転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第39話 -団結-

 

銀翼のウマ娘には神秘的な力で私達を魅惑し、

熱狂させる何か違ったものがあったのです。

 

それは尾をなびかせ、じっと前方を見つめ、大地を震わせながら走るウマ娘たちの姿と、それを支えるウマ娘たちの姿でした。

 

この集団には何か心を揺さぶる圧倒的なものがありました。

 

私は銀翼のウマ娘ではありませんでしたが、その理念に共感し、その姿を追いかけていました。

 

そして、私も、その背中を追って、彼女達と同じように、同志となるウマ娘達と共に、トレーニングに明け暮れるようになりました。

 

私達にとって、彼女たちは自慢の先輩でした。学園の誇りであると思いました。

 

しかし、高等部で、黒鹿毛の、留学生のある先輩が、彼女たちについて語っていたのを耳にした時、その言葉に感激や誇りが無く、それどころか稀に不機嫌な響きがあることが、私には理解できませんでした。

 

その先輩は─

 

「マヴェリッククロウは怪しい、彼女はカラスの皮を被ったオオカミだ。彼女はトレセン学園の生徒を、銀翼というアイデンティティをうまく利用して誘惑している。彼女の姿は、あの独裁者にあまりにも似ている」

 

─と言うのです。

 

ですが、あの人は、あくまで、銀翼のウマ娘の中の一人という立場を貫いていましたし、その立ち居振る舞いには、敬意と尊敬の心が感じられました。私達後輩にも、親身に接してくれていました。

 

それに、銀翼のウマ娘の人数を無闇に増やさない理由も納得のいくものでした。銀翼のウマ娘は、差別や排斥などとは一切無縁で、ある時は一流の競技者、ある時は規律正しい生徒、ある時は優しい先輩として、振る舞っているのです。

 

つまり、クロ先輩達、銀翼のウマ娘は、様々な層の人々を虜にするための不断の努力を欠かさなかったのです。

 

また、あの人は、競走ウマ娘だけでなく、サポートウマ娘とも深い関わりを持っています。それはシリウスシンボリ先輩にも出来なかった事でした。

 

ですから、先輩の言葉は、興奮した私たちの耳には入りませんでした。

                 

──当時の中等部ウマ娘の日記より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ…はっ…はっ…」

 

 メイショウドトウは、必死に足を動かす。

 

(皆…強い…私は…)  

 

 メイショウドトウは対戦相手達の強さに、圧倒されそうになる。しかし、そんな彼女の頭の中に、ある言葉がフラッシュバックした。

 

(『良い?ドトウちゃん、ドトウちゃんがその翼で羽ばたくのに大事なのは“知恵”と“勇気”、“知恵”はどんなことに直面しても、沈まず生きのびるため、そして“勇気”は落ちている1%の勝利の可能性を掴むため……その二つは、経験や実力の差を埋めてくれる、最大のパートナーなんだよ』)

 

 この言葉は、トラブル無く調整を続けていたものの、注目株のウマ娘との経験量や実力の差を感じて萎縮してしまっていたメイショウドトウに、“彼女”がかけたものである。

 

(…ここのコースには…合流地点が…なら…右足側は…先輩…私…やります…!!)

 

 そして、ラストスパートの直前、メイショウドトウは、一瞬インに入って、綺麗な芝を踏み込み、加速する。

 

 その勢いは強く、隣のウマ娘はそれに驚き、姿勢が乱れる。

 

 メイショウドトウは飛び出した。

 

「えっ…ここでなんと!メイショウドトウ!?トップに躍り出た!トップに躍り出た!」

 

 (ゴールまで…後少し…!!)

 

「うああああああああああああああああああつ!!!」

 

『ナリタトップロード、テイエムオペラオー、ラピッドビルダーが追いかけてくる!!』

 

(…!でも…信じます!)

 

『続いてヒシアクラメーター、ネガヘッドハンターとマスタームンディも来た!』

 

(翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼のため翼の──)

(………!!!)

