転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第18話 -資源-

  

 

 キングヘイローの一件を片付けた後、私達は“協力すること”や“無理矢理な勧誘は行わないこと”などの銀翼のウマ娘としての心構えを作り、それを生徒手帳に挟んだ。

 

 人数が無闇矢鱈に増えないための対策だが、やはり場当たり的な対応である感が否めない。

 

 だが、学園全体で夏合宿への準備を行うこの時期……最優先なのは、集団の統制でも、人材捜索でもなく、夏以降のプランを決め、調整することだった。

 

「だーっ!!また負けた!!」

「…模擬なんだから、本番は分からないよ、これから夏合宿もあるし」

「そうだな……よーし…待ってろG1!!」

 

 そしてそれは、私も変わらない。

 

 調整の一貫として、今日のトレーニングは、サクラナミキオーと合同で行った。彼女は秋からダートだけでなく芝も走ってみるというプランらしい。私も夏合宿前に、芝のレースを走るつもりだったので、了承した。

 

 一段落ついた私達はコースの橋に座り、水分補給をする。白子達も休憩を挟むようで、売店の方向に向かっていった。

 

「……ん?」

 

 視線を感じる、私は気配のする方向に、顔を向ける。

 

「ナミキオーちゃん、誰かが私達を見てる」

「……アタシら、スパイされてんのか?」

「そうかも、ちょっと様子見てくるよ、これ、持ってて」

「お、おう…」

 

 私はサクラナミキオーにボトルを預けると、こちらを見ているウマ娘とは反対方向に向かう、後ろから声をかけるためだ。

 

 最短ルートを取りたかったので、塀を渡って木立を抜けて、後ろまで回り込む。

 

 靴を脱いで靴下だけになり、足音を消す。

 

 相手に忍び寄り、喉元に…危ない危ない、耳元から…

 

「何やってるの?」

「わわっ、わぁーっ!?」

 

 相手の手から、何か四角いものが落ちる。

 

「ごめんね」

 

 そう言って拾い上げたそれは、スケッチブックで、そこには、トレーニングを行う私とサクラナミキオーの姿が描いてあった。

 

「…か、勝手に描いて、も、申し訳御座いません!」

 

 相手は私に向け、頭を下げるが…

 

「上手い…」

 

 私は、素直に絵に対する評価を述べた。

 

「本当…ですか?」

「うん、私も、あんまりデザイン詳しく無いんだけど…私達の走法の特徴をよく捉えてるね、これ、あそこにいる私の友達にも、見てもらって良いかな?きっと、喜んでくれると思うから」

「は、はい!!」

 

 私はそのウマ娘を連れ、サクラナミキオーの所に戻った。

 

 

 

「アタシは絵はあんま良く分かんねぇけど……上手いって事だけは分かるな!ありがとうよ!こんな上手く描いてくれて」

 

 そう言って、サクラナミキオーは、スケッチブックのウマ娘の頭をグシャグシャと撫でる。予想どおり、上々の反応だ。

 

 そう言えば、学年と名前を聞いておこう、これで先輩だとヤバい。

 

「あなた、名前と学年は?」

「アマリイーグリーナと申します、通称はリナ、学年は先輩より一つ下のサポートウマ娘です」

 

 後輩…珍しいな……でも、“アマリ”というウマ娘にたまにある苗字みたいなのは、聞いたことがない。うちのクラスにもいる“サクラ”、“メイショウ”、“ホッコー”あたりは、ちょくちょくいるけれど。 

 

 まあ良いや、本題に入ろう。

 

「リナちゃんだね、早速聞きたいんだけど、どうして、私達の絵を?」

「…その…私、先輩達、銀翼の皆様方を、尊敬していまして。ですので、つい…鉛筆で、そのお姿を…」

 

 アマリイーグリーナは、そう答える。嘘ではない目だ。

 

「アハハ、それは嬉しいな。ね、ナミキオーちゃん」

「おう!そうだ…リナ!別に遠くからコソコソやんなくても、良いじゃねぇか!アタシらのトレーニングを手伝ってくれるなら、いくらでも近くで描いて良いぞ!」

 

