街は楽しいのです。
美味しい物、不思議な音楽、ダンス、お話、珍しい物、いっぱいある。何でもある。
コボルト達は街を思いっきり堪能した。
本来の目的が完全に頭から抜け落ちるほどに。
『楽しいワン!人間の街は楽しいワン!』
コボルト達は本来の目的を忘れて全力で楽しんでいた。
気付けばウィリアムズが渡した彼個人のポケットマネーはほぼ底をつきかけていた。
『減ったなら増やせばいいのだワン』
当然ながら労働ではない、部下は子供にバクチを提案した。
その時、大きな歓声がポチ姫の耳に入った。
驚いてそちらを振り向くと、その先にはコロシアムがあった。
引き寄せられるようにコロシアムに入ると城内は熱気と歓声に包まれていた。
当初は雰囲気にただ圧倒されていたコボルト達だったが、やがて1つの思いが頭をよぎる。
これと同じことをやれば凄いことになるのでは。
何がどう凄いのかは考えない。
とにかく凄いことなので凄い何かが出来るだろうと考えるのがコボルト達だ。
『これって海賊さん達も大好きなのではないかワン?』
部下の言う通りだ。
あの人達はこういうのが大好きに違いない。
ここでようやくポチ姫は本来の目的を思い出した。
これを使えばウィリアムズの本懐も達成できるに違いない。
さらにそこに日本で見たあれを混ぜればもっと凄いことになる。
ポチ姫の頭脳が噛み合わない歯車や安全装置を破壊しながらフル回転した。
翌朝、ウィリアムズは朝の紅茶を優雅に味わっていた。
船員達は紅茶にこだわりはないようだが、朝に紅茶を飲むという習慣は心のリセット、いわばルーティンワークなのだ。
前日に多少のトラブルが起きても日常を取り戻す事で心を水平に戻すという有意義な行動だ。
(ふぅ、昨日はガラにもなく落ち込んでいたがポチ姫の紙芝居案は素晴らしかった。ポチ姫に依頼をしてしまったが何も娯楽化などせずともあれを少し工夫して…)
その時、食堂に船員のカフカが入ってくる。
メンバーの中では年配な方であり陽気な性格で厄介ごとに首を突っ込むタイプだが確かな経験と発言を持つ信用に値する男だ。
今日は彼と紅茶を味わうのも悪くないかも知れないな。
『アンタ、プロレスなんて出来るのかい?』
訂正しよう、何を言っているのだこの男は。
紅茶を吹き出しそうになったぞ。
『興行として成り立つプロフェッショナルレベルのレスリングと言う意味か?出来るわけがないだろう。何をおかしなことを言っている』
『いやぁ、そりゃそうなんだろうけどさ』
なんだろう、話が噛み合わない。
そもそも彼はこのような突拍子もない話題をいきなり振るような男だっただろうか。
『でも、やるんだろ?何か考えがあるのかい?』
やるわけがない。何かがおかしい。
穏やかな朝が紅茶でも冷静さを保てぬ何かに変化している気がする。
ウィリアムズはカフカに事情を聞き出す事にした。