転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第13話 -擬攻撃(モビング)-

 

 

 

『ついに幕を開けます、クラシック三冠の一戦目、皐月賞、一番人気はスペシャルウィーク、続いてセイウンスカイ、キングヘイローの三強が上位人気を占めています』

 

 パドックでのお披露目を終えた私達は、地下道を進み、本バ場へと上がっていく。

 

『ウマ娘達が、ゆっくりと、一歩ずつ、大舞台の感触を確かめるようにコースへと向かっていきます。“黄金世代”と呼ばれる中で、栄えある栄光を手にするのは、いったいどのウマ娘なのでしょうか?』

 

 私は外枠なので、基本的に上がるのは最後の方である。急ぐのはあまり好きではないので、ゆっくりと歩いた。

 

「じいちゃんが思っていないとしても、勝利を目指す私、二人のお母さんのために、日本一を目指すスペちゃん、その違いがわからないなら、こりゃ〜勝つのはきっと私だね」 

 

 む…?声が聞こえる。これは、セイウンスカイの声だ。

 

「『皐月賞』……私が絶対に勝つ。なんてね〜。にひひ、そんじゃお先に〜。」

「セイちゃん…」

 

 そして、スペシャルウィークの声も聞こえ、二人の足跡は遠ざかっていった。

 

 私は、セイウンスカイの言葉を反芻する。

 

 誤魔化しが下手である。私を除けば、彼女の勝利への執念は、今回の出走ウマ娘の中で、一番高いだろう。

 

「……はぁ…」

 

 だから、私はため息をついた、誰かに対してではない、自分に対してである。

 

 なぜ、セイウンスカイの祖父がまだ生きているのか否か聞かなかったのだろうか、カラスが墓石に備えられた花を引っこ抜いて遊ぶように、故人への手向けを破壊できれば、それ以上の幸福など無いはずなのだが。

 

「いや…」

 

 レースには、モチベーションが必要不可欠である。そこで私は発想の転換を行った。

 

「生きがい…」

 

 人間というのは生物としては失敗作である、生きがいが無ければ、ストレスフリーに、長生きしづらいのだ。

 

 セイウンスカイの祖父が生きていたとすれば、老い先短いであろう彼は、セイウンスカイがクラシックレースで勝つのを見るのが生きがいのはず…つまり、私が勝てば、その生きがいを破壊できるのだ。

 

「……!!」

 

 そう思いつくと、身体が震えた。武者震いというやつか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰とも言葉を交わさず、ストレッチを済ませ、目を閉じ、瞑想をする。

 

 今回のレースは白子からとんでもなく難しい注文が入っているのだ。だから精神統一の必要がある。

 

 それは“出遅れに見せかけて追込でいく”というものである。

 

 私はダートから電撃参戦した存在、当然注目されるので、出遅れに見せかけることで、黄金世代にヘイトを集めさせるという作戦である。

 

 回りくどいが、勝つためにはこのぐらいの備えも必要だろう。

 

『出走ウマ娘達が、次々とゲートインしていきます』

 

 さあ、羽ばたくとしよう。

 

『スタートしました!!好スタートを見せたのはボルドーエンペルトにダースアゲイン、内からコウエイテンカフブ!コウエイテンカフブ!おっと!マヴェリッククロウ出遅れ気味!殿からスタート』

 

 よし、スタートは上手く行った。

 

『キングヘイローが軽々と二番手に上がる、3番手には内から接近するセイウンスカイ!セイウンスカイ!エモシオーラは4番手!そしてフジラッキーメン、マイローカル、ウイニングラッパー、そしてダースアゲイン、シャインポシェット、スペースドライバーと追走して、最後方から3人目にスペシャルウィーク』

 

 さて、このような感じである。私は最後方で、スペシャルウィーク、キングヘイロー、セイウンスカイの位置関係を確かめた。

 

 スペシャルウィークは差し、キングヘイローは先行、セイウンスカイは先行のように見えるが、ジワジワと逃げに移行するのだろう。

 

 よし、これでやることは決まったも同然だ、そして、芝用の蹄鉄の食いつきも良い感じだ。セイウンスカイを後方から襲撃して一撃離脱、ペースを乱れさせてレースをぐちゃぐちゃにしよう。

 

『各ウマ娘、第一コーナーのカーブへ、先頭はコウエイテンカフブ、二番手にセイウンスカイが来ました!』

 

 よし、ここからである。

 

 普通コーナーでは、遠心力のお陰でスピードを落とすものであるが、あまり落とさずに済む方法がある。大外から行けば良い。

 

 少々距離が長くなる?

