シリアスだけど、お茶とお菓子とにっこにっこにーは忘れずに。
にっこにっこにー!
「なによ…!何がいやだっていうのよ!」
秋晴れの空の下、声を荒げ、腕を振り怒りを顕わにするにこ。その前には2人の部員の姿があった。
怒りをぶつけられている2人も、にこに怒鳴られてもおびえるような表情は見せず、不快感をあらわにする。
俺はそれを、にこの後ろから眺めていた。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
文化祭もつつがなく終了し、その後すぐに行われたテストとその年の主要な行事が終わったというダブルパンチにより、浮ついた空気が払拭された9月の教室。
「……にこが呼び出された?」
「そうなんよ。それで放課後になった途端にとびだしてったんよ」
既に本日の授業は終了し、午後の授業は全て寝ていた俺が起きて鞄の中に筆箱をつっこんでいる(教科書は机に突っ込んでいる)と、同じクラスの東條希が俺にそう報告してきた。
「君と同じアイドル研究部の子やなかったかなぁ?呼び出したのは」
「…………」
話はそれるが、文化祭でのアイドル研究部のステージは『一応』成功した。
一応、と言うのは。結局踊ったのはにこ1人だった、からである。
幕が上がる直前でにこ以外の2人の緊張がピークに達し、足が震えて動かないという状況に(その時俺は放送室で音響の管理をしていたので知る由もなかったが)唯一動けたにこは動けなくなった2人に気付かず、にこは1人でステージに立ち、1人で踊り、1人で歌いきった。
さて、ここで話を戻そう。初ステージで心を折られた人間が次にとる行動は何だろうか。
アイドル研究部『部長』であるにこを呼び出したのはなぜか。
「……チッ」
「わかったみたいやね。ウチも心配やから見に行ってくれる?」
「……ああ」
断る理由もないため、東條の願いを聞き入れて、肩に鞄をからった俺は急ぎ足で屋上を目指す。
教室近くの階段を上り、1階から2階に上がるより長い階段を2段飛ばしで上がって行く。
嫌な予感が膨れ上がり、足の動きが速くなる。
ようやく扉が見える。空が見えるドアの上の方についている窓からは、今にも雨が降りそうな曇天の空が見え、それが嫌な予感を加速させる。
「……もう私達、貴女にはついて行けない」
扉を開けようと、ドアノブを握った瞬間に聞こえたのは、そんな声。
隙間から見えたのは、にこの小さな背中だった。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「……はぁ?アンタ達、何言ってんのよ」
文化祭が終わった次の登校日、放課後に屋上に呼び出された私は、私とキョウ以外のアイドル研究部部員である2人の言葉を聞いて、反射的にそんな言葉を口から出していた。
「アナタのアイドル活動にはついて行けないから、辞めさせてもらうって言ったのよ」
「まさかこの間のステージの事引きずってるの?あんなものすぐになれるわ―――――――――」
言葉をつづけようとした瞬間、右頬に痛みが走る。ビンタされた、と気付いたのは視界から2人が消え去ったからだ。
「私達は自分がステージに立ちたくてこの部活に入ったんじゃないの。ただ好きなアイドルについて喋って、たまにそのアイドルのダンスを踊ったりでよかったのに…キツイ練習ばっかりで、何も楽しい事なんてない」
「…そんなんで、上に…有名になれるとでも思ってんの!?そんな緩いことして、他のグループに勝てるとでも思ってんの!?」
「だからそこからおかしいのよ。そもそも有名になろうなんて思ってないし」
髪の毛をいじりながら、2人はけだるげな雰囲気を隠そうともせずに否定の言葉を次々と言ってくる。
この2人が練習に乗り気じゃないのは薄々分かっていた。しかしこれまで休まずについてきてくれたから2人のやる気は買っていたのに。たった1度の失敗ごときで…。
そう思うと、腹が立ってきた。頭に血が上ってカッと熱くなる。しかしどこか冷静な部分で、正常な思考が出来ていないと客観的にとらえている自分がいたが、飛び出してくる言葉を抑えるような余裕はなかった。
人を傷つける言葉。どす黒い、気持ちの悪い物がまとわり着いているような言葉を言ってしまいそうになる。駄目だ。言っちゃ駄目だ。アイドルとしてのプライドがそう警告するが止められない。
「……そ……そんな甘い考えで……そんなもん……アンタらみたいなアイドルとしての自覚が無いような奴が…!!」
抑えられない。小さな声がだんだん大きくなる。人を笑顔にするのが仕事のアイドルが、こんな言葉を言ってはいけないと警告する。頭がズキズキと痛む。でも熱くなり、正常な思考が出来なくなった頭では言葉を止められない。
「アイドルとか、そんな子供みたいなコト、まだ言ってるの?」
嘲笑いながら言った、その言葉で、
完全に、制止が効かなくなり、
頭の中で糸が切れたような音がする、
口より先に、身体が動く、
腕を振りあげ、後ろに引き、振りあげた方と逆の足が前に出る。
もう駄目だ、と思った瞬間、私の前に紺色が広がった。
「……そんな心づもりでいたのなら、この部を辞めてもらって結構」
前へと重心を移動させていた私はその紺色にぶつかる、それと同時に、幼い頃から知っている匂いが広がる。
聞こえてきた声は、私が良く知っていて、安心する声。
「……むしろこっちから願い下げだ。お前らなんぞいらん。好きにしろ」
長年一緒にいる私だからこそわかる。本気で起こっている時の声音。おそらく目つきを鋭くさせ、威圧するような雰囲気で言っているのだろう。
ひっ、と小さく息をのんだような声が聞こえる。やはり怖い顔で睨んでいるのだろう。アイツが私の事で怒っている、と言う事だけで頭が幾分か冷静になる。
それから何分経っただろうか。本当は30秒くらいなのかもしれないが、私にはとても長く感じる時間が過ぎ、2人分の足音が響き、扉を開く金属同士がこすれ合う嫌な音が鳴り、そしてバタンっと閉じられる。
そう認識した瞬間、目に熱い物が込み上げて来て、腰から力が抜けて座り込む。
「うっ…わあぁぁん!!」
涙は決して流すまい、と我慢したがこらえきれず、大きな声をあげて泣いてしまう。それが情けなくて、さらに涙があふれてくる。
この日、アイドルは私の『夢』ではなく、『憧れ』となった。
のんたんの口調難しい…違和感ないかどうか心配です。あれって正確なトコ何弁になるんですかね?公式には関西地方の方言らしいですけど。博多弁の方が簡単ばい(笑)
最後の行について。
個人的には、『夢』と『憧れ』は似たようなもので違うと思っています。
『憧れ』てしまえば、『夢』は叶わないとは言いませんが、『憧れ』てしまうという事は、『夢』に対して一種のあきらめを含んでしまっているような感じがします。あくまで個人的な意見ですがね。
賛否両論あるとは思いますが、この作品ではこういうふうに取り扱って行きますのでご容赦ください。
それではノシ