 

 2番手でメイショウドトウを追いかけているナリタトップロードは、メイショウドトウから発せられる強さとは違う、得体の知れないものに恐れおののいた。

 

 秋の天皇賞のエアジハードがそうであったように、レースでは、一瞬の判断が勝敗を分ける。

 

『メイショウドトウ!ゴールイン!!初G1にクラシックレースを選び、なんとこれを白星で飾りました!!』

 

 メイショウドトウは数多の強敵を抑え、一着で“菊花賞”を制した。

 

「やったぁ!!実験成功だぁ!!」

 

 彼女を手伝っていたメレンゲジョセフは、大興奮の様子でそう叫ぶ。

 

「皆さん!私、私、やりました!!」

『メイショウドトウが手を振っている、トレーナーや応援に来た友人たちも喜んでいる!!』

『ポイントを一突きした、見事な走りでした』

 

 声援を贈られ続けるメイショウドトウは、“彼女”のように、ターフに向けてお辞儀をする。そして、ファンの方に再び向き直り…

 

「本当に…本当にありがとうございましゅたっ!!」

 

 噛みつつもお礼を述べ、再び、声援を受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のレース、君は終始嬉しそうだったな」

 

 帰りの車に乗り込むと、白子は開口一番、そう言った。

 

「当たり前、望み通りメイショウドトウが、テイエムオペラオーも、アドマイヤベガも、ナリタトップロードも、全て打ち負かしてくれたんだから」

 

 まあ、これは後者3人が、優勝候補、注目株として他のウマ娘から狙われる立場あったことが大きい。

 

 だが、獲物を釣り上げさせておいて、横から全て掻っ攫う、メイショウドトウは見事それを成し遂げたのだ。

 

 その方法も見事だった、彼女は内回りコースと外回りコースがクロスするラチの無い所の芝が綺麗だったのを利用して加速したのだから。

 

「ナリタトップロードは、座り込んでひたすら泣いていたな」

「そうそう、よく聞こえたよ、一番前の席にした甲斐があったってもんだよ」

 

 値が張る席だったため、財布は少し寂しくなったが、心は湯たんぽをいれた布団のようにほっかほかである。

 

「私もテイエムオペラオーらのデータが収集出来て良かった、そして、この通り君も満足、理想的だな」

「山の頂きに至る登山道が、メイショウドトウっていう名の山津波で見事にぶっ壊れたんだからさ、もう、大満足だね」

 

 頂きに至る登山道…Road onto the top…何故か英訳してしまったが、兎に角それを破壊できたのだ、ナリタトップロードのファンの願いを含めて。

 

 更に、他のウマ娘やそのファンの願いも破壊している。

 

 私の快感は大きかった。これは、メイショウドトウが、私に距離適性が似ていてなおかつ後輩であるからということが大きいだろう。目的はどうであれ、私は、彼女を見出し、目をかけ、犬君*1のような粗相やさんっぷりに手を焼きながらも育ててきたわけだし。

 

「そう言えば…アドマイヤベガの様子は、どこか妙だったな」

「そうだね、虚ろな目で空を見つめて、手を伸ばしてた」

 

 一見すると、風船を飛ばしてしまった子どものようである。ただ、私は何となくだが、少し違和感を持っていた。

 

「何だろ……あと、少し変な感じもしたかな」

「……ふむ…なるほど」

「うん…どうしたの?」

「私も同じものを抱いていたかもしれない、だが、もっと具体的だが。私には大事な人が目の前で消えたように感じられたな……ファンタジーものとかでよくある表現方法と言ったほうが良いだろう」

「へぇー、予想外、感覚よりかは理論派のあなたが、そんな感想を持ってたなんて、笑われるかと思ってた」

「…私はどちらかに振り切れる事はない、そしてその感性はユニークだ、大切にすると良い」

 

 まったく…たまに変なところがあるな、この男。まあ、そうでもなければこのマグロみたいなノンストップ女の担当は務まらんだろう。

 

「なるほど……でも、私達には大事なレースがある。切り替えて、ナリタトップロードやテイエムオペラオーの走りの研究をしないとだね。時間は多そうで少ないからね」

「ああ、的確な判断だ」

 

 白子も賛成のようである。まあ、アドマイヤベガは、夏のこともあるから気になるが、私には大事なレースがある。調べるのは二の次である。

 

「…よし、では早速、レースに向けての話をするとしよう」 

「オッケー」

「最近の活躍により、君達に対する注目度はうなぎ登りだ。君が出る予定の有記念は、多くのウマ娘にとって、重要な舞台となる」

「……」

「翼というアイデンティティは、君から始まった。実績では、アグネスワールド君のほうが、インパクトのあるモノを持っているとはいえ、君は銀翼のウマ娘の筆頭として認識されている。つまり、有記念は君を打ち倒し、名前を上げるチャンスであり、君達のことをよく思わないウマ娘にとっては、君達の影響力を取り除くチャンスなのだ」

