「着きましたわ」
「へぇー、これがこの間買った山…中々大きいね」
「ええ、良い買い物をしましたわ、街からも、それほど遠くありませんし」
ツーシーターの自動車から下りた“彼女”とアサヒクリークは、目の前にある山を見上げる。木の葉はそよ風で揺れ、音を奏でている。
「では、行きましょうか」
「了解」
二人はリュックサックを背負い、林道へと入っていった。
「やっぱ、元々は森林浴のために使われてただけあって、林道はそこそこ歩きやすいね」
「ええ、これならば、人を使えば一週間ほどで、トレーニングが可能になるレベルまで整備可能ですわね、麓の土地も買ってありますから、建物も整備できそうですわ」
「鶏小屋も作る?」
「それに関してはノーです」
二人は、会話をしつつ林道を歩きながら終着点まで行き、そこで簡単な食事を取る。
「さて、食べ終えれば帰るわけですけれど、道中、どうしても気になった場所があったので、寄らせてくださいな」
「了解、道から反れるんだよね?」
「僅かながら」
「転ばないようにしないとね」
「ええ」
そう言って二人は立ち上がり、来た道を戻っていった。
「こちらですわ、あの県道沿いのところです」
「…成る程、ゴミ…かな?」
「ええ、恐らく……全く、いくら監視カメラ等が無いとはいえ、勝手にゴミをポイポイ捨てても良いと思ったら、大間違いですわ」
アサヒクリークは、そう言いながら“彼女”と共に、ゴミを確認するために歩いていった。
「うわっ…段ボール…」
「……自宅で処分して欲しいものですわね、クロさん、ナイフを持っていましたわよね?確認のため、この箱を開封して下さいませんか?」
「了解」
アサヒクリークの指示を受け、“彼女”は、ダンボール箱へとナイフを突き立て、開ける。
「……これ、ウマ娘レースやライブの映像のブルーレイではありませんか…!!クロさん!これ、私やクロさんの時代のものですわ!」
「本当なの?」
意外な発見に驚いた二人は、他の箱の中身も更に見ていく。出てきたのはどれも、ウマ娘レースの映像で、様々な世代のものだった。そして最後に“彼女”は、封のされた一つの袋を取り出した。
「これ、何だろ?ジャラジャラしてる」
「袋ですわね、中身を出して見てみましょう」
アサヒクリークがそう言うと、“彼女”は袋をナイフで切り裂いた。
「ひゃあっ!?」
「うわ…これまたたくさん…」
出てきたのは、大量のキーホルダーだった。
「あのダンボール、近いうちに取り行かないとね……だけど、面白いものが捨ててあったね」
帰りの車内、“彼女”は運転するアサヒクリークに、そう話しかける。
「ええ、特に、そのキーホルダー達ですわね」
アサヒクリークも、微笑みながら、そう答える。
「………」
彼女が手に持つキーホルダーには、裏に“silver wing”と刻印されていた、そして、表は…
「それ、誰仕様のものか分かりますの?」
「…分かんないね、表が判別不可能な位に“叩き潰されてる”」
「素晴らしいデザインが台無しですわね……そう言えば、そのキーホルダー、デザインはサポートウマ娘がやったと聞き及んで居ますが……確か…」
「アマリイーグリーナ、リナだね」
「そうでしたわね、それで…そのウマ娘はどうやって貴女のもとに?」
アサヒクリークは、彼女を見て、そう質問する。
「話すと長くなるよ〜」
「構いませんわ」
アサヒクリークは、興味津々な様子で微笑むと、カーステレオを切った。
「…て感じで、明日の昼休みに、高等部の教室に行くことになった」
「……」
「止めたりしないんだ、“盾を望みし一族”…“メジロ家”の人間と会うっていうのに」
「…止めたところで、君には効果が無いだろうからな。それに、今回、君は適切な対応を取っていることが、よく分かったからな」
「ありがとう、じゃあ、この件に関しては…」
「ああ、君に任せる、だが、報連相は欠かさず頼む」
「了解」
私は白子に、アマリイーグリーナの件を話した、念には念を入れ、止められないために、私は工夫をした。実るかどうかは、誰も知らない。
そして翌日、私はメジロアルダンのいる高等部の教室の前にいた。
相手の大きさは分かっている。だから私は、今回の構図を“銀翼のウマ娘”と“メジロ家”という絶望的なものではなく、個人単位の話に落とし込むことにした。
簡単に言うと、悩んでいる友人──アマリイーグリーナのために、私が彼女の主君であるメジロアルダンに、彼女に望む道を歩ませるよう説得に向かう…というものである。
