転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第33話 -小傷-

 

「〜♪」

 

 トレセン学園の夏合宿が行われる、合宿所近くの道路。

 

 スクーターに乗った新聞配達員は、鼻歌を歌いながら、そこを走っていた。

 

「っと…と…」

 

 しかし、周囲の確認は怠っておらず、走路を走るウマ娘を見つけた彼は、危険防止のため、スクーターをセンターラインに寄せた。

 

「…こんな朝早くに走るなんて、真面目なウマ娘だな………しっかしあの娘、新聞に載ってた宝塚を勝ったウマ娘と似てたなぁ…ひょっとしたら、本人だったりして…そうだとしたら、今日は良いことありそうだな!」

 

 彼はそうつぶやき、追い越したウマ娘と“彼女”の姿を重ね合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

 いつものようにシャワーを終え、着替えた私は脱衣所を出る。

 

 ランニングの時、追い越してきた新聞配達のスクーターは、ちょいと珍しい、古い車種だった。エンジンが普通のオートバイと少し違うので臭いのだ。

 

「それで、それでですね─」

「なるほど、なら─」

「はい、というわけで、無事に─」

「それは良かった」

 

 部屋に脱いだ服を置いた後は、食事の時間である。今日はメイショウドトウの報告を聞いていた。

 

 彼女は菊花賞を目指していた。そして、スーパークリークと併せをしたいとか言っていたので、メジロアルダンの時のツテを活かし、交渉を手伝ったのである。

 

 …まぁ、これも破壊のためだが。

 

 世間様の注目は、テイエムオペラオー、アドマイヤベガ、ナリタトップロードの三羽烏にある。このうち、前の二人はそれぞれ皐月賞と日本ダービーを勝っている。 

 

 そして、残るナリタトップロード……彼女が菊花賞の勝利を狙っているという情報を、私は掴んでいた。そして、ここでメイショウドトウが勝てば、ナリタトップロードはどんな事になるのか…楽しみなのだ。

 

 しかし、今回私は、メイショウドトウを手伝うことはあまり出来ない、ツルマルツヨシと共にトレーニングを行っているからである。

 

 その代わり、同級生のサポートウマ娘、メレンゲジョセフが付いている。レースのたびに「実験開始ぃ!!」と叫ぶ変人だが、能力的にはモーマンタイである。名前があのヤバいお医者様に似てるけど。

 

「…じゃあ…先輩、今日も…お願いします」

「うん、トレーニング後に、砂浜にね」

 

 ただ、彼女の希望に対して、10分ぐらい、時間を割く事はできる。

 

 

 

 

 

 

「気候と地面の条件から分析すると、良好なタイムです」

 

 朝食をとった後はトレーニングである。トレーナーは全員会議に駆り出されているので、私は、アマリイーグリーナにトレーニングを見てもらっていた。

 

「ありがとう」

「ただ、荒れたバ場を走る際は、自然と姿勢もそれに合わせて細かく変化するものですから…」

 

 彼女はそう言いつつ、シャッシャッシャッと、手を動かす。彼女の絵の技術は、出会った時よりはるかに素早く、かつ正確なものとなっていた。

 

「…視線はこう、足元はこうという形で、同じ所を、もう一度走って下さい」

 

 さらに、簡素な図も描けるようになっている。図で大まかな把握を行い、絵で細かい部分を吸収する。これにより、サポートされたウマ娘は、より洗練された動きを、通常より早く習得することが出来るのだ。

 

 

 

 

 

 パラパラパラ…

 

「はっ…はっ…はっ…!!」

 

 一通りのトレーニングを終えた後、雨がぱらつく中、“彼女”は砂場でメイショウドトウとの模擬レースを行う。

 

「………踏み込みが足りないよ!」

 

 …と言っても、その実態は、圧倒的な力で“彼女”がメイショウドトウをねじ伏せるだけの作業のようなものだった。そして、メイショウドトウはこの模擬レースをトレーニング後には、必ず行うようにしていた。

 

「………はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 “彼女”に5バ身ほどの差をつけられ、ゴールしたメイショウドトウは、“彼女”を見上げた。

 

「………」

 

 無言でメイショウドトウの姿を見る“彼女”、それと同時に、雨足は強くなり、容赦なく二人を襲う。

 

「……うぅ…また…また…」

 

 こうやって、メイショウドトウは、“彼女”によって、ただひたすらねじ伏せられるだけのレースを続けていたが、これは忍耐力をつけるためであった。

 

 もちろん楽しいはずはなく、メイショウドトウの心的疲労はかなりのものであった。涙を流す日もあった。

 

