転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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 明けましておめでとうございます。読者の皆様を楽しませることができるよう、頑張っていきたいと思いますので、今年も拙作をよろしくお願い申し上げますm(_ _)m。


第12話 -貫禄-

 

「ふぅ…」

 

 足を止め、汗を拭う。白子の方を見ると、彼は首を縦に振る。ベストタイ、もしくは更新を表すジェスチャーである。

 

「動画は?」

「ああ、しっかりと撮れている……よし、コピーをそちらの携帯に送信しておいた。私は私で、改善点を探す。君はこれを彼女に」

「了解」

 

 トレーニングの〆として、ダートやウッドチップ、学園外の走路を走っては映像を記録し、分析を行う、これが最近の日常である。

 

 白子から映像を受け取った私は、急いで帰り支度をし、トレーニングコースを出た。

 

 

 

「うん、フォームが良くなって居るわ、ただ、末脚を使うタイミングを揃えすぎているわね、ムダのない動きというのは、確かに大事だけれど、多少はバラツキを残しておくことも大事よ、レースが乱れることは少なくないから、本来の位置で末脚が使えなくなるかもしれない、だから、練習の段階で、様々な位置で末脚を使うトレーニングを取り入れて見るのが、良いかもしれないわね。」

「分かりました」

 

 トレーニングを終えた私は、あるアパートに向かう。自主トレに使う時間を、アドバイスをもらう時間に回しているのだ。

 

 こうやって学んだことは、白子や私の意見と合わせつつ記録し、新しい事を考えていくために使う。

 

 

 

『マヴェリッククロウ!ヒヤシンスステークスを勝利!!』

『道中、前方が接触で塞がりはしましたが、きちんと突破していましたね、これからを期待させる走りでした』

 

 そして、学んだことを活かし、レースで勝利する。

 

 

 

「先輩、ありがとうございます、先輩のアドバイスのお陰で、あの状況を抜け出せました」

 

 もちろん、報告と感謝を欠かさずにやる。

 

「ふふっ、レース、見ていたわよ、ありがとう」

 

 報告を聞いた彼女はそう言い、微笑みながら私の頭を撫でた。彼女の名前はオンワードトライブ、私やクラスメートが頼りにしている先輩のウマ娘である。彼女は脚部不安があった影響で、サポートウマ娘とのつながりが深く、私達はサポートウマ娘の紹介によって、彼女と出会ったのだ。

 

 彼女の知見と物腰柔らかな性格は、私の計画に必要不可欠である。他者の話を聞き、助言を与える力、つまりは私には無いものを、彼女は持っている。これを利用しない手はない。

 

 私は今から、彼女に今後のプランを伝えるつもりである。それは、私に確証があるからである──彼女は、私の掲げるプランを否定しないという。

 

「クロ、好調なあなたに聞いておきたいの、これからはどうするつもりなの?」

 

 そして、幸運なことに、向こうからこれからどうするのかを聞いてきた。プランは問題ないだろう、問題はもう一つだ。

 

「…トレーナー以外に、これを話すのは、先輩が初めてです………先輩、私は、もう一戦ダートを走ったら、その後は皐月賞に行きたいと思います、出来るところまで、挑戦してみたいんです…三女神様の加護が無くても」

 

 オンワードトライブは、少しばかり驚いているようである。

 

「最後の部分…それは、どういうことなの?」

 

 そして、そう聞いてきた。

 

「私の家系は、レースとほとんど関わって来なかったんです。だから、三女神様は信仰していません、継承も受けることはないと思います」

 

 破壊・独自路線・異教徒……私はマイノリティーのオンパレードのようなウマ娘である。そして、私は彼女を試しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 オンワードトライブは、目の見開きと、沈黙をもって、私の言葉を聞いていた。

 

 ただ、彼女はすぐに目を戻し…

 

「クロ、恐らく、それは前代未聞の挑戦で、難しいものになるわ」

 

 真剣な表情でそう言ったものの…

 

 

 

 すぐに「でも」と言い、私の頭に手を置いた。

 

「あなたがその挑戦をやり遂げるという意志をしっかりと持ち続けるのなら、私はあなたの夢を応援するわ」

「先輩…ありがとうございます…!!」

 

 私はオンワードトライブに笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む…君か、上手く行ったのか?」

「大丈夫、そっちは?」

「ああ、彼女は君の決断を支持してくれたよ」

 

 今日はトレーニングは休みだが、私は、先程の事を白子に報告するために学園にとんぼ返り。トレーナー室にやって来た。

 

 白子の言う“彼女”とは、オンワードトライブのトレーナーの事である。名前は…何だったろうか。

 

「それと、オンワードトライブ君のトレーナーは私達を応援してくれては居るのだが、“脚だけは気をつけるように”と言っていた」

 

 白子はそう続ける。彼女たちがそう言うのも最もだろう。

 

 確か、オンワードトライブは最初、今とは異なるトレーナーが担当していた、しかし、脚部不安で、彼女は契約を解除された。一人となった彼女を引き取り、他に担当も迎えず契約を結び続けているのが、今のトレーナーである。そして、彼女らはその脚部不安を度々乗り越えているのだ。

