転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第44話 -社会-

 

 

 

街の到る所、街頭ビジョンや電気屋のテレビが煌々とそれを映していました。

 

銀翼のウマ娘の活躍です。

 

眼の前では、多くの人々が彼女たち銀翼のウマ娘の成し遂げた事に驚き、歓心し、称賛の声を上げていました。

 

でも、その人たちはわかってくれないのでしょう。彼女たちは、歓声を受けて立っているだけではないということを…

 

そう、彼女たちは、その銀に輝く、鉄の翼がもたらした、恐るべき活躍という名の炎に包まれた、私達、黄金世代のクラスのうめき声の上に立っているということを……

 

何もかもが燃え尽きていく…

 

私の闘志、勝ち取りたかった栄光、私が見たかった景色、クラスメートとの思い出、そして、ターフへの夢も… 何もかも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                  ──黄金世代のクラスメート、ショウザスマイルの手記より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…!もうこんな時間、クロウ、最後に一つ、ここまで活躍したのなら、最後まで思う存分やりなさい、全部出し切って、使い切って、もちろん、怪我はなし』

「もちろん、ありがとう、お母さん、じゃあ」

 

私はそう言って、通話を切る。

 

 今年の私は、帰ったその日を除いて、2日だけ地元に帰省した。なのでこちらの顔を両親と愛犬に見せることができた。少なくとも、楽しく健康にやれているということは伝わっただろう。

 

 それに、両親は二人の時間を満喫できていたようだった。

 

 両親は、お互いの事が大好きである。しかし、私は手のかかる子供だったので、二人の時間を削ってしまった気がしてならないのだ。

 

 だから、その分の補填を、私がこっちにいる間にやってもらいたいと思っている。

 

 次に私は、予定帳を確認する。年末年始は大忙なのだ。これがすぐ戻ってきた理由である。

 

 まず、今日の朝はオンワードトライブと私達のビデオ通話である。今まで手紙しか送ってこなかった彼女だが、顔を見せてくれたあたり、故郷での静養もうまく行っているようだった。彼女は私達に激励の言葉と、心身に気をつける旨のメッセージを伝え、笑顔で通話を切った。

 

 それで、明日は、私の熱狂的ファン(らしい)新進気鋭の『NOASOBI』とかいう変わった名前のアーティストグループが、私のために『祝福』という曲を作ってくれたので、それを聞かせてもらう。

 

 多分、歌うことになるに違いない。………私は数秒で何でも読み込むスキャナーじゃないんだぞ。

 

 あと、年明けの後、すぐにURA賞の授賞式がある。まだ審議中だが、あの理事長秘書から、『大変申し訳無いが、帰省するのならなるべく早く東京に戻って来てほしい』という趣旨のことを言われたので、恐らく受賞する可能性があるのだろう。

 

 そして今日の残りの予定は、さっきまでやっていた親との電話と、あと一つ、私用である。

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ、あんたか…」

 

 私が入るなり、彼はこっちに気づいた。そう、私はスペシャルウィークを応援していた、あの手袋屋の店主のもとに来たのだった。

 

「まぁ、こっちに来て座ってくれ」

「…失礼します」

 

 店主はコーヒーの入っているであろうポットを持ち、こちらに手招きをする。少しばかり、目に疲れの色が見える。

 

「あの…おじさんは、有記念を…」

「ああ、見に行ってた」

「なら…その…全て」

「ああ、見てたよ、あんたの走り…それに……スペシャルウィークが、呆然としてたところもな……」

「………」

 

 私は向こうから目を逸らし、申し訳無さそうな顔を作る。

 

 私の情報網によると、あれからスペシャルウィークは、学園が提携しているウマ娘のメンタルケア施設へと送られたらしい。まあ、仕方がない。崩壊したダムのように、ずっと泣いていたのだから。

 

「…あんたは悪くねぇ、その証拠に、ワシはこれからもあんた達のことを、応援させて貰う、だが、一緒に走ってたあんたに聞いときたい…一体何が、スペシャルウィークをおかしくしちまったんだ?」

 

