転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第30話 -布告-

  

 サクラナミキオーが天皇賞春を制してから数日後、私達には大きなニュースが3つ飛び込んできた。

 

 一つ目は、白子から伝えられた、サイレンススズカが目を覚ましたことである。何と、彼女には、復帰の意思があるとのことだった。ただ、しばらく眠っていたので筋肉はかなりしぼんでしまっており、復帰にはかなりの時間を要するだろう。

 

 まあ、サイレンススズカはこの際、あまり気にしなくてもいい、大切なのはスペシャルウィークのことである。ルームメイトが無事だったことで、敗北のショックから立ち直りつつあるのだ。仕上がりの良い物ほど、壊しがいがあるので、私としては非常に嬉しい。

 

 ただ、スペシャルウィークのトレーナー…確か、武田と言ったか…まあ、兎に角、彼はスペシャルウィークをいい所まで行かせる事は出来るも勝ちきれない、負け続きの無能トレーナーと、ネット掲示板等で話題になりつつある。上手く連携が取れるのやら。

 

 

 二つ目は、セイウンスカイが脚部不調で休養に入ったこと、この話を聞いた後、私は思わず笑ってしまった。あまりにも入ってきたのが早すぎたのだ。この情報を私がつかんだのは、セイウンスカイとそのトレーナーが休養を決定した翌日──当然、学園内で噂になる前からである。アマリイーグリーナが仕入れてきたのだ、彼女を引き入れて正解だった。

 

 

 三つ目はサクラナミキオーの姉が、帰らぬ人となってしまったことである。天皇賞春の直後に、容態が急変したらしい。ただ、当時の彼女の怪我の程度は、サイレンススズカよりも酷かったらしいので、いつ死んでもおかしくなかった状態だったのかもしれない。

 

 こうなれば、サクラナミキオーのメンタルが心配にはなるが、彼女は…

 

「姉貴…アタシを見守るために、頑張っててくれたんだな、これからも見ててくれよ」

 

 と、涙を流しながら言っていた。彼女は姉の宿願を果たし、今度はその遺志を継ぐ。実に良い傾向だ。人間の死は、心を引き裂く爪になるだけではない、それをきっかけに新たな変化をもたらす引き金ともなる時があるのだ。信長の跡を実質的に継いだ秀吉のように。

 

 

 

 

 

 

「タイム、どうなった?」

「以前のデータと比較して、安定度が高まっている。この調子でいくとしよう、脚や腰に違和感は感じないか?」

「異常無し、ただ、ちゃんと休養日はもらうよ」

「もちろんだ」

 

 ただ、そんなビッグニュースに、いつまでも目をときめかせている時間は、私には無い。宝塚記念の日は、刻一刻と近づいている。これまで私は無敗でやって来た。だから、私を狙うウマ娘も多い。だから、ただただスピードを求めるのではなく、様々な走法で、安定したタイムを出すトレーニングも行わなければならなかった。大変なことは、これだけではない。

 

「ドトウ君、協力に感謝する」

「お安いご用です~クロ先輩は…ドジな私にも、気を遣って下さいますから…そのための、恩返しができたらなって、いつも思ってたんです」

 

 調整に使うウマ娘が、一つ下のメイショウドトウと、少々頼りないのだ。アグネスワールド、エアジハードは安田記念の準備、サクラナミキオーは休養、キングヘイローは私と同じく宝塚記念の準備、ツルマルツヨシはその併せ役、アマリイーグリーナは詳細不明ながらも“大事な用事”…といった具合に、かなりのメンバーが忙しい状態である。私達が活躍する──すなわち、黄金世代中心の世論を破壊するのに必要なプロセスである以上、しょうがないのだが。

 

「ドトウ君、自分をドジであると決めつけない方が良い、君も、銀翼のウマ娘の一人、多くの仲間に支えられている上に、クロウ君とのトレーニングにより、力をつけてきているのだからな。」

 

 そう言って、白子はこちらに目を向ける、何か言えってことだろうか。

 

「ドトウちゃん、確かドトウちゃんには、越えたい人達がいるんだよね?」

「は、はいぃ…ですけど、その三人には…今の私では…とても」

 

  ─溜息をつきたくなってきた。ここまでマイナス思考だと、周囲も影響されかねん。まあ、それがこれの性分なのだから、仕方が無い。少し話してやろう。

 

「いいんだよ、人それぞれ道は違うし、それを歩くペースも違う、もちろん、道中で転んじゃうこともあるだろうね」

「…」

「でも、転んだ分だけ、ベストな歩き方に近づける…そう、思わない?」

「…確かに、そう言う解釈も、出来ると思います」

「その気持ちがあれば、今は十分、ドトウちゃんが頑張ってる姿は、見てるから」

 

