転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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 大変お待たせ致しました。今回は、拙い挿絵が入っております。イメージの参考になれば幸いです。



第43話 -可能性-

 

 

白黒の勝負服に身を包み、人とは思えぬ、得体のしれない叫びを上げて走るウマ娘。

 

その鬼神のような姿。

 

他のウマ娘を気迫で押しつぶし、ひるむことのない鉄のような芦毛のけだもの。

 

私はその姿を見ると、自分の薄い皮膚の中に小さく縮こまるような気持ちになった。

 

その驚くべき末脚には、私の脚は藁のようにか弱いものだ。

 

ラフプレーは、マッチぐらいだ。

 

このマヴェリッククロウというウマ娘は、何よりもレースの恐ろしさそのものに見えた。

 

                                 ──観戦したウマ娘ヴェニュスパークの回想

 

「晴天良バ場異常ナシ」より 

 

 

 

 

 

 

ワタシは理解できなかった。

何故、嫌がるのか。

何故、怯えるのか。

何故、避けるのか。

彼女は、素質、肉体、精神を兼ね備えた完璧なウマ娘だ。

彼女のような存在が、今後の日本のウマ娘の中核となるのだろうと、感じさせられた。

 

走攻守を兼ね備えた、彼女のようなウマ娘、それをどう呼ぶべきなのかは、その時のワタシには分からなかった。

 

ただ、大自然のように、時に静かに、時に激しく…ターフの上を駆け抜ける、その姿…

 

 

 

マヴェリッククロウ

 

ワタシの心に、アナタの姿は刻まれた。

 

私は走る…

 

アナタのような、ウマ娘となるために。

 

 

──観戦したウマ娘リガントーナの回想

 

「刻まれたモノ」の序章より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、キングヘイローの言葉が、頭の中をフラッシュバックした。

 

 

『要はイメージよ、自分の姿を、思い描いておくのよ。』

 

『どんな状況でも、決して首を下げない、不屈の心を得られるわ』

 

 …私の目指すもの……それは…

 

 絶望、喪失、崩壊…

 

 …何がそうなる?…誰がどんな顔をする?

 

 トゥインクルシリーズ、苦しむのは、黄金世代、シンボリルドルフ、サイレンススズカ……数え切れない。だが、顔は想像できる。

 

 そう、苦しみだ、自分の心の変質に苦しんでいたオンワードトライブのような…苦痛に歪んだ……

 

 では、それを実現するためには、どうすれば良い?

 

『武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候』

 

 ……判り切った事じゃないか、そう、何としても勝つのだ。破壊を確立するには、それしか無い。

 

 身体はどうだ?

 

 動く、まだまだ、力は余っている。もっともっと絞り出せる。

 

 その証拠に、鼓動はどんどん高まっている。

 

 身体も熱い。

 

 

 

 

 

 ウマ娘達の努力の成果を…

 

 ウマ娘達の自信と戦意を…

 

 ファンがウマ娘にかける夢を

 

 そして、それらが手にいれ、分かち合う栄光を…

 

 破壊してやる…

 

「────────────────ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────────────ッ!!!」

 

 レース中のウマ娘は、稀に叫ぶことがある。それは、気合の声や、勝利への願望が出たものである。

 

「ヒッ…!?」

「……ッ!!」

 

 しかし、海外から来たウマ娘は、思わず怯えた。“彼女”の叫びは、そのどちらでもなかったのだ。

 

 “猿叫”や“咆哮”と形容するのが正しい、言葉とは言えない叫びだった。

 

『…!マッ…マヴェリッククロウがここで動いた!!先頭、ツルマルツヨシが内では頑張っている!外からグラスワンダーにスペシャルウィーク!』

 

 そして、その叫びを聞いた者は、2つに分かれた。

 

 1つは海外のウマ娘や実況のように、怯えるか、動揺の意思を見せる者たちである。

 

「スゲェ…行けクロ!!抜いちまえ!」

「クロちゃん!!」

「ファイト!!」

「マヴェリッククロウ!行けー!!」

「後少しー!!」

 

 そして、もう1つは、人のそれとはかけ離れた、その叫びに何か心を揺さぶる、圧倒的なものを感じ、一瞬で魅了され、応援を行った者たちである。

 

『ツルマル頑張っている!内からテイエム来た、テイエム来た!外からはスペシャルウィークとグラスワンダー!しかし声援に後押しされているかマヴェリッククロウ!その勢いは衰えない!』

 

 ただ、人々がどんな反応を示そうと、“彼女”は自らの足を止めることはない。

 

「…クロウ君を通して出る力…それが、この悪天候を乗り越え、黄金世代という、大いなる敵を倒す……か………こう見てみると、面白いものだ」

 

 そして、その姿を見ていた白子は、満足そうに視線を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼の前には、何が見える?