「向こうがその気なのは分かってる、だからずっと鍛えてきた、策を積み上げてきた。もっと、多くのウマ娘を、夢を、積み上げたものを、破壊したいからね」

「そうだ、驕りは敗北に繋がる、常在戦場の考えを、常に持っておくことだ、君の望みを叶えるためには、今度の有記念は“文句なしの最高のレース”にしなければならないからな」

 

 白子は、念押しするようにそう言った。私はこれからジャパンカップの見学と、有記念に向けての準備をする。

 

 だが、ターゲットである黄金世代には、基本的にノータッチだ。

 

 何故か?

 

 簡単な理由である、白子のアドバイスのもと、計画にテコ入れをした。

 

 ファン感謝祭の時、私はモンジューが勝とうが負けようが、構わないと思っていた。だが、今は負けてほしいと思っている。

 

 スペシャルウィークとグラスワンダーがモンジューに勝利した場合、有記念へと直行するはずである。

 

 すなわち、最高の対戦相手が用意されるのだ。

 

 私の計画には、有記念の勝利が必要不可欠である。グランプリ四連覇を狙うのだから、当然だ。

 

 だが、テコ入れされた計画により、私の有記念の勝利という目標は、“強敵と闘って完全勝利する”となったのだ。

 

 そのために…

 

 黄金世代には再び、輝いて貰う必要がある。

 

 私は、有記念のために、準備を進める必要がある。

 

 

「………ん?」

 

 携帯が震えている。相手は…キングヘイロー…

 

 あ、キングヘイローとツルマルツヨシは黄金世代に返さない──いや、あの二人は銀翼のウマ娘だ、返すも何もなかったな。

 

 まあ、とにかく出よう。

 

「私だよ、キングさん、どうしたの?」

『クロさん、ウマチューブのURAのライブ配信は見てる?』

「いや、今トレーナーと話してたから」

『すぐにアプリを開きなさい』

 

 そう言うと、キングヘイローは電話を切った。ウマチューブに何があるんだ?

 

「……これって…」

「どうした?」

「モンジューが、ジャパンカップに来るって」

「ふむ…音量を最大にしてくれないか?」

「ラジャーラジャー」

 

 画面にはモンジューが映っている。相変わらずオーロラソースみたいな髪色してるな。

 

『世界各地では様々なレースが行われている、そして、その頂点を私は制した、しかし、この世界にはまだ実力あるウマ娘が居ることも知った』

 

 モンジューは、カメラに向けてそう語りかける。

 

『俄然、興味が湧いた……まだ見ぬ実力者の存在に、日本のトゥインクル・シリーズを走るウマ娘達の実力に。私を熱くしてくれたエルコンドルパサー、そしてその同期であるグラスワンダー…スペシャルウィーク…その他数多の強力なウマ娘が集う舞台である“ジャパンカップ”に、私も参戦させて貰おう』

 

 そして、モンジューは最後に何か言って、ポーズを取った。意訳になるが、多分「楽しみにしてるよ」みたいな感じである。

 

 では、日本のウマ娘について振り返ろう。

 

 まず、私は出ない。当然である。

 

 エルコンドルパサーは、現在体調ぶっ壊してからのインフルエンザで寝込んでいて、病は気からというのを、面白いくらい体現している。

 

 グラスワンダーは、そんなエルコンドルパサーが気になっているようである。ただ、トレーニングは続けているので、本番までにはそこそこの仕上がりとなるだろう。

 

 スペシャルウィークは、精神的に不安定。まだ日本一のウマ娘のビジョンは見えていないのだ。

 

 セイウンスカイは出走を目指していたそうだが、オンワードトライブも患っていた屈腱炎にかかり、回避した。

 

 なおこの屈腱炎、かなり面倒な病である。ガンという言葉が一番わかり易い。治癒と再発を繰り返し、現役を続けていたオンワードトライブは、シンボリルドルフとは別のベクトルで、化け物だったのだろう。

 

 そして、他の銀翼のウマ娘は、偶然か、それとも三女神とやらの差し金か、一人もジャパンカップに出ないのだ。

 