 

「確かに、二人の言うとおりだね、芝はダートと比べて、地面が硬いから」

「その通りだ。だから明日、トレーニングを終えたら、私に蹄鉄を預けて欲しい。摩耗具合を見て、芝用の蹄鉄を発注しておく」

「ありがとう」

 

 とりあえず、これでクラシックの芝戦線への侵攻準備は完了である。

 

 オンワードトライブは、その知見の多さから多くのクラスメートが慕う対象である。彼女が私の決断を尊重すれば、彼女を慕うクラスメートも、私の決断を否定することはしないだろう。

 

 そして、彼女とは、今よりもさらに親密になる計画だ。とどのつまり…私は彼女を…

 

「そうだ、そう言えば先程ツルマルツヨシ君がここにやってきた。伝言を預かっている。彼女は──」

 

 人に気に入られると言うのは、少しばかり骨が折れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いの?私も誘ってもらえるなんて」

「うん!私がクラシックに向けて気持ちを立て直せたのは、クロちゃんのお陰だから!」

 

 ツルマルツヨシは、私を先導しながら、ニコニコしてそう言う。

 

 服装は私服、背中にはサンドイッチを入れたリュックを背負い、私は彼女についていく。

 

 ツルマルツヨシがトレーナー室に来た理由、それは、私を花見に誘うためだった。入院中の恩返しだけでなく、黄金世代に私のことを紹介したいらしい。

 

 スケジュールに問題はない、私が出ようと思っていたレースはその前だった。きちんと一着も取った。

 

「あ、皆が見えてきたよ!」

 

 ツルマルツヨシが手を振った方向には、スペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイロー、グラスワンダー、エルコンドルパサーがいる。

 

 アウェー感が半端ないけれど、なんとか乗り切って見せるとしよう。

 

 

 

 

 

「では、ここにシートを広げましょうか」

「うん!」

 

 グラスワンダーとスペシャルウィークが、共にシートを広げる。

 

 電車に揺られ、しばらく、私達は学園から遠く離れた北の丸公園にやって来ていた。こんなところまで連れてこられるとは思わなかった。

 

 とはいえ、私はサンドイッチ以外のもの…とどのつまり料理であったり、菓子であったり、レジャーシートであったり、飲み物であったりはすべて用意してもらっている身分である。なので文句は言わず大人しくついてきた。

 

「場所選びをグラスに任せておいて正解でしタ!歴史の息吹が感じられマース!」

 

 エルコンドルパサーは、周りの風景を見ながら、場所選びをしたグラスワンダーを称賛する。

 

 まあ、そりゃあ歴史は感じるだろう。だって、昔の話にはなるが、ここ(旧江戸城)以外はほとんどあなた達(アメリカ)が燃やしたからね。

 

「じゃあ、座ろっか」

 

 私がそんなことを考えている間に、シートは敷かれていたようで、セイウンスカイの言葉を合図に、私達七人は履物を脱ぎ、私はサンドイッチを取り出す。

 

「では、ツルマルツヨシさんの退院を祝福して、乾杯しましょう」

 

 そして、飲み物を注ぎ終えた後、キングヘイローが乾杯の音頭を取り、私達は乾杯した。

 

「わぁ、このサンドイッチ、美味しいです!クロさん!」

 

 最初にサンドイッチを口にしたスペシャルウィークは私に向けてそう言う。それに続き他の4人も頷いていた。

 

「あれ?エルちゃん?」

 

 ただ、エルコンドルパサーは難しそうな顔をしながら、サンドイッチを頬張っている。何か嫌なことでもあったのだろうか?

 

「フゥ…お腹がペコペコでしたから、急いで口にしすぎました、美味しいデスよ!」

 

 よし、それで良いんだ。ここにいるメンバーには、エルコンドルパサーと私は、一度話したことがあると伝えている。ただ、それ以上は言わせやしない、協定は守ってもらう。

 

「皆が気に入ってくれたみたいで良かった、2種類あるから、食べ比べも楽しめるよ」

 

 お茶を飲みつつ、私はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達はしばらく雑談をしていたのだが、グラスワンダーのある一言が状況を変えた。

 

「皆さん、ここで互いの“夢”を語りませんか?」

「夢?」

「はい、ここにいる全員は、夢を持ち、走っているはずです。互いの夢を知り、自らを高める糧と出来ればと思いまして」

 

 私の質問に、グラスワンダーはそう返答した。成る程、確かにここいらで破壊対象をはっきりとさせておいても良いかもしれない。

 

「私は賛成、せっかく出会えたんだもの、もっとみんなの事、知りたいかな」

 

 私がそう頷きつつ発言すると、他のメンバーも同意した。

 

「では、まず私から言わせていただきますね、私の夢は“頂点”へと至ることです。レースの世界という名の山を歩み、登るのならば、目指すべき場所は、そこ以外にはないと思っていますから。」

 

 ほう。

 

