転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第23話 -計画-

  

 

 

 

学園で一番情熱のある目を持っていたのは正しくあの人でした。 

 

あの人は自分達の想像もつかないような、独創的で、魅力的な何かを持ち、私達を盛り上げていました。

 

私たちは何か新しいことをやるために、何でもいいから新しいことを共に考えるために、クラスは違えど、学年は違えど、教室で、食堂で、寮で、あの人と時間を共にしたのです。

 

あの頃は、黄金世代を始めとした競争ウマ娘にのみ注目が集まる一方でした。

 

私達サポートウマ娘は殆ど取り上げられることはなく、無気力へと陥る娘も居れば、サボタージュを行う娘もおり、風紀は乱れてかけていました。

 

そんな状況の中にいた私達には、あの人の語る銀の翼というアイデンティティは、素晴らしいものに思えました。

 

──当時のあるサポートウマ娘の手記より。

 

 

────────────────────

 

 

 

「ホラ、コーヒーだ」

「…ありがとうございます」

「……」

「……」

 

 私は、今、あの手袋屋に来ている。当然、あの三冠大好きの店主を訪ねるためだ。

 

「…あの、おじさんは、記者会見を……」

「ああ、勿論見てたさ」

 

 私は、コーヒーには手を付けず、申し訳無さそうな顔を作り、そう切り出した。店主は、落ち着いたそう返す。

 

「…ごめんなさい、おじさんの期待を裏切るような…「良いんだ」」

「……?」

 

 店主は、私の言葉を遮る。あれだけ三冠待望してたのに、良いのかよ。

 

「年、取ってくとな…どうも考え方が、凝り固まっちまうんだよ。自分が今まで信じてきたモンに掴まって、離れようとしなくなる。わしのウマ娘レースに対する気持ちってのも、そうだったんだ」

「……」

「正直に言うと、わしはあんたに三冠を期待してたし、今でも回避を撤回しろって思ってる所もある。でも、あんたの会見見て思ったんだ。王道や伝統にこだわらないやり方も、あっても良いんじゃねえかってな。それに、あんたにゃ、似合わねえよ。他人の通ったレールの上を、走ってくなんてのは」

「おじさん…」

「その代わり、わしをビリビリさせるような、そんな成績を、ドカンと残してくれよ。先に待ってる女房に、良い土産話を聞かせてやりてえからな」

 

 …ほう。

 

「…分かりました、ドカンとやってやります。おじさんと、奥様のために」

 

 私は店主にサムアップをした後、コーヒーを飲んで、手袋屋を出た。

 

「また来てくれよ!!」

 

 店主は、笑顔で私を送り出してくれた。

 

「………クククッ…」

 

 そして、店を出て角を曲がった後、私は笑った。パートナーを亡くした身という境遇を莫迦にする気は全く無い。私が笑ったのは別の事なのだ。

 

 今日の会話で、店主から“黄金世代”という言葉が、一度も出てこなかったのだ。そもそも、あの店主は、黄金世代、スペシャルウィークのファンだった筈。これがたまたまでなければ、私は黄金世代からファンを奪ったことになる。資源の奪取も、立派な破壊の一つだ。私は上機嫌だった。

 

 それに、あの店主、奥さんに土産話を聞かせるつもりらしいが……まさか、天国に行けるとでも思っているのだろうか…………

 

 

 

 

 

 

 

 それとほぼ同時刻のことである。

 

 生徒会室では、シンボリルドルフが仕事をしていた。

 

「複数人のトレーナーからの陳情書か、エアグルーヴ、どの生徒のトレーナーからのものなのか、報告を頼む」

 

 彼女は自らの夢を実現すべく、生徒やトレーナーの要望を聞くという形で、現役のウマ娘のために尽くしているのである。

 

