\ドドドドドドドドドド/
敢えて表現するならばこのような激しい足音がポチ姫に近づいてくる。
ポカポカと気持ちの良い日差しが差し込む爽やかな甲板でポチ姫は掲示板に張ろうとしていたポスターをゆっくりと足元に置くと足音の主を出迎えた。
『ポチ姫!昨日の件で少しお話をお伺いしたいのですが!?』
足音の主はウィリアムズだった。
いつもならば急いでいてもザッザッザッと言う足音なのだが、それほどまでに焦っているのだろう。
勢いに圧されてポチ姫が後ずさるとウィリアムズは足元に落ちているポスター拾い上げた。
恐る恐るポスターを広げるとウィリアムズは膝から崩れ落ちた。
『そ、想定外だ…』
\セシル海賊団 朝のミーティングwith下剋上デスマッチ セシルvsウィリアムズ ガチンコプロレスバトル/
ド派手な文字でポスターに書かれている。
『ポチ姫、これは一体…』
ウィリアムズは青ざめた顔でゆっくりとポチ姫に顔を向ける。
『ミーティングです!』
ポチ姫は自信満々にそう答える。
キラキラとした瞳からは疾しさも迷いも感じない。
(あぁ、これは面倒なやつだ)
ウィリアムズは覚悟を決めて事情を尋ねる。
ポチ姫の言う事をまとめるとこうだ。
先日に己が打ち明けた悩みをポチ姫は一生懸命に考えたらしい、良い心掛けです。
そこでポチ姫が目を付けたのは武器を用いて戦う闘技場であった、確かに船員への娯楽としてはうってつけでしょう。
そしてポチ姫は似た物にプロレスがある事を思い付いた、確かに共通点は多い。
プロレスはマイクパフォーマンスで言いたい事をいいながら素手で戦う、なるほど会話も一応はしていますね。
つまりプロレスしながらミーティングすれば船員達が熱中しながら指示を聞くことになる、おかしいのはここだ。
このような発想に至る子供に現状のおかしさを説明するのは不毛だ。
ウィリアムズは別の提案で中止を促すことにした。
『ポチ姫、この日は私は大事な用事があるのです。後日空いてる日を伝えますので中止していただけませんか?』
『それは出来ません。セロットさんが既にチケットを販売しているのです』
なるほど、奴がブースト要因か。
ウィリアムズはすぐさまセロットの元に向かった
『は?中止しろ?バッカじゃないの?』
セロットは真顔で答えた。バッカじゃないのは貴様だ。
セロットはうちの船団員だ。
私掠海賊であるセシル海賊団の中では珍しく正統派な海賊と言うべきか、女性ながら少々姑息で小知恵が回り金に汚い。
『もうチケットは置いてきたしハコもついさっき抑えたんだよ?払い戻しなんかしたらウチは終わりだね』
昨日のうちにコボルト達が街中の酒場にポスターを貼ってまわりチケットも様々な店に売り払ったらしい。
もはやどの人物にどれだけ売れたかを補足するのは難しいだろう。
まして賠償金と会場代、椅子や設備の借用費を考えると中止には出来ない。海賊団は確実に経営破綻する。
『あ、アルテミシア様も見に来るよ。興味あるってチケット買ってった』
『なっ、アルテミシア殿下が!?』
コボルト達の機動力と数が完全にアダとなった。
まさか昨日のうちにここまで事態が進むとは。
恐らくはここまでセロットの企みなのだろう。退路は完全に塞がれたのだ。
注意深くセロットの顔を観察すると口角が少し上がっていた。いい度胸をしている…!
だが現実的な問題としてセロットの脅しは正しい。
既に中止することはあり得ない状況に追い込まれている。
ならば別の手を講じるまでだ。
ウィリアムズは再びポチ姫の元へ走り出した。