今回は客観的に銀翼のウマ娘を見たシチュエーションで執筆致しました。名前のあるキャラクターが多く登場しますが、レースのモブのような扱いで読み進めて頂けますと幸いです。
また、話の性質上、今回は長めになっております。ご了承ください。
日本に帰ってきて数ヶ月、生徒会活動は大変だった。庶務長はドリームトロフィーリーグに集中するために生徒会を抜けてしまったし、エルコンドルパサーさんの海外遠征でURAも生徒会も盛り上がっているし、夏合宿も近づいている。
ルドルフ会長からの呼び出しがあったのは、そんな時だった。
「私に調査を?」
「ああ、と言ってもこれは、エアグルーヴからの提案なんだ」
「副会長が?」
「彼女はあの娘たちをあまり良く思っていないが、私は期待している部分がある、私達二人のどちらかが調べると、それは不公平になる」
「確かにそうですね」
「君は寮生ではないし、何よりも真面目だ、それに、シーキングザパールの海外遠征に同行して、しばらくここから離れていたから、調査にバイアスは発生しにくい。だから、君にこの件を任せたい、そして、第三者の視点からの、所感を添えて、報告して欲しい」
「承知致しました」
私は生徒会長室を出て、廊下へと出た。
ルドルフ会長の性格と夢に触れ、努力して生徒会に入って数年、会長から個別に大きな仕事をもらうのは初めてだ。
私が依頼されたのは、銀翼のウマ娘の調査。
しばらく海外にいたから、彼女達に対する知識は薄い、応援している訳でも、否定している訳でもない。
ただ、自由な校風のこの学園で特定の生徒に対する調査というのは、あまり気が乗らない。
でも、会長に忠誠を示す、絶好の機会であることに間違いはない。
たとえ相手が、安田記念でパールさんを打ち負かした相手だとしても、それはそれ、これはこれ。
完璧に、迅速に、忠実に。
私は義務を果たす。
依頼を完遂させるべく、まず、私は、信頼できる友達を頼ることにした。接触するのは、メジロアルダンさん。銀翼のウマ娘のアマリイーグリーナさんのサポートを受けていたウマ娘だ。
「すみません、アルダンさん、わざわざ時間を作っていただいて」
「いえいえ、友人として協力するべきですし、生徒会の皆様には、日頃からお世話になっていますから」
「ありがとうございます、私は今、銀翼のウマ娘の皆さんについて調べているんです、アルダンさんには、銀翼のウマ娘について教えていただきたいんです」
「…リナ達の事について…?」
アルダンさんは怪訝な顔をする、当然の反応だ。
「はい、銀翼のウマ娘の皆さんは、チームという形ではなく、学年や立場の壁を超えて生徒の皆さんが結びついた形、それが私達ウマ娘にどのような影響を与えるのか、学園をウマ娘達の理想郷にしていくためにも、生徒会はそれに大いに注目しています。ですから、このようにして調査をしています」
「成る程、納得致しました。リナから色々と聞かせて貰っていますから、協力致しましょう。では、まず銀翼のウマ娘が、どのようにして生まれたのかを、説明させて頂きます」
「お願いします」
「銀翼のウマ娘の皆さんについて語る上で外せないのが、同世代のウマ娘である、黄金世代と呼ばれるウマ娘の皆さんの存在です。黄金世代の皆さんは、未デビューのウマ娘達の中でも輝く、太陽のような存在でした」
「確かに、そうでしたね…」
この学園の競走ウマ娘のクラス構成は、選抜一つでその他は横並びという構成だ。入試の能力検査の結果でデビュー後の将来性を判断される。もちろん黄金世代は選抜クラスだった。
このシステムは外部の人からすると色々と思うところもあるだろうけど、競走ウマ娘が走るのはトレーニングだけじゃない、普通の授業でももちろん走る。
差を見せつけられた結果無理をして怪我をして、選手としての生活に支障が出るのは避けるべきだ。だから、こんな風になっている。
それで、アルダンさんが話題に上げた黄金世代は、私の目で見ても輝いていた存在だった。もちろん、生徒会としても、大きな期待を寄せていたウマ娘だった。
