!」

「ちょっと、つーさん!!」

止めるたきなを無視して小走りでミュージアムの外へと向かう。

『屋内の監視カメラの映像を顔認証にかける。野外は予備のドローンを向かわせたから、十分後に解析を始められる』

「頼む。アリスをこっちに回しておくべきだったか」

『今からじゃ間に合わないだろ。それにきな臭いこの任務自体が罠かもしれないことを考えると、裏取りするのは間違いじゃない』

「それもそうか。帰ったらスペック上げて同時にできるように改良するわ。ミズキは?」

『500m離れた場所で連絡が途絶えたままだ。美術館の入り口はデパートの通路側だから、館内のカメラで確認する。睦月は出口側に向かって、目視で見張ってくれ』

「了解」

怪しまれない程度の小走りで出口に向かう。

『ちょっと待て! ミズキがジンに発信器をつけてた。死んでもこっちに情報を残した!』

「なにそれ胸熱じゃん。映画化しなきゃ」

『死んだと決まってはいないだろ』

『もう美術館に来てる』

「外か? 中か?」

「あ、後ろだ、睦月」

くそが! センサーゴーグルさえあれば絶対見逃さなかったのに!!

振り返りざまにバックステップを踏みつつ実弾を射撃する。撃った3発のうち、2発は逸れ、残りの1発は袖で防御された。いつもの命中率もセンサーを併用しての事。それが無いと、速射で命中をたたき出すのは結構難しい。狙撃なら得意だったりするんだけど。ちなみに今回ちーちゃんとの任務なのに実弾なのは、こういう時を見越してセンサーなしだとまず当たらないプラスチック・フランジブル弾だけにしなかったため。俺は装備が整わないとくそ雑魚だからね、仕方ないのよ。

「コートが防弾だ。アーマーピアスに切り替える!」

通常のホローポイント弾では弾かれたため、即座にマガジンを変え、.45スーパーACPのアーマーピアスを装填する。これで防弾コートを撃ち抜ければいいんだが、速度よりも衝撃を誇る45口径。9mmのアーマーピアスよりも貫通力に劣る。

『そのまま千束達から引き離せ』

「了解!」

『扉を出て右に走っていった』

「オーケー!!」

『それから、たきなかそっちに向かった。お前が心配で松下さんは千束に任せたらしい。こっちは任せてって言ってたぞ』

「・・・そうか、ありがとう」

正直一人で対処できないのが悔しい。ちゃんと装備を持ってきていればこうはならなかったのに。

 

たーちゃんと合流し、屋上に上る階段を駆け上がり、扉を開ける。

室外機が多数並んでいるのを、二手に分かれて走り抜ける。

『15m先の室外機の裏にいるぞ』

「コートが見えます、つーさんは反対側から」

「オーケー。3カウント、3、2、1」

「「っ!!」」

同時に挟み込むようにして出ると、管にコートが掛けてあった。

「「クルミ!!」」

 

ーーーーーー

 

「千束、逃げて!!」

「ちーちゃん、逃げろ!!」

東京駅の改修工事現場。その足場にジンを見つけた俺とたーちゃんは、ジンに向かって走りながら射撃する。防弾コートを回収したので俺はプラスチック・フランジブル弾で、たきなは通常弾でジンの無力化を狙う。

たーちゃんの撃った弾が手に当たるも、防弾グローブなのか貫通できない。その代わりに狙いが外れ、ジンが撃った弾は松下さんの車椅子に当たる。

「うりゃああああああああ!!!!!」

「ふっ!!」

そのまま走る勢いで、二人してジンに突撃をかまし、そのまま三人まとめて落下した。

「たきなぁ!! つー君!!」

がしゃんどごん

渡してあった木製の板を突き破り、セメントの袋の山に突っ込む。

「いっつ・・・」

「くそがぁ・・・」

右腕に力が入らないし激痛がする。銃を持てない。たーちゃんは衝撃で銃を落としてしまった。

「つーさん、こっち!」

先に立ち上がったたーちゃんが俺の左腕を掴んで起こし、そのまま物陰に走り去る。後ろからジンが射撃するが、何とか当たらない。

「大丈夫ですか?」

「いや、右腕が下手したら折れた。俺よりもたーちゃんが使ってくれ」

「わかりました。物陰でおとなしくしていてくださいね」

HK.45と実弾の入ったマガジンをたーちゃんに渡すと、そのままジンの迎撃に向かっていった。

「ちーちゃん、松下さんを避難させろ!!」

無線機に向かって叫び、右腕をアーマーを使って固定。激痛を無視して、たーちゃんが落としたS&W M&P45を探しに行く。左手だけでも射撃はできるだろう。とそこに、アリスからの通信が入った。

