転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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 用事がありまして少々日が空いてしまいました。


第3話 -忍耐-

 

 

 東京レース場の地下通路、レースを終えたウマ娘達が通るそこを、彼女は歩いている。汗を含んだ髪を揺らしながら。

 

 周りには、何組かのウマ娘とトレーナーがおり、彼女はその様子を見ながら歩いていた。

 

 ウマ娘とトレーナーらは、歩く彼女の表情を見て、今回のレースは誰が勝つか分からない激戦であったと判断する。

 

 彼女は、少々、苦しそうにしていた。

 

 それでも、彼女は歩いてゆく。

 

 拳を握り固め、尾を震わせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーと契約を交わしてからしばらく、何となく、ウマ娘レースにおけるトレーナーの必要性というものを実感していた。

 

 まず、トレーニングを計画することの負担が減った。今までは自分で考えて、状態を見て、色々リストを作って、それから実践──というような流れを全てワンマンでやっていた。しかし、トレーナーが付けば、色々と一緒に考えてくれるし、リストも作ってくれる。便利なことこの上ない。

 

 それに、健康管理のサポートもしてくれる。いくら学んだとて、私は独学、アマチュアに過ぎない、専門家の意見はとても大事である。いわんや健康管理をや。

 

 そして、単純計算して考えれば、情報収集の負担が減る。トレーナーには、トレーナーのネットワークがあり、そこから情報を集めて来れるからだ。

 

「それでは、私どもは皆、トレーナーさんがついたということですか」

「まあ、とりあえず第1段階はクリアってところだねぇ」

 

 そう言っている二人──アグネスワールドとエアジハードも、トレーナーがついたそうだ。私のトレーナーにとって、良い情報源となれば良いけれど。

 

「今年の新人トレーナーさん達は、どの方もスカウトに積極的と聞き及んでいます、私どもクラスの娘達も、皆スカウトされると良いですね」

「うんうん」

「私も同意見」

 

 アグネスワールドがああ言ったので、同意しておいたものの、どれだけのウマ娘がスカウトを得られるのか、イマイチ分からない。

 

 ただ、偉大なる恩人(プリセットメモリ)の例を見るに、全員がスカウトを受ける事ができるというわけでは無いだろう。

 

 だって、この学園は、期待度高い選抜クラスが一つ、その他横並びという感じだから。当然転入生の私は後者だし、トレーナーは前者の優良物件たちを狙うだろう。

 

 取り敢えず、今は、来るべきデビュー戦に備え、トレーニングを続けていくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 そして、数日後、トレーニング後に、ちょっとしたミーティングをやりたいと白子が言うので、私は部屋に残っていた。

 

「私も君も、トレーニング生活に慣れてきた。だからこれからのプランを話していく」

「はーい」

「まず、君のデビュー戦だが、来週に決まった、東京レース場のダート、1600mだ」

「へ?」

 

 ちょいまち、流石に急すぎる。

 

「タイミングが早いと言いたげな顔をしているな、だが、これは私なりに考えがあってのことだ」

「考え」

「そう、考えだ、今から君にそれを教える、大事な事なのでしっかり聞いておいてくれ」

「了解」

 

 白子の目つきが変わった。同時にこちらも揺らしていた尾を垂らす。

 

「まず、君の世代についてだが、選抜クラスのメンバー、その中に、黄金世代と呼ばれている5人のウマ娘がいる。彼女たちは、本格化と同時にめきめきと頭角を現し、この学園の生徒会長、シンボリルドルフや芦毛の怪物オグリキャップと同じぐらいに、世の中を沸かせる存在なのではないかと、期待されている。君が強くなりたいと思っているのならば、彼女たちが大きな壁となるだろう」

「黄金世代、世の中を沸かせる…」

 

 面白い響きを聞き、私は復唱する。

 

「ああ、それ故、私としてはデビュー戦で彼女たちと君がぶつかる事は避けたい」

 

