士道くんは中二病をこじらせたようです 作:potato-47
という訳で短めですが、番外編第二弾です。
あとがきがある意味で今回のメインなのでお許しください。
●喧嘩するほど仲が良い
「学校に通うからには最低限の知識を収めておくべきよね」
五河琴里は、八舞姉妹が来禅高校に通いたいと言ってきたので、その望みを叶えるためには何をするべきか考えていた。問題になったのは、人間社会においての常識はもちろんだが、ある程度は勉強もできなくては誤魔化すのが面倒だということだ。
もしも通うことになれば、令音辺りにフォローしてもらう必要はあるだろう。裏工作は同時並行で進めておかなくては。
――裏側が慌ただしく動き始めた頃、表側も賑やかになっていた。
リビングのテーブルで肩を並べて勉強する八舞姉妹。その教師役として士道は反対側の椅子に座り見守っていた。
「なんだこの『喧嘩するほど仲が良い』とは……?」
「仮説。夕弦たちのことでは」
「ほう、愚民共の知恵にしては目の付け所が良いではないか」
士道は二人の会話に沈黙する。違うけど、違うとは言えないこの感じ。もどかしい。言葉って難しいね。
夕弦と耶倶矢はこの世界に何度も現界して、様々な勝負を繰り広げてきただけはあり、知識はそれなりに修めていた。耶倶矢に関しては無駄に言語知識もあったが、流石に慣用句やことわざまではカバーし切れていないようだ。
「思案。つまり士道と喧嘩をした夕弦は特に仲が良いと」
「ふんっ、それならば我も士道とは幾度も激闘を演じてきた。夕弦などには遠く及ばぬ深い絆で結ばれているということであろうな」
「否定。耶倶矢と士道の激闘(笑)はカウント対象外です」
「ちょっと、夕弦! そのカッコワライって付けるのやめなさいよ!」
「無視。あの時に、命懸けの喧嘩をした夕弦の方が士道と仲良しということです」
士道は学校の上空で戦ったことを思い出した。確かにあれは喧嘩と呼べるかもしれない。お互いに譲れないものがあり、それ故にぶつかり合ったのだから。
「うぐぐ……だ、だったら、士道! 我と尋常に喧嘩をしようではないか!」
「しないぞ」
「なっ……!?」
にべもない返答に、耶倶矢は崩れ落ちた。挫けそうになった心を叱咤してなんとか立ち上がる。
「だったら、どうすれば士道は我と喧嘩をしてくれるのだ?」
「俺は耶倶矢とは喧嘩したくない」
「あっ……」
耶倶矢は絶望に染まった顔で再び崩れ落ちた。
走り寄った夕弦が、耶倶矢の頭を抱き締める。
「激励。耶倶矢、諦めないでください」
それから、士道を睨みつけた。
「激憤。どうしてですか。士道は耶倶矢のことが……」
「これは誤解が生じて――」
「――もういい。夕弦には勝てないわね……うん、夕弦だったら仕方ないもん」
夕弦の制止を振り切って、耶倶矢はリビングから出ていこうとする。
例え誤解とはいえ、耶倶矢が傷付いたことに変わりない。
士道は己の両頬を叩いて、日常に緩んでいた心を完全に目覚めさせる。今は言い訳のような言葉は安易な同情に取られかねない。だから、誤解を押し通して、そのまま突き進んで一周させる。
「耶倶矢! どうして諦めるんだ。耶倶矢は夕弦と同じぐらい魅力的だ。何も卑下にすることはない。喧嘩というのは、両者の合意のもとで行われるのではない。二人の意見が対立した時に生まれる神聖なる戦いだ」
耶倶矢の震えていた足が立ち止まった。
「……そうか、では我の挑戦を受けると言うのだな? かかっ、流石は我が盟友! 期待を裏切らぬ強者ぞ!」
振り返った耶倶矢には、もう笑顔が咲いていた。
そして身構えた士道に――視認すら許さぬ速度で内蔵を抉るような強力一撃が突き込まれた。絶望に沈んだことで精霊の力が少しだけ逆流していたらしい。タイル貼りと見紛う鍛え抜かれた士道のボディでも、そのダメージは計り知れなかった。
