転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第22話 -善行-

 

 

 

 鉄紺色(てつこんいろ)の空間、ダイヤモンドを散りばめたかのような星々、黄金色に輝く月。誰もが見惚れる、理想的な夏の夜空。

 

 その下は海辺の砂浜、蛇のように伸びるその波打ち際に、“彼女”はポツリと一人、立っていた。

 

「………」

 

 “彼女”は、陸地の方に目を向け、遠くにある明るくなっている一帯を見ている。

 

「……」

 

 しかし、彼女は視線を波打ち際に戻し、ある一点を見て、そこに狙いをつけると、そこに向け、手を突き出した。

 

 その手には、月明かりを反射して光る何かが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達は、広いとは言えない控室で、呼ばれるのをただ待っている。

 

「記者会見って、こんなに待たされるものだったっけ?」

「それは君がしばらく、額の怪我の治療を理由に取材を受けてこなかったからだろう?」

 

 私の質問に、白子は苦笑しつつもそう答えた。そんなものだったのか、ああ、身体が疼いて来る、早く呼ばれ─

 

「マヴェリッククロウさん、白子トレーナー、用意ができましたので、どうぞ」

 

 やっと来たか。待たせすぎだ、この野郎。まあ、私の時間指定──夕方を受け入れてくれたことに免じて、許してやろう。

 

 

 

 

 

「記者の皆様、本日は、私とトレーナーさんのために会見の場、そして、怪我が治癒するまでの時間、その両方を提供して下さり、ありがとうございます」

「本日は、事前に告知いたしました通り、私の担当ウマ娘、マヴェリッククロウ君から、これまでの経験や夏合宿を経て決定した、今後のプランを発表させて貰おうと思いますので、よろしくお願いいたします」

 

 私、続いて白子が、ブン屋さん達に頭を下げる。さて、ブン屋さん達の期待、いや、世の中の期待を、ぶち壊しにかかるとしよう。

 

「それでは、今後のプランを発表させていただきます」

 

 私は笑顔を作り記者たちの方を一瞥する、今回はゴチャゴチャ理屈を並べたりはしない、ドカンと行く。

 

 私のど真ん中ストレートを、とくとご覧あれ。

 

「まず、菊花賞には出走しません」

 

 私がこの言葉を発した瞬間、場の空気は一変した。すべてが静まり返っていて、まるで死んだように見える。

 

 しかし…

 

「ど、どういうことですか!?」

「無敗の三冠を捨てるのですか!?」

「伝統の無視だ、ありえないですよ!!」

 

 すぐに、堰を切ったように、数多の質問が飛び出していく。

 

「…どうか静粛に、彼女からの話は、まだ終わっていません」

 

 白子が空気を切り裂くような鋭い目で、ブン屋さんを見つめ、その場の空気を抑える。目で人を黙らせるとか、軍人か何かかよ。

 

「まず、私が菊花賞に出走しないのは、今後の新たなる挑戦のための投資のような物と、思って頂きたいと思っています」

「今後の挑戦ための…投資?」

「はい、私は、これまで、自分の名前にある“maverick”という言葉の通り、独自路線を貫いてきました。そして、私は今後もそれを貫く誓いが、今回の菊花賞の回避です。現在のところ、三冠路線は、私達ウマ娘の間では、特に価値ある栄光の道です。ですが、それは既に先輩方が歩まれた道でもあります。しかし、それは、距離適性やコース適性に適合したウマ娘で無ければ、通ることは難しい道です。ですから、私は考えました、“なぜ、それぞれ、違う夢を持ってレース場に立っているのに、『価値ある道は』限られて居るのだろうか?”、“『価値ある道』という言葉に縛られ、適性外の事をやって怪我などに悩まされるウマ娘もいるのではないだろうか?”と……」

 

 私は、そう語りかける。こう感じているのは嘘ではない。

 

 “クラシックと言えば三冠”という思想は、いわばレストランで他のメニューすら確かめず、思考停止で取り敢えず看板メニューを注文するようなもの。それじゃあ、ちっとも面白くない。

 

「ですから、私は、三冠路線とは違う独自の道を歩み、それを三冠路線と並ぶ新しいスタイルの一つとして、後に残すことができるよう、努力したいと思っています。ですが、それは険しい道であるとは、私は理解できています。ですので、菊花賞回避が意味する“投資”とはそのための身体、精神を鍛えるという意味であると、解釈して頂ければと思います」

