転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第17話 -痛打-

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 キングヘイローは、泥にまみれた手を見てて、呼吸を荒くする。

 

「……」

 

 その姿を“彼女”は眉一つ動かさずに、とても冷たい目をして見ていた。

 

「……ッ」

 

 キングヘイローの顔から涙がこぼれ、手を濡らす。それを見た“彼女”はキングヘイローの顔の横にしゃがみ…

 

「どう?分かった?これが負けるってこと、負けることの恐ろしさなんだよ?」

 

 とつぶやき、続けて口を開いた。

 

「──」

 

 

 

 一通り“彼女”の言葉を聞いたキングヘイローは、ペタンと座り込み、わなわなと震える。彼女は、そんな様子もお構いなしに、再びキングヘイローの耳に、口を近づける。

 

「怖いのならさ、私を超えたいのならさ、誰かギャフンと言わせたい人がいるのならさ、変わらないと、駄目だよ?」

「……」

「ねえ、あなたは、────────でいたいの?それとも、キングヘイローでいたいの?」

「……そ、「言わなくても分かるよ」」

 

 何か言おうとしたキングヘイローを“彼女”は遮る。

 

「でもね」

 

 キングヘイローの目を見て、睨みつけ、首筋に指を当てる。

 

「私は思うんだ、今のあなたよりも──────────ってね。」

 

 そして、その首筋を、見えない刃で切るかのように、止めの一言を言い放った。

 

「………ッ」

 

 キングヘイローの目からは、堰を切ったように、涙が溢れる。

 

「………」

 

 だが、“彼女”は、そんなキングヘイローの両肩に、手を置いたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はキングヘイローを河川敷のベンチへと連れ出し、共に座る。

 

「気持ちを聞かせて欲しいね」

「………」

 

 ふーん、黙るのか、便利だね。

 

「じゃあ、質問を変えるね、今回のダービーは“努力は全て認められるべき”っていう、そっちの意見と“努力は認められなければ意味はないし、その努力をどう解釈されようが、敗者は耐えなければならない”っていう、私の意見の対決だった、そして勝ったのは私…で、事実、世間からは私の戦いぶりが評価されてるみたい。そうだよね?」

 

 事実を並べる。

 

「……認めるわ、私は負けた。積み重ねてきた努力も、ほとんどの人が知ることはないと思うわ」

 

 キングヘイローは、屈辱に耐える顔をして、こちらを見る。

 

「……でも」

 

 …ん?

 

「スカイさんを、スペシャルウィークさんを、エルコンドルパサーさんを…あのレースで負けた他のウマ娘達…その努力を否定し、貶す事だけはしないで!」

「……」

「あなただって、ここまで、色々な事をやって来たのでしょう?それを否定される…そのことが、どれだけの屈辱かはわかるはずよ」

「………」

 

 キングヘイローはそう言うものの、別に私は努力を否定しているわけじゃない、逆に過程はじっくりと知りたい立場なのだ、その方が破壊の旨味が増す。

 

「出来ないのならば、私を貶して、気を済ませなさい、これは本来、貴女と私の戦いで“外野を巻き込むのは無し”のはずよ」

 

 キングヘイローは、こちらの発言を利用してきた。そこまで頭が回るとは、でも私だって言ったことを忘れていない。メインのターゲットはキングヘイローである。

 

「じゃあ…」

 

 しかしキングヘイロー、見上げた精神だ、度胸がある。

 

 ああ、気になるなぁ…

 

「貶すのはやめにして、ちょっと教えたいことがあるから、それを教えて、気を済ませさせてもらうよ、もちろん、周りを巻き込むのはナシでね」

 

 彼女が“ウエ”に耐えられるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ」

 

 後日、早朝、私はキングヘイローを連れ、学園の外に出た。

 

 ここは学園から離れた所にある、寂れた公園。鉄棒と砂場以外の遊具が撤去された、日光浴ぐらいしかできないような、そんなスペース。

 

 有名になり、いつもの公園だとトレーニングしづらくなった私は、ここで自主トレを行うようになっていたのだ。

 