 店主は辛そうな顔をして、こちらに聞く。その顔は、彼がスペシャルウィークの再起奮闘を望んでいた、何よりの証拠だった。

 

 いくら私の方向に気持ちが向いていたとはいえ、彼の中には、スペシャルウィークへの未練というものが残っていたということだろう。

 

 彼の問いに関する答えは、2つある。

 

 一つは私、もう一つは…

 

「……おじさんを辛くさせてしまうかもしれませんが、私、嘘は言いたくありません。だから、言わせてもらいます。一つは、私の勝ち……そして、それより重要なもう一つ…それは…あの娘自身です」

「……」

「……私は、同世代のライバルとして、彼女を見てきました、彼女と戦ってきました。だから、分かるんです。あの娘の何が凄くて、何が足りないのか…」

「…」

「あの娘は、凄く愛嬌があって、その仕草、走り、目、性格…人を惹きつける、あらゆるものを持ってました」

「…でも、それは、あんたも持ってるじゃねぇか」

「違います、あの娘のそれは、私と違って天性のものなんです」

 

 スペシャルウィークの実家は牧場、周囲に居るのは、羊、山羊、牛、人間やウマ娘はほとんどいなかった。だが、あそこまでの人気を持っている。それは、まさに彼女が、完璧かつ、究極のスターたる才能を持っていたことを示している。

 

 それに対して私は、自分の素質について有るか否かは分からないが、言い回し、身振り手振り、コミュニケーション方法は、先人たちの知恵や、前世の経験、転入前に通っていた中学校のクラスメートから学んだものに過ぎない。女性だらけの環境なので、男から学んだ話術というのは、結構使える武器なのだ。

 

 あと、周囲から「整っている」と言われている容姿も親が与えてくれたものである。まあ、常に清潔にしているつもりではあるが。

 

 本題に戻ろう、シンボリルドルフのように、スターウマ娘と呼ばれる者は、私とは違う天性の何かがある。スペシャルウィークもそうだった。

 

「…じゃあ、スペシャルウィークには…何が足りなかったんだ…?」

「…自分の夢への理解です。あの娘は、日本一のウマ娘となることを、目標にしていました。でも、迷ってしまったんです。日本一とは、果たして、どんなウマ娘なのか…」

「……」

「…でも、迷っている間にも、周囲からの期待、日本のウマ娘への評価、戦績、いろんな評価…それらからくるプレッシャーが、あの娘をグルリと囲んでいたんです」

「……」

「……彼女の導き出した日本一のウマ娘の姿、それがどんなものだったのかは、わかりません。でも、確かに彼女は自分の日本一を見つけていたんです、ジャパンカップでの走りが、それを示していました。」

「……ようやく答えが見えた…ってところだな…」

「…はい…でも…その答えは、たぶん、すごい薄氷の上を踏むようなことだったんです。日本一のウマ娘…それは、人によって様々ですから、スペシャルウィークさんが、“自分が掲げた日本一よりも凄いものが出てきた”って、自覚してしまったら、それは…崩れ落ちてしまうものだったんです…だから、あの人には『もしも』の時、どうするべきかを、考える必要があったんだと思います、そればかりは、場当たり的な対応なんて、できませんから…」

「…なるほど…とどめを刺したのが…あんたの活躍って訳か」

 

 店主は、私の目を見て、申し訳無さそうな顔をしつつもそう言った。

 

 私の日本一は、スペシャルウィークのそれの上位互換である。そして、それは自認でも、クラスメート間での認識でもない。

 

 トゥインクルシリーズは、国民的エンターテイメントである。そして、それを長年見てきたブン屋さん達が、私の日本一のスタイルを定義し、それをトゥインクルシリーズを見る者すべてに共有した。とどのつまり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “社会が認めた”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということである。

 

 そして、店主はそれを理解できたようだった。

 

「否定はしません、でも、私にだって夢があります。負けるわけにはいかないんです」

「……」 

「デビューする前、先輩が言っていました。レースの世界は残酷だって…でも…私達は、そんな残酷な世界の中で、自分の夢を叶えるだけじゃなくて、おじさんたちファンの皆さんの期待に応えるためにも、走ってるんです」