 

 ブン屋さん達の中には、真剣にメモを取っている者が見られる。私の指摘に、納得がいったのだろう。

 

 これで良い、今回の会見は、理解する者が一定数いれば良いのだ。

 

 そして、次の言葉は紡がず、質問して良いことを、暗に示す。

 

「では、私が…独自の道と言われていますが、そのプランと言うのを、まだ示されていないかと思われます。お示し頂けないでしょうか?」

 

 予想通りの質問が飛んできた。少し発言に穴を開けておいた部分がある。このブン屋さんはそのエサに食いついたというわけだ。

 

「はい、まず、プランの話の前に、皆様にもう一度、私の言ったことを、思い出して頂きたく思います。菊花賞回避は、投資です。そして、夏合宿の期間と、菊花賞回避によって生じる期間、これを合わせれば、かなりの日数となります。それ程のトレーニングを積んで、挑むレース…皆様ならお判りかもしれません………私からはここまでです。後は、トレーナーさんから」

 

 私は白子に対してアイコンタクトを取る、彼は頷き、ブン屋さんの方を向いた。ブン屋さん達に、傾聴の姿勢が見られる。

 

「彼女の言葉から、分かった方も居られるかもしれません。長期のトレーニングで得た、研究や鍛錬の成果を、確かめることができるレース、となると、やはり選択肢は自ずとG1となります、そして、その“成果を確かめるレース”として、現在私どもは、ジャパンカップを検討している次第です。彼女にとって、クラシックは強敵との対戦を経験する期間でもあり、今後のための準備期間でもありました。そのレースを通じて、彼女の選択肢を、絞り込んで行ければと」

「ジャパンカップ…つまり、マヴェリッククロウさんは、海外遠征も視野に?」

「それに関しては、視野に入れるか否か、迷っている次第です。彼女はまだまだ成長途中の段階です。この前の函館記念で、洋芝への対応は可能との結論に至りましたが、海外遠征は、時差も敵に回る可能性があります」

 

 白子がもっともらしいことを言う。

 

「なるほど、確かに時差の影響は、実際に現地入りして初めて分かりますからね」

 

 そういえば、今日はあの乙名史とかいうブン屋さんは来ていない。まあ、後から映像は見るだろうし、変な事を書かれたら書かれたで、月間トゥインクルの編集部に抗議の電話を入れてやる。

 

 そして、その後はトレーニングの種類に関しての質問が少し行われ、私の記者会見は幕を閉じた。 

 

 

 

 

 

「やはり、反感を買っていたな」

 

 車へと乗り込むなり、白子はそう口にする。ただし、それは私を非難する意味ではなかった。

 

「そうだね」

「だが、これで、記者たちの中には、黄金世代を再び持ち上げようとする者も居るはずだ、だが、それは君の仲間たちに発破を掛けることになる。君たちの今後、しっかりと見せて貰おう」

「分かってる、その代わり、トレーナーの懐柔は任せたよ?」

「もちろん、それは私に任せたまえ」

 

 白子は、自信に満ちた様子で、そう言った。後は、私の選択に、クラスメート達以外のウマ娘がどう反応するのやら。特に気になるのはキングヘイロー……よし、帰ったら即刻呼び出そうとしようか。やらせてることもあるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、私は帰着した後、メールで散歩という名目でキングヘイローを呼び出した。向こうは了承した。

 

「会見、見てたわよ、他の皆と一緒に」

「そうなんだ」

「スカイさんとスペシャルウィークさんは、相当悔しがっていたし、エルコンドルパサーとグラスワンダーさんは、ジャパンカップであなたを倒すと、意気込んでいたわよ」

「……」

「…正直に言って、侮辱されたような気持ちはあるわ」

 

 キングヘイローは、こちらをじいっと見て、そう言う。だが、私だってそれは予測済みだ。

 

 キングヘイローは、私が侮辱のような行為をしたことに対する反省を言わなかった事に対して不満なのだろう。そういう顔をしつつ、私の質問に答える。

 

 だが、良い傾向だ、前のキングヘイローなら“私はそういうのが赦せないの”と、私に詰め寄っていただろうし。こう大人しくしてくれていると、私も言いたいことが言えるというものだ。

 