(でも…すごい力…)

 

 しかし、レースを通じてメイショウドトウの忍耐力や集中力は、少しずつ高まっていった。眼前で見せられる“圧倒的なもの”は、メイショウドトウのモチベーションとなった。

 

「ドトウちゃん、立てる…?雷がでてくるとまずいから、早く戻ろう」

「は…はいぃ…!」  

 

(先輩みたいな力…いつか…私も…)

 

 こうして、メイショウドトウは“彼女”に対して敬意や憧憬の感情を強めていったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングを終えた後は、食事までは、各自自由時間である。早めに入浴を済ませるもよし、追加で自主トレするもよしだ。

 

「……なるほど、これはなかなか」

 

 私たちはというと、入浴後、食事前に冷やしきゅうりに舌鼓を打っていた。これは夏休みの課題として「新たな休憩時の間食の開発」という物を出されていたアマリイーグリーナが、メジロアルダンからの助言を受けて開発したものである。

 

 真夏、それも長時間のトレーニング、失われるのは水分だけではない。塩分やミネラルも失われる。そこで、それらを味をつけておいた冷やしきゅうりで補完する。きゅうりはカロリーが低く、そこら辺の店で簡単に手に入る。つまり、健康面に配慮し、そのついでに合宿所の周辺の経済にも貢献してやるという善行も積むことができるのだ。

 

 

 

「ただいま〜」

「お疲れ」

「きゅうり、出しておきますね」

 

 そこに、浴場から戻ったエアジハードがやって来た。彼女はランニングをしていたので、戻ってくるのが少し遅いのだ。おまけに今日は通り雨も降ったので、余計に遅れたのだろう。

 

「う〜ん!染みる!!」

「もっと作っとかないとな…」

「あ」

 

 サクラナミキオーが残りを確認していた時、エアジハードは何かを思い出したかのような声を上げた。

 

「どうしたの?」

「いやー、こっちに戻ってくる前にさ、なんかケンカみたいな感じになってる人が2人いたんだよ」

「ケンカ…ですか?珍しいですね、学園の生徒ということですか?」

 

 アグネスワールドの質問に、エアジハードは大きく頷き、答える。

 

「うん、1人は分かったんだよ、アドマイヤベガさん。もう1人はよく分かんなかったけど…髪はあまり長くなかった」

 

 アドマイヤベガ……確か、高等部のナリタトップロードのクラスであると記憶している。もう一人については、それだけだと該当者が多すぎる。

 

「へぇ…でも、あの物静かなアドマイヤベガさんがケンカ?」

「うん、もう一人の人に『来ないで!』って強い口調で言ってたんだ」

「夏バテでイライラしてたんじゃないか?アタシら、普通の人間より暑さに弱いからな」

 

 私達の会話にサクラナミキオーが反応する。平気な顔で過ごせる私や母親、地元のウマ娘など例外はいるにはいるが、ウマ娘は夏に弱い者が多い。この間は夏合宿を控え、張り切りすぎの生徒が自主トレ中に倒れ、救急車を呼ぶ羽目になったので、たまたま近くにいた私が救急隊を誘導して同行する羽目になったのは、記憶に新しい。

 

「夏バテかぁ…まあ、私も集中力が落ちるから、そんな事もあるってことなのかな…」

 

 エアジハードは納得したようで、再びきゅうりをポリポリと齧りだした。

  

 アドマイヤベガと誰とが喧嘩していたかは気になるが、そこまで踏み込んでトレーニングに支障が出るのはNGである。彼女は菊花賞でメイショウドトウとぶつかるだろうから、どうか打ち負かされることを願うだけに留めておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少し、私は札幌記念に出走、勝利した。セイウンスカイが出走意志を示していたものの、まだ治癒が万全ではなく、回避。だから私は、テレビの向こうでレースを見ているであろう彼女の目に焼きつくよう、キッチリ走って5バ身位の差でゴールした。そして、ライブもきっちりとやり終え、白子の待つ車へと帰還した。

 

「ご苦労だった」

「ありがとう、ねぇ、私が今回、どんな気持ちで走ったのか分かる?」

「……セイウンスカイの事を、考えていた。違うか?」

 

 私の質問に答える白子はほくそ笑んでいる。ズバリと当てて居るという、確信があるのだろう。

 