「……」

「私、有記念での走りは、何一つ後悔していません、もちろん、その結果も」

「……そうか…」

 

 店主は、目を閉じて、腕を組む。私の言いたいことは言い終わった。だから、私は、コーヒーを飲み干して椅子から立ち上がった。

 

「…じゃあ、私はこの辺りで、お暇させてもらいます、ご馳走様でした」

「ああ、気をつけてな」

 

 私は、店を出ようと、ドアノブに手をかける。すると、店主は「なあ」と言って、私を呼び止めた。

 

「……確かに、あんたの言う通り、レースの世界は残酷だ。スペシャルウィークに関してのあんたの分析も、理解できる………ただ、そのことについて話してる間、あんたは物凄く冷静だったし、あの日のアンタは、周りを恐れさせる走りをしたのに、インタビューも、ライブも、平気な顔して、しっかりこなしてた……」

 

 そりゃそうだ、私は彼女を知り尽くしたとはいえ、基本的に他人だ。次はグラスワンダーの破壊もせねばならんのだから、そっちの計画にリソースを使っている。

 

 私を恐れる者はたしかにいた、だが、私を見て熱くなった者もいた、平気な顔をして振る舞うのは、至極真っ当な────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、あんた、ひょっとして、鉄で出来てるんじゃないのか?」

 

 …!!

 

「…え……!?」

「…悪い、忘れてくれ……これからも、見せてもらうぜ、あんたのレース」

 

 店主は、申し訳無さそうな顔をして、そう言った。

 

 予想外の言葉だった。

 

 『鉄でできている』

 

 私が頑丈だからとか、そういうことではない。

 

 他人が壊れたのに、マイナスの感情を全く感じないことを、言っているのだろう。

 

 私があまりにも、スペシャルウィークや私を恐れた者のことを、淡々と話していたからか。 

 

 だが、スペシャルウィークはキングヘイローやツルマルツヨシとは違う…

 

「敵」なのだ

 

 敵のことを気にかけていては、このレースの世界ではやっていけない。

 

 破壊という夢を抱えているなら、なおさらである。

 

 

 

 

 

 まあ良い……驚かせて貰ったお礼として、少し言わせてもらうとしよう。

 

「……おじさんの言う通りかもしれません。でも、それは、夢のために、そうしているだけです。私の夢は、幸せになること、そして、そのためには、誰も成し遂げられなかったことを、成し遂げる必要があるんです。ですから、私は強くならないと駄目なんです。………ただ、私にも、おじさんや他のウマ娘と同じように、心があります。ただ、それが独自路線を行っているだけなんです、それでは、良いお年を」

 

 私は店主に会釈して店を出た。

 

 クリスマスは過ぎているが、街にはにぎわいがある。私はベンチに腰掛けて、今年を振り返った。

 

 今年は黄金世代と真っ正面から対決した年だった。

 

 まずは、春の天皇賞…サクラナミキオーはスペシャルウィークに見事勝利し、姉の宿願を果たした。

 

 安田記念…エアジハード、アグネスワールドが激闘を演じ、グラスワンダーに打ち勝った。

 

 宝塚記念…多少のトラブルはあったものの、私は優勝、スペシャルウィーク、グラスワンダー、そしてアサヒクリークを打ち負かした。

 

 アベイ・ド・ロンシャン賞…アグネスワールドが海外のウマ娘相手に勝利、これは凱旋門賞を走るエルコンドルパサーへの牽制となった。

 

 秋の天皇賞…エアジハードのレコード勝ち、スペシャルウィークを負かし、去年のサイレンススズカの印象を見事消し去った。

 

 有記念…スペシャルウィーク、グラスワンダーとの二度目の戦い。レコードもあって、スペシャルウィークの心を壊し、私は今年の最後を喜びで締めくくる事ができた。

 

 もちろん、黄金世代が関わらないところでも、クラスメートは活躍している。マイルチャンピオンシップではアグネスワールドが勝利した。帝王賞ではコパノティルピッツ、中山グランドジャンプではホルニッセニードル、中山大障害ではタンクモスキトーが勝利した。

 