こうすれば、話を大きいものにすることは難しくなる、もし、向こうがメジロ家の力を持ち出そうとする兆候を見せたりする…とどのつまり、ヤバいと思った時には引き下がる。流石に無茶はしない。
「…すぅー…はぁー…」
深呼吸をした後、私は、ドアに手をかけた。
「失礼致します、私は、────のマヴェリッククロウと言うものです、メジロアルダン先輩のクラスは、ここでしょうか?」
私がそう言うと、メジロアルダンとは違う、髪のボリュームがあるウマ娘が、席を立ち、こちらに向かってきた。確か、スーパークリークとか言っただろうか。
「アルダンちゃんのお客さんですか?なら、こっちに来て待ってて下さいね~」
「ありがとうございます」
スーパークリークに案内されるがままに、私は彼女が差し出してくれた椅子に座る。
少し待っていると、メジロアルダンは教室に戻ってきた、どうやら私の姿に気づいたようで、すぐにこちらへとやって来る。
「待たせてしまったようですね、申し訳ありません」
「いえ…こちらも、先輩の時間を使わせてしまっている身ですから」
そんな言葉を交わし、私達は席につく。
「先日、リナさんから連絡があったと思うのですが、私がマヴェリッククロウです。今日はリナさん…いえ、リナちゃんの件でお話があり、今回、あの娘を通じて先輩とのコンタクトを取らせていただきました、今日はよろしくお願いします」
「クロウさんですね、私はメジロアルダン、リナにサポートをして頂いているウマ娘です。こちらこそ、よろしくお願いします。」
まずは挨拶、常識だ。
「それで、早速本題に入らせてもらいたいのですが、それで良いですか?」
「はい、どうぞ」
「はい、私は前日、リナちゃんから相談を受けました。“自分のサポートする相手と、自分の求めるものが合っていない、自分はどうすれば良いのか”と。そのことについては、先輩も知っていると思います」
「ええ、それは勿論です。ですが、リナには、マックイーンという、次のサポート相手が居ます。新たな環境で心機一転すれば、リナも気力を取り戻すことが出来るかと、私は考えています」
……メジロ家のウマ娘が、こんな他人を顧みないことを本心で言う筈がない、自分が無能であると勘違いさせ、こちらのペースを乱させる気なのかもしれない。
「……短刀直入に言わせてもらいます。それは結局、問題を先延ばしにしているだけでは無いでしょうか?」
「…先延ばし?」
だが、私は自分のペースで話させてもらう。なので、罠を置く。
「…はい、リナちゃんから色々聞いてわかりましたが、今回の問題の根本にあるのは、双方の理想の乖離です。私に個人の信条を知る力などありませんが、もし、マックイーンさんが、先輩と同じ理想を持っていた場合、新しいサポート相手につくことによる環境の変化でモチベーションが上がったとしても、結局のところ、理想は違えたまま、ずるずると……いつかは、限界が来てしまうって考えています」
「限界ですか、ですが、理想の違う相手の下で働くことは、社会においては日常茶飯事、私もリナがストレスを抱えないように、羽根を伸ばすための自由時間もあの娘に提供しています。貴女方の所に度々あの娘が遊びに来ているのが、その何よりの証拠です」
かかった。
「もちろん、そのことは分かっています。先輩は思慮深い方だと聞いていますから、問題無いと思っていますね」
「では、どうして“限界”と言ったのですか?」
私がそう言うと、向こうは怪訝な顔をして、こちらに目を向ける。
「私の言う限界というのは、精神的なものでは無いんです。機を逃す事による…才能発揮のタイムリミットと解釈して頂ければ」
「………!」
相手が驚いている、突くのであれば、今しかない。
私は持ってきていた手提げバッグから、予めアマリイーグリーナから借りておいた絵を取り出す。
「これは、リナちゃんが描いてくれた絵です。左が私の友人が走っている絵、右が、それをベースにしたその走法の改善案です。あの娘は、サポートウマ娘として必要なスキルを揃えているだけでなく、こんな個性も、持ち合わせていて、これからこれを活かしていこうと努力して居るんです」
これは向こうも知っていることだろう、それにこの能力には弱点があるのだ。
「ですが、それには…」
「はい、時間がかかりすぎると、本人も言っていました。それと、“そのような非効率的な事は控えるように”と言われた……とも」