 

 スペシャルウィーク、グラスワンダー、テイエムオペラオー…破壊すべき、ウマ娘である。

 

 倒せ奴らを…

 

 私の餌…

 

 私の破壊対象…

 

 私の…生きがい…!

 

 顔に霰が当たる?

 

 それが何だっていうんだ?

 

 ただ、前を見ろ。

 

 大地を割れ。

 

 行け そして破壊しろ。

 

『ここで大外からマヴェリッククロウ来た!烏天狗が飛んできた!』

 

 パキン!

 

 何が起きた?

 

 いや、気にする必要は無い。

 

 私にできる事は。

 

 この、溢れ出る力のまま…

 

 脚を動かし

 

 眼の前のウマ娘を抜き去り…

 

『そしてそのまま抜き去った!』

 

 破壊するだけだ。

 

『並びかけない!抜き去り、突き放し、そのままゴールイン!!無敗の銀の翼は、霰の中でも傷つかない、輝く鋼鉄の翼だ!最後はその末脚で纏めてオーバーテイク!今年最後の究極の一撃ー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは終わった。

 

 霰はまだ、止んでいない。

 

 掲示板を見る。

 

 ………2分29秒0…

 

 文字は赤色…つまりはレコード…

 

『マヴェリッククロウ!霰が降る中、何とレコードタイムを更新!!年末最後の大一番に、大記録を残しました!!』

 

 ワァァァァァァァァァッ!!

 

 コースレコード、その事実に直面したファンから私へ、声援が贈られた。

 

 もう一度タイムを見るために、ボードの前に向かう。

 

「……」

 

 レコードタイムを確認した、間違いではない。

 

「クロちゃん」 

「…ツルちゃん」

「……ありがとう、今までで、最っ高のレースをさせてくれて…ラストスパートのアレ、良くわからないけど、すごい力だった。ビリビリ来た、圧倒されちゃった……なんだろ…でも…悔しい…くやしいよぉ…絶対に…絶対にクロちゃんに勝ちたかった…」

 

 ツルマルツヨシはそう言って、堰を切ったように涙を流しまくった。

 

 夢が破壊されたのはどんな気持ちだろう?シンボリルドルフのようになるには、まだまだ道は遠いな、これは。

 

「…ごめん、クロちゃん…先…行ってるね」 

 

 ツルマルツヨシは歩いて去っていき、私は周囲を見る。

 

「……っ!……うっ…!」

 

 グラスワンダーは、芝に顔を伏せたまま、時々身体を震わせている。なるほど、顔を見せずに泣くのか、珍しいが、その分面白い。

 

 そして、スペシャルウィークは…

 

「………」

 

 4着である。

 

 ぺたんと座り込み、呆然としている。

 

 とても良い光景じゃないか、疲れが吹き飛ぶ。10秒ほど見ていようか。

 

「……………ッ…」

 

 疲れが抜けたと同時に、脚に違和感を感じ、靴を見る…

 

 ……落鉄している。つまり、蹄鉄の無い状態でスパートをかけた時間があったという事だ。

 

 つまり、私も相当消耗している、これは、顔を保てないかもしれない。そろそろ行こう。私はまず、アグネスワールド達に手を振った。

 

 そして、コースとファンに向けてお辞儀をし、微笑んだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……ッ!?」

 

 そうすると、へたり込んでいたナリタトップロードが、恐怖の表情で道を開けた。

 

 ダイワセンシュウは、私と目があった瞬間、反らした。

 

 スエヒロデストロンは、後退りした。 

 

 ………感情が昂ったら、誰でも叫ぶだろうに。

 

 特にナリタトップロード、皐月賞で凄い叫んでたろ。セル画のプロがいたら、アニメの名シーンとなるぐらいの顔して。

 

 

 

 

 

 

 

 地下道へと向かう。観客席の方を見上げながら歩くと、やはり歓喜の顔の中に、たまに怨嗟の顔や悲しそうな顔が混じっている。これで良い、そういう顔こそ、私にエネルギーをもたらすのだ。

 

「……!」

 

 地下道に入ると先客がいた、テイエムオペラオーである。彼女は、まるで化け物を見るかのような目で私を見た。

 

