士道くんは中二病をこじらせたようです 作:potato-47
序章 同類
――血潮が沸き立つ。
それは、幾星霜の時の中で待ち望んだ光景だった。
暴風に曝されて蹂躙し尽くされた街並み。
生きた風は今も尚、ビル街の中心で破壊の権化が如く、人類の文明を嘲笑う。
空を舞うのは憐れな街路樹。剥き出しになった樹の根が地上を名残惜しむように土を落とす。更には外壁の破片までも風に誘われて踊り狂う。遂に果たされた自然と人工物の共演は、文明崩壊が背景とあっては、実に皮肉が利いていた。
士道はそんな惨状にはすぐに興味を失った。彼が望んだものは目の前にあったのだから。
台風の目に座すのは、二人の少女だった。
拘束服を纏った瓜二つの少女が、それぞれ槍とペンデュラムを構えてぶつかり合う。
それはまさしく死闘。人知を超越した力と力が拮抗して、更なる風を呼び起こした。
「ああ……」
激風に晒されながら、士道は感慨深く溜め息をついた。
この時を――同類との出逢いを、どれだけ待ち望んだことか。世界より排斥されし咎人は、歓喜に胸を昂ぶらせる。己の異常性と内に宿る力を従えたことで常人の枠を超えたあの日から、この力は果たしてなんのために在るのか、その理由を求め続けていた。
その答えが今、目の前にある。
「く、くくく、やはりそう簡単には行かぬか。流石は我が半身と言うべきかな、夕弦。しかしこの勝負、結末は既に我が勝利と決まっている。無駄な抵抗は止めたらどうだ?」
橙色の髪、水銀色の瞳。この世のものとは思えないまさしく暴力的な美しさを持つ少女たち。
「否定。この戦いを制するのは、耶倶矢ではなく夕弦です」
口端を嘲笑に歪めるのが耶倶矢、気怠けな半眼を向けるのが夕弦。
お互いしか目に入っていないことに、士道は苦笑を漏らす。今すぐに知らしめてみせよう。無視どころか忘却することすら叶わぬ我が存在を、彼女たちの網膜と魂に刻みつけようではないか。
士道は息を大きく吸い込んで、心のどこかで常識と恐怖を訴える『普通の感性』を捩じ伏せた。
そして高らかに宣言をする。
「永久の沈黙を破り、俺は帰ってきた! この腐食した世界に捧ぐエチュード……さあ、舞台上で存分に踊り狂おうではないか!」
士道の声に、二人はお互いに突撃の姿勢を維持したまま、幻聴ではないかと周囲に視線を走らせた。そして士道の姿を発見して目を見開く。あらゆるものを退ける戦場に自分達以外の存在が居る。しかも、それは――
「人間だと……?」
耶倶矢は声を震わせる。
「驚愕。何者ですか?」
夕弦も同様だった。
二人の視線を受け止めて、士道は目に掛かった前髪を格好つけて払った。
「ふっ、俺が人間に見えるのか?」
大胆不敵なその態度。羽虫のように群がる有象無象とは別次元の存在――耶倶矢は己の魔眼をもって確信した。こいつはまさしく同類だ。
「なるほど、この八舞の戦場に立つだけの力を秘めているという訳か。だが、我らが神聖なる勝負を穢したその狼藉、いかにして償うつもりだ?」
「この身は既に罪に塗れている。真っ黒なキャンバスに新たに色を加えたところで無意味だろう」
二人の緊迫した睨み合いに、夕弦は一歩後退る。別の意味合いで、こいつらはまさしく同類だと思った。
その時、三人の目は交わり――五河士道の妄想は現実に変わる。
中二病をこじらせた少年と精霊の姉妹、誰もが知らない場所で、