 私はそう言って、メイショウドトウの頭に手を置いて、撫でてやる。耳が揺れる、真夏の蚯蚓かよ。

 

「先輩…ありがとう…ございます。少しずつですけど、これからも頑張りますね」

 

メイショウドトウは、小さくガッツポーズをした。白子風に言うのならば、彼女は恐らく「運がいいが、それを活かす気力が足りない」というパターンなのだろう、ただ、マイナス思考気味なので、キングヘイローよりも扱いには難儀するが。

 

 とは言え、今日の事で少しはやる気が向上しただろう。本番まで役に立ってもらう。

 

 

 

 

 

 

 

『エアジハードが上がって来た、先行するアグネスワールドと激しい競り合い、これは一騎打ちだ!!』

 

 エアジハードも、アグネスワールドも、互いに負けまいと、必死に競り合っているのだ、私が見ていたのは、グラスワンダーだった、彼女は、競り合う二人から、2バ身ほど離されている。

 

『2人がもつれるようにゴールイン!エアジハード、わずかに体勢有利か?』

 

ただ、彼女が弱いのではない、アグネスワールドとエアジハードが、別次元の走りをしていたのだ。

 

『勝ったのはエアジハード!クビ差でかわしました!』

 

「ちょっ!?マジかよ」

「シーキングザパール、残念だったなぁ!」

「私はグラスワンダーに勝って欲しかったわね…」

 

 ギャラリーは喜ばしい反応をしているとは言えない、当然である。今回のレースは“アメリカ帰りのベテラン、シーキングザパールに黄金世代のグラスワンダーが挑む”という構図だった。

 

「勝って脇役かぁ…悔しいなぁ、道のりは、長いもんだね」

「言わせておきましょう、私だって、経緯は違いますが悔しいです。だから…一騎打ち、ドッグファイト、決闘…、そんな勝負をやりましょう、私達で、もう一度…マイルチャンピオンシップで」

「なるほど、一度やって駄目なら、もう一度やろうってことだねぇ」

「はい、ただし、今度はジハードちゃんの好きにはさせません」

「望むところ、翼のため」

「はい、翼のため」

 

 ファンを前に、“ヒール上等”の精神で、スローガンを交わし合い、再戦を誓い合う二人、そして、そこから少し離れたところにいるグラスワンダー。彼女が地面を殴りつけたのを、私は見逃さない。

 

 そして、再戦を誓い合う彼女たちの勝負服には、刺繡で作られたであろう、白黒ツートンのマークが付けられていた。

 

その夜、私はサトノモズレーと会い、あのマークについて聞いた。私の予想通り、あれは二人が依頼したもので、アマリイーグリーナが二人にデザインについて聞き、それを清書し、それを基にサトノモズレーが縫ったという。

 

「あれは、オンワードトライブ先輩の付けていたマークが、基になっています。白黒ベースだと、どの勝負服でも似合いますから」

「凄い…私にも、作ってくれないかな?宝塚記念は、それをつけて走りたいって思ってるんだけど」

「もちろんです!」

 

 褒める、そして、頼む、こんな簡単なセットで、サトノモズレーの顔は、ぱっと明るくなった。

 

「リナも私も、大体の作り方は確立できたので、いつでも伝えて下さいね!」

 

アグネスワールドがシーアンテロープ(竜の落とし子)、エアジハードがマンドリルの腕という具合に、どうやら、動物を自らのイメージキャラクターとしているらしい。それならば、すぐに浮かんでくる、善は急げ、すぐにデザインを考えよう。あまり時間はかけていられない。

 

 

 

 

 

 

 そして、それから数日後、宝塚記念の出走メンバーの最終決定版が発表された。

 

 だが…

 

「…」

「君の言いたいことは分かる、なぜ、アサヒクリーク君がいるのかだろう?」

 

 そう、今回の出走者には、どういう訳か、あの戦闘狂お嬢様のアサヒクリークがいたのである。

 

「うん、あの娘は名古屋のウマ娘だよね?」

「ああ、普通のG1では、稀にあることだが、このグランプリレースでも、地方のウマ娘が出れないわけではない。数年前に規則の改訂があったので、アサヒクリーク君はそれを利用したのだ」

「へぇー」

「…無関係なようだが、彼女が出走できたのは、君も関わっているのだよ」

「私が?いや、白梅賞の時は協力したけど、今回は何もしてないよ?」

 

 さっき、白子は規則云々言っていたが、私はそれに関わった覚えはない。そもそも、私はまだ地元にいただろうし。

 

