転生ウマ娘はレースの夢を見るか   作:雪卯鷺

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ボク「あ、そうだ(唐突)せっかくだから保坂の身長も決めておこう。20代成人男性の平均身長が172だから、期待値がそれ前後になるように160+3d10で…」

_人人人人人_
> 2 8 <
 ̄YYYYY ̄

特に大した考えもなくダイス振ったりするからこんな事故を起こすんだろ!(逆ギレ)

この結果に伴って前話の保坂に対する描写を一部加筆していますが、話の流れ自体は変わっておりませんので、特に読まなくても問題はありません。


エルピス登場!

 私の名前はエルピス! 日本ウマ娘トレーニングセンター学園に通う、どこにでもいる普通のウマ娘! ……なんだけど、実は誰にも言えない秘密があるの。

 それは"前世の記憶を持って生まれてきた"ということ。最近の流行りに則って言えば、『転生者』って言えば良いかな。

 

 その記憶に苛まれて一度は走る事を辞めてしまった私だったけど、ある日レース体験会で1人のウマ娘と出会ったの。その子はレースにも出ずに会場の端の方にいる私を心配して、声をかけてきてくれたんだ。

 でもその時の私はちょっと捻くれてて、声をかけてきたその子にも最初はキツく当たっちゃったの。それでもその子はめげずに私をレースに誘ってきて、最初は走る気の無かった私も結局レースに出る事になっちゃった。そしてその子と一緒に走ったレースで走る事の楽しさを思い出した私は、もう一度レースの世界を志す事を決めたの。

 そしてその時に一緒に走った子というのが、何を隠そう今もトレセン学園に一緒に通うダイワスカーレットちゃんで、コレが私と彼女の親交の始まりだった。

 

 それから色々あって無事トレセン学園に入学した私は、トゥインクル・シリーズでのレースに向けて日々トレーニングに励んでいるのだ! 

 そして、そんな私は今———

 

「えぇっ! エルピスちゃん、トレーナー決まったの!?」

「うわぁ、先越されたか〜」

 

 教室で2人の友人に囲まれていた。1人は黒鹿毛のショートポニーで、頭の天辺からアホ毛がぴょんと飛び出している、おっきなまんまるお目々がキュートなアイボリーシュシュちゃん。もう1人は小麦色の肌に芦毛のポニーテールが映える、皆の頼れる姉御(趣味:ぬいぐるみ収集)のローカルストリームちゃんだ。2人は入学してから初めてできた友達で、アイちゃん、ストリームちゃんと愛称で呼ぶ仲だ。2人は本格化がまだ完全には終わっていない関係で、前回の選抜レースには出走していない。

 

「まあね? 私もね? 誰でも良いって訳じゃなかったんだけどね? トレーナーがどうしても私が良いって言うからさ? まあ私だってそこまで言われたらね、契約してあげても良いかな? なんて思ってね?」

「すごい。めっちゃ調子に乗ってる。すごい」

「調子は乗り物。古事記にもそう書いてある」

「うぜぇ……」

 

 ストリームちゃんのジトリとした視線が突き刺さるが、今の私にとっては優越感を後押しする物でしかない。なるほど、コレが持てる者の余裕か……。

 私は2人に向かってニッコリと満面の笑みを浮かべる。

 

「心配しなくても、2人にもきっと良いトレーナーが見つかるよ」

「クソッ、めっちゃ上から来る! 腹立つ!」

「フフッ、嫉妬が心地良いわ……」

「なんか今日ずっと嫌なヤツだなお前!」

 

 側から聞いたら普通に喧嘩でも始まるんじゃないかって感じに聞こえるかもしれないけど、私達の間では割といつも通りの会話で、周りの娘達も「またあの3人か」みたいな感じで、すっかり慣れたものだ。いつも御迷惑おかけします。

 そんな風に3人で騒いでいると、隣の席から声が上がる。

 

「いやぁ。正直そんな感じの空気じゃなかったでしょ、アレは」

「うん?」

 

 あによ、なんか文句でもあるっての? 

 良い気になっていた私に水を差すその声の方へと振り向いてみれば、長い栗毛の髪をサイドテールに束ねたユニゾンフラッグちゃんが、頬杖をついて呆れたような顔でこっちを見ている。その全てを見透かしたかのような瞳を見た瞬間、私の中に緊張が走る。

 

 何だ……? この娘は何を知っている……? 