「ふむ…ならば、たっぷりとデータを取らせてもらうとしよう」

 

 白子は、動画の音声に返答するかのようにそう答えた。

 

「そうだね、海外のウマ娘との戦いだからこそ、学べることもあるだろうし」

 

 もちろん、私も同じ気持ちだった。今回のターゲットは、モンジューとグラスワンダーである。ただ、もし、スペシャルウィークがビジョンを描けていれば、三つ巴の戦いになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、そっちはどんな感じ?」

「頑張り屋が多いという印象だね」

 

 天皇賞や菊花賞での銀翼のウマ娘の活躍は、学園の中に小さな変化をもたらしていた。

 

「それで、それがそっちのシンボルのリボンなんだ」

「ああ、クロ、僕たち“黒リボンのウマ娘”の活躍をご覧あれ、銀翼のウマ娘の良きライバルとなってみせるからね」

 

 それは、主に“彼女”らの後輩たちが、チームやクラスの壁を超えて集まり、協力関係となるケースが出てきたことである。

 

 そして、今“彼女”が話しているクラスメートは、後輩たちに請われ、銀翼のウマ娘から離れて、後輩たちのグループの手伝いを行っているのだ。

 

 これは“彼女”からすると、メンバーが減るという事になる。しかし、“彼女”はそれほど気にしてはいなかった。銀翼のウマ娘は、入ったら抜けられないようなシステムにはなっていないからである。

 

「楽しみになるね」

「ああ!僕たちの他にも、マイネルヘイムーン、イオンヴィクトリア、コークスイフランコなどの魅力的な後輩達が、銀翼のウマ娘に学び、仲間として、ライバルとして高め合うことが出来るようなクラスづくりをしているそうだ!」

「後輩達が、私達を見本に……嬉しいね、でも、少しだけ心配で、相談しておきたい事があるんだ、それはね──」

「…ああ、確かに、僕も精一杯気をつけるつもりだけれども、備えてはおかないといけないね」

「じゃあ、私は相談に行ってくるよ」

「ダッコルド!*2僕は皆にこの件を話しておく、大切なことだからね」

 

 ただし、彼女は備えを怠らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という訳です」

「成る程…」

 

 その1時間後、“彼女”の姿は、生徒会の資料室、すなわち栗毛庶務長がいつもいる場所にあった。

 

 庶務長になったとはいえ、彼女の“生徒の良き相談役”という印象は失われておらず、そちらの仕事にも、今まで通り真面目に取り組んでいるのである。

 

 そして“彼女”は、先ほどクラスメートと相談していた一件である、「自分たちに影響を受けたウマ娘達の団結」について、相談していたのだ。

 

「…でも、なぜ相談を?」

「私達、銀翼のウマ娘が、後輩達の活動のきっかけであるからです。私達に憧れてくれるのは、ものすごく嬉しいんです。でも、だからこそ、団結によって、他の生徒とトラブルを起こす事だけは、起きてほしくないと思っているんです。それに、翼というキャッチコピーを作った者としての、責任感もあります。」

「なるほど…事情と、マヴェリッククロウさんの気持ちは、よく判りました」

 

 栗毛庶務長は、嫌な顔をせずに、メモを取っていく。

 

「…確かに、他の生徒とのトラブルや、グループ同士の対立が起きる可能性は、0とは言えませんね…」

「はい、私達は、そういう事が起きないように配慮はしているのですが…他のグループまで、その姿勢が行き届くかというと、それは分かりません」

「言われていることは最もだと思います。ですが、チームの壁を超えたウマ娘達の団結は、所属しているウマ娘の意欲向上をもたらしていますし、競技者ではないサポーターの視点から申し上げさせて貰いますと、マヴェリッククロウさんや下級生の皆さんの活動は、子供が成長する“第三の居場所”のようなものと解釈する事もできます」

 

 栗毛庶務長は、不安の表情を見せる“彼女”に対し、自分なりに考えたウマ娘の団結による効用を説明する。

 

「第三の居場所……」

「はい、簡単に言うと、学校や家庭以外で、子供が感性やコミュニケーションの力を養う場の事です、周囲全体がライバルであるアスリートかつ、普通の学生としての面を持つこの学園の生徒には、ぜひとも確保して欲しい物ですね……」

「……」

 

