———私の中には、私以外の記憶がある
私がそれに気が付いたのは、小学校の低学年の頃だった。
その日は小さなウマ娘たち向けにレースの体験会をやっていて、私はそれに参加していた。と言うのも、私は小さい頃からウマ娘らしく、いや、同年代の他の娘たちと比べてもずっと、走りたいという欲求が大きくて、常日頃から将来はレースに出たいと口にしていたので、そんな私の為に両親が連れてきてくれたのだ。
レース発走の瞬間まで、私はずっと期待に胸を躍らせていた。やはり子供といえどもウマ娘。その走行速度は人間を優に超える。その為、思い切り走れる機会も環境も、余り多くなかったのだ。学校の授業でさえ、力を抑えて走るようにと厳重に注意される。だから周りを気にせず思い切り走れるのは、この日が初めてだった。そしてようやく訪れた発走の時。スタートの合図と共に、私は勢い良く飛び出して———
———その瞬間、それを思い出した
真っ白い部屋の中、真っ白なベッドの上で上体を起こして、窓の外で駆け回る子供達を眺めていた。いつかあんな風に、自分の足で野山を駆け回りたいと、そう願いながら。
その部屋を出られるのは、日に一度。誰かに車椅子を押してもらいながら数十分程度、中庭を散策する時だけ。全く変わり映えのない景色だけど、それだけが唯一の楽しみだった。
いつか自分の足でいろんな所を見てまわれるだろうかと、後ろの誰かに問い掛ければ、いつか治りますよと、いつもと同じ言葉を返される。いつも変わらない日常。
そんなある日、急に胸が痛くなって、呼吸も苦しくなって、目の前が暗くなって、そのまま"私"は死んだ。いつの日か自分の足で自由に駆け回りたいという願いの叶えられないまま、その短い人生に幕を閉じた。
1着でゴールを駆け抜けて呼吸を整えている間に、私はたった今思い出した事について考えていた。これはきっと、前の私がずっと叶えられなかった強い願いが魂に刻まれて、こうして今の私に引き継がれてきた物なんだ。だってこんなにも満ち足りていた。満たされていた。それこそ、この世の中にこれ以上に幸せな事なんてないんじゃないかという程に。私はこうして走る為に、ウマ娘として新たに生を受けたんだと、そう思える程に。
だから、私は———
———走るのが、嫌いだった
◆
競争ウマ娘養成機関であるトレセン学園にて、年に4回行われる選抜レース。その結果によって競争ウマ娘としての将来を左右しかねない、大事なレースだ。また、トレーナーにとっても将来有望なウマ娘をスカウトする為の、大事な機会である。
そんな選抜レース当日。1人の男がレース観戦のためにコースへと向かっていた。歳はまだ若く二十歳そこそこと言った所。短く刈り込んだ黒髪に、身長180を超える偉丈夫であった。学園の新人トレーナーであるその男、
そんな彼女は道の端の方に身を寄せて、こちらに背中を向けて、レース出走前の精神統一とでも言ったところか、胸の前で固く拳を握り、目をギュッと強く瞑って何事かをブツブツと呟いている。
「大丈夫、落ち着け〜……。いつも通り、いつも通り……」
余程集中しているのか、保坂が背後に立ってもそれに気がつく事なく繰り返しいつも通りいつも通りと呟いている。
「おい、キミ」
「ひぇあああああああっ!?」
保坂が肩に手を置いて声をかけると、余程驚いたのか素っ頓狂な声を上げ、肩どころか耳も尻尾も跳ね上げて、バッと弾かれた様に振り返り、鳶色の瞳を大きく見開いて、保坂の顔を見上げて口を何度もぱくぱくとさせている。声をかけた保坂の方も少女の反応に面食らったか、少女の肩に置いた手を顔の横にまで上げて、やり場を無くしてユラユラと揺らしている。