「当たり、よく分かったね」

「当然だ。そして今頃、セイウンスカイは、このレースに出走出来なかった悔し涙を流していることだろう」

「そうだね、まあ、私としてはもうそろそろ復活して欲しいところだけど」

「フッ…随分と勝手な意見じゃないか…だが、優秀なサポートウマ娘を囲い込む君の手腕には、光るものが感じられる」

「褒めても何もでないよ」

「まあ、そう謙遜するな、君の力により時代が確実に変わりつつある。そして、私には、それが見えるのだよ」

 

 時代…

 

「へぇ…じゃあ、どういう風に変わってるって感じてるの?」

「君達、銀翼のウマ娘は優秀なサポートウマ娘を多く味方につけている、それ故、トレーニングの効果向上だけでなく、学園の殆どの情報は、すぐに手に入るようになっている」

「うん」

「さらに、サポートウマ娘の囲い込みにより、不調のウマ娘を復帰を遅らせるという戦略も、可能となった」

「そうだね」

「中央は、才能のあるウマ娘の集う場と言われている。事実、ここにいるウマ娘は、君や黄金世代を始め、才能にあふれる人材ばかりだ…だが、もう、レースの勝敗を決める要素は、“走り”の才能なぞではなくなりつつある」

「ふむ…続けて」

「レース前に、いかにどれだけ情報を集め、いかにサポートウマ娘という資源を独占し、レース中にいかに相手を嵌める策を練ったか…つまり…“狡猾さ”の才能が、レースの勝敗を決める…

そのような時代へと、変化しつつあると思うのだよ」

 

 なるほど……

 

「……ふっ…フフッ…フフフフッ……アッハッハハッハ!!」

「…む、気に入ってくれたようだな」

「ごめん…こんなに…笑ったのなんて!久しぶり!……っお腹痛い…フフフフッ………良いじゃん…もし、そうだとしたら、トゥインクルシリーズ、滅茶苦茶になるよ!」

 

 私はとにかく、可笑しくてたまらなかった。しかし、白子は「話はまだ終わっていない」と言い、私に落ち着くよう促す。

 

「時代は変わりつつある…まだ、そういった段階に過ぎん、決定打を撃ち込むのは君だ、この現状を破壊し、焼き捨てるのは君だ」

「もちろん」

「…では、それについて、私から提案がある。失礼だが、耳を向けてくれ」

「…ん」

 

 私は片耳を横に動かす。この程度、容易い。

 

「君はこうして活躍できている…だが、いつかは引退する時がくる、そうだろう?」

「そうだね」

「ならば────」

「………!」

 

 白子はとんでもないことを耳打ちしてきた。

 

「…驚いているようだな」

「当たり前、だってこれ、私がしくじればそっちだってオシマイなんだから。でも、こうやって提案してくるってことは、自信があるってことだよね?」

「その通りだ」

「…フフッ…あなたも中々だね、やってみるよ」

「分かった、では、今後のトレーニングは、先程話した点を、少しずつ意識して行くとしよう」

 

 私はそれに笑顔で頷いた。こんなにも目を輝かせたのは、小学生の時のあのレース以来である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 札幌記念の翌日、私は自室でゆっくり……はしていない。

 

「ごめんね、休養日なのに」

 

 私の視界には、1人のウマ娘──ツルマルツヨシがいる。

 

「大丈夫、今日はどうしたの?レースの話?それとも人間関係の話?」

 

 レースと人間関係、それはトレセン学園のウマ娘の悩みの二大巨頭である。ナーバスになり、他人に相談する話題といえば、大抵この二種なのだ。なかなか勝てないとか、力が衰えて来ただとか、トレーナーを異性として意識してしまったとか、チームメイトがどうも気になるだとか……アンテナを張っていなくても、色々と耳に入る。

 

「…どっちも、かな」

「珍しいね、最近体調がすこぶる良いって言ってたのに」

「体調は大丈夫、だから今回クロちゃんに相談したいのは、そこじゃない……あのね、クロちゃん、最近スペちゃんが…」

 

 言い淀んでいる。両肩に手を置いてやる。

 

「良いよ、私に、全部吐き出して」

「う、うん……最近スペちゃんを見てて、走る気持ちが、全然感じられないんだ、京都大賞典、初めての重賞で、やっと一緒に走れるのに…全然…」

 

 ツルマルツヨシは、その体質のせいで、これまで“見”に回る事が、他のウマ娘よりも多かった。洞察力は高いのだ。

 

「なるほどね…続けて、大丈夫だよ」

「何ていうか…スペちゃん、上の空になってるんだ、スズカさんのことも、中々勝てないってこともあるんだろうけど…」

 

 サイレンススズカは復帰に向け、少しずつ調整をしてきている。中々勝てないというのは、G1のことだろう。それはそうと、次の言葉は言いづらそうなので、代弁してやる。

 