 私達のクラスは、交流、海外を含めると、G1を10勝した。つまり、私達は見事、黄金世代から時代の主役を奪い取ることに成功したのだ。

 

 そして、年が明ければいよいよ4年目である。私の目標は、前人未到のグランプリ4連覇。レコードも出してやる。

 

 主な相手は、グラスワンダー、次点がテイエムオペラオー。ただし、私の破壊を完璧なものとするためには、勝率100%ではなく120%とするようなトレーニングをしなければならない。

 

 つまり、宝塚記念の時の私は、あの天皇賞の時のサイレンススズカのように、“あの娘が勝つはずだ”と誰もが思っているような状態へと至らなければならないのである。

 

 まあ…今日はここまでにしておこう、明日─大晦日はクラスのパーティなので、体力を温存する必要があるのだ。アサヒクリークから貰った手羽先のレシピを使うとしよう。

 

 私はベンチから降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──“なぁ、あんた、ひょっとして、鉄で出来てるんじゃないのか?”

 

 店主の言葉が、思い出される。

 

「……………」

 

 すぐ近くにあった、光るサンタの飾りに、手をかざしてみた。

 

 手が透け、赤みを帯びる。

 

 真っ赤な血潮は、流れている。

 

 それは鉄の味がする。

 

 私はさっき、“鉄でできているのか?”と言われたが、れっきとした人間である。

 

 ただ、常に強くあろうとしているだけである。

 

 だが、周囲の人々は、私の目指す“強さ”を理解できていない。

 

 その強さは決して破壊を直接示すものではないが、レースの世界にいる上では、大切なものである。

 

 どうやら、店主は、薄々ながら、それが見えてきたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マヴェリッククロウ君、君は年度代表ウマ娘として選出された、おめでとう」

「ありがとうございます」  

 

 私は礼をして、拍手を受けながら賞状を受け取る。

 

 私は年度代表ウマ娘として選出された。今年は候補が多くいたそうだが、それらを押しのけ、見事選ばれた。

 

 さらに、私達のクラスからは、アグネスワールドが表彰を──

 

「続いて、最優秀障害ウマ娘、タンクモスキート君」

 

 あ、もう一人増えた。

 

「あの……私めはモスキートではなく、モスキトーです!」

「む…こ、これは申し訳ありません、ゴホン…タンクモスキトー君!」

 

 まあ、紛らわしいのは仕方ない、兎に角、三人受賞したのだ。担任も泣いて喜ぶことだろう。

 

 そして、モンジュー撃破の功績から、特別賞を獲得したスペシャルウィークは、まさかの欠席である。

 

 いやーなんでだろうかー

 

 表彰式の後はパーティ、そして眼の前には、御馳走が並んでいるというのに……

 

 まあ、特に気に留めることでは無い。彼女の分まで食べるとしよう。写真を取って送りつけてやりたいが、療養施設の場所がわからないので見送ることにする。

 

「美味しいですね〜」

「うん」

 

 アグネスワールドはとても美味しそうに、料理を頬張る。私は自分の心の都合上、ウケの良い味付けであることが分かるだけである。

 

 どこぞ漫画の豪商のように天麩羅を食べて“なんちゅうもんを食わせてくれたんや”などと言って涙を流す…つまりは食に入れ込むことなどない。あくまでそれは他者の心をつかむための手段、話題に過ぎないのだ。

 

「…と、ととっ…よし」

 

 普段は食べないようなメニューも、難なく切り分け、口に入れていくクラスメート、これもアマリイグリーナのマナー講習のおかげである。レース後の振る舞いだけでなく、パーティに招かれた際の作法も、私達は訓練してきたのだ。

 

 

 

  

「マヴェリッククロウ君、少しよろしいかな?」

「私…ですか?」

「うむ、少し話がある、時間を少々頂きたい」

「…承知いたしました」

 

 そして、しばらく談笑しつつ食事をしていた私は、先ほどクラスメートの名前を見事に読み間違えたURAの重役に声をかけられた。

 

 私は彼についていき、ホールの外へと出る。

 

