転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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 書くの苦戦しました。
 


第2話 -伴侶-

 

 

「ふぅ」

 

 ドアの前であるトレーナーは、深呼吸をする。彼はトレーナー歴の長い、ベテラントレーナーであり、教え子の中にはG1に出走したウマ娘もいた。

 

 単体ではなく、複数のウマ娘を育成していた、それは彼の実力と経験を示すのには、十分と言えよう。

 

 そして、彼はドアをノックする。

 

「どうぞ」

 

 部屋の中で、彼女はそう答える。

 

「失礼する…て、うおおおっ!?」 

 

 即席の面談スペースに入った瞬間、そのべテラントレーナーは驚いた。彼が最初に認識したのは、ナイアガラの滝の様に垂れ下がる、芦毛の髪の毛だったからである。

 

「……」

 

 彼女は無言で元の姿勢に戻り、椅子に座り…

 

「ご足労いただき、感謝します、さあ、始めましょうか」

 

 とにこやかな顔で言う、しかし、その顔は、ただ、笑顔を貼り付けたに過ぎず、脳内では…

 

(トップバッターがこれか)

 

 という、落胆の思いを浮かべていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…では、結果を待っているよ」

「はい、お気をつけてお帰り下さい」

 

 ベテラントレーナーを退室させ、私は一息つく、アレはあまり良くないな。

 

 トレーナー選び、それは、私の第一関門。

 

 理想を言うのなら私の性分を知っても平気な人物…まあ、私と同じ変わり者の類だろう。それも病的なぐらいの。

 

 だけど、流石にそれは、高望みし過ぎなのかもしれない。ただ、滅茶苦茶真面目な生徒からアウトローな雰囲気が漂う生徒、少しイタい生徒、十人十色の生徒がいる学園なので、私はトレーナーもそうであるという希望的観測を持っている。

 

 それに、シンパシーを感じた相手との人間関係は、全く合わない相手とのそれよりは、構築しやすいらしい。

 

 クラスメンバーの一人であるアグネスワールドは、アメリカ生まれの日系アメリカウマ娘、その出自から、先祖代々人間関係の構築に苦労してきたそうで、“外から来た”私にシンパシーを感じ、最初に話しかけ、マイペースな私がクラスに慣れる大きな力となった。

 

 そんなこんなで、トレーナー選びは、私にとっての最重要事項だった。

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

 私は、魔法瓶に入れたコーヒーを飲む。

 

 今私がやっていること──面接は、コーヒーを淹れるのと似ているのかもしれない。

 

 コーヒーを淹れる際、一般的な紙フィルターを使うと、フィルターが様々なものを濾し取ってしまい、結果として香りや栄養分が減少する。

 

 ただ、豆の粉を直接煮るトルコ式の淹れ方となると、それらを満遍なく体内に取り入れる事が出来る。

 

 選抜レース後によく見られるグラウンドでウマ娘を囲んでのスカウト。

 

 様々なトレーナーが同じ場所にいる、これでは新人の萎縮や、個人の性分による遠慮が生まれてしまい、自分の言いたいことが言えないといったことが起こる。そう、つまり、フィルターがかかってしまう。

 

 それに対し、面接では一人一人と話すので、こういったことが起こらない。自分の考えを、勿体ぶらずに相手に伝える事ができる。

 

 手間というデメリットを考えても、破壊(私を満たすこと)をし続けるための人材を確保するには、最適な方法だ。

 

 しかし、ただ面接するだけでは、場数を踏んだ者が有利になるし、質問を予測される可能性があり、急な事態、異質な事態への対応力が測りづらい。

 

 要は私に合う“可能性”を測るためのものさしを用意する必要があるということだ。

 

 だから私はこの空き部屋に何故かあった折りたたみの鉄棒を使い、体操服を着て逆さまでぶら下がって相手を待ち、入室時の反応を見ることで、それを測ることにした。

 

 そして、質問は、私に合うかどうかのテストが半分、あまり関係のないものがもう半分。嘘に関しては問題ない。見破れる様な勉強は前世でやっていた。

 