私がそう言うと、メジロアルダンは少し申し訳無さそうな顔になった。やはり、縛ってきたという自覚が少しはあるのだろう。
「先輩、いくら才能があるウマ娘と言えども、それを引き出すための何かが無ければ、それが日の目を見る事も無いと、私は思っています。先輩は、どう思われますか?」
「…もちろん、そうです」
メジロアルダンが、そう答えるのと同時に、私は手提げバッグの中から、アマリイーグリーナのスケッチブックを出す。
私はページをパラパラと繰って行く、彼女は、先程の双方の改善案に行き着くために何度でも描き、何度もボツにするのを繰り返しきたのだ。
「…リナちゃんの新しいやり方は、まだ、改善の余地があると思います。ですが、ここで改善をやめてしまうと、完成することは無いでしょう。でも、私は、あの娘の友人として、その新しいやり方を取り入れて、レースで勝ち、あの娘の掲げる“革新”と“奇手”を証明し…友情に報いたいと思っています」
「……」
「……先輩、リナちゃんの求めるものを、応援してあげて頂けませんか?」
私は、頭を下げ、メジロアルダンに頼み込んだ。
「リナの…求めるもの」
そうだ…そして、ここで…
「…“困難なことは、それがまだ易しいうちに始めなさい。偉大なことは、それがまだ小さなうちにやりなさい。世界中の困難な問題も、かつては易しかったに違いない。偉大なことも、かつては取るに足らない小さなことだったに違いない。千里の旅も、第一歩から始まるのだ”」
「それは…」
メジロアルダンが、ハッとしたような顔をする。
とどめに、有名な人物から少し引用して教養で正面からぶん殴ってやったのだ。生憎世界史は専門だ…いや、だったが正しいかな。
私は、髪をかきあげ、耳を触る。
「老子の言葉を借りたものです。先輩、私は、リナちゃんに…行動を起こす機会を、逃してほしく無いんです……それで、リナちゃんは今、その行動のための一歩を、踏み出そうとしています…そうだよね、リナちゃん?」
私は、首を後ろに回し、アマリイーグリーナを呼ぶ、先に私が教室に入っておいて、彼女は先程の耳を触る動作を確認したら教室に入る作戦だ。
「…リナ…」
「…アルダンお嬢様、改めて、お願いさせていただきます。“革新”と“奇手”……この2つのために、そして、その2つを実現する存在であるクロ先輩やその他の先輩方のために…お嬢様の元を離れることを、お許しください」
アマリイーグリーナは、頭を下げる。メジロアルダンは目を閉じ、しばらく考えていた。だが、何かを決心したようで、彼女は目を開いた。
「リナ、貴女の気持ちは、理解できました」
彼女はアマリイーグリーナの方を向き、そう言った後…
「しかし、私は、リナと最も付き合いの長い人物として……マヴェリッククロウさん、貴女方がリナを託すのに足る人物なのか、見極める義務があると思っています。ですから、一つ、私からお願いがあります………私と、レースをして頂きたいのです。勝ち負けは関係ありません。走りを通じ、純粋に、貴女がどのような存在なのかを見てみたいのです。貴女の言う…“銀の翼”の姿を」
私の方を向き、そう言った。
“彼女”との対談から数時間後、メジロアルダンは、屋敷へと向かう車の中にいた。
「──というわけです。サキ、貴女はどう思いますか?」
メジロアルダンは、車を運転している、使用人であり、アマリイーグリーナの姉でもある人間──天利サキに、今日の経緯を話し、そう問いかける。
「リナは私の妹……ですから、お嬢様の元で、これからも仕えて欲しいという気持ちはあります。ですが、お嬢様がそうされるのでしたら、サキは異存ありません。ただ、お嬢様としては、リナをメジロ家のサポートウマ娘として、置いておきたかったのですよね?」
「ええ、リナはメジロ家に仕えるサポートウマ娘の中でもトップレベルに優秀なウマ娘…それに、人間関係を取り持ったり、様々な種類の要望から妥協出来る案を導き出す力も持っています。ですが、マヴェリッククロウさんは、私達が軽んじていたリナの絵画の才能に着目しました。それを向こうに伸ばして頂くのも良いかなと思ったのです。」
「伸ばして頂く…?」
「ええ、“可愛い子には旅をさせよ”と言いますから」
メジロアルダンがそう言うと、天利は笑った。
「成る程、確かに妹ならば、いずれは、メジロ家の下に戻って来るはずです。その時のために……ということですね?」