 真剣に話を聞く“彼女”に対し、栗毛庶務長は微笑む。

 

「ですから、マヴェリッククロウさん…あまり、マイナス方向の考えを持たないでください、皆さんの行動は、この学園にとって、足りないものを補完してくれるかもしれないものなのですから」

「庶務長さん…ありがとうございます」

「いえいえ、学園と、この自由な校風を守る生徒会の一員として、当然のことをしたまでです。とはいえ……無為無策というわけにはいきませんから、ここは、風紀委員の皆さんに手伝って頂いて、“生徒たちの新たなる挑戦が、これからの学園のためになるよう、見守って”貰いましょう。監視ではなく…です」

 

 栗毛庶務長は、団結するウマ娘達を見守るため、風紀委員に協力してもらうという考えを“彼女”に伝えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ…」

 

 栗毛庶務長への相談を終えた“彼女”は、明るい表情で廊下を歩く。

 

(これで、合法的に広がっていく)

 

 “彼女”の行動は、一見すると、自らの破壊の願いに反するものかもしれない、だが、それは違う。

 

 “彼女”は、現状、彼女の学年のみで起きている通常クラスの生徒が選抜クラスを打ち破る“下剋上”を、コンスタンツなものとすることを期待しているのである。

 

 ただ、“彼女”は、その動きが広がれば、生徒会が警戒する可能性もあると考えた。そのため、前もってウマ娘の団結に伴って予測される問題を相談事として栗毛庶務長に伝え、その真面目な気質をうまく利用し、直接ではないものの「ウマ娘が団結するという行動に対しては、生徒会は制限と邪魔をしない」という趣旨の言質を取る事に成功したのである。

 

 

(一匹より二匹、二匹より三匹…懐かしいね)

 

 “彼女”はニホンザルのことを思い出していた。サルは一匹だけならさほど脅威ではないが、団結すれば多くの被害をもたらす、山の厄介者である。

 

 “彼女”はウマ娘達においても、“団結による脅威”の考えが適用できると判断した。事実、銀翼のウマ娘の快進撃は、メンバー同士がライバルとして高め合い、時に友人として協力することにより、成り立っていたものだからである。

 

 さらに、中央のウマ娘自体、一定レベル以上の素質を持った、選ばれたウマ娘である。その素質を引き出すことができれば、大きな力を得られるという可能性を、ほとんどのウマ娘が秘めているのだ。

 

 そして、団結により、素質を引き出された銀翼のウマ娘は、黄金世代を打ち破りつつある。

 

(ウチは規則は緩いし、向こうの憧れの感情も利用できる……サポートウマ娘が手伝いに行ったり、フリーのサポートウマ娘と団結したウマ娘を結びつけることも…夢じゃない)

 

 ただし、“彼女”が抱いているのは、あくまで期待、すなわち、自分たちと同じような後輩を作り出すのは、努力目標に過ぎない。

 

(まあ、暫くは他のウマ娘と、流れに任せるとしよう、私には私のやるべきことがある)

 

 そう、“彼女”のメインターゲットは『黄金世代』であり、その破壊こそが、最優先事項であるからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ある報道が、世間を駆け巡った。

 

 その内容は「グラスワンダーのジャパンカップ回避」である。

 

 グラスワンダーは、現状を打破する手段として導き出した結論は、“レースでの勝利による周囲の鼓舞”だった。 

 

 エルコンドルパサーを倒したモンジューを倒すことにより、スペシャルウィークを始めとしたクラスメートを元気づける、それが彼女の目的である。

 

 そして、レースに向けてのトレーニングに熱を入れた結果、グラスワンダーは怪我をしたのである。

 

「………チッ…」

 

 その情報を知った時、“彼女”は少し苛立ちを覚えた。有記念に備えたグラスワンダーの情報収集を、ジャパンカップで行いたかったからである。

 

(いや…苛つくのはよそう、潮の流れが変わっただけだ、それに、怪我はあまり大きなものではないから、多分有記念には出て来る。ジャパンカップは、バ場が違うといえ、モンジューの走りが見れるまたとない機会、それに、スペシャルウィークもいる)

 

 だが、“彼女”はすぐに切り替え、ラジオのスイッチを切った。

 

 

 

 

