転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第20話 -奪取(後編)-

 

 

 3日という時間は、あっと言う間に過ぎていった。

 

 その間に、重戦車の弱点について調べあげたのだが。一番メジロアルダンに関連付けられそうなのは、“足回りがデリケート”という点だろう。メジロアルダン…彼女も“硝子の脚”とか言われているのだ。

 

「じゃあ、行ってくる、シューズはレース前にケースから取り出して履いたら良いんだね?」

「ああ、君がレース中に“気づく”事が大切だからな、気づけば“勝負できる”、そうでなければ“負ける”」

「難しい課題を出すもんだね」

「当然だろう、私は君のトレーナーなのだからな」

 

 私は白子が調整したシューズを持ち、トレーナー室を出た。

 

 ただ、彼の言う「最終直線まで前に出ておく」というのは、未だに理解できない。

 

 私の適性からすれば、最終直線で一気に末脚で薙ぎ払うのが良い気がする。それに、メジロアルダンはラフプレーを仕掛けるようなウマ娘ではない、仕掛けたところで。イノシシと闘ってきた私には効かないだろう。

 

 なら…何故…

 

 

 

「お待たせしました」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

 トレーニングコースに着くと、すでにメジロアルダンはやって来ていた。人はまばらである。模擬レースのことは大々的に言わなかったからだ。双方の友人を少し…だが、向こう側のギャラリーがビッグネームすぎる。この間三女神の噴水のところで見かけたウマ娘、サクラチヨノオーやら、ヤエノムテキやら…まあ、兎に角、豪華なのだ。同じく同期のオグリキャップやイナリワンは居なかったけれど。

 

 それに対してこちらは、まあ、色々と予定と重なってしまったので、エアジハードやサクラナミキオーとほか数名といった具合である。そして、私達の元に取り込む布石として、キングヘイローも呼んである。

 

「あの…先輩、申し訳ございません、私のせいで、こんなふうになってしまって…」

 

 アマリイーグリーナは、耳をペタリとさせて、そう言った。

 

「大丈夫大丈夫、だって、皆ウマ娘だもの、レースで決めるってのが、一番わかり易いからね、だからさ、リナちゃん、皆、応援してね」

「は…はい!!」

「信じてるからね!」

「ありがとう皆…翼のため!」

 

 ウマ娘達に送り出され、スローガンでそれに返した私はメジロアルダンのところまで行く。

 

「今日はよろしくお願いします、先輩」

「はい、こちらこそ、よろしくお願い致します」

 

 私はメジロアルダンと握手をする。

 

「スーパークリークです、今日はスターターをやらせてもらいますね、二人共準備はしているみたいですね、スタートはあそこで、2周と少し走って、ゴールはあそこです。それでは、スタート地点まで移動しましょうか〜」

 

 スターター役はスーパークリークのようだ、私は、ケースからシューズを取り出し、履き替える。

 

 歩いてみて、重さはあまり変わってないことが分かった。調整とは、いったいどんなことをしたのだろうか。

 

 まあ良い、走れば分かるみたいだから。重要なのはアマリイーグリーナだ、メジロアルダンが認めなければ、私は彼女を手に入れることが出来ないのだから。ただ、もし、そうなってしまったとしても、私には策がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 “彼女”とメジロアルダンはスタートラインに立ち、スタート体制を取る。スーパークリークは、カウントダウンのため、手を挙げる。

 

「行きます!…5秒前…4…3…2…1…はい!!」

 

 手が振り下ろされ、“彼女”は踏み込む。

 

(……ッ!?)

 

 そして、感じたのは、なんとも言えない違和感だった。

 

「メジロアルダン先輩が先!」

「クロ、若干遅れたか?」

 

 エアジハード、サクラナミキオーは“彼女”のスタートが上手く行かなかったことに気づく。

 

(……確かに、あの二人が言っている通り、クロさんは遅れた。それも、驚いていた顔で……脚に何かあったのかと思ったけれど、どうやらそうでは無いようね……なら…どうして…?)