「提出された順から読み上げます。セイウンスカイ、スペシャルウィーク、ネオタイゲイ、メジロランバート、ボルドーエンペルト、テイオージャズ、キングヘイローです」

「かなりの数だな」

「はい、それも全て、陳情内容が“サポートウマ娘の要請”となっています」

「……」

 

 シンボリルドルフは驚き、目を開く。

 

「会長、更に陳情してきた者には、共通点があります。“菊花賞の出走候補”というものです。更に、要求するサポートウマ娘の条件も、ほぼ同じです。」

「成る程、レース前の最後の追い込みに備えての事だろう、だが、しかし、それならばなぜ、夏合宿の時期に声をかけていないのだろうか?不思議なこともあるものだな」

「恐らく、会長が懇意にしている彼女…マヴェリッククロウの回避が原因でしょう、彼女はとんでもないタイミングで、回避を発表しました。同期のウマ娘達が夏合宿で、秋以降への調整、菊花賞の対戦相手の対策を行った後という、絶妙なタイミングで……」

 

 エアグルーヴは、“彼女”の動きに、若干の不審感を抱いていた。ただし、否定まではしなかった。その行為が悪意の物であると、証明できないからである。

 

「……邪推をしているのかい?それは褒められたものではないな、エアグルーヴ」

 

 “彼女”を同志だと思いこんでいるシンボリルドルフは、エアグルーヴを諭す。

 

「申し訳ありません、会長」

「良いんだ、私も少々、疲れが溜まっているようだ。さて、サポートウマ娘の件だが、現在の状況を確認してみた。要求された条件に該当する者の中で、現在、スケジュールが空いているのは二人ほどだ。」

 

 シンボリルドルフは、サポートウマ娘の現状を見て、そうエアグルーヴに伝える。この様な状況になっているのは、当然“彼女”の行動の影響である。

 

 

 

 

「少ないですね…では、この二人をどうしますか?」

「2人に7人をサポートさせることは、容認できない。陳情が早かったセイウンスカイ、スペシャルウィークのトレーナーの下に、サポートウマ娘の紹介状を送るとしよう」

「…左様ですか。会長、個人的に、懸念していることがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「聞こうか」

「今回のサポートウマ娘の陳情、その原因は、銀翼のウマ娘が、サポートウマ娘を囲い込んでいるからではないかと、私は推測します。このような、集団単位でのウマ娘の囲い込みは、ウマ娘達のレース生活に、悪影響を及ぼすのでは無いですか?」

 

 エアグルーヴは、同世代のサポートウマ娘達を囲い込み、日に日に力を蓄える“彼女”達を警戒していた。それ故の意見であった。

 

「成る程、だが、サポートウマ娘達は、確かなやる気を持って彼女達の元で仕事をしている。むしろ以前より、意欲の向上が見られるんだ。それを阻むことは、自由を是とするこの学園の理想に反している。だが、今は確認されて居ないことでも予防措置は大切だな。今後、サポートの強制、度重なるサポート依頼や慰留要請が行われないとは限らない、そのことに関しては、風紀委員やサポートウマ娘の教官に、発生しないように警戒するよう、通達しておくとしようか」

「…承知いたしました、では、直ちに手はずを整えます」

「分かった」

 

 常に“彼女”は合法的に、物事を進めていた。それに、普段の素行も非常に良いものだった。

 

 “彼女”に疑いを向けるものはいた。

 

 ただ、その疑いを“気のせい”にしてしまうほど“彼女”の姿は様々な層から好印象に写っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『末脚を使ってきたサクラナミキオー!上がってきた!行けるか!?否か!?頭一つ分抜けた!サクラナミキオーゴールイン!!』

 

 夏合宿から帰ってきてしばらく、私はトレーニングの合間に、ラジオをつけ、菊花賞のトライアルであるセントライト記念の中継を聞いていた。

 

 出走していたサクラナミキオーは、見事、優勝を勝ち取っていた。

 

「よぅし……」

「良かったね、クロちゃんの友だち、勝てたんだね!」

 

