転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第34話 -影響-

 

万歳!

明日の──時、私は待ちに待っていたアベイ・ド・ロンシャン賞のために、ロンシャンレース場に向けて出発します。

今か今かと待っているところです。

 

今朝、クラスメートの皆とビデオ通話をしました。

勝負服姿じゃないのを見られるのが恥ずかしいぐらいでした。

 

私はもう、黄金世代と比べられる存在ではありません。

 

こういうときに、自分の過去や海外のウマ娘との体格差…つまりは、余計な不安事を考えると、小さく、弱くなります。

 

ですが、今、私のそばには、日本の皆が贈ってくれた、素晴らしい贈り物があります。

 

皆と共に作り上げてきた、銀の翼のことを考えると、明日のレースは私が挑むのではなく“私達”が挑むものであると考えると、大きく、強くなれるのです。

 

                                     

──アグネスワールドの海外遠征記録より。

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しました」

 

 授業が終わった後、トレーナー室に入ろうとしたら、別の生徒が出てきて、少し驚いた。白子の親戚筋が何かだろうか。

 

「授業終わった、今日もよろしく」

「ああ」

「さっきの娘、親戚か何か?」

「いや、スカウト依頼のウマ娘だ、だが、私は君の道を見届けなければならないのでな、もちろん、丁重にお断りしておいた」

 

 ああ、なるほど、そういうことか、たまに聞く逆スカウトの類か。

 

「あの娘以外にも、誰かここに来た?」

「2、3人ほど来たな、丁重に断る方法はよく知っているから問題ないのだが、理事長が来たときは驚いたな」

「理事長が?」

「ああ、どうやら私にチームを持たせたいらしい、だが、“現在の担当との契約はマンツーマン前提のものなので裏切ることはできない”と説明をしたので、問題は無い、だが、将来チームを持つならば、どのような名前が良いのかは聞かれたな」

「基本は星の名前だよね?何かお気に入りの星でもあるの?」

 

 この学園のチーム名は、基本星の名前である。もっともなぜかは分からない。せめて英単語にしろよ。

 

「いや、特には、だが、名前の希望は出しておいた」

「へぇ…どんな名前?」

「オベロン、天王星の衛星の一つだ、名前の響きが好きなのでな」

「…あんまりそういうのに興味なさそうと思ってた」

「人は、意外な一面を持っていることもあるのだよ、君もそうだろうに」

「ふふっ…確かにね」

 

 私がそう言うと、白子は何かを思い出したかのような顔をした。

 

「そう言えば、アグネスワールド君の後輩を見かけた。何か箱を海外に送ると言っていたが……アレは何か、君は知っているのか?」

「もちろん、私達で、ワールドちゃんに何かを送ろうって話になってね、いろいろ悩んだ結果、あの娘が大好きなこっちのミネラルウォーターを送ることにしたんだよ。普通のやつと、採水してすぐ瓶詰めされた、高級品をね」

「…ふむ…海外の水が合わないということもある、良い考えだな」

「担任の先生のフランス旅行の話を参考にした、私だけじゃ思い付かなかったね」

「……秋の清らかな水“秋水”これは刀に例えられることがある、そのような刀のような走りを、ワールド君には期待したいものだな…さて、話はここまでだ、エルムステークスに備えた準備を行うとしよう」

 

 白子はそう言い、トレーニング用の資料を出し始めた。

 

 …秋水…前世の大学時代の同級生が何か言っていたな…刀ではなかったのだけは、思い出せる。

  

 

  

 

 

 9月が過ぎ、10月へと入った。予定通りエルムステークスに出走した。ダートだが、調整のためとかではない。ただ、実戦の感覚を忘れないようにするのと、私の成長に合わせて強度を高めた新しい蹄鉄を試すのに選んだのだ。

 

 相手は黄金世代と同クラスのヤマトピロジュピタだったが、走り方の危ない奴だった。そのうち骨折でもやらかしてぽっくりといってしまいそうである。

 

 そのレースの後に、彼女がG1の南部杯を目指すという情報を手に入れたため、彼女の分析をルーズリーフに書きまくり、封筒に突っ込んで、同じく南部杯を目指しているというアサヒクリークに送ってやった。彼女はたいそう喜び、お礼の手紙と手書きの手羽先のレシピを送ってきた。謎のチョイスだった。

 

 そして、休日の使い方も少し変えた。バ場の状態関係なく、夏合宿で強化したパフォーマンスを出すためレースの観戦をたまに行うようになった。

 