 私は荷物を下ろし、キングヘイローを座らせて、声を出す。

 

「…じゃあ、今日から少しの間、そっちには負けることの恐ろしさっていうのを、教えるね」

「……!」

 

 そう聞くと、向こうは立って身構える。

 

「まあまあ、別にそっちに暴力振るうつもりはないよ、私がトレーニングしてる横で、簡単な勉強をやってもらうだけで良いから」

「……勉強…?」

「そう、勉強。最初にちょっと私の話を聞いてもらうことにはなるけど」

 

 そう言うと、キングヘイローは構えを解く。

 

「まあ、まず、私達は色々な目的をもって、レースの世界に居るわけだけど、このレースの世界はスポーツの世界、これはわかるね?」

「え、ええ…」

 

 まずは、当たり前の事を語り、こちらを警戒する相手に、聞く姿勢を取らせる。これをもう一度。

 

「それで、スポーツの世界は勝負の世界、これもわかるね?」

「ええ」

 

 よし、目の周りから力が抜けてきたな。

 

「でも、スポーツの世界だと、本当の負けってのを中々知れないんだよ。それはね、勝負の世界に身を置く人間として、一番だめなことなんだ。」

「本当の…負け…?」

「そう、それを今から知ってもらうね、ちょっとだけで良いから、学生証を見せてくれない?」

「え、ええ…」

 

 私達は、基本的に外で自主トレするときは、学生証を持ち歩く、ツルマルツヨシの件で、それは口を酸っぱくして言われるようになっていた。

 

 私はキングヘイローの学生証を見てある情報を確かめた後、それを返す。そして、後ろを向き持ってきた荷物の中から、園芸用の小さなスコップを出す。

 

 冷たい表情を作り、スコップを持ち、相手に向き直る。

 

「g67305-1、これを持って」

「……?」

 

 相手は、首を傾げる………まだ、わかっていないのか、自分の立場が、敗者という立場が。

 

「自分の学生証を見ればわかるよね、g67305-1?これを持って」

「貴女……ッ…!!」

 

 さっき返した学生証を見て、キッとした目を向けるキングヘイロー(それ)に詰め寄り、睨み付け“有無は言わせん”と、目で伝える。

 

 別に良いじゃないか、学籍番号で呼ぶぐらい。

 

「スコップを持ったね、そう、それで良い。じゃあ、私は鉄棒でトレーニングをやるから、g67305-1はそこで穴を掘ってて、掘った砂は山にして横に積み上げて」

「……ここで良いの?」

「掘って」

「……」

 

 私が無機質な声を作り、そう言うと、それはザクザクと砂場を掘り始めた。

 

 さて、ちょっと遅れちゃったな、いつもの鉄棒を使った筋トレを、今日は少しペースを早めてやらなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 規定の回数を終え、更に通常の筋トレを終えたあとに、それを見る、まだ、きちんと穴を掘っているようだ。

 

「g67305-1、終了、立って穴をよく見て、色んな角度からね」

「…!」

 

 私の声に気づいたそれは、穴を見る。穴の横には、砂が積み上げられている。私は、視線を穴から砂へと移す。

 

 ここで“よく掘った”など言ってはいけない。私が取るべき行動は…

 

「じゃあ、穴を埋めるね」

 

 それが掘った穴を、埋めることだ。

 

「えっ…!?」

 

 有無を言わさず、それからスコップをもぎ取り、埋める。掘るのは時間がかかる。埋めるのはすぐに終わるから問題はない。

 

 

 

「……どうして、こんなことを?」

 

 穴を埋め戻した後、それがそう聞いてきた。

 

「最初に言ったよね?本当の負けってのを知ってもらうって、今日の分はこれで終わり、これ勉強だから、続けてもらうからね」

「……分かったわ」

 

 

 2日目

 

「g67305-1、終了、立って穴を見て」

「……」

「埋めるよ」

 

 終始、耳を反らせたままだ。

 

 

 3日目

 

「g67305-1、終了、立って穴を見て」

「……」

「埋めるよ」

 