「じゃあ、次は私が言わせてもらうね〜。私はじいちゃんがいたんだけど、じいちゃん、“スカイがクラシックレースで走るところを見るのが夢なんだ”って、言ってたんだ。その夢を、叶えてあげること、それと、“皆をあっといわせるようなレースがしたい”っていうのが、私の夢…何だか、ちょっと恥ずか──」

 

 ほう。

 

「次は私よ!私は、多くのレースで勝って、一流であることを周りに知らしめる。そして、“キング”の三文字を、世界中に轟かせて見せるわ!」

 

 ほう。

 

「じゃあ次は私だね、私は、身体はあまり強くないけれど、いつかは、ルドルフ会長みたいな、強くて、それで持って皆から慕われるような、そんなウマ娘になりたいかな」

 

 ほう。

 

「次は私デスか…私が目指すものは、単純明快!唯一無二の称号!つまり…世界最強デース!!今はまだまだ未熟デスけど、いつかは…凱旋門賞にも出てやりマス!!」

 

 ほう。

 

 そして、私の番が回ってきた。

 

「次は私か…私の夢は、幸せになる事、ここに来て、レースをして初めて、走ることで作り出せる幸せを感じることができた。だから、もっと挑戦して、もっと多くの幸せを手に入れたい」

 

 一応、本心を言ったのだが…何だか、ものすごく抽象的になった気がする。まあ良い、さて、最後はスペシャルウィークである。

 

「私は…私の夢は…私を見守ってくれてる、二人のお母ちゃんのために、トレセン学園で一杯トレーニングして、色んなレースで勝って…それで…“日本一のウマ娘”になることです!!」

 

 ほう…ほほう。

 

 ほう…成る程。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、いよいよだな」

「そうだね」

 

 花見の日から時間が経ち、今日は、皐月賞の当日である。私の挑戦の発表は、大きな話題を呼び、ベテラントレーナーの中からは疑問を呈する声もあったものの、オンワードトライブとそのトレーナーの助力もあり、銀翼のウマ娘は、私の決断を支持した。

 

 信仰のことに関しては、私とオンワードトライブの秘密ということにしておいた。彼女と比較するとクラスメートは精神的に未熟な存在であるからである。

 

 私は、勝負服の上着部分に袖を通す。頼んだ物は、黒と白のツートンカラーで、通気性に特化させたもの。今はつけていないが、装飾品等をつける拡張性も考慮してある。本当はもっと色々な要素を組み込みたかったのだが、レースで勝っていけば、作れるようになる、新しい勝負服に取っておくことにした。

 

「君のクラスからは、君だけか…孤軍奮闘だが大丈夫か……いや、そんなことを聞くのは、愚問だな」

 

 このレースは、エアジハードが出走意志を示していたのだが、層の厚さと適性の問題から彼女は断念、アグネスワールドは年明けのシンザン記念を勝ったのだが、脚部不調で治療中、私のクラスは半分が障害レースのウマ娘という母数の低さも相まって、クラスのなかで皐月賞に出走したのは私だけとなった。

 

 だが、黄金世代のうち、エルコンドルパサーとグラスワンダーが皐月賞に出走しなかったのは意外だった。ブン屋さんやファンはかなり落胆しただろうが、残り3人は出走する、それ故その態度を表に出したりはしていない。

 

「じゃあ、行ってくる」

「ああ、見せてもらうとしよう、芝の上で、烏がどう羽ばたくのかを」

 

 私は白子と別れ、控室から通路へと移動する。

 

「クロちゃん、頑張って下さいね」

「くれぐれも気を付けて」

 

 アグネスワールド、エアジハードを始め、クラスメートが私に応援の言葉をかける。そして、最後に歩み出てきたのは、オンワードトライブである。

 

「クロ、自分の積み上げてきたものを信じて、仲間とともに作り上げた翼を信じて、走って来るのよ」

 

 オンワードトライブは、私にそう声をかけた。これまで、私は彼女を試してきたが、

彼女には素質があることがわかった。それは、集団の精神的支柱となる素質である。

 

 実績が振るわずとも、実戦経験の多さ、知見の多さ、挫折しそうになった回数の多さ、物腰柔らかな性格…こういったものを兼ね備えた彼女は…

 

 “貫禄ある存在”

 

 と言えるのである。

 

 そして、私の目的は、彼女を銀翼のウマ娘の精神的支柱…つまりは族長のような存在として擁立し、翼を育てることにある。

 

 そのためには、このレースで勝たなければならない。継承は受けていない、だが、それは、三女神とやらが私の運命に介在していないことの証明である。

 

 そして、三女神とやらは、ウマ娘を導く存在と信じられている。

 

 そうだとすれば、私達ウマ娘は、三女神のボードゲームの上のコマのようなものだ、サイコロの出目が違うだけで、ボードの上で輝くものもあれば、ボードから取り除かれるものもある。

 

 そんなもの、糞喰らえである。だから…

 

「先輩、皆、勝って来るからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は決して、彼女達(三女神)に、サイコロを振らせない。

 

 

 






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