「そう思われるのは、覚悟してるよ。でも、キングさん、夏合宿が終わったら貸す予定の本の著者は、こう言ってるんだ……“行動せずに後悔するより、行動して後悔する方が賢明である”ってね。私も、そう思ってる。だから私は行動した、これは、私の夢の実現に、必要なことだから」

「……嘘は言ってないようね」

 

 当たり前だ。私は今、本心で話しているのだから。

 

「分かってくれて嬉しいね。それで、キングさん。提案してたアレは、ちゃんとやってる?」

「……もちろん、きちんと時間を作っているわ。私が目指しているのは、世界で活躍する事よ?」

「サボらずやってくれてるみたいだね、じゃあ、今度、学園に戻ったら“マキャヴェリ”の本を貸すよ、この人はイタリアのフィレンツェで働いていた人間で、“王とは何か”を追求してきた人なんだ。」

「“王”…?」

「そう、王だよ、それで、その人の考え方、マキャヴェリズムは、それ単体だと、ピンと来にくいんだけど、レースに繋げることが出来るものも多いんだ。それで、今のキングさんなら、きっとモノにできるから」

「…わかったわ、なら、学園に戻ったら、すぐに貸して頂戴」

「もちろん」

 

 そして、私達は宿舎へと戻った。

 

 キングヘイローに私がやらせているアレとは、世界各国の元競争ウマ娘が執筆した本や、普通の人間が執筆した思想の本等を読むことである。彼女のようなタイプを変えていくのには、骨が折れる。それで自分のことを疎かにするなど、言語道断。

 

 ならば、どうすれば良いか?

 

 答えは簡単である、彼女の目標をうまく利用してやれば良い。彼女の目標は、才能を世界中に示すこと、だから私は、夏合宿の前日に彼女を呼び出し、こう言ってやったのだ。

 

『世界を目指して、勝ちたいのなら、まずは色々な国や地域の人々の思考の傾向を理解吸収して、それをモノにしないとね』

 

 私は出鱈目なことは言っていない、国ごとに文化の違いがあるのは常識だ。当然、それを知らねばそこの人材と渡り合うことなど出来ない。

 

 それで、ここまでだと、ただ敵に塩を送るだけである。ただ、私はキングヘイローに“塩分をとりすぎ”て欲しいと考えている。

 

 この国と違い、海外──特にヨーロッパのあたりは、血で血を洗う争いや、血塗られた暗黒時代を経験したからか、勝利至上主義的な傾向がある。別にこれが悪いとは思わない、むしろ、動物の進化からすれば妥当な帰結だ。

 

 キングヘイローには、その生来のジョンブル魂はそのままに、勝つためには手段を選ばないような策略家となってもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 そして、その日の夕食後、皇帝からのお呼び出しである。

 

 この不定期イベントも久しぶりだ、私の額の怪我の治療や夏合宿で生徒会が忙しく働いていたこともあり、私達はしばらく話していなかったのだ。

 

「ダービー制覇、おめでとう」

「ありがとうございます」

「怪我の具合はどうかな?」

「傷跡は残るそうですが、無事に治癒しました」

「それは良かった。さて、前置きはここまでにしておいて、早速本題に入るとしよう」

 

 シンボリルドルフはそう言って、真剣な表情をする。

 

「三冠路線、考え直す気は無いのか?」

「無論、有りません」

「……」

「……」

 

 私達は視線をぶつけ合う。

 

「…会長さん、私が会見で口にしたことは、会長さんも、理解しているのではないですか?」

「…」

「この学園に集っている生徒は、皆様々な方向の素質があるウマ娘、皆、そう言っています。でも、そんなウマ娘たちが、適材適所で活躍できる土壌が、まだまだ不完全なのではないか…私は、そう思っています。だから、私は、もっと“道は自分で作るもの”という考え方を、浸透させたいんです」

「……君は…」

 

 シンボリルドルフが、絞り出すようにそう言う、分からせてやるとしよう。

 

「会長さん、ここだけの話です…菊花賞までに、肉体を調整して、その後も走ることは、恐らく可能でしょう。現に私も、会見では、それを否定することはしませんでしたから……ですが、それでもし、私がうまくやって、その後も走り続けたとしても、世の中は“また三冠ウマ娘が出た、このウマ娘に続け”と、言い続けるでしょう、ですが、それでは、現状は変わりません。誰かが動いて“このウマ娘はこうした、ならばそれを受け、あのウマ娘はどうするのか?”となるようにしなければならないんです」