 

 “彼女”に呼びつけられ、このレースを観戦しに来たキングヘイローは、スタート時の“彼女”の表情を思い出し、疑問を浮かべる。

 

(…どちらにせよ、もう少し、近くで見たほうが良さそうね)

 

 そして、レースをもう少し近くで見るために、足を進めたのだった。 

 

 

 

(やはり、少しばかりおかしい。ただ、メジロアルダンの走りから見るに、バ場の状態が悪いわけじゃない。なら、白子が足回りを少しイジったのが原因か…)

(最初は先行争いも想定していましたが、あちらは仕掛けては来なかった、模擬とはいえ、あまり負荷をかけたくない私には好都合……ともあれ、まだまだレースは始まったばかり)

 

 “彼女”は、メジロアルダンの走りを見て、違和感の原因は白子の調節したシューズにあると推察し、一方メジロアルダンは、激しい先行争いとなることがなかった事に安堵しつつ、コーナーへと入る。

 

(……!)

 

 コーナーへと入り、メジロアルダンはチラリと後ろを見る。

 

(……あの娘のこれまでのレースとは一転して、蟹が歩くようなぎくしゃくとした不安定な走り…これは…一体?)

(…どうも、いつもの感覚で走ると、蹴り出しの時に足の動きが鈍くなるみたいだ……どうも何か重くて、それでもって、粘っこい)

 

 メジロアルダンが違和感を抱くと同時に、“彼女”自身も、普段とは違う感覚への対応に苦慮していた。上手くいくはずのいつもの走りがそうならないので、そうなるのは当然のことだった。

 

「コーナーならクロちゃん、得意なはずだけど」

「ああ、今日のアイツ、どうもおかしいな、普段はコーナーでアタシらに食いついて来るのに」

 

 メジロアルダンと同様、エアジハードとサクラナミキオーは違和感を抱く、そして…

 

「………でも、今のところ、あの娘はジリジリと、メジロアルダン先輩に離されつつある。この調子で行くと、不利は確実ね」

「……ッ!?」

「キングヘイロー!?どうしてここに?」

 

 二人の後ろから、キングヘイローが姿を表した。黄金世代の突然の登場に驚いた二人をよそに、キングヘイローは…

 

「……忘れ物を取りに来たら、こんな事をやってたもの、興味が浮かばないはずはないわ、ともかく、ここ、失礼するわね」

 

 と適当な理由をつけて、二人の横に立った。

 

 

 

 

 どうも違和感がある……だが、コーナーを出る際においていかれる訳にはいかない、いつもよりパワーを入れ、かつ素早く足を動かす。

 

「……ふっ!!」

 

 …曲がり切るときに、体のブレを修正するのにいる力が少なく感じる。

 

 それはつまり、蹄鉄の食いつきが強いという事……それも粘っこいと感じるぐらいにしつこい。

 

 ああ、やっと分かった。

 

 白子め……“ダート用の蹄鉄”をはめやがったな。

 

 なら、少しパワーを上げ、その分ストライド走を狭めてピッチを上げ、蹴り上げのスピードを高めよう。走行中にやるべきではないかもしれないけど、竹林を駆け回ってきた私だ…やってみせるさ。

 

 

 

 

 

「抜けた!」

「コーナーではぎくしゃくしていましたけど、最後は上手く抜けたようですね」

 

 アマリイーグリーナは、スーパークリークと共に、レースを観戦している。

 

「クロウさんは、臨機応変な人みたいですね、これもやはり、普段からライバルのみなさんとトレーニングを続けている成果なのでしょうか?」

「はい、先輩達は、普段から様々な状況で、併せや合同トレーニングを行っています。複数の方とやりますので、先輩は戦術の選択肢を多く取ることができます」

「クロウさんは、強いウマ娘になりそうですね〜」

 

 アマリイーグリーナを通して伝えられた“彼女”の日頃の姿にスーパークリークは素直に感心した。

 

 

 

 

 

(…いつもとは違う、でも、これはこれで良い感じだ。ダート用で食い付きが良いから、遠心力がかかっていても、思い切り踏んでいける)

 

 一方で“彼女”は、走り方を変え、スムーズに走ることが出来るようになっていた。

 

(……足跡の形からして、うまく行ってる)

 

 そして、後ろを振り返り、足跡が乱れていないことを確認し、自分の走法の出来を確認した。

 

(…いつもより、しっかりと足跡がついてる。まあ、芝にダート用の蹄鉄を持ってくれば、こうもなるか……結構乱れてる……ん、乱れてる?)