 うーむ、悪いけれど、私はそんなヤワな鍛え方をしてはいない。すこし意見を言ってみるか。

 

「でも、レースに絶対は無いんだよね?いくらその子達が世の中から期待されてるとはいえ、私が勝つ可能性も、あるはずだよね?」

 

 そう言うと、白子は少し目を見開いた、だけど、すぐに戻した。

 

「もちろん、私だって、素質を感じたから、君を選んだのだ。君が勝つ可能性だって、感じている。だが、転入生が大型新人に勝つならば、当然警戒される。嫉妬される可能性も否定はできない…それに、激戦は肉体的な消耗がつきものだ、君に怪我をさせてしまうような事があってはならない」

 

 ふむ、確かに、納得がいく、破壊のためには準備期間が必要不可欠だ。それに、身体の心配もしてくれているとは驚いた。私の身体は頑丈だけれども、それも絶対ではないから、素直にありがたい言葉だと思っている。

 

「だから私は、早期、それにダートという、最も黄金世代とぶつかる可能性の低い選択を、今の君にはしてもらいたいのだよ、もし、君が強い相手と闘いたいと思っているのなら、申し訳無いが忍耐を頼みたい」

 

 ここまで考えてくれているのならば、無下に断る訳にはいかないか。

 

「大丈夫、それで行く、ありがとう」

「…よし、では、明日からデビュー戦に向けた調整を行うとしよう、君ならば勝てるはずだ」

 

 白子の言葉は、自信に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『9人すべてのウマ娘が、無事に出揃いました、東京レース場メイクデビュー戦、ダート1600mの発走はもうすぐです!』

 

 私は四番人気、今のうちに、一番人気はどういうウマ娘か見ておく。

 

「………」

 

 一番人気のウマ娘──リボンエチュードは、身体をほぐしたあと、深呼吸をしている。あの様子なら、絡んでくることは無いだろう。

 

 次に、作戦を思い出す。と言ってもそれは単純で、後ろに待機して末脚勝負というものだ。

 

 そろそろゲートインの時刻なので、靴紐がしっかりと結ばれているかどうかの最終確認をする。靴が脱げたウマ娘は、言ってしまえば目を潰されたライオン、いくら競走能力があったとて、その時点で負けが確定する。

 

 よし。しっかりと結ばれている。ゲートに入る。

 

 さて…ここにいる全ウマ娘の…

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了』

 

 夢への登竜門を破壊するとしようか。

 

 ガシャコン!

 

『スタートしました、前に出たのはダムダムブレッド、続いてセーリングスクーナ、3番手はリボンエチュード』

 

 固まらないうちに、外寄りにつく。

 

『4番手、続いてチャンピオンレオ続いてエアマスケット身後方にテールディクタス、あるいはレザーバスディオン、外から来たぞ─────────!殿はラーニングスズカ』

 

 3コーナー途中までは、下り坂になる、勢いは乗るが、スタミナは温存しやすい。4コーナーが終わってから、誰よりも早く立ち上がり、勢いをつけることが大切と言うことだろう。特にここは急坂がある。まあ、曽祖父の指導のもと、体を鍛えて居たときに、様々な種類の坂道を何度も駆け上がらされたので、それは問題にはならないだろうが。

 

『第3コーナー、先頭変わらずダムダムブレッドでやや縦長の展開、もうすぐ下りが終わります』

 

 マイルレースはブロックから抜け出すパワーが大切らしい。私を含め、実戦でのレース勘が殆ど身についてないウマ娘がするブロックは、歴戦のウマ娘から見ればお話にならないようなものだけれども、これはデビュー戦、ブロックされる側も初心者だ。だから、まともに影響を受ける生徒もいる。それを予測しての、後方待機作戦だそうだ。

 

『第4コーナーカーブ!!各ウマ娘、スパート開始!!』

 

「……ふっ…!!」

 

 私は一足先にスパートをかけ、位置を前へ前へと上げる…つもりだったのだが。

 

「……」

 

