転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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読者の皆様、明けましておめでとうございます。
今年も拙作「アングロアラブ ウマ娘になる」と「転生者は破壊したい」をよろしくお願い申し上げます。


今回は拙い挿絵を入れております。ご了承下さい。
また、今回から後書きのスペースを使って簡単に登場人物の紹介をしていこうと思っています。読んで頂けますと幸いです。


第35話 -拍手-

 

いよいよ凱旋門賞は明日。

 

これまでの遠征で、私は多くの物を見てきた。

 

アメリカとも、日本とも違う、大いなる歴史と伝統を感じさせる空気

 

これが、闘争心と向学と少しの恐怖を持って憧れていたロンシャンの大舞台だった。

 

走るウマ娘は、まるでバイソンが大地を駆けるように、強く、激しく足を踏み出す。私達ウマ娘は、アスリートである一方で、エンターテイナーでもあるいうことを、まるで人間としての弱さと考えているかのように、激しく。

 

ロンシャンというのはエネルギッシュで大いなるパッションを持ったウマ娘の集まる大舞台で、ウマ娘も、トレーナーも、しのぎを削り、優勝を狙ってる。

 

「出走しろ!」 「優勝しろ!」 「裏をかけ!」 「レコード狙え!」

 

こうした態度も次第に私の心を明るくしてくれるようになった。

 

でも、私には気になることが、2つだけある。

 

それは日本にいるグラス達、そして、同じくフランス遠征を行い、私が出走する凱旋門賞の前に行われる、アベイ・ド・ロンシャン賞を狙う、アグネスワールドの存在。 

 

いや…

 

駄目、頭からそれを取り除かないと。

 

どうなろうと…世界最強になろう。

 

──エルコンドルパサーの海外遠征記録より。

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「やった!やった!」

「ワールド先輩万歳!!」

「おっし!!おっし!!おっし!!」

「見たかヨーロッパのデカブツさん!これな日本のウマ娘の力!!」

「おお!!これは寮長としても、鼻が高いねぇ!!」

 

 アグネスワールド勝利に対し、興奮を隠せない様子のウマ娘達。私達は、ヒシアマゾンを始めとする多くのウマ娘と共に、寮にて中継を見ていた。

 

 私ももちろん、拍手を贈る。

 

 これだ、これで良い、これでエルコンドルパサーにプレッシャーを与える事ができる。奴の世界最強の夢を、間接的にではあるが、破壊させてもらう準備は整ったのだ。

 

 …グランプリ四連覇という目標があり、何よりもアグネスワールドから国内のことを任されたから、ロンシャンに行くことはしなかった。しかし、もっと何か出来たのではないだろうか?

 

 例えばそう…開催国のフランスや、謀略大好き英国のウマ娘にエルコンドルパサーの情報を売ったり…などだろうか。

 

 ……実際は、白子の大学時代の友人関係もあり、両者共に可能ではあった。しかし、夏休み前に参加したパーティーで、生徒会の栗毛庶務がきな臭い動きをしていたから、このプランは中止したのだ。彼女は兎に角真面目である。やると決めたら丁寧にきっちりやり遂げようとする可能性が高いのだ。

 

 ただ、もう当日なのだから、思い返していても仕方がない。フランス最強ゴッテゴテウマ娘モンジューの地元魂に期待するとしよう。

 

 

 

 

「エル先輩には、絶対勝って欲しいよね!」

「うんうん、先輩、ずっと言ってたからね、世界最強のウマ娘になって帰ってくるって」

 

 そしてしばらくすると、凱旋門賞の時間帯となった。基本的に殆どのウマ娘にとっては、こちらがメインコンテンツとなるので、自然とギャラリーが増えていく。

 

「あ、グラスワンダーさん、ここ、良ければ座ってよ」

「…良いのですか?」

「もちろん」

「では、お言葉に甘えて…」

 

 私は入ってきたグラスワンダーに座っていた椅子を譲る。

 

 目測だが、おそらく身長差が20センチほどある。これは、前の方に行ってもらわなければならないだろう。

 

