聖者の牢獄   作:桂太郎(テムヒ)

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いつも誤字脱字の訂正ありがとうございます!


守りの言葉

 

 

 

 ―――この世界は冷たく、残酷だ。

 

 死が身近にあり、常に生きることと隣り合わせだった。医療も衛生の概念も俺が生きていた世界とは比べ物にならないくらい低い。ほんの少しの切っ掛けで容易く命は散っていく。

 

 だからこそ、皆一様に救いを求める。

 

 自身が生きているこの冷たく残酷な世界でも、死後天国という暖かくなにも不自由ない場所に行けるのだと。

 

 宗教は常に社会背景と連動している。それに求められることは、その場所、時代、社会によって様々で変化するものなのである。

 

 昔、この地で信仰されていた土着の宗教は、どういう背景があったのだろうか。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「まぁ、アンディ様。どうなさったのですか?」

 

 肩を怒らせて部屋に入ると、アマルは驚いて目を丸くした。俺は無言で彼女の隣に腰かける。アマルは困ったように眉を下げて、俺の様子を伺っている。

 

「アンディ様、私はアンディ様のためなら、何でも致します。だから、そのようなお辛い顔をなさらないでください。アマルは胸が張り裂けそうです」

 

「張り裂けそうって……大袈裟すぎないか? でも、ありがとう。お前は本当に優しいな」

 

 俺はアマルに手を伸ばして、華奢な肩を抱く。ぐっと身体を寄せて、その小ささを実感する。アマルは俺より頭1個分以上低い。並んで立つとまさに子どもと大人といった風になる。

 

 ……まさに、というか現代の尺度で考えるなら、実際大人と子どもだ。まぁ、ここは中世ヨーロッパ的な世界観だから、セーフだろう。セーフ、だといいなぁ。俺は自分自身に愛想がつきそうになった。

 

「アンディ様」

 

 アマルは俺の胸に顔を埋める。柔らかい。改めてアマルの身体に視線を向ける。

 安産型のお尻に、細い腰、大きく盛り上がった胸部。14歳にしてはかなり良いスタイルで、正直むらむらとしていけない気持ちになる。俺はアマルの太股を撫で擦る。張があり、むっちりした素晴らしい感触。……うん、完全にセクハラだな。

 

「んっ、あ、アンディ様……?」

 

「おう、お前の太股は柔らかいな。というか全身柔らかい。癒されるわ」

 

「ふふっ、それはようございました。アマルはアンディ様の(もの)です。だから、どうか私を好きにお使いくださいませ。心と身体、私の全てを貴方様に捧げます」

 

「……っ」

 

 穏やかに微笑むアマルに、俺は急に照れ臭くなった。頭を掻いて明後日の方向に顔を向ける。少女は俺の様子をきょとんとした目で見てくる。

 

(どうしよう。俺の彼女、くそ可愛いんだけど……)

 

 アマルは、俺のみに無邪気に無遠慮に好意を伝えてくる。簡単に言うと、常に好き好き大好きオーラが全開なのである。それがとても嬉しく、可愛らしい。

 

 俺に執着し、独占欲を持って依存しているアマルの様子を何度も見てきた。そして更に彼女の修道院の立場を知るごとに、アマルを決してひとりにできないと痛感した。アマルには、俺が必要なんだっと思った。それに何より今の俺にも彼女が必要だった。

 

 アマルを受け入れてから、自身の中で何かが吹っ切れた。彼女の身体を触ることも、キスすることにさえ罪悪感を感じず忌諱することは無くなった。そんな俺にはもはや怖いものなどない。

 

「アマルはほんと可愛いな。俺にはもったいない」

 

「……ふふっ、アンディ様ったら」

 

 アマルは顔を上げると、お上品に口元に手を当て笑った。そして、俺の腕に頭を預け、うっとりとした表情を浮かべる。

 

「アンディ様、私とても幸せです。このまま時が止まればいいのに」

 

「大げさだな。時が止まれば、こんなこともできないぞ」

 

 アマルの顎に手を添えて、顔を上に向かせる。そうするだけで、彼女は頬を上気させて瞳を閉じた。堪らなくなって噛みつくように口付けを落とした。

 

「ん……っは、ちゅ、アンディ様、素敵です」

 

 夢中でキスし続けて、やっと唇を離す。くたりと、腰砕けた様子でアマルはしなだれかかってくる。細い腰に腕を回して、抱き締める。

 少しそのままの体勢で、アマルの息が整うのを待つ。少女は嬉しそうに何度も自身の唇を指でなぞっていた。悩ましげに、はぁと彼女はため息を着いてから、顔を上げた。

 

「そう言えば、アンディ様、先ほどはどうしなされたのですか?」

 

 アマルは鮮紅の瞳を心配そうに瞬かせた。

 

「いや……何でもないよ」

 

 俺はサルスの傲慢にこちらを見下す顔を思い出して、思わず口を尖らせる。でも、アマルに余計な心配をかけたくなかったので、それ以上は口をつぐむ。

 

 サルスの言葉が脳裏に浮かぶ。

 

(ーーー悪夢が覚めるまで、か)

 

 サルスが言うように、俺は悪夢を見ているのだろうか。そうであるなら、何ともくそったれな話だ。ああ、全く救いようがない。

 

「アンディ様……」

 

 思わず遠い目をしながら虚空を見つめている俺に、アマルは小首を傾げ、不安そうな表情を浮かべている。

 

「ああ、いや、大丈夫。何でもないよ」

 

「――っ、そうですか。アンディ様がそうおっしゃるなら、そうなのでしょう」

 

 アマルは微笑んだ。しかし、目が笑っていなかった。俺の言葉に表面上同意しているが、内心は全く別なのだろう。アマルは勘が鋭い。特に俺のことに関しては、些細な変化にも気が付く。心を読んでいるのかと思う程だ。それでも、俺が正しいという姿勢を決して崩そうとはしない。どこか歪で、盲目的な在り方をしている。

 

「俺が言うのもなんだが、無理に同調しなくても良いんだぞ。俺が間違うこともあるだろう?」

 

「アンディ様がおっしゃることに、間違いがあるはずありません」

 

「……お前は俺の全肯定ウーマンか」

 

「はい、アマルはアンディ様の全てを肯定します」

 

「そうかぁ」

 

 そうです、とアマルは俺の頬を撫で微笑んだ。

 

「大丈夫です。アンディ様は何も心配することなどございません。アマルがお守り致します。……どんなモノからも絶対に」

 

 その言葉に気圧され、俺は思わず頷く。

 

 

 

 

「ふふっ……あの男、相変わらず余計なことしかしないのだな。私の愛しきアンディ様を惑わすなど。ああ、全く心底不快だ」

 

 アマルの聞こえるはずのないほど小さな呟きが、何故か耳に入り消えた。

 

 

 

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