「……あー、すまない。そんなに驚くとは思わなくて……」
「あっ、いえ、すいませんねこちらこそへへへ……」
自分でも大袈裟だったと思ったか、頭の後ろを掻きながらバツが悪そうに少女は笑う。保坂はそんな少女の上から下まで、順に視線を動かしていく。小柄ではあるが、体操服の下のその体は無駄なく絞られている事がわかる。ブルマから伸びる脚もトモのハリもよく、かなり鍛えられている事が見てとれた。デビュー前のこの時期にこれだけ鍛えられているとなると、普段からかなりのトレーニング量をこなしているのだろう。新人の保坂の目から見ても、かなりの逸材であると思われた。
「……あの。そんなにじっくり見られると、流石に恥ずかしいと言いますか……」
そんな少女の声に保坂が我に返ると、少女は頬を朱に染めて、内腿を擦り合わせてモジモジとしていた。その様子を見た保坂は、少々不躾に見すぎたかと反省した。
「ああ、すまない。ただ、良い身体をしているな、と思って」
「……はい?」
そして思った事をそのまま少女に伝えた。しかし、その言葉がどういう風に相手に捉えられるかまでは考えていなかった。保坂はあまり人付き合いが得意な方ではなかった。
少女の方はというと、自らの肩を抱き、小柄な身長の割には大きく育った一部分を隠すように半身を引いているが、保坂のトレーナーという職業の事も考えて、どちらの意味に取ればいいのかを測りかねていた。
そんな少女の様子を気にする事もなく、保坂は一度大きく頷いて言った。
「キミは強くなるな。間違いない」
「え、ホントですか!」
保坂のその言葉を聞いて、少女はトレーナーに自分の素質を褒められた事を喜び、目の前の男がただの変質者ではない事に安堵した。
「それはそうと。キミ、今日の選抜レース出るんだろ? 時間は大丈夫か?」
「……へ? ……わあああ! すいません、失礼します!」
少女は一瞬ポカンとしていたが、その直後ハッと我に返ると、一度頭を下げてくるりと向きを変えて、慌ててコースの方へと駆け出していった。その勢いはかなりの物で、みるみるうちにその背中は小さくなっていった。
まるで一陣の風のように走り去った少女の後ろ姿を見て、保坂は自分の見立てが正しかった事を確信した。そして少女の後を追うように、保坂もまたコースへと向けて歩き出した。
◆
あの日から突然走る事をやめた私を、両親はすごく心配した。何度もレースの体験会へと連れて行き、レース場へ観戦にも連れ出した。それでもやっぱり、私は走ろうとはしなかった。
なんて事はない。ただ、怖かったのだ。
今はもうどこにも居ないはずの死んだ私が、今を生きている私の思考を縛り付けて、その意志に関係なく行動を操っている様に思えて、まるで私が私でなくなるようで、怖かったのだ。だから私は、なるべく走らないようにして生活するようになった。
それでも朝寝坊して学校に遅れそうな時や体育の授業など、走る機会は何度もあった。その度に自分の足が大地を踏み締め、蹴り出すその感覚に歓喜し、そんな感情を抱く自分に酷く恐怖した。
そんなある日、私はまたレース体験会へと連れてこられていた。自分と同じ年頃のウマ娘たちが楽しそうに走っているのを、私はコースの外からただぼんやりと眺めていた。この頃になると両親も、私を体験会へと連れてくるだけ連れてきて、無理に走らせようとはせずに、私が自分から走るようになるのを待つようになっていた。
そしてどんどんとレースは進んでいき、いよいよ最終レースとなった頃、とうとうレース観戦すらせずにボーッと座っているだけになっていた私の足元に影が伸びる。