「……キミは…なんという力を…」

「………」

 

 そういえば…

 

 彼女は啖呵を切って来たな…

 

 ……

 

「……啖呵は切れても……たった一人のウマ娘は千切れなかったみたいだね…」

 

 そう言ってそのくりくりの目玉を覗き込むようにして見てやると、向こうは腰を抜かして尻餅をついた。

 

 おいおい、気をつけろよ、ここの床はそんなに柔らかい素材じゃないんだ。骨折でもしたらどうする。

 

「……!」

「…それだけ……でも、愉しかったよ、ありがとう。また、一緒に走ろう」

 

 私はテイエムオペラオーに頭を下げる。さて、ライブに向かうとしよう、スキップしたい気分だが、ライブでの笑顔のパフォーマンスで、代替させて貰おうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───!!』

 

 ワァァァァァァァァァッ!!

 

 観客の声が、私の脳内にこだまする。疲れた。“BLAZE”をやった後に、ソロで歌ったからだろう。

 

 だが、まだだ、まだ終わりではない、記者会見がある。

 

 白子と共に筋書きは決めてある。スペシャルウィークを破壊させてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

「レコードタイムを出した心境は?」

「霰が降ってきた際はどう思われましたか??」

 

 予想通り、多くの質問が私に投げかけられる。私はそれに一つ一つ、回答していった。

 

「今後の方針をお聞かせください」

「では、今後のことについて、お話させて頂きます。ひとまず、来年の宝塚記念への出走、これは絶対に外せません。そして、それまでに出るレースについては、候補となるであろうレースはいくつかありますが、天皇賞・春が検討対象となっているとだけ、お話しておきます」

 

 とりあえず、G1の名前を出しておく、そうすれば、他のウマ娘の対抗心を、更に煽ることができる。

 

「レコードに関しては、走り終えた時は、信じられませんでした、私は出来るだけの事をしては来ましたが、まさか、レコード勝ちを成し遂げられるとは思っていませんでしたから」

「なるほど……では、あの叫びについては、どう振り返っておられますか?あれはとても…なんでしょう……溢れ出る力を感じましたので、是非とも教えて頂けませんか?」

 

 なるほど、このブン屋さんは恐怖ではなくそうとらえたか。

 

「出走前、友人から、メンタルを保つ秘訣を教わったんです。秘訣ですので、詳しく答えるのは控えさせて頂きますが、その秘訣のお陰で、ぶつかる霰も何とも思わない、勝ちたいという気持ちが、一気に、グンと、湧いてきて、それが、声として出て来たということだと、思っています」

 

 まあ、あんな声量の叫びを出したのは、久しぶりだった。暫くイノシシや熊とやり合っていないからである。

 

「ありがとうございます」

 

 そして、キングヘイローの助言は、役に立った。だが、キングヘイロー……

 

 もう戻れないので、覚悟しておけ。

 

「では、次は自分が、かなり前になりますが、マヴェリッククロウさんは海外遠征も考えているとおっしゃっていました、その事については、現在、どのようにお考えですか?」

「そうですね……クラスメイトのアグネスワールドさんが遠征を行った際には、こちらと連絡をこまめに取って、パフォーマンスの維持に努めていましたから、海外遠征は、繊細な調整が必要なものであると捉えています。」

「なるほど…確かにそうですね…ですが、トレセン学園には、海外戦研究所という部署が新設されたとお聞きしています、そちらの協力を得ることで、海外遠征もやりやすくなったとこちらは考えているのですが、そこに関しての考えをお聞かせください」

「もちろん海外戦研究所に関しては、私も存じております」

 

 だれがつくったんだろうな、うん。あ、シンボリルドルフか。

 

「しかし、私が一番気にしているのは気候の違いです。これで体調を崩してしまえば、遠征だけでなく、帰国後のレースにも影響を及ぼしかねません。ただ、洋芝への適性…この点については、問題ありませんでした。しかし、私の目標は、グランプリの4連覇、暫くの間はその目標達成だけに、己の力を注ぎ込んで行きたいです」

「なるほど、曲げないその信念、尊敬に値します。ご協力ありがとうございました。」

 

 まあ、どうやら上手く応対できたらしい。ただ、まだ体が少々重い、これから質問が更になされると思うと嫌になる。

 

「……皆さん、申し訳ありませんが、今回のレース、クロウ君は大変な消耗をしました。ここからの質問は、私に対してお願い致します。」

 

 幸運なことに、白子が助け舟を出してくれた、記者たちは、頷いて同意し、白子に目線を向ける。

 

