セシル海賊団プロレス会議   作:アフロダイB

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ルチャ

『こ、これは…!』

 

ウィリアムズは言葉が続かなかった。

テレビジョンに映し出された試合はウィリアムズが知るような力自慢の大男たちが取っ組み合いをする姿ではなかった。

鍛え抜かれた小柄な男たちが宙を舞い、身軽さと速さと回転を駆使して大男たちを次々に投げ飛ばしていく姿だった。

それはもはや闘法というよりは芸術に近い。

気が付けばウィリアムズは食い入るように画面を見ていた。

魔法も無しにこんな動きが人間に可能なのか。

 

『う、美しい…!』

 

思わず言葉が漏れてしまった。

特に素晴らしいのが黒い肌に白いコスチューム、赤いマスクを被ったこの男だ。

 

『Hey』

 

突如見知らぬ男に肩を叩かれる。

振り返ると映像に映っていた赤いマスクのレスラーが自分の後ろに立っていた。

 

『位置入れ替え(異界)です。キサラさんとホセさんを入れ替えました』

 

間違いない。ホセと呼ばれた男は先程映像で映っていた赤いマスクの男。芸術そのものの男だ。

一方テレビジョンの画面ではキサラ嬢が位置入れ替えに気付いていない相手レスラーにひたすらボコられていた。

あ、キサラ嬢がやり返した。強い、えげつない。

ゴングを投げた、イスで殴った。

頭を蹴った、蹴った、蹴った。

レフリーが止めに入ったがレフリーすらも放り投げた。

セコンドがリングに上がってきた。

 

あちらはあちらで大変な事になっているようだがポチ姫はキサラ嬢の事は心配していないらしい。

話は続けられていく。

 

『~~~~~~』

 

『ホセさんはこう言っています。出来ない事はない。貴方には才能はないが2週間あればリングに立たせるだけの実力を与えることは出来る。と』

 

ウィリアムズに衝撃が走る。

あのような芸術的な動きを自分が?

とても信じられない。大体どうして言葉が通じるのだ。

だがホセの瞳は力強く、そして優しい眼差しでこちらを見ている。

嘘ではない。ホセには自信があるのだ。

 

『出来ないから逃げるのがセフィド貴族のお姿ですか?どのような戦場であれ美しく戦ってみせるのがセフィド貴族なのだと証明すればいいのです!』

 

ポチが畳みかける。

ウィリアムズは反論が出来ない。ポチ姫の言ってる事は正しい。

そして目の前にはそれを実践できる男がいるのだ!

何よりウィリアムズは己の体が熱を帯びている事に気付いていた。

 

(…ふっ、私も男か…)

 

その頃、セシルはウィリアムズとポチ姫が入っていった部屋の前で考え事をしていた。

セシルはウィリアムズの判断を信頼している。

ウィリアムズは自分よりもずっと物を知っている冷静な男なのだ。

だが、それと同時に他人に対して敬意を払いすぎる欠点も知っている。

 

ポチの厄介な所は稀に凄い能力を発揮することだ。

簡単な事が出来ない癖に奇跡をいとも容易く行い逃げ場を無くすのだ。

『出来るもんならやってみろ』『出来ましたのでやります』と言った具合に言葉が戻せなくなって大惨事になる。

さっき自分がやっていたように問答無用で頭を押さえつけてやるのが最適解だ。

 

(話が長いな…まさか…)

 

セシルは最悪の事態を想定した。

ウィリアムズが溜め息を吐きながら出てくれば失敗。

真っ直ぐな目をして出てくれば成功と言った所だろうか。

 

その時、扉がゆっくりと開きウィリアムズが部屋を出てきた。

その瞳はまっすぐこちらを捉えている。

どうやら取り越し苦労だったような。

 

『すまないな。待たせてしまったか』

 

ウィリアムズはいつも通りだ。

 

『いやかまわねえよ。で、話はどうなったんだ?』

 

『君との試合は1ラウンド3分制で10R勝負だ。決着が着かなかった場合は審判団による判定で決着となる』

 

『なんで話をまとめてんだよ!中止にするとかじゃなかったのかよ!』

 

『セシル、そもそも民衆が見たいのは私と君の試合だぞ。代役など立ててもしらけるだけだ』

 

それはそうだろうがそこを何とかするための話し合いだろう。

ダメだ、完全に予想外だ。

ウィリアムズはまっすぐな目をしたまま間違っている。

 

『ポチに言い負かされてるんじゃねぇよ!』

 

『ポチ姫に言い負かされたのではない。ルチャリブレに魅せられたのだ』

 

『なんだよルチャリブレって!』

 

『それは試合当日のお楽しみだ。ではセシル、すまないが私は今から2週間船を降りる。リングの上で会おう』

 

そう言うとウィリアムズは赤いマスクマンと共に船を降りて行った。

 

『特訓か!?特訓なのか!!?』

 

ウィリアムズは答えない。

代わりに赤いマスクマンが振り返り親指を立てた。

お前に聞いてない、お前誰だよ。

とにかく試合は行われるらしい。

だが特訓により気力体力共に充実していくウィリアムズとは対称にセシルはこの後の2週間ずっと3つの疑問が頭をよぎり眠れぬ日々を送るのだった。

 

ルチャリブレとは何なのか。

一緒に船を降りた赤いマスクマンは誰なのか。

そしてキサラの姿が見えないがどこへ行ったのか。

 

テレビジョンの画面には血にまみれ獣のような女性の叫びと逃げ惑う人々の悲鳴だけが映し出されていた。

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