『ねえ。あなたそこで何してるの?』
その声に顔を上げると、1人のウマ娘の子供が私を見下ろしていた。背中まである栗毛の髪をツインテールにして、宝石みたいな真っ赤な瞳で私の事をジッと見つめている。
『別に、なんだっていいでしょ。貴女には関係ない』
そう言って、私はその子から目を逸らした。その頃の私は、前世の記憶に引っ張られていたのか、良いように言えば年の割に大人びた、端的に言えば子供っぽくない、少々冷めた性格をしていた。それまでは誰に対しても明るく元気に笑いかけていた娘が、いきなり一歩引いた所から冷めた視線を送るようになった時の、両親の心労はいかほどだっただろうか。
その時の私には、それを気にするだけの心の余裕はなかったのだが。
『あなたは走らないの?』
『走らない。走るの嫌いなの。……もう放っておいてよ』
『えぇっ!? なんで!?』
その子は私の拒絶の言葉なんてお構いなしに、しつこく私に話しかけてくる。
『走るのってすっごく楽しいし、1番になったらママもすごくほめてくれるのよ!』
『知らない、私には関係ない。あっち行ってよ』
『うーん……。……そうだ!』
その子は私の言葉を無視して私の手を取って無理矢理立たせると、そのままどこかへと引っ張っていく。身長は私と殆ど変わらないというのに一体何処にそんな力があるのか、私の抵抗なんてものともせずにドンドンと進んでいく。
『ちょっと! 何するの!』
『あなたはきっとホントの走る楽しさを知らないのよ。みんなといっしょに走ればきっと走ることが好きになるわ!』
そう言って私の手を引いて向かった先は、今まさに走り出そうかという、レースのスタート地点だった。そこまで私を連れてきた栗毛の子は、物怖じする事なく係員のウマ娘に向かって話しかける。
『すいません! わたしたちも走っていいですか?』
『ちょっと、私は……!』
『ええ、良いわよ! じゃあそっちに並んでね』
私の抗議は聞き入れられず、結局私はその日の体験会の最終レースに出る事になってしまった。私を無理矢理連れてきた張本人を横目で睨みつけてやると、何も考えてなさそうな笑顔で『がんばろうね』なんて返してくる。私は深く溜息を吐くと、諦めてスタート位置についた。
◆
選抜レースの会場となっているトレーニングコースには、既にベテランから新人まで大勢のトレーナーが集まっていた。そのトレーナー達の間で話題になっているのは、2人のウマ娘だった。
「よろしくお願いしまーすっ!」
その内の1人、ダイワスカーレットがトレーナー陣に向かって元気よく挨拶をする。地面にまで届こうかという豊かな栗毛の髪を、青い髪飾りでツインテールに纏め上げ、左耳には大きな赤いリボンを着けている。紅玉の如き輝きを帯びた勝気そうな瞳と、頭に載せられたティアラが特徴的なウマ娘だ。
「ダイワスカーレット……。さすが、良い仕上がりですね!」
「先日の模擬レースでは第3コーナーから先頭をキープか……。争奪戦、間違いなしだろうな……」
トレーナー達がダイワスカーレットへとさまざまな評価を下している中、もう1人ウマ娘がその輪の中へと入ってくる。
「っしゃーす」
外ハネしたショートカットの鹿毛の後髪は長く伸ばして1つに括り、前髪は右目にかかっている。その前髪の中央からは大きな流星が、まるで稲妻のように一条疾っている。左耳と顔の横には機械的な飾りをつけて、気怠げに頭の後ろで手を組んでいる。もう1人の注目株であるウオッカだ。
「へえ……。ウオッカの方が、大舞台でも落ち着き払っているのね。さて、2人のうちどちらが上かしら?」