 私への視線を感じた。穴への視線が注がれているか、きちんと確かめなければならない。

 

 

 4日目

 

「g67305-1、終了、立って穴を見て」

「……」

「埋めるよ」

 

 視線を穴にやっているか確かめながらやったので、能率が落ちてしまった。対策がいる。

 

 

 5日目

 

「g67305-1、終了、立って穴を見て」

「……」

「埋めるよ」

 

 ここからは少し変える、園芸用は相手に使わせ、雪かき用の分解可能なでかいスコップを私は使う。

 

「……」

 

 埋めるときに、相手の表情が、悲しそうなものになった、効いてきたな。

 

 

 6日目

 

「g67305-1、終了、立って穴を見て」

「……」

「埋めるよ」

「……」

 

 目をそらし始めた。

 

「g67305-1、目をそらさないでね?」

 

 やれやれ。

 

 

  7日目

 

「聞いてよ皆!昨日、障害レースのウマ娘でタイムの計測会があったんだけど、なんと自己ベスト!」

「おお~」

「良いね」

 

 今日もいつものことをやらせ、今は昼休みである。私達はカフェテリアで仲良く食事だ。

 

 クラスメート達は仲良く話している、私もそれに加わりつつ、少し遠くでランチを食べる黄金世代に目をやり、聞き耳を立てる。

 

「キングちゃんから誘うなんて、珍しいデスね?」

「いつも貴女たちには誘われているのだから、このぐらいは当然よ」

 

 ふむふむ。

 

「ありがとう、キングちゃん。でも…食べる量…減った?」

「スペシャルウィークさん、そんな事を言うのはタブーよ、キングたるもの、体重の管理にも人一倍の気を使わなければならないのよ」

「流石だね!」

「食事量の調節は、簡単そうで難しいものですけど、キングちゃんなら、大丈夫そうですね」

「流石グラスさんね、一流のウマ娘は、食事制限の時のメニューも一流なのよ」

「オオ、流石デスねぇ!!」

 

 食べる量が減っているのは、ストレスのせいだろう。プレートの上の食べ物が、胃に優しいものになっているのを、私は見逃さない。

 

 それで、お喋りの機会を増やして、ストレスを軽減させようというわけか。

 

 よし、次の日も続けよう。

 

 

 8日目

 

「g67305-1、終了、立って穴を見て」

「……」

「埋めるよ」

 

 穴の周りが変に荒れてきた。おそらく動きの精密性が落ちてきたんだろう。

 

 私も私で、もう少し筋トレの強度を上げて行こう。

 

 

 9日目

 

「g67305-1、終了、立って穴を見て」

「……」

「埋めるよ」

 

 目が濁ってきている。最初は反っていた耳も、もう動いていない。

 

 

 10日目

 

「g67305-1、終了、立って穴を見て」

「……」

「埋めるよ」

 

 肌のかさつきを確認、もうそろそろか。

 

 

 14日目

 

「g67305-1、終了、立って穴を見て」

「……」

 

 立たない。

 

「g67305-1、立って」

「………ッ」

 

 それは、地面に両手をついた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 泥にまみれた手を見て、呼吸を荒くしている。

 

「……ッ」

 

 顔から涙がこぼれた、頃合いか、私はすかさず、顔の横に移動してしゃがむ。

 

「………頭を上げて走る。スパートをかけるとき、若干足をフレキシブルに使い、地面を掴むように走る」

「…?」

 

 それは、何だといった顔をしている。まぁ、どんな顔をしようとも、私は話し続けるが。

 

「ダービーの時に石が飛んだのはそれが原因かな」

「………!」

 

 気づき始めたようだ、続ける。

 

「そして、たまに左右に頭をやって相手の動きを確認する。コースの起伏具合で、足のねじ込む力を微妙に変える。息の入れ方はこんな感じ」

 

 私はレース用の呼吸を再現してみせる。畳み掛けよう。 

 

「ここをこうしてこうして…」

 

 立ち上がり、それの走りのスローモーションをやってやる。ライブの振り付けの如く、丁寧にやる。

 

