士道くんは中二病をこじらせたようです 作:potato-47
時系列は『騒乱マイホーム』で書かれなかった、昼過ぎから夜までの間です。
……なんだかとっても眠いんだ(意訳:疲れてるからこんな内容になったのは仕方ない)。
物語性の薄い小ネタ集なので、ご了承ください。
「琴里、本当にやるのかい?」
「ええ、もちろんよ。士道には女慣れしてもらわないと、これからの精霊攻略できっと苦戦することになるわ」
「そうかな? やり方はどうあれ、シンは女性への対応に手慣れていると思うがね」
「そのやり方がだめなのよ。ほら、チャンスが来たわ。早速、始めるわよ!」
●夕弦の脱衣教室
買い物から戻ってきた士道の「ただいま」の一言が、返事を受け取る前に消えていった。琴里と八舞姉妹は<フラクシナス>に行っているし、両親は相変わらず家に戻ってこない。
アイスを溶けない内に冷凍室へと放り込む。下拵えに使う食材は台所に並べておき、それ以外の食料品を冷蔵室に入れた。
これから同居人が増えるのもあり、まとめ買いしてきた洗剤類を仕舞おうと、風呂場へと足を向ける。誰も居ないので特にノックもせずに、脱衣所の扉を開いた。
思えば、その先入観が命取りだった。
「……っ!?」
士道は予想外の事態に凍り付く。
「困惑。どうして士道が居るのですか」
太陽のように明るい橙色の髪は、普段の三つ編みから解放され月のような静寂を湛えている。しっとりと濡れそぼつ髪に纏わり付かれた肢体は、絶妙なプロポーションを誇っていた。
ここには居ない筈の少女――八舞夕弦は水銀色の瞳を困惑に揺らす。
反射的に局部を覆い隠すが、それまでの一瞬で士道の鍛え抜かれた眼力は、魅惑的な肉体を余すところ無く写し取っていた。機関との戦いで鍛えた、瞬間記憶術が暴走してしまったのだ。
「すまない。俺としたことが、気配を探ることすら怠っていた」
瞼を閉じて頭を下げる。
しかし、網膜に焼き付いた眩しい肢体の記憶は、士道の本能を刺激してくる。
手の平から溢れ返る乳房、それに反して抱き締めるだけで折れてしまいそうな腰回り、思わず頬擦りしたくなる肉付きの良い太腿、艶かしい曲線を描く臀部。どれ一つとっても芸術的であり、それが完璧に組み合わさることで、更なる魅力を引き出し、まるで神性を帯びているようであった。
頭を下げたままの士道の両頬を、まだ熱を持った夕弦の手の平が包み込む。
「撤回。士道になら見られても構いません」
その程度の誘惑で屈する士道ではない。彼の鋼の理性は、例え裸の女性に迫られても――ん? 頭の上に乗っている柔らかい感触はなんだろうか。ぽよぽよと頭の揺れに合わせて形を変える。
「……………………」
いやいやいや、まさかそんな、夕弦の胸が乗っているなんて、そんな馬鹿なことがありえる筈がない。あはは、両手は頬に当てられて、胸が頭の上にあったら、それはつまり目を開けたら――やめろ、想像するな。自殺行為になるぞ。それに落ち着け、これは機関の罠だ。
「請願。目を開けてください」
「…………」
ああ、そうだ。こんな目があるからいけないんだ。
潰してしまおう。大丈夫大丈夫、心眼があるから問題無い。辛いのは最初だけだから。
士道は右手で目潰しの構えを取った。
「本能如きに負けてたまるものかぁぁぁぁっ!」
*
「緊急出動! あの馬鹿の自殺行為をすぐに止めなさい!」
メインモニタに映った士道の暴挙を、屋内で気配を殺して待機していた特殊工作員が慌てて止めに入った。
「はぁはぁ……な、なんでそうなるのよ!? 普通は欲望に負けて目を開けるか、走ってその場から逃げたりするでしょ! やっぱり中二病は問題よ。いっそ、快楽漬けにして矯正してやるわ!」
「……まだ続けるつもりなのかな?」
「もちろんよ!」
●耶倶矢とお約束
夕弦が戻って来ていることを今更ながら報告を受けた士道は、夕弦に土下座で謝った後、耶倶矢はまだ検査が長引いて戻って来ていないことを聞いて、それならまだ時間があるだろうと、二人が使う予定の二階の客間の最終チェックに向かった。
一通り掃除をしたとはいえ、出掛けている間に機関のトラップが仕掛けられている可能性がある。
――確かにトラップは存在した。ただ、それは士道がターゲットだった。
トラブルを乗り越えた気の緩みのせいだろうか、士道はまたノックをしなかった。
「えっ……?」
「ん? 夕弦か? もう身を清め終わるとは――なっ!?」
耶倶矢が部屋に居た。しかも着替え中で、ちょうどシャツを脱ごうと腕を抜こうとするところで、慎まやかな胸を妙にアダルティなレースのブラジャーが包み込んでいるのが見えた。
「貴様、許可無く我が領域に立ち入るとは、例え盟友といえども許さぬぞ!」