「……君は、そこまでして…」

「はい、ですが私は、ただの尖兵に過ぎません。他のウマ娘達が、世の中が、動くかどうかは、分かりません。ですが、やらなければ、どうなるかは分かりませんから」

 

 シンボリルドルフは、真剣に、こちらの話を聞いているようだった。彼女は紅茶を飲む、恐らく何かしら言うのだろう。

 

「……正直、残念な気持ちは、私の中にある。だが、君がそこまで考えてくれているとは、思っていなかった。どうやら、君の決意は、固いようだな。だが、一つ聞いておきたい、なぜ君は、そんなことを?君のやろうとしていることは、自己犠牲と捉えられてもおかしくはない」 

 

 シンボリルドルフは、私の決意の理由を聞いてきた。そりゃあ、そうするだろうね。

 

「…理由は二つありますが、訳あって会長さんには、一つ目だけを、お話しようと思います。私は、会長さんの理想の行き着く先を、私のやり方で見てみたくなったんです。今回の事は、そのための行動です」

「私の…理想を?」

「はい、会長さんは、途中参加の身である私にも、幸福になって欲しいと、願ってくれていますから、それに何らかの形で応えるのが筋だと思いまして」

 

 私は、そう言って、シンボリルドルフに微笑みかけた。

 

「……ありがとう」

 

 シンボリルドルフは、そう返してくる。なので、おまけを入れる。

 

「その言葉は、私が無事にクラシック期を走り抜けた時のために、取っておいて頂けませんか?」

「ああ、そうさせてもらうとしようか」

 

 シンボリルドルフは微笑む。正直、もっと笑ってほしかった。

 

「では、私からもお願いしても良いかな?」

「…?は、はい…」

「……いつか、二つ目の理由について、教えてもらっても、良いだろうか?」

「勿論です」

 

 私がそう言うと、シンボリルドルフの顔は、更に明るくなった。そして、その後はジャパンカップのシンボリルドルフの体験談を聞き、私は開放された。

 

 その後、少しウマッターを覗いてみると、私の記者会見での発言を巡り、論争が繰り広げられていた。“アレコレ言っているが、頭の怪我のトラウマで回避した”という意見が意外と多く、少し面白かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それから数日、今日は夏合宿の最終日、すなわち、明日は学園に戻ることとなるということで、強度の高いトレーニングを行うことのできる最終日ということだ。

 

 しかし、砂浜には、トレーニングをしている生徒はほとんどいない。

 

 当然だろう、今日は近所で行われる夏祭りと日程が被っている。ウマ娘達は、それに行くために、体力を温存しているのだ。そしてそれは、私も例外ではなく、白子から『最後の一日ぐらい、羽根を伸ばすと良い』と言われたのだった。

 

「そろそろ時間ですね、では、行きましょうか」

 

 アグネスワールドが、ウキウキな様子で、私達にそう言う。

 

 私達もそれに応え、それぞれハンドバッグやポーチに財布や携帯などを突っ込み、合宿所を出たのだった。

 

 

 

 

 

「かなり人が集まった様ですね」

「こりゃあ、はぐれたら中々合流出来そうに無いねぇ」

「あまり、間隔取りすぎないようにしよっか」

 

 会場に来てしばらく、人はどんどん増えていった。スリにとっては、絶好の狩場だろう。よく見てみると、かなりの数のウマ娘、そしてトレーナーが居るようだ。

 

 今日は花火もあるだろうから、それも関係しているのだろう。

 

「あそこなら良いかもしれないな」

「ホントだね、交代交代で座って、場所を確保しておこう」

「ワールドちゃん、行くよ?」

「あ、すいません、只今!」

 

 アグネスワールドのはしゃぎ様が、凄かった。自らのルーツの地で、本場のお祭りを楽しめるのだから、当然と言える。台風が接近してきて開催が危ぶまれたからというのもあるだろうが。

 

 そして、花火のための場所確保を終えた私は、空模様を確認する。太陽が沈みつつあり、もうすぐ夜になるだろう。そろそろ行くか。

 