 私より遥かに大きな声で、ツルマルツヨシが反応する。彼女はレースのために調整を行っていた、花火の日のこともあり、私は彼女と合同でトレーニングを行っていたのである。私もシューズを変えたので、彼女は調整相手にはもってこいだった。

 

「クロ先輩、ツヨシ先輩、描き終わりました。まず、クロ先輩ですが、各コーナーでの立ち上がりでの脚の角度、もう少し浅くできれば、加速力が増加するかと思います。次にツヨシ先輩は、最終コーナーでの振る舞いです。少々インを意識しすぎていますから、視点をもう少し先に移すと、気合いがうまく走りに乗るようになり、他のウマ娘への牽制になるはずです」

 

 そして、私はアマリイーグリーナに、トレーニングのサポートについてもらうことにした。身体の弱いメジロアルダンのサポートについていた彼女は、ツルマルツヨシにはそれを上手く応用したサポートを行っている。

 

 トレーニングのサポートを続けさせていることにより、アマリイーグリーナの絵も、段々と実用的な技術になりつつある。

 

「じゃあ、さっきリナちゃんが言ったところを意識して、シメにもう一本やろうか」

「うん!」

 

 私はツルマルツヨシの返答を聞いた後、ストップウォッチを持つ白子と富士田に、もう一本行くと合図を送った。

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、これは?」

「これ?少し面白いものを考えてみたの」

 

 数日後、私達の自習室にオンワードトライブがやってきた。彼女は私達にノートを差し出し。付箋がついたページを開くと、そこには、簡単な絵が書かれていた。五角形の枠の中に、色々と書いてある。

 

「これは…?」

「私は絵があまり得意な方では無いのだけれど、これは、マークのつもりで描いたのよ。リナ、頼みたいことがあるの、これを清書することはできるかしら?」

「はい、これなら10分程度で、仕上げる事が可能です。今すぐ取り掛かりますので、お待ちを」

 

 オンワードトライブに頼まれるや否や、アマリイーグリーナは色鉛筆を持ち出し、絵を清書し始めた。

 

「できました」

「おお~」

「成る程…」

「気に入ってくれたようね、これは、五角形の枠の中に、籠目模様を入れているの、それでその籠目の6つの頂点は、芝、ダート、障害競走、サポートウマ娘と、トレーナー、ファンを表しているわ、籠目の上に配置してあるバラの花束は、ファンからのプレゼントを象徴するもの、そして、羽ペンは私達銀翼のウマ娘を表しているの」

 

 六芒星じゃなくて、籠目模様だったか、世界史のやり過ぎだな、これは。

 

「これは、私達のシンボルマーク、誰か、刺繍が得意な娘は居ないかしら?」

「ハ、ハイ!!私がやります!!」

「モズレーね、じゃあ、頼むわ」

 

 手を上げたのは、アマリイーグリーナの友人で、最近仲間入りしたサトノモズレーだった。彼女は親族にサトノダイヤモンドとかいう才能の塊がいるらしく、そちらの方を大事にしている一族を見返したいらしい。

 

「でも、どうして刺繍を?」

「これを、私の勝負服に縫い付けて欲しいの」

「勝負服ですか?じゃあ、先輩はG1に…」

 

 アグネスワールドが、恐る恐るそう質問する。オンワードトライブは、現在、七夕賞、新潟記念と、重賞を連勝している身、脚部不安も感じられず。そろそろそんな具合だろうとは思っていた。だが、何に出るのだろうか?