「ルクレハルク!未勝利戦を勝利!夢への一歩を踏み出しました!!アタマ差二着はライト─」

 

 今日観戦したのは、今海外にいるアグネスワールドが目にかけている後輩のウマ娘だった。彼女は中々勝てない日々が続いていたが、研究熱心だった。それが実ったということだろう。グループライブで歌って踊れるということも、モチベーションに繋がったのかもしれない。

 

 ただ、危ない勝負ではあった。歯磨き粉みたいな名前をしている二着のウマ娘は、存在感のある体型にそこそこの筋力を持っていた。それを活かしたパワープレーをされれば、勝負は分からなかっただろう。踏み込みの跡からよく分かる。

 

 私が宝塚記念で編み出した、削れた芝を使って追い上げる戦法は特定の条件でなければ使えない。もっとも、囲まれるなどという状況は、もう二度とごめんだが。アレをやられると、外から開けてもらえない。

 

「ワールド先輩!私、ついにやりました!!」

 

 後輩は、アグネスワールドの名前を叫ぶ。彼女は今、フランスにて最終調整の真っ最中である。大事なレースに、そして、これからの大攻勢に向けての。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子はどう?」

「万全です、トレーナー」

 

 アベイ・ド・ロンシャン賞の当日、アグネスワールドは緊張した様子ではあるものの、気合い、健康状態共に、極めて良好な状態で本番を迎えていた。

 

「…ふぅ…」

 

 彼女は日本から送られた水の瓶を空けて、コップに水を少し注ぎ、口にし、喉を潤すと共に、気持ちを落ち着かせた。

 

「…その勝負服に込められたメッセージ、世界中の人々に見せつけて来るのよ」

「はい、行って参ります」

 

 彼女は、トレーナーの言葉に笑顔で答え、控室を出る。その勝負服には、トレードマークのタツノオトシゴと、彼女の2つのルーツにちなんだ、“桜とハナミズキ”が刺繍されていた。

 

 

 

 

  

(歩いてみると、よく分かる。ここ、ロンシャンの芝は、日本のそれとは全く違う。これは芝ではない、緑のダート……)

 

 アグネスワールドは、芝の感触を確かめながら、ゲートへと入る。

 

(状態は重バ場…)

 

 調子良好で身体の軽いアグネスワールドに反し、コースの状態は重バ場であった。ただし、元々重バ場が得意であり、同じく重バ場をものともしない“彼女”と共にトレーニングをしたアグネスワールドは、それをさほど苦とは思わなかった。

 

(コースは直線1000m、カーブは無し、ふふっ、まるで滑走路みたい…)

 

 そして、その頃には、緊張もすっかりとほぐれていた。このメンタルは、負けん気の強い、サクラナミキオーの影響を受けたものである。

 

(私にあるのは、銀の翼、そして前には緑の滑走路……今の私にあるのは、光り輝く鉄の翼!!)

 

 彼女は滑走路を睨み、身構える。

 

 ガシャコン!

 

『今一斉にスタート!出遅れは無し!』

 

(前から2番目、スタートは完璧、バ場の状態も予想より良好ですね…ですが…!!)

 

「邪魔ネ!黄色いチビ助!」

 

(やはりですか!)

 

 海外レースは日本のそれよりも位置取り争いが激しく、出走する選手も全体的に大柄なウマ娘が多い。アベイ・ド・ロンシャン賞も、その例外ではなかった。

 

(力比べは愚策…安定を…)

 

 前に出て外寄りに陣取ったアグネスワールドも、そのラフプレーを受けた。しかし、彼女はそれを完全に予測しており、力比べという選択肢を捨て、走るラインがブレることのないよう、ただただ安定の確保に徹する作戦を取っていた。

 

「ホラホラ!カメみたいに守ってないで!」

 

(…ただ、私、攻撃しないとは言っていませんがね)

 

 アグネスワールドは、挑発者が自らを抜かんとするタイミングで…

 

(……カメは、水中では物凄く素早いんですよ?)

(……ッ!?)