「しかし、その一方で、他のウマ娘達は、トレーニングでも選抜レースでも、上級生である私達の会話の中でも、常に黄金世代と比較されていたのです……そんな中、現れたのが、マヴェリッククロウさんでした、芝よりも人気の低いダートで活躍する彼女の姿は、そのようなウマ娘に、希望として映ったのだと思います。ですが、銀翼のウマ娘の皆さんが共同体となり得たのは、やはり、マヴェリッククロウさんと懇意だったオンワードトライブさんの影響が大きいのではないかと」
「ブライアン副会長の同期の方ですね」
「はい、オンワードトライブさんは、温厚篤実な性格で、サポートウマ娘の皆さんに慕われていました。マヴェリッククロウさんや、そのクラスメートの皆さんは、オンワードトライブさんを慕い、教えを請い、結果が出れば報告とお礼に行っていたそうです」
オンワードトライブさんは、脚の病気で療養と復帰を繰り返していたウマ娘だ。どんな時でも落ち着いていて、聞き上手だった。私がいない間に地元に帰ってしまったのは、とても残念に思う。
「リナもオンワードトライブさんを慕っていました。恐らく、あの方は、銀翼のウマ娘の皆さんの、精神的支柱だったのだと思います。ですから、銀翼のウマ娘は、オンワードトライブさんを精神的支柱とした、比較されることの多いウマ娘達が、互いに支え合い、高め合う事によって、力をつけていく……そのような共同体として、生まれたというわけです」
「成る程……」
「ですから、あの方が学園を去ることを決意した際、私は心配しました。リナが自分の個性を伸ばせる場所が、消えてしまうのではないかと思いましたから……でも、それは杞憂でした。オンワードトライブさんが抜けた際、彼女たちは確かに悲しんでいましたが、立ち止まる事なく、様々なウマ娘達が、個性を伸ばしながら、仲間として支え合い、時にライバルとして高め合うという精神のもと、頑張っていますね」
「…個性……仲間…ライバル……と…」
「そして、今、銀翼のウマ娘の皆さんは、今、夏合宿に向けて準備を進めている真っ最中だそうです。この前リナとお茶をしたのですが、トレーニング後に手軽に食べられる物について聞かれましたね……今後が楽しみです。それで、そちらはこれからのどうするおつもりですか?」
「……自習室に行き、彼女たちに直接聞いてみる事を考えてみたのですが、それですと、向こうに“生徒会から何らかの疑いをかけられている”という誤解を与えてしまいかねませんから、少し、悩んでいます」
「そうですね……彼女たちは、私達よりも多感……誤解を与え、生徒会の皆さんを疑うようになってしまえば、会長さんの理想とは、離れた結果を招くことになりますから…」
アルダンさんは、目を閉じ、悩む。アマリイーグリーナさんのことだけでなく、銀翼のウマ娘達のことも心配しているのだろう。この思慮深さは、本当に尊敬できる。
「……あ!」
何かを思いついた顔をしたアルダンさんは、鞄の中をがさごそとやり、ペンと小さな便箋のような物を取り出した。
そして、アルダンさんは、ペンを走らせ、こちらにそれを差し出す。
「……これは…?」
「メジロ家の屋敷で行われるパーティーへの招待状です、このパーティーは、主に最近勢いのあるウマ娘の方を招待して、URAやスポンサー企業の方や、勝負服の作成者の方とのご縁を作る場になっています。そして、これには確か銀翼のウマ娘の方も、何人か招待していたはずです、これに参加すれば、世間話という体で、様々な方からリナ達について聞けますし、勿論銀翼のウマ娘の方とも交流可能です。どうぞ」
「…ありがとうございます」
「いえいえ」
そう言って、アルダンさんは、微笑みながらこちらに招待状を手渡した。
アルダンさんからパーティーに招待されたのは、思わぬ収穫だった。
ただ、それまでには少し時間がある。パーティーの準備に充てても、余るぐらいの。
「……あれは…」