『お父さん!! その依頼、真っ黒だよ!!』

 

たーちゃんが俺から受け取ったHK.45で射撃しつつ逃げる。そもそもこの銃は俺に合うようにグリップを専用に削っている代物。性別が違い、手のサイズが異なるたーちゃんには扱いづらく、その結果いつもの精度が出なくなっていた。

そしてついに。

「っ!?」

左足を弾が霞め、傷が入る。勢いで転んだところにジンがとどめを刺そうとするが。

「たーちゃん!!」

探し出したS&W M&P45でジンを撃って援護射撃をする。するとこちらに撃ってくるので鉄骨をパルクールのようによけつつ、たーちゃんに接近する。

「大丈夫!?」

「くっ、くぅ・・・。それよりも、ジンが」

「っ!!」

コンテナの陰に隠れた俺達を狙える位置に着いたジンが両手で銃を構えて俺達を狙う。S&W M&P45をたーちゃんに返す暇もなく、俺は左手だけで、当たらなくてもとにかく撃とうとするが、先ほどの射撃でスライドがオープンしてしまっており、右手が使えない俺にマガジンの交換はできないし、その暇もない。ここまでか。せめてたーちゃんに覆いかぶさろうとするが。

PAN!

横から割り込んだのはちーちゃん。デトニクス.45コンバットマスターを連射しつつ、ジャンプして鉄骨を飛び移り、そのまま当たらなくてもいい牽制射撃を加え続ける。たまらんとばかりにジンが逃げつつ射撃するが、ちーちゃんには当たらない。着地と同時に全店で衝撃を逃がし、また別の鉄骨を足場にしてジャンプ。立ち止まって正確な射撃で迎撃を選んだジンだが、それは悪手。撃たれる全ての弾を躱し、撃ち切ったマガジンを捨て次のマガジンを入れて薬室に弾丸を装填しつつ接近。そして。

「んんっ!!!」

腕を振りかぶって、たーちゃんと俺をケガさせたお礼とばかりに、銃口に着いたストライクフェイスでジンの腹を殴打。

PAMPAMPAMPAMPAM

マガジンの全ての弾を叩き込み、デトニクス.45コンバットマスターを振り抜く。

ジンはその勢いで吹き飛び、安全策に背中から突っ込んで動けなくなった。

「任せてって言ったのに」

「松下さんは頼んだって言ったんだけどな」

たーちゃんと二人、支え合うようにして立つ。

と、そこに。

『殺すんだ。そいつは私の家族の命を奪った男だ。殺してくれ』

なぜか松下さんが現れた。いや、松下さん(仮称)か。

「でも」

非殺傷を貫いているちーちゃんはそれを拒む。

『本来ならあの時、私の手でやるべきだった。家族を殺された20年前に。君の手で殺してくれ。君はアランチルドレンのはずだ』

・・・そういうことか。

『何のために命をもらったんだ。その意味をよく考えるんだ』

「松下さん、私はね、人の命は奪いたくないんだ」

『は?』

「私はリコリスだけど、誰かを助ける仕事をしたい。これをくれた人みたいにね」

あの水族館の後から出して首にかけるようになった、梟のアクセサリー。

『何を言っ、千束。それでは、アラン機関は、その命を』

「そうやって、ちーちゃんに殺しをさせるのが今回の計画か。アラン機関」

ちーちゃん、たーちゃん、ミズキが驚いた顔でこちらを向く。

「そもそも今回の任務、あなたの事を調べて敵を予測しようにも、何も集まらなかったんですよ。あなたが日本に来る飛行機の記録、空港の利用履歴。20年前の暗殺事件。あなたが居たはずの会社。アメリカでの生活の記録。リコリコに来るまでの付き人の雇用記録。その全ての情報が、かけらも集まらなかった」