世界を狙える一撃。素直な称賛を訳の分からぬままサムズアップで送り――士道の意識は途絶えた。最後に見えたのが、耶倶矢の満面の笑みだったので、これでいいと納得した。
次の日。
「しかし、思ったのだが、一方的に攻撃を加えただけでは蹂躙ではなかろうか? やはり、これから再戦して仕切り直すとしよう」
「待て、落ち着け」
士道は必死で耶倶矢に本来の意味を教え込んだ。
●吊り橋効果
ある日の<フラクシナス>にて、八舞姉妹は琴里と一緒に片付けを手伝っていた。
「琴里、これはなんだ?」
山積みになったガラクタの中から、耶倶矢が見付けたのは『恋してマイ・リトル・シドー』とポップなフォントでタイトルが描かれたディスクケースだった。
「ああ、それはね、士道の訓練用に用意したゲームよ。まあ結局は必要なくなりそうだけどね」
<ラタトスク>のフォローがなくても、現に<ベルセルク>――八舞姉妹の攻略を成功させている。
「請願。やってみたいです」
「確かにあの士道が訓練に使うとなると、きっと恐るべきものに違いない」
目をキラキラと輝かせる八舞姉妹に、琴里は肩を竦めた。
「んー……たぶん期待しているのと違うと思うけど、このまま捨てちゃうのも勿体無いし、休憩がてらプレイしてみる?」
「首肯。うずうず」
「全身の血がざわついておる。実に楽しみだ」
五河家に戻ってきた三人は、早速リビングでゲームを開始した。三人で肩を寄せ合って画面を覗き込む。
「次から次に現れる女を士道に惚れさせればいいのだな? ふんっ、なんだ簡単ではないか」
「理解。少し複雑な気分ではありますが、既にクリアしたのも同然ですね」
「ふふっ、二人共自信満々ね。まあ元から女心の分からない士道用に設定してあるから簡単かもしれないわ……と言いたいけど、腐っても<ラタトスク>製だから、舐めていると痛い目に遭うわよ」
琴里の脅し文句にも八舞姉妹は動じない。
「それでは夕弦、選択肢は順番に選ぶとしよう。間違った回数が多ければ負けだ」
「了解。きっと今回は引き分けですね」
こうして精霊攻略のために用意された恋愛シミュレーションゲームを、精霊がプレイするという奇妙な状況ができあがった。
「おはよう、お兄ちゃん! 今日もいい天気だね!」
画面暗転後、美麗な一枚画が表示された。
士道(主人公)を踏み付ける妹キャラを見て、八舞姉妹は琴里をじーっと見詰めた。
「な、なによ……」
ゲーム開始前に現実的なシチュエーションを考慮したと言っていた。これもつまり、士道の朝なのだろう。
「早速選択肢が出てきたか! くくっ、運命神よ、我を試すとは……その傲慢、いかに愚かであるかを知れ!」
画面上に表示された三つの選択肢を確認して、耶倶矢は眉を寄せた。
「琴里、これは士道の選ぶ行動ということだな?」
「ええ、そうよ。制限時間もあるから早く選んだ方がいいわよ」
「……ふんっ、不要だ」
「え?」
「この中に正答などありはしない。そうだな、夕弦?」
「同意。士道であれば、例え妹であろうとも踏まれるような失敗はしません」
「その通りだ。つまり、布団の中で眠っている士道は変わり身。言葉を話すことなどありえない」
「結論。沈黙こそが答えです」
琴里は戦慄する。なんでどこまでも狂った過程を経て正解に辿り着けるのか。まるで士道が中二病で突っ走る時のようである。
「交代。次は夕弦の選ぶ番です」
耶倶矢から夕弦にコントローラーが移り、ゲームは再開される。
女教師が何もないところで転んで、士道の顔に胸を押し付ける形で倒れ込んできた。そしてどう対応すべきが選択肢が表示――
「嘲笑。その程度で士道に勝てると思いましたか」
「くくっ、当然だな」
「え? え? ええ?」