「あと30メートルです、皆さん踏ん張りどころですよ!」
「うん…あと、もう一踏ん張り!」
「…や、やゔぉ〜る…」
「ラストスパート!」
どうしたものかと考えながら歩いていたら、いつの間にかトレーニングスペースのところまで来てしまっていたようで、私の視界には、タイヤ引きをするウマ娘達が映っていた。
私は直ぐ側の木の所に腰を下ろして、それを見る。
タイヤを引いているのは、ホッコーチランさん、コパノティルピッツさん、ワルダーアウグストさん、ダート適性の高い三人組で、食堂でよくお茶をしているのを見る。
後ろ姿しか見えないけど、トレーニングを見ているのはサトノモズレーさんだろう、そう言えば、去年ぐらいから“サトノのウマ娘はG1に勝てない”というヘンなジンクスが、一部のウマ娘やトレーナーの間で、囁かれるようになったような……でも、サトノモズレーさんは私と同じサポートウマ娘だから、そんなのを気にせずに、気楽に、自由にやれているのかもしれない。
「ありゃりゃ〜今日は先客さんがいましたか〜ここ、お気に入りの涼みスポットだったのに〜」
「ひゃっ!?」
急に話しかけられたから、驚いた。この生徒は……
「セイウンスカイさんですか、驚かさないで下さい…そういうのは、あまり得意ではないんです」
「それはそれは、失礼しました、それで、生徒会の庶務さんが、どうしてこんな所に来たんです?」
セイウンスカイさんは、肩の後ろで手を組みつつ、私にそう聞いてくる。
「ちょっと考え事をしながら歩いていて、気がついたらここに、それで、たまたまあの四人の姿を見つけたので、ここに座って見ていました」
「あの四人…えーと…どこの誰かな」
セイウンスカイさんも、私と同じようにトレーニングコースに目をやった。タイヤ引きは終わっていて、三人組は肩で息をしている。
「こんな事、言っちゃ駄目なんですが、セイちゃん、あんまりいい気分がしませんね〜」
セイウンスカイさんは、そう呟いた。彼女は黄金世代の一人、じわじわと力をつけつつある銀翼のウマ娘には、複雑なものを感じているっていうことだろう。
「銀翼のウマ娘の皆さんの事ですか?」
同情するような顔をして、問いかける。
「……私もたまに、彼女達の力の伸長について感じます」
「………そうですか…庶務さんも…そんな風に……庶務さんは、あの娘達について、どう思ってるんです?」
食いついた、セイウンスカイさんには申し訳ないけど、これはルドルフ会長からの依頼…私にはそれを完遂させる義務がある。
「そうですね……銀翼のウマ娘の皆さんは、チームでも、クラスでも無い、立場を超えた、ウマ娘達の、新たな共同体の形、前代未聞のものですから、注視するべき存在ではあります」
「そうですか……庶務さん、私、この通り、今ケガの治療中なんです。この世界に生きてるから仕方がないとは思います。でも、たまに思うんです……“サポートウマ娘がついていてくれたら”って…」
「……その事については、私も話は聞いています」
サポートウマ娘の数は、そこまで多くはない。ドリームトロフィーのウマ娘についている生徒、教官の手伝いをしている生徒、少しだけど、生徒会や委員会活動に専念する生徒……これでだいたい半分だ。
つまり、残りの半分を、トレーナーやチームで取り合う形になる。エアグルーヴ副会長は、銀翼のウマ娘がその半分のサポートウマ娘を独占することを危惧していた。
だけど、サポートの無理強いとかの問題行動は無かったし、何よりもサポートウマ娘のやる気の向上ぶりに凄まじい物があったから、生徒会としては、特に咎めることもなかった。
そもそも、競走ウマ娘は周囲との信頼関係なくしてはやっていけない。
だから、セイウンスカイさんには悪いけれど、公平的な立場からこの件を見ると、彼女は完全に出遅れていて、今更何を言っても嫉妬にしか聞こえないと判断するしかできない。
ただ、これをオブラートに包まないまま言うのは明らかに駄目なので、私は私で、出来ることをやろうと思う。
