『む、何故俺が…?』
一方のベルクは困惑気味だ。
それはそうだろう、ベルクには特に戦う理由がない。
だがセシルは逃がさない。
ベルクを指定したのは全て計算づくでの行動だ。
『うるせぇ!理由が必要か!?』
セシルの声が会場の注目を一気に集める。
(言っちゃ悪いがウィリアムズの策は健気さアピールだ。同情を買ってるに過ぎない。
だったら俺が勝つには王道キャラだ!観客に『やっぱ最後は王道だな!』って思わせるんだ!)
セシルは直感でプロレスの何たるかを理解していた。
セシルは一気に畳みかける。
『お前は男だろ!そして、すぐ目の前に強い奴が立っている!男が立ち上がる理由なんてそれで十分じゃねぇのか!?』
少し恥ずかしいが熱血キャラとはこういうものだ。
自分が勝つにはこれしかない。
ベルクが屈強な大男なのが重要だ。
元より不利なウィリアムズに対し反則と呼べるほど体格差のある選手が襲い掛かる。
やはり屈強な王道コンビが勝つのか、はたまた線の細いコンビが勝つのか。
ベルクはストーリーを盛り上げるのに必要な逸材なのだ。
更なる大男の乱入で試合はどうなるのか、観客達はそれを期待していた。
『はいベールークー!ベールークー!ベールークー!』
司会のイズクレイが手拍子付きで会場を煽る。
会場は徐々にベルクコールで沸き上がってゆく。
(わりぃ、ベルク。マジ頼むわ)
セシルが目で訴えている。
ベルクは軽く息を吐くと立ち上がりシャツを脱ぎ捨てた。
『いいだろう。天を穿つ大剣聖エーレンベルク、リングインだ!』
会場が怒号と歓声で燃え上がる。
『ちょっとあんな大男!卑怯だわ!』
『ヒュー、見ろよあの鋼のような筋肉を!』
『まるで鉄板だぜ!ありゃあタダモンじゃねぇ!!』
ブーイングと歓声は半々といったところ。
これで条件は互角、後は試合で勝つだけだ。
ベルクがゆっくりリングインするとセシルに近寄り耳打ちをする。
『いきなりかますぞ、ツープラトンだ!』
そう言うとベルクはウィリアムズに向かって走り出し、腕を掴むとセシルに向かって放り投げた。
『お前の説教いちいちネチっこいんだよ!!』
セシルが跳んでドロップキックを炸裂させる。
たまらず悶え転がるウィリアムズの手をタッチし、ミスセフィドがベルクに襲い掛かる。
両者ともに両手をがっちり組んで拮抗する。いわゆる手四つ力比べの体勢だ。
ベテランレスラーともなればこの力比べで相手の力量が測れるという。
それはベルクに於いても似たような感覚を発揮させた。
(この女、相当デキる!この俺が真っ向勝負でどうなるかわからんほどに!)
ベルクは思わず距離を取る。
(この体のどこにあんなパワーが…?)
ベルクはミスセフィドをよく観察した。
『あ、あれは…!』
彼女の後ろのコーナーに何かが立てかけてあるのが見える。
『聖盾じゃないか!』
聖盾が雑にコーナーポストに立てかけてあった。
『審判!ドーピングだ!彼女は聖盾の加護を受けている!』
ベルクが吠えた。
『いいえ私はミスセフィド!聖盾の加護は受けられません!あれはただの忘れ物にすぎません!』
『国宝を忘れる皇女があるか!』
ベルクの真剣なツッコミが面白い。
会場は変な盛り上がりを見せ、ミスセフィドが再び襲い掛かると聖盾の件はすっかりうやむやになる。
とにかく今は戦うしかない。
セシルもベルクも覚悟を決めて奮戦した。