 外を見ると、雲が星空を覆い隠していた。

 

『ここで、最も注目を集めるウマ娘が、パドックへと入ってきました』

 

 テレビ越しでも分かる、その人気ぶり。オーロラソースのような髪色、弁当包む布のような青に柄の勝負服、シャコガイみたいな頭の装飾。

 

『ここまで7戦6勝、2着1回!フランス最強ウマ娘と呼ばれるモンジューが、その姿を表しました!』

 

 彼女がモンジュー…その佇まいに、ウマ娘達は圧倒されているようで、その場が少し静まり返っていた。

 

 世界最高峰のウマ娘レースとされる凱旋門賞。日本から飛び出した世界最強を目指す鳥目のコンドル、迎え撃つはフランスのゴテゴテウマ娘である。

 

 今後の私のためにも、その勝負を見届けようとしよう。

 

 

 

 

 

『エルコンドルパサー飛ばす!先頭を走ります!リードは一バ身!!』

 

「エル、逃げてる!?」

「いつもは中団にいる作戦なのにね」

「海外レースは囲まれたら抜け出すのに一苦労なんだよ、良い作戦だね」

 

 グラスワンダーらとヒシアマゾンの会話が、きこえてくる。

 

 エルコンドルパサー…やはり立て直してはいる…か…

 

『第3コーナーカーブ、エルコンドルパサーのリードは3バ身!モンジューは中団に控える!』

 

 だが、ロンシャンのコースは、地形による起伏が激しい。どうなることやら。

 

 

 

 

 

「…口が空いてる」

 

 しばらくすると、私の横に来ていたエアジハードが、エルコンドルパサーの方を向き口を開く。

 

「…消耗してるね…少しずつ…でもそれは、他のウマ娘も同じさ」

 

 その言葉に反応したヒシアマゾンは、そう言って腕を組んだ。

 

『エルコンドルパサー、エルコンドルパサーがスパート!強いエルコンドルパサー!後続を一気に突き放す!凱旋門賞はもう目の前だ!』

 

「エル!!そこから一気に畳み掛けなさい!!」

 

 実況の声に反応し、叫んだのはグラスワンダーだった。さっきまでお祈りのポーズしてただろ。

 

 問題はモンジューの動きだ、カメラさんや、もう少しズームアウトしてくれ。モンジューが見切れてる。

 

『ああっと!?しかしモンジューが凄い脚で追い上げる!モンジューがここでラストスパート!』

 

 いや……

 

 重いバ場に、ロンシャンの舞台というプレッシャー、アグネスワールドの勝利からくる重圧それに、さっきの動きでモンジュー側は、しっかりと研究を重ねて、エルコンドルパサーをターゲットに入れていたことが分かる…だから…

 

 ズームアウトの必要はない。

 

『しかしモンジューが来た!モンジューが来た!モンジューが来た!』

 

 見りゃ分かる。3回も連呼しなくて良い、あちらさんの名前と、“三人寄れば文殊の知恵”とかけてるわけでもあるまいし。

 

『エルコンドルパサー逃げ切れっ!日本の悲願は目前だっ!』

 

 モンジューがエルコンドルパサーを一瞥したのが見えた。

 

『だがここでモンジューが交わした!!』

 

 場の空気が、モンジューの末脚に圧倒される。

 

『エルコンドルパサー、必死に追いすがる!しかし先頭はモンジュー!モンジューが今、一着でゴールイン!モンジューが今!一着でゴールイン!!』

 

「あーっ!!」

「エルが…」

 

『日本のエルコンドルパサー、あとわずか……あとわずかのところでかわされました!』

 

 エルコンドルパサーは、敗北した。最後の最後で、モンジューが彼女を差したのである。彼女の世界一の夢は、もろくも砕け散った。

 

『これが世界の壁!エルコンドルパサー、惜敗の二着!』

 

 だが、モンジューとエルコンドルパサーが別次元の叩き合いをしていたのは事実であるし…何よりも…

 

「……」

 

 パチ……パチパチパチパチ…

 

「クロ………うん、確かに、結果は残念だったけど、エルは、本当に良く頑張った。よし、皆!エルに拍手だよ!」

 

 パチパチパチパチパチパチ!!