 

相手を思い切り睨みつけた。今まで攻撃を続けていたウマ娘は、その眼力に恐れおののき、それを止める。  

 

(クロちゃん、ありがとうございます)

 

 この技は“彼女”が地元にて野生動物相手に使っていた技であり、いわゆる“メンチを切る”・“ガンを飛ばす”と呼ばれる行動である。人間が日頃から使う仕草とはいえ、危険な野生生物を退かすために使われていたそれは、ウマ娘相手には過剰なほどの威力を持っていた。

 

(私達は、所詮、ヒトの一種ということですね……)

 

 障害を排除したアグネスワールドは、脚を前に出してゆく、周囲のウマ娘達にもその気迫は届いており、彼女達は、小柄ながら、並々ならぬ物を持っていることを感じさせるアグネスワールドを、明確に恐れるようになった。

 

(後続が大人しくなりましたね、ならば、少しペースを上げるとしましょう)

 

 この素早い周囲の状況把握技術は、エアジハードの技術である。そして…

 

『残り150ヤード!アグネスワールドはリパブリックビューティに粘り強くつけている!』 

 

(ここしかない、ここで!!)

 

 残り140m、アグネスワールドは力を振り絞り、今までつけていた海外のウマ娘の前に出た。

 

 この末脚は、キングヘイローの走りを研究し、改良をし続けたものである。

 

 その勢いは、まるで点火されたロケットのようであった。

 

『アグネスワールド、リパブリックビューティを交わし今ゴール!!』

 

 彼女は、自らの勝負服にある、“桜とハナミズキ”に込められた、“手を取り合う”という言葉の通り、同クラスの3人のウマ娘を始めとした、様々なウマ娘と交流し、親睦を深めた。

 

 さらに、研究を重ね、様々なスキルを吸収し、自らの走りへと応用した。現在のアグネスワールドの強さの秘訣、勝利の鍵はそこであった。

 

 彼女は自らの翼で、世界最高の舞台を彩ったのである。

 

「動きの繋がりが…速すぎる」

「ブ…Blitzkrieg(電撃戦)…」

「まるで……刀のような…鋭い末脚」

「…ッ!!アレでは…まるで……彗星(コメート)……私は…彼女に勝たせてしまって良かったのか…?」

 

 海外のウマ娘は、その翼により打ち負かされ、驚きと悔しさをもって敗北を迎えた。

 

「……」

 

 そしてアグネスワールドは、今回の勝利を、多くの人々の支えがあってこその勝利であると感じ、涙を流し、観客席へ、ターフへとお辞儀をしたのだった。

 

 しかし、彼女が、このアベイ・ド・ロンシャン賞にて残したのは、勝利という実績だけではなかった。

 

 

 

 

 

 “銀翼のウマ娘”がまたもや活躍した。

 

 それを最も近くで見ていた人物が、アグネスワールドの他に、もう一人いた。

 

「アグネスワールドが…勝ちましたカ…」

 

 この後の凱旋門賞に出走する、エルコンドルパサーである。

 

『アグネスワールドさん、コメントを!』

『 ”We won” 私は、トレーナーや、日本の友人たち、そしてファンの皆様から得た力と願いを、この桜とハナミズキに込め、走りました。この勝利は、縁あって初めて得られたもの…つまり、私ではなく、私達の勝利です。支えてくれた方々に、勝利という最高の返礼品を携え、日本に凱旋できることを、非常に嬉しく思っています』

 

「…」

 

 エルコンドルパサーは、これまでに増して“勝たねばならない”と感じていた。日本にいるスペシャルウィーク、セイウンスカイ、グラスワンダーら黄金世代は“彼女”ら銀翼のウマ娘に押され気味である。

 

 世界最強を目指すエルコンドルパサーにとって、それは無視できないものであった。

 

(これで…これではっきりとしましタ…ワタシの…やるべきことが…)

 

 そして、彼女は自分の役割を自覚した。苦戦する友人に、最高のニュースを届けて勇気を与え、世界最強の座を勝ち取ることで、目標となることを決心したのである。

 

 つまり、アグネスワールドは意図せずして、エルコンドルパサーに“勝たねばならない”という強いプレッシャーを植え付けた事となる。

 

 これは“彼女”の狙い通りのことであった。

 

 しかし、誰も見えていなかった、アグネスワールドによって残されたものが、この時もう一つ存在していたのである。

 

 それは小さなものだった、だが、与える影響は小さくはなかったのである。

 

 





お読みいただきありがとうございます。

新たにお気に入り登録をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

今回はアグネスワールドのキャラクター説明を載せておきます。良ければご覧ください。


アグネスワールド

アメリカ出身の黒鹿毛のウマ娘、勝負勘の良さと動きの器用さを併せ持つが、スタミナが多くないため、得意距離は短距離とマイル。“彼女”が転入してくるまでは、黄金世代と比較されるクラスメンバーを元気づけるべく奮闘していた。なお、日系5世であり、祖母の代(1950年代)にアメリカ本土を出たので、実家はハワイにある。



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