 

 

 

(……調子は良好、このままのペースで)

 

 メジロアルダンは、自らの脚の状態を確かめながら走っている。

 

「アルダンさん!!気をつけてください!!」

 

 そしてそんな彼女に対し、声を張り上げたのは、スーパークリークと同じく応援に来ていたサクラチヨノオーであった。

 

(……!ぎくしゃくが、消えている…?)

  

 メジロアルダンは、“彼女”の方を見て、走りから違和感が消えたことを理解した。

 

(……そうですね、そう、来なくては………マヴェリッククロウさん、受けて立ちましょう)

 

 メジロアルダンの闘志に、火がついた。

 

 

 

「コーナーだね」

「ああ、ここを抜けたら1000m通過、まだまだ長い」

「でも、クロちゃん、少し動きが良くなってない?」

「本当だな…不利かと思ってたが、面白くなって来やがった」

 

 エアジハードとサクラナミキオーも、“彼女”の変化に気づき、少し得意気な様子になる。そして、キングヘイローはその様子を見た後、“彼女”へと視線をやった。

 

(…あの二人の言っている通り、動きが確かに良くなってきている。ダービーの時も、そうだった。あの娘は2回も、不利な体勢を立て直して見せた…)

 

 キングヘイローは、ダービーの後の事を思い出す。

 

(“この走りを元手に改良していって、私の走りにするから、それで私はもっと高みへ行く”)

 

(“色んなことを発見して、自分の手札を増やしていくの…そうすれば、どうなると思う?”)

 

 その脳内に、“彼女”によってかけられた言葉の一つ一つが、一言一句、頭に蘇る。

 

(こんな化け物と、私はやりあったのね…)

 

 そして、心の中で、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 重戦車の弱点は、装備がゴテゴテでヘビーなのに、足回りがそれをカバーできてなくて、その結果足回りが弱くなってるってこと、だから、基本的に酷使はNG………

 

 それで、私がはめているのはダート用の蹄鉄、食い込みが強いから、走った所は乱れてる。しかもピッチ走法をやってるから、乱れてる所は多い。

 

 つまり…私なぞとは比べ物にならない豊満なスタイルを持つあの重戦車(メジロアルダン)を、荒れたバ場に放り込んでやれば良いということだ。彼女は私よりゴテゴテなボディをしておいて、足回りの強度は遥かに劣っている。

 

 白子が私に、最終直線までにメジロアルダンの前に出ろと言ったのは、そういうことだったのか。

 

 で、最後はメジロアルダンが引き際を見極めることができるベテランであることを信用しろという事か。

 

 …本当はバ場でぶっ壊れてくれれば面白いのだが。今回は私の手に入れたいもののためだ、楽しみは取っておく。

 

 

 

 

 

(……あちらも、熱が入ってきている、その証拠として、走りが鋭くなった)

 

 メジロアルダンは、コーナーを走りながら、“彼女”との距離が詰まってきていることを認識した。しかし、彼女はその程度では動じない。

 

(…やはり、強い。だけど、その分、こちらも燃えてくるというもの……こんなに気持ちが昂る楽しいレースは…久しぶり)

 

 そして、メジロアルダンは、リードを縮められつつも、コーナーを抜けたのだった。

 

 

 

(コーナーを抜ければ、私は外側を通る。そして、出来る限りバ場を荒らす)

 

 やるべきことを確認しつつ、“彼女”はコーナーを抜ける。

 

(よし…このあたりだ)

 

 そして、自分が一周目に走っていなかったラインを通り、足跡をつけていった。

 

(…それで、後はここに重戦車を持ってくるだけ)

 

 “彼女”はこれからの事をシミュレートしつつ、ストレートを駆け抜けていった。

 

 

 

 

 レースは残り1000mほどとなり、メジロアルダンは、コーナーへと入った。

 

(ここからが、アピールポイント)

 

 “彼女”は、先程よりも激しく、メジロアルダンとの差を詰める。

 

(……!) 

