転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第40話 -宿命-

 

『多くのファンがこの日を待ちわびていました!数々の功績を立てたウマ娘が世界中から集う“ジャパンカップ”!』

 

 時間の流れは早い、もうジャパンカップである。ここまでに色々とあった。

 

 グラスワンダーがトレーニング中の怪我で、ジャパンカップを回避したのは、記憶に新しい。湯治や鍼治療を用いて、急ピッチで怪我の治癒を進めているという。

 

 つぎに、アグネスワールドがマイルチャンピオンシップに勝利した、安田記念では、ヒール扱いされていた彼女達だが、見事にヒーローになってみせたのだ。

 

 そして、残るスペシャルウィークの事を調べていたのだが……“ウマ娘もトレーナーも鬼気迫る様子だった”という報告を受けた。

 

 スペシャルウィークは負け続き、そして、彼女のトレーナーはネットで叩かれている、だが、報告結果はそれに伴ったものではない。

 

 ならば、結論は一つ、スペシャルウィークは、日本一のビジョンを見つける所まで来たということだろう。それなら話は早い、私のやることは今日のレースを、しっかり見て、スペシャルウィークを見極めるだけだ。

 

 そして、スペシャルウィークには“日本総大将”という称号がつけられた。その割にはGⅠ0勝であるが…そんな事は良い。

 

 出どころはどこかはわからないが、ブン屋さんが喜びそうではある。誰かを持ち上げとかないと、ファンを煽れないからな。

 

「君はここでナミキオー君らとレースを見るのか」

 

 そして、私は白子とレース場の観客席の図面を見て作戦会議である………と言ってもレース見学のだが。

 

「うん、他にも何箇所かに分かれてる。カメラは4つ使う。それで、どこなのかは分からないけど、今日は例の海外戦研究所のウマ娘もいるみたい」

「なるほど、では、私は彼女達を探し、その仕事ぶりを見ながら観戦する」

「オッケー」

「よし、様々な国から、ウマ娘やそのトレーナーが集まる舞台、たっぷりと見物させてもらうとしよう」

 

 白子はそう言った。今年のジャパンカップの海外勢は去年よりも豪華なメンバーである。ただし、やることは変わらない。レースに真剣に取り組む、一見物人として学ぶだけである。これを国際的に格好つけて言うのであれば…

 

「…We are “The onlooker”……」

「フッ、良いセンスではないか」

「格好つけて国際的に読んだだけなんだけど……褒めても何も出ないよ?」

「お世辞などではない、良い響きだった」

 

 嘘はついていないな…それにしても、この男、理論派なのに、響きや感覚というものを重んじる時もあるから、やはり良くわからない。

 

 まあ、柔軟な男なのは変わらないのでよしとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スズカさん、ブライトさん、見送りに来てくださってありがとうございます」

 

 準備を終え、地下道へ移動したスペシャルウィーク、そんな彼女を見送るのは、トレーナー、サイレンススズカ、メジロブライトの3人であった。

 

 グラスワンダー達は、先に上に上がり、観戦の準備を整えている。

 

「スペちゃん、モンジューは確かに強敵、でも、私達だけじゃなくて、グラスちゃん達も、見守ってくれていることを、どうか忘れないで」

「どんな時でも、“信じる気持ちを忘れずに”ですわ〜」

「……勝って来るんだ」

「…ありがとうございます…行ってきます」

 

 スペシャルウィークは、頭を下げて、パドックに向かっていった。

 

「…スペ」

「……スペちゃん…」

「お二方、どうかしっかりなさって下さい、今私達に出来ることは、スペシャルウィークさまを信じ、応援することなのですから」

 

 スペシャルウィークを心配しているトレーナーとサイレンススズカに対し、メジロブライトは、気をしっかり持つよう促したのだった。

 

 

 

 

 

「…君の友人であるエルコンドルパサーとは、本当に忘れられないレースをさせてもらった……凱旋門賞の勝利と同じぐらいに彼女と走れたことが嬉しく、日本のウマ娘に対する想いも変わった……」

「すげぇ…」

 

 観客席の最前列、ざわざわした声が聞こえ続けるそこで、私とサクラナミキオー、メレンゲジョセフは双眼鏡を覗いていた。

 