「トレーナーさんは、今後のマヴェリッククロウさんの進路については、どのようにお考えで?」

「私の一番の職務は、クロウ君が何事もなくレースを終えられるよう、その状態をしっかりと分析し、支えていく事です。ですので、進路については、基本的には彼女の意志を優先しますが、不十分な調整となりそうな時は、意見をするつもりです」

「…なるほど…良く分かりました」

「次は自分が、今回の落鉄については?」

「蹄鉄の事前確認はしっかりと行っていました。しかし、蹄鉄メーカー側の協力も得て原因の調査はしっかりとさせて頂きたいと思います」

「ありがとうございます」

 

 白子は、質問に的確に答えていった。そして…

 

「白子トレーナーは、今回のマヴェリッククロウさんの勝利を見て、どのような気持ちを抱きましたか?」

 

 お望みの質問が来た。ブン屋さんの顔を見れば、あの月刊トゥインクルの乙名史とかいう記者である。

 

「…そうですね……」

 

 白子はこちらを見る。そして、考える“フリ”をする。

 

「単刀直入に言いますと、彼女の中にある“無限の可能性”それを垣間見ることが出来たと思っています」

「無限の可能性…?」

「はい、今回の対戦相手は、皆、経験豊富かつ実力も兼ね備えたウマ娘達でした、そして、天候の変化は、最後に仕掛ける作戦を立てていたクロウ君に、不利に働いていたはずです。しかし、それらの要素を跳ね除け、クロウ君はやってくれました。圧倒的なパワー…目にも止まらぬスピード……我々人間の到底及ばぬ、圧倒的なものを、見せてくれました」

「……」

 

 白子の言葉を聞いた記者…

 

 手が止まっている。

 

 ペンが震えている。 

 

 顔を上げる。

 

 口を開く。

 

 来た…

 

 見た…

 

「す…素晴らしいですっ!!つまり、マヴェリッククロウさんは、日本一可能性に溢れたウマ娘であるということですね!!」

 

 成った…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩!おめでとうございます!」

「ありがとう」

「クロウさん!サインを!」

「もちろん」

「すごい力でした!あたしもいつか、先輩みたいになります!」

「ありがとう、デビューしたら、レースを見させてもらうね」

 

 翌日は、もうそれはそれは物凄い騒ぎとなったランチタイムになり、席についた瞬間、多数の後輩が祝福にやってきたのである。

 

 ただ、私はそんなものに興味はなかった。

 

 ただ、放課後が待ち遠しかったのだ。

 

「ありがとうございました〜」

 

 放課後になると、さっさと学園を出て書店に向かい、目当てのものを購入した。

 

 月刊トゥインクル、冬の特別号である。というか、レースのすぐ後に仕上げるの、すごいな。編集部はトレセン学園のトレーナー以上にブラックな労働環境だろう。

 

 世界は違えど、労働法は守られてない。なんだが滑稽である。

 

 河川敷のベンチに座り込み、期待に胸を躍らせ、ページを繰る。

 

 “日本一 可能性を秘めたウマ娘 マヴェリッククロウ”

 

 コレじゃない。

 

 “ホープフルステークス優勝ウマ娘”

 

 コレでもない。

 

 “WDT特集”

 

 コレでもない。

 

 そして……

 

 “スペシャルウィーク 休養 トレーナー「消耗は大きい」”

 

 求めていた記事を、私は見つけた。

 

 私は、齧り付くようにそれを見る。

 

 そこには「激闘続きだった」だの「ジャパンカップの疲労が抜けきってなかった」だの、様々な予測が散りばめられている。

 

 だが、真実は違う。

 

 記者会見の会場から、移動する時……  

 

 聞こえてきたのである。

 

『ああああああああああああっ!!』

 

 と、ひたすら泣く、獲物(スペシャルウィーク)の声が。

 

 彼女は何もかも、奪われたのだ。

 

 勝ち取ろうと思っていた栄冠。

 

 切磋琢磨するはずだった友人。

 

 そして、ついこの間、勝ち取ったばかりの。

 

 “日本一”

 

 を…

 

 私は日本一可能性に溢れたウマ娘となった。

 

 これはどういう事を意味するのか?