 

 しかしここで動揺を悟られてはいけない。隙を見せれば相手の思う壺だ。冷静に対処するんだ……。

 そして例え何かを知ってたとしても、ここで2人に選抜レースでの醜態を知られる訳にはいかないので黙っててください! お願いします! お願いします!! 

 

「……何? 何の事?」

 

 そんな思いと共に、渾身のポーカーフェイスでユニゾンフラッグちゃんへと対応を試みる。何ならアイコンタクトも試みる。届け、この思い! 

 しかし私の願いも虚しく、ユニゾンフラッグちゃんは軽く溜息を吐くと、やれやれといったように首を振る。

 

「とぼけても無駄よ、アタシ見てたもの。エルピスちゃんがスカウトされたって言うトレーナーってアレでしょ? ゴールした後、倒れたエルピスちゃんを介抱してたなんかデカい人」

「ウソ、見てたの!? どこで!?」

「だってアタシ、エルピスちゃんの次のレース出てたもの。しっかり見てたわよ。エルピスちゃんがぶっちぎられる所も、ゴールした後ひっくり返った所も」

 

 クソッ、見られていたか。お恥ずかしい。

 そしてユニゾンフラッグちゃんの証言によってあっさりと嘘がバレた私に、アイちゃんとストリームちゃんから憐れみの視線が送られてくる。

 やめて、そんな目で見ないで。ほんのちょっとした出来心だったんです許して。

 

「エルピスちゃん……」

「エルピス……」

「うっ……。……た、確かにスカウト周りの話はちょっと盛ったけど……。でも、スカウトされたのはホントだもん! トレーナーちゃんと付いたもん!」

 

 居た堪れない気持ちになった私は、とりあえずトレーナー契約自体はちゃんと成立しているので、そこだけはしっかりと主張しておく。

 

「いや、別にそこは疑ってないよ」

「エルピスちゃんはそんなつまらない嘘つく娘じゃないもんね」

「2人とも……」

 

 あぁ……、2人はちゃんと私の事をわかってくれていたんだ……。出会ってからの時間は短いけど、心から分かり合えている。そう思うと、胸の中が温かくなる。この2人と友達になれて良かった……。

 

「でも無駄に煽ってきたから、次の休みに行く予定のスイーツバイキング奢りな」

「ゴチになりまーす」

「おのれ2人とも!」

 

 クソッ、なんてヒドイ連中なんだ! 今のは絶対許す流れだったじゃん! それなのに、こんなにヒドイ仕打ちを……! コイツらには人の心という物がないのか! こんな奴らと友達になんてなるんじゃなかった! 

 しかし今の一連のやり取りで、この2人の中では私の奢りは確定事項のようで、何を食べようかなんて楽しそうに話している。

 なんだよぅ……。ちょっとトレーナー付いたのが嬉しくて調子乗っただけじゃん……。

 

「ヘンッ! 良いもんね! 私2人より先にデビューして、レースもバンバン勝って、重賞レースにもドンドン出て、賞金ガンガン稼ぐし! それぐらいの出費、なんともないもんね!」

「なんだよ、拗ねるなよ」

「拗ねてないが? なんならGⅠだって余裕で勝つし」

 

 ストリームちゃんが肩に肘をかけて来るのを払いのけながら宣言する。正直後に引けなくなってはいるが、まあレースの世界に居るならGⅠ制覇を目指すのは当然と言えば当然なので、これくらいは誤差だよ誤差。

 そんな風に騒いでいると、またもや誰かが声をかけて来た。

 

「レースの世界は、そんなに甘いものじゃないわ」

 

 その声に振り向くと、芦毛の髪をショートツインに結い上げた褐色肌のウマ娘が、不適な笑みを浮かべ、腕組みをして私達を見ている。

 

「あ、あなたは……!」

「昨年のGⅢ京都ジュニアステークス勝者のアイスホッパーさん!」

 

 アイスホッパーちゃんの突然の登場に、2人が大袈裟に驚いてみせる。

 いや何? 急に何が始まったのコレ。

 突然の小芝居に気勢を削がれ、スンッとなった私を置いてきぼりに、アイスホッパーちゃんは私達のところまで近づいてくると、髪をかきあげるような仕草をして、灰色の瞳で私達を見下ろした。

 なんかすげーノリノリだなこの娘。

 

「先にトレーナーがついたから勝てるだなんて、レースはそんな簡単な物じゃないの。ましてや重賞ともなると、尚更簡単にはいかないわ」

「はあ……」

 

 今日の一限数学かぁ。……宿題やってたっけ? 