 そのレンズの中には、スペシャルウィークに話しかけるモンジューが映っている。遠くなので、声は聞こえない。だが、私達はモンジューの言っていることが分かる。

 

 メレンゲジョセフは読話、つまりは唇の動きで言葉を理解する読唇術を使って、彼女が話している内容を復唱しているのだ。

 

「また、あの時のようなレースをもう一度走りたい……そのために私は、フランスからやって来た。君達黄金世代と肩を並べる銀の翼達と、闘うことは叶わなかったが、この勝負が、私にとって重要な闘いであることに変わりは無い、私の願いを叶えてくれるような走りを期待しているよ」

「モンジューがお辞儀したね」

「スペシャルウィークの奴、モンジューを見つめてるな」

 

「モンジューさん…」

 

 サポートウマ娘は、今度はスペシャルウィークの言葉を復唱していく、どうやら気合自体は乗っているらしい。

 

「全力で走らせてもらいます」

「…そうだ…その目…私が求めていた物だ…」

「……お互いに準備は万端ってところか…」

 

 スマホを確認すると、色々な場所から、準備完了の連絡が入る。こちらも準備万端である。

 

 レースを細かく見るために、私達は観戦場所を分けていたのだ。

 

 さて、私もそろそろスイッチを入れなければ、観察も、カラスにとっては重要なことなのだから。

 

 

 

 

 

『比較的緩いペース、スペシャルウィークは今回中団よりやや後ろに控えました、一番人気モンジューは、更に後方へ位置を取ります』

 

(終ぞ100%にはならなかった調整……そして…このバ場)

 

 モンジューは、スペシャルウィークをマークしつつ、自分の置かれている状況を確かめる。

 

 “彼女”が予想した通り、モンジューの身体は、日本の環境に完全に適応しなかった。更に、良バ場であることによる硬さは、洋芝に慣れたモンジューに不利である。

 

『各ウマ娘、向こう正面に入っていきます、先頭から後ろまで大きく広がる縦長の展開、世界王者モンジューは、後方から2番目の位置、そして日本総大将、スペシャルウィークはここにいます』

 

(だが、ペースはスロー、スパートのタイミングを見計らえば、勝機は十分にある、さて…どう出る…?)

 

 しかし、今回のレースはスローペースだった。その為バ場の問題は、それほど大きなものではなくなったのである。

 

『残り1000mを切って第3コーナーへと差し掛かります、お互い、睨み合いが続く状態、一体どこで、誰が最初に仕掛けるのか?』

 

 

「スローですわね…」

「ええ…」 

「…スペ…」

 

 観客席では、メジロブライト、サイレンススズカ、スペシャルウィークのトレーナーが、レースを見守る。

 

 

「……スペちゃん、どうか冷静に」

「…モンジューは強敵デス…スペちゃん、仕掛けどころには気をつけて」

「スローペースってことは、最後の末脚勝負…無理だけはしないようにね…」

 

 グラスワンダー、そして、インフルエンザから回復したエルコンドルパサー、応援のために駆けつけたセイウンスカイも、レースを見守る。

 

 

 

「動くね」

「おう」

「…今…!」

 

『あっと!ここでスペシャルウィークが上がっていった!』

 

 “彼女”らが指摘した瞬間、スペシャルウィークは動き出す。

 

『その後ろ、モンジューも一気に追い上げる!注目の両者がここで動いた!!』

 

 そして、モンジューも、それに追随した。

 

『ケヤキを超えて、各ウマ娘達もペースが上がっていく!一段がみるみる詰まってきました!』

 

「モンジュー、外から差しに行く気だね」

 

『外からスペシャルウィーク、外からスペシャルウィーク!更にその外からモンジューも来ている!』

 

「直線勝負になるぞ!」 

「坂を超えたらゴール!!」

 

『いよいよ最後の直線勝負!さあ横に広がった横に広がった!残り400mを切りました!』

 

「ここでモンジューが伸びてくる!外からモンジュー!モンジューがスペシャルウィークに迫る!世界最強と呼ばれる脚が、日本のスペシャルウィークに迫ってきた!!」

 

(君もエルコンドルパサーも、素晴らしい素質を持っている…だが…それでも私の方が…!)