 

 “日本一速い”でもいい。

 

 “日本一輝いている”でもいい。

 

 “日本一歌い踊り、舞う姿を見ていたい”でもいい。

 

 “日本一応援していたい”でもいい。

 

 そして…

 

 “日本一、共に夢を見たい”でもいい。

 

 そう、ファンの思い描く、あらゆる日本一を、体現できるようなウマ娘である。

 

 早い話、スペシャルウィークの上位互換だ。

 

 ジャパンカップの時、彼女が自らにどのような日本一の姿を見出していたのか、そんなことはどうでも良い。

 

 大事なのは、私の“日本一”である、それは万能なのだ。

 

 つまり、スペシャルウィークにとっては、答えを見出した矢先に、その先を行く存在が現れてしまったということになる。

 

 彼女の夢が膨らんだところを、私は針で突き刺した。

 

 タイミング、プロセス、壊れ方、すべてが完璧だった。私は大いなる達成感を感じたのだ。

 

 だから、私はルンルン気分だった、帰りの車の中で─

 

『Run! Run! Run!見つかったよ 一番 楽しいこと……』

 

 と、歌を口ずさむほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

 回想を一旦止め、周囲を見回す。

 

 土手の方見ると、トレセン学園の生徒が、ランニングをしている。誰だかすぐに分かる。

 

 真っ直ぐな目をしている、当然である。彼女も私のように、確固たる夢があるのだから。

 

 スペシャルウィークも、真っ直ぐな目をしていた。私はしっかりと覚えている。スペシャルウィークがどんな夢を抱いていたのか、誰の思いを乗せて走っているのか…

 

 彼女には、母親が二人いる。生みの親と育ての親。そして、彼女は言っていた、地元にはウマ娘の友達は居なかった、だからこの学園に来れて幸せだと。

 

 彼女は努力家で、根性のあるウマ娘だった。ダービー前はかなりの量の自主トレをしていて、周囲の注目を集めていた。トレーナーとの絆もあったし、そのトレーナーも、ウマ娘の夢のためなら協力を惜しまない人物だった。

 

 周囲の友人にも恵まれていた、素質よし、性格良しのウマ娘達に、彼女は囲まれていた。彼女が黄金世代と呼ばれるようになったのは、その友人の影響も大きかったのだろう。

 

 彼女は素晴らしいウマ娘だった。

 

 だからこそ、壊したくなったのだ。

 

 決めた後は、対抗心を植え付けるだけだった。

 

 対抗心を植え付けられ、ツルマルツヨシとキングヘイローに離れられ、彼女は私に怒りをぶつけてきた。

 

 彼女は私を『大本命(ターゲット)』に据えた。自分自身の夢を達成する上で、一番倒さねばならぬ、眼の前の敵としたのだ。

 

 そして、彼女はトレーニングに明け暮れた。

 

 その結果、彼女はサラブレッドに成り果ててしまった。人間の夢を乗せる、遺伝学が母親の、ただのクリーチャーとなったのだ。

 

 しかし、彼女はウマ娘、心は人間に似ている、だから、敗北のショックに押し潰され、結果的に壊れてしまった。

 

 …余韻ひたひたというやつである、今でもルンルン気分が収まらない。ああ、また歌いたくなってきたな。

 

 ここまで、長かった。

 

 クラスが違うし、黄金世代と銀翼のウマ娘という構図により、同級生として関わることは少なかった。

 

 しかし、私は、同世代の競技に携わるものとして、彼女とは、正面から向き合ってきたつもりである。彼女の夢という名の旅路の上に、立っていたつもりである。

 

 だから、私はクラスメートやサポートウマ娘だけじゃなく、自分自身も使いながら彼女を研究しどのようなウマ娘かを知っていった。

 

 

「ボクはここにいる 君の目の前に…」

 

 

 そうすることで、私はある意味、彼女を最もよく知る人物の一人となったのだ。

 

 

「君がおとなになるまでは…あそびつづけよう…ボクといっしょに…」

 

 

 理解者になり…

 

 じっくり、着実に破壊していく。

 

 このプロセスはとても面白い。

 

 ヒシアマゾンにプリセットメモリのことを聞いた時に、狂おしい程の面白さを感じていたように、相手がどんな人物なのか理解すればするほど、自分が相手の何を壊したのか、それによりどんな事が起こるのかがよく分かり、結果的に面白くなるのだ。

 

 だが、スペシャルウィークの破壊、これは私の目的の完遂を意味するのだろうか?