女性のベテラントレーナーの言葉が聞こえたのか、ダイワスカーレットの目つきが鋭くなる。
「……ふん。そんなの、比べるまでもないでしょ」
不機嫌そうに吐き捨てるダイワスカーレットに、不敵な笑みを浮かべたウオッカが歩み寄る。
「おい、聞こえてるぜ。へっ、後でピーピー泣く羽目になっても知らねーからな?」
「あら、誰に言ってるのかしら? ——アタシは"1番"のウマ娘、ダイワスカーレットよ」
ウオッカの挑発を受けて、ダイワスカーレットも強気に言葉を返す。お互いにレース前から火花を散らしあっている2人を、保坂は遠巻きに眺めていた。
(ダイワスカーレットは少し気負い気味か。優等生っぽく振る舞っているけど、熱くなりやすいタイプか。逆にウオッカは純粋に勝負を楽しむタイプ。それが今回はどう転ぶか……)
そう2人の事を分析しつつ、保坂の視線はあのウマ娘を探していた。先程の様子からすると、おそらくは端の方に寄っているのではないかと思ってコースの外、観客席沿いに視線を這わす。
そして見つけた。コース脇で先程と同様に拳を握り、小声で何かを呟いている。おそらくあれが彼女のルーティンワークなのだろう。保坂はもう一度声をかけに行こうかと思って、しかしやめた。あまり何度も邪魔をするのは良くないし、走り終わった後に話をすれば良いと思ったからだ。
そしていよいよ選抜レースの出走の時。あのウマ娘はダイワスカーレットとウオッカと同じレースに出るらしく、一緒にゲート前へと集まっている。その視線は、未だに睨み合っているダイワスカーレットとウオッカへと注がれている。デビュー前からトレーナー達の注目を集める彼女達に、同期として思う所があるのだろう。
全員がゲートへと収まって一瞬の静寂の後、ゲートの開く音と共に一斉に走り出す。運命の選抜レースが幕を開けた。
◆
笛の音と同時に、周りの子たちが一斉に走り出す。私はというと、一瞬遅れて踏み出して、集団の後ろから着いていく形になった。
一歩踏み締める度に心が震え、一歩蹴り出す度に歓喜が溢れる。そしてその度に、私は奥歯を噛み締める程の恐怖を味わっていた。この一歩を進む度に、今の私を構成している精神が、前の私に侵食されていくかの様な錯覚を覚えた。軽く走るだけでこれなのだから、本気で走った時には一体どうなってしまうのだろうかと、ただそれだけが怖かった。
私を無理矢理出走させたあの子はというと、合図と同時に真っ先に飛び出して、スタートからずっと先頭を走っている。背後からでもわかる楽しそうな気配に、私はほんの少しの苛立ちを覚えた。
そしてその子がコーナーへと差し掛かった時、チラリと後ろを振り返って私を見た。その目は明確に、私に向けて語りかけていた。
———追いついてみなよ、と
それを見て、私はキレた。
無理矢理に私をこんな所に連れてきて、なんだその態度は。その上、私の気も知らずに、見せつける様にあんなに楽しそうに走りやがって。私は走るつもりなんて無かったのに。
———
その次の瞬間、私は思い切りコースを蹴り付けてスパートをかけていた。最後方から一息に先頭へと迫る。
一歩踏み締める度に心が震え、一歩蹴り出す度に歓喜が溢れる。そして1人追い抜かす度に、それ以上の興奮を覚えた。
嗚呼、そうか。これが本当の私なんだ。走って、走って、ただひたすらに走って。前世なんて知った事か。記憶があるのは確かだとしても、そんな事は関係ない。今この時、この瞬間の私こそが全てなんだ。
心が踊る。魂が震える。走るというただそれだけの行動が、私をこんなにも満たしてくれる。でも仕方ないじゃないか。
だって、私は———
———ウマ娘なんだから!