 

 “『見せつけられること』によるプレッシャーによって、メンタルがどのようになるかという実験結果”

 

 “モンジューをはじめとした強豪と不完全なメンタルでギリギリまで粘るという黄金世代の底力”

 

 “フランス最強ウマ娘モンジューの力”

 

 という、多くの物を、御親切なことに、私に教えてくれ…

 

『……っ…うっ……っ!!』

『エルコンドルパサー、本当に…本当に良く頑張りました!!』

 

 そして何よりも、“眼の前で世界一への夢が打ち砕かれたという光景”も見せてくれたのだ。

 

 直接感謝の言葉を伝えられない以上、拍手ぐらいは贈るのが筋だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ私は部屋に戻るね」

 

 拍手が止み、ウマ娘達の会話が再開されると“彼女”は部屋に戻ろうとする。ヒシアマゾンは、その姿を見つけ、声を掛ける。

 

「……クロ?」

「…ヒシアマ寮長、私は先に失礼します」

「分かった……なぁクロ」

「寮長…?」

「ありがとうね、お通夜状態を、未然に防いでくれてさ」

「…私だって、この寮のメンバーですから」

 

 そう言って“彼女”は会釈をして、自室へと戻る。やるべきことが出来たからである。

 

(外は…雨……エルコンドルパサーの心の空模様も、こんな感じなんだろうな…さて、私はやるべきことをやるとしよう)

 

 自室へと戻った“彼女”は紙を出して、ペンを持つ。

 

 それは、アグネスワールドをどう祝うかを考えるためである。

 

 エルコンドルパサーの残念ムードよりも、アグネスワールドの勝利を盛り上げることで、世間に、学園に、銀翼のウマ娘の存在をアピールし、エルコンドルパサーにさらなる敗北感を植え付けるのが“彼女”の目的であった。

 

 

 

 

 

「先輩、良いですか?」

「遅くに失礼します」

 

 一時間ほど経った時、部屋の扉がノックされた。声の主はアマリイーグリーナとサトノモズレーである。

 

「良いよ、入って」

「ありがとうございます」

「どうしたの?」

「先程の凱旋門賞の事で、少し話したいことができました」

「…なるほど、確か、二人は…」

「はい、私達のクラスの課題として、凱旋門賞を観戦し、その分析と所感を報告するというものがあります、それをモズレーさん達と共にやっていました。ただ、報告に上げるべきか否か悩ましい部分があったので、代表して私達が先輩に相談に」

「悩ましい部分?」

 

 “彼女”は怪訝な顔をした。エルコンドルパサーが負けたとはいえ、レース自体はトラブル無く終わっているからである。

 

「はい、まずはこれを見て頂きたいです。モズレーさん、アレを」

「うん……ここです、ここをこうして…」

 

 サトノモズレーはタブレットを開き、出走前のコース一望のシーンでビデオを止め、ある場所を拡大する。

 

「…荒れてるね、それもかなり」

「先輩、ここはコースがクロスするところなんです。そして、ワールド先輩が、他のウマ娘が、最後の力を振り絞ったところでもあります」

「……つまり、ただでさえ悪いコースの状態が、更に荒れて、最悪の状態になってたってことか…」

「はい、そして、エルコンドルパサーさんは、そこに飛び込みました」

 

 アグネスワールドが残した最大最後のもの、それは“最悪な状態のバ場”であった。アマリイーグリーナとサトノモズレーは、ウマ娘の注目がエルコンドルパサーに注がれる中、唯一、それに気付いていたのである。

 

「エルコンドルパサーさんは、最初に逃げて、モンジュー達を引き離しにかかった、もちろん、ワールドちゃん達が走ったコースの所を走って……それで体力を消耗して、最後の最後で差し返す体力を残すことが出来なかった。これでオーケーかな?」