画面内では、士道が女子教師に「隙ありぃぃッ!」と叫んで腕ひしぎ十字固めを決めていた。
琴里には付いていけない。どうして選択肢がすべて表示されるかどうかという早さで正解を選び出せるのか。
「ちょ、ちょっと訊くけど、どうしてそれが正解だって分かったの?」
「琴里ともあろうものが、理解できぬのか?」
「え、ええ、私にはもちろん理解できるけど、一応ね、一応確認しようと思って」
夕弦の操作でバックログが表示される。
「提示。何もないところで転ぶところが既に罠です」
「機関の尖兵と考えるのが自然であろう。士道が一瞬の判断を間違う筈もない」
「解説。先手を取らせて相手の動きを制限、その後に相手の得意な寝技へと持ち込むことで無意識の余裕を誘います」
「後は簡単だ。動きを予測され、一欠片とて余裕を抱いた愚か者に、勝利の女神は微笑まない」
琴里は再び戦慄した。八舞姉妹の中で士道はもはやパーフェクトソルジャーにでもなっているのだろうか。まるで現実と真実が重なり合って共存するような感覚だ。
「やはり簡単過ぎる。この程度で我らを惑わす? 笑止千万! 四つの未来から最適解を見抜くなど容易い。現実は無限の中から常に最適解を追うのだ。いや、それすらも超越する真実を構築してみせる。それが、士道という我が盟友の真髄だ」
「…………そう、ね」
なんだか納得できないが、その通りだ。
士道は自分で未来を切り開いて、八舞姉妹を救ってみせた。
「吊り橋効果だとしても……いえ、だからこそ、平穏を取り戻した後も続く信頼を築いたのよね」
夕弦はきょとんと首を傾げた。
「質問。その『吊り橋効果』とはなんですか?」
「まあ簡単にだけど説明するわ」
琴里の説明を聞いて、夕弦は頷いた。
「要約。つまり危機的状況に共に追い込まれれば急激に仲が深められるということですね」
「ええ、大体はそんな感じだと思う」
次の日。
夕弦は電話を借りて、士道の連絡網から折紙の自宅に掛けた
「質問。マスター折紙、日常に於いて男女が共に行動している時に危機に陥るにはどうすればいいでしょうか」
『……何をするつもり?』
「応答。リベンジです」
『つまり……復讐。何も満たされないけど、私は否定する権利を持たない。ただ躊躇があるのなら、すぐにやめるべき』
「感謝。肝に銘じます」
『それで、社会的に? それとも、生命的に?』
危機的状況ならばなんでもいいのだと思うが、命の危機よりは、その社会的という方のがきっと安全だろう。
『往来で服を脱げばいい』
「懊悩。肌を晒す相手は最小限に留めたいです」
『では、部屋に連れ込んで服を脱ぐ。それから悲鳴を上げればいい。近隣住民が通報してくれる。そうすれば社会的に危機に陥る』
「多謝。流石はマスターです」
その日の夜。
「悲鳴。きゃああああ」
士道の部屋から響き渡った悲鳴に、琴里が駆けつける。
ベッドの上で半裸になった夕弦。それを押さえ付ける士道。
「……おにーちゃん、妹が居る家で随分とお盛んね?」
ニコニコ激怒。器用な表情だ。
「深刻な誤解が生じているぞ。落ち着け、これは機関の罠だ!」
「問答無用!」
士道の顔面に琴里の飛び蹴りが減り込んだ。
最後に見た景色は、白とピンクの縞々だった。
お久しぶりですというのにはちょっと早いですけど、またお会いしましたね、potato_47です。
Q.どうして士道くんの扱いが酷いの?
A.士道くんを「もっといじめろ」ってガイヤが囁くんだ
皆様におだてられて、第二部のプロットを作った単純な子は私です。
用意しただけで、本編を書くとは言ってませんけどね!
ふはは、存分に妄想だけを楽しむといい!
ひぃ、すみません、石投げないで……!
と、投稿しますから許してくださいぃぃ!
……まぁそれなので、完結は取らせて頂きます。
では、第二部『十香キングダム』でまたお会いしましょう!