そしてゴール前であの子を追い越し、1着でゴールした。心臓は破裂しそうなほど脈打って、いくら息を吸っても酸素が足りないぐらい呼吸も苦しい。それでも今までにないくらい、清々しい気持ちだった。
『もーっ、くやしい! もうちょっとだったのに!』
私のすぐ隣で、あの子が地団駄を踏んで悔しがっている。同じ距離を走ったのに、私よりも大分余裕がある辺り、身体能力はかなり高いようだ。……いや、私が低いだけかもしれない。それこそ、ずっと走っていなかったし……。
その子はそうやってしばらく騒いでいたが、パッと顔を上げると私に笑顔を向けてくる。
『でも楽しかった! あなたは?』
なんとか呼吸を整えて、その子の方を見る。走っている時と何一つ変わらない、純粋に楽しかったのだとわかる、心からの笑顔だ。そして、私もきっと、似たような表情をしているのだろう。
『……うん、楽しかった』
『っ! ね、そうでしょう!』
私の言葉に、その子は本当に嬉しそうに笑ってくれた。そうだ、楽しかったのだ。本気で競い合う事がこんなに楽しいだなんて、知らなかった。
『……ありがとう』
自然と言葉が出ていた。私の言葉に、彼女は少し恥ずかしそうにはにかんだ。
でも私はこんな言葉だけじゃ足りないくらい、彼女に感謝していた。彼女にはそれだけ大切なことを教えてもらったのだ。
走る楽しさだけじゃない。
前世の私を否定したところで、それもやっぱり私なんだから何の意味もなかったんだ。今の私が消えてしまうなんて、そんなのただの私の思い込みだった。結局のところ、私は私でしかなかったんだ。
彼女はそれを気づかせてくれた。
『……ねぇ。また、一緒に走ってくれる……?』
『……うんっ! もちろん!』
彼女は私の両手を取って、ブンブンと上下に大きく振り回した。その勢いで私の体も大きく揺さぶられる。パワーがすごい。
そうして私の事を振り回していた彼女は、一度私をギュッと抱きしめると、体を離してから満面の笑みで私の顔を覗き込む。
『わたしはダイワスカーレットっていうの! あなたは?』
激しく振り回された所為で若干グロッキー状態だった私は、一度深呼吸をしてから彼女へと向き直る。彼女の宝石のような大きな瞳には、少し顔色の悪い私が写っていた。
『私? 私の名前は———』
◆
スタートと同時に先頭へと飛び出したダイワスカーレットに釣られて、レースは終始ハイペースに進んでいた。向こう正面を通過して、既に何人かのウマ娘は足取りが怪しくなってきている。
そんな中もう1人の注目株であるウオッカは、中団後方から先頭を窺っている。そして保坂が目をつけていた栗毛のウマ娘は最後方、先頭のダイワスカーレットからは未だ10バ身以上離れた位置にいた。
『さあ第3コーナーを回って、先頭は未だダイワスカーレット! ここから捉える事ができるのか!』
「ハァ、ハァ……くそっ……! このまま……、このまま大人しく負けてられっかよぉぉっ!」
そして最終直線に入って、とうとうレースが動いた。中団からバ群を割って、ウオッカがスパートをかけて先頭を目指して上がっていく。何処にそんな脚が残っていたのか、凄まじい勢いでダイワスカーレットへと迫る。
『最終コーナーを曲がって、ウオッカ! ウオッカが上がって来ました! ダイワスカーレットはもう目の前!』
「くっ……!?」
「うおらぁああああああっ!」
競りかけられるダイワスカーレットも負けじとスパートをかけるものの、最初からハイペースで先頭を走り続けたせいか、流石に脚が残っていない。少しずつその差は縮まり続けている。
『ウオッカ速い、ウオッカ速い! 驚異の末脚! ダイワスカーレットはもう目の前だっ!』
ダイワスカーレットへとウオッカが並びかけるが、ダイワスカーレットも最後の力を振り絞り、抜かせまいと必死に粘っている。両者一歩も譲らずにゴールへと直走る。もう残りは100mも残っていない。そのまま2人ほぼ同時にゴールに飛び込んだ。
『ダイワスカーレット、ウオッカ! ダイワスカーレット、ウオッカ! 迫るゴール板! レースを制したのは——ウオッカ! 僅差ではありましたが、1着はウオッカ! ダイワスカーレット、2着です!』