 

「重賞に勝とうと思うなら、実力の他に才能も必要よ。そう、このアタシのようなね!」

「そっスね」

「この勢いのまま次のスプリングステークスも勝って、皐月賞もアタシがいただくわ!」

「そっスね」

 

 あ、爪にゴミ挟まってる。とっとこ。

 

「あら、ジュニア級のGⅢを勝った程度で随分と良い気になっているのね」

「っ!? 誰!?」

「あぁっ! 貴女は!」

「先日行われたGⅡフィリーズレビューの勝者のユイイツムニさん!」

 

 うわ増えた。

 

 思わず渋面を作ってしまった私を、一体誰が責められようか。いや、ホント何この状況。何でこの娘達わざわざ私達の所来てこんな小芝居始めてんの? 暇なの? そしてアイちゃんもストリームちゃんも何で当然のようにノってるの? 暇なの? 

 良く日に焼けた健康的な小麦肌のユイイツムニちゃんは、おさげに結った芦毛の髪を揺らしながら私達の所へとやってくると、アイスホッパーちゃんへと向きあって、眼鏡を指で押し上げる。レンズが光を反射してキラリと光った。

 

「同じ重賞とは言え、ジュニア級とクラシック級に上がってからでは、出走者の実力は別物と言っても良い。それをジュニア級でたまたま勝ちを拾ったからと言って、あまりつけ上がるものではないわ」

「……くっ!」

「まあ、せいぜい頑張ると良いわ。そして良く見ておきなさい。今年の桜花賞は私のものよ」

 

 眼鏡をクイッと指で押し上げつつ、得意気に胸を張ってみせるユイイツムニちゃん。なんで皆ここで決意表明していくの? あれか、私がGⅠ勝つとか言ったからか。だからって別に皆の目標聞かせろなんて言ってないのよ私は。てかここ褐色芦毛率高くない? 

 そんな事を考えながらボーっと小芝居を眺めていた私は、背後から近づいてくるもう1人の褐色芦毛ウマ娘に気が付かなかった! 

 

「あら。貴女達、楽しそうね」

「何!?」

「あぁっ! そんな、貴女は!?」

「昨年のGⅠ大阪杯勝者のダイアンサスブトンさん!?」

 

 知ってた。

 

 絶対来ると思ってたわGⅠバ。絶対そういう流れだったもの今。むしろ来なかったらどうしようかと思ったわ。

 そしてやって来たダイアンサスブトンちゃんは、机の上に広げてあった私の教科書やノートを一箇所にまとめて端に寄せると、そのまま机の上に腰掛けて足を組む。尊大な態度をとってる風に見せかけているけど、育ちの良さは隠しきれていないダイアンサスブトンちゃんは、そのまま私達を見下ろすように見回すと、小さく鼻で笑った。

 

「貴女がさっき言ったように、ジュニア級とクラシック級では重賞出走者の実力は別物よ。そしてそれと同じようにGⅠとそれ以下の重賞もまた、全くの別物と思っていい。貴女達程度の実力ではまだGⅠは早くってよ」

「……くぅっ!」

「これが……GⅠバ……!」

「なんて強烈なオーラ……! 私達では敵うわけがないっ……!」

 

 なんか小芝居が盛り上がって来た……。楽しそうだなコイツら……。

 それにしても、この1つずつ順番に出てくるこの感じ……。なんだろう、なんだか覚えがある……。そう、これは……。

 

「……マトリョーシカ」

「え?」

「うん?」

「なんて?」

 

 いや、確かにマトリョーシカは大きいヤツから小さいヤツが出てくるけど、重賞は数字が小さい方が格としては上になるから……、なんかこう、しっくりこないな……。

 

「……」

「いや、ちょっと黙んないでよ」

「いきなりどうしたのよ」

「マトリョーシカどこから出て来た?」

 

 いや待てよ……? 格下から上に向かって順番に挑んでいく、という風に考えれば……? つまりは、最初にGⅢが『貴様らの実力を見てやろう』と現れて、次にGⅡが『ヤツは重賞の中でも最弱……』と出てきて、最後にGⅠが『よかろう。ならば私が相手だ!』と……。なるほど、そうか……! 