「…まあ、あなたの中距離での走りはこんなところかな」

「…!」

「g67305-1、あなたの走り、貰ったよ」

 

 私は、それに向かい、そう宣言する。相手は驚きのあまり、立ち上がる。

 

「まあ、貰うだけじゃないかな、頭はもっと下げた方が私には合うね……まあ、要はこの走りを元手に改良していって、私の走りにするから、それで私はもっと高みへ行く………あなたはどうなるのかな?あんなふうに宣戦布告しておきながら、こんなふうに負けてるあなたは、どうなるのかな?」

「……」

「本当の負けってのはね、自分の積み重ねて来たものがだんだん…やがては全て全て奪われるものなんだよ。そんな出がらしみたいなのはね、皆等しく統計上のデータになって、色の抜けた毎日を繰り返す、機械の部品みたいな毎日を繰り返して消えていくだけ…」

「…ぶ…ひん…」

 

 “何のために頑張れば良いのか?”とか“努力した成果なんて得られない”この2つの感情は、人間に大きな痛打を与える。だから、穴掘りとこの発言で、それら2つを刻み込む。

 

 私の言葉を聞いたそれは、ペタンと座り込み、わなわなと震える。

 

「怖いのならさ、私を超えたいのならさ、誰かギャフンと言わせたい人がいるのならさ、変わらないと、駄目だよ?」

「……」

「ねえ、あなたは、g67305-1でいたいの?それとも、強いウマ娘、キングヘイローでいたいの?」

「……そ、「言わなくても分かるよ」」

 

 それ、いや、キングヘイローの言葉を遮る。

 

「でもね」

 

 キングヘイローの目を見て、睨みつけ、首筋に指を当てる。

 

「私は思うんだ、今のあなたよりも、イノシシ達のほうが、よっぽど手強いってね。」

 

 これで、完成だ。

 

 キングヘイローの目は、決壊したダムのようになっている。

 

「……」

 

 だから、私は、震えるキングヘイローの両肩に手を置いた。

 

「“キングさん”」

 

 相手の目を見る。

 

「負けたくないよね?勝ちたいよね?」

 

 彼女は飢えている、“承認”そして“勝利”に。そして、今回私は“負けることの恐ろしさを教える”などと言ったが、これは飢えをより引き出させてやるだけのきっかけに過ぎない。

 

 ただ、苦労させられた。クロウだけに。今回使った手法は、食らった人間が自らの命を断つことを選んだことがあるほど、かなり精神に負荷を与える物なので、かなり優しいものへと改良する必要があったのだ。

 

 その改良点とは、元ネタでは穴掘りと穴埋め、そのどちらもやらせていたのを、穴掘りオンリーへと変えたり、普通の学生生活には、なんら干渉しないといったものである。

 

 アメなんて無い元ネタに、アメを加えてしまったので、効果は7、8割減といったところだろう。しかし、こんなのでも、グラグラのジェンガのような、成長期の人間…それよりもさらに脆い、ウマ娘の心のバランスを崩すのには足りてしまうのだ。

 

「……それは…もちろん…」

 

 不安定な感情で目の前が塗りつぶされる中、今までずっと番号で呼んできた相手から、元通り“キングさん”と呼ばれたこと、そして穴掘りの繰り返しで反抗する精神力が削られたこともあり、キングヘイローは半ば無意識に、私の話を聞く体制に入る。

 

「なら、変えなきゃ。……今のキングさんは、孤軍奮闘の状態、そんな状態だと、私みたいなウマ娘が、今後、また出てくるかもしれないよ?キングさんは注目株の一人、研究しようとする人なんて、ごまんといるんだから…」

「………ッ」

 

 キングヘイローは、必死に首を横に振る。思い出したか、ついさっき、私に技を盗まれたことを。

 

「私は、負けるのが怖いから、“銀翼”の仲間たちと共に走ってる。同じ目標を持って集まることで、互いの弱点を見つけ合うことで、支えてもらう人を見つけることで、備えるの。それで、その中で、色んなことを発見して、自分の手札を増やしていくの…そうすれば、どうなると思う?」