「ごめん、皆、そろそろ時間だから、言ってた通り、合宿所まで戻るね」

「もう、そんな時間か…まぁ、残念だけど、しょうがないよね」

「先輩、お気をつけてお帰りを」

 

 私は前もって、ウマ娘達に、今日はやるべきことがあるから途中で帰ると言っていたので、私は一足先に合宿所へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合宿所に戻って来てすぐ、私は外に出た。

 

 私の上には夜空が広がっている、ただそれだけだ。

 

 そして、その夜空の下の砂浜に、私は立っている。次に片手に袋を持ち、LEDのランタンを置き、場所が分かるようにする。

 

 陸地を見る──祭りの行われているであろう場所が、一際明るい。今頃、他のウマ娘は、屋台の料理に、舌つづみを売っているに違いない。ああいう場で料理を食べると何時もより美味しいとクラスメートは言っていたが、どうやら私の味覚は冷静なようで、いつもと変わらない味だった。

 

 …まあ良い、視線を波打ち際に戻す。

 

 目の前に、缶が見える。錆びついて、どのジュースかもわからなくなってしまった缶が。

 

 大抵のウマ娘は、いつかはこの缶のように、どこぞの何某(ジェーン・ドゥ)として、誰にも知られることなく、消えてゆくのだろう。しかし、そんな存在をコツコツ刈り取って行くこと、それが、破壊に繋がるのだ。

 

 さぁ、始めよう。

 

 私は、目の前にある缶に向け、月光で鈍く光る火バサミを突き出した。

 

 

 

 火バサミを突き出してしばらく、袋は膨らみつつあった。一旦作業を止め、飲み物を口にする。

 

 私がやっているのは、ゴミ拾いだ。なぜ、このようなことをしているかというと、当然、トレーニングになるからである。

 

 素早くゴミの素性を判別し、素早く取り、素早く分別し、素早くまた次に移る。これで判断力や敏捷性を養成する。夜にやると、夜目が鍛えられる。

 

 場所によって、ゴミも違う。私の地元でやったときは、箱に入った白い粉を見つけたことがある。その時は警察に来てもらった。

 

 さて、休憩もここまでにして──「クロちゃん?」

 

 声を突然かけられ、私は振り返る。

 

「…ツルちゃん?」

「それ…ゴミ拾いしてたの?今日、お祭りなのに?」

 

 私に声をかけてきたのは、ツルマルツヨシだった。まあ、声もかけられることを予測していなかったわけでない。

 

「うん、この海には、トレーニングでお世話になったから、せめて、来たときよりは美しくしないとね、ツルちゃんは?」

「私は…実は昨日熱中症で……トレーナーさんからも、安静にって言われてて、夏祭り、行けなかったんだ」

 

 ツルマルツヨシは苦笑いしつつ、顔をポリポリ掻く。

 

「そうだったんだね」

「クロちゃん、夜なら大丈夫だから、私、手伝うよ!」

「本当に?」

 

 表情を作る、心のなかでは、ため息をつく。これじゃあ、できる量が半分になる。

 

「ありがとう、なら、私が手でやるよ、割れた瓶とか、危ないものがあったら教えるね」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、作業を開始してしばらく、取り敢えず大方のゴミを拾い終えた私達は、最初に置いたランタンのところまで戻り、そこに置いていた予備の飲み物を飲んだ。

 

「ぷはーっ、美味しいね!」

「そうだね」

 

 予め、冷蔵庫で凍らせたものを持ってきておいたので、飲むと暑さが吹き飛ぶ。キンキンに冷えてやがる状態だ。

 

 ヒュルルルル…ドーン

 

 再び飲み物を飲み込むのと同時に、花火の閃光が、私達を照らす。

 

「…ごめんね、クロちゃん」

 

 そんな時に出た、ツルマルツヨシの一言は、予想外のものだった。

 

「…?」

「記者会見、私も見てたんだ。それで、思っちゃったんだ、“菊花賞に出ないのは、結局怪我で怖気づいたんじゃないか”って」

「……」

「でも、それは間違ってたって、クロちゃんの顔を見てたら分かったよ、だって、凄く真剣だったから」

「…ツルちゃん」

「思い返してみたら、クロちゃんは凄いよね、いつも真剣に、信念を持って、恐れずに新しいことをやってるって感じがするから、私なんて、いつも空回りばっかりで…」

 