「…サポートウマ娘については、本人達の意思がありますから、仕方がない部分はあります。ただ、ケガの療養については、何らかの対応が必要ですから、今度の会議の際に、ルドルフ会長に、湯治を行うウマ娘に対しての支援の強化と、ケガからの復帰の支援体制の見直しを提案します」
「…ありがとうございます……庶務さん、少し、セイちゃんの言葉を、聞いてくれませんか?」
私は頷いて、少し身体をセイウンスカイさんの方に寄せて、傾聴の姿勢を取る。
「たまに、“あなたさえ居なければ”と思う娘が居るんです。あの娘が来たから、掻き回されて、あの娘が来たから、奪われて、あの娘が来たから………わたしたち……何だかヘンになっちゃったんじゃないかって…」
あの娘とは、マヴェリッククロウさんのことに違いない。ただ…あの娘が来たからと言うのは、大いに違和感を感じる。人生何が起きるかは分からない。
オグリキャップさんが来て大暴れしているとき、アルダンさんは周囲の力を借りつつ、上手く負の感情を処理していたのを、よく覚えている。だから、私は…
「セイウンスカイさん、私は、そちらを取り巻く事情について、大まかな知識しか持っていません。でも、病は気からです。今はケガを治すことに集中したほうが良いと思います。走れるようになったら、負の感情も、自然と晴れてくるかもしれません。落ち着いて、ゆっくりと考えていきましょう、それでも苦しいときは、私達生徒会や、先生の皆さんを頼って下さい」
セイウンスカイさんにとっての最優先事項であるケガの治療とそれに伴う休養が、この感情を解消する上でのヒントではないかと判断した。
「…そうですか……私、落ち着いて考えるべきなんですかね……横になって、じっくり休んで…でも、庶務さんに聞いてもらって、ちょっと、楽になった気がします、ありがとうございました」
私の言葉を聞いたセイウンスカイさんは、正門の方に向かって歩いていく。
セイウンスカイさんにああ言った手前、提案の件はやらなければならない。
彼女の姿が見えなくなった後、私はメモ帳を出し、セイウンスカイさんが話してくれたこととを書き留めた後、提案の件を、やることリストに書き込んだ。
『それでは、今日招かれたウマ娘の皆さんの今後の活躍を期待して…乾杯!』
「乾杯!」
黄金世代の一人、セイウンスカイさんとの接触後、私は教官の人にも話を聞き、パーティー当日を迎えた。
参加はルドルフ会長にもちろん伝えていて、私は「夏合宿への準備で多忙な生徒会上層部の代理」という体で、このパーティに参加している。
メジロ家主催というだけあって、URAの偉い人はもちろん、月間トゥインクルの編集部員や大東西新聞、帝都一新聞などのメディアの人、エルコンドルパサーさんやグラスワンダーさんの勝負服を作成した事務所の人などの、豪華なゲストが揃っている。
ウマ娘の方も、ドリームトロフィーリーグの予選を順調に勝ちぬいている先輩のウマ娘や、ジュニア級の期待されている人などの豪華メンバーが揃っている。
「…マヴェリッククロウさん、メイショウドトウさん、アグネスワールドさん、コパノティルピッツさん、メレンゲジョセフさん、テイエムメルカバさん、ショットカルシチーさん…」
もちろん、マヴェリッククロウさん達、銀翼のウマ娘達もいる、それも、競走ウマ娘だけでなく、サポートウマ娘の人も。
「生徒会はどうですかな?」
「スポンサーの皆様のお陰もあり、問題なく業務を行えています、今後とも、トレセン学園を宜しくお願い申し上げます」
「いやはや、それは良かった」
ゲストとの会話を行いながら、マヴェリッククロウさんの方を見る、やはり新聞社の人に囲まれていた。後から行ったほうが良い。
「現在エルコンドルパサー君は海外遠征中、君はどう思うかね?」
「私は選手として走ったことは有りませんので、あまり多くは言えませんが…体調管理をしっかりとしていれば、やってくれると信じています」