「目に余っちゃうって…ことかな?」

「……うん、でも、今はキングちゃんもセイちゃんもグラスちゃんも…大変みたいだから、誰にも話せなくて…」

 

 そりゃそうだろう、キングヘイローはレースがあるから別だが、後の2人は私のサポートウマ娘囲い込みの影響をまともに受けている。

 

「…クロちゃん、私、どうすれば良いんだろ?」

 

 そして、ツルマルツヨシは私を見つめる。この状況は、私が作り出したのだ。いや…もし、私が介在していなかったとしても、遅かれ早かれ、これは起きていただろう、スペシャルウィークの掲げる日本一とは、抽象的で、アバウトで、ラフな目標なのだから。

 

「…」

「…クロちゃん…?」

 

 だから、私は、明確な意志を示す。

 

「正直、屈辱的。いや、莫迦にされてる気分」

「……!」

「私はスペさんのこと、クラスは違えど、ライバルだと思ってた。私だけじゃない、クラスメート達も、そう思ってるはず。私達は、一人一人じゃ、黄金世代には勝てない、だから翼の名のもとに、皆で支え合って努力してきた。その努力が、今年になって、実り始めてきた。スペさん達に、ライバルだって、胸を張って言えるようになった。なのに…」

 

 私は耳を極限まで絞る。髪と一体化するように。

 

「クロちゃん…」

「ツルちゃん、残酷なことを言わせてもらうよ。スペさんを気にすることは、ツルちゃんのためにはならない」

 

 要点を説明していく。

 

「…それって…」

「…スペさんを踏み越えて、前に進まなきゃいけなくなったって事だよ、今のツルちゃんがやるべきことは、トレーニングを重ねて、迷いを振り払うこと、そして、京都大賞典に、絶対に勝つこと」

「…でも、私とスペちゃんは…」

「…“友達”なのは分かってる。同じクラスだから、仲良しなのも分かってる。それに対して、私は別のクラス。ツルちゃんほど、スペさんを知らない。でも、だからこそ言えることがある」

「……」

「スペさんを気にすることは、ツルちゃんのためにならない、ツルちゃんは、ツルちゃん自身のために、頑張らないといけない」

 

 さっきよりも、目に気持ちを込め、さっきの要点を繰り返す。

 

「ツルちゃんが、会長さんみたいな強くて、いろんな娘から慕われる、ウマ娘になるためには…」

「…待って」

「…」

「…クロちゃんが言ってるのは…スペちゃんを、捨てるってこと?」

 

 ツルマルツヨシが、そう指摘する。やはり、簡単には堕ちないか。

 

「…結果的には…そうなる、もちろん、それが、どれだけ辛いことなのかは分かってる、でも、私はそれ以上に、大事な友達が、他の人の事で迷って、悩んで、巻き込まれて行くのを、見てられない…だから、言ったんだよ」

 

 ツルマルツヨシに向けて、そう言い放ち、私は夕陽の方を向いた。

 

「……」

「……」

「………クロちゃん」

 

 30秒程の沈黙を挟み、ツルマルツヨシが口を開く。

 

「クロちゃんの気持ちは、よく分かったよ。でも、今すぐ答えを出すなんてのは、私には出来ない……だから、今は、トレーニングにだけ、集中するよ」

 

 保留…か……まあ、成功率としては、6割というところだろう。とりあえずトレーニングに集中する気にはなったのだから。

 

 とはいえ、ツルマルツヨシも、私の言うことは理解できただろう。去年の夏以降、私達の姿を、隣で見てきたのだから。

 

「…そうだね、ツルちゃんの言う通り………私も酷な事を言っちゃった。でも、これだけは言わせて?」

「…」

「…いつかは、決めないといけないよ」

「……うん」

 

 ツルマルツヨシはそう頷いて、来た道の方を向き「今日はありがとう」と言って戻っていった。

 

 彼女の心にできた、スペシャルウィークに対する疑問、G10勝であるものの、経験差を根性である程度なんとかしてしまえるスペシャルウィークの才能を考えれば、それは身体に例えると小さな切傷に過ぎないだろう、多少血は出るだろうが、普通は自然と塞がるような…

 

 だが、今日の事で、私はその傷口に指を添えた。ただし圧迫し、止血するためではない。

 

 両側から引っ張って拡げるためである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ツルマルツヨシの相談以降、夏合宿は特に事件も無く進んでいった。

 