 ツルマルツヨシは、私への憧れと同時に、自分が劣っていると感じているようだ。なら…

 

「…私からしたら、ツルちゃん、すごい人だよ、だって、人一倍も自分の身体と向き合って、頑張って来れてるんだから。」

 

 まず、持ち上げる。

 

「…一つ、聞くよ?ツルちゃんは、会長さんみたいなウマ娘になりたいって言ってたけど…さっきは空回りばっかだって言ってた。ツルちゃんは、このままで良いの?」

 

 気を引いたところで、心の声を引き出す。

 

「……」

「…ツルちゃん…ちゃんと、ちゃんと吐き出して!」

 

 早く言え。感情的になっていると思わせるためにわざわざ耳を絞ってるんだから。これ続けるのも、楽じゃないんだぞ?

 

「…私が体調を崩してる間に、皆はどんどん先に行っちゃう!でも、私は…諦めたくないよ!!…私だって、クロちゃんみたいに!スペちゃん達みたいに、輝きたいよ!!」

 

 ツルマルツヨシは、涙を溢れさせてそう言う。今も上がり続けている、花火のような勢いで。

 

 持たざる者の飢えた叫びを聞いた私は、彼女の目を見て、重要なメッセージを伝える。

 

「…ツルちゃんの気持ち、伝わってきた。…ツルちゃん、ツルちゃんが良ければ、少しずつで良いから、新しい事を、一緒にやらない?」

「クロちゃんと…?」

「私じゃない、“私達”とだよ。私達は、スペシャルウィークさん達、強い同期の人がいる中で、ツルちゃんみたいに“諦めたくない”人が、団結して、邁進するために集まったもの、その皆が居たから、私もここまで来れた」

 

 ここで、私は、さり気なく2つの枠組みを、ツルマルツヨシの脳内へと入れる。それは『黄金世代』と『私達とツルマルツヨシ』というものだ。分裂や争いは、人間が、自分がどのような枠組みの中に入っているかを自覚することで起きているからだ。

 

「…良いの?」

「ツルちゃんを見てたら、断る理由なんて、何処にも無いよ。少しずつでも良い、一緒に、自分だけの翼を作っていこう?」

「うん…!」

 

 ツルマルツヨシは、涙の残った顔でそう頷いた。これで、まだまだ不確定要素だが、ツルマルツヨシを引き込む第一歩を踏み出せた。これから少しずつ私達に関わらせていくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、翌日、私達はバスに乗り込み、合宿所を出発した。

 

 流れる景色と共に、夏合宿の記憶が頭の中を駆け巡る。

 

 砂浜で走ったり、タイヤを引いたり、海に潜ったり、山菜を取ったり、兎に角、強度の高いトレーニングを、クラスメートやサポートウマ娘達をうまく使いながら、特に問題なくやり遂げることができた──だが、私はまだまだこんなものでは無いと思っている。もっと伸びしろが有るはずだ。私の血はたぎっている。

 

 そして、シンボリルドルフの事が頭に浮かぶ。私は、彼女に“夢の行き着く先を見たい”と言い、彼女は喜んでいた。恐らく、同志ができたとでも思っているのだろう。

 

 彼女は傑物だ。だが、いささか人が良すぎる。

 

 『天気のいい日に嵐のことなど考えてもみないのは、人間共通の弱点である』

 

 どうやら、マキャヴェリの言葉は、ウマ娘にも当てはまるようである。

 

 私が望む、シンボリルドルフの夢の行き着く先、それは、ウマ娘レースと、それを取り巻く人々が見事に破壊され、彼女は愚帝(バカイザー)と呼ばれる事である。

 

「…ッ」

 

 そう考えると、思わず、自分を笑ってしまった。私はこんなに親切だったろうか?

 

 これじゃあ、私のやろうとしていることは、地球からすれば正義の行い── まるで善行じゃないか。自然の法則に反そうとしている、全ウマ娘の幸福という望み(ガン細胞)を破壊するのだから。

 

 まあ、折角生まれ変わり、この星に産み落とされたのだから、一度ぐらいはこの星に恩返しをするのも良いだろう。

 

 そんな事を思いながら、私は流れる景色を見続けていた。

 




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主人公がキングヘイローにやろうとしていることは、彼女の性格を『原案の性格』に変えようとしていると解釈して頂ければわかりやすいかと思います。

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