 さて、もうそろそろ時間だし、またぶら下がろうか。

 

 

 

 

 

 

「お気をつけてお帰り下さい」

 

 物事、思うようには運ばないこともある。

 

 この次が終われば、面接は終わりだ。ここまで面接をやってきて、トレーナーにも多様性があることが分かってきたが、多様性のベクトルが違う、多様性があるのは、性格ではなく、トレーニングプランとか、育成理論とか、そのあたりだった。

 

 まだだ、マイナスなことを考えると思考力が落ちる。

 

 コーヒーを飲み、飴玉をなめて、気分転換し、次に備えるとしよう。

 

 

 

 そして、すぐに時間はやって来た。 

 

「どうぞ」

「では、失礼す──ふむ…」

 

 珍しい、冷静なタイプだ。とはいえ、今までゼロだったわけじゃない、プラン通り、降りて着席する。

 

「ご足労いただき、感謝します、さあ、始めましょうか」

 

 私は、相手の男性トレーナーに着席を促す。

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 相手は、椅子に座る。そしてまず、1つ目のテストだ。

 

「今の気分はどうですか?」

 

 これで、先程の行為を叱るような事があれば、かなりのマイナスポイントとなる。

 

 だって、たづなさんに預けた希望者宛ての配布物には“きちんとした心構えでお越しください、入室時から面接は始まっています”と書いたのだから。

 

 さあ、どう反応する?

 

「君が見せた先程の行為にユニークさを感じさせて貰ったよ、私は君のことをよく知らないので、少しばかり緊張していたが、君のユニークさで、それも和らいだ、つまり、リラックスできているという事だな」

 

 長いけど、悪くはない回答だ。

 

「なるほど、リラックスしていただけているのであれば、こちらも話しやすいものです。」

 

 さて、質問を続けていこうか。

 

 

 

 

 そして2つ目のテストだ。

 

「現在、競走ウマ娘のトレーニングのやり方で、管理主義と自由主義がありますが、それに関しての簡単な意見を聞かせてください」

 

 これは完全に私の性分に直結する質問になる。これで徹底管理主義であることが分かった場合は、即刻アウトだ。

 

「む……なるほど、それに関しては、どちらが良いとか、悪いとかの二元論に陥るべきではないと、私は思っている。過度な自由はオーバーワークを招き、過度な管理は、精神をすり減らすからな。ウマ娘の好みや適性を考慮し、相談した上で、両者のバランスを取っていくことが重要だろう」

「なるほど」

 

 ふむふむ、悪くない。どちらの考えにも寄らず、目の前の現実を見つめながら判断することは大事なことだ。

 

「では、次の質問をします」

 

 

 

 

 そして、最後のテスト。

 

「最後の質問です。あなたはトレーナーをどのような存在であると捉えていますか?」

 

 これは、相手の独立心を測る質問だ。色々と意見を聞いてきたけれども、ここで出る答えは似たものばかり──“ウマ娘の夢を叶える手伝いをする存在”だとか“ウマ娘と共に歩む存在”という様な答えだ。

 

 そのおめでたい言葉の裏には、名誉だとか、金銭欲だとかいうものがあるのに、皆、それを抑圧して綺麗事を言ってしまう。

 

 私は素直な意見を聞きたいだけなのに。

 

 さて、この男は、どう反応する?

 

「…私はもちろん、ウマ娘の夢をかなえる存在だと捉えている」

 

 うーん…また「だが、」

 

 だが…?

 

「それよりも、私は、トレーナーという存在は、歴史の立会人だと思っている。最も近いところでレースをするウマ娘を見つめ、その活躍の裏側を知っているのだからな」

「なるほど」

 

 これは興味深い、踏み込んでみよう。

 

「そのことについて気になったので、質問を一点、貴方がもし担当を持ったとして、そのウマ娘がオグリキャップのような大変革を起こすウマ娘だった場合、貴方はどうするのですか?」

 

 私がやろうとしていることは破壊、私が満足するだけでなく、周囲にも何らかの影響を及ぼすことだろう。

 

「む……恐らく私は、それを楽しむだろうな」

 