 

 モンジューは己の出せる全力を発揮し、スペシャルウィークに迫る。

 

 

 

(……この背中には、たくさんの夢が乗ってる、お母ちゃん達の夢、チームの皆、友だち、トレーナーさん、ファンの人たちの夢…)

 

 一方、スペシャルウィークは、自分が感じているプレッシャーと、その中の一つである、“彼女”の事を思い浮かべた…

 

(……みんなの夢を乗せて走る!!)

 

(……そんなウマ娘に…)

 

 スペシャルウィークの中で、何かが目覚めた。

 

「ナミキオーちゃん、クロちゃん、見て!」

「アイツ…!!」

「…………!」

 

(…私は!!)

 

 目覚めた何かに呼応するかのように、スペシャルウィークは、力強く一歩を踏み出す。

 

「だああああああああああっ!!」

 

 彼女は加速した。

 

『スペシャルウィーク落ちない!スペシャルウィーク先頭に立った!スペシャルウィークが先頭だ!』

 

(これが…日本の…ウマ娘…………ッ!!)

 

 一方のモンジューは、スペシャルウィークほど勢いが伸びない、調整が100%でなかったツケが、ここで回ってきたのだ。

 

『モンジュー伸びてくる、内からインディジェミニ、更に追ってくるハイライディング!先頭はしかし、スペシャルウィーク!スペシャルウィーク先頭!!』

 

「勝ちたあああぁぁーーーーいっ!!」

 

『最後に突き放した!凄い脚だ!先頭は13番、スペシャルウィークだー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やはり日本総大将!!スペシャルウィークが勝ちましたーーーっ!!』

 

 スペシャルウィークは、最終局面、物凄い脚で、後続を突き放しにかかった。

 

 もし…仮に…よしんば…モンジューが日本の環境に適合していたとしても、勝負は分からなかっただろう。

 

『スペシャルウィークが、初のG1勝利、それも…世界を相手に堂々と勝利です!!』

 

 スペシャルウィークは、スタンドに向け、無邪気に手を振って喜んでいる。それはそうだろう、初のG1勝利なのだから。

 

 ただ、スペシャルウィークには、少し、妙なものを感じた。

 

「………!」

 

 すると、メレンゲジョセフが、口を開く。

 

「……見えた…私の…日本一…!」

「…」

「……!」

 

 私とサクラナミキオーは即座に察した、スペシャルウィークは、この勝ちにより、完全に迷いを振り切ったと。

 

「私は、夢を乗せて、走って、勝った……後は…あの人に…勝って…」

 

 あの人、答えは私だろう。いや、そんな事はどうでも良い。

 

 私はどうしても笑いたかったのだ。

 

 千切れんばかりに尻尾を振り…

 

 蝶のように耳を動かし…

 

 どかっと座り、腹を抱えて…

   

 何故か?私は感じたからである。

 

 スペシャルウィークは、迷いを振り切った。

 

 彼女の走りは、観客の目には“日本一夢を共に見たいウマ娘”として、映ることだろう。

 

 だからそんな彼女は、人の夢だろうか、望みだろうか、欲だろうか、まあ、人が心に秘めたアレコレを背負った“ある物”へと至ったのだ。 

 

 いや、この世界では、“目覚めた”が、正しいか。

 

「あの人……クロのことだな」

「…クロちゃん…」

 

 サクラナミキオーとメレンゲジョセフは、こちらを見る。

 

「…分かってる、もちろん、全力で闘うよ」

 

 有記念を最高のものにする準備が、また一つ整った。

 

 

 

 

 

「よし!!よし!!」

「やったわね…スペちゃん」

「素晴らしい走りでしたわ〜」

 

 

 

「やったぁ!!」

「やりましたネ!スペちゃん!!」

「うんうん…キラキラしてる」

「おめでとうございます、スペちゃん」

 

 スペシャルウィークのトレーナー、サイレンススズカ、メジロブライト、そして、エルコンドルパサー、セイウンスカイ、グラスワンダーらクラスメートは、スペシャルウィークの勝利に歓喜し、ある者は拍手を送り、ある者は涙を流す。

 

 

 

 

 

『スペシャルウィークが、初のG1勝利、それも…世界を相手に堂々と勝利です!!』

 

 一方、こちらは“彼女”やグラスワンダーらの見ていた席とは、別の場所である。

 