「はい、基本的には、それを詳しく書けば、課題の方は合格点を頂けるかと思います。ですが、私達は少し、鋭い見方を書いてみたいと思っていまして…」

「そこが悩みどころなんです」

「詳しく聞かせて貰えるかな?」

「…はい、まず、現地では凱旋門賞当日まで、長雨が降りました」

「うん、ワールドちゃんも、そう言ってたね」

「それで、その長雨で重くなったバ場は、アベイ・ド・ロンシャン賞で使われ、荒れました」

「そうだね」

「そして凱旋門賞です、エルコンドルパサーさんは、逃げを打ち、2つのレースの走路が交差する地点あたりで、リードを広げていきました、これはエルコンドルパサーさんの作戦でしょう」

「うん」

「そして、…最終局面で、エルコンドルパサーさんはスタミナが尽き、重馬場が得意なモンジューに差されました……以上のことと、事前に収集したモンジューのデータを総合し、私達は、あのレースを分析して、ある結論に達しました」

「…聞くよ」

 

 頷いた“彼女”に対し、アマリイーグリーナはサトノモズレーの方を見て頷き、息を吸い込む。

 

「……あのレースは、選手の故障などのトラブルが起きるか、良バ場で行われない限り、戦う前からエルコンドルパサーさんの必敗でした」

「…!!」

 

 “彼女”は驚愕した。

 

「…この事を報告に上げるべきか、悩んでいるんです」

「…なるほどね」

 

 “彼女”は驚愕したのと同時に、この判断は妥当であるとも感じていた。

 

 スペシャルウィークら黄金世代は、銀翼のウマ娘に押され気味という事情あって気持ちの余裕が少なく、エルコンドルパサーと十分に話せて居なかった。そこにアグネスワールドの勝利による重圧が加わった。すなわち、本番時のエルコンドルパサーは、身体の調子は良好と言えど、心はそうではなかったからである。

 

「…報告書の全体って持ってるかな?」

「あります、どうぞ」

「……」

 

 そして、“彼女”は、報告書の全体に目を通した後、雨の降る外を見ながら考える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

(おそらく、アレは………でも、上手く使えば…よし……)

 

「リナ、モズレー」

「「は、はいっ!!」」

「私はコレを全て、包み隠さずに提出するべきだと思う。今後の後進のウマ娘たちに、レースは多角的に考えるべきっていうことを示すために、あと、今は海外遠征を活発にしろって感じだけど、そういった空気に対して海外レースの厳しさを示すためにもね」

「……」

「ワールドちゃんは皆の前で言ってた。“私達が時代の主役になる時が来た”って、つまり、それは、私達が起爆剤になって時代を変えるってこと、そして、それには、二人みたいなサポートウマ娘の働きも必要なんだよ」

「…先輩」

「…それにね、世の中、綺麗事や甘い言葉だけで出来てるわけじゃないから、こういう厳しい視点も必要だと思う。でも、このきつい役を、リナ達だけに背負わせるわけにはいかない」

 

 “彼女”はそう言って、アマリイーグリーナ、サトノモズレーの二人の目を見た。

 

「…リナとはメジロアルダン先輩に信用してもらって、組ませてもらってるわけだし、モズレーだって、クラスの学級委員長として、いろいろと気を使わないといけない立場だからね……だから、こう一筆付け加えてくれないかな?“この報告書は、エルコンドルパサーとの対戦経験のある競走ウマ娘、マヴェリッククロウが、内容の信頼性を確認するために、目を通したものである”ってね」

「先輩…ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

「どういたしまして。でも、これから忙しくなるよ、今日のワールドちゃんの勝ちをもって、私達の戦いは、本格的に、力を蓄えるものから攻めに転じていくからね」

「はい、私も全力で、共に歩ませていただきます」

「同じくです!サトノ家としてではなく、一人のウマ娘、サトノモズレーとして、私も!」

 

 アマリイーグリーナ、サトノモズレーは、深々と頭を下げ、部屋を出ようとする。

 

(よし…ここからヒントを…) 

 