『・・・』

「そんなことは現代社会で不可能だ。もし可能としたら、リコリスのように意図的に隠蔽されているのか、そもそも存在していないのか。いくら余命が宣告されているからと言って、日本に帰ってくるような人が情報を完全に隠蔽されているとは考えにくい。なら、あとは。存在していないからだ」

「そんな、でも松下さんは今ここに!」

「あなたは誰だ、松下さん。うちのハッカーは優秀でね。その端末を遠隔から操作しているのはわかってる」

『そうか・・・ダメか・・・』

突然、車椅子の画面に表示されていた生体情報の表示が消え、ゴーグルの横についていたランプも消える。

「あ、あれ、松下さん? 松下さん? え、え、あ、松下さん!?」

 

ーーーーーー

 

「ミカ。お前の部下か。いい腕だ」

ジンを回収し、河川敷まで連れてきた。そこで先生とジンが情報を交換した。

やはりジンは20年前に松下さんの家族を襲っておらず、そもそも先生と一緒に居た。今回の依頼は現金一括前払いで女が直接来たと。ジンは依頼人のプライバシーは聞かない主義とのことで、そうなるとそっちの線では追えないかなぁ。

「クリーナーから連絡があったわ。指紋から身元が判明、先々週に病棟から消えた、薬物中毒の末期患者だって。もう自分で動いたり喋ったりできないらしいわよ」

「そんな、みんなと喋ってたじゃない」

『睦月がさっき言った通り、ネット経由で第三者が千束と話してたんだよ。ゴーグルのカメラに車椅子はリモート操作で音声はスピーカーだよ』

「アリスが松下さんを調べても何も出なかったから、今日つけてた装備品から何かわからないかと調べてみたところ、ゴーグルにカメラがついてるって事がわかってな。あの病気で視力は保たれるのが普通だ。もしかしたら遠隔で操っているのではと思って車椅子から出入りするパケットを解析してみたら、映像データが送られて音声データと車椅子の制御データが車椅子に送られてることが分かったんだ。松下さんがそこにいるなら、外部からそんな情報が送られるのはおかしいとアリスが気づいて、この依頼が偽だと伝えてきたんだ。パケットの暗号が厳重で、もうその時にはジンとやり合ってたから手遅れになったけどな」

ちーちゃんとたーちゃんが怯えた顔になる。

「松下さんは、存在しない?」

「えぇ、じゃあ誰が? なんで殺させようとしたの? 何のために?」

「ここからは多分に推測が含まれるが、いいか?」

ちーちゃんが頷くのを見て、さっきの会話からまとめた推論を話す。

「多分、本当の依頼元はアラン機関。そんなことをした理由は、千束の才能が殺しの才能で、千束の命をアラン機関が救ったのに、才能を活かして殺さないからだ。アラン機関の誰もがその才能を活かしている、少なくともテレビに出ている人たちはそうだ。だから、ちーちゃんにアラン機関は誰かを殺すことを望んでいる。でもちーちゃんがそれをしないから。今回の依頼でそれをさせようとした、そんなところじゃないかな」

「そんな・・・。だってこの命は、誰かを救うために・・・」

「ちーちゃん。俺もずっとアラン機関の事を調べ続けててまだわからないことの方が多いんだけど。アラン機関、報道されてる程良い組織とは、限らないかもしれないよ」

 

ーーーーーー

 

リコリコに帰りついて。あまりの疲労から三人で座敷で休んでいた。

「いっぱい話して、良いガイドだって言ってくれたのもぜーんぶ嘘か」

「良いガイドだったのは、嘘じゃないと思います」

「ありがとお」

「少なくとも、あの時の松下さん、楽しそうだったもんな。あれは演技じゃないだろ」

じーっとまたちーちゃんの胸を見つめるたーちゃん。ぐいーっと体を傾け、ちーちゃんの胸に耳を当てる。

「ちょーいちょいちょいちょい」

「今は公衆の面前じゃないですよ」

「つー君が居るじゃんか!」

「良いじゃないですか、つーさんなんですから」

俺だからってのは何だよ。ちーちゃんの頭の上の方に寝転がってるし、振り向く元気もないから横目にしか見えないけど、百合の花が咲いてるのは見えるぞ。

「本当に鼓動、ないんですねぇ」

「そうなの。凄いだろ」

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