 サクラナミキオーはそう言う、彼女はアマリイーグリーナを銀翼のウマ娘としてスカウトする気だろう。

 

 無理強いしないか注視するため、私がサクラナミキオーに目をやった瞬間、スマホの着信音が響いた。

 

「はい…リナです」

 

 どうやら、鳴ったのはアマリイーグリーナのスマホのようだ。彼女はスピーカー機能を使わず、頭頂部の耳に、スマホをあてがっている。

 

「あ、今トレーニングコースの所に、はい。え…今からですか!?…はい……承知いたしました。5分ほどいただけましたらそちらまで……はい、では」

 

 アマリイーグリーナの表情は、細かく変化している。

 

「申し訳ございません、私、急用が出来てしまいまして、今日のところはここでお暇させていただきます。学園で私を見かけましたら声をかけていただけますと、嬉しいです。」

 

 アマリイーグリーナは耳をペタリとさせ、お辞儀をして走り去っていった。

 

「…行っちゃったね」

「そうだな…それに、ヤケに急いでた」

 

 私は気になっていた。電話をしていた時のアマリイーグリーナの表情が、その表情、話し方からして、電話の相手は家族、友人や教師の類では無さそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀翼の先輩方のことを紹介して頂けるとは…恐悦至極に存じます」

「まあ、あそこでアタシらが会ったのも、何かの縁だしな!」

「うんうん」

 

 後日、食堂でアマリイーグリーナと会った私は、先日の急用について詫びられた。

 

 その態度や話し方から、彼女は教養を身につけたウマ娘である可能性が高いと予測した私は、“これも何かの縁”として彼女に自分達の普段の姿を見てみないかと提案、快諾を得ることができた。

 

 仲間を増やす好機とはいえ、そういうときこそ重要なのは、慎重さ。いきなり勧誘ではなく、彼女の慕情を利用し、互いを知る機会を設けたのだ。

 

「それで、ここが私達の教室、私達のクラスは全部で29人で、障害競走がメインの娘が多いんだ。それで、クラスの目標は“舞うように走る”。私達は、普段はここでトレーニングや、自分の走ったレースについて話したりしてるね」

「障害競走の先輩方も、先輩の言う銀翼の一員なのですか?」

「もちろん!アタシらは色んな目標を持ったウマ娘の集まりだからな!」

 

 教室にいるクラスメートが、こちらに気づき、手を振る。

 

 横を見ると、アマリイーグリーナは、クラスメート達に向けて、お辞儀をしていた。

 

 

 

「ここが、空き教室を使った…多目的自習室。まあ、話し合いや相談のための部屋にもなってるね、サポートウマ娘の皆が、ここに資料を置いて、アイデアを相談したりしてくれてる」

「……!!」

 

 アマリイーグリーナは、目を輝かせる。この教室は、国語の主任であるクラスの担任が、資料整理を行った際に空いた教室だった。

 

 担任は、スペースの有効活用という理由をつけ、私達の自習室としてこの教室を確保、疑問を呈する声には、『理科室を占領して実験室にしているウマ娘がいるのだからこれも問題ないはず』と言い、教務主任からの許可を得て来たのである。

 

 その時の担任が『私も、皆さんの仲間の一人ですから』と良い笑顔で言ったのを、私は忘れることは無いだろう。彼女がここまで肩入れしてくれるとは思わなかったが、私達は政治結社でも宗教団体でもないので、何の問題も無い。教育の中立性は、守られている。

 

「入ってみる?」

「私などが…よろしいのでしょうか?」

「もちろん、今回は知ってもらうためだからね。皆、お疲れ様。ちょっと、見学したい娘がいるから、連れてきたよ」

「ホント!?どうぞどうぞ、見てって見てって!」

 

 私達が懇意にしているサポートウマ娘は、喜んでアマリイーグリーナを案内していた。

 

 

 