 

「ええ、私が出ようと思っているレースは──」

 

 オンワードトライブの決意、それは、私にとって、とても喜ばしい物だった。

 

 

 

 

 そして、菊花賞当日…

 

『セイウンスカイ、なんとか耐えきった!スペシャルウィーク、キングヘイロー、サクラナミキオー、よく頑張りましたがセイウンスカイが粘り勝ち!!』

「いやー流石の勝負だったな!今後が楽しみになる2人だよ、セイウンスカイとスペシャルウィーク!!」

「来年が楽しみだなぁ!!」

 

 サクラナミキオーは負けた。だが、彼女ははよく頑張ったと言える。

 

 三冠を捨てた私に失望し、セイウンスカイとスペシャルウィークを持ち上げ始めたファン達は、それに気づいていないのだ。

 

 サクラナミキオーは、ターフの上で、掲示板を見つめている。そして、口を開けた……多分“すまねぇ、姉貴”と言っている。

 

 あの様子だと、どうやら姉が居るのは、確かなようだ。

 

 キングヘイローは…“ばかね…私…もう、誰も見ていないじゃない…これじゃあ、やっぱりあの娘の…”

 

 成る程、そういうことか、私の考えを受け入れるか否か、迷い続けて、ヤケクソで走って……こうなったのか。

 

 それに、セイウンスカイも、スペシャルウィークも、久しぶりに歓声を浴びせられたことに酔いしれている。敗者になぞ、見向きもしないだろう。

 

 キングヘイロー、精神が限界だな。とはいえ、ここで潰れては困る。

 

 私達は、舐め合い通りに降り、サクラナミキオーを迎える。舐め合い通りには、当然他のウマ娘達もいる。当然彼女らも泣いている。その姿を目に収めておきたかったのだが、目を逸らすとバレるかもしれないので、我慢する。

 

「おまえら………悪ぃ…一人にしてくれ…」

 

 サクラナミキオーは、そう言って控室の方に戻っていった。私は他のウマ娘と別れ、キングヘイローを待つことにした。

 

 キングヘイロー…彼女を慕うウマ娘は少なくない。そのあたりにどう対応するのかを確かめておきたいのだ。

 

 バヒュン!

 

 そう考え、壁に寄りかかっていた私の横を、赤褐色の髪のウマ娘が勢いよく通り抜ける。

 

「カワカミ…さん…どうしてここに?」

「私、応援に来ましたの!本当に本当に、今回も素敵でしたわ!!豪脚、末脚のキレ…そして何よりも…どんな場でも足を止めない、美しい姿!!私、大好きです!!」

「………」

 

 カワカミプリンセスに少し遅れ、ネコ目のウマ娘とボブヘアのウマ娘が、キングヘイローの所に駆け寄る。

 

「キングーッ!!お疲れ様!!本当に、三冠路線走りきったんだね!!」

「本当に凄かったぁ〜……!私も三冠、いつか走れるように頑張る〜!」

「……」

「キング」 

 

 キングヘイローのトレーナーはキングヘイローに、そう語りかける。ここからじゃ見えないが、おそらく前に立っているのだろう。

 

「……君にはまだ、支えてくれる人がいる。大丈夫だ、ここにいる3人も、それに俺も、信じてるんだ」

 

 ほう。

 

「何度負けても、君は立ち上がるって…!」

「────ッ!!」

 

 髪の揺れる音が聞こえる。あらら、あのトレーナー、ジェンガを崩してしまったようだ。雪崩に巻き込まれぬよう、トンズラするとしよう。

 

「貴方は!負けってものを分かっていないから、そんなことが言えるのよ!私にとって、負けるってものはね、奪われることなのよ!!今まで積み重ねてきたものが、全て!!」

「キング!!」

「キングさん!!」

 

 うるさい。ここまで聞こえる。

 

 でも、よく言った。さて、私は彼女を待つとしよう。こんなことを言った後、大抵の人間が行くところなんて決まっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はトイレの前に寄りかかり、キングヘイローが出てくるのを待った。

 

 ああやって感情が爆発した人間の行動パターンなぞ、分かる。

 

 中に踏み込まなかったのは、カワカミプリンセスらが“そっとしておく”という対応を取らず、追いかけてくる可能性があったからだ。

 

