魔法少女マジカルピーチ外伝 魔法少女マジカルストロベリー 作:青果 魔法露
魔法少女マジカルストロベリー
草木も眠る丑三つ時。空は曇り、月明りなく、街灯の光のみが行く先を照らす街の中、
「何なのあれ!? なんであんなのがこんなところにいるの!」
身近に迫る絶望を前に少女は手足をもげそうなほどに酷使して、暗闇の道を駆ける。
「ごめんなさい! ごめんなさい...! 好き嫌いもしません、ゲームも1日1時間をちゃんと守ります、こんな夜遅くに外に出たりもしないからぁ。死にたくないよぉ!」
それが逃げる体力を奪うと分かっていても少女は声を止められない。
何故ならそうでもしないと絶望に心が折れてしまうと理解していたからである。
「やだっ、やだよぉ! ごめんなさい、ごめんな」
〚BEZIIIIIIIIIIィ!!!!!! 〛
「さぃ」
そばにまで迫る絶死の咆哮。強い恐怖から少女は力ない悲鳴を漏らし、足を竦ませてしまう。
すぐにでも動かなければ死ぬ、足を止めてはいけない!
そう本能がけたたましくアラートを鳴らしているが、恐怖で固まった足は石のように動かない。
「な、んで! なんで動かないの!? 動いて、動いてよぉ!」
〚BEziiiii…………〛
「ひっ」
少女はすぐ後ろからする声に反応して、後ろにふり返る。
それは、野菜を模した化け物だった。
だが野菜というにはあまりにも凶悪なモノがそれには供えられていた。
人の数倍もあろうかという巨躯。
それを支えるために強靭に発達した脚。
見た目に似合わず強烈な不快感をもたらす獣臭。
そして体の大部分を占め、少女の一飲みに出来るであろう大きな口、その口に並ぶ鋭い牙、そこから溢れ出る涎。
その全てがまさに獲物を捕食しようとする者のそれであった。
その怪物の名はベジタブルーン。
人類を滅ぼすものであり、人類の敵である。
少女の顔が白に染まり、固まっていた足も遂には崩れおち、その場で震えるばかりになる。
娯楽としてホラー映画を楽しむ趣味があったし、家族や友達に自分がいかに恐怖やおぞましい描写が平気かを得意げに話したこともあった。
だが、少女は知らなかった。いや、普通に生活していれば知るはずもなかっただろう。
体が固まり動けなくなるほどの恐怖を、心臓を鷲掴みにされてると勘違いするほどの重圧を、これから捕食されることへの絶望を。
そしてそんなモノを知ってしまった少女が、生を手放し生きること諦めてしまうのは至極当然の事であった。
少女は怪物の口が自分をかみ砕く瞬間を見ないように目を閉じ、ただ終わりの時を待った。
ああ、痛みを覚える前に一瞬で死ねたらと、そう願いながら。
「死になさい、この害獣がぁ!」
人の声が、それも罵倒の声が聞こえる。
目の前にいる、怪物のそれとは明らかに異なる声。
人の───それも自分と同じくらいの幼い少女の声だ。
こんな所に居合わせて可哀想という思いと、ならばなぜ自分の様に絶望するでなく罵倒などしているのかという疑問が浮かぶ。
〚BEzizi…………! 〛
目の前にいる化物の声がどこか警戒しているような色を孕む。
まさか、あの少女に...そう思うがすぐに消え去る。少女は本能であれが人が敵うものでないと理解していて、そんな相手が警戒などするはずがないとすぐに思い直したためだ。
「ふん、今回も雑魚ね。まあ雑魚でも入ってこられたら困るんだけど!ベリー、3番!」
〚
まだ幼さを感じさせる高い声には、それに似つかわしくない今まで聞いたことのないような険しさが込められていた。
それは、激しい怒りと憎悪、そして殺意のようなものを秘めたものであったがそのすべてが目の前の怪物へと向けられている。
およそ推定される年齢の少女から放たれてはいけないその声に、極限の状況の中何故か安心感を覚えて...