 

 ならば距離を長めに設定してトレーニングをすれば良い。そして私はそうしてきたし、スタミナに関してはトレセンに転入する前からアホみたいにつけてきた。

 

『エモシオーラが3番手、4番手にキングヘイロー、続くのはフジラッキーメン、あるいはウイニングラッパーとデモインライト、おっとここで最後方マヴェリッククロウ、外から進出してきました!!』

 

 コーナーは二本、まずはここで半分より少し上まで位置を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れたのに外から…クロ……とんでもないギャンブルをやってるね」

 

 エアジハードは、“彼女”の行動を見て、思わずそう呟いた。

 

「クロちゃんの事ですから、きっと何か考えあっての事だと思いますよ、ですよね、トライブ先輩?」

 

 一方、アグネスワールドは、そう言ってオンワードトライブに目を向ける。他のウマ娘達もそれに続く。

 

「ええ、クロは自分の強みを活かそうとしているようね、あの娘はダートを走っていた。そしてダートは、芝よりもコーナーが小回り、かかる遠心力は、芝のそれよりも大きいわ、だからスタミナと芝の反発に耐える脚があれば、あの娘は、大外からでも仕掛けていけるはずよ」

「成る程、それなら納得いきますね」

 

 エアジハードはコクコクと頷き、“彼女”の方に目をやった。

 

 

 

(こんな所で…?)

 

 一方、ターフの上では、スペシャルウィークが自分のすぐ横を抜けていった“彼女”の仕掛けに戸惑っていた。

 

 

(クロさん、貴方やっぱり)

(最初に出遅れちゃって、思い通りの位置につけなかったんだね)

 

 キングヘイローとセイウンスカイは、彼女の行動を直接見ていたわけでないため、動揺はしていなかった。

 

 ただ、彼女達は、その行動も作戦のうちである事に気づかなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レースは向正面へ、中団にはスペースドライバー、マイローカル、ビルドアップリア、ダースアゲインの四人が並ぶ、ここにマヴェリッククロウ、外から来ました』

 

 よし、このあたり、しかも邪魔されなかった。

 

『続くシャインポシェットとクイールサイクロン後は2バ身差でスペシャルウィーク、そしてセイクビジネス』

 

 ペース変化による体力減少は想定内、足の負担も問題無い。

 

 

『後方少し2人離れています、トウカイバンバン、内からはボルドーエンペルト、第3コーナーのカーブに向かって残りは800m』

 

 実況がそう言った所で、私は周囲を確認する。

 

『第3コーナーに入って、先頭はコウエイテンカフブ、少し開き気味か、そしてきっちりつけて続くのはセイウンスカイ、ここから交わしにかかります』

 

 思ったよりもバラけていない、行くとしよう。

 

『ここでマヴェリッククロウ、何と外に出てロングスパートをかけている!!』

 

 セイウンスカイ…

 

 待っててね。

 

 すぐ、貴方のそばまで行くからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここでマヴェリッククロウ、何と外に出てロングスパートをかけている!!』

 

「ロングスパート…!?」

 

 エアジハードが辛うじて、そう口に出したものの、他のクラスメート達は“彼女”の動きに驚いたままであった。

 

「………」

「先輩!クロちゃん大丈夫なんですか?」

 

 一人のクラスメートが、そう訴えかける。オンワードトライブは、それを手で制し“彼女”の顔を見た。

 

「クロのスタミナは問題ないわ、でも、ここからどう動いて、どう交わし切るのか、よく見ておきましょう」 

 

『残り600m、後方の動きはどうか、ダースアゲイン、マイローカルなどが差を詰める!デモインライトが少し後退気味!クイールサイクロンとスペシャルウィークが並んで上がる!!』

 

 あるものは三女神に祈り、またある者は熱い視線を向け、外側から急速に先頭に喰い付きつつある彼女を見守っている。

 

 

 

『ここでマヴェリッククロウ、何と外に出てロングスパートをかけている!!』

 

(一体…何なのさ…!?)

 

 セイウンスカイは、前を交わす体勢を取りつつ“彼女”の仕掛けに動揺した。

 

(今までのあの娘は、最後のストレートで全力投球をしてきたのに…今回は真逆のことをやってくるなんて…!)