「今日は、時間を割いてくださり、ありがとうございました」

「お安い御用だ!」

「喜んでくれて何よりだよ、お客さんは、ファンみたいなもの。つまり大歓迎だからさ、ヒマな時に来たら良いよね、クロちゃん?」

「うん、リナちゃん、好きなときに遊びに来てね」

「……!ありがとうございます!」

 

 アマリイーグリーナは、ホクホク顔で帰っていった。これで良い、観察しながら、少しずつ相手との距離を縮めていけば、取り込むことも可能となってくるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからと言うもの、アマリイーグリーナは、自習室やトレーニングコースに来るようになった。しかし、初日にあった“急用”とやらですぐに帰ってしまう日もあり、私はそれが気になって仕方無かった。

 

 そして夏合宿も間近に迫ったある日、私はサポートウマ娘の友人から、呼び出されたのである。

 

「どうしたの?大事な話って……あれ、リナちゃん?」

「あ…先輩、お疲れ様です。あの、大事な話というのは、実は私が原因なのです」

「私だけじゃ、どうにもならないって思ったからさ、取り敢えず今日休養日だって聞いてたクロちゃんに連絡したんだ、ここに座って」

 

 私は、促されるままに、椅子に座る。サポートウマ娘はパソコンを取り出し、記録の準備をしている。

 

「それで…大事な話っていうのは、どんな内容?」

 

 私は相手を緊張させないよう問いかける。

 

「は、はい…あの…先輩は、目指している物が全く異なる相手と、ともに歩むということについて、どうお考えでしょうか?」

「…物が…全く異なる相手…」

 

 いきなり難しい問題を出してきたな、抽象的で意図はわからないけれど、取り敢えず。正直な意見を言おうか。

 

「……難しいと思うね。その状況って、お互いが常に相手への不安を抱いて、進まないといけないから。ヘタしたら、不要な争いを生むことになる。それに…それがもし、レースの世界での話だったら、私は“ウマ娘の自主性を尊重する”トレセン学園の生徒として、断固反対。」

 

 誤魔化しなど、いらない。

 

 

 

 あの質問に答えた後、私は何個か抽象的な質問を続けてされ、それに率直な意見をもって答えていった。

 

「少数派ってのは、別に悪いことじゃない、むしろ少数派がいない集団は、腐る」

「…はっきりと…言われるのですね…」

「大事な後輩からの相談だからね…私は、腹を割って、話し合いたいって思ってる。少しずつで良いから、話してってくれないかな?」

 

 向こうの目を、射抜くように見る。

 

「……分かりました。実は私、もうすでにサポートについている方が居るんです。それで、その方のツテで、次にサポートに付く方も、決まっているようなもので…」

 

 この学園のサポートウマ娘は2種類、トレーナーに師事する者と、所属せずに教官などから指導を受ける者、その割合は7:3といったところだ。彼女は前者か。

 

「うん…うん、続けて」

「…それで、その方々は、“伝統”や“品格”を、重視されています。でも、私は“改革”や“奇手”……そういった物に、魅力を感じます。だから、私、ずっとずっとずっと、悩んでいました。………このままでいて、良いのかなって。」

「……でも、新たな一歩が、なかなか踏み出せないって事だね。そういう場合は、何かしらの原因があるのが必定……教えてくれないかな?」

 

 私は、アマリイーグリーナの手を握る。

 

「……私がサポートについている方は、レースの世界だけでなく、プライベートでも、多くの方に支えられています。その一人に、私の…人間の姉が居るんです」

「成る程、じゃあ、そのお姉さんに相談とかは…?」

「もちろん、相談しました。でも…反対されてしまいました。当然です。お姉様は、あの方々の掲げておられる道を、本気で応援していらっしゃいますから」

「そっか…じゃあ、サポートについている人には?」

「……それも、もちろん…でも“もう少し、私達のそばにいて欲しい”と言われてしまいまして……」

「成る程……」

 

