転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第11話 -夜目-

 

 ピッ!

 

 エルコンドルパサーのスマホにセットしたタイマーの音を合図に、私達はスタートする。

 

 流石黄金世代、スタートダッシュは素早い。

 

 まぁ、スタートで前に行ってくれたのならば、私はそれで良い。抜かせる手間が省けると言うものだ。

 

 そして私は、脚に力を込め、エルコンドルパサーの斜め後ろにツケる。ここならば、彼女の動きをじっくり見ることが出来る。

 

 そして、すぐに最初のコーナーに差し掛かる。ここでは様子見だ、しかし遅れを取らないようにする。

 

 エルコンドルパサーは、丁寧にインを突いて曲がっている。

 

 おかしいなぁ、なんでだろう。

 

 そっちは本来、インベタでは曲がらないはずだ。まさか、コンドルの名の通り、“鳥目(夜盲症)”なのだろうか?

 

 まあ、そんなことはどうでも良い。私が手に入れたい情報はコーナーでの走り方ではない。末脚なのだ。あの力強い走りを絞り出すメカニズム、私はそれを知りたいのだ。

 

 遠心力のあるコーナーは怖いだろうが、それがない直線ではライトがボンヤリと作る光の道に沿って、真っ直ぐに進むだけで、暗くても怖さを振り切れば可能である。つまり、暗さに動揺していたエルコンドルパサーも全力を出すことができる。

 

 ただ、その為には発破をかける事が必要不可欠である。

 

「………!」

 

 エルコンドルパサーに力が入るのが感じられる。遠心力に耐えるためだろう。今まさに、そのコーナーが終わろうとしているのだ。

 

 そして、コーナーの出口、私は、遠心力に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(足音が……消えた……!?)

 

 ストレートに差し掛かってすぐ、エルコンドルパサーは異変を感じた。マヴェリッククロウ──彼女の足音が、感じられなくなったからである。

 

(居ない…)

 

 エルコンドルパサーは、後ろを振り返るも、彼女の姿は無い。

 

(コーナーから抜け出すときに…向こうが遅かったのか…それとも…)

 

 エルコンドルパサーは自分の直ぐ側に広がる闇の世界を見る。

 

(…まさか……この中に…)

 

 どこから現れるかも分からない彼女に、エルコンドルパサーは言葉では言い表せない不気味さを抱きつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠心力に身を任せ、わざと大外に出た私は、少しばかり離れた所から、エルコンドルパサーを観察している。

 

 エルコンドルパサーは私を探している……分からないのか。どうやら、名前通りの鳥目のようである。

 

 私の位置が、察知される事はないだろう。ペースは似たものにしているし、何よりそっちはこの暗い環境と、私が何処にいるのか分からない不安とで、五感が随分と鈍っているだろうから。

 

 さて、そろそろコーナーである。再び、エルコンドルパサーの後ろにツケようとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……!聞こえる…向こうの息遣い!)

 

 コーナーに入り、エルコンドルパサーは彼女が自分の斜め後方に居る事を察知した。

 

(さっきまで、一体何処に…でも、気にしていたら…!)

 

 しかし、通常より遥かに暗い環境でのレース、そして後ろから迫る彼女が、エルコンドルパサーにその走りを分析する余裕を与えない。

 

(直線にさえ出れば…引き離せる…グラスがいつも言ってるように、心頭滅却…慌てずに…)

 

 ただ、エルコンドルパサーは気持の切り替えが上手かった。それは、ルームメイトであり、親友の、グラスワンダーの影響もあった。

 

(直線に出た!あと…一周!!)

 

 エルコンドルパサーは、脚に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は再び遠心力に身を任せ、エルコンドルパサーの視界から消える。ただ、2回目となると、流石の向こうも少し落ち着いている。

 

 次のコーナーから、変化をつける。あちらの後ろにつくのではなく、大外から回って、更に前に出ておくのだ。

 

 未知の相手から来る不安に、危機感と言う名のスパイスを加える。そのシナジー効果は、絶大なものとなるだろう。

 

 そして…最後のストレートで、必ずエルコンドルパサーに本気を出させてやる。

 

 目の前に迫るコーナー、私は迷わず、アウト側のルートを選択した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(後ろに…いない?)

 

 エルコンドルパサーが、異変に気づくのに時間はかからなかった。

 

(どこ…どこ!?)

 

 エルコンドルパサーは頭を振り、“彼女”を探す。

 

(どこから来るの…)

 

 スピードに影響が出ない範囲で周囲を最大限経過しつつ、彼女はコーナーを抜けていく。

 

(何だか…ザワザワと来る…嫌な予感がする…)

 

 ──そして、予感は現実のものとなる。

 

(……ッ!?)