「…貴女…どうして…」

 

 顔を洗い終えたであろうキングヘイローは、出てくるなり私を見る。

 

「キングさんを嘲笑(わら)いに来た………って訳じゃない。あなたに、今の考えを聞きに来たんだ」

「……惨めよ…私なんて、只のへっぽこ。こんな無様な姿を、あの人に見られたなんて考えたら……それでこそ、走らないほうが、百倍マシよ…」

 

 キングヘイローは、そう吐き捨てる。前の彼女なら『私は絶対に首を下げたりしない、諦めない』と言っていたはずだ。飢えとはこうも人を変えるのかと、素直に感心させられた。

 

 さっき、彼女のトレーナーはかける言葉を間違えた。私はそうしない、正解を取りに行く、あいにく採点者はいないが。

 

「何を言ってるの?」

「……え…?」

「ダービーで私と戦った時のあなたは、どこに行ったの?くだらない感傷に浸って戦いを放棄するような貴方に、私のライバルとしての資格は無い!!」

 

 私は、キングヘイローにそう言い聞かせる。

 

「…貴女……どうして…私なんかに…」

「キングさんは、私のライバルだからだよ」

「……でも、私は負けたのよ!貴方が言ってた通りに、ファンも、栄光も、奪われて!!」

「そうだね、でも、それを知ったのなら、“本当の負け”とは違って“いかに上手く負けるか”ってのも、出来るんじゃない?」

 

 ここからは、ネコが歩くかのごとく、慎重に行く、負けを否定することを言っておきながら、部分的にそれを肯定するダブルスタンダードを使うからだ。心がボロボロの相手とはいえ、油断はしない。

 

「……いかに…上手く?」

「…そう、勝者が勝利の美酒に酔う中で、研究して、分析して、奪う側が取り切れないぐらい、自分の技を用意出来る。そんな…次に繋げることができる負けだよ。今日のキングさんの走りは、何だか変だった。そのままズルズル行ったら、“奪われるだけの負け”を、繰り返すだけ」

「……」

 

 反論はしてこないし、目にその色も見られない。質問をしたあと、とどめを刺しに行く。

 

 そして、ここからは難しい話題は出さない、マキャヴェリとかもお預けだ、理論臭くなる。

こんなズタボロの相手には、理論や知性に関するものではなく、インパクトを出して感情に訴える方がうまくいく。

 

「ねえ、キングさん。さっきも言ったけど、今日のあなたの走りは、なんだか変だった。キングさんが走る裏には、私達とは違う、誰かの影がある…私には、そう見えた。どう、違う?違わない?」

「……貴女の言う通りよ」

「なら、その誰かを振り向かせようとするのは、もうやめようよ。でも、これは逃げじゃない」

「逃げじゃ…ない…?」

「そう、キングさん、あなただけの“一流”を目指してみない?“キングヘイロー”らしい、一流をね?」

「…私以外の誰かのための一流じゃない…私だけの……一流…」

 

 私は、無言でコクンと頷く。

 

「………ふふっ…何よ、それ……とっても面白そうじゃない…!」

 

 キングヘイローは、微笑んで、そう言った。頃合いか、そろそろ帰らせよう。

 

「…あ、キングさん、そろそろ行かないと、ライブに遅れちゃうよ?」

「本当ね、じゃあ、私は行くわ…………いや、その前に…」

「…どうしたの?」

「…ありがとう」

「…!」

 

 私は笑顔を作り、コクンと頷いて、それに応えた。

 

 そして、確信した。狂った心のバランス、この国とは全く違うイレギュラーな思想、そして、今日の敗北…様々なもので、キングヘイローは変わったのだろう。

 

 少し、申し訳無い。

 

 そんな気持ちが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──まぁ、ある訳がない。

 

 私がやったのは、道路のゴミを掃除するようなこと──要はアドバイス的な物に過ぎない、変わることを選んだのは他ならぬ本人の心だ。

 