「同感だ、我々がデザインした勝負服が、世界を彩る、こんなに素晴らしい事はない!」
「私も、凱旋門賞当日が楽しみです」
だけど、こうやって偉い人と話している度に、私は自分の仕草について不安に思う。生徒会役員として、日頃から気をつけているとは言え…だ。
「ファンやメディアの目は、平地競走に行ってしまいがちだが、私は障害競走もそれに負けない魅力があると考えている。君達には期待しているよ」
「ありがとうございます、身に余るお言葉です。学園で待っている友達にも、伝えておきます」
「ハハハッ!それは嬉しい、今後の活躍も、ぜひとも見させて貰おう」
「メレンゲジョセフ君、私どものビデオカメラは、気に入ってくれましたか?」
「トレーニングは研究!そしてレースは実験!ビデオカメラはそれを素晴らしいものにする鍵です、あのビデオカメラのお陰で、私は新境地に至れそうです、これからもよろしくお願いします!」
「その心意気、まさしくサポートウマ娘に相応しいものですね」
だけど、銀翼のウマ娘の人たちは、ゲスト達とも上手く話していて、話のウケも良い。隣のテーブルにいるメイショウドトウさんだって、緊張気味ではあるものの、十分すぎるレベルの会話をしている。
少し時間が経ったので、私は動くことにした。接触するのは、メイショウドトウさん、教官の人曰く、マヴェリッククロウさんが愛弟子のように可愛がっている後輩だそうだ。
「あ、庶務さん、庶務さんも…来てたんですね」
「はい、ルドルフ会長の代役ではありますが…あれ?今日は、お揃いの耳飾りを付けていないのですか?」
「はい〜今回はあくまで、一人のウマ娘として呼ばれた身ですから」
私はあたりを見渡した、確かに、銀翼のウマ娘達は、お揃いの耳飾りを外し、リボンだったり造花だったりを付けたりしている
「そうだったのですね……しかし、マヴェリッククロウさんは凄いです、完全に、今日のパーティの主役ですね」
「はい〜クロ先輩は、私みたいなウマ娘にも優しくて、気を使ってくれる人ですから…周囲の皆さんが、自然と惹かれるのも…よく分かります」
「はい…先輩は…とにかく凄いんです、クラシック級の時から見ていて─」
メイショウドトウさんは、マヴェリッククロウさんの活躍を話してくれた。
「成る程、さすが、銀翼のウマ娘のリーダー的存在ですね」
「リーダー…ですか?」
私の発言に対し、メイショウドトウさんは首を傾げる。
「確かにクロ先輩は、銀翼のウマ娘の名前を考えた人ですけれど…私達に何か指示をしてる訳じゃ無いですよ…?」
「…!そうだったのですね、勉強不足でした」
「いえいえ、謝らないで下さい〜!」
メイショウドトウさんが、少し慌てた様子を見せたので、私も急いで姿勢を戻した。
私を誘ってくれたメジロアルダンさんや、URAに就職した先輩達と話しつつ、私は時間を潰した。そして、マヴェリッククロウさんの周りから人がいなくなったタイミングを見計らい、私は動いた。
「マヴェリッククロウさん」
「あっ…確か、生徒会の庶務さんの…お疲れ様です」
私が話しかけると、向こうは私のことを覚えていたようで、ペコリと頭を下げて挨拶をした。
私はマヴェリッククロウさんを見る、ミホノブルボンさんやブライアン副会長のように、主張の激しいスタイルではないけれど、よく整った顔立ちに、しっかりと手入れされた髪と尻尾、いつもとは違う、バラの耳飾りをつけた耳、ドレスを着ていても分かる、鍛えられた肉体。清潔感の中にも、強さを感じる風格だ。
「宝塚記念、見ていました。おめでとうございます」
「ありがとうございます、ですが、学ぶ機会の多いレースでした、特に途中のアレですね」
途中のアレというのは、出走していたあるウマ娘が、マヴェリッククロウさんを囲んだものの、スパートをかけたウマ娘の尾でたまたま視界が塞がれ、ブロックを外してしまったことだろう。
「勝てど学ぶ点を探すその精神、同じウマ娘として尊敬しています」
「…嬉しいです」