 

 エルコンドルパサーの腕に、ウッドチップが当たったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はエルコンドルパサーに向けて、ウッドチップを蹴り上げた。これは普通にレースで使われるテクニックである、後方牽制のための。

 

 ただ、私は大外にいるので、それを斜め後ろに向けてやっただけなのだ。

 

 そして、それはうまく行ったようで、エルコンドルパサーのパワーが強まった。それに伴い、スピードも上がっている。私の前に出た、しかし向こうはこちらを抜いたことに気づいていない。

 

 夜に私を見つけたければ、電波探信儀(レーダー)か補聴器でも持って来ると良い。

 

 私達は最後のコーナーに入る。そして、私は外からエルコンドルパサーに並びかける。

 

「…やっと姿を見せましたカ…後悔させてやりマス!!」

 

 ほう。

 

 エルコンドルパサーの目は、レース映像の時と同じになった。

 

 私はついに、彼女に本気を出させる事に成功したのである。

 

 そして、エルコンドルパサーは脚に力を込め、彼女の本来のスタイル──インベタではない、内ラチから少し離れた所を通る。

 

 成る程、そんな風にパワーを絞り出すのか。

 

 エルコンドルパサーのフォームを確認し終えた私は、脚に力を込めた。

 

 少しアウト寄りを進んだ向こうに対し、こちらはインに切り込んだのである。

 

 最後に見たのは、こちらを見て、目を点にした、コンドルの姿。

 

 ウッドチップ用のフォームを見せつけ、私は一足先にゴール地点を通過した。

 

 そして、そのまま一路、寮へと向かう。直帰である。

 

 私はレースでベストなパフォーマンスを発揮するため、夕飯を少ししか食べて居ない。腹が減って仕方が無い。あちらには現地解散と言っていたので、問題無いだろう。メイビー、パーハプス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 敗北したエルコンドルパサーは、直帰する“彼女”を見て、その場に立ち尽くしていた。

 

「……ッ」

 

 手には力がこもり、耳は後ろに反っている。

 

(こちらと思えば、あちら…ワタシは、翻弄されてた…そして、マヴェリッククロウ、あの娘は…フクロウか何か…?)

 

 レース中のことを振り返り、エルコンドルパサーは、“彼女”の夜間視力を恐れる。

 

「こんな敗北…二度とあってたまるか…デス」

 

 そして、そう呟いた。彼女は屈辱的な気持ちになっていた。最初から最後まで、相手のペースに乗せられ、完敗を喫したからである。しかし、そんな彼女も、レースで得たものはあった。

 

「でも、アナタがインに入ったお陰で、末脚は、一足先に、バッチリ見せて貰いましタ………絶対に、アナタを倒す糧にして見せマス、首を洗って待ってて下サイね、マヴェリッククロウ」

 

 エルコンドルパサーは“彼女”がどうやって自分を突き放したのかを、しっかりと見ていた。そして、見たものを、今後の糧にすることを誓ったのである。

 

 それが、実戦では全く用いられない物であるとも知らないままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親愛なるパピーへ。

 

 今日は、黄金世代の一人であるウマ娘、エルコンドルパサーとレースを行いました。もっとも、私はあまり乗り気では無かったのですが…そんなことは、どうでも良い事ですね。

 

 ただ、勝負を受けた以上は、今後の糧になる経験をしたい、なおかつ相手が得る物は最小限に留めたい。そう思った私は、策を練りました。コースを真っ暗にしたのです。色々あって、私は、他人よりも遥かに夜目が効きます。そして、エルコンドルパサーは何処から私が来るのか分からず、負けるわけには行くまいと、全力を出していたようです。

 

 そのお陰で、私は彼女のような力強い走りを行うヒントを得ることが出来ました。その一方で、相手が得たのは、私は夜目が効くことと、私のウッドチップでの走法ぐらいでしょう。

 

 ただ、そんなことを知ったところで、レースには、何の役にも立た無いでしょう。ナイターレース自体、数は多くないですし、そのコース全体は、ライトで昼間のように照らされているのですから。そして、ウッドチップでの走法は、脚部への負担が少ない地面に対応した物です、それを、もし、仮に、芝で使うとすれば、とんでもない仕掛け爆弾となるでしょうね。

 

 ともかく、今日得たことは、今後の行動に活かしていかなければなりません。そして、私は今後もエルコンドルパサー達黄金世代について、あなたに伝えていこうと思います。

 

 じゃあまた、マヴェリッククロウより。

 

 私は、今日のことを日記に書き終え、眠りにつく。さて、大事なのは明日以降である。エルコンドルパサーが秘密を漏らすのか、否か。

 

 

 

「なるほど、そういった経緯で君は勝ったわけだな」

 

 そして、レースの翌日私は白子へレースについての報告を行った。

 

「うん、そっちは私達のこと何か聞いてない?」

「ああ、私のところには、君とエルコンドルパサーがレースをしたなどという情報は入ってきていない。君も大博打に出たものだな、露呈すれば、厳重注意ものだぞ」 

「いや、考えろって言ったのはそっちだし、校則的にもアウトではないよ」

 