「時間を取らせてしまい、申し訳ない、君にある提案をさせてもらうため、少し呼ばせてもらった」

「…提案、ですか?」

「うむ、単刀直入に申し上げさせてもらう、ドリームトロフィーリーグに移籍する気は無いかね?」

「…ドリームトロフィー…」

 

 あぁ、ついに来たか。トゥインクルシリーズで功績を上げたウマ娘のみが進める舞台、ドリームトロフィーリーグへの勧誘が。

 

「…理由をお聞かせ下さいませんか?」

「うむ、君は2冠ウマ娘となり、グランプリの三連覇も成し遂げた、これは多大なる功績と言っていい、そして、君はこれまでの三年間で、その強さを証明し、多くのウマ娘が君を目標している。だから、ぜひとも君には新たなステージへと駒を進めてもらい、その強さを発揮し続けて欲しい。そして、何よりも、君との対戦を望む先輩のウマ娘もごまんといる」

「……」

 

 はっきり言えよ莫迦、目から本音が漏れ漏れだ。要は、“お前強すぎて面白くないし後進叩き潰すから別の世界に行け”ってことだろう?

 

 あと、ちゃんとファン感謝祭に来い。そこで私は決意を述べたのだから。ずっと空調の聞いたオフィスにいて、現場に出てこないから、選手の名前を間違うなんてことをやらかすんだろうが。

 

「…そこまで私のことを評価していただけているのは、嬉しいです。ですが、私はシンボリルドルフ会長でもなし得ていない、グランプリの4連覇を目標に据えています。これは、誰にも譲ることができません」

「…ふむ…では、君にとって、4年目は、節目の年になるという訳か」

「今の所はそうです」

 

 私はそう言って“もし変な手段に出るのなら理事長に報告するからな”という気持ちを込めた目で相手を見た。

 

「…君の夢への思いは、良く理解できた。この件は保留としておこう…だが、君はドリームトロフィーリーグに移籍するに相応しいウマ娘で、移籍は君の新境地の開拓となるということを、頭の片隅で良いから、置いておいて欲しい」

「承知いたしました、ご勧誘ありがとうございます」

「…………いえいえ、これからも、期待しているよ」

 

 少し間をおいた後、重役は微笑み、私を開放する。頼み込んで来ないのは予想外だった。じゃあ何がしたかったんだよ。

 

 まあ、この重役には悪いが、私はドリームトロフィーリーグに進み、この学園に居続けるつもりはない。

 

 何故か?

 

 それは、私が、私のトゥインクルシリーズの戦いを、どう締めくくるか、もう既に決めていて、そのための準備も進めているからである。

 

「お待たせ」

「どんな話だったの?」

「今後の方針についての個人的な質問だね」

「今後の方針……クロちゃんは、今年はどんな年にするつもりですか?」

「…うーん……そうだね…ざっくりにはなるけど…去年、やり切れなかったことを達成して、悔いのないレースができる…そんな年にしたいかな」

 

 そして、その“締めくくり”が上手く行けば……私に残された選択肢は…

 

 “引退”である。

 

 何故そんなことをするのかと言うと、このままだと学園の飾りのような存在とされてしまうからである。

 

 学園とURA内に、私の活躍を知らない者はいない。そして、URAには私をドリームトロフィーリーグへと移籍させようとする勢力が存在する。ただし、ドリームトロフィーリーグは世代や身体の状況の関係で、対戦できなかったウマ娘達を対戦させるという夢のレースを実現させるというもので、見世物的側面が強いのだ。

 

 また、シンボリルドルフは海外戦研究所の件で忙しくしているとはいえ、そろそろ後釜を決めなければならない時期、まあ順当に行けば副会長のエアグルーヴが後任を務めるだろうが、私も生徒会に入らされる可能性がある。

 

 ドリームトロフィーリーグと生徒会、この2つの要素を持ってしまうと、ブン屋さんに常に監視されているようなものだ。世間評価も高まりすぎると厄介になるのだ。

 

 あと、本格化したばっかのを叩き潰すのができなくなる。前者の場合は理由が明確だし、後者の場合はもし私がドリームトロフィーリーグに行かなかったとしても、エアグルーヴが何かしら言ってくる気がするのだ。そうなれば破壊は難しくなる。

