聖者の牢獄   作:桂太郎(テムヒ)

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いつも誤字脱字のご指摘にありがとうございます!


重なる声

 

 

 アマルの身体を抱き締める。

 彼女は俺の胸板に顔を擦り付け、背中に手を回した。

 

「……アンディ様」

 

「ん、何だ?」

 

「私は、貴方様だけをお慕いしております」

 

 そう言ってアマルは微笑んだ。その笑みは、己自身を哀憐するような笑みだった。きっとアマルは自分が笑っていることに、気付いていないのだ。しかし、彼女にとってその方が良い。俺は何故かそう思った。

 

「許されるのなら……いいえ、許されなくとも」

 

 冷たい身体。

 それを暖めるように、隙間なく身体をくっつける。

 

「どうか貴方様の側に……」

 

 声が重なって聞こえた。

 アマルはひとりしかいないのに。重なって、という表現はおかしな表現だと自分でも思う。疲れているのだろうか。

 

 俺はアマルを見つめた。何故違和感を感じるのだろう。彼女の容姿はどこからどう見てもアマルだ。咲きほこる花のような、熟れた果実のような匂い。アマルの香り。安心する嗅ぎ慣れた体臭。

 

 漠然とした違和感。アマルなのに、アマルではない。しかし、どうしてそう思ったのか。分からない。分からないからこそ、ただ焦燥感が募る。

 

「アマル、お前は……」

 

 その先に続く言葉を紡ごうとして―――ー

 

 くらり、と急に眩暈が襲った。

 視界が歪む。

 チカチカと点滅を繰り返す。

 寒気が止まらない。

 意識がどんどん薄れてくる。

 ああ、これは気を失うやつだ、と他人事のように思った。

 

 立っていられなくなり、アマルに寄りかかる。

 何が嬉しいのか、アマルの笑い声が闇に溶けた。

 

「……永遠の愛を誓って、貴方様に従い、貴方様を守ります」

 

 

 暗闇の中、その声だけがはっきりと聞こえた。  

 

 

 

 ***

 

 

 

 「ここは……」

 

 意識が覚醒する。

 あたりを見渡すと、見慣れた部屋にいた。俺の自室だ。隣にはアマルが俺の腕を抱くように眠っている。

 

 ……あれは夢だったのだろうか。

 

 アマルの手を優しくほどいて、ゆっくり起き上がる。ため息を吐いて、自分を落ち着かせた。

 

 頬を伝う汗を服で拭う。拭ってから、あれ? と疑問に思った。

 

(……俺、服着てる?)

 

 そうだ。

 あれが夢なら、俺は裸のはずだ。昨晩アマルを抱いて、俺は裸のまま寝入った。であるならば、服を着ている時点で矛盾が生じる。やはり俺はここを抜け出す際、服を着た。そう考える他ない。

 

(……じゃあ、あれは現実に起こったことなのか?)

 

 アマルを見る。

 彼女は気持ち良さそうに寝息を漏らして眠っている。回廊で感じた違和感は感じない。いつものアマルだ。

 かけ布団を捲ると、透き通る白い裸体が姿を現した。豊かな乳房がまず目に入る。引き締まったウェストがそれをより強調していた。

 

 アマルは気を失った俺を背負ってここまで連れてきた? でも、こんな細腕でそれができるとは到底思えない。

 人を呼んで運んで貰った。普通に考えるとそうなるだろうが、誓約によって修道院の者はアマルと会話することができない。

 

(なら、どうやって……)

 

 暫くアマルの様子を眺めていた。それから、少ししてアマルは目を覚ました。

 

「ん、ふわぁ……あん、でぃさま」

 

「ああ、おはよう」

 

「ひゃん、おはよーございます」

 

 もぞもぞと、身動ぐ。

 それに合わせて、胸がたわんだ。二つの桃色がはっきりと目にはいる。勿論、上と下も何も身に付けていない。

 

 ……エロっ!

 

 考えていたことが、一気に飛んだ。自分でも単純だと思う。しかし、こんな美少女が隣に裸で眠っていたら、誰もがそういう方面に思考がシフトするたろう。というか、シフトしろ。

 

「ふふっ、あんでぃさま」

 

「ん、どうした?」

 

「まいあさ……はじめにみるおかたがあんでぃさまで、あまるはしあわせです」

  

 ふにゃりと微笑む。朝から好き好きオーラ全開だ。俺は頬を掻いて、なんとも言えない顔をしてしまう。

 

「あー、そうか。うん、ありがとな」

 

「はい、すき。だいすき。おしたいしています。あんでぃさまぁ、んっ」

 

 目を瞑って、唇を差し出してくる。キスしろと無言の催促。顎に手を添えて上向きにすると、そっと唇を重ねた。そうするとアマルは嬉しそうに、唇を擦り付け食んでくる。

 

 あー、ダメだ。可愛い。

 

 俺はちらりと窓を見た。まだ薄暗く本格的な夜明けは訪れていない。時間は充分ある。俺は即座に欲望に負けることにした。そう決めると、身体もその気になる。もどかしく急いで服を脱いでいく。それから、アマルの頬を撫でて懇願する。

 

「……なあ、お前を抱いていいか? 朝から悪いが、もう我慢できそうにない」

 

 それを聞いて、アマルはしっとりと微笑んだ。

 俺の首に手を回して、鼻に軽く唇を落とした。ちゅっ、とリップ音が聞こえる。それから、全てを受け入れる笑みを浮かべた。

 

「ええ、どうぞ。私は貴方様の(もの)ですから。いつでも、どこでもアンディ様が満足行くまで、ご賞味ください」

 

 堪らず、勢いを付けて覆い被さる。昨晩のアマルを振りきるように、ただ今のアマルを焼き付ける。現実逃避も甚だしい。それを理解しながら、俺はこの少女にどうしようもなく溺れている。水面に浮き上がることはできるのか。そのまま溺死してしまうのか。もう、俺には分からない。

 

 

 少女の艶やかな声が、部屋に響いた。

 

 

 

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