 白子から少しばかりの叱責の言葉を貰うが、私は大して気にしない。校則には、夜間スタンドライトを消してはならないなんてものはなかった筈だ。

 

「む…これは一本取られたな。ただ、君には驚かされるな、夜でも見えるのか?」

 

 白子はこちらを見て、そう聞いてきた。日記にも書いたように、私は夜目が効く。その理由を彼に教えたところで、まあ、困りはしないだろう。

 

「日頃から早起きして運動したりして、練習しただけ、私は地元でよくタケノコ掘りをやってたんだけど、イノシシが出るんだよ、街の背後に山があるから」

「イノシシ…ふむ、興味深い」

 

 食いついたか。まぁ、破壊というよりかは故郷での日々であるから、ネタには事欠かない。

 

「タケノコは夜明け前に掘ると美味しいんだけど、その時はイノシシの活動時間と被ることもある。でも、竹藪は薄暗くて、竹のせいでライトもあまり頼りにならない、だから…」

「成る程、それで夜目を鍛える訳か」

「そう、向こうは鼻で察知してるけど、人間慣れしている個体は逃げたりしない、だからこっちは、襲ってくる距離に入っちゃう前に相手を見つける事が大事なんだ」

「…君は襲われた事があるのか?」

「もちろん、でも、私は猟師じゃないから、竹をよじ登ったり、斜面を駆け上がったりして逃げ回るのが多いね、まあ、何回かはドンパチしちゃったけど」

「君の能力の源泉が、少しばかり理解できた気がするな」

 

 白子は頷きつつ、そう呟いた。

 

「さて、君についてまた少し知ることができた所で、今後のプランを相談するとしよう」

 

 白子は話題を切り替え、メモ帳を取り出してペンを持つ。

 

「了解、じゃあまず、この後のレースだけど、共同通信杯に出ようかなって考えてたけど、出ない。ヒヤシンスステークスに出る」

「ふむ、エルコンドルパサーとの対決を回避するのだな、そこからはどうする?」

「3月にもう一回ダートレースにに出て、そっから皐月賞に行きたい」

 

 私がそう言うと、白子は少し驚いたようで。ペンを走らせる手を止めている。だが、すぐに目を細めて笑った。

 

「フッ…君は面白いが、こちらに苦労もさせてくれるのだな…君がやりたいのは、所謂、奇襲攻撃とやらだろう、クラシック三冠レースに、ダートウマ娘が電撃参戦するという内容の」

「まあね」

「よし、では、その方向で調整しよう、今より負荷が多くなる、君も自主トレの内容を制限するなどの工夫を忘れないように、あと、昨日見たエルコンドルパサーのフォームは、しっかりと、記録しておいてくれ」

「了解」

 

 私は、エルコンドルパサーの出鼻を挫き、更には情報も手に入れた。これは、きっと役に立つことだろう。

 

 そして、今後のプランである。ここから2戦ダートを走り、ダートウマ娘の印象を固めた上で、芝に、それもクラシックレースに電撃参戦を行う。ファンも、出走ウマ娘も、大いに衝撃を受けるはずだ。

 

 そして、私は、黄金世代のクラシックでの活躍という、ファンとブン屋さんの望みを、破壊するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングを終えたあと、改めて私は、今後の事について考えていた。皐月賞はクラシック三冠路線のレース、今までよりも、対戦相手は強力なものとなる。私の経験則や自主トレで作り上げた肉体、白子の指導を持ってしても、準備としては不足である。

 

 となれば、他人の力を借りるしかない。

 

 シンボリルドルフやナリタブライアン等の強力無比なウマ娘に指導を仰ぐ……

 

 ──難しいだろう、彼女たちは多忙であり、そもそも、すでに他のウマ娘の指導に当たっている可能性が高い。

 

 白子と共にベテラントレーナーに接触する……

 

 ──これも難しいだろう、彼らだって育成しているウマ娘がいる。それも大抵の場合、複数人。それに、黄金世代とそのトレーナーへの対抗で時間的にも、精神的にも、余裕がない可能性が高い。

 

 と、悩んでいた私だが、ある考えが降りてきた。

 

 いつも併せをしてもらっている先輩を頼るのだ。彼女は故あって重賞とオープンを行ったり来たりしているが、その影響でドリームトロフィーリーグに移籍しておらず、未だトゥインクルシリーズへとどまっている。そして、今年も走るために準備をしているらしい。

 

 更に彼女のトレーナーも、ベテランであるが、育成しているウマ娘は先輩一人、さらに私達つながりで白子とも関わりがある。

 

 “灯台下暗し”とはまさにこのこと、かくして、私は“最高”ではないが“最善”の一手を見つけることができたのだった。

 

 





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