「あ、ちょっと待って、二人共」

「…先輩?」

「どうかしましたか?」

 

 しかし、“彼女”は二人を呼び止めた。

 

「折角だからさ、ワールドちゃんに乾杯しない?ホントは一人でやるつもりだったんだけど…折角だから、どう?」

「私で良ければ、ご一緒させていただきます」

「私も、お願いします!」

 

 二人の反応を確認すると“彼女”は、電気ケトルで、アグネスワールドに送ったものと同じミネラルウォーターを沸かし、湯呑みに注ぐ。

 

「これは…」

「そう、ワールドちゃんに送ったのと、同じ水を沸かしたんだ。白湯で乾杯だなんて味気ないかもしれないけれど、こういうお祝いは、される人の好きな飲み物でやりたくってね、はい、二人共、熱いから気を付けて」

「……っ…ととっ…」

「…そーっと…そーっと…」

「……よしっ…それじゃあ、世界最強短距離ウマ娘になったワールドちゃんに…乾杯」

「「乾杯!」」

 

 乾杯した“彼女”ら三人は、白湯を飲み、ホッと息を吐き出す。

 

「まだ…実感が湧きませんが…私達は、ワールド先輩の勝利に、貢献できたのですね……これから…どうなるのでしょうか?」

「ワールドちゃんは確実に注目を浴びるだろうね、エルコンドルパサーさんも、凄い叩き合いをやったから、日本のウマ娘そのものが、注目されると思う」

「それはつまり…遠征してくるウマ娘も多くなるって事ですよね!来るなら来いです!」

 

 そして、今後のことについて語り合う。

 

「…それならば、やはり、モンジューは来るのでしょうか?」

「…どうだろうね。それはまだ、分からない。ただ、モンジューが見せたあの末脚は凄かった」

「そうですね……海外には、凄いウマ娘がまだまだ居るということを、見せつけられました」

「リナの言う通りです。先輩、私、思ったんです。凱旋門賞を取るためには、もっともっと、対策を練る必要があるって」

「…なるほど………エルコンドルパサーさんは、かなりの間向こうに居たみたいだけど…モズレーの意見を使えば、それでも不十分ってことかな…」

「…そうですね…でも、一番重要なのは、バックアップ体制だと思います。ただ、漠然と、凱旋門賞を目指すとだけ掲げて、挑戦を続けても、いつまでもズルズルと行ってしまうだけだと、私、思うんです」

「…コンコルド効果ですね……確かに、モズレーさんの言う事にも、一理あります…………ワールド先輩は、向こうの芝に慣れるのにかなり苦労していました。ですから、こっちにも、本格的な洋芝のトレーニング施設だったり、フランスの気候を体験できる施設だったりを設ける必要がありますね…」

「……なるほどね………あと、そう言えば、ワールドちゃん、言ってたなぁ、期待に温度差を感じるって」

「あっ!確かに!そこもなんとかしないと……なんだか、やることが山程出てきそうですね…」か

「…確かに」

「ただ、私達のゴールは、あくまでも皆が幸せに競走生活を終えることだから、海外制覇にこだわりすぎないようにもしないとね」

「……そうですね、海外遠征は、通過点…私達はまだ…道半ばの段階…」

 

 

 こうして、“彼女”ら三人は、しばらくの間、議論していたのである。

 

「……あ、そろそろまずい時間帯だね、ヒシアマ寮長にも、怒られちゃうかも、じゃあ、このあたりで、お開きにしようか」

「承知いたしました、あの…クロ先輩、報告書の件、ありがとうございました」

「ありがとうございました」

「うん、こちらこそ」

 

 “彼女”は二人を送り出す。

 

 彼女にとってリスクであるはずのアマリイーグリーナの課題への協力。

 

 何故“彼女”が、そのような事をしたのか。

 

 その理由は2つあるが、その一つはトレセン学園の方針にあった。

 

 トレセン学園は、生徒の自主性を尊重する方針である。それはサポートウマ娘であれど変わらない。それ故、レース一つ取っても、良好なパフォーマンスを発揮したウマ娘や、今後の活躍が期待されるウマ娘の判断は、多種多様であった。