 

 というか、締めくくりが終わったあとは、ドリームトロフィーリーグ云々の話は、きっと無くなることだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

「えー、皆様、楽しんで頂けているでしょうか?少しお腹も膨れて来た所で、皆様に、ある重大発表を共にご覧になっていただきたく思います」

 

 あの後、しばらくは普通に食べていたのだが、唐突に司会がマイクを取り、そう言った。

 

 スクリーンが下り、画面がついた。

 

「…何、これ?」

「……記者会見の会場…でしょうか…?でも、どうしてあんな…」

 

 アグネスワールド達は、そう話している。どこの施設でやっているのかは分からないが、カメラに映す先はまだ、幕で覆われているのだ。

 

「幕が動いたぞ!」

 

 幕が段々と、巻き上がっていく。

 

 最初に見えたのは、2つの足。

 

 一つはスーツ、もう一つは、学園のソックス。

 

 そして、そのソックスが包んでいるのは、細い、スラッとした脚。

 

 

 

 

 まさか…

 

「…!!」

 

 別のテーブルにいたメジロドーベルが、驚いたように、手で口を抑える。

 

 それと同時に、幕が上がり切った。

 

『……皆さん、お久しぶりです』

 

 現れた人物が発声したのと同時に、会場内は一気にざわつきが強くなる。

 

『今日は皆さんに対し、発表させて頂くことがあり、このような場を用意して頂きました』

 

 ウマ娘も、トレーナーも、関係なく。

 

 声には出さなかったが、私も驚いていた。

 

『…私、サイレンススズカは、今月から再び、トゥインクルシリーズのレースに、復帰させて頂こうと思います』

 

 そして、理解した。

 

 さっき重役が、微笑んだ理由を。

 

 あれは自然に出したものじゃない。

 

 “残るのなら好きにしろ、だが、君は天才に勝てるかね?”

 

 という、メッセージを込めたものだったのだと。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほーう…なるほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃の発表から、数日後。

 

 トレセン学園近くの、さほど大きくない料理店、そこで、“彼女”のトレーナーである白子は、ツルマルツヨシのトレーナーであり、同僚である富士田と食事を取っている。

 

 白子は、“彼女”の破壊をサポートするため、周囲のトレーナーとは、良い関係を構築するよう努めている。

 

 富士田もその一人であり、白子と交流のあるトレーナーの中では、一番、親密な関係であると言えるだろう。

 

「富士田トレーナー、どうでしたか?」

 

 白子がそう質問すると、富士田は首を横に振った。

 

「……了解しました、あまり気にしないで下さい、こちらでも、もう少し対策を考えてみます」

「ごめんなさい、白子トレーナー、出来る限り、手は尽くしたんです。でも……こんなことが、こんなことがあっていいんでしょうか?」

 

 富士田は、残念そうな表情をして、そう呟く。

 

「………世の中には、解決の難しい物事が必ずあるものです、ですが、それがまさかクロウ君にふりかかるとは……予測できていませんでした。………富士田トレーナー、このことを、どういう形で彼女に伝えれば良いのか、私には分かりません。どうか、助言をくれませんか?」

 

 白子は、富士田に頼み込む。富士田は、担当のツルマルツヨシが、体調の波が変わりやすかった時期があったため、レースに出られないことや、トレーニングを禁止することなど、“ウマ娘にとって辛いこと”を伝えることに関して、相当な技術を持っていた。

 

「…分かりました、今私にできる事は、このぐらいですから」

 

 富士田は、白子と“彼女”から、良い影響を受け続け、ツルマルツヨシの活躍へと繋げていた。故に、彼女は二人に尊敬の念を抱いていた。

 

 そして、それもあって、現在の彼女は、白子らの置かれた状況に、深く同情している。

 

 

 

 

 




 
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 最初に出てきたウマ娘、ショウザスマイルは黄金世代と同期の馬、エガオヲミセテが元ネタです。史実では残念な最期を迎えていますが、この物語の世界では、日記がその代わりとなったと解釈して頂けますと幸いです。
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