「…スペシャルウィークさんも、ついにやったのね……」

「………」

 

 ここで観戦していたのは、キングヘイローと、ツルマルツヨシである。

 

 キングヘイローは、喜ぶスペシャルウィークの顔を見て、つぶやく。

 

「…歩む道は分かれたけれど、称賛すべきことではあると思うわ」

「それはそうだね、でも、それはそれ……私は、あの時、はっきりと見た」

 

 ツルマルツヨシはキングヘイローの言う事を否定することはなかったが、スペシャルウィークを肯定することはなかった。

 

 “彼女”は苦しんでいたところを救助し、入院中は度々見舞いに来て雑談や勉強を教え、悩みの相談にも乗った。

 

 それほど、ツルマルツヨシの心の中の“彼女”は大きかった。 

 

 一方、スペシャルウィークは、ツルマルツヨシに対して、何をしたのか。“彼女”に対して、何をしたのか。

 

 ツルマルツヨシの決意は固かった。

 

 

 

(スペシャルウィークさんがクロさんにやったことは、許されないこと……でも、私はクロさんに、いろいろと……)

 

 一方、キングヘイローは、ツルマルツヨシの固い決意を目にしながら、日本ダービー後の“彼女”とのやり取りを、思い出す、だが、それで受けた屈辱以上のものを、“彼女”を通じて得る事が出来たことも、忘れていない。

 

(いえ、そんなものは、今、大したものではないわ、考えるのは、止めにしましょう。大事なのは、今の私が、これからどうするか……今の私は、全て充実している。強さも、ライバルも、支えてくれる人々も…そして、これからは…) 

 

 キングヘイローは前を向いた。

 

 彼女は、過去に受けた屈辱は、気にするべき概念と捉えないと決めた。

 

 “彼女”が、自身の抱える問題を解決した糧をもたらしてくれたこと、それにより得たもの、そしてそれを使ってこれからどうするかを決めることが、重要であると考えたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャパンカップから少し経ったある日のことである。私は少し遅れてトレーナー室へと入った。すると、白子がこちらに手招きをする。伝言か何かか。

 

「先ほど、モズレー君が面白い情報を持ってきてくれた」

「面白い情報?」

「モンジュー撃破の褒章として、スペシャルウィークに新しい勝負服が用意される事になったのだよ」

 

 ふむ…これは意外だ、確か、追加の勝負服の作成権授与は、功績を上げたウマ娘というふわっとした基準だったような…

 

「新しい勝負服…何でだろ」

「どうやらお偉方は、日本総大将と君の対決構図をどうしても作り上げたいようだ」

「大変そう…」

「君が一般学校から転入したという事実は、当然向こうにも知られている。そんな君に勝たれては、メンツが立たないと思っている者が一定数いるのだろうな」

 

 メンツを気にするのか、ナンセンスだ。だが…

 

「なるほど…でも、楽しいね」

「楽しい?」

 

 白子は興味があるという目でこちらを見てくる。

 

「レースに出ているウマ娘として、必要最低限度のレベルで他者の期待に応えるのは為すべきこと、でも、為すべきことを為しているとさ、必ず反対勢力、対抗勢力が生じるんだよ、偉い人が期待してるスペシャルウィークとか、自分の時代を築きたがっているテイエムオペラオーとか、私へのリベンジを企むグラスワンダーとかのね」

「ふむ…確かにそうだな、続けてくれ」

「でも、反対勢力が出てきたらさ、そのことをもって、躊躇なく、思う存分破壊できるから楽しいんだよ」

 

 私を面白くなく思うウマ娘や私を倒したいウマ娘は自然発生するだけではない、周囲から対抗馬として持ち上げられるケースもある。また、どちらにせよそれは喜ばしいことなのだ。

 

 私を止める方法は簡単である

 

「エサをやるな、閉じ込めよ」

 

 ということ─まあ、つまり、学園をやめさせるということだ。なんか収容規則みたいな文面になった。

 

 ただし、レースも勉強もちゃんとやっており、素行も問題ない私をやめさせるというのは、かなり無理があるが。

 