 

 生徒会長であるシンボリルドルフも、学園の方針を遵守しており、生徒一人一人を、大切なトレセン学園の一員として、同じウマ娘として、個性を尊重していた。

 

 学園の方針に異を唱える者は、居なかった。

 

 ただし、“彼女”は“多様性の尊重は滅茶苦茶をやって良いという免罪符ではない”という事も、はっきりと理解していた。その為に“彼女”は、アマリイーグリーナらの作成した分析に目を通し、エルコンドルパサーにも、モンジューにもよっていない、ただ、実際の状況、各ウマ娘の戦績、現地の情報を使い、第三者目線からの分析が行われていた事を確認したのである。

 

「…」

 

 “彼女”はペンを走らせ、日記をつけていく。

 

(“道半ば”ねぇ…)

 

 それを大方書き終えたところでアマリイーグリーナとの言葉を思い返す。

 

「…そう、私達はまだ、道半ば…海外遠征も、夢のためのプロセスの一つ、私達は、アグネスワールドの勝ちを、エルコンドルパサーの敗北をきっかけにして、これから攻勢に…黄金世代の時代を壊しに行く、フフッ、少し嫌だけど、やっぱ歴史ってのは、繰り返すのかな…」

 

 “道半ば”からある出来事を連想し、彼女は苦笑いし、再びペンを走らせ、最後の〆を書いた。

 

   

 

 

 

 

 

 

 

親愛なるパピーへ

 

今日は濃い一日でした、アグネスワールドのアベイ・ド・ロンシャン賞、エルコンドルパサーの凱旋門賞があったからです。結果はと言うと、アグネスワールドが勝利し、エルコンドルパサーは敗北しました。

 

両名とも、素晴らしい戦いをしていたのですが、では、どうして結果に差が出たのか、あなたも気になっていることでしょう。

 

理由はいろいろとあるでしょうが、一番の理由はメンタルだと、私は予想します。

 

迷いを断ち切ってレースに臨んだアグネスワールド、迷いや悩みがわずかながら残っていたであろうエルコンドルパサー、どちらが勝つ可能性が高いのかは、目に見えて明らかです。

 

ただ、さっきも言ったように、これはあくまで予想、二人の海外遠征記録を見て、始めて答えがわかるものですから、そこまで本気にしなくても大丈夫です。一先ず、海外のウマ娘と渡り合い、多くの物を私にもたらしてくれたアグネスワールドとエルコンドルパサーに、共に拍手を送りましょう

 

そういえば、さっき、海外遠征について、アマリイーグリーナとサトノモズレーと話しました。アマリイーグリーナは、今の私達は道半ばの段階だと、言っていました……私もそうだと思います。更に精進しなければなりません。

 

あと、私は、“道半ば”という言葉から、ある出来事を連想しました。それは、さらなる破壊を招くことになった、大いなる転換点でした。書くとものすごく長くなりますから、その出来事のヒントを一つだけ教えておきます。

 

“道半ば”という言葉は、英語に訳すと“Mid Way”となるのです。 

 

じゃあまた、マヴェリッククロウより。

 

 





お読みいただきありがとうございます。

新たにお気に入り登録をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m
また、お気に入りが1000を突破致しました。重ねてお礼を申し上げます。

なお、今回のエルコンドルパサーですが、史実やメインスストーリー本編よりも、厳しい状況に置かれているという想定で描写致しました。


キャラクター解説

サクラナミキオー
サクラチヨノオーらと同じく『サクラ』の名前がついた鹿毛のウマ娘。元は逃げを使うウマ娘だったが、“彼女”と共にトレーニングに励む中でその限界に気づき、差しや先行を使うようになった。なお、幼少期は、他の『サクラ』のウマ娘と異なり「ヴィクトリー倶楽部」には所属していなかったが、遠縁の親戚で、実の姉のように慕っていたウマ娘、サクラステラレクスと共にトレーニングを行っていた。

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