 それで、私は彼女に恩を売った。彼女を取り込むお膳立てが、やっと整った。

 

 もし、三女神が私を見ているのだとしたら──“長らくおまたせしました”と言ってやりたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “彼女”とキングヘイローのやり取りから、数分後のことである。

 

ガチャ

 

「キング!!」

「キングさん!!」

 

 キングヘイローは、控室に戻って来た。

 

「ごめんなさい、さっきは取り乱して。頭を冷やしてきたから、もう大丈夫よ………ねぇ、トレーナー」

 

 キングヘイローは、取り乱したことをその場にいた全員に謝り、トレーナーに話しかける。

 

「何?」

「私、決めたことがあるの」

「…決めたこと?」

「お母様を振り向かせることは、やめにするわ」

「キング?」

「これからは、誰かの為じゃない、私のための、私らしい一流を、目指す事にするわ」

「……!」

「これは、今までの私とは違う、新しい事……でも、覚悟は出来ているわ。貴方は、どう思う?」

 

 キングヘイローは、自らのトレーナーに、そう問いかける。

 

「……俺は君のトレーナーだ、答えは決まってる……その覚悟、受け取った」

「私たちも、応援させて頂きますわ!!」

「キングならやれるよ!」

 

 トレーナーに続き、カワカミプリンセスと取巻きのウマ娘が、そう声を上げた。

 

(……クロさん、ありがとう)

 

 キングヘイローは、心の中で“彼女”に再び、礼を言ったのだった。

 

 

 

 

 ──マキャヴェリは、この様な言葉を残している。

 

 “危害を加えられると信じた人から恩恵を受けると、恩恵を与えてくれた人に、より以上の恩義を感じるものだ”と…

 

 キングヘイローは、まさに、この状態であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかしら?」

「カッコいいです!」

「良かったわ」

 

 菊花賞から数日後、オンワードトライブが、自らの勝負服姿を、私達にお披露目した。

 

 胸部にはサトノモズレーの作った刺繍飾りがあしらわれている。プロ顔負けじゃないか。私とて、こんなに上手くは出来ない。

 

 そして、その勝負服を身に纏い、私達の前に現れた彼女は

 

 “貫禄あるウマ娘”

 

 と言うに相応しい雰囲気を纏っている。

 

「当日の天気予報は晴れ、この勝負服も、このマークも、きっとファンの皆様の目に焼き付くはずです」

「ありがとう、リナ…貴女の言う通り、焼き付けてくるわ、そして、私は絶対に──秋の盾を獲ってみせるわ」

 

 彼女が出るといったG1レース…それは、秋の天皇賞だった。

 

 そして、オンワードトライブの対戦相手であり、秋の天皇賞の優勝候補──サイレンススズカは、私が出る予定の、ジャパンカップへの出走──そして、その結果によれば、海外遠征を検討しているのだ。

 

 つまり、このレースは、オンワードトライブの栄光の舞台であり、私の情報収集の場でもある。

 

 私の計画はこうだ。

 

 サイレンススズカが圧勝したこの前の毎日王冠。そして秋の天皇賞での戦いを記録し、分析する。

 

 そして、ジャパンカップで…

 

 あのウマ娘とそのファンの海外遠征の夢を、破壊してやるのだ。

 

 

 

 




お気に入り登録、評価、ありがとうございますm(_ _)m

今回の後半部分は、キングヘイローの菊花賞時の育成イベントを参考に執筆しました。

今回、サトノモズレーというウマ娘が出てきましたが、彼女はウマ娘によくいる“名有りのモブ”で、主人公の行動によって生じた影響力を象徴するために登場させたものです。彼女は、オズワルド・モズレー(※ケネディの事件の関係者とは別人です)という人物を名前のモデルとしています。

また、今回登場したマークのイメージ画像を拙いながらも作成したので、貼っておきます。


【挿絵表示】


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