「フフッ…分かった。取り敢えず、私もあらゆるルートからスペシャルウィークらの情報について調査をしておく」

「了解」

「そして、君には、新しい勝負服を用意するとしよう」

「私に?」

「ああ、君は身長が伸びたからな、それに、君はGIを5つ勝っている、申請は通る。丁度良い機会だ」

「じゃあ、デザインは大きく変えないでね?あ、でも靴は変えて、どうもローファーは合わない、ブーツ系の物にできる?」

「可能だ」

 

 白子はそう言うと、ペンを取り出して、メモを持っている。

 

「向こうの勝負服…どんな形になるんだろうね」

「それはまだ分からない、だが、君の有記念を彩るのに相応しいものとなるだろう、それに対し…こちらの勝負服は…」

「…何かするの?」

「外観はほぼそのまま、中身は別物とするつもりだ。今までに得たものを、惜しみなく投入する」

「なるほど、外観はお茶を濁したぐらい、でも中身は別物ってわけだね」

「ああ、複数の勝負服をウマ娘の多くは、2つの勝負服の外観が違う程度で、中身はマイナーチェンジ、これでは勿体ないのでな」

「くくっ……マイナーチェンジって……おもしろい例えだね、あ、素材とかは、禁止されてるのとか使ってないよね?」

 

 デザインの自由度が高い勝負服だが、流石にNGなものもあり、田んぼに張ってある鳥よけテープを使うのはピカピカ光って邪魔なのでNGである。いや、そんな発想したの誰だよ、とんだ天才だな。

 

 なら、全然同級生が模型で塗っていた、進行方向を惑わせるダズル迷彩とかはどうなのだろう?少し興味が湧くな。だが、いつもと色が違うと着ているこっちが落ち着かない、駄目だな。

 

「その点については心配ない、駿川秘書から話は聞いた。“禁止事項を守れば問題なし、ただし変更されることもあるので気をつけるように”だそうだ」

「よし、問題なさそうだね」

「ああ、最高のものを用意させてもらうとしよう」

 

 白子は、得意気そうにそう言った、彼はたまに、図面を描いている事がある。絵ではない。蹄鉄であったり、シューズのソールであったり、トレーニング器具であったり、まあ、色々とやっている。

 

 そして、最近は、私のパワーの増加に合わせた足回りについて頑張ってくれている、勝負服の完成と同時期に仕上がるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮に戻り、食事等を終えた後、私は日記をつける。

 

 

 親愛なるパピーへ

 

 ジャパンカップが終わり、有記念が、段々と近づいて来ました。今日、スペシャルウィークの情報が届いたのですが、有記念に向けて、新しい勝負服を用意するそうです。私も負けていられません。

 

 先程も言ったように、有記念の本番は、だんだんと近づきつつあります。今年最後の大一番ですが、私達の戦いは、結果がどうであれ続くのです。

 

 私達の活躍と、黄金世代を始めとした、私達に対抗するウマ娘達により、時代の流れは確実に変わりつつあります。明るさ・華やかさ・生命力・闘争心・羨望…

 

 そんなさまざまな要素が混じり合いながら、そこかしこに溢れ出し、一つの空気を作り上げはじめています。

 

 そして、そんな空気の中にいるスペシャルウィークについて、はっきり言えることがあります。

   

 彼女は、様々な人の夢を、あの背中に乗せて走りました。様々な形の日本一に答えるべく、走りました。

 

 そして、彼女は勝ちました。

 

 本当は祝福すべきことでしょう。

 

 ですが、私はどうしても笑いたくなったのです。

 

 どうしてそう感じるのかというと、ある生き物のことを思い出したからです。

 

 それは、人間が作った最高の芸術品だそうです。いくつもの種を見て、調べて、比べていって、かけ合わせます。そして、そのかけ合わせたてできたものに対しても、見て、調べて、比べていきます。それを繰り返すのです。

 

 そうしてできた生き物は、気性は荒い、落ち着きに欠ける、重いものを運ぶのはご法度、身体は怪我や病気に弱いと……デメリットだらけの生き物でした。

 

 でも、人間はそんな物を気にしませんでした、何故かわかりますか?