激戦を制したのはウオッカ、僅かにハナ差及ばずダイワスカーレットは2着となった。トレーナーに囲まれるウオッカを尻目に、ダイワスカーレットはその場から走り去ってしまった。
「……さて」
保坂はそんなウオッカの所には向かわず、2人から3バ身ほど遅れてゴールした後、その場にひっくり返って動かなくなってしまった栗毛のウマ娘の下へと向かう。
「ハッ……、ハァ……ハァ……、ゲホッ、オェッ……。仕掛け所……間違え……、オェッ……」
「大丈夫か……?」
年頃の少女が出してはいけない声を出しつつ、荒々しい呼吸を繰り返している少女を助け起こしながら、保坂は声をかける。
「エホッ、だい……大丈夫……です……。ハァ……ハァ……、これぐらい……なんとも……、オェッ……」
「とてもそうは見えないけど?」
呼吸が整わず、何度も嘔吐きそうになっている少女の背中を摩ってやりながら、ベンチのある所まで連れて行ってやる。少女はドサリとベンチに深く腰掛けて、天を仰いで深呼吸を繰り返している。
保坂は近くの自販機からスポーツドリンクを購入し、少女に渡してやった。
「ほら。一気に飲まずに、少しずつ飲みなよ」
「……ありがとう、ございます」
ようやっと呼吸の整って来た少女は、受け取ったドリンクをちびちびと飲み始める。保坂もその隣に座って、コースへと視線を向ける。コースでは次のレースが始まる所だった。
「とりあえず、3着おめでとう」
「はは、どうも……。もうちょっとやれると思ってたんですけどねー……」
「でもコーナーで無理に速度を落として内に入らずに、外を回って加速をかけた判断は良かった。内に入っていたら、その後にウオッカが抜けた穴に入ろうとした他の娘とかち合っていただろうからね」
「はぁ……」
「直線での速度だって、ウオッカと比べてもそこまで劣るものでもない。もう少し早く仕掛けていれば、もしかしたら前に届いたかもしれない」
「そーですねー……」
頬を掻きながら曖昧に笑みを浮かべる少女に、保坂は今のレースを見て感じた事を1つずつ挙げていく。少女の方はそれに適当に相槌を打ちつつ、次のレースを眺めている。そんな少女に苦笑を漏らしつつ、保坂は本題を切り出した。
「……ところで。キミ、トレーナーの当てはあるのかい?」
「いえ、特には。……何ですか? もしかしてスカウトですか?」
「まあ、そうなるかな」
「いや、勧誘下手くそか」
保坂の遠回しな言い方に、少女は呆れたように1つ息を吐いた。
「そういう時はね、ストレートに『契約してください』で良いんですよ。それでダメな時はコッチから断りますし、良ければ契約しますし。その方が最初に変に探り入れて来るよりも、よっぽど印象が良いですよ」
「……なるほど、そうか」
なにやら感心したようにしきりに頷いている保坂を後目に、少女は膝に肘を置いて頬杖をつきながらコースを眺めていた。
暫くの間2人黙ったまま並んで座っていたが、やがて少女が口を開く。
「……それで?」
「……うん?」
「トレーナーさんは、私にどんなご用件で?」
少女の発した言葉に、保坂は少女を見る。少女は保坂の方には視線をやらずに、前を向いたままで続ける。
一瞬、保坂は少女の言っている事の意味を理解できなかったが、すぐにそれに思い至ると、立ち上がって少女の前に出ると膝を付いて視線を合わせ、少女の眼前にスッと手を差し出す。
「キミを、スカウトしたい」
「……よく出来ました」
保坂の差し出した手を笑顔で取って、少女は立ち上がる。そして一度姿勢を正すと、腰を折って頭を下げる。
「改めまして。私、エルピスです。どうぞよろしくお願いします」
オリジナルウマ娘
名前:エルピス
身長:143
体重:微増
スリーサイズ:B86・W56・H78
靴のサイズ:20.5
因みに身長は、140+2D10、スリーサイズはそれぞれ、B70+2D10・W50+1D10・H70+2D10の結果なので私は悪くありません。
靴のサイズは身長近い娘に合わせました。