士道に気付いた耶倶矢が、手近のクッションを投げてきた。呆けていたところへ、顔面に直撃を受けた士道は受け身も取れずに仰向けに倒れ込んだ。
何故だろうか、痛いのに、夕弦の対応に比べたらとても健全で安心感を覚えてしまう。
「士道っ!? だ、大丈夫――わわっ!」
穿き掛けだったキュロットがずり下がり、駆け寄ろうとした耶倶矢がずっこける。そして、士道に覆い被さるように倒れ込んだ。
士道は怒涛の展開に付いて行けず、気付いた時には、何か柔らかい感触に顔面を包み込まれていた。
「いっつぅ……士道、怪我とかない?」
上半身を起こした耶倶矢が、馬乗りになったまま心配してくるが、士道はそれどころではない。転んだ勢いでブラジャーがズレているし、布面積が最低限のサイドを紐で結んだショーツが丸見えだ。
「あっ……!」
ようやく自分の格好に気付いた耶倶矢が、両腕で胸元を覆い隠した。その仕草が、普段の中二病的な振る舞いからは考えられない純粋なもので、士道の胸がドクンと大きく動揺を示した。
奇妙な膠着状態に陥る。
二人は視線を逸らして、むずむずの青春空間が形成された。
「あ、あのさ」「な、なあ」
「あっ、士道から言って」「耶倶矢から先に」
「…………」「…………」
「そ、その」「ええとさ」
「…………」「…………」
「とりあえず、上からどくわね」「そうだな」
耶倶矢が立ち上がろうとして、ショーツの紐が士道のズボンのチャックに引っ掛かる。それに気付かず立ち上がり――
「え、ちょっ!」
「どうした……ぐほっ!」
立ち上がる間は視線を逸らしていた士道が、耶倶矢の戸惑いの声につい目を向けようとして、慌てた耶倶矢がバランスを崩して、見事な踵落としが士道の土手っ腹にクリティカルヒットした。
*
「女の子へのフォローを鍛えるためなのに、その前にどうして意識を刈り取られちゃってるのよ!?」
「事故だから仕方ないのではないかな?」
「はぁはぁ……まあ、今回は仕方ないわね。でもこうなったら、意地でも士道のフォロースキルを確認するために続行するわよ!」
「……碌なことにならないと思うがね」
●折紙は自重しない
一つ屋根の下に精霊とASTが居るのは、奇妙な状態だった。とはいえ、折紙は士道の説得によって精霊に対する認識が今までとは変わろうとしている。このまま良い方向に進むことを願わずにはいられなかった。
三人のガールズトークを<ラタトスク>の監視に任せて、士道は一人で自室に戻る。部屋で機関対策の作戦を練っていると、琴里がノックをして入ってきた。
「士道、ちょっとトイレの電球を替えてもらえないかしら」
「分かった、すぐに行く」
士道はノートを机の引き出しに仕舞ってから、替えの電球と作業用の丸椅子を持ってトイレに向かった。
トイレの前で琴里が待っていた。別に一人で手は足りるので監視に戻ってもらうように頼むと、「それもそうね」と特に不自然な様子もなく去っていった。
「……っ!?」
トイレにはまさかの先客が居た。
スカートとパンツを下げた折紙が、無感情の眼をぱちくりさせる。
「お、折紙……!」
混乱する士道を余所に折紙の思考は高速で回転していた。
鍵を閉めていたのだから、誰かが入っていると考える。その鍵をこじ開けてまで、トイレに押し入ろうとする考えとは……?
――結論は出た。
これは新しい形の夜這いだ。
「来て」
「えっ」
「来ないの?」
「えっ」
「ここでしないの?」
「ええっ」
「私は、いつでも大丈夫」
「え、ちょ、待て――」
折紙の手が士道の腕を掴む。女とは思えない怪力で振り払うこともできない。そして、士道はトイレへと引きずり込まれて、扉は閉ざされた。ガチャリと鍵が閉まる。
もう邪魔者は現れない。
折紙と士道の二人っきりの世界の完成だった。
*
「誰か止めなさいっ! 今すぐトイレをぶち開けて、あの肉食獣をどうにかするのよっ!」
「………………」
メインモニタにトイレの閉ざされた扉が映されていた。士道の必死で抵抗する様子が音声だけで伝わってくる。
半狂乱の琴里の指示で、特殊工作員が突入するが、何故かトイレの扉は鍵を破壊しても開かない。爆発物でも突破しようにも、中に居る人間まで巻き込んでしまう。
それから数十秒後――士道は工作員のサポートを受けて窓から脱出を果たした。その姿はまるで爆発に巻き込まれたようにぼろぼろだった。彼は欲望を耐え抜いて、折紙の魔の手から逃れたのである。
――こうして、今日もまた、士道の童貞は守られるのであった。
明日も本編の更新はできそうにないので、予めここで報告致します。
番外編のネタは、大体はその日の内に考えているので、クオリティを気にしたら負けだよ!
Q.今回書いていて一番驚いたことは?
A.「濡れそぼる」は誤りで本当は「濡れそぼつ」と書くこと