 

 それは、勝負の際に勝てれば良かったからです。 

 

 日常の姿など、どうでも良かったのです。

 

 荷物ではなく、夢を乗せれば良かったのです

 

 こんな不完全な、勝負事がなくなれば絶滅してしまうものを、生き物と呼ぶのは、私達を生み出した母なる自然に失礼なことでしょう。

 

 速くあること、勝つこと、夢を乗せること、のみを求められた、究極の存在、勝負事のためだけに生まれた人工のクリーチャー…

 

 人間たちは、それを“サラブレッド”と呼んでいました。

 

 じゃあまた、マヴェリッククロウより。

 

 

 

 

 

 私はペンを置いて、くつろぐ。

 

 サラブレッドについては、一定の知識はある。有名なのだとオルタネーター*1とかがいたと思う。

 

 北海道の田舎でのびのびと育てられたスペシャルウィークは、サラブレッドの宿命に墜ちた。人間が作り出した、ただのクリーチャーと成り果てた。

 

 それに対して、私は、サラブレッドに関係あるであろう三女神を信仰するウマ娘ではないし、今の私の故郷─益田のこともあって、母親から“私達は自然の一部であることを常に心に置いておく”という教育を受けてきた。

 

 自然の世界は過酷である。速いだけでは、生きていけない。人々を魅了する模様だって、有毒のサインであることも少なくない。

 

 なので私は、精神、肉体共に、自然に対応できるものになっていった。それが普通で、日常となっていった。

 

 レースも同じである。ファンの気持ちに応えるなんてのは、あくまでパフォーマンス、結局、求められているのは、競争という食物連鎖の中で、進化して、生き延びること。最も重視すべきなのは、人気や応援でもなく、友人関係でもない。頭を上手く使うかと、どのような状況でもパフォーマンスを維持・発揮できるかなのである。鉄とボルトの翼も、そのスタイルをわかりやすく表した言葉に過ぎない。

 

 

 …そう言えば…三女神はウマ娘だったな、彼女達も、馬が変化したものだろう。彼女らから見れば、スペシャルウィークらはサラブレッド、私は……困ったな、実家にいるから、犬は分かるが馬の品種なんてサラブレッドぐらいしかわからない。オオカミと違い野生馬なんてほとんど絶滅してしまっているはずである。 

 

 私を野生動物に例えるなら、カラスとタイリクオオカミだろう。

 

 馬に限定すると、私の知識上、どうしても人工のものになるが…

 

 ……分類としては、軍馬が適しているのかもしれない。用途上、頑強(つよ)さと適応力に重点が置かれてそうだし。

 

 まあ良い、複雑なアレコレは、ここまでにしておこう。

 

 とにかく舞台は整いつつある。

 

 黄金世代の一人として、人間の夢を乗せ、それに応えんとひたむきに努力するサラブレッド、スペシャルウィーク。

 

 自然の一部として育ち、大地に根を張る木のように、あるいは故郷の前に広がる海のように、銀翼のウマ娘をはじめとした周囲のあらゆる物と関わり、ここまで登ってきた私。

 

 世間やブン屋さんにとっては、黄金世代と銀翼のウマ娘の対決。 

 

 私にとっては、人間の願いが生み出した者と、自然のように育ってきた者の対決。

 

 あとは、私がしっかりとやるかどうかである。

 

 そう、有記念で、天災となり、夢を乗せたサラブレッド、スペシャルウィークを破壊するのだ。

 

 いや、それだけではない、暴風雨が過ぎ去った後のように、爪痕を残すのだ。

 

*1
オルフェーヴルのこと、主人公は勘違いしている





お読みいただきありがとうございます。

もう一話挟みまして、有馬記念へと入っていきたいと思います。

新たにお気に入り登録をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

主人公は自然の中で育った事は、今まで多く言及して来ましたが、軍馬的な要素についても、今までの描写に、少しずつ入れていたつもりではあります。

また、主人公の故郷は、島根県の益田市という設定です。

ご意見、ご感想等、お待ちしています。

キャラクター解説:サトノモズレー

URAと深く関わり始めたグループ「サトノグループ」を構成する一族「サトノ家」の一員であり、アマリイーグリーナの親友。強い競走ウマ娘を送り出す事のみに力を注ぐ一族の人間に対して辟易していたところを、アマリイーグリーナの誘いを受け、銀翼のウマ娘の一員となった。特技はデザイン。
なお、ゲーム本編に登場するサトノダイヤモンドやサトノクラウンより年上であり、二人はサトノモズレーから見れば「まだ小さな子」である。

 
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