 

 セイウンスカイは、皐月賞に挑むにあたり、対戦相手達のことを調べ、その戦法の大まかな予測を立てていた、そして今日は、“彼女”に対するそれが見事に外れる結果となっていた。

 

『残り600m、後方の動きはどうか、ダースアゲイン、マイローカルなどが差を詰める!デモインライトが少し後退気味!クイールサイクロンとスペシャルウィークが並んで上がる!!』

 

(でも、私は、私の走りをするだけ…勝つために…!)

 

 そう気持ちを立て直し、セイウンスカイが4コーナーの後半に差し掛かった時の事である。

 

『ここでマヴェリッククロウがセイウンスカイとキングヘイローを捉えた!』

 

 したたかな(カラス)は、その目でしっかりと獲物を捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『残り600m、後方の動きはどうか、ダースアゲイン、マイローカルなどが差を詰める!デモインライトが少し後退気味!クイールサイクロンとスペシャルウィークが並んで上がる!!』

 

 後ろからも来ている、ただ、私の方が速いはずだ。

 

 私はダートウマ娘、基礎トレーニングは旋回半径の小さいコースでやっている。遠心力には耐えられる。変わった動きもできる。

 

『ここでマヴェリッククロウがセイウンスカイとキングヘイローを捉えた!』

 

 キングヘイローの後ろについた、だが、今日の目標は──セイウンスカイ。キングヘイローは無視だ。

 

 キングヘイローを素通りし、すかさずセイウンスカイに擬攻撃(モビング)──カラスの生態を応用して身に付けたテクニックを使う。つまりは相手にぶつけるフリをするのだ。私はインに切りこむ。

 

「……ッ!!」

 

 セイウンスカイは目を丸くした。今だ、力を素早く抜いてコーナーから出るときの遠心力に身を任せ、こっちはさっさと離脱する。

 

 チッ、セイウンスカイ…内ラチとキスはしなかったみたいだ、つまんない。なら私の〆を見せつけてやる。ダート用だけど。

 

『マヴェリッククロウ、マヴェリッククロウ、セイウンスカイを交わして抜け出した!!後続を突き放してゴールイン!!』

 

 多くの歓声とともに、私はゴールの板を誰よりも先に駆け抜けた。

 

『砂で無敗のカラスは、芝でも羽ばたきました!』

 

 

 少し待つと、確定の文字が、掲示板に現れる。

 

 私は観客達に向け、そして、破壊を描くキャンパスであるレース場に向け、お辞儀を行う。

 

 そして、セイウンスカイに目線をやる。彼女は泣いていた。スペシャルウィークは、それを慰めるかのように、肩に手を置いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございます、クロちゃん」

「ビビビッと来たよ!」

「抜くとき、凄かったね!」

 

 レースを終えた“彼女”を迎えたのは、クラスメートやオンワードトライブらだった。

 

 その後ろには、白子が立っており、コクコクと頷いている。

 

「みんなのお陰で、セイウンスカイに勝てたよ」

 

 “彼女”は、笑顔を作り、そう言った。

 

「強い走りだったわ、クロ、おめでとう」

「先輩が、皐月賞に出走された時の経験を話してくれたおかげです」

「私の経験が役に立ったのなら、嬉しいことこの上ないわ、でも、これからが大切ね」

「はい、今回のレース…出遅れましたし、最後のコーナーでは動きが乱れそうになりました、課題は多いです。ですから先輩、今後も宜しくお願いします。皆も、改めてよろしくね」

 

 そして、その場にいる全員に一礼した。

 

「…よし、挨拶は終わったな、君達、私の担当を応援してくれてありがとう、私からも、礼を言わせてもらいたい。これからも、クロウ君を支えてくれ。」

「「「はい!」」」

「ではクロウ君、君はライブ会場に、私達もすぐに向かう」

「オッケー」

 

 白子の言葉を聞き、“彼女”はライブ会場へ歩みを進めた。

 

 “拳を握り固め、尾は震わせないで”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウイニングライブを終え、控室へと戻る途中、私は今日のことを振り返り、成長を実感していた。

 

 笑いを我慢する時に、尾が震えなくなったのだ。これは大きな成長と言え──ん?

