泣きそうな顔をしている彼女にかける言葉はみつからなかった。
「ライスさん・・・」
注目ウマ娘だったはずの彼女がなぜ?順位も3位と健闘していたし走りの内容も悪くなかったのに、なぜ?
「ライスさん先程はありがとうございました。」
落ち込む彼女に声をかけながら近づく。
「あ、いえ。ライスは咄嗟に体が動いただけですから・・・」
松田の顔を見てライスの顔色は少し明るくなる。
「しっかし君ほどの実力者に誰も声をかけないなんて、ここのトレーナーたちの目は節穴か?」
「いえ、トレーナーさんたちはきてくれたんです。ただ・・」
何かを思い出しまた泣きそうな顔になる。
「ライスさん素晴らしい走りでした!!」
「3着とはいえあのミホノブルボンにも引けを取ってなかったですよ。」
「きっといいライバルになりますね!」
そんな会話を口々に言いながら各々のトレーナーがライスシャワーの元にきてくれた。しかし、
「体がね・・」
「ちょっとね、」
彼女の走りは高く評価されている反面、その小柄な体格はあまり好印象に思われてなかったのだ。
「そう言ってトレーナーさんたちは行っちゃいました。」
泣き出してしまった彼女にそっとハンカチを渡す。
「そんな奴らの評価なんて聞くな!君は君だ!小柄だって立派な個性だよ。」
拳を握り締めて怒りを抑えられない松田に
「いいんです、ライスはもう慣れているんで…」
「だけど、」
「ちょっといいかな?」
何か言おうとした松田の声を男の声で遮られる。
「なんだあんたは!」
「私は飯塚という者だ。トレーナーをやってる。」
そう言って被っている帽子を脱ぎ一礼した。
身なりはカッターシャツの上からジャージを着ているなんともおかしな恰好をしている。怪しすぎる男だ。
「トレーナーだと?!またライスさんに文句を言いにきやがったのか!」
飯塚の胸倉を掴む松田。
「とんでもない!私は彼女を一目見ようと来ただけだ。」
「え?」
「彼女の走り凄まじいものがあった。」
彼女に近づき手を差し出す。
「握手してもらえる?」
「?」
不思議そうに手を差し出す。飯塚が手を握り締める。
瞬間飯塚の顔から笑みがこぼれ落ちる。
「なんて強い鼓動なんだ!こんな体格なのに心臓の音が掌を伝って私の体を震わせる。」
「つまりどういうことなんだ?」
恥ずかしさのあまり手を引っ込めるライスの横で松田が聞いた。
「恐らくとんでもない強心臓を発揮するに違いない!屈指のステイヤーになるぞ。」
「おおぉ!」
喜ぶ松田を見てライスが笑う。
「なんであなたがそんなに喜ぶの?おかしいね。」
そう言って口に手を当てて笑う。
「俺は日刊エヴリーの松田耕作っていう者だ!新たなスターになるかもしれない娘を見つけてこんなに嬉しいことはない!ぜひ応援させてくれ!!」
「スターだなんて、ライスには似合わないよ。」
頬を赤めながら言う。
「そういうことなんで後で取材をさせてほしい。大丈夫か?」
メモ用紙を準備しながら聞く。
「ライスでいいの?」
「君じゃなきゃダメだ。よろしく頼むよ。」
照れながらも承諾してくれた。
「私のほうからもいいかい?」
二人の間を飯塚が割って入る。
「君と組ましてほしい。トレーニングは周りに比べると厳しくなると思うが、立派なウマ娘にしてみせるよ。」
飯塚の目は輝いていた。
「ライスにはもったいないよ。ほんとにいいの?ライスなんかで。」
不安そうに見上げる彼女に再び手を差し出す。
「お願いするよ、ライスシャワー。」
差し出された手を握り締めるライス。ここに飯塚とライスシャワーのコンビが誕生した。
「おい!鴨田!」
撮影を促す松田だったが、
「もう撮ってますよ。こんなシーン撮らずにはいられませんよ。」
半分泣きながら鴨田がシャッターを切る。
「明日の見出しはこれで決定だな。」
そのあと松田は飯塚とライスに軽く取材をした後にその場を後にした。
「デビュー戦の日程が決まったら教えてくれ!必ず応援に行くから!」
「はい!松田さん!」
そう言って笑顔で別れを告げた。
「ブルボンにライス、楽しみになってきたな!」
こんなに興奮したのはあの柔道のとき以来だ。
帰ったら今日のことを柔さんに話すか。
心の中でそう思いながら帰宅するのであった。