「今日は快晴だな。」
カーテンを開けると寝起きの目に朝日の光が差し込む。
「レース日和だ、早いとこ準備しなくっちゃ!」
布団から出ると柔がご飯を作っていた。
「おはよう、今日は早いんだな。」
「仕事なんでしょ。久しぶりにあなたの目が輝いてるから、応援したくなっちゃった。」
そう言いながら朝ごはんの支度を進める。
「それで今度は何?」
「ウマ娘関連だ。応援している娘がいるんだ。」
スターの予感がするんだ、と続けた。
「私の時みたいに迷惑かけてるんじゃないでしょうね?」
眉をひそめながら聞く。
「そんなわけないだろ!」
食べながら叫んだのでご飯粒が飛び散る。
「冗談ですよ。」
笑いながら柔さんが答える。
「そんなことより時間は大丈夫?」
そう言いながら時計を指さす。
「やべっ!ごちそうさん!」
急いで食べ終わると手を合わせ、席を立つ。
「気を付けてね!」
手を振りながら見送る。
ライスは緊張していた。
朝のランニングを終えてストレッチをしていた。胸の鼓動が収まらない。
「なんで?いつもはもう大丈夫なのに。」
手を胸に当てる。鼓動は速いままだ。
「緊張してるからだよ。」
このことを飯塚に聞くとそう答えてくれた。
「いつも通りに走ればいいよ。」
ニコニコ笑いながらライスの緊張をほぐそうとする。
「ライスにできるかな・・・」
下を向き今にも泣きそうな顔になる。
「いいかい?練習は嘘をつかない。君は他の娘たちよりも厳しい練習に耐えてきた。弱音を吐かずに頑張って来たんだ!だから大丈夫!」
ライスの肩を掴み励ます。
「それに今日はデビュー戦だ。気楽にやろう!」
「わかった!ライス頑張ってみるよ!ありがとう、お兄様。」
笑いながら答える彼女の目には闘志が宿っていた。
「3R始まります!エントリーしているウマ娘はパドックに集まって下さい!」
放送アナウンスが場内に響く。
新潟レース場は天気にも恵まれ良バ場だ。
「いよいよパドックだ!」
会場に着いた松田と鴨田。
「しっかし朝から新幹線はしんどいですね、松田さん。」
早くもクタクタになりながら鴨田言う。
「早くカメラ準備しろ!ライスさんの番が来ちまうだろ!」
そう言って鴨田を急かす。
「ほんと松田さんはライスさんに熱なんだから。」
「なんか言ったか。」
ふざけたやり取りをしていると、
「7枠8番ライスシャワー。2番人気です。」
体操服姿のライスが登場する。
「2番人気か、悪くない。」
1番人気だと変に緊張しちゃうし不人気だとテンションが下がる可能性がある。その点で2,3番人気は走りやすいと思う。
「自分の力が出しやすいんじゃないのか、ライスさん。」
壇上の彼女を見ながら松田はそう思った。
すると、その彼女と目が合った。少し照れながら手を振ると返してくれた。
「ライスさん!勝てよ!!」
拳を天に向かって突き出し応援する松田と横で小さくアクションをする鴨田。
はい!と言わんばかりにこちらを見ながら笑いかけるライス。
彼女にはもう緊張などの不安はなくなっていたのだ。
「いよいよ4R始まります!」
アナウンスが響き、松田たちがレース場に向かう。
「あ、松田さん。」
聞き慣れた男の声が聞こえた。
「飯塚さん!」
振り向くと飯塚トレーナーがいた。
「どうです、仕上がりの方は?」
興奮気味に聞く。
「上々だよ。距離は1000mと短距離だが、十分力をみせつけることはできると思うよ。」
自信満々に答える。
「長距離を目指してトレーニングしてたはずでは?なぜ短距離に出場を?」
メモを取りながら聞く。
「この1ヵ月はとりあえずスピード重視にトレーニングしたんだ。だから速さで勝負するためにこの距離に決めたんですよ。」
「なるほど。」
松田はペンを走らせる。
彼女たちがゲートインを完了させた。
「いよいよだ。」
松田が生唾を飲む。
ガタン!!
ゲートが開いた。
ゲートが開いた瞬間に1人のウマ娘が前に出る。ライスは三番手。
半分を過ぎたあたりからライスが動く。後方にいたライスが1人、また1人と抜いていく。残り100mの時点で差し切り一番手に。すぐ後ろからもう1人が追ってくる。ゴールは目の前だ。
ギリギリのところでゴール。鼻差で見事ライスが勝利した。
「よっしゃー!!!!」
観客席にいた松田が叫ぶ。
「まずは1勝だな。」
ガッツポーズをとりながら安堵な表情の飯塚。
「鴨田ちゃんと撮ったか?」
「もちろんですよ。」
シャッターを切りながら鴨田が答える。
「勝っちまうんだな、ライスさん。」
走り終えた彼女がこちらに来る。
「やったよ!お兄様!」
嬉しそうな顔をしながら笑う。
「言ったとおりだろ?ライスならいけると思ってたよ。次も 頑張ろうか。」
そう言ってライスの頭をなでる。
「ライスさんおめでと!」
「松田さん!ありがとう。松田さんたちの応援のおかげだよ。」
汗が流れる彼女は嬉しそうに答える。
「俺は信じてたよ、この調子で次も頑張ってくれ。」
「はい!」
そう言って帰っていった。
そのあと軽い取材をして別れを告げた。
「今日のライスはどうだった?うまく走れてたかな?」
帰りの新幹線の中でライスは聞く。
「及第点だな。新しい課題も見つかったしな。明日はゆっくり体を休めてくれ。」
駅弁を食べながら飯塚が答える。
「公式戦でのレースはいい経験になるし次は重賞にでも出るか?」
半分冗談で訊く。
しかし返事は返ってはこなかった。
レースで疲れたのか緊張の糸が切れたのかライスは寝てしまったっていた。
「今はしっかり疲れをとるんだぞ。」
そう言って飯塚も目を閉じる。
頭に1つのことが浮かぶ。
短距離の重賞に一度出てみるか、と。