「…分からない…分からないわ…」

「奪う側が取り切れないぐらい、自分の技を持てるようになるんだよ、それで、奪われても、次の一手を用意できる…キングさん、超えたい人や、見返したい人が、いるんじゃないの?」

「……いるわ…」

「…じゃあ、これからの夏で、私と一緒に考えない?」

「……あなたと?…でも、私とあなたは、相容れない存在よ」

 

 ほう、まだ突っ込めるか。だが、強い否定はしてこない。

 

「…そうだね、でも、今回はぶつかっちゃったけど、考え方が違うからって、必ずしも敵対する必要なんて無いと思う。それに、私達とキングさんには、共通点があると思うんだ」

「共通点…?」

「私達も、キングさんも、基本的には他と比べられることが多い中で、頑張ってるってことだよ…どう思う?」

「……否定はしないわ」

「なら、良かった。ねえ、キングさん、それなら私とあなたは、互いを学び合うこともできるはずだよ、どう、ここらで止めておかない?」

 

 私は、キングヘイローの目を見て、そう言う。

 

 普通のキングヘイローなら、この申し出を断るはずだ。だが、臆病な自尊心を掻き立てられ、精神的に摩耗し、承認と勝利に飢える…

 

『肉体的であれ、精神的であれ、飢えた人間は、変わってしまうんです。』

 

 そんな状態に陥れば…

 

「……そうさせてもらうわ」

 

 どうして平常心でいられるだろうか、いや、いられるわけがないのだ、いわんやウマ娘をや。

 

 

 

「…ふう」

 

 私は部屋へと戻り、コーヒーを沸かして一息ついた。

 

 キングヘイローの母親は、有名なウマ娘である。田舎娘の私が、名前ぐらいは聞いたことがあるぐらいに、キングヘイローが走るのは、一流へと至りレースの世界に名を轟かせるというのもあるが、そういった母親を見返すという理由もあるだろう、そこにエルコンドルパサーやグラスワンダーの存在も重なり、劣等感は黄金世代の中でもダントツだろう。

 

 一方で銀翼のウマ娘は、今でこそ団結により、力を高めているものの、元々は黄金世代と比べられ、劣ると目されていたような存在である。つまり、心の奥底には劣等感がある。

 

 力のある他者と比較される構図、これは歴史の中では、“持つ国”と“持たざる国”として存在していた。今考えてみると、その持たざる国は、あの教授の言うところの“飢え”に陥ってしまっていたのだろう。

 

 ともかく、キングヘイローは、今後も注視していく、きっかけは与えた。後は私の望む形で変わってくれるのを待つばかりだ。

 

 次に私は、今後のレースの予定表を見る。秋のシーズンには、クラシック三冠最後のレース“菊花賞”がある。

 

 皐月、ダービーと来れば、菊花賞………というのが常識的な見方だろう。あの手袋屋の店主を思い出す。

 

「……!」

 

 その時、私は気づいた。このシチュエーションは、“銀翼のウマ娘の人数が膨れ上がる”という私の悩みを解決する、大きなチャンスだ。

 

 まあ一部のファンを裏切ることになるかもしれないが、それはそれで好都合になる。

 

「………じゃあ、今の私に足りないのは……説得力」

 

 やれやれ、今日は、考えを巡らせまくる土曜日となりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このような形で、“彼女”と、キングヘイローの戦いは、誰にもそれを悟られることなく、幕を閉じた。

 

 だが、“彼女”は決して油断する事はない。

 

 すぐに増え、濁流の如く畑を荒らす猪のように、あるいは観察を重ね、人間の想像を超えた策を弄することがある烏のように、時に迅速に、時に熟慮し、次の一手を打つのである。  

 

 そして、季節は少しずつ、ウマ娘達が合宿を行う夏へと近づきつつある。

 

 

 

 




 
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本作には、様々な表現、描写が出てきますが、特定の政治体制や人物を礼賛、助長する意図はありません。

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