 

「四天王……!」

「だから何!?」

「アンタさっきから何の話してんの!?」

 

 そうなると4人目にあたるのは何になるんだろうか……。やっぱりグランプリ? 宝塚記念が最後の四天王で、有記念が魔王……。これね! 

 

「ヨシ!」

「何も良くないが?」

 

 ……? なんだろう。ストリームちゃんがジトっとした目でこっちを見てる。いや、なんか皆そんな感じだ……。何で……? 

 

 ……まあ良いか。

 

「まあ、私もトレーナーついたし、レースに出るってなればどんな相手でも全力で挑むまでよ」

「急に話題元に戻すじゃん……」

「やりたい放題かよ……」

「こちとらまだ何も腑に落ちてないが?」

 

 皆の視線が痛い……。何で……。私何もしてないのに……。やっぱり小芝居にノってあげた方が良かったのかな……? 次からはそうしよう……。

 皆からの抗議の視線から逃れるように窓の外を見やる。そこには雲一つない青空が広がっていた。

 

 あぁ、今日もいい天気だ。

 

 

 ◆

 

 

 今日からエルピスとのトゥインクル・シリーズ挑戦が始まる。

 俺にとって初めての担当ウマ娘だ。当然一筋縄では行かないだろうが、彼女の才能は間違いなく世代の中でも上位だ。必ず良い結果を残せるだろう。勿論俺もその為のサポートは欠かさない。

 

「ぉあようございまーす……」

 

 トレーナー室にて1人気合いを入れ直していると、ガチャリと音をたてて扉が開き、件のウマ娘が気の抜けた挨拶と共にフラリと部屋の中に入ってくる。

 頭を掻きつつ欠伸を噛み殺すその姿に、思わずため息が漏れる。

 

「……エルピス、入る時はせめてノックしてからにしろ。あと、今はとっくに昼だ」

「ぁい……、すいません……」

 

 謝りつつも目元を擦り、眠いのを隠そうともしないエルピス。呂律もちょっと怪しい。てかお前何でそんな眠いんだよ。もう3時回ってんだぞおかしいだろ。

 

「お昼食べた後のレース理論の授業ってなぁんかこう、眠くなるんですよねぇ……」

「お前追込みバなんだからレース展開とか位置取りとかめっちゃ重要なんだからちゃんと聞いとけよマジで」

 

 おいコラ目ぇ逸らすんじゃねぇ。コイツ周りと比べてなまじスペック高いからって、その辺適当にゴリ押ししてたな。今はそれで良くても、そのうち絶対に通用しなくなってくるだろうから、早いとこ矯正しておこう。

 頭をガシガシと掻きまわしながら、浮かんできた文句を溜息と一緒に吐き出す。

 

「……とりあえず、トレーニングの前に目標を決めておこう」

「目標ですか?」

「ああ。何か出たいレースとかあるか?」

 

 そう聞くとエルピスは顎に手を当てて、少し考え込むような素振りを見せる。やがてチラリと上目遣いにこちらの様子を伺うと、躊躇いがちに口を開いた。

 

「……私、ティアラを走りたいんです」

「……ティアラ路線か」

「はい。……ダメですか?」

「ダメじゃない、けど……」

 

 ティアラ路線での一番長い距離のレースはオークスの2400。エルピスの出走した選抜レースは2000。それでゴール後動けなくなるほど疲弊していたし、普通に考えるなら距離は短縮した方がいいだろう。担当の事を考えるなら、合わない距離を無理に走らせるよりは距離短縮を提案するべきだ。

 

「……一応、理由を聞いてもいいか?」

「……一緒に走りたい娘がいるんです」

 

 さっきまでの緩い雰囲気は鳴りを潜めて、エルピスは真剣な眼差しで俺を見ている。エルピスが一緒に走りたい相手、それはおそらく……。

 

「ダイワスカーレットか」

 

 俺がそう言うと、エルピスは驚いたように目を見開いてパチパチと瞬かせる。言い当てられるとは思いもしなかったようだ。

 

「……そう、ですけど。良くわかりましたね?」

「お前の世代なら、やっぱりダイワスカーレットとウオッカの2人が抜けてるからな。誰かを目標にするなら、その2人だと思って。それに、選抜レースの時も2人の方を見てたろ」

「……ほんと、良く見てますね」

 

 エルピスはそう言って、薄く笑みを浮かべる。いくら新人とは言え、俺だって中央のトレーナーだ。観察力に関してはそこそこあると自負している。

 それに、なにより———

 