 

 自らの体を、内ラチに接近させ、身を削る事も厭わないようなその走りを見たメジロアルダンは、その技術に目を奪われる。

 

(これが…しかし!!)

 

 そして、それに応えるかのように、自らのコーナーリングのスピードを上げ、再びリードを取り戻しにかかる。

 

(尻尾の毛が逆立つかのような、この昂ぶる気持ち…これこそレース…!)

 

 メジロアルダンはレースを楽しんでいたのだ。

 

 

 

 

 

「来た来た!」

「クロ!!あと900だ!!良いぞー!!」

「……」

 

 エアジハードとサクラナミキオーが応援をする傍らで、キングヘイローは“彼女”の走りについての考察を行っていた。

 

(流れるように、内ラチをかすめながら走っていく……一つミスをすれば、絶対に事故を起こすわ…でも、これであの娘の強さの秘密が、段々と分かってくるわね、スピードを落とすことは、タイミングを逃すことにつながる。だから、私達ウマ娘は、減速の原因になる遠心力を避けるためにインベタはあまり使わない……でも、あの娘はそんなこともお構いなしに突っ込んで走ってしまう、だから、遠心力には慣れているってこと……つまり、アウトを回ったときは、私達より速い…)

 

 キングヘイローは改めて、自分を倒した相手の大きさを実感していた。

 

 

 

(……もう、相手はすぐ後ろ、でも、向こうの武器は、最終直線での加速。だけど、私も…末脚という刹那の輝きでは…負けていない)

 

 メジロアルダンは、“彼女”の動きを警戒しつつ、体力の計算を行う。

 

(ただ、警戒すべきは、彼女の吸い付くようなコーナーリング、あれで前に出られては、おそらく私は負けてしまう、最終直線で前にいる…それが…勝利条件!)

 

 “彼女”は、メジロアルダンの真後ろにいる。それ故、メジロアルダンはその目的を、コーナーでインを確保することだと思っていた。

 

 

 

「これが最後のコーナーだ…クロ!!気合い入れろ!!」

「もう少し!!」

「アルダンさん!ここを耐えれば、後は末脚で一気に行けます!!」

「アルダンちゃん、最終局面こそ冷静にですよ!!」

 

 そして、二人は最後のコーナーへと差し掛かり、それに呼応するかのように応援の声もヒートアップしていく。

 

(……よし、まずは…!)

 

 “彼女”は、そんな応援の声を聞きながら、イン側からメジロアルダンを追い立てる。

 

(…その道は、譲りませんよ)

 

 しかし、メジロアルダンはブロックに入っていた。

 

「クロ、まだだ、諦めるな!!」

「私達が付いてるから!!」

 

(…よし)

 

 そして、メジロアルダンのブロックと、声援の両方に“彼女”は、心のなかでほくそ笑んだ。

 

「それなら!」

 

 そして、すかさず進路をアウト側に変更、外側からジリジリとメジロアルダンに迫る。

 

(…ッ!外側から…でも…行かせはしない!!)

 

 メジロアルダンは素早く動き、それを妨げる。

 

(……!)

 

 それを見た“彼女”は、更に外から仕掛けようとする。

 

(素早い…!!)