向こうは照れくさそうに笑い、軽く頭を下げた。聞くなら、今だ。
「ですから…マヴェリッククロウさん、この場をお借りして、一人のウマ娘として、ぜひともお話を聞かせて頂けませんか?」
「喜んで、そっちのほうが、この豪華な料理も美味しくなります」
私達はプレートに料理を取り、テーブルに向かった。
エアグルーヴ副会長は、マヴェリッククロウさんのことを疑っているみたいだから、当然、生徒会に入るのは嫌がるだろう。一応、質問をしておこう。
「マヴェリッククロウさんは、同級生達からではなく、後輩の皆さんからも人気があるようですが、ゆくゆくは我々生徒会に入られるつもりなのですか?」
「いえ、全く考えてませんね、心労が増えるかもしれませんから」
「ふふっ…はっきり言われるんですね」
「あっ、人にあまり言わないでくださいね」
「大丈夫ですよ、そう言えば、少しマヴェリッククロウさん達、銀翼のウマ娘の皆さんについて、気になっている事があるのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
「銀翼のウマ娘の皆さんは、後輩の皆さんからの人気が高いようですが、そういったウマ娘達を受け入れるつもりは無いのか、気になるのです」
その質問をすると、マヴェリッククロウさんは少し考えた表情をした。
「そうですね……まず、私達はあくまで、互いの個性を尊重し合って、時には仲間、時にはライバルとしてに邁進し合うことを目指す共同体ですから、人数は、いまので限界に近いです」
「…限界に近い?」
「はい、規模が大きくなりすぎると、一人一人が、私達の目指す姿というのをしっかり認識するのが難しくなったり、フォローしきれなくなることが起きるって思ってます。私達は学園内での権威や権力を目的にしてるんじゃないんです、私達の生徒としてのゴールは、メンバー全てが、後悔ない学生生活を過ごせることですから」
「…なるほど、マヴェリッククロウさんは、無闇に規模を拡大しないことによって、ウマ娘達が暴走することや、メンバー間での連携不足が発生することを、予防してるんですね」
「はい、でも、私達が閉鎖的なコミュニティでないってことだけは、伝えておきたいです。内外問わず、私達は様々な人と、人間関係を作ってます。現にあそこにいるメレちゃんは、新入生の指導教官の人の手伝いをしてます」
メレンゲジョセフさんのことは、教官の人も話していた。言い回しは独特だけど、やることはしっかりやっていると。
「そうなのですね」
「分かって貰えたようで、嬉しいです」
マヴェリッククロウさんは、安心したような笑顔になって、料理を口にした。
もう少しで、十分な情報が集まる。頑張ろう。最後に聞くのは、あの言葉についてだ。
「あの、マヴェリッククロウさん、あと一つだけ、よろしいでしょうか?」
「もちろんです」
「『翼のため』とは、どのような意図で使っておられるのですか?」
これに関しては、何としても聞く必要があると思っていた。この間一緒にケーキを食べに行ったスマートファルコンさんは「あの言葉を聞いて良い顔をしない友達がいる」と言っていたし、私がよくお世話になった教官の人は「ユニークで良い」と言っている。そして私は、仏教の題目みたいだと思っている。つまり、反応が分かれる言葉ということだ。
マヴェリッククロウさんは、少し考える様子をしている。
「そうですね……色々な人々との縁で成り立った翼を、忘れず、これからもその翼を、より強く大きいものにしていくという、確固たる意志を表すためです」
彼女が全日本ジュニア優駿を勝ったときのインタビューが思い出される。マヴェリッククロウさんは、再び口を開く。
「でも、それは、込めた二つの思いのうちの一つです」
「…?」
「…この言葉を考え、私達と共に歩んでくれたオンワードトライブ先輩のご恩を、忘れないためでもあります………確かに、先輩はもう、トレセン学園にはいません、ですが、私達の恩人であることに、変わりはありません。私達の活躍を、見守ってくださっています。この言葉は、私達が夢のため、常に前を向いているんだと、先輩に示すためでもあるんです」