 そして、そのグラスワンダーの回避の原因は怪我である。彼女は結局、エルコンドルパサーが自らを締め出した原因を聞き出すことはできなかった。エルコンドルパサーは、帰ってきて直ぐに体調を崩し、インフルエンザに罹患したため、彼女は再び一人となったからである。

 

 しかし、グラスワンダーは優秀である。海外戦研究所の設置が、大体の理由であるとは予測できていた。

 

 ただし、海外戦研究所の設置は、理事長であるやよい自らが宣言したことであったため、彼女は何もできなかったのである。

 

 

 

 ただ、そこで思考を止める彼女ではない。

 

「お願いします、マルゼン先輩、ジャパンカップで…スペちゃんの応援を、共にやって頂けませんか?」

「……」

「…私は、スペちゃんの友人であり、ライバルです。だから、スペちゃんに、あの娘の夢の“日本一のウマ娘”は、どのようなものなのかを……見つけて、モンジューに勝って欲しいのです。……どうか、お願いします」

 

 グラスワンダーは、スペシャルウィークが今のような状態となった原因は、“日本一のウマ娘”とはどのようなものなのかが見えていないからであると気づいた。

 

 そして、スペシャルウィークに答えを見つけさせるには、レースの前に出来るだけ気持ちを前向きにさせなければならないと考えたのである。

 

「モチのロンよ!断るわけ無いじゃない!大事な後輩の願い、しっかりと聞き届けたわ!それに………私はそうでなかったけれど、あなた達には、チャンスが有るのだもの」

「ありがとうございます、マルゼン先輩」

 

(これで、少しでもスペちゃんのために…)

 

 グラスワンダーは、自分の行うことが最善の手段であると信じている、心に決めた事はやり通す彼女、その行動は素早かった。

 

 

「今日、皆さんに集まってもらったのは、頼み事をするためです」

 

 その翌日、グラスワンダーは、スペシャルウィークが教室を出たのを確認した後、教室にクラスメートを集めた。

 

 もちろん、そこに銀翼のウマ娘の姿はない。

 

 エルコンドルパサーは隔離、セイウンスカイは脚部の治療であり、“4人”のなかで残っていたのは、グラスワンダー一人であった。

 

「…皆さん、ジャパンカップに挑むスペちゃんを、私とともに、応援して頂けませんか?スペちゃんは、今…迷っているんです。迷い続けているんです。自分の目指す、日本一のウマ娘は、どういうものなのか…」

 

 グラスワンダーは教卓に立ち、集まった生徒達に語りかける。

 

「このままでは…スペちゃんは…迷いと悩みに、押しつぶされてしまいます…それを、見過ごして良いはずはありません」

「でも…応援だけで、何とかなるの?」

「……私なんかが、応援しても…」

「…どうせ、アイツラが、銀翼のウマ娘が全部かっさらっていくんだ……」

 

 しかし、生徒たちの反応は微妙なものであった。

 

「…そうですか…でも、私は断言します。このままでは、スペちゃんの心は、壊れてしまいます!クラスのムードメーカーで、誰に対しても分け隔てなく接し、元気を私達に分け与えてくれるスペちゃんが…居なくなってしまうんです!」

 

 グラスワンダーは、普段出さないような声で、クラスメート達に語りかけた。

 

「…!」

「グラス……」

「グラスちゃん…頬…」

 

 その頬には、涙が伝っていた。

 

「…皆さん、もう一度だけ言います…このままでは、スペちゃんの心は、壊れてしまいます。それで良いのですか?私は、見過ごすことなんて、できません…」

 

 グラスワンダーは、もう一度、クラスメートに問いかけた。

 

「……私は、スペちゃんを応援する、スペちゃんは、日本一、笑顔が似合うウマ娘だから。壊れるなんて…耐えられない…!」

 

 必死に訴えに感化され、一人のクラスメートが、そう言って、立ち上がる。

 

「あたしもやる!私達皆の応援と、想いの力を…モンジューに、銀翼のウマ娘に、見せつけて、一泡吹かせるんだよ!」

「何もしないのが…いちばんいけないよね!」

「私達は選抜クラス、負けるはずがない!」

 

 他のウマ娘達も、それに続く。友人が壊れるのを見たくない者、何もしない事が耐えられない者、海外ウマ娘や銀翼のウマ娘への対抗心を見せる者、選抜クラスのプライドで立つ者…様々なウマ娘達が居たが、いま、ここに、「スペシャルウィークを応援する」という形で、黄金世代のクラスはまとまったのである。

