『なっ!』
思わず声が出てしまった。
紙芝居形式の説明はさぞかし幼稚なのだろうと考えていた。
こんなものをどうだわかりやすいだろうと船員達に実演した日には浴びせられるのは称賛の声ではなくナメとんのかの拳だろうと思っていた。
だが実際にはどうだろう。
ポチ姫の指示は幼稚ではあるがとてもわかりやすい。
作戦通りにすればどのようなメリットがあるのか、指示に従わなければどのような結末になるのかがイラストを用いた物語形式で説明されていた。
またグラフを利用して目標の達成率や難易度を感覚的にわかりやすくしている。
あれならば字が読めなくても理解できる。
『良いですか。何かあった時は止める、呼ぶ、待つです!違う事をしたらダメですよ!』
指示を徹底させるために命令を簡易化している。
何があろうとこれさえ守れば失敗してもいいと教え込んでいるのだ。
これならば事態の悪化だけは確実に防ぐ事が出来る。
トラブルが発生しても全てが想定内に納まるよう最初から仕組まれているのだ。
それに比べて私はどうだ。
完璧さを求めるあまり指示は複雑化し臨時雇用達は混乱した。
ならば船員達のレベルに合わせようと作戦そのものを単純化させれば効果が薄くなり、それでもなお臨時雇用達は指示に従わない事もあった。
それをレベルの差だと判断し、どうすれば船員達のレベルを上げられるか、どう工夫すれば彼らに高度な指示が伝わるかばかりを考えていた。
だがコボルト達は伝達方法の単純化と娯楽化、更に個人ごとの動きを単純化させる事で簡単に作戦が達成できるように重視されていた。
その効果と成長は最初は急ぎ過ぎず遅すぎもしない。
だがデータが確実に集まっていくことで成長は加速化していくだろう。
紙芝居とバカにした伝達方法もむしろ狭苦しい部屋に大人数を集め机上の地図に駒をあちこち動かし複雑な指示を出していた己が恥ずかしいほどだ。
ウィリアムズは膝から崩れ落ちた。
そして冷静ではなくなっていた。
気が付けばウィリアムズはポチ姫に己の悩みを打ち明けていたのだった。
(わ、私はアニメの生徒会会議のマネをしていただけなのですが…)
ポチ姫も混乱した。
大人がこんな事を相談してくるとは思ってもみなかった。
ポーチはいずこかの周期で黄金の門を通って日本と言う国に渡った事がある。
周期が変わっても記憶は残るため中途半端に別世界の高度な仕組みを用いることがあるのだ。
今回の事象もその1つである。
ポチ姫からしてみれば多分凄いのだろうとフリップを使用した会議を真似て紙芝居を用いただけだが、ブリアティルトの知識人から見れば本当に見所のある斬新な技術をポチ姫が開発したという事になるのだ。
『お願いします。私は物事を娯楽化して簡単に伝えるということに知見がないのです』
『で、ですが、そもそも我々と船員さん達では物事の興味も行動原理も違います。同じような紙芝居をしてもダメだと思うですよ』
ポチ姫の言う事も一理ある。
船員達が紙芝居を食い入るように見るとは思えない。
彼らが興味を持つような要素を含めて情報を伝達するのが適切だろう。
『街を歩いて彼らの興味のありそうな物を探してはいかがでしょう?』
『しかし私は日々の業務に追われていたそのような時間は取れない。まして私は彼らの興味を引きそうな物がわからないのです。』
ウィリアムズは本当に辛そうだ。
なんとかしてあげたい。
ポチ姫の余計なお世話という名の炎にどんどん薪が放り込まれていく。
『わかりました。ならば私が探してきましょう。ここは全て私にお任せください!』
『よろしくお願いします』
よろしくお願いします、ではなかった。
後にウィリアムズはそう語る。
かくしてコボルト達は街に繰り出して調査を開始したのだった。