 前で動きがあった、上がってきたウマ娘がリボンエチュードにその動きを察知され、ブロックされていたのだ。

 

 そして、その動きは、周りにまで影響を及ぼしているようで、目の前は混戦気味。

 

 さて、どうしたものか……

 

 

 

 

 

 

 よし、思いついた。

 

『もうすぐ最後の直線、少し長めで坂道もあります!ウマ娘達はどう動く』

 

 私は外側に居ることを生かし、もっと外に出る。大外も大外だ。

 

『あーっと!!ここで超大外から来たのは─────────!!』

 

 内にいるウマ娘のすべてが、こちらを見る。そんな驚いた顔で見ないでおくれよ。

 

『─────────!!外から見事なゴボウ抜き!』

 

 だって楽しみが潰れてしまう。

 

 人の快楽を奪わないでくれ、全てが終わったあと、私は自分が、どれだけのこと(破壊)を成せたか、確かめたいのだから。

 

 美味しいものは、後から楽しみたいのだから。

 

『先頭リボンエチュード粘る!粘る!しかし勢いは衰えていない─────────!』

 

『─────────!凄い伸びを見せてゴールイン!!』

 

 そして、私はデビュー戦を、白星で終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ギャラリーに頭を下げ、手を振り、「こっちを向いて」の声に応えて写真を撮られている間に、他の出走ウマ娘達は、地下通路へと消えてしまっていた。

 

 もちろん、私は、それを追いかける。

 

「大丈夫よ、未勝利戦で、勝てば良いだけなんだから」

「うっ……ぐずっ…はぃ…」

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…勝てませんでした」

「良いんだ、良い走りだった、次に活かそうじゃないか」

 

「ごめん、トレーナー、負けちゃった」

「…仕方がありません、レースに絶対はありませんから、今日は休んで、後日反省会です」

 

 

 これが、白星の夢が砕かれた、ウマ娘の、トレーナーの姿か。

 

 ああ、なんて良い光景だ。

 

 これが、破壊か。

 

 泣いているウマ娘、泣くのを堪えているウマ娘、私にはわかる。心の中は一緒だ。悔しいという気持ちで一杯だ。

 

 そんなことが分かるから…

 

 

 

 

 

 

 

  

 歯を見せてニコリと笑いたくなるし、千切れんばかりに尻尾をブンブンと振りたくなるのだ。だけど、今回は恩人の時とは違う、相手はまだ、トレセン学園の生徒なのだ。  

 

 私は歩きながら、顔に少し力を入れ、拳を握り固め、尻尾の動きを鎮める、尻尾はプルプル震えている。

 

 まだだ、忍耐だ。ここで彼女たちを見て、愉しむような振る舞いを見せてしまえば、私はソシオパスとでも判断され、社会的に終わってしまう。まだ私には、基盤がない。

 

 欧州から悪魔のような扱いを受けたモンゴル帝国だって、しっかりとモンゴル高原の統一をしたから、ああいった事が出来た。

 

 つまり、破壊のためには、自身の能力を高めるだけでなく、それをやっても社会的に黙認されるぐらいの基盤作りが大事ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウマ娘達から十分距離を取った、だけど、私の笑いたいという気持ちは消えていた。

 

「基盤作り…か…」

 

 …そういうことに関しては、ほとんど勉強をやっていない。

 

 破壊の道は、そう簡単なものじゃない…か…

 

 そう思ったのと同時に、自然と、あるフレーズが頭の中に浮かんで来る。

 

「しあわせは 歩いてこない だから歩いてゆくんだね 一日一歩 三日で三歩 三歩進んで 二歩下がる〜」

 

 こうやって口ずさんでみると、自然とやる気が湧いてくる。そうだ、幸福のためには、自分から探求していくことが必要不可欠なのだ。

 

 さて、どうしたものか。

 

 




 
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アンケートについてなのですが、明日を締め切り日と致しますので、それまでに回答して頂けますと幸いです。
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