 

「……皆さん…ありがとうございます…!」

 

 グラスワンダーは、クラスメート達に、お礼を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、スペシャルウィークの休養日、グラスワンダーは、スペシャルウィークを、学園の屋上に呼び出した。

 

「グラスちゃん…今日はどうしたの…?」

 

 スペシャルウィークは、肉体こそ異常は無いものの、その目は濁っている。心が疲れているのだ。

 

「スペちゃんに、話したいことがあるんです。まず、ごめんなさい…ジャパンカップを、共に走れなくて」

「…気にしてないよ」

 

 スペシャルウィークの返事は、不安の色が混ざっていた。二人の間に、少しばかり、時間が流れる。

 

「……」

「…スペちゃんの夢、“日本一のウマ娘”…とても、とても難しい物だと思います」

「……うん、私、間違ってたよ…遠くて、幻みたいで…夢みたいな目標を掲げてた…」

 

 スペシャルウィークは諦観の混ざった笑いを浮かべる。

 

「…私は、“日本一”になるには、全然、力不足で…それに、凱旋門賞を見て、その後のファンの人の言葉を聞いて……いつか日本一になれたとしても……それは本当に、価値のあるものなのかなって…」

「……」

 

 グラスワンダーは、スペシャルウィークに対して傾聴の姿勢を取っている。

 

 

「……どうですか?」

「話し始めたところよ、絶対に物音を立てないこと」

 

 屋上の入り口の直ぐそばでは、マルゼンスキーと共に、スペシャルウィークのクラスメートらが待機していた。

 

 

「でも、まだまだ日本で一番だって…ううん…G1だって勝ててない私が、なに考えてるんだって……そんな事考えてないで、とにかく頑張らなくっちゃって…そう思おうとして…でも、色んな事が、頭をちらついて、ぐちゃぐちゃになって、それで……日本一のウマ娘になって、いったい何の意味があるんだろうって思うようになって…これから走る意味…あるのかなって…」

 

 スペシャルウィークの悩みの種は多かった、ファンの日本一への諦め、海外ウマ娘の襲来、自分たちの苦戦、離れていく友人、サイレンススズカの状態、そして……銀翼のウマ娘。

 

「…私は、日本にやってきて、家族の次に大切な存在が、五人できたんです」

「……え…?」

 

 話を聞くままであったグラスワンダーが、突然、口を開いたことで、スペシャルウィークは驚き、顔を上げる。

 

「一人目は、とんだお調子者ですけど、レースの時は、魂を燃やして走るウマ娘です。二人目は、のほほんとしているようで、頭の中では勝利への情熱を燃やしているウマ娘です。三人目は、自分の名前に相応しいウマ娘になるために、努力を惜しまないウマ娘です。四人目は、尊敬する先輩のようなウマ娘になるために、自分に出来ることを探し続ける事が出来るウマ娘です。」

「……!」

 

 スペシャルウィークは、それら四人のウマ娘が、誰を表しているのかに気づく。

 

「そして、五人目は……慣れないここでの生活で、色々と苦労しながらも、見ているこちらに、元気と、勇気を与えてくれる……いつだって夢に向かって全力な…“日本一”負けたくないウマ娘です」

「………日本一負けたくない…ウマ娘…」

 

 スペシャルウィークはグラスワンダーの方を向き、そう言う。

 

「グラスにとって、スペちゃんはそうなんだよ、そして、私にとっては…日本一、挑戦の二文字が似合うウマ娘」

「……!」

 

 スペシャルウィークは振り返る。後ろから現れたのは、スペシャルウィークらのクラスメートだった。

 

「あたしにとっては、日本一、元気なウマ娘!」 

「わたしにとっては…スペちゃんは…日本一笑顔が似合うウマ娘!!」

 

 それも、一人ではない。現れたウマ娘達は、それぞれ、スペシャルウィークに対して感じている“日本一”を言っていく。

 

「皆…」

「一つではなかったんです、スペちゃん」

 

 グラスワンダーは、スペシャルウィークに対し、そう伝える。

 

「“日本一のウマ娘”というのは、最強だとか、人気だとか、そういう一つの形で、決めてしまうものではないんです。スペちゃん、あなたを見ている人の数だけあるものなんです」