「ええ、そういうことです、これならば、リナの望みは叶えられ、そして最終的に、私とあちらの双方が、利益を得ることができますから」
メジロアルダンは、“彼女”の言葉により、アマリイーグリーナを送り出し、才能を発揮させることは、アマリイーグリーナの心を満たすだけでなく、将来のメジロ家のウマ娘のためになり“彼女”達もアマリイーグリーナの加入で、良いものが得られると考えついたのである。
「お嬢様の仰っていることは、よく分かりました。ですが、それでは何故レースを?サキには、そこがよく分かりません」
「…マヴェリッククロウさん…彼女からは、畏怖が感じられませんでした…それは、私に対し、“メジロ家”のウマ娘としてではなく“一人の”ウマ娘として、話をしてくださったということ。いつも、後輩の皆さんと話すときは、私は大抵“メジロ家”として見られていますから、マヴェリッククロウさんの行動が、私は純粋に、嬉しかったのです。そして、それと同時に…一人のウマ娘として、彼女と走ってみたくなってしまっただけです」
「そういうことだったのですね、ならばサキは、お嬢様が帰って来るのに備えて、よもぎ餅を用意しておきますね」
天利は笑顔を見せ、メジロアルダンにそう言った。
「ふふっ…こんなに気持ちが高ぶるのは、いつぶりでしょうか、燃えてくるものです」
メジロアルダンは、久しぶりの強敵との対戦に、静かに、されど熱く、心を躍らせていた。
「──っていう感じで、メジロアルダンと模擬レースをすることになった。3日後に一周1000mのコースを使った2400mで、」
「ふむ、それはアマリイーグリーナ君を賭けてのレースなのか?」
私は白子に先日の件を報告した。向こうは驚くこともなく、ただ、うんうんと頷きながら私の話を聞いていた。
「半分そうで、半分違うかな。アマリイーグリーナに相応しい人間か確かめるためと、銀の翼の姿を見るためだって」
「ふむ……」
白子はそう言うと椅子に座り、適度に冷めたコーヒーを口にする。
「ねえ、メジロアルダンって、すごいの?」
「それは凄いだろう、名門メジロ家のウマ娘であり“重戦車”の異名を持っているのだからな」
重戦車か、前世、写真で少し見たことがある。それと、ミリオタの同期は、ティーガーやマウスとか言うやつの模型を作っていたような気がする。前者はガチガチの猛獣だが、後者はなんとかわいい名前だろうか。
「どう?私、勝てる?」
「可能性は低いだろう、それも著しく」
白子は、顎に手を当てて考えつつ、そう言う。ベテランが相手なのだ、その答えに至るのは至極真っ当だ
「なるほ─」
「だが」
頷こうとした私を、白子は遮る。
「それは、現状のままで行った場合だ。策を練れば、紙一重で勝てるか、否か、つまり、勝負は時の運の状態ぐらいには持っていくことが出来るだろう」
「そうなの?」
「ああ、それ故、今回の模擬レースは、私も頑張らせてもらうとしよう」
白子の言葉に、私は少々驚いた。
「…基本的にこういうのは干渉しない“立会人”でいるのかと思ってた」
「立会人とは、決して何もしないわけではない、路上ライブを見た者が、何となくコインを奏者に渡したくなる様な時は存在するだろう?」
「私はやったことはないけれど、まあ、なんとなく想像できるかな、とにかく、手伝ってくれるのなら、それ以上のことはないからね、ありがとう」
私がそう言うと、白子はコクンと頷き、ホワイトボードに移動した。
「…作戦?」
「ああ、まず、今回の模擬レースは、蹄鉄の調整を私に任せて欲しい、少しばかり、考えがある」
「成る程、それで、私はどうすれば良い?」
「本番では、メジロアルダンを先行させ、君は後追いだ、どこで仕掛けるのかは、君の裁量に委ねるが、最後の直線までには、必ずメジロアルダンの前に出て欲しい」
「分かった」
「それと…最後にもう一つ“重戦車の弱点”を利用することだ」
「どういうこと?」
「そこは、自分で考えて欲しい物だな。一つだけ言っておくと、先程私が挙げた“重戦車”は、メジロアルダンを意味しているのではなく、兵器としての重戦車だ」
兵器としての重戦車の弱点…ウマ娘とどう関係があるのかと思うが、とにかく調べてみるとしよう。
待っていろよ、メジロアルダン、あなたの所から、アマリイーグリーナを奪ってやる。
お気に入り登録、評価、ありがとうございますm(_ _)m
コメント、誤字、文法の誤りなどありましたらお気軽にお寄せ下さい。