「……」
マヴェリッククロウさんは、外を見ながら、そう答えた。
パーティから2日後、調査記録をまとめ終えた私は、ルドルフ会長、エアグルーヴ副会長とナリタブライアン副会長の前で、報告を行うことになった。
「…以上が、調査報告になります。銀翼のウマ娘の皆さんは、周囲の人々との関係が良好であり、マヴェリッククロウさんを始め、律義者かつ教養のあるウマ娘達が多くいるため、自らトラブルを起こすような行動には出ないと思われます。ですが、彼女達が活躍する一方で、怪我の治癒時のサポートウマ娘の不足や、他のウマ娘達が持つ感情といった複数の問題点が、明らかとなりました。前者については、サポートウマ娘のキャパシティには限りがありますから、湯治のサポートや怪我から復帰する際に支援を行うなどのバックアップ体勢の強化を、後者については、競技者である以上仕方ないことであると思うのですが、メンタルケア体制の見直しを図るべきでしょう」
「…分かった、では、銀翼のウマ娘に、我々はどう対応すれば良い?貴様の意見を聞かせてくれ」
「分かりました、私としては、銀翼のウマ娘の皆さんは、チームでも、クラスでもない、新しいウマ娘達の共同体であると捉えたく思います。ですので、無理に干渉、介入することなく、その行方を見守ることが、今後のトレセン学園のためにはベストな選択肢であると思います。ですが、銀翼のウマ娘の皆さんは、その新しさ故、既存のスタイルを通している他のウマ娘との軋轢を生む可能性を内包していることは、注視するべきであるかと思います」
「……成る程、つまり、基本的には普通の生徒と同様に見守っていくが、生徒達の人間関係には、今より一層の注意が必要であると言う訳だね、それと、先程君が上げた問題点は、すぐに理事長に報告しよう、エアグルーヴ、ブライアン、君達はどう思う?」
「……異存ありません」
「……承知」
「…よし、問題ないな、では、今日は解散だ、エアグルーヴ、ナリタブライアン、君たちはもう戻って良いよ」
エアグルーヴ副会長と、ナリタブライアン副会長は、部屋を出た。部屋には、ルドルフ会長と私が残された。
「調査、ご苦労だった、君のお陰で、エアグルーヴの抱えている悩みも緩和される事だろう、これで、夏合宿の監督と、エルコンドルパサーの出走する凱旋門賞のデータ収集を、全力を注いで行うことができる。銀翼のウマ娘達についても、君の言った通り、その行方を見守っていくとしよう、よくやってくれた」
「身に余るお言葉です、私は、生徒会役員としての、義務を果たしただけです」
「…謙遜するな。君の働きは、この学園の生徒達が、無事に、笑顔で学園生活を送る上で、欠かせないものだった。これからは忙しくなる、君にも今まで以上に働いてもらう、期待しているよ」
「ルドルフ会長…ありがとうございます!」
私は嬉しかった、会長のために、学園のために、尽くしていることが、会長によって認められたからだ。
…うん、これからもどんどんと精進しよう。
ルドルフ会長の理想と、秩序ある学園運営を達成するという、私の義務を果たせるように。
より完璧に、より迅速に、より忠実に。
仕事に励もう。
お読みいただきありがとうございます。
新たにお気に入り登録をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m
ご意見、ご感想等、お待ちしています。
最後に、今回の話の主人公、栗毛庶務について、少し設定を書いておきます。
栗毛庶務
シンボリルドルフの理想に憧れ、生徒会に入った生徒会庶務のウマ娘。真面目で他の生徒や教師からの評判が良く、顔も広い。海外遠征を行っていたシーキングザパールのサポートで海外に行っており、しばらく学園運営に関わって居なかったため、銀翼のウマ娘の調査を依頼された。