「…私のことを見ている人の数だけ…」

「そうです、人によって、変わっていくものなんです。ですから、諦めの気持ちだって…変えられます。あらゆる強敵に、そして、あの凱旋門賞ウマ娘にも臆さず挑み、勝利を手にする…日本一、不屈を体現するウマ娘に…スペちゃんの頑張り次第で変えられるんです!」

「…!」

「ここにいる皆さんがそうです。日本一のウマ娘には、色んな姿があります。そして、その全てに意味があるんです。だから、スペちゃんはなれます、どんな、“日本一のウマ娘”だって…」

「…どんな“日本一のウマ娘”だって…あっ…」

 

 スペシャルウィークは、育ての親とのやりとりを思い出した。育ての親は、幼い頃のスペシャルウィークに、日本一のウマ娘には、いろいろな姿があるということを、教えていたのである。

 

「そうだ…お母ちゃん、言ってた…お母ちゃんにとっての日本一のウマ娘は…」

「そうです、スペちゃん。日本一のウマ娘は、決めるものではなくて、スペちゃんを見ている人の数だけあるものなんです、そして…私にとって、スペちゃんは、“日本一負けたくない”ウマ娘です」

「グラスちゃん、皆…!」

「スペちゃん、これからも、共に走っていきましょう、日本中、世界中の人々に、そして、あの二人にも、刻み込むんです。“日本一のウマ娘”、スペシャルウィークの姿を」

 

 グラスワンダーは、スペシャルウィークが、その頑張りによって、離れていったキングヘイローとツルマルツヨシにとっての日本一のウマ娘となり、友情を取り戻す事を期待している。

 

「うん!」

 

 だが…それには…あるものが、不可欠である。

 

「…どうやら、道は見えたようね」

「マルゼンスキー先輩……!?」

「…スペちゃん、私にとって、あなたは“日本一将来が楽しみ”なウマ娘の一人なの。さて、私に、いや…私達に、日本一のウマ娘の姿を見せるためには、どうするのか……選ぶのは、アナタよ、スペちゃん」

 

 マルゼンスキーは、スペシャルウィークの前に立ち、まるで家族を気遣うかのように、優しく語りかける。

 

「……!」

 

 スペシャルウィークは、はっとしたような顔し…直ぐにグラスワンダー、クラスメート達の方を向き…

 

「グラスちゃん、皆、私、勝ってくる!」

 

 と宣言した。

 

「…私はもう、迷ってばかりの私じゃない、私は…スペシャルウィークは、日本で一番強いウマ娘…ううん、それだけじゃない、色んな人に、色んな“日本一”の姿を刻み込めるウマ娘だって事を証明してくる!!だから、皆…見てて!!」

「スペちゃん…!」

 

 グラスワンダーの表情が明るくなる。

 

「ふふっ…でしたら、私は、早く怪我を治して、いつでもスペちゃんと勝負できるように仕上げないとですね」

「私は、カメラを持って待ってるよ!日本一のウマ娘の姿と、その笑顔を、いつまでも残せるように!」

「じゃあオレはご馳走を用意する!!」

「私は、見守っているわ」

 

 さらに他のウマ娘達も。

 

「『ジャパンカップ』頑張ってきてください。日本のウマ娘の強さを、世界に見せつけて来てください」

 

 そして、そう言った後、グラスワンダーは少し息を吸い込み…

 

「期待しています…“日本総大将”」

 

 と言ったのだった。

 

 こうして、スペシャルウィークら“黄金世代”とそのクラスメートは、銀翼のウマ娘の見えないところで、傷つきながらも、前へと一歩を踏み出した。

 

 自らをぐるりと取り囲む、様々な苦境。それらを乗り越えるべく、彼女らは団結したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、もし、仮に、よしんば…天の上から、ウマ娘達の姿やこれまでを見ることのできる者が居たとすれば、その者達は、あることを思い浮かべるはずである。

 

 そして、それは、そう遠くないうちに、明らかになることだろう。

 

 

 

*1
「源氏物語」に登場する紫の上の遊び相手

*2
イタリア語で「了解」





お読みいただきありがとうございます。

新たにお気に入り登録をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

※補足
 この世界のトレセン学園は、専属とチームの両方がある形となっています。ですので、団結したウマ娘は、少し人数が多いチームのような形で周囲の目に写っています。



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