少女は固く閉ざした目を、ゆっくりと開けた。
視界を遮るように目の前にいたのは、血のような真っ赤なドレスを着ている少女だった。
各所にドレスの色とは対照的な白のフリルがちりばめられ、頭にはイチゴを模した大きなアクセサリーが付けられていた。
背丈は想像通り、自分と同じ10代前半のそれであったが、しかしその背中は見た目より大きく見える。
そして何より目を引いたのは、その手に持っている大きな銃であった。
少女の身長の3分の2はあろうかという大きさの銃は、着ているドレスと同じように赤く塗られていていながらおもちゃの銃のようなチープさはなく、それが例え少女が握っているのだとしても敵を殺すための兵器なのだと理解出来た。
その理解は、目の前の少女が自分と同じ可哀想な被害者ではなく、怪物と戦う戦士なのだという事を気付かせる。
その姿に、少女は何かを思い出しそうになるが、同時に思考に現れたもやに阻まれ思い出せない。
しかし、先程覚えた安心感がさらに強くなるのは感じた。かつて見て憧れた魔法少女を思い出して
赤いドレスの少女が銃を構え、怪物へと銃口を向ける。
本来照準器をつける場所に取り付けられたイチゴのオブジェが、元々赤かったのを更に真っ赤に発光させた。
〚
オブジェから放たれた赤い光が、銃身全体へとめぐり覆いつくす。
化物はそれが危険なものだと本能で感じているのか、警戒しつつも後ずさるような動きを見せる。
それは、今まで少女を追い詰めてきた絶対的な捕食者の姿とはかけ離れたものであった。
「ちょっと、あんた」
いきなりの状況の変化に唖然としていた少女に向けて、真っ赤なドレスが翻る。
見えた少女の顔は、その口調通り勝気そうな雰囲気であるが非常に整っていて可愛らしかった。
その幼い顔つきを見れば、彼女がこんな怪物と戦う戦士だとは誰しもが思わないだろう。
────-だが、向けられた目を見ればそんな印象は露と消える。
まるで夜の闇の様に暗く深い黒をした瞳。にもかかわらずその目には太陽の如き熱が秘められていた。
昼と夜が混在したようなその瞳は、少女にとってはあまりに異質で。
しかしながら、どうしても目を離すことが出来ない、そんな力があった。
「...はぁ」
赤いドレスの少女は面倒くさそうに息を吐くと、瞳を閉じて化け物に向けて向き直る。
いきなり目を凝視した上に、問いかけにも答えなかったことに少女は大きな恥ずかしさと、申し訳なさを覚えて涙目になる。
「何泣いてんのよ!調子狂うじゃない!まったく...これあげるから拭いときなさい。あと、拭き終わったら目を閉じておくこと!」
ハンカチを投げ渡しつつかけられた言葉は、棘はありつつも思いの外暖かかい思いやりの言葉だった。
「...え?」
「こっから先は、一般人が見るもんじゃないわ」
戸惑う少女にそう忠告して、赤いドレス少女は銃を再度構える。
言葉遣いは乱暴で、やはり棘があるものだったがその言葉は少女の不安を拭い去るには十分で。
だから、言われた通りに目を閉じる前に一言言葉を送った。
「頑張って...ください」
その声はまだ緊張が解け切っていない声帯から出されたものだからか、か弱く、すぐに掻き消えた。
余りの小ささに言った本人が恥じ入ってしまうくらいに小さい声。
しかし、そんな声援に振り向かず、だけど少し嬉しそうな気配を出しながら。
「任せなさい」
赤いドレスの少女は、そう堂々と答えた。
そして、数多の銃声と薬莢が地面に落ちる音、何かが噴き出すような音が響き渡り。
最後にけたたましく叫ぶ声が聞こえたのを最後に、音は聞こえなくなった。
「目、開けてもいいわよ」
ぶっきらぼうに伝えられて目を開く。
そして咄嗟に周囲を見渡すと、あの恐ろしかった怪物は影も形もなく消え去っていた。
すぐそこにあった脅威が去ったのを確かめて気が抜けたのか、全身の力が抜け倒れそうになったところを赤いドレスの少女が抱き留める。
「体の具合はどう? どこか痛んだりしない?」
「あっはい、大丈夫です。ちょっと気が抜けちゃって...」
「そう、なら良かった」
そうやり取りすると、降ろすわよという声と共に地面へと降ろされる。
ゆっくりと降ろした赤いドレスの少女は「さて、じゃあ後は後始末だけね」とこぼす。
何の事だろう、と色々ありすぎてオーバーヒートして処理が遅遅として進まない頭で考えてると、その頭に赤い手袋で覆われた手が添えられる。
何故そんな事と聞こうとし、声を発するよりも先に赤いドレスの少女は口を開いた。
「今からあなたのベジタブルーンと遭遇してから今までの記憶を消去するわ。あなたもこんな怖い記憶ない方がいいでしょ?」
記憶の消去、確かに少女にとっては願ってもない話だった。
普通の生活をしてきた彼女にとって、これまでの一連の記憶は一生傷として残りその心を蝕み続けるだろう。
だから、その問いですらない決定事項の押し付けのような物言いにも不満はなかった。
しかし、どうしても1つだけ聞いておきたい。否、すべてを忘れるのだとしても聞いておかなければならない事があった。
「分かりました。私としても願ってもない...です。でも、ひとつだけ...どうしても聞きたい事があるんです...!」
「なに? まあどうせ忘れちゃうんだし特別に何でも答えてあげる」
「名前を、名前を教えてくれませんか?」
そう問われ、赤いドレスの少女少し困ったように息を漏らす。
数瞬のためらいの後、イチゴのオブジェからの明滅を受けて、今度は大きく息を漏らしてこう答えた。
「はぁ、名前を聞くなんて物好きね。まあいいわ、教えてあげる。私は魔法少女、マジカルストロベリーよ!」
「マジカル...ストロベリー...」
その名前を少女は、心に深く刻み込む。忘れても忘れないように、いつかまたどこかで会ってしっかりとお礼を言えるように。
「気は済んだかしら。じゃあ、消すわよ。もう会う事がないよう願ってるわ」
〚
眩い閃光と共に、一人の少女の記憶は消えていった。
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それから少したって、私は未だ明けない夜の空を飛んでいた。
「ベリー、ベジタブルーンの反応ある?」
〚
「そう、良かった。とりあえず今夜は終わりかしらね」
今日も任務が一段落したことに安堵し一息つく。
あの怪物、ベジタブルーンは夜行性であり、昼間に活動する個体はそうそういないからこの時間まで見回れば大丈夫。
だけど、一つどうしても看過できない事がある。
〚
「ええ、そうね。本当に忌々しい事にね」
ベジタブルーンの出現数が増えている。この事実が、私に私ではどうしようもない現実を突き付けてくる。
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「そんなの言われなくても分かってるわよ! でもね、私は諦めるわけにはいかないの! あたしは先輩に、みんなに託されたんだから。人類の未来を...」
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ベジタブルーン、人類の天敵。
奴らが現れてから10年の月日が流れた。
何度とない進行の前に人類は悉くなすすべなく破れ、
2年前の大進行にて遂に私達人類は
10年前の1割にも満たない人口と、結界内のわずかな土地を除き、全てを失った...