 札幌記念以降、私はタイヤ引きのタイヤを押す訓練をやって、グリップを高めた。引くよりも押す方が力がいるので、スタミナやパワーも鍛えられたことだろう。それと同時に特殊なトレーニングもやり、ある技術を身に着けた。

 

 そして、学園へと戻り、今日は、海外遠征へ旅立つアグネスワールドを見送る日である。担任まで来てくれた。

 

「それでは、行って参ります、この大仕事、絶対にやり遂げてみせます」

 

 アグネスワールドは、私達に向けて、一礼する。私達は「身体に気をつけて」や「中継を絶対に見る」など、それぞれ言葉をかける。彼女はその言葉の一つ一つを、頷きながら聞いていた。

 

 そして、最後に

 

「必ず勝ちます、翼のため」

 

 と言い、車に乗り込み、空港へと向かったのだった。

 

 

 

 

「フランスかぁ…凄いもんだね」

 

 そして、戻った後は、フランスについて想像する時間となった。

 

「ロンシャン…全ての競走ウマ娘が一度は夢見る舞台だからなぁ」

「ロンシャンはもちろんすごいけど、私達サポートウマ娘にとっては、フランス料理は研究対象の一つだよ、私は栄養面だけじゃなくて、士気向上に応用できるんじゃないかって思って、色々実験してるんだ」

 

 フランスは格式の高いレースが行われる国であり、ウマ娘を支える料理の面においても、注目されている国である。

 

 まあ、お隣かつ、同じく格式の高いレースが行われる英国の料理が癖の強いものだからという理由もあるだろうが。

 

「へぇ…フランス料理ってどんなのがある?」

「あ、私知ってます。身近なものだとポトフです。先週メレンゲさんが試しに作っていたあのスープですね。あと、スイーツも入れると、マカロンとかミルフィーユとか…」

「先生、よく知ってるんですね」

「私、大学時代にフランス旅行に行ったことがあるんです」

「本当すか!」

「その話、聞かせて下さい!」

 

 ウマ娘達は、担任に近づいていく。

 

「──という感じですね、時差ボケと、現地への不慣れに振り回された旅行でしたね…」

 

 担任は私達に思い出を語った。ロンシャンレース場に行った思い出は、興味深いものだった。

 

「日本に帰ってきた時、ホッとしました?」

「はい、やっぱり日本が一番です………でも…」

「でも?」

「料理だけは、恋しくなりますね…一番美味しかったのは、ホオジロです」

「ホオジロ?小鳥ですよね?」

「はい。目玉が飛び出るほど…たっぷりと太らせて……そして、コニャックにくぐらせるんです。あぁ…たまりません……あの香りと、甘美な味わいの肉……手間暇かけて仕込まれたあの料理は…今でも私の目に、心に、焼き付いているんです」

「わぁ…」

 

 恍惚とした表情で語る担任、そして料理を想像するウマ娘達は、目を輝かせていた。

 

 …ただ、その料理、私の記憶が正しければ前世では禁止されていたもの…この世界では大丈夫なのだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親愛なるパピーへ

 

 

 今日、私は、フランスへ向かうアグネスワールドを見送った後、担任の先生からフランス旅行の思い出を聞きました。

 

 先生がとくに熱を入れて話していたのが、ホオジロを使った料理の話題です。それを聞いた私は、先生の言うホオジロの料理と、自分を囲むウマ娘達とに、共通点を感じていました。

 

 ウマ娘は、普通の人間より闘争心が強く、逆境にも強いことは、あなたも知っているでしょう。私は、クラスメート達には、サポートウマ娘や銀翼のアイデンティティという資源を共有する一方で、黄金世代達、敵となるウマ娘には、妨害工作や引き抜きを行ってきました。

 

 資源を手にしたウマ娘達は成長し、道が阻まれたウマ娘達は、その一部が再起を図ります。その結果、私は戦意、練度ともに高い相手と、勝負ができます。

 

 つまり、彼女らは仕込み十分な料理となるということです。

 

 後は、それらを食べるナイフを用意し、それらを食べる作法を身に着ければ良いのです。

 

 ただ、今の私はその料理を食べるのに相応しい人間であると言えません、より鍛え、より力をつけなければならないのです。私の道は、まだ途中であることを実感させられた一日でした。

 

 じゃあまた、マヴェリッククロウより

 

 




 
お読みいただきありがとうございます。

新たにお気に入り登録をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

今回は、少しばかり“Road to the top”の要素を入れております。また、今回の担任教師の発言は、『COD WW2』のワンシーンを参考にしました。

ご意見、ご感想等、お待ちしています。

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