 そう来たか、理由を聞く。

 

「その理由は?」

「君の言う大変革、それは先の読めない時代の到来であると、私は勝手に解釈させてもらっている、でも、私は逆に思うのだよ、そういった状態こそ、“面白い”のではないか…とな、私は立会人であって、主役ではない、だから、その時にウマ娘達がどうしていくのか、気になってしまうんだ」

「なるほど」

 

 ……よし、ここらで切り上げよう。

 

「では、質問は以上です。お気をつけてお帰り下さい。」

「ああ、それでは」

 

 そして、私は最後の一人を帰し、面接を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 後日、結論を出した私は、相手の所へと向かった。

 

 最後の一人のあのトレーナー…彼に決めた。

 

 もちろん、他の候補者の面接結果、私の持っている知識、使えるだけのものを使って熟慮した結果である。

 

 放課後、私は、彼を呼んだ、彼はすぐにやってきた。

 

「ふむ…呼び出されたのは、私のみか…では…」

「はい、私は、貴方のスカウトを受けたいと思います」

「それは良かった、私はトレーナーの白子(しらね)、よろしく頼む」

「よろしくお願いします」

 

 私は相手のトレーナー──と握手をした。

 

「では、トレーナーとして、最初に君に言っておく、私に対して、特にかしこまる必要はない」

「…」

 

 私は白子の目を見た、特に、何か裏があるとかいう目ではない。恐らく、おカタく行くのは彼のスタイルにあらず…ということなのだろう。

 

「分かった、じゃあ、気兼ねなく行かせてもらうね、立会人さん」

 

 私がそう言って相手の肩をポフリと叩くと、相手は苦笑しながら…

 

「そちらのほうが元気そうで良い」

 

 と言い…

 

「では、立会人として見せてもらう、君の紡ぐ歴史をな」

 

 と言ったのだった。   

 

 その後、私達は親睦を深めるべく共に食事へと向かった、お代はあちらの奢りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、入浴を済ませた後、考え事をしていた。

 

 白子──彼は自分の事を、歴史の立会人と言っていた。

 

 事実、今日じっくりと話してみて、私はそれを確信した。何故トレーナーになったのか聞いたところ、彼は“諸行無常を一番見ていられるから”と答えたのだ。

  

 要は、彼は見て愉しむ、傍観者なのだ。

 

 そして私は、現在のところ最良の選択をしているだろうという結論に行き着いた。

 

 これは、私が前世の学びの過程で知った、『ニーメラーの詩』のおかげだった。

 

彼ら(ナチ)が共産主義を攻撃したとき、私は自分が多少不安だったが、共産主義者でなかったから何もしなかった。ついで彼らは社会主義者を攻撃した。私は前よりも不安だったが、社会主義者ではなかったから何もしなかった。ついで学校が、新聞が、ユダヤ人等々が攻撃された。私はずっと不安だったが、まだ何もしなかった。彼らはついに教会を攻撃した。私は牧師だったから行動した―しかし、それは遅すぎた』

 

 これは、攻撃と言う名の破壊を見た、ある牧師の言葉。

 

 彼は、繰り返される破壊に不安を感じつつも、何もしなかった人間だった。結局傍観者のままの人間だった。

 

 いや、この時代に至っては彼だけじゃない。

 

 英国やフランスだって。

 

 それにアメリカだって。

 

 ドイツ国民だって。

 

 見ているだけだった。

 

 みんな傍観者だった。見ているだけの人間だった。

 

 そして、破壊は成った。

 

 その時、多分、私達人間は証明してしまったのだ

 

 

 

 

 

 

 “傍観は破壊の最高の伴侶なのだ”と。

 

 

 

 

 





コメント、誤字、文法の誤りなどありましたらお気軽にお寄せ下さい。また、ユーザーページへのリンクができるようにしておきましたので、興味のある方はご覧ください。


さいごに、この小説の表紙についてなのですが、PowerPointを使用して表紙のイラストを試作しました。2つあるうちの1つを仮の表紙としたいと思いますので、アンケートへの協力をよろしくお願い申し上げます。



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