 

 答えは、否。

 

 それは先程見た走るウマ娘が示している。

 

 グラスワンダーである。彼女は走っているのだ、挫けること無く…

 

 そして、私は彼女を逃さない。

 

「君が夢にみるものは 何だろう」

  

 いや、彼女の方も、私を放ってはおかないだろう。更に鍛えてくるはずだ…私を倒すという、目標を胸に。

 

 だから油断はできない。だが、やり遂げて見せる。

 

「いまからボクが とりにゆくから いってごらんよ大きな声で……」

 

 彼女の望み通り、武士道精神で対決し…

 

 破壊に臨ませてもらう。

 

 そして、そのための準備は、もうすでに始まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親愛なるパピーへ

 

私はついにやりました。

クリーチャーとなったスペシャルウィークを破壊したのです。

 

彼女は必死でした。とても強く、私を倒すため、必死で鍛えたということが、その走りから伝わってきました。

 

相手にとって、不足はありませんでした。

 

ジャパンカップの時、私は彼女に迷いを振り切った姿を見ました。彼女は自らの日本一を、見出したのです。

 

ですが、彼女は破壊されました。

 

何故か?

 

答えは簡単です。私が彼女の上位互換となったからです。私は“日本一可能性に溢れたウマ娘”として、世の中からこれまで以上の注目を浴びる事となりました。

 

私は、変幻自在の存在として、認められたのです。スペシャルウィークがどんな日本一を見出したのかは分かりませんが、これを超える物を見つけるのは、かなり難しいことでしょう。

 

そして、私は「日本一可能性に溢れたウマ娘」という栄誉を得る事ができました。多くのウマ娘から信頼され、私は名実ともに、トレセン学園の顔となったということでしょう。

 

ただ、これは私が勝利し続けているからに過ぎません、私が負ければ、手のひらを返すような者も、きっといることでしょう。その重圧に耐えるのには、難しいことであると、賢い貴方なら考えるかもしれません。

 

ただ、私自身にとっては、社会的な地位も、名誉も、夢のための手段・道具にすぎません。

 

だから、私は平気なのです。私は三年かけて用意をしました。私の三年間は、自らに「スター」という箔をつけただけでなく、夢に向けて奮闘する「一人の少女」としての姿を、認識させてきたのです。人々が「スターで強いから応援する」ではなく「この娘のことを分かっているから応援する」となるように…

 

私は自然の中で育ちましたから、強さの重要性については分かっています。ですが、強いだけでは、この社会ではやっていけないのです。基盤が必要なのです。そして、それは実りました。

 

 

 

……話が長くなってしまいましたね、では、最後に、今日貴女ににどうしても伝えておきたいことを、偉大なる先人の言葉を使いながら、伝えさせて頂きます。

 

『私達は皆、幸せになることを目的に生きています。私たちの人生は一人ひとり違うけれど、されど皆同じなのです。』*1

 

私はこの言葉に、大いに賛同しています。

 

ですが、その幸せには、必ずと言って良いほど、他人の不幸が含まれているものです。

 

つまり、幸せの味には、業の味も含まれているのです。

 

それを、甘美な幸福の味に如何に転換するのか……

 

レースの世界においては、もしかしたら、それが、一番大変なことなのかもしれません。

 

『日本一、業を幸となせる』

 

貴方の前では、そういった存在でありたいものです。

 

 

じゃあまた マヴェリッククロウより

 

 

 

 

*1
「アンネの日記」より引用





お読みいただきありがとうございます。

新たにお気に入り登録をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

最初にヴェニュスパークとリガントーナが間接的に出ていますが、これは子どもの時に見たものを振り返っているという体で書いております。

今回の主人公の叫び声は、モンハンの咆哮や、スター・ウォーズに出ている「フォーススクリーム」という技をイメージしたものとなっております。そして、イメージ曲は「圧倒する力」や「嵐に舞う黒い影」です。

また、本作品に登場する歴史に関連するエピソードやそれに関連する登場人物の発言は、物語の構成上採用しているだけですので、特定の政体や運動、個人の活動の支援・批判などをする意図はありません。

最後に、主人公の所有スキルについて記述しておきます。スキルが少ないのは、主人公が確率に頼るよりは、自分の知略や身体能力を活かした戦いをしているということを表しています。


★3 「Unlimited Power」 マヴェリッククロウ

固有スキル:Overwhelming Scream

叫び、周囲の全てを威圧する。威圧されたウマ娘にかかる良い効果はすべて破壊されて消え、これ以後も良い効果はつかなくなる。


所持スキル

通常
全身全霊
コンセントレーション
円弧のマエストロ

進化スキル

烏天狗の智謀(冷静にレースを運べるようになる)

鋼鉄のけだもの(好調以上のとき、芝・ダート問わず全てのバ場状態で、能力が上がる)


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