 

 あれは…

 

 おやおや、今回のライブのバックダンサー(セイウンスカイ)じゃないか。

 

「ごめん…トレーナーさん、勝てなかった」

「良いんだ、君にはまだまだ、伸びしろがある。釣りだって、大物に逃げられる事があるじゃないか、だから、仕掛けを見直そう、俺たちで、いつか大物を釣り上げようじゃないか」

「トレーナーさん…でも…でも…ううっ…ッ…」

 

 セイウンスカイは涙を流し、彼女のトレーナーに身体を預ける。

 

「…悔しい…悔しいよ…ごめんね、じいちゃん…」

「……」

 

 そして、トレーナーはそんな彼女の頭を撫でている。

 

 私は、セイウンスカイの夢、作戦、そして彼女の祖父の夢を、破壊することに成功したのだ、ただ、その破壊も一時的なもの、おそらく彼女は再び立ち上がる。

 

 つまり、彼女がトレセン学園にいる限り、私は楽しませてもらえるというわけだ。

 

 躓いても、やり直せる。本当に、若さというものは素晴らしいものである。 

 

「若さは素敵と…みんな言うわ…恋も夢も明日君のもの…だけど…こぼれる…今日の涙が…胸に…落ちて…痛い…」

 

 私は二人から離れ、前世教わった歌を口ずさみ、控室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園に戻り、入浴して破壊の残渣(あせ)を洗い流した後、コンビニで買った簡単な夕食を食べ、私は机に向かい、日記を取り出した。

 

親愛なるパピーへ

 

 今日、私は“皐月賞”という、レースの中でも神聖視されているものに出走し、勝ってきました。今回ターゲットにしたセイウンスカイというウマ娘は、青みががった薄いグレーの髪に白色ベースの勝負服を纏ったウマ娘です。そして、あの黄金世代の一人でもあります。その勝負服の色のコントラストと走りは、まるで、稲妻のようでした。あなたにも見せてあげたかった。

 

 彼女は、明確な夢を持ち、レースに臨んでいました。私は彼女に、カラスに代々伝わる伝家の宝刀、モビングをもって対抗しました。

 

 そう言えば、モビングについて、説明するのを忘れていました。あなたは、カラスが鳶や鷹をかすめるような軌道で飛ぶのを、見たことがありますか?まさにそれがモビングです。攻撃を当てるのではなく、当てないギリギリを狙うのです。動物は、自らに向かって来るものに対しては、身構えるなり、避けるなり、即ち何らかの防御体制を取るものです。モビングはそれを利用して、相手に食事が奪い取られたり、仲間が襲われたりするのを阻むのです。相手に目的を達成させないと解釈してもらえると助かります。

 

 向かってくる相手、モビングの恐ろしさは、仕掛けられた者にしか分かりません。外部から見ただけでは、その怖さに気づかないのです。だから違反行為にはならないのです。

 

 そして、モビングを食らったセイウンスカイは、沈んでいきました。稲妻は、大地に落ちて、その存在を証明したのではなく、誰の目も届かない所…つまりは鉛色の海に落ちたのです。

 

 ここで一首、無教養の身ながら、歌を詠みたいと思います。

 

 青雲の 空駆け抜けし 稲妻の 海に落つさま いとおもしろし 

 

 どうでしょうか?

 

 今日は、セイウンスカイについて書きました。他の黄金世代についてなのですが。進展があり次第、他の話題も交えつつ、あなたに伝えていこうと思っています。

 

 ひとまず、今後は三冠レースの2つ目“日本ダービー”に備えて、トレーニングを重ねていくつもりです。そして、今年の日本ダービーはソロライブ、ライブの曲も、トレーニングと並行して選ばなければならないので、これからは忙しくなりそうです。

 

 じゃあまた、マヴェリッククロウより。

 

 一通り書き終えた私はペンを置き、椅子の背もたれに体を預ける。

 

「これから忙しくなるなぁ…」

 

 トレーニングやライブの曲選びだけではない、皐月賞を勝ってしまったので、私への注目度は上がる。私を狙ってくるウマ娘も増えるはずだ。面倒くさいことだが、破壊のためだ、目をつぶらなければならない。

 

 更に基盤を強固なものにするため、何をすれば良いのか……

 

 私はウマ娘レースに着いての雑誌を取り、ペラペラとめくる。

 

 私が開いたページには、レースで優勝し、トロフィーを抱いたウマ娘の写真と、そのインタビューの概要が書いた文章が載っていた。

 

「……!」

 

 少し違和感を感じた私は、他の雑誌も取り出し、優勝ウマ娘のページを開いた、そして、あることに気づいた。

 

 細かな差異は有れども、トロフィーとウマ娘、そして説明文という構図は、皆同じなのだ。これがずっと続けられてきたスタイルなのだ。

 

「……よし」

 

 今度、雑誌の取材を受けるときに、こんな既成概念に囚われない新しいスタイルを取り入れてやろう。

 

 積み重ねられてきたやり方を破壊するアイデアは、すでに頭の中に浮かびつつあった。

 

 

 





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