 “もう少し”これは、なだめる言葉かもしれないが、実際には悪魔の言葉である。時間とは、人間が持つ中で、命の次に大事な資源だ。

 

 ただ、それを十分使う前に前の私は死んではしまったのだけれども。

 

「それでしばらくは、我慢していたのですけれど…先輩達が現れて、その思いが、どんどん強くなっていったんです、これって、駄目な感情何でしょうか?」

 

 アマリイーグリーナは、そう言って、俯いた。どうやら相当面倒な状況だ。ただ、二足のわらじという手段を提示しないのは、評価できる。アレをできるのは世界を探しても、ほんの一握りだ。シンボリルドルフでさえ、出来そうに無いだろう。

 

「ううん、駄目なんかじゃない、むしろ、自然だと思う。そう思うのは、リナちゃんがしっかりと周囲に呑まれずに自己を確立しようとしてる証拠だからね」

 

 私は肯定の言葉を紡ぐ。こうすれば、少なからず向こうの気持ちも、こちらに向くはずなので、そこを突く。

 

「……」

「リナちゃん、顔を上げて。それで聞かせてくれないかな?今のリナちゃんが、どうしたいのか」

「……私は、私は、先輩方をお支えしたいと思っています」

 

 よし、言質を取った。次は、彼女をがんじがらめにしている元凶が、どこの誰であるのか、突き止めに行く。

 

 彼女の芯の強さと行動力は、是非とも私の破壊に役立てたい、つまり、その誰かを私が説得し、彼女を奪ってしまえば良い。

 

「…その気持ち、嬉しいよ。だから、教えてくれないかな?リナちゃんがサポートしてきた人を」

「………分かりました。私がサポートしている方は…────の──────」

 

 このときに出てきた名は、私を少なからず驚かせるものだった。

 

 私は本来、このトレセン学園の生徒として、その名に恐れおののくべきなのかもしれない。

 

 だけど、それを聞いた時に浮かんできたのは、「いずれは壊せるのか?」という全く正反対の感情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 アマリイーグリーナを帰した私は、帰途につく。正直、今日は濃すぎた。ハチャメチャが押し寄せて来たかのようだった。

 

 …今日の事を思い出しつつ、そんなことを考えていると、いつの間にか、三女神像の所までやって来ていたようだ。

 

 ”バイなんとか”、“ゴルなんとか”、“ダなんとか”……この三人について、アンブローズ・ビアスは、“悪魔の辞典”にて、こう記してある。

 

『ウマ娘達を見守り、導くと伝承されているが、もしそうだとすれば実際にやっている事は羊を追っている牧羊犬とそう変わらない三人組の何某(なにがし)

 

 ──素晴らしい、的を得ている。

 

 そして、そんなことを思っている間にも、でっかい桜の花の耳飾りを付けた犬の耳みたいな髪型をしたウマ娘が、像にペコリと挨拶をする。牧羊犬とそう変わらないこれに。

 

 そんなウマ娘に背を向け、私は寮への道をゆく。

 

 その昔『私達は神のオルガンに合わせて踊っているに過ぎない』とある男は言った。運命は決まっているという意味だそうだ。ウマ娘も、また然りなのかもしれない。

 

 もしかすると、今日のアマリイーグリーナも、三女神によって、運命が決められているのかもしれない。

 

 だけど、私は破壊したい、彼女を利用したい。

 

 彼女は資源なのだ。より綺麗な羽であり、ロウでもある。

 

 だから私は、彼女を三女神のもとから、そして、“盾を望みし一族”のもとから連れ出すことにする。

 

 私は自分でオルガンを弾く。どんな曲が、ふさわしいだろうか?そうだなぁ…競走ウマ娘の世界最高峰のレースに因み…

 

 “パリは燃えているか”でも聞かせてあげよう。

 

 

 

 

 

 




 
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アマリイーグリーナのアマリは、漢字で書くと、“天利”と綴ります。

また、今回出てきた著作である「悪魔の辞典」は、実際に存在していますが、三女神の項目については、完全に筆者の創作です。

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