「お前しか見てなかったからな」

 

 そう。あのレースコースまでの道で初めて見た時から、契約を結ぶならこのウマ娘だと決めていた。それほどまでに、その身体と走りの完成度は高かった。確かに先頭へは届かなかったが、あの末脚のキレを見ればわかる。もし選抜レースで一緒に走ったのがあの2人でなければ、間違いなく争奪戦になっていた筈だ。勝ったウマ娘にスカウトが集中するのはわかるが、それでも他のトレーナーがあの時エルピスにスカウトに来なかったのは、見る目がないと思ったものだ。

 そんな風に考えていると、エルピスが何とも言えない顔で俺を見ている事に気づいた。

 

「……トレーナー。初めて会った時にも思ったんですけど、もう少し言葉を選んだ方がいいですよ」

「え、何急に」

「中高生に対する物言いじゃないって言ってんですよ。アナタ、ただでさえ図体デカくて威圧感あるのに、ソレに背後から忍び寄られて『良い身体してる』とか言われた時の私の気持ち考えた事ありますか」

「えぇ〜、褒めたのに」

「褒めるにしたって言い方ってモンがあるんです。アナタ、あれ襟にトレーナーバッジついてなきゃ通報物でしたよ」

「散々な言われようだなオイ」

 

 それはともかくとして、エルピスがティアラに行きたい理由はわかった。その上でどうするのが一番良いか。少しだけ考えて、出した結論は簡単なものだ。

 溜息を一つ吐いてエルピスに向き直る。

 

「……2000の選抜レースでへばって動けなくなるようじゃ、オークスの2400を走りきるのは厳しいだろう」

「……はい」

 

 エルピスはなんとなくそういう風に言われるとは思っていたのか、特に反論なんかはなく、唇を噛んで俯きながら俺の言葉を聞いている。

 ウマ娘の脚は消耗品だ。無茶な走りをさせれば、それだけ怪我のリスクが大きくなる。担当の事を考えるなら、やっぱり無理をさせるべきじゃない。自身にとってベストな距離で能力を発揮できるように指導するべきだ。

 

 それが、トレーナーとしての正しい考え方だ。

 

「……だから、この一年でスタミナを伸ばしてキッチリ走り切れるようにするぞ。具体的には坂路とプールトレーニングを中心に、肺活量を鍛えていく」

「……え?」

 

———そんな事、知ったことか。

 

「良いんですか……?」

「担当が走りたいって言うなら、それを何とかして走れるようにする為にトレーナーがいるんだ。もし最終的にダメだったとしても、最初から諦めるような真似は、俺はしたくない」

 

 それにあの選抜レースだって、ダイワスカーレットが最初からハイペースに持ち込んでいた事もある。ペース配分にさえ気をつけていれば、もっと余裕を持って走りきれたかもしれない。それならば、スタミナさえつけさせればオークスだって問題なく走れるはずだ。

 

「俺がお前を、オークスまで連れて行ってやる」

 

 なによりもあのレースでゴールしてから倒れるその瞬間まで、エルピスは一切減速していなかった。キレのある末脚と、最後の最後、限界まで走りきるその勝負根性は、間違いなく強力な武器になる。

 

「だから、お前は心置きなくダイワスカーレットに挑みに行け」

「……トレーナー。……ハイッ!」

 

 エルピスは胸の前で拳を握り込むと、一度ブルリと小さく体を震わせて元気よく返事をする。うむ、いい返事だ。気合いが入っていて大変よろしい。

 

「さて、それじゃあ早速今日からスタミナ強化に取り組むか。今日は坂路もプールも取ってないから、長距離ランニングで代用する。その後はトレーナー室でレース映像を見ながら、位置取りとペース配分についてちゃんと勉強だ」

 

 おいコラ目ぇ逸らすんじゃねぇ。スタミナトレーニングと並行して、この勉強嫌いもなんとかしないとダメだな。とにかく来年のティアラ路線に向けて、やらなきゃいけない事は山程ある。一先ずはデビュー戦に向けてしっかりと鍛えていこう。

 

 こうしてエルピスとのトゥインクル・シリーズ挑戦の日々がスタートした。

 

 

目標:メイクデビューに出走




普段の文体だと堅すぎるかと思って軽めの文を意識してみたんですけど、あんまり上手くできた気がしません。後コメディ描写が全然上手く書けない。
これから書いてくうちに上達していくでしょうか。
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