「これまでの功績により、君は多くのウマ娘から慕われる存在となった。だが、同時に、君だけとは戦いたくはないというウマ娘も、作ってきたのだよ。それは、今回の出走人数に、如実に表れているはずだ。」

 

1ステイゴルディオン

2プレーンクラウド

3オースミブリトー

4スエヒロデストロン

5グラスワンダー

6インターフロック

7マチカネフクキタル

8マヴェリッククロウ

9スペシャルウィーク

10キングヘイロー

11ローゼカボット

12アサヒクリーク

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……12人、確かに少ないね、確か、フルゲート18人のレースだよね?」

「ああ、今回のレースは、間違いなく激戦が予想される。それ故、投票上位のウマ娘も、回避を選んだ者が少なくなかったのだよ、メジロブライトが回避しているだろう?彼女がその一例だ。」

 

 まさか、メジロブライトが出走するつもりだったとは、彼女の去年の成績を見て、夏に弱そうだったから、いつかは夏にガチンコ対決して熱射病にでもしてやろうかと思ったりはしたのだが、これは残念だ。

 

「でも、この、私以外の11人は…」

「ああ、君を倒すため、全力でかかってくるだろう。だから、君に一つ、大事な事を教えておこう。いいか、────────だ。」

「了解」

 

 なるほど、確かに、確かにそうだ。

 

ピリリリリリリ!!

 

 納得した私が脳内で白子の言葉を反芻していると、呼び出し音が突然鳴り出した。私のではない、という事は白子のものだ。

 

「私だ。ああ、彼女なら目の前にいる。分かった、代わるとしよう。」

「だれ?」

「声を聞けば、分かる」

 

 私は白子から携帯を受け取り、スピーカーモードにする。

 

「…もしもし」

「マヴェリッククロウさん!お久しぶりですわ!!」

 

耳をつんざくような大きい声、その声のせいで、とってつけたようになっているお嬢様口調、最後に会ったのは、かなり前だったが、すぐに誰か分かった。私はスピーカーモードを切る。

 

「久しぶり、アサヒクリークさん」

「ええ、その様子だと、出走表はご覧になったようですわね」

「うん、でも、どうして私に?」

「そんなの、決まっているでしょう?宣戦布告をするためですわ、貴女とは、いつか、戦いたいと思っていましたから」

「……!」

「……マヴェリッククロウさん?」

 

 宣戦布告、それをされたのは、もう一年も前だ、日本ダービーの時に、キングヘイローにされたっきりだ。久しぶりのことなのだ。自然と口角が上がる。恐らく犬歯が出ているな。

 

「クククッ……フフフッ……全力投球で行くからね?勝っても負けても、恨みっこなしだよ?」

「その全力投球…場外ホームランにさせて頂きますわ!!」

 

と返してきた。

 

 

その言葉が、私の……心なのか、本能なのかは分からないが、ともかく、私に火をつけた。

 

その修練の成果を

 

今まで積み上げ来た策を

 

破壊してやろうと

 

その戦意を喰ってやろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来ました!」

「先輩、どうぞ」

 

 そして、宝塚記念の直前、サトノモズレーとアマリイーグリーナに頼んでおいた、私のマークが完成した。私が頼んだデザインは、カラスのデザインである。それも、白い身体に赤い瞳──つまり、アルビノのカラスだ。

 

 アルビノ個体は、普通の個体とは違う、遺伝子的におかしい個体だが、その体色から、捕食者に狙われ易いという。とどのつまり、他のウマ娘とは異なり、破壊を望む私に、宝塚記念…いや、これからも、多くのウマ娘に狙われることであろう私に、ピッタリの言葉なのだ。

 

「どう?」

「凄く似合ってます」

「同じくです!」

 

 早速マークをつけ、目の前の二人に見せてやる。この反応からすると、似合っているのだろう。私の勝負服は、“シマウマ”ほど細かくはないが、白黒ツートンである。上手くマッチしてくれたようだ。

 

「ありがとう、リナ、モズレー」

「……!」

「先輩…!」

 

 二人は、私の声を聴き、驚く。それは、私が彼女たちをちゃん付けではなくて、呼び捨てで呼んだからだ。私は全ての後輩に、基本的にちゃんをつけるので、これでこの2人に「更なる信頼を得た」とでも思わせておけば、今後も役立ってくれる事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「用意は良いか?」

「もちろん、バッチリだよ」

「よし、では、あの日の言葉をもう一度、復唱しておくとしよう」

「了解…────────────────────────…きっちり、頭の中に入れておくよ、じゃあ、行って来るから」

 