 

 ただし、メジロアルダンはそれにさえも対応してみせる。それは、長年のレース経験から来るものであった。

 

 だが、“彼女”は笑った。

 

(裏の裏の、そのまた裏だ)

 

 “彼女”は、足をターフに突き刺すかのように踏み込む、ダート用の蹄鉄は、それに応えるかのように、芝の下の土を捉える。

 

(あのテクニックを使って…)

 

 そして、“彼女”は空いたインに飛び込み、メジロアルダンとついに横並びとなった。

 

「行けー!!」

「あともうちょっと!!」

「先輩ー!!」

 

 応援するウマ娘達に、アマリイーグリーナも加わる。そして、メジロアルダンにも、その声は届いていた。

 

(今だ)

 

 そして、“彼女”は素早く加速し、メジロアルダンの前に出る。コーナーが終わる直前のことであった。

 

(しまった…!しかし、相手のリードは僅か、末脚勝負では此方が!)

 

 メジロアルダンは諦めない、この楽しい勝負を、白星で終わらせるべく、脚を動かす。

 

「ッ!?」

 

 しかし、彼女を襲ったのは、普段のレースよりも更に大きい、脚への負担だった。

 

 

 

(さあ、選んでよ、ゴテゴテの重戦車(メジロアルダン))

 

 迫るメジロアルダンの気配が遠ざかったことを確認した“彼女”は、心の中でそう呟く。

 

 メジロアルダンの目の前には、“彼女”が荒らしたバ場がある。彼女に与えられた選択肢は、そこを避けるか、突き抜けるかだった。

 

 ただし、前者の場合は、進路変更をしている際自身と同じく末脚に優れる“彼女”のリードを許す事になり、後者の場合は、ガラスの脚とも言われる彼女では足を取られ、痛め、最悪の場合は事故を起こす。

 

(………これでは…)

 

 当然、メジロアルダンには、その事が理解できていた。即ち、彼女は、勝つための道を“奪取”されたのである。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痺れたねぇ!」

「やった!やった!やったーっ!!」

「スゲぇな!クロ!!」

「おめでとう!!」

「速かったよ!」

 

 やって来た5人程に、私はもみくちゃにされる。私は、あの重戦車を撃破したのだ。足回りという弱点を突いて。

 

「クロウさん」

 

 ウマ娘達の後ろから、メジロアルダンが、こちらに声をかける。私を囲んでいたウマ娘達は、それを聞いて、道を開ける。

 

「…とても、楽しい勝負でした。お強いのですね。」

「こちらこそ、ありがとうございました。でも、今日の勝利は、皆が、私の勝利を祈ってくれたから、得ることができたのだと思っています」

「……一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」 

 

 メジロアルダンは、私の言葉に反応するように、そう聞いてくる。

 

「はい」

「最終コーナーでの見事なフェイント…あれは、いったいどうやって?」

「あれは、クラスメートの障害競走の娘がやっていたトレーニングの応用です。障害のコース、コーナーがカクカクしていますから、遠心力に抗いながらの脚の動きが重要らしくて…それで、思いついたんです。そのテクニックを、回避やフェイントに応用出来ないかって」

「……!」

 

 向こうは目を丸くしているけれど、別段変わったことは何もしていない。現にそのクラスメートも“基本”と言っていた。

 

「リナ」

 

 そして、メジロアルダンは、クラスメート達の後ろにいるアマリイーグリーナを呼ぶ。

 

「アルダンお嬢様…」

「リナ、マックイーン達の説得は、私が必ずやり遂げてみせます」

「お嬢様…ということは…」

「ええ、この人達を、支えてあげなさい」

「お嬢様、有難うございます!」

 

 続いて、メジロアルダンは、こちらに向き直る。

 

「クロウさん、貴女の力、そして、銀の翼を見せて頂きました。実力だけではない、自然と応援したくなるような魅力…リナが貴女方を手伝いたいと言った理由が、よく分かりました。リナを、何卒よろしくお願いします」

 

 そして、ペコリと頭を下げた。

 

「分かりました、ありがとうございます、先輩」

「クロ先輩、皆さん、不束者ではありますが、これからどうぞよろしくお願い申し上げます」

 

 アマリイーグリーナは、私達に挨拶をする。私は、心の中でガッツポーズをした。やっと、このウマ娘をメジロ家から奪取することが出来たのだ。私の思うままの色に、染め上げてあげるとしよう。

 

 

 

「勝った」

「ああ、私も校舎から眺めていた、無事、気づくことが出来たようだな」

 

 そして、戻って白子に報告をする。どうやら彼も何処かから見ていたようだ。

 

「ありがとう、なかなか面白かったよ」

「そう言われると、こちらとしても嬉しいものだな。さて、今回のレースで、君も戦術の幅を広げた事だろう。君は秋以降のレースはまだ決めていなかったと記憶しているが、それで合っているか?」

「うん」

「よし、もうすぐ夏合宿…だが、その前に、君の適性を見ておきたい、次のレースは函館記念としたいのだが…」

「洋芝だね」

「ああ、君が海外を目指すのか否かは別として、普段とは別の舞台も、経験しておいたほうが良いだろう」

 

 今のところ、海外とかそういうのはまだ考えてはいない、だが、白子の言うことも最もだ。

 

「分かった、出る」

「よし、では、明日から調整に入るとしよう」

 

 

 

 

 

 その夜、キングヘイローは、同室のハルウララを寝かしつけた後、机に座り、今日のことを振り返っていた。

 

(あの娘は、着実に自分の周囲との関係を構築し、自らの強化に努めている……そして、あの娘のテクニックが、もし、他のウマ娘に普遍的に応用できるものだとしたら…)

 

 彼女は今回のレースで、“彼女”の強さを、改めて見せつけられた。

 

 さらに、キングヘイローの脳内に“彼女”の言葉が再生される。

 

(“ねえ、キングさん、それなら私とあなたは、互いを学び合うこともできるはずだよ、どう、ここらで止めておかない?”)

 

(私はどうしてあの時“そうさせてもらうわ”なんて言ったの…?)

 

 キングヘイローはそう考えたが、再び、“彼女”の言葉が頭をよぎる。

 

(“本当の負けってのはね、自分の積み重ねて来たものがだんだん…やがては全て全て奪われるものなんだよ”)

 

 そして、どんどん力をつけつつある“彼女”達と対立するという、起こりうる最悪の事態を想定する。

 

(………私に、勝ち目は…)

 

 キングヘイローは、震えた。

 

 彼女はダービー後の出来事により、負けを極端に恐れるようになっていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親愛なるパピーへ

 

今日は、先日あなたに教えたアマリイーグリーナを巡って、メジロアルダンとレースを行い、無事に勝利して彼女を手に入れることができました。

 

あなたは、もし私がしくじった場合のことについて気になっていたようですが、それもどうやら、杞憂に終わったようですね。ですが私も、そのパターンを考えていなかったわけではありません。

 

その場合はアマリイーグリーナと、普通に接すれば良いのです。手に入れることが出来なかったとしても、私は彼女の“友人”ではあるのですから。

 

今の彼女は、最も繊細な時期です。理想を違える相手と共に居続けるだけでなく、理想としていた相手から、近況などを聞かされ続けるとすると、心のバランスは明らかに狂うものです。彼女は吐き出さずに居られない状態でしたから、そのうち潰れてしまうでしょう。

 

自分が手に入れることのできないものは、相手にも渡さない。これは、焦土作戦という、立派な戦法の一つです。

 

とどのつまり、私がしくじったとしても、私は彼女をメジロ家にも渡さないつもりでした。

 

今回はしくじることはありませんでしたが、次はどうなるか分かりません。さらなる困難にも、見舞われるかもしれません。ですが、苦労させられる相手ほど、不思議とわくわくしてくるものです。

 

じゃあまた、マヴェリッククロウより

 

 

 

 日記を書き終え、私は日記帳を閉じる。今回のレースの事は、じわじわと学園中に広がるだろう、しばらく無かったが、シンボリルドルフから呼び出されることもあるかもしれない。

 

 私の今後の進路は、大まかに決めてある。函館記念が終われば、白子に打ち明けよう。果たして彼はどう反応するのやら。

 

 

 

 

 





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夏合宿についてですが、本作では、大抵の学校の夏休みがスタートしているであろう7月中旬頃からと解釈させて頂いています。ご了承下さい。

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