 あの後、特に何もなく、私は宝塚記念の本番を迎えた。今回は出走数が少ないというのに、大層な人数である。

 

「……!」

 

 控室を出て、通路の向こうに目をやると、アサヒクリークが立っていた。彼女は無言で顔をニッとさせてこちらを見、指差し、その指を首にやった。大方“貴方を倒すのはこの私ですわ”とでも訴えかけているのだろう。だから、私も胸に手をドンドンとやり“来るなら来てみろ”と返してやった。すると、向こうもそれを理解したのか、頷いてパドックの方へ駆け出して行った。

 

「貴女とやり合うのは、しばらくぶりになるわね」

 

 そして、アサヒクリークを見送った私に話しかけて来たのは、同じく出走するキングヘイローである。

 

「キングさん」

「貴女には悪いけど、今回勝つのは私、運だけじゃなく、実力も、策謀も身に付けたキングの走りを、見せてあげるわ」

「それは、私だって同じことだよ、面白いレースになりそうだね」

「ええ」

 

 キングヘイローは、歩き去っていった。すると、今度はスペシャルウィークが、私の前にやって来た。

 

「クロさん、レースをするのは、ダービーぶりですね」

「…そうだね」

「お互いに、いいレースをしましょう!私、日本一のウマ娘になる夢は、まだ諦めてません、だから、今日、絶対に貴女に勝って見せます!」

「望むところ、いいレースにしよう」

 

 スペシャルウィークに差し出された手を取って、私は握手をした。G10勝の彼女だが、根性はある為、底力はある。それに、そもそもの末脚は鋭い、油断はしない。

 

 さて、私もいくとしよう、そう考えた時のことである。

 

「エルは貴女に気を付けろと、私に言いました」

「……!」

 

 ……グラスワンダーか。

 

「驚かせてしまったようですね」

「大丈夫、それにしても、エルコンドルパサーさんが…私の事を…」

「はい、あのエルが“気を付けろ”と、わざわざ警告して来たのです。私の出走が、決まるや否や…」

「……」

「こちらは有記念で、既に貴女に一度負けている身…私が気持ちで負けないように、あの娘なりのエールを送ってくれたのでしょう」

 

 なるほど、エルコンドルパサーはあの夜の事は言ってない訳か。まあ、そりゃそうだ、あれはあいつの想像力の欠如から生まれた結果だ。

 

「その気持ちを、私は無駄にするわけにはいきません。私、グラスワンダーは、貴女に、真剣勝負を申し込みます。互いに全力の……真っ向勝負を」

 

 なるほど、武士風だな。なら、こちらもそう返すとしよう。前世の私の先祖には、老齢になっても戦い続けた、有名な武将もいたことだし。

 

「うん、こっちも全力で行かせてもらう、真剣勝負だよ、グラスワンダーさん」

「はい」

 

 グラスワンダーは、私の反応を確認し、おしとやかに微笑むと、一礼をして去っていった。

 

 4人から宣戦布告されるとは、私も人気者になってしまったものだ。

 

 

 

 

 

 

『今年もやってまいりました、夢のグランプリ。発走時刻が近づき、ウマ娘達が次々とゲートへと向かっています』

 

 パドックでの紹介が終わり、ゲートへと向かう私達。実況の声が、観客を盛り上がらせる。実況の言う通り、このレースは夢のグランプリ。ファン投票で選ばれたウマ娘は、夢の具現化。私に挑戦して来たウマ娘だけではなく、それらの夢を打ち破るのも、私の目標である。

 

『皆さんの夢はどの娘でしょうか?……私の夢は、サイレンススズカです。』

 

「……!!」

 

 私は思わず、実況席の方を見た。いま、この実況者は、何を言った?

 

“私の夢は、サイレンススズカ”

 

 そうか、そうか、つまりお前は、そんな夢を持っているのか…だが、選手としてのサイレンススズカは、今は死んでいる。

 

 駄目じゃないか、死んだ奴が出てきては、なら…ここにいるギャラリーや、ブン屋さんの記憶の中に刻みこまれ、生きる、サイレンススズカを、私が─

 

「──してやる…」

 

 誰にも聞こえない音量で、そう呟いた。そう誓った。

 

いや、サイレンススズカだけではない。アサヒクリークも、キングヘイローも、グラスワンダーも、スペシャルウィークも、見えなくなるぐらいの走りをしてやる。

 

私という、アルビノのカラスが。

 

 





お読みいただきありがとうございます。

新たにお気に入り登録をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

ご意見、ご感想等、お待ちしています。

最後の主人公の発言は、色々な解釈ができるようにしています。また、主人公